登場人物
豊郷耳神子
聖白蓮
博麗霊夢
古明地こいし
秦こころ
アリス・マーガトロイド
(一番右側トイレ:豊郷耳神子視点)
トイレットペーパーが・・・ない。
状況を説明しよう。今夜は博麗神社にて各宗教の長の懇親会・・・という面目で、まぁ命蓮寺のクソ尼に啖呵切ったわけだ。で、いつも通りケンカして、嫌がらせに目の前で酒を飲み、腹を下して、トイレに駆け込んで今に至る。
豊郷耳「状況は極めて不利・・・か」
普通に考えれば、外に向かって紙がないと言えば済む話だ。しかし聖白蓮。奴の前で弱みを見せるわけには行かない。ここは情報収集。幸い私の耳は特別製。私は早速耳を澄ませた。
(中央トイレ:聖白蓮視点)
トイレットペーパーが・・・ない。
まず情報を整理しなきゃ。今夜は博麗神社にて各宗教の長の懇親会・・・のはずだったんだけど、例の耳アバズレがやたらと絡んできて、不快だったから無視して豆腐をバクバク食べていたらお腹が痛くなって、トイレに駆け込んでご覧のありさま。
聖白蓮「かといって・・・」
普通に考えれば、外に向かって紙がないと言えば済む話。しかし豊郷耳神子。あんな女の前で紙がないなんて言ったら、どんな嫌味を言われるか分かったものではない。とりあえず、どうにか星に連絡をとらなきゃ。でも焦ってもしょうがない。
ガタッ
何だか、左から音がする。私は左に耳を傾けた。
(一番左側トイレ:博麗霊夢視点)
トイレットペーパーが・・・ない。
いや、まぁ紙がないのは知っていたわ。一月ほど前から。
ウチの神社にトイレは3つ。元々全てのトイレに紙はあったわ。けれど神社の財政は火の車。神も紙も買うお金なんてない。あったら酒を買っているし。で、一つ一つのトイレから紙はなくなり、最後の一つも一月前に亡くなった。しかし普段は困らないものよ。風呂場まで歩いて行って、水で洗って済ませてたから。こんなこというと、皆非難するけど要するに慣れよ。経済的だし。
でも今回は人がいる。流石の私もウンコついた状態で皆の前を横切って風呂場に行く勇気はない。つまり詰み。外の人間に伝えたところで無駄。だってないんだもん。
霊夢 「あ~、紙もうないし~」
(一番右側トイレ:豊郷耳神子視点)
はぁああああああ!?
あの馬鹿巫女、なんつった!?
私の耳は、声はおろか、心の声まで聴きとれる。つまり白蓮坊主の状態も腋巫女の怠慢も聞き取った。つまり、あの馬鹿は、トイレの紙がない状態で飲み会を開いたのだ。屑がッ・・・!屑がッ・・・!屑がッ・・・!
アリス「あの・・・早く出て・・・私・・・限界・・・」
こころ「お~い、早く出ろ!早くしないとこころは漏らすぞ!
いいのか、こころが漏らして!?
こころは下痢だぞ!掃除大変だぞ!」
てめぇら、トイレに入れば解決すると思っているんだろうな。が、ところがドッコイ、ここのトイレは入ったら2度とでれません。
豊郷耳「あの、だから、かくかくじかじかで・・・」
こころ「な、なにーーー!?神子がトイレでウンコしたら紙がなくて、盗聴したら聖もウンコしててやっぱり紙がなくて、もっと盗聴したら霊夢もウンコしててやっぱり紙がなくて、しかも霊夢は1か月間トイレでウンコした後、ケツも拭かずに過ごしてたことが判明しただとーーー!?」
豊郷耳「説明忍びねぇな」
こころ「構わんよ」
アリス「どうでも・・・いいから・・・早く・・・」
豊郷耳「しかし紙がないことには・・・」
聖白蓮「そもそも何で紙すらない状況で飲み会なんて開くんですか?」
霊夢 「う、うるさいわね・・・」
アリス「あ・・・ああああ・・・ううう・・・」
豊郷耳「誰かトイレットペーパー持ってないでしょうか?」
聖白蓮「そんな人いるわけ・・・」
こいし「あるよーー」
豊郷耳「あるわけ・・・て、え?」
ある・・・だと・・・。しかし、この場合・・・
豊郷耳(古明地こいしは命蓮寺の信者。ということはこの紙を最初に手に入れるのは白蓮坊主。すなわち・・・)
聖白蓮(くくく・・・ナイスです、こいしちゃん。紙は私が残さず使わせてもらいます。
さらばです、ウンコ仙人)
豊郷耳(く・・・やはりこやつ)
私の仙人イヤーを通して白蓮坊主の心の声が聞こえる。なんという・・・
聖白蓮「こいしちゃん、では早速・・・」
こいし「こいしねー、最近人里に遊びにいくのー」
聖白蓮「??? こいしちゃん、あの、早く?」
こいし「でねでね、昨日のことなんだけど、服屋さんに寄ったのー」
聖白蓮「は、はぁ」
こいし「びっくりしたよ!黒にワインレッドの刺繍が入ったスカートでね、フリルが沢山ついてて、すっごく可愛いの!
