Coolier - 新生・東方創想話

霊夢と魔理沙の恋模様

2014/08/22 01:34:20
最終更新
サイズ
16.81KB
ページ数
1
閲覧数
4117
評価数
12/32
POINT
1940
Rate
11.91

分類タグ

 霊夢が額の汗を拭いながら空を見上げると、良く晴れ渡った空から強烈な日差しが差してくる。流れている大きな雲が太陽を翳してくれないかと期待するも、雲達は遠慮がちに太陽を避けるから全く曇らない。夏の晴れ空は冬や春に思い出すと清清しいが、実際に夏の中で見上げるとうんざりする事この上無い。
 ようやく魔理沙の家に着いた時には全身汗だくで、入るなり早速魔理沙に冷たいジュースを要求した。出てきた冷たい梨のジュースに救われる。ゆっくりと冷たさを味わいながら時間を掛けて飲み干すと、すっかり汗が引いていた。
 コップを置いて、さて用事も無いのに来てしまったけどどうしようと魔理沙を見ると、何か本を読んでいた。もしかしたら魔法の勉強をしていたんだろうかと、邪魔してしまった事を申し訳無く思っていると、不意に魔理沙が顔を上げて、両手を上げて叫び声を上げた。
「恋がしてぇ!」
 突然訳の分からない事を叫んだので、正気を疑って見つめていると、何だかにやにやと笑っている魔理沙と目があった。何だか気味が悪かった。どうしたんだろうと魔理沙の出方を窺ったが、魔理沙はにやにやと笑ったままじっと見つめてくるばかりなので、霊夢は仕方無く口を開いた。
「どうしたの?」
 魔理沙が気味の悪い笑みを浮かべながら本を持ち上げた。
「いや、恋愛って良いなぁって思ってさ」
「あんた、スペルカードに恋符とかつけてる癖に何言ってんの? 最近そんな事ばっかり言ってない?」
 一体何を読んでいたんだと近付いて本の中身を覗いてみると、恋愛ものの少女漫画だった。霊夢は呆れて溜息を吐く。
「あんたねえ、勉強しているって感心してたのに」
「何言ってんだ。女の子なんだから、こういうのも勉強だ」
「漫画なんか作り物じゃない」
 霊夢が離れようとすると、魔理沙が詰め寄ってきて漫画を押し付けてきた。
「何言ってんだ! 憧れるだろ、こういうの? いや、憧れろ! 乙女なら憧れろ!」
「そうは言ってもねぇ」
 霊夢は魔理沙から漫画を受け取ってぱらぱらと中身を検めてみた。良く見れば見覚えのある内容で、魔理沙お気に入りの恋愛漫画だ。思わず溜息が出た。いわゆる学園物で、両思いだけれど煮え切れない主人公とその想い人、そんな二人の横からちょっかいが入るものの、二人の心は何だかんだで揺らがないという王道物。何遍も進められた為、既に五回位読んだ。
「そもそも、こんな学校、幻想郷に無いじゃない」
 漫画に描かれているのは外の学校生活で、幻想郷とは掛け離れている。
 幻想郷にあるのはみすぼらしい寺子屋位のものである。
「だーかーらー」
 魔理沙は髪を掻き毟り、突然はっと顔を上げてにやりと笑った。
「良いぜ、霊夢」
「は? 何が?」
「お前がそういうのなら、今日はもう帰れ」
 怒らせてしまったかと、慌てて謝ろうとしたが、その前に魔理沙が宣言した。
「お前に最高の恋を提供してやる! 明日神社で待ってろ!」
「はあ?」
