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CIA簡易レポート『幻想郷』

2014/03/23 23:00:14
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 2014年3月23日提出 
 文責 マルマロス・ハーン
 各種データは別紙を参照すること。
 本レポートは簡易版であり、詳細レポートは後日提出する。





 合衆国が『幻想郷』の存在にはじめて気がついたのは、1904年、日本とロシアの戦争が勃発した時期であった。
 我が国は、魔術大国であるイギリスの植民地だった歴史からある程度の霊的技術の資料を保有していたが、成立当初から近代国家としての道を歩んでいたため、そのようなものは迷信の迷いごとであると切り捨てられ、研究発展は遅々として進まなかった。だが19世紀末ごろからようやくかつての宗主国の英知を学ぼうという風潮が生まれ、それが世界各地への霊的資源探索につながっていく。1904年の発見もそんな各調査の結果の一つであった。
 しかしこの時点においては、日本の東北地方と関東地方の境目あたりに、なにか不可思議な結界があるということが分かった程度で、それ以上のことはまったく分からなかった。無論、我々の先達たちはそれ以上のことを調べようとした。しかし、世界の近代化以降、霊的技術はその根本たる幻想を失っており、まったくもって詳細を調べ上げるには力不足であった。また、大規模な調査を行おうとしても、そもそも日本という外国にこの結界は存在しているため、足がかりが無いという問題もあった。結局、この時期の全世界に対する調査もこれらの問題により、各地に眠る霊的資源の触りしか知ることが出来なかった。
 1945年、第二次世界大戦終結後、合衆国を含めた連合国は日本を占領統治した。GHQは大きな権力を振るうことができた。この状況に狂喜乱舞したのが、かつて謎の結界を調査していたものたちである。ついに充分すぎるほどの足がかりが出来たのだ。すぐさま大掛かりな調査隊が結成され、GHQの協力のもと、実際に結界を破りその中に入る計画が進められた。だがしかし、計画が実行に移される直前に思わぬ事態が起きる。結界の中の住人があちらから調査隊を訪ねて来たのだ。
 パープルカラーのドレスを着た女は自らを八雲紫と名乗った。八雲の言うことによると、彼女は2000年を生きた妖怪であり、合衆国が存在の一端を掴んでいる結界、『幻想郷』を創造した者であるらしい。もちろん最初は誰もそれを信じなかったが、八雲が「スキマ」と呼ばれる高度な結界術の応用法を調査隊に見せ付けると、疑惑は消滅した。
 八雲は、自分は幻想郷の賢者たちの代表として話し合いを行うためにここにやってきたと言い、幻想郷に対する不干渉とその対価としての霊的資源の提供を提案した。
 この時点で調査隊はある程度の推測を立てることが出来た。まず、幻想郷に住んでいるという妖怪たちは一定の自信を持っているだろうということ。そして、恐らく強大な霊的技術を保有しているだろうことだ。真正面からの交渉をしようということはつまり、相手に侮られない程度の能力を持っているということだろうし、八雲が賢者の代表というならば、まだ幻想郷には彼女に匹敵する力を持つ妖怪が何体もいるのではないか。調査隊はこう考えた。
 無論全てがはったりである可能性もある。しかし、最終的には調査隊、そして合衆国はこの提案を受け入れた。大胆不敵に向こうから乗り込んでくる幻想郷の得体の知れなさに、我々は積極的アプローチを中断する決定を下したのだ。
 以後、八雲から送られてくる霊的資源を受け取り、それを唯一の資料としながら幻想郷の研究、及び霊的技術の開発を続けるという流れが、70年近く続くことになる。だが、そこには大きな問題が横たわっていた。
 八雲は核心に触れる内容を一切手渡さなかったのだ。
 忘れてはならないのが、確かに八雲の資料によって合衆国の霊的技術がある程度進歩したという事実だ。しかしそれは革新的だったとはとてもいい難く、また幻想郷についても詳しいことは何一つ分からなかった。





 この状況を大きく変えたのが、2013年における一連のCIAによる工作活動である。
 我々は、幻想郷に入りそして外に出ることが出来た人物の情報を得た。この人物は日本のとある地方大学に通う大学生であり、その地方大学に我々の協力者がいたことからこの事実が判明した。我々はこの人物、これ以降は青年Aとする、を捕縛した。そして一定の非合法処置を行うことにより、青年Aから多大な幻想郷の情報を手に入れることが出来た。
 それまで合衆国が持っていた幻想郷の情報は、幻想郷が妖怪の避難場所であるということや、ヨーロッパ原産のモンスターたちも住んでいるといったおおまかなものでしかなかった。具体的にどのような妖怪が住んでいるのか? その数は? その性質は? などのことはひとかけらも分からなかった。だが、それもようやく判明したのである。
 詳しい各種データは別紙を参照願いたいが、本文章においては判明した情報のなかから最重要であると思われる、幻想郷の4人の存在について解説する。