でも買いたかったんだけど、高くてね、ああ、誰かこいしにスカート買ってくれる優しい人いないかなーって」
きょ、脅迫してきたーーー!?
この女、我々がウンコで身動きをとれないことをいいことにッ!トイレットペーパーと新作のスカートなんて不等価交換にも程があるぞ!
こいし「嫌なら別にいいんだよー、でもこの時間はもうお店しまっちゃてるよねー、朝まで仲良くウンコする?」
こころ「おい、お前ら!早く決断しろ!こころのお尻は臨界点突破寸前だぞ!」
アリス「お願い・・・早く・・・」
聖白蓮「ぅ、飼い犬に手を噛まれるとはまさにこのこと・・・」
豊郷耳「・・・悪魔め!」
こいし「だってこいし、妖怪さんだしーー。霊夢ちゃんはどうする?てゐフルっていうサラ金紹介してあげてもいいよー」
霊夢 「・・・・・・」
こいし「あれ、黙っちゃった?」
霊夢 「ふん・・・甘いわね、仕方ないわ、博麗の最終奥義を使う時がきたようね」
博麗の最終奥義?ウンコついたまま古明地に襲い掛かるのか?
霊夢 「ふふふ、ものども、よぉーく見ておくことね、滅多に使うことはないわよ」
豊郷耳「あいにく、トイレの個室の中なので全く見えませんが」
霊夢 「じゃあ聞いてなさい!行くわよ!!」
茶化してはいるものの、凄まじい気迫と緊張が個室の中でも伝わってくる。幻想郷を取りまとめるあの博麗霊夢の巫女の最終奥義なのだ。どれほど高度な術か想像もできない。
すぅぅぅぅーーーー
霊夢 「ゆかりーーー!!紙持ってきて!今すぐ!!」
・
・・
・・・
し~~~ん・・・・・・・
霊夢 「・・・ほ、ほっぺのチューしてあげるから・・・」
にゅん!
ぱさ!
チュッ!!
・・・
カラカラカラカラ・・・
ゴシゴシ・・・
ジャ――――!!!
バァー―――ン!!
霊夢 「復活ッ!!博麗霊夢復活ッ!!」
豊郷耳「こ、こやつ・・・」
身体売りやがったッ!!博麗の最終奥義!それは金がないから身体を売るという人類最古の職業に根差した行動だったのだ!!
霊夢 「くくく、私を軽蔑するかしら?」
アリス「うぉおおおお、どけどけどけー!!」
バタンッ!
ブリブリブリッ!!!!
人形遣いが飛び込んで盛大にウンコを始めた。当然紙も持たずに。
聖白蓮「と、とはいえ、助かりました。霊夢さん、紙を・・・」
霊夢 「はぁああああ?何言ってんの?何にも対価を払わずに物が手に入ると思ってるわけ?」
こいし「聖さんはずうずうしいよー、耳のお姉ちゃんはその点、ちゃ~んと分かってるよね?」
豊郷耳「分かりました。こいしさん、紙をくれたらほっぺにチューを」
こいし「何言ってるの、このBBA、きもい、変態、死ね、鏡見ろ」
豊郷耳「そこまでいうことないと・・・」
こころ「ちなみに貴様らがダラダラしたせいで、こころはもう漏らしてしまったぞ!ドヤッ!」
霊夢 「うわ、くさッ!!あんた、何やってるの!?」
こころ「最初に宣言した通り下痢だぞ!神子!後でこころのパンツを洗っておくように!!」
豊郷耳「おい、ちょ、おまっ!!!」
霊夢 「あーあーあーあー!!とりあえず外の流しに行きましょう!そこで洗うわよ!」
こころ「うむ!!!」
・
・・
・・・
豊郷耳「さて・・・」
聖白蓮「残ったのは我々というわけですね」
こいし「アリスちゃんもいるよー」
アリス「ごめん・・・しばらく・・・そっとして・・・」
…ブリ…ブリ。
相当我慢していたらしく、しばらく止まりそうにもない。まぁ確かに、誰しも排便中はそっとしてほしいものである。
豊郷耳「さて、こいし殿、おそらく私と白蓮殿の共通認識としてですが」
聖白蓮「紙一つでお洋服なんて足元を見られた交渉には乗れません」
こいし「じゃあどうする?このままトイレで過ごす?」
豊郷耳「そのつもりもありません」
こいし「なるほど、強行作戦というわけね」
聖白蓮「ええ」
こいし「でもいいのかしら、私、最近天狗のお姉ちゃんと仲良くなってね、これ聞こえる?」
カシャ・・・カシャ・・・
この音は確か、カメラという機械の・・・