 訳が分からなかったが、妙にテンションの高い魔理沙に家から追い出されたので、仕方無く神社へと帰った。帰り道も良く晴れ渡っていて暑かった。神社に帰った時には汗で全身がびしょ濡れになっていた。

 次の日、最高の恋とは何だろうかと考えながら、魔理沙が来るのを待った。考えた結果、誰か役者を連れてくるのだろうと結論付けた。きっと霖之助だとか、里の人間だとかを連れてきて、魔理沙が憧れるシチュエーションを味合わせようとするのだろう。魔理沙の事だからそうに違いない。長年連れ合ってきたのだから何となく分かる。空を見上げると今日も良く晴れていた。
 次第に気温が高くなりだした頃に、魔理沙が嬉しそうな顔でやって来た。その姿を認めた霊夢は白昼夢を疑いたくなった。
「魔理沙、その格好は?」
 魔理沙は髪を後ろに縛って昨日の漫画に出てきた男物の制服を着ていた。
「おお、霊夢! 今日も綺麗だな! 会いたかったぜ!」
 魔理沙は霊夢の質問を完全に無視して駆け寄ってくきたかと思うと、いきなり両腕を広げて抱きしめた。
 いきなり抱きつかれた霊夢は驚いて魔理沙の事を突き飛ばす。男物の制服を着ている所為で何だかときめいてしまった自分が悔しかった。
「何すんのよ、いきなり!」
「おいおい、そんな事で怒るなよ、ハニー」
「ハニーって」
 魔理沙がめげずに霊夢の事を抱きしめた
「俺の本当の欲望は抱き着く位じゃ済まないぜ?」
 後ろ髪を掻き上げられた。霊夢はくすぐったさに身を捩る。そして顔をあげると、あろう事か魔理沙の顔が唇を突き出して近づいてきていた。思わず逃げようとしたが、魔理沙に抱きしめられていて逃げられない。
「止めなよ、魔理沙」
 その瞬間、魔理沙と霊夢の顔の間に掌が挟まれた。見ると、咲夜が呆れた様子で魔理沙の事を睨んでいた。この馬鹿げがやり取りを中止してくれるのかと、咲夜に救いを期待した霊夢だが、魔理沙と同じ制服を着ているのを見て、一気に嫌な予感が湧いた。
 咲夜が優しい笑顔を向けてくる。
「ごめんね、霊夢さん。魔理沙の奴が」
 霊夢さんという咲夜の口からは聞いた事も無い呼び方が飛び出て、霊夢は目を見張った。
 咲夜が魔理沙の頭を叩く。
「こいつは、本当に昔っからデリカシーの無い奴で」
「いてえな。邪魔すんなよ、あっちいけ!」
「駄目だね。お前を野放しにしておくと霊夢さんに何をするか分からない」
 すると魔理沙が嘲る様な笑みを浮かべた。
「ははーん、さてはお前も霊夢に惚れてんな?」
 咲夜は一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに首を横に振った。
「そんな事、無いさ」
 実に演技過剰な仕草だった。
 放っておけばいつまでも続きそうな二人の小芝居を、霊夢は放っておく事にして、魔理沙と一緒にやって来た残りの二人へと目を向けた。二人共、魔理沙や咲夜と同じ制服を着ていた。
 アリスは何故か顔を赤くして上の空で魔理沙と咲夜のやり取りを眺めていたが、霊夢の視線に気がつくと、急に顔をきつくして霊夢の方に歩いてきた。何だか怖目な雰囲気に、何だやんのかと身構えた霊夢だが、アリスはその横をあっさりと通り過ぎる。その通り過ぎざまに、わざと霊夢に聞こえる様な声で言った。
「恋だ何だって下らねぇ。俺様の覇道には不要だ」
 え? どういうキャラ?
