Coolier - 新生・東方創想話

それなりの悲しみ

2014/09/10 23:27:43
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往生際の悪いセミの声がまだ聞こえる、夏とも秋ともつかぬ微妙な季節の夕暮れのできごと。



<#1: いつもの2人>

「なあ、霊夢」
「お茶のおかわりなら自分で取ってきてよ。今は立ち上がるのも面倒臭いんだから」
「いつからエスパーになったんだ? って、そうじゃなくてだな。ちょいと聞きたいんだが」
「ん、何よ」
「もしもだぞ。もし仮に、明日にでも私が不慮の事故なんかでコロッと死んじまったとして……霊夢はどう思う?」
「どうしちゃったの、藪から棒に」
「昨日人里のそばを通ったときに、たまたま葬式してるのを見かけてさ」
「うん」
「もしも私が死んだら、みんなはどんな反応をするんだろうなあ……なんて柄にもない事を考えちまったわけだよ」
「そう。うーん、そうねえ……」
「思ったまま、率直な答えを聞かせてくれ」
「もしもガッツポーズしながらお赤飯を炊くとか答えたら、あんたはどうする?」
「それは人として許されないぜ。顔面が作画崩壊するまで殴るぜ」
「すでに答えの方向性をそれとなく誘導しようとしてるじゃないの」
「あはは……そりゃまあ、出来れば悲しんで欲しいと思うのが人情だろ?」
「そりゃまあ、そうだけど。うーん、そうねえ……」


2人が腰掛けている石段に、セミの声が染み込んで行く。


「こんな答えだと納得しないかも知れないけど」
「お、おう」
「……きっと、それなりに悲しい」
「それなり、か」
「なかなか上手く言えないけど、そりゃ悲しいでしょ。実際にあんたが死んでみないと、どれくらい悲しいかまでは分からないけど」
「実際に死んでみなきゃ分からない、か。なかなか霊夢らしい答えだな」
「むせび泣いて後を追います、とか答えたほうが良かったかしら?」
「それはいくら何でも嘘っぽいな。そういう余計なサービス精神は求めてないぜ」
「でしょ?」
「でもまあ、悲しんではくれる訳だな。それが聞けただけでも良しとしておこう」





<#2: いつの間にか3人>

「――どうしたの? 2人してそんなところにぼーっと座って」
「おう、アリス。来てたのか」
「ええ、ついさっき……神社のほうに居なかったから、こっちかなと思って。よっこらしょ」
「年寄り臭いぞ」
「そりゃまあ、あなたよりは年寄りですからねえ」


カナカナカナカナ……


「ねえ、魔理沙」
「ん、何だ?」
「アリスにも聞いてみたら? さっきの質問」
「つれない答えをグサッと返されそうで気が進まないなあ」
「あらあら、何の話?」
「それがね、今日の魔理沙はいつになくメランコリックなのよ」
「ほほう、興味深い。詳しく聞かせて」


長い石段の上から、ゆっくりと沈んでいく夕日が見える。


「――というわけよ」
「ははあ、なるほど。確かにいつになくメランコリックね」
「メランコリックって言いながらこっちをチラチラ見るのやめてくれませんかね」
「ふふふ……で、霊夢はなんて答えたの?」
「それなりに悲しい」
「なるほど。らしい答えね」
「で、どうなんだよ。アリスはどうだ? 明日いきなり私がおっ死んじまったら」
「もしもガッツポーズをした後にケーキを焼くとか答えたら、どうする?」
「……なあ、ひょっとして私は霊夢からもお前からも嫌われてるのか? 泣いていいか?」
「冗談よ。うーん、そうねえ……」


相変わらず、頭上からはヒグラシの声が降り注いでくる。
どこかそわそわとした様子で、考え込むアリスの横顔をちらちらと見ている魔理沙。


「……しばらく実感が湧かない、かしらね」
「うん?」
「たぶん、実はまだ生きているんじゃないかって錯覚にとらわれたりするんじゃないかなって」
「実感、か」
「ええ。それで、ふと近くを通ったときに魔理沙の家を見て、“ああ、もう訪ねても誰も居ないんだな”って理解するような……」
「そういうことってあるわよね。少し時間が経ってから、じわじわ悲しみというか喪失感というか、そういうものがこみ上げてくること」
「大人の筋肉痛みたいなもんか」
「情緒もへったくれもない比喩表現をありがとう……で、どうかしら。私なりに真剣に想像しての答えだったけど」
「ガッツポーズする、が本気の答えじゃなくてほっとしたぜ」
「さすがに私だって、そこまで冷たいことは言わないわよ。血も涙もない女みたいでイヤだわ」
「……アリスはこう言ってくれるけど、パチュリー辺りは本気でガッツポーズしそうよね」
「やっぱりそう思うか? 私も今、そんなことを一瞬考えちまったぜ。迷惑かけまくってるからな」
「一応自覚はあるのね」
「まあ、私がおっ死んだところで借りっぱなしの本が綺麗さっぱり図書館に戻るわけでもないんだがな。ははは」
「タチ悪いわね、こいつ」
「知ってた」