こいし「そっちが取る気なら私も”撮る”だよー、主にウンコがついた下半身を」
聖白蓮「く・・・」
豊郷耳「白蓮殿!あなたの身体強化とやらでどうにかなりませんか?」
聖白蓮「無理です・・・前に手合せした時もほぼ互角でしたから。ましてや、その、私たちの的が大きすぎます」
こいし「ふふふ、それにね、もう一つ考えて見なよ、後のことを」
豊郷耳「後?」
こいし「こいしにスカート買ってくれた方に紙を渡すっていうのは前も言ったよね」
豊郷耳「ええ」
こいし「つまり自分が買えば、相手には紙が渡らないってことだよ」
豊郷耳「!?」
聖白蓮「!?」
こいし「相手の宗教の教祖をトイレに閉じ込められる。たったスカート1枚でそこまでできるんだよ。逆にね・・・」
”相手が先に買えば、自分がトイレの囚人になる、てこと”
こいし「さぁ~、あっちはどんな屈辱的な条件や仕打ちをしてくるかなー、早く買った方が賢いと思わないかなー?」
豊郷耳「・・・・・・」
聖白蓮「・・・・・・」
実際、その可能性を考えていないわけではなかった。ただそれを考慮すると余りに古明地に有利な取引になるため気がつかないふりをしていた。しかし指摘された今、私も白蓮坊主も目を逸らすわけにはいかない。
聖白蓮(・・・聞こえますか?)
心の声だ。白蓮坊主がコンタクトをとってきたらしい。返事の代わりに便器を軽く叩く。坊主の方は心の声が聞こえないのだから仕方がない。
聖白蓮(私は身体強化の術、あなたは耳を使った情報収集能力と仙術。2人で力を合わせれば対抗できるやもしれません)
それは私も一瞬くらい考えていたが・・・両者が裏切らないことが前提だ。しかし・・・
豊郷耳「こいし殿?こういう話を知っておいでかな?」
こいし「うん?」
豊郷耳「今から半年ほど前でしたか、道を散歩していますとね、前にご老人が歩いていらっしゃったのですよ。
それだけでは不思議でも何でもないのですが、その老人、頭に赤い洗面器を載せてましてね。
私は気になって聞いたんです。『ご老人、どうして赤い洗面器を載せているのか』と」
私はこいしの注意を引きつつ、仙術を行使していた。私の能力は『欲の声を聴く程度の能力』。その能力は欲の顕在化である神霊を集めることもできる。そして私は神霊を隣の個室に送っていた。
聖白蓮(!? これは・・・霊でできた・・・スカート?)
そう。今の我々はウンコ付き故、下半身を露出させねばならない。私の身体能力で古明地から紙を奪うことはできないし、白蓮坊主にはそれができるものの、カメラまで防ぐことはできない。
聖白蓮(しかし、あなたの能力で下半身を保護する衣類を作成できれば・・・真剣勝負に持っていけるというわけですね)
私は一人頷き、最後の仕上げをする。私が用いた霊は執着心の強いどす黒い欲色の霊と嗜虐欲で構成されている赤い例を少々。そして雑多な霊は泡状にして貼り付けた。そして白蓮坊主はゆっくりと個室を開ける。
こいし「!!!?」
聖白蓮「黒を基調とした生地に赤い刺繍、そして華やかなフリル。あなたはやはり性格が悪い」
豊郷耳「くくく・・・こいし殿・・・私からの礼です。あなたが欲しがっていたスカートのデザインをしてあげました」
こいし「く・・・(ぱしゃ)」
聖白蓮「今更そんなものにひるむわけないでしょう?」
こいし「まだだ!まだあわてるような時間じゃ・・・」
聖白蓮「遅い・・・うぉおおおおりゃぁああああああああ!!!!」
”聖符・独逸式反り投げ”
(German suplex)
派手な轟音。ドアの隙間から見ると、古明地の頭が床より下に沈んでいた。ここの床は一応木製ではあるが・・・。
聖白蓮「あなたの取り分ですよ」
豊郷耳「・・・実は裏切られるかもと思っていましたよ」
白蓮坊主からトイレットペーパーを受け取りつつ答える。彼女は何も勿体もつけずに渡してくれた。
聖白蓮「貸し借りは作りたくないもので」
豊郷耳「ええ、お互いに・・・」
聖白蓮「考えて見ると奇妙なものですね」
豊郷耳「ん?」
聖白蓮「私とあなたは敵同士。なのに私は味方に裏切られ、そもそもの原因を作った第3者も責任を取らない始末」
