パチュリーとレミリア 面倒臭い?私もそう思う
「やぁ親友、まだ生きてるかい?」
「……」
「……黙ってこっちを見るのはやめてくれない?なんか悪い事したみたいな気分になるから」
私の図書館にやってきた愛しい親友を溜息ひとつついて迎え、机の上の砂時計をひっくり返し、横にあるベルに手をかける。
「あぁ別にいいよ、少し様子見に来ただけだし……いや、あのごめん、この後ちょっと出かけようと思ってて……」
「……」
「……分かりました。大丈夫です、はい」
了解を得たのでベルを鳴らす。レミィはというと溜息をつきながら私の向かいに座る。
「私のことを我儘だとか子供っぽいとかいう輩は多いけどさ、パチェも大概だよね」
「……」
「せっかく遊びに来たんだから目をそらすな」
レミィが私の頬に優しく手を添える。そしてしばらく私の目を見つめた後、再びため息をつく。
「そういえば最近フランとはどうだい?随分と仲がいいようだけど」
「……」
私が時々フランドールに会いに行っていることをレミィは知っているし、その目的も知っている。そして恐らく最近は当初の目的からズレて、というより私とフランの関係性が変化してきていることも。
「妬けちゃうわね」
「……」
「冗談よ。気を悪くしたなら謝るわ」
顔をしかめる私を見てレミィはクスクスと笑みをこぼす。
「……」
「気を悪くしたなら謝る。ただ……ね」
レミィがそんな調子で笑っていると小悪魔が紅茶と山盛りのクッキーを持ってやってきた。レミィのは血のように紅い紅茶、私のはミルクティーだ。
「お待たせいたしました」
「いつもありがとう。……うん美味しいわ」
「光栄です」
「メイド妖精もこれくらいできたらいいのにね」
「そんなに大したことありませんよ。私が入れられる紅茶は3つだけですから」
「そうよね、難しくないはずなのよ。せめて私が美味しく飲める紅茶だけ入れられたらいいのに」
レミィがぶつくさ文句を言い出しそうなのを悟り、小悪魔は仕事が残っていますのでと言って図書館の奥の方に戻っていった。その後目の前のクッキーと紅茶がなくなるまでレミィは話し続けた。内容なんてあってないようなもの。ただそのゆっくり流れるなんでもないような時間が私にとっては大切なものである。そして願わくばレミィにとってもそうであってほしい。
◇
「さて、私はそろそろお暇しようかしら」
「……」
いくらゆっくりだろうが時間の経過は止められない。……一瞬頭の隅をよぎった笑顔の従者は無視だ。だから私は物理的に止めるためにレミィの服の裾を掴む。レミィが力づくで振りほどけないのを知っているから。
「……パチェ」
「……」
「パチェは本当に仕方ないね。……忙しかったとかの言い訳はしないわ。長い間ここに来なかったことについては私が……」
言葉を発する前に人差し指をレミィの口に当てて遮る。謝って欲しいわけではない。そんなことを謝られたくない。
「分かった、分かってるよ。でもそろそろ機嫌を直してほしいわ。パチェの声が聞きたいの。ね?」
「……」
そう言って私に微笑みかける。……ずるい。
「……ごめんねレミィ」
「構わないわ。私は身内にだけは優しいからね」
「……面倒くさい女って思ってるんでしょ」
「しかもプライド高くて頑固者、おまけに寂しがりやで病弱。全く……私以外には手におえないわね」
そう言って私の頭を優しく撫でて、そのままゆっくりと頬に添えて顔を耳元に近づける。
「安心していいわよ。それでも私は慈悲や同情なんてまがい物は持ち合わせてない。いらなくなったら迷わず捨ててあげるわ」
「……そんな貴方だから惹かれたのよ」
「愛してるわパチェ」
「私もよレミィ」
レミィはそう言って私の胸に服の上からキスをし、微笑んだ後図書館を去っていった。図書館の扉が閉まったのを確認し、砂時計を動かした後再び本を読み始める。