 霊夢が通り過ぎたアリスを追って振り返ると、アリスは顔を押さえながら、小走りで本殿に逃げてしまった。訳が分からず混乱しつつも、霊夢は残ったパチュリーに視線を向ける。パチュリーは何故か眼鏡を掛けていて、さっきから執拗に中指で押し上げ位置を直していた。
 何だかつまらなそうな顔をしているので、きっと無理矢理連れて来られたんだろうなと同情しつつ、霊夢は仲間を得た思いで笑顔を見せる。
「あんたも大変ね。魔理沙の馬鹿に付き合わされて」
 するとパチュリーが眼鏡を押し上げて呟いた。
「別に。あいつ等に付き合っている訳じゃない」
「え? でもその制服」
「僕がここに来たのは、どうしても解けない恋の偏微分方程式の答えを知りたかっただけさ」
「は?」
 何言ってんだこいつ。
 霊夢はパチュリーの正気を疑ってまじまじとその表情を見つめる。するとパチュリーの顔が段段赤らんで、かと思うと突然手を前に翳して、今の忘れて、と小声で言うなり、さっきのアリスと同じ様に、顔を手で覆って、本殿に行ってしまった。
 訳が分からず首を横に振り、未だに言い合っている魔理沙と咲夜に声を掛け、とりあえず中に入る様に促した。

「それなら、誰が一番霊夢の夫に相応しいか、料理勝負だ!」
 そう言って、魔理沙達は台所へ行ってしまった。丁度お昼時だからご飯を作ってくれるのはありがたいが、その嬉しさ以上の疲れが霊夢を襲って、どっと畳の上に倒れこんだ。
 魔理沙達がやって来てからずっと、悪く言えばありがちな、もっと悪く言えば陳腐な少女漫画的シチュエーションを延延と繰り返し、霊夢は四人の男達の間を揺れる女を何十回と演じる事になった。正確に言えば、演じるというよりは、霊夢の適当な発言を周りが勝手に拡大解釈して物語を進めていたのだが、とにかく霊夢は少女漫画のヒロインとなって、三時間ぶっ通しで魔理沙達の間を行ったり来たりしていた。
 霊夢は畳にうつ伏せになって、思いっきり息を吐き出す。
 疲れた。
 自分に似合わないキャラを三時間延々と。
 疲れない訳が無い。
 だが、少し楽しいと思う自分も居た。
 それは事実だ。
 博麗の巫女である自分と遥かに掛け離れた立場の少女として、紛い物であれ恋愛に傾注するのは、まるで普通の少女になった様な気がして、嬉しかった。
 霊夢は身を起こし、縁側に出て、腰掛け、外を眺める。そこにはいつもの景色、いつもの幻想郷が広がっていた。きっといつまでも自分は博麗の巫女としてここに居て、それが変わる事は無い。そんな一生に不満を持った事は無い。
 けれど、例えば全く別の、そう、例えば外の世界に生まれて、魔理沙の持っている漫画の様に、学校に通って、勉強をして、恋をして、そういう暮らしがあったかもしれないと思うと、不思議な気分になる。寂しい様な苦しい様な、今までそんな生活が近くにあった事なんて無いのに、懐かしい様な気がしてくる。
 昨日の魔理沙の言葉を思い出して、きっと自分の中にも僅かながら乙女が居るのだろうと思った。けれどその乙女が恋をする事は決して無い。
 先程の、陳腐な少女漫画の焼き増し劇を思い出す。
 その中で、霊夢の演じる少女は、周りに翻弄されながらも確かに恋をしていた。
 それと自分を比べて、霊夢は苦笑する。恋をする事の無い少女。それはきっと歪なんだろうと思うと、何だか虚しく悲しい孤独が沸き上がってきた。
 魔理沙の笑顔を思い出す。魔理沙はきっと違うだろう。これから先、誰かに恋をして、誰かと結婚して、誰かの子供を産んで、幸せな家庭を営んでいくに違いない。きっと止まる事無く大人に変わっていく。いつまでも少女のまま恋する事の無い巫女を置いて。
「何か悩み事ですか、霊夢さん?」
 驚いて振り返ると、咲夜が立っていた。
「下拵えが一段落したので、様子を見に来たんですけど。ちょっと隣に座って良いですか?」
 霊夢が体をずらすと、咲夜が隣に座った。
「何を考えていたんですか?」
「別に」
 咲夜の優しげな笑みが、何だか眩しくて、霊夢は思わず俯いた。
「誰かに言えない位に辛い悩みなんですか?」