豊郷耳「それが人間というものです。そしてだからこそ私とあなたは敵なのです」
聖白蓮「というと?」
豊郷耳「あなたの教えは人間皆仏でしたっけ?」
聖白蓮「ええ、我々凡人も御仏の教えによりまた仏となるのです」
豊郷耳「私の考えは違います。例え本当に仏になれたとしても、魔がさす、というものがあります。
こいし殿も本当にあなたを慕っていたのでしょう。しかし無意識純粋故に魔に勝てなかった」
聖白蓮「!? しかし・・・」
豊郷耳「人とあなたは違うんです。魔に勝てる人間など本当に一握りです。ほとんどの人間は魔に勝てない。
勝てない人間が仏を気取ることこそ危うさが伴います。」
聖白蓮「そんなことは・・・」
豊郷耳「例えばです。あなたは私にすんなり紙を渡してくださいましたね。理由は協力して取得したから」
聖白蓮「ええ、当然です。共同で受け取りましたから」
豊郷耳「それが当然ではないのですよ。
例えば外の世界では皮肉なことに、盗品の仏像を国宝化しようとしている民もいます。
彼らとて盗品は返さなければならない、という理性はあります。しかしいざ取得すると魔に動く。
後はそれらしい権威が大義名分を与えれば理性など吹き飛びます。
仏像を手に入れるために仏の教えを忘れる、何とも皮肉な話です」
聖白蓮「・・・・・・」
豊郷耳「しかし、私はこのような事態を最初から予知してました。そう、渡来人どもが仏教を伝えてきたときから。
仏という絶対の教えを守ることで共通倫理観を作る。
しかしそれは1対多数の話。教えを破ることで利益を得られる人間が複数いれば、絶対などという概念はない。」
聖白蓮「だから、仙道、と?」
豊郷耳「ええ、そもそも私は人々の絶対権限への渇望の具現化ですからね。
戦乱をまとめるのは絶対の権力が力で以て人を統制し、徳を以て統治する。
その徳の道具としては仏教は便利ですが、徳の前に力が必要なのです。そしてその力は保たれなければならない」
聖白蓮「不老不死ですね」
豊郷耳「あなたとてそうでしょう?あなたこそ何故力に手を染めましたか?」
聖白蓮「・・・私が若かったからですよ」
豊郷耳「そして、あなたが導く民はもっと若い」
聖白蓮「なれば、子供。子供は教育されるものです。
あなたは子供が学ばないので、学ばせることを放棄されている。
しかし私は教え続けることを選びました。
何度筆を投げても、再びそれを握らせる・・・それが統治者の姿ではありませんか」
豊郷耳「ふふふ、これは平行線ですね。しかし・・・
人は学ぶにあまりに短い。しかしここは妖怪が跋扈する幻想郷。
あなたの抱いている幻想もあるいは現実になるやもしれません」
こころ「おーーーい、神子!!早く帰るぞ!新しいパンツがないと気持ち悪い!」
豊郷耳「やれやれ、私もなかなか学ぼうとしない子供に呼ばれてしまいました」
聖白蓮「ふふふ、入門されますか?」
豊郷耳「悪くはないのかも知れませんね、しかし彼女は1500年間子供のまま。
なかなか骨が折れますぞ」
聖白蓮「あらあら、人類は三千年間子供のままですわ」
豊郷耳「これは一本取られましたな」
私はマントを翻す。
豊郷耳「それでは白蓮殿!ごきげんよう!しかし我らは決して味方ではない!お忘れなさるな!」
聖白蓮「全く・・・教祖まで子供なんですね」
私は軽く微笑んで返し、こころを引き取る。
こころ「む?お前たち、仲が悪いんじゃなかったのか?」
豊郷耳「悪いですよ」
こころ「む~~、そうか?」
豊郷耳「それより、こころ。何で漏らすんですか?」
こころ「それはお前らがあんなに長い時間トイレにこもっていたからだろ!!」
豊郷耳「・・・まぁ確かに」
こころを連れ立って、空を飛びつつ、月を見る。
何故だか知らないが、非常に気分がいい。
(トイレ・アリス視点)
「ちょっと、みんな!神子!白蓮!霊夢!みんな!どこ!」
私は必死に呼びかけるが反応がない。ようやく腹痛が収まり、お尻を拭こうとしたところ、紙がない。
周りのメンバも全員無視。
どういうこと?新手のイジメなの?
