フランと美鈴 いるだけじゃイヤ!
私には時間感覚というものがイマイチ無い。長年時間を意識することなく地下に引きこもっていたからだ。そしてある程度自由が許された今でもそれは変わらない。何となく地下を飛び出してみると時刻は丑三つ時、吸血鬼の住処というのに紅魔館は静まり返っていた。
逸る気持ちを抑えられず、歩みは自然と早足になる。廊下を進み玄関を出て、目指すはいつもの場所、門番の休憩所だ。
ピタリと閉められた扉の前に立ち、一つ深呼吸をして意識を集中する。そして掛け声とともに後ろ回し蹴りを放つ。すると扉は手裏剣のように飛んでいった。もちろんレディの嗜みとしてスカートの裾は押さえている。
「すぅ……ん……ぅん~……」
派手な音にも関わらず美鈴は全く起きる気配がない。気の狂った吸血鬼が夜中に寝床にやってきたというホラーな展開も何のそのだ。今までも色々試してきたが、今回はどうやって起こそうか。叩いて起こしたらそのまま気絶されたし、水をかけたら後始末が大変だったし、耳元で大声を出したらお嬢様に怒られたし、うーん……鼻と口を摘んでみようか。
「……………………ぺふっ!ゲホッゲホッ……な、何事!?……またですか?」
「うん!いい夜だね」
咲夜の真似をして上品にカーテシーをした後、美鈴に馬乗りになる。
「だから遊ぼ!」
「えーっと……良い子は寝る時間ですよ」
「遊ぼ!」
「明日も仕事で朝が早いんですが」
「遊ぼ!」
「な、何も私じゃなくても」
「遊ぼ!」
「最近体調が良くないなー!肩こりとかひどくて」
うだうだとはっきりしないのでいい加減イライラしてきた。美鈴の顎に優しく手を添えて私の方を向かせて顔を近づける。
「美鈴。あ・そ・ぼ♪」
「……分かりました」
私の目をじっと見た後諦めたようにため息をつき、やっと了承した。
「ですが少し時間をください。色々準備をしたいので先に外に出ておいてください」
「いーや。そう言って来ない気でしょ」
「私達は妹様に嘘はつきません。信じてください」
「……早くしてね。あんまり遅いと怒っちゃうんだから」
美鈴も着替えとか遺書とか準備することもあるだろうし。少し不満だけど仕方ない。とりあえず先に紅魔館を出る。適当に遊べそうな場所を探すために。
「お待たせしました妹様。……ところでここって森じゃなかったですか?」
「うん。でも綺麗にしておいた!これなら隠れる場所無いでしょ?チノ=リってやつだね」
「地の利ですね。しかし……これは困りました」
「ねぇ早く始めようよ」
「……そうですね。では」
そう言うと美鈴は私の目の前まで歩いてくる。いつもは私から逃げ切ることを第一に考えるから大げさなくらいに距離を取るのに。
「へぇ、今回は随分近いんだね」
「攻撃は最大の防御です。もともと私は弾幕よりも格闘のほうが得意なので」
「美鈴すごーい!吸血鬼相手に4対1で接近戦をするつもりなんだね」
「任せてくd……4対1?……あぁ妹様って増えるんでしたね」
「じゃあ始めるよ!」
「えっいや。あー……じゃあこのコインが地面に落ちたらスタートでお願いします。では」
そう言うと美鈴は思い切り振りかぶって空高くコインを投げた。……ちょっと高すぎないだろうか?しばらくコインを見つめているとやっと落ちてきた。普通はこういう時は軽く親指で弾くと思うんだけど。
「……あれ?」
目の前にいたはずの美鈴がいなくなっていた。私がコインを目で追ってる内にとにかく距離をとった……というか逃げたのだろうか?
「えへへ、逃さないよー♪きゅっとして……」
◇
――――――ドスッ
どすっ?
「……咲夜さん痛いです」
「仕事中に寝ているほうが悪い。ていうか刺されたらすぐ起きなさいよ。そのまま永眠しちゃったら目覚めが悪いじゃない」
「すごく理不尽を感じますがすいません」
「ところで……怪我は大丈夫?」
「頑丈なのが取り柄なので」
「そう。妹様がお呼びよ」
「昨日の今日でですか?あまり眠れてないのですが……」
「そう身構えなくてもお茶のお誘いよ。私も少し手伝ったけどクッキー焼いたから一緒にだって」