 霊夢は苦笑する。
「まさか。そんな大した話じゃない。ただ私は」
 突然喉の奥から変な熱が込み上げてきたので慌てて飲み下し、眦に力を込めて涙を食い止める。
「私はこれからずっと恋をしないんだって思ってただけ」
「どうして?」
「私は巫女だから」
「巫女だからって恋しちゃいけない法は無いでしょ? あなたの前の代は生涯独身だったらしいけど、その前の代には家族を持っている人も居るって聞いたわ」
 確かに昔と違って、巫女だからと言って結婚をしてはいけないという訳じゃない。むしろ妖怪に立ち向かう力があるから、歓迎され、一族は里の有力者になる位で。
 でも、それは一般的な話。
 霊夢は何処かで自分が巫女だと思っていた。その意味はつまり、生涯独身を貫き、誰とも契を結ばず、一人神社で朽ちていくという事だ。自分に華やかな人間関係は似合わないし、そんなものを構築出来ないと思っていた。自分は普通の女の子じゃないから無理だと思っていた。
 どうしてそう思うのか考えてみると、霊夢の頭には魔理沙の笑顔が浮かんでくる。霊夢にとって、魔理沙こそが普通の女の子だった。普通というのは平均ではなく、理想の意味。女の子と聞いて思い浮かべる前向きな想像を寄り集めた様な存在、少女漫画のヒロインこそが霊夢の言う普通の女の子だ。魔理沙の家で少女漫画を読まされまくった結果、そんな固定観念が出来上がっていた。
 魔理沙や少女漫画のヒロインを見ると、どうしても自分と違って見える。そしてそんな違う存在が、何とか手に入れたいと追いかけているものが恋であるなら、自分はきっとそれを追う事は出来ないだろうし、追いかけたとしても決して手に入れる事は出来無いだろうと考えていた。
 そんな諦観を一言で言い表す言葉が、巫女だから。巫女だからヒロインの様にはなれないし、巫女だから魔理沙の様になれないし、巫女だから恋が出来無い。そう思っていた。それは鍋にこびりついた拭いきれない焦げの様な固定観念で、最早理屈では無い。
「私は無理よ。自分が恋をしているところなんて想像出来無い。魔理沙なら出来るんだろうけど」
「恋をしないなんて寂しくないの?」
 予想された問いに、霊夢ははっきりと答えを返した。
「勿論寂しくなんかない」
 巫女である事を、この幻想郷を、自分という存在を嫌だと思った事は無い。
 思い浮かぶのは青空の様な魔理沙の笑顔。
 どうして何度も魔理沙の顔が浮かぶんだろうと考えて。
 ふとした瞬間に、霊夢は理解した。
 寂しくないんじゃない。
 寂しくなっても、魔理沙の笑顔があるって思うだけで、寂しくなくなるだけなんだ。
「私は寂しくなっても大丈夫。だって、私には出来過ぎた友達が居る。そりゃね、いずれ結婚とかして生活が変われば、会いづらくなるかもしれないけど、でも友情が途絶える事は無いって信じてる。魔理沙とはこの先もずっと、死ぬまでずっと、一緒に居られるって。だから、恋だって……したくないなんて言わない。してみたいと思うし、さっきのも楽しかった。でも、それを私が出来るとは思わないし、無理にする必要だって無い。私は、そうきっと、魔理沙が幸せな恋をしているのを見たら、まるで漫画を読むみたいに満足出来る。」
 それを聞いた咲夜はご馳走様と微笑んでから、言った。
「恋なんてそれぞれだと思うわよ。色んな形がある。きっと霊夢も、これは本当に何となくだけど、いずれ男性とお付き合いして、幸せな家庭を持つ気がするわ」
 多分それは、そこ等の人里で行われている様な、家同士の面子を保つ為の恋愛じゃないでしょうけれどね、と咲夜は笑う。
 霊夢は何だか馬鹿にされている気がして、仏頂面になった。
「そこまで言うって事は、さぞかし咲夜には恋愛経験がおありなんでしょうね」
 見た目は殆ど年齢の変わらない咲夜に対して、当て付けで言ってみたが、意外にも咲夜はそれを肯定した。
「まあね」
 咲夜は懐からアルバムを取り出す。
「これが、私の恋の記録」
「嘘。え? 見て良い?」
「どうぞ」