嫌だ、誰か、私を一人にしないで・・・
「だれかーーーー!!お願い!紙を・・・神よ、紙を恵んでください!!」
豊郷耳神子
聖白蓮
博麗霊夢
古明地こいし
秦こころ
アリス・マーガトロイド
(一番右側トイレ:豊郷耳神子視点)
トイレットペーパーが・・・ない。
状況を説明しよう。今夜は博麗神社にて各宗教の長の懇親会・・・という面目で、まぁ命蓮寺のクソ尼に啖呵切ったわけだ。で、いつも通りケンカして、嫌がらせに目の前で酒を飲み、腹を下して、トイレに駆け込んで今に至る。
豊郷耳「状況は極めて不利・・・か」
普通に考えれば、外に向かって紙がないと言えば済む話だ。しかし聖白蓮。奴の前で弱みを見せるわけには行かない。ここは情報収集。幸い私の耳は特別製。私は早速耳を澄ませた。
(中央トイレ:聖白蓮視点)
トイレットペーパーが・・・ない。
まず情報を整理しなきゃ。今夜は博麗神社にて各宗教の長の懇親会・・・のはずだったんだけど、例の耳アバズレがやたらと絡んできて、不快だったから無視して豆腐をバクバク食べていたらお腹が痛くなって、トイレに駆け込んでご覧のありさま。
聖白蓮「かといって・・・」
普通に考えれば、外に向かって紙がないと言えば済む話。しかし豊郷耳神子。あんな女の前で紙がないなんて言ったら、どんな嫌味を言われるか分かったものではない。とりあえず、どうにか星に連絡をとらなきゃ。でも焦ってもしょうがない。
ガタッ
何だか、左から音がする。私は左に耳を傾けた。
(一番左側トイレ:博麗霊夢視点)
トイレットペーパーが・・・ない。
いや、まぁ紙がないのは知っていたわ。一月ほど前から。
ウチの神社にトイレは3つ。元々全てのトイレに紙はあったわ。けれど神社の財政は火の車。神も紙も買うお金なんてない。あったら酒を買っているし。で、一つ一つのトイレから紙はなくなり、最後の一つも一月前に亡くなった。しかし普段は困らないものよ。風呂場まで歩いて行って、水で洗って済ませてたから。こんなこというと、皆非難するけど要するに慣れよ。経済的だし。
でも今回は人がいる。流石の私もウンコついた状態で皆の前を横切って風呂場に行く勇気はない。つまり詰み。外の人間に伝えたところで無駄。だってないんだもん。
霊夢 「あ~、紙もうないし~」
(一番右側トイレ:豊郷耳神子視点)
はぁああああああ!?
あの馬鹿巫女、なんつった!?
私の耳は、声はおろか、心の声まで聴きとれる。つまり白蓮坊主の状態も腋巫女の怠慢も聞き取った。つまり、あの馬鹿は、トイレの紙がない状態で飲み会を開いたのだ。屑がッ・・・!屑がッ・・・!屑がッ・・・!
アリス「あの・・・早く出て・・・私・・・限界・・・」
こころ「お~い、早く出ろ!早くしないとこころは漏らすぞ!
いいのか、こころが漏らして!?
こころは下痢だぞ!掃除大変だぞ!」
てめぇら、トイレに入れば解決すると思っているんだろうな。が、ところがドッコイ、ここのトイレは入ったら2度とでれません。
豊郷耳「あの、だから、かくかくじかじかで・・・」
こころ「な、なにーーー!?神子がトイレでウンコしたら紙がなくて、盗聴したら聖もウンコしててやっぱり紙がなくて、もっと盗聴したら霊夢もウンコしててやっぱり紙がなくて、しかも霊夢は1か月間トイレでウンコした後、ケツも拭かずに過ごしてたことが判明しただとーーー!?」
豊郷耳「説明忍びねぇな」
こころ「構わんよ」
アリス「どうでも・・・いいから・・・早く・・・」
豊郷耳「しかし紙がないことには・・・」
聖白蓮「そもそも何で紙すらない状況で飲み会なんて開くんですか?」
霊夢 「う、うるさいわね・・・」
アリス「あ・・・ああああ・・・ううう・・・」
豊郷耳「誰かトイレットペーパー持ってないでしょうか?」
聖白蓮「そんな人いるわけ・・・」
こいし「あるよーー」
豊郷耳「あるわけ・・・て、え?」
ある・・・だと・・・。しかし、この場合・・・
豊郷耳(古明地こいしは命蓮寺の信者。ということはこの紙を最初に手に入れるのは白蓮坊主。すなわち・・・)
聖白蓮(くくく・・・ナイスです、こいしちゃん。紙は私が残さず使わせてもらいます。
さらばです、ウンコ仙人)
豊郷耳(く・・・やはりこやつ)
私の仙人イヤーを通して白蓮坊主の心の声が聞こえる。なんという・・・
聖白蓮「こいしちゃん、では早速・・・」
こいし「こいしねー、最近人里に遊びにいくのー」
聖白蓮「??? こいしちゃん、あの、早く?」
こいし「でねでね、昨日のことなんだけど、服屋さんに寄ったのー」
聖白蓮「は、はぁ」
こいし「びっくりしたよ!黒にワインレッドの刺繍が入ったスカートでね、フリルが沢山ついてて、すっごく可愛いの!