<#3: なんとなく4人>

にゅるん。

「――沈み行く夕日を眺めながら何を黄昏れてるのかしらー、若人たちよ」

「あ、紫が生えてきた」
「今日は上半身だけ唐突に出てくるパターンか。そろそろ登場の仕方がマンネリになってきてるぞ」
「みんなすっかり驚かなくなったけど、気にしないほうが良いと思うわ」
「生えてきたって何よ。私は雑草じゃありませんからね!」


夕日はいつの間にかほとんど地平線に隠れ、空は藍色に染まりつつあった。


「……で、何をしてるの? こんなところに仲良く並んで座って」
「メメントモリしていたんだぜ」
「?」


   ――― 少女説明中… ―――


「どうしたの、魔理沙。あなたそういうキャラじゃないでしょう? おかしなキノコでも食べたの?」
「絶妙に神経を逆撫でするリアクションをしてきやがる……流石と言うほか無いぜ」
「……聞いてもアレかも知れないけど、紫だったらどう思う? もしも魔理沙が明日いきなり死んじゃったら」
「どうせ“死んじゃったものは仕方ないわね♪”とか言いながら万年床に潜り込んで終わりだろ。こいつはそういう奴だ」
「信頼されてるわね、流石だわ紫!」
「あまり喜ばしくない方向に信頼されてるようにしか見えないんですけど」


藍色に沈んだ風景の中に、ちらほらと人里らしき灯が見える。


「あなたたち、どうも私のことを誤解しているようだから言っておきますけどね」
「何だよ、改まって」
「私は幻想郷が好き。そこで生きる人妖の皆ももちろん好きよ……だから」
「だから?」
「もし魔理沙がいきなり死んでしまったら、喪に服して心から悼むわ! 当然のことよ」


「何を言ってるんだこいつは」といった表情で固まる魔理沙。
「どこにカンペがあるんだろう」と周囲を見回すアリス。
出がらしのお茶をちびちび啜りながら余所見をする霊夢。


三者三様の沈黙が流れた。


「……なあ、紫」
「どうかしら? グッと来たでしょう?」
「無理に聞こえの良い答えを返そうとしなくても良いんだぜ。自分の心に嘘をつくのは良くないぞ」
「ひどい。イマドキの若者はこんなにヒネくれているのね……救い難いわ! 魔理沙、あなたの心は歪んでいる!」
「さ、さあ魔理沙。そろそろ晩御飯にしない? ほら、よかったらアリスも一緒に……」
「あら有難う。ではお言葉に甘えて」
「何よあなたたち! 露骨に話題を変えようとするのをやめなさいッ」

そそくさと本殿のほうへ歩き出した3人のあとを、にょっきりと空間から上半身だけ生やした姿のまま追いかける紫。
威厳もへったくれもない御姿であった。





<#4: 5人の食卓>

なんだかんだで4人で卓袱台を囲んでいると、紫の傍らに現れた影が。

「ここにいらっしゃったのですか、紫さま」
「あら、藍。なにかあったの?」
「いえ、特にこれと言って用事は無いんですが……今日はここで夕食をたかっているのですか」
「聞こえの悪いこと言わないで頂戴。これは皆との親密なコミュニケーションよ。幻想郷のこれからを……」
「霊夢、世話をかけて申し訳ないね。お茶がぬるいとか何だとか、食事に難癖つけたりしてなかったかな?(完全スルー)」

慣れと言うべきか心のタフネスと言うべきか、藍は紫の受け流し方を完全に心得ていた。
若干風当たりがきつそうに見えなくもないが、きっと気のせいだろう。


「藍、あなた最近私に冷たいんじゃなくて?」
「気のせいでは? 私は普段からこんな感じですよ。至って事務的に職務をこなしているではありませんか」
「自分で事務的とか言うのはどうかと思うわ。もっとハートウォーミングに行きましょうよ」
「そう言われてもですねえ……(さり気なく食卓に混ざりながら)」