 アルバムをひったくった霊夢は早速一ページ目をめくった。
 そこにはレミリアの笑顔があった。
 思わず霊夢は写真のレミリアに頭突きをしそうになった。
「これは?」
「それが一番新しい私の恋の記録。釣りに行って大物を釣り上げたお嬢様。昨日の事ね」
 一番新しいという事は、古いものもあるのだろう。昔の恋人はどんな姿だろう、と霊夢は逸る心を抑えながら二ページ目を開いた。そこにはレミリアの笑顔が写っていた。
「それは二番目に新しい私の恋の記録。流れ星が消える前に三回願い事を言えて喜んでいるお嬢様。一昨日の流星群があった夜の事よ」
 嫌な予感がして次のページを見ると、やっぱりレミリアの笑顔がでかでかと写っていた。更にその次のページも、その次のページも、レミリアが写っていた。
「それは私の恋を記録した一番新しい一冊。私の部屋には他に六百二十四冊あるわ」
「それ全部レミリアの?」
 当然と咲夜が頷いてみせる。
「私の小さくて淡い恋の記録」
「いや、全然淡くないから。むしろ濃すぎて胸焼けするから」
 霊夢は脱力してアルバムを返した。
「結局あんたも恋なんて知らないんじゃない」
「どうして? 私はお嬢様に恋をしているわ」
「あのねえ」
 文句を言おうとする霊夢の口を、咲夜は人差し指で押さえた。
「まあ、聞いて。恋って何だと思う?」
 咲夜の指が唇から離れたので、霊夢はつまらなそうに言う。
「知らないわよ。した事無いもの」
「でもさっき出来無いって言っていたでしょ? 恋を知らないのなら、出来無いかどうかだって分からないじゃない」
「まあ、そうだけど。なら、こう、一緒になって、何か結婚するとか? そういうのじゃないの?」
「そういうのもある」
 咲夜は微笑みを浮かべて、アルバムを撫でた。
「でも他にだって沢山の形がある。世の中には、結婚しない恋なんて履いて捨てる程あるし、体を重ねない恋もあるでしょう。離れ離れになる恋もあれば、ずっと一緒に居る恋もある。勿論実らない恋もね。ひたすら相手を思う恋だってあるでしょうし、ふとした拍子に突然花開く恋もあるわね。その逆に、結婚していても、体を重ねても、恋をしていない事だって、腐る程ある。だったらもう、自分が恋だと思うものが恋じゃない?」
「詭弁だと思う」
 間髪入れずに答えた霊夢に咲夜は苦笑する。
「まあね。何もかもが恋だって思えないのなら、あなたにとって今の言葉は詭弁だわ。でも」
 台所から魔理沙の声が聞こえた。どうやらもうそろそろお昼ごはんが出来るらしい。そう言えば、料理対決をしていたんだったなと霊夢がぼんやり思っていると、咲夜が立ち上がった。霊夢が見上げると、咲夜は優しい笑顔を浮かべていた。
「俺には霊夢と魔理沙が、特別な絆で結ばれている様に見えるよ。普通の恋人なんかよりずっと強固なね」
 咲夜は片手を上げて、台所へと向かった。
「例え君達の関係が恋人らしくなくとも、君がそれを恋だと思わなくとも、俺は、そういう恋が合っても良いんじゃないかと思うよ」
 咲夜が廊下に消えた。それをしばらく見つめていた霊夢は、やがてまた外の景色へと視線を戻した。外には強い日が差して、どうやら今日も暑くなりそうだった。

 やがて四人が料理を持ってやって来た。先頭の魔理沙が明るい笑顔で持っていた料理を掲げて、縁側に立つ霊夢のところまで持ってきた。
「どうだ、美味そうだろ。って、ただのポテトサラダだけどな!」
 霊夢は皿の中から胡瓜を摘み上げて口の中に放った。
「うん、美味しい」
「だろう! 俺が心を込めて切ったからな!」
 そう言って笑いながら、部屋に戻って卓の上にお皿を置いた。
 その背に霊夢が声を掛ける。
「ねえ、魔理沙」
「ん?」
 振り返った魔理沙に霊夢は静かに言った。
「愛してる」
「え?」
 魔理沙は面食らった顔をして呆けていたが、しばらくして笑い出すと、他の三人に向かって拳を掲げてみせた。
「どうやら料理勝負は俺の勝ちの様だぜ」
 そうして霊夢へと振り返る。
「おお、姫様。勝利した私めに褒美のキスを賜りたく」
「良いわよ」