でも買いたかったんだけど、高くてね、ああ、誰かこいしにスカート買ってくれる優しい人いないかなーって」
きょ、脅迫してきたーーー!?
この女、我々がウンコで身動きをとれないことをいいことにッ!トイレットペーパーと新作のスカートなんて不等価交換にも程があるぞ!
こいし「嫌なら別にいいんだよー、でもこの時間はもうお店しまっちゃてるよねー、朝まで仲良くウンコする?」
こころ「おい、お前ら!早く決断しろ!こころのお尻は臨界点突破寸前だぞ!」
アリス「お願い・・・早く・・・」
聖白蓮「ぅ、飼い犬に手を噛まれるとはまさにこのこと・・・」
豊郷耳「・・・悪魔め!」
こいし「だってこいし、妖怪さんだしーー。霊夢ちゃんはどうする?てゐフルっていうサラ金紹介してあげてもいいよー」
霊夢 「・・・・・・」
こいし「あれ、黙っちゃった?」
霊夢 「ふん・・・甘いわね、仕方ないわ、博麗の最終奥義を使う時がきたようね」
博麗の最終奥義?ウンコついたまま古明地に襲い掛かるのか?
霊夢 「ふふふ、ものども、よぉーく見ておくことね、滅多に使うことはないわよ」
豊郷耳「あいにく、トイレの個室の中なので全く見えませんが」
霊夢 「じゃあ聞いてなさい!行くわよ!!」
茶化してはいるものの、凄まじい気迫と緊張が個室の中でも伝わってくる。幻想郷を取りまとめるあの博麗霊夢の巫女の最終奥義なのだ。どれほど高度な術か想像もできない。
すぅぅぅぅーーーー
霊夢 「ゆかりーーー!!紙持ってきて!今すぐ!!」
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し~~~ん・・・・・・・
霊夢 「・・・ほ、ほっぺのチューしてあげるから・・・」
にゅん!
ぱさ!
チュッ!!
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カラカラカラカラ・・・
ゴシゴシ・・・
ジャ――――!!!
バァー―――ン!!
霊夢 「復活ッ!!博麗霊夢復活ッ!!」
豊郷耳「こ、こやつ・・・」
身体売りやがったッ!!博麗の最終奥義!それは金がないから身体を売るという人類最古の職業に根差した行動だったのだ!!
霊夢 「くくく、私を軽蔑するかしら?」
アリス「うぉおおおお、どけどけどけー!!」
バタンッ!
ブリブリブリッ!!!!
人形遣いが飛び込んで盛大にウンコを始めた。当然紙も持たずに。
聖白蓮「と、とはいえ、助かりました。霊夢さん、紙を・・・」
霊夢 「はぁああああ?何言ってんの?何にも対価を払わずに物が手に入ると思ってるわけ?」
こいし「聖さんはずうずうしいよー、耳のお姉ちゃんはその点、ちゃ~んと分かってるよね?」
豊郷耳「分かりました。こいしさん、紙をくれたらほっぺにチューを」
こいし「何言ってるの、このBBA、きもい、変態、死ね、鏡見ろ」
豊郷耳「そこまでいうことないと・・・」
こころ「ちなみに貴様らがダラダラしたせいで、こころはもう漏らしてしまったぞ!ドヤッ!」
霊夢 「うわ、くさッ!!あんた、何やってるの!?」
こころ「最初に宣言した通り下痢だぞ!神子!後でこころのパンツを洗っておくように!!」
豊郷耳「おい、ちょ、おまっ!!!」
霊夢 「あーあーあーあー!!とりあえず外の流しに行きましょう!そこで洗うわよ!」
こころ「うむ!!!」
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豊郷耳「さて・・・」
聖白蓮「残ったのは我々というわけですね」
こいし「アリスちゃんもいるよー」
アリス「ごめん・・・しばらく・・・そっとして・・・」
…ブリ…ブリ。
相当我慢していたらしく、しばらく止まりそうにもない。まぁ確かに、誰しも排便中はそっとしてほしいものである。
豊郷耳「さて、こいし殿、おそらく私と白蓮殿の共通認識としてですが」
聖白蓮「紙一つでお洋服なんて足元を見られた交渉には乗れません」
こいし「じゃあどうする?このままトイレで過ごす?」
豊郷耳「そのつもりもありません」
こいし「なるほど、強行作戦というわけね」
聖白蓮「ええ」
こいし「でもいいのかしら、私、最近天狗のお姉ちゃんと仲良くなってね、これ聞こえる?」
カシャ・・・カシャ・・・
この音は確か、カメラという機械の・・・
こいし「そっちが取る気なら私も”撮る”だよー、主にウンコがついた下半身を」
聖白蓮「く・・・」
豊郷耳「白蓮殿!あなたの身体強化とやらでどうにかなりませんか?」
聖白蓮「無理です・・・前に手合せした時もほぼ互角でしたから。ましてや、その、私たちの的が大きすぎます」
こいし「ふふふ、それにね、もう一つ考えて見なよ、後のことを」
豊郷耳「後?」
こいし「こいしにスカート買ってくれた方に紙を渡すっていうのは前も言ったよね」
豊郷耳「ええ」
こいし「つまり自分が買えば、相手には紙が渡らないってことだよ」
豊郷耳「!?」
聖白蓮「!?」
こいし「相手の宗教の教祖をトイレに閉じ込められる。たったスカート1枚でそこまでできるんだよ。逆にね・・・」
”相手が先に買えば、自分がトイレの囚人になる、てこと”
こいし「さぁ~、あっちはどんな屈辱的な条件や仕打ちをしてくるかなー、早く買った方が賢いと思わないかなー?」
豊郷耳「・・・・・・」
聖白蓮「・・・・・・」
実際、その可能性を考えていないわけではなかった。ただそれを考慮すると余りに古明地に有利な取引になるため気がつかないふりをしていた。しかし指摘された今、私も白蓮坊主も目を逸らすわけにはいかない。
聖白蓮(・・・聞こえますか?)