「藍さん、完璧な精神的ディフェンスだわ。流石ね」
「全くだぜ。いちいち真面目に相手してたら疲れるだけだってことを、誰よりも分かってる感じがするよな」
「でも、ちょっとスキマさんが気の毒な感じもするかな……もうちょっと優しくしてあげても」
「甘いなアリス。紫は相手のそういう所につけ込んでくるタイプなんだぞ」
「ちょっと魔理沙、聞こえてるわよ!」


おかしな方向に藍を尊敬する魔理沙とアリス。
そんな光景を見つめながら、機械のようにスピーディーな手つきで山菜の天ぷらを口に突っ込む霊夢。
にぎやかな食卓というのは良い物だ(棒読み)。



「――ほほう、そんな事が。もしも自分が突然死んだら、残された者たちは何を思うのか気になった、と?」
「そうなのよお、藍。そういう事をついつい考え込んじゃうなんて、青春よね!(もぐもぐ)」
「有意義ではありませんか。人の身ならば誰もが至る道ですからね……あれこれ考えを巡らせることは、決して無駄ではありませんよ」
「というわけで、藍」
「はいはい、何でしょう紫さま?」
「もしも、もしもよ。明日私がいきなり消滅とかしちゃったら、あなたはどう思う?」
「唐突に来ましたね。何ですか、魔理沙に当てられて気になり出したんですか?」
「まあまあ、そこは良いじゃない。で、どう?」
「……どう、とは?」
「悲しい?」
「ええっと……(何だか面倒な流れになっちゃったなあ)」


言いよどむ藍。
額に汗する紫。


「うーん、そうですねえ……」
「あ、そう? やっぱりそうよね、悲しいわよね(眼が泳いでいる)」
「どうしました? 幻聴ですか、紫さま?」
「で、どうなの実際のところは」
「ここはやはり“号泣しながら喪に服します”とか言っておいたほうが良いんですかね?」
「質問を質問で返すなあーっ! 疑問文には疑問文で答えろと寺子屋で教えているのか? 私が“悲しい?”と聞いているんだッ!」





――話がこじれてきた気配がする。
霊夢は台本を読み上げるがごとき朗々とした声音で、突如こんなことを口走った。

「あら、こんな所に線香花火の余り物があるわよ!」


すかさずその波に乗る魔理沙。まさしく阿吽の呼吸である。

「おっ、そいつは風流で良いな。去り行く夏を惜しみつつ、食後の花火と洒落込もうぜ」


できる都会派は空気も読める。アリスもすかさずそれに続いた。

「わぁい線香花火 アリス線香花火大好き!」


若人3人は、どこか空々しい歓声を上げながらグリコのポーズで境内へと走り去っていった。





「藍、あなたねえ……何が気に入らないか知らないけど、ちょっと度が過ぎるわよ。そんなに私をいぢめて楽しいの?」
「何を怒ってらっしゃるのか分かりませんが、私は真剣に答えを考えているだけです。何がご不満なのですか」
「即答してくれない時点で薄々分かっちゃうわよ。やっぱり私のこと嫌いなんでしょ。内心では馬鹿にしていたのね!」
「何を馬鹿なことを。被害妄想甚だしい」
「じゃあ好き?」
「いえ、好きでも嫌いでもないですね(きっぱり)」
「どうでもいいって事じゃないのーっ!」



線香花火を楽しむうら若き乙女3人の背後で、紫と藍がぎゃあぎゃあ騒ぎながら一戦交え始めた様子。
晩夏の風情、台無しであった。
どうしよう……すっかり紫さまをお笑いポジション・オチ要員として登場させる癖がついてしまった……

2012年の9月10日に投稿して以来ご無沙汰だったので、ちょうど2年ぶりということになります。
ヤマ無し・オチ無し・意味無しの短編ですが、ちょっとした暇つぶしにでも読んで頂ければ幸いです。
しかばね
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コメント



0.830簡易評価
2.100名前が無い程度の能力削除
親しい人が突然亡くなると、まるで現実感が湧かないですよね
しかし『アリス線香花火大好き!』はあざと過ぎでしょう…
8.100ぐい井戸・御簾田削除
おお、お久しぶりの投稿ですね!
今年は夏らしさのない夏だったので、晩夏の夕べに線香花火、という風景が恋しいです…。
9.100奇声を発する程度の能力削除
何と言うかこういうの良い
11.100名前が無い程度の能力削除
トガトガ
14.100名前が無い程度の能力削除
お陰様で一息つけました
17.100名前が無い程度の能力削除
うん、こういう話はとても好きです
23.100名前が無い程度の能力削除
アリスは卑怯wwww