 魔理沙が完全に硬直したので、霊夢は笑って自分の頬を指さした。
「ただし、ほっぺにね」
「お、おお、びっくり、じゃねえや、残念だなぁ。でもありがたく拝受致します、お姫様」
 そう言った魔理沙が近寄ってきて、一瞬恥ずかし気に頭を掻いてから、何処かいたずらめいた笑みを浮かべた。
「じゃ、行くぜ」
 魔理沙の顔が近づいてくる。
 それを見て、霊夢は微笑んだ。
 これからするのは偽りの口付け。
 それはそうだ。
 少なくとも魔理沙とは口付けをしあう様な関係では無いのだから。
 霊夢はふっと未来を思う。
 いずれ誰かと本当の口付けをする時が来るのだろうか、と。
 そんな日が来る事を想像出来無い。
 想像出来るのは、やっぱり恋も知らない子供の自分だけ。
 いずれ、咲夜の言う様に、大人の自分になる時が来るのかもしれないけれど、その時までは。いや、例え例え恋人が出来ても夫が出来ても、魔理沙という存在はそれ以上に特別であり続けるに違いない。そんな確信がある。
 魔理沙とは結婚もしなければ、体を重ねる事も無く、愛を誓う事も、口付けをする事も無いけれど。
 二人の関係を表す言葉は世界の何処にも無いだろうから。
 これは一つの小さく淡い恋と言って良いんだろう。
 霊夢は魔理沙の唇を避ける為にゆっくりと自分の頬を突き出した。
 魔理沙も霊夢の唇を避けて唇を近づけた。
 決して本物のキスをしない様に、二人は避けた。
 同じ方向に。
 だから二人の唇が触れ合った。
 その瞬間、時が止まり、しばらくしてお互い唇を離し、たっぷり三秒見つめ合ってからどちらからともなく顔を赤くして、先に魔理沙が謝罪の言葉に聞こえなくもない奇声を発して外へ駆け出していった。霊夢はそれから三十秒程体を震わして堪えていたが、やがて耐え切れなくなって、恥ずかしさのあまり大声を上げながら床に倒れこみ、そのままごろごろと転がって、縁側から外へ落っこちた。
 土塗れになった霊夢は空を見上げながら、魔理沙に対する謝罪に聞こえなくもない吠え声を天高く響かせた。それに呼応した魔理沙の奇声も遥か遠くから聞こえてきた。
 それはまるでお互いの存在を確かめ合う遠吠えの様で。

 いつまでも晴れ渡るであろう青い空に、
 二人の描く恋模様。
男物のブレザーか学ランを着ている十六夜咲夜さんの画像がもっと増えたら良いのにと思いました。まる。増えたら良いのにと思いました。まる。
烏口泣鳴
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.860簡易評価
5.100名前が無い程度の能力削除
レイマリこそ至高
6.100絶望を司る程度の能力削除
次にお前はレイマリ最高と言う!
9.100名前が無い程度の能力削除
口付けしちゃったということは他も結局してしまうことになるのか。
レイマリはやっぱり可愛いし、咲夜も良いキャラしてました。
10.90名前が無い程度の能力削除
レイマリ可愛いな
まぁ十代前半なら恋に恋することもあるお年頃だしね
11.100非現実世界に棲む者削除
レイマリ最高!
12.100名前が無い程度の能力削除
とても良かったです
なんていうか烏口さんのストレートにそそわらしい話を初めて読んだ気がします皮肉とかじゃなくて作風的な意味で

とても面白かったです
14.10名前が無い程度の能力削除
レイマリとか糞
廃れて欲しい
15.90名前が無い程度の能力削除
なんだかんだで付き合ってくれる皆が仲良くて良いね。
レイマリ最高!
16.100名前が無い程度の能力削除
素晴らしいレイマリだ
21.100名前が無い程度の能力削除
こういう関係は良いですね
霊夢と魔理沙はもちろん、一緒に付き合ってくれる皆も
26.100名前が無い程度の能力削除
ついうっかりから始まる恋があってもいいよね
31.90ミスターX削除
>「それは私の恋を記録した一番新しい一冊。私の部屋には他に六百二十四冊あるわ」
一冊あたり10日分としても、17年ほどかかる計算になるけど、今何歳なんだろう?