心の声だ。白蓮坊主がコンタクトをとってきたらしい。返事の代わりに便器を軽く叩く。坊主の方は心の声が聞こえないのだから仕方がない。
聖白蓮(私は身体強化の術、あなたは耳を使った情報収集能力と仙術。2人で力を合わせれば対抗できるやもしれません)
それは私も一瞬くらい考えていたが・・・両者が裏切らないことが前提だ。しかし・・・
豊郷耳「こいし殿?こういう話を知っておいでかな?」
こいし「うん?」
豊郷耳「今から半年ほど前でしたか、道を散歩していますとね、前にご老人が歩いていらっしゃったのですよ。
それだけでは不思議でも何でもないのですが、その老人、頭に赤い洗面器を載せてましてね。
私は気になって聞いたんです。『ご老人、どうして赤い洗面器を載せているのか』と」
私はこいしの注意を引きつつ、仙術を行使していた。私の能力は『欲の声を聴く程度の能力』。その能力は欲の顕在化である神霊を集めることもできる。そして私は神霊を隣の個室に送っていた。
聖白蓮(!? これは・・・霊でできた・・・スカート?)
そう。今の我々はウンコ付き故、下半身を露出させねばならない。私の身体能力で古明地から紙を奪うことはできないし、白蓮坊主にはそれができるものの、カメラまで防ぐことはできない。
聖白蓮(しかし、あなたの能力で下半身を保護する衣類を作成できれば・・・真剣勝負に持っていけるというわけですね)
私は一人頷き、最後の仕上げをする。私が用いた霊は執着心の強いどす黒い欲色の霊と嗜虐欲で構成されている赤い例を少々。そして雑多な霊は泡状にして貼り付けた。そして白蓮坊主はゆっくりと個室を開ける。
こいし「!!!?」
聖白蓮「黒を基調とした生地に赤い刺繍、そして華やかなフリル。あなたはやはり性格が悪い」
豊郷耳「くくく・・・こいし殿・・・私からの礼です。あなたが欲しがっていたスカートのデザインをしてあげました」
こいし「く・・・(ぱしゃ)」
聖白蓮「今更そんなものにひるむわけないでしょう?」
こいし「まだだ!まだあわてるような時間じゃ・・・」
聖白蓮「遅い・・・うぉおおおおりゃぁああああああああ!!!!」
”聖符・独逸式反り投げ”
(German suplex)
派手な轟音。ドアの隙間から見ると、古明地の頭が床より下に沈んでいた。ここの床は一応木製ではあるが・・・。
聖白蓮「あなたの取り分ですよ」
豊郷耳「・・・実は裏切られるかもと思っていましたよ」
白蓮坊主からトイレットペーパーを受け取りつつ答える。彼女は何も勿体もつけずに渡してくれた。
聖白蓮「貸し借りは作りたくないもので」
豊郷耳「ええ、お互いに・・・」
聖白蓮「考えて見ると奇妙なものですね」
豊郷耳「ん?」
聖白蓮「私とあなたは敵同士。なのに私は味方に裏切られ、そもそもの原因を作った第3者も責任を取らない始末」
豊郷耳「それが人間というものです。そしてだからこそ私とあなたは敵なのです」
聖白蓮「というと?」
豊郷耳「あなたの教えは人間皆仏でしたっけ?」
聖白蓮「ええ、我々凡人も御仏の教えによりまた仏となるのです」
豊郷耳「私の考えは違います。例え本当に仏になれたとしても、魔がさす、というものがあります。
こいし殿も本当にあなたを慕っていたのでしょう。しかし無意識純粋故に魔に勝てなかった」
聖白蓮「!? しかし・・・」
豊郷耳「人とあなたは違うんです。魔に勝てる人間など本当に一握りです。ほとんどの人間は魔に勝てない。
勝てない人間が仏を気取ることこそ危うさが伴います。」
聖白蓮「そんなことは・・・」
豊郷耳「例えばです。あなたは私にすんなり紙を渡してくださいましたね。理由は協力して取得したから」
聖白蓮「ええ、当然です。共同で受け取りましたから」
豊郷耳「それが当然ではないのですよ。
例えば外の世界では皮肉なことに、盗品の仏像を国宝化しようとしている民もいます。
彼らとて盗品は返さなければならない、という理性はあります。しかしいざ取得すると魔に動く。
後はそれらしい権威が大義名分を与えれば理性など吹き飛びます。
仏像を手に入れるために仏の教えを忘れる、何とも皮肉な話です」
聖白蓮「・・・・・・」
豊郷耳「しかし、私はこのような事態を最初から予知してました。そう、渡来人どもが仏教を伝えてきたときから。
仏という絶対の教えを守ることで共通倫理観を作る。
しかしそれは1対多数の話。教えを破ることで利益を得られる人間が複数いれば、絶対などという概念はない。」
聖白蓮「だから、仙道、と?」
豊郷耳「ええ、そもそも私は人々の絶対権限への渇望の具現化ですからね。
戦乱をまとめるのは絶対の権力が力で以て人を統制し、徳を以て統治する。
その徳の道具としては仏教は便利ですが、徳の前に力が必要なのです。そしてその力は保たれなければならない」
聖白蓮「不老不死ですね」
豊郷耳「あなたとてそうでしょう?あなたこそ何故力に手を染めましたか?」
聖白蓮「・・・私が若かったからですよ」
豊郷耳「そして、あなたが導く民はもっと若い」
聖白蓮「なれば、子供。子供は教育されるものです。
あなたは子供が学ばないので、学ばせることを放棄されている。
しかし私は教え続けることを選びました。
何度筆を投げても、再びそれを握らせる・・・それが統治者の姿ではありませんか」
豊郷耳「ふふふ、これは平行線ですね。しかし・・・
人は学ぶにあまりに短い。しかしここは妖怪が跋扈する幻想郷。
あなたの抱いている幻想もあるいは現実になるやもしれません」
こころ「おーーーい、神子!!早く帰るぞ!新しいパンツがないと気持ち悪い!」
豊郷耳「やれやれ、私もなかなか学ぼうとしない子供に呼ばれてしまいました」
聖白蓮「ふふふ、入門されますか?」
豊郷耳「悪くはないのかも知れませんね、しかし彼女は1500年間子供のまま。
なかなか骨が折れますぞ」
聖白蓮「あらあら、人類は三千年間子供のままですわ」
豊郷耳「これは一本取られましたな」
私はマントを翻す。
豊郷耳「それでは白蓮殿!ごきげんよう!しかし我らは決して味方ではない!お忘れなさるな!」
聖白蓮「全く・・・教祖まで子供なんですね」
私は軽く微笑んで返し、こころを引き取る。
こころ「む?お前たち、仲が悪いんじゃなかったのか?」
豊郷耳「悪いですよ」
こころ「む~~、そうか?」
豊郷耳「それより、こころ。何で漏らすんですか?」
こころ「それはお前らがあんなに長い時間トイレにこもっていたからだろ!!」
豊郷耳「・・・まぁ確かに」
こころを連れ立って、空を飛びつつ、月を見る。
何故だか知らないが、非常に気分がいい。
(トイレ・アリス視点)
「ちょっと、みんな!神子!白蓮!霊夢!みんな!どこ!」
私は必死に呼びかけるが反応がない。ようやく腹痛が収まり、お尻を拭こうとしたところ、紙がない。
周りのメンバも全員無視。
どういうこと?新手のイジメなの?
嫌だ、誰か、私を一人にしないで・・・
「だれかーーーー!!お願い!紙を・・・神よ、紙を恵んでください!!」
まぁ言いたいことは掃いて捨てるくらいありますが一点だけ。なんかアリスの扱いに萎えた。ので無評価で失礼します。
無表情でアホなこと言ってるこころマジアホスwww
トイレで大笑いさせて頂きました、面白かったですw
最後の最後まですっかりアリスの事忘れてたww
ほんと、ブリブリって音(-50点)が苦手な人いるから(自分
まぁ、最低限の文章力はあるようなので10点差し上げます。
後半の宗教論も、味わい深かったです
生々しさも時折は必要でしょうが…ちょっとこのサイトには合わないかもです。
もちろん何書いても自由なのは原則ですが。
聖と神子の真剣な会話がとっても個性的だった。
ただのトイレ下痢ネタじゃなかったところが好き!