 1 八雲紫
 70年近くにわたって合衆国と接触してきた存在。青年Aの情報によると確かに妖怪であり、こちらの推測通り強大な力を保有するらしい。八雲は幻想郷の外に大規模なコネクションを有しているらしく、そのコネクションを利用して外の世界の人間を狩りだしている。年間数十人の人間が犠牲になり、そのなかには合衆国の人間がいる可能性もある。
 幻想郷と外の世界の境目に居住しているという噂もあるが、外の世界に住んでいるという話もある。要するにどこに住んでいるか分からない。



 2 レミリア・スカーレット
 ヨーロッパの霊的組織が揃えたように最大の警戒態勢をとっていた吸血鬼。合衆国も常に注意をむけていたが、近年拠点を移転し、その後の行方が分かっていなかった。しかし今回の情報により、幻想郷に住処を構えた可能性が高まってきた。
 一度幻想郷全体に対し軍事的アクションを起こしたが、その後講和。現在は静かに生活しているらしい。ただ相変わらず、現代の霊的技術の基礎を作り上げた魔法使いパチュリー・ノーレッジ、カトリック教会が保有していたがその後逃亡されてしまった対吸血鬼生体兵器(十六夜咲夜という家政婦がそうではないかという推測)、そして「ありとあらゆるものを破壊する能力」をもっていると半ば伝説となっているレミリアの妹、といった脅威以外の何者でもない駒を抱えており、もし再び幻想郷の外に力を及ばそうと吸血鬼が考えたならば、相応の対策を練らなければいけないだろう。



 3 豊聡耳神子
 青年Aの情報によると、1400年前に実在した古代の政治家が、道教の術の使い現在に復活した存在。にわかには信じがたいが、もしそれが事実ならば我々は大きな注目を彼女に向けなければいけないだろう。なぜならば、古代の政治家聖徳太子は天皇の血族であるからだ。
 日本の天皇という存在が恐ろしいほどの霊的な力に満ちていることは、合衆国の過去の研究から分かっている。だとするならば、豊聡耳神子が霊的な脅威となりことも自明の理だろう。



 4 蓬莱山輝夜
 今回得られた数多くの幻想郷についての情報のなかで、恐らく最も重要なものは、この輝夜という人物が月の人間であるということだろう。
 ご存知の通り、合衆国はアポロ計画の流れのなかで月面に霊的な都市が存在することを知り、この都市に対し一種強行とも取れる霊的資源獲得のための行動を起こした。この時期のみ存在した5人の優秀なエージェント(成功したらその後に幻想郷に投入予定だった)を送りこみ、略奪的に資源を手に入れようとしたのだ。だがこれは想像を遥かに超える月の力の前に失敗する。
 しかし、合衆国が月の霊的資源を完全に諦めたわけではない。輝夜という人物に対する接触をおこなうことにより、もしかしたらそれらを手にいれる手掛かりが得られるかもしれない。





 これら4人の他にも、幻想郷には脅威であると同時に、合衆国にとって有益な霊的資源の手掛かりとなりえる存在が多数ある。幻想郷には妖怪がおよそ50万ほど存在していると言われ(自然の具象たる妖精も含む)、それらを総合するならば計り知れない価値をあの土地は持っているといえる。
 例えば、近年増加しつつある霊的ハッカーによる魔術を用いたファイヤーウォールへの攻撃に対しても、幻想郷において「式」と呼ばれる霊的コンピュータの技術を応用すれば対処が可能なのではないかという説が早くも唱えられている。
 また、不老の術を簡単に獲得できるかもしれないという意見もある。我々が確認している魔法使いたちがおしなべて歳をとった姿なのは、加齢の進行を止める術を習得できるのに数十年という時間を要するからだ。だが幻想郷の魔法使いたちはその多くが若いままらしい。これは不老の術がよほど簡略化され比較的簡単に習得できるようになっているためと考えられる。この技術が導入、そして研究されれば、もしかしたら魔術的素養が無い一般人にも応用できるようになるかもしれない。
 幻想郷の高度な技術の基礎解析を行うだけでも、合衆国は魔術知識において世界のトップに永続的に立てるのではないか。このように言ってしまっても、それは決して言い過ぎではないのだ。
 だが残念ながら、理想ばかりを追いかけるわけにはいかない。日本の山深くには霊的技術の宝庫が存在しているが、それを我々が手に入れるためには多大な努力を費やさなければいけないだろう。幻想郷の妖怪たちは恐らくある程度外の世界について知っており、なんらかの対策をとっているだろうことが推測されるからだ。
 また、対策を彼らがとっていなかったとしても、妖怪たちの力そのものの強大さが恐ろしい。もし我々が人員を幻想郷に送り込んだとしても、まったく歯が立たない可能性が充分にあるのだ。
 そしてこれが最も危惧されるべきものだが、我々が幻想郷に対して敵対的行動を取った場合、彼らが外の世界に忍び込み、合衆国に対してテロ攻撃を行うかもしれない危険がある。そのような事態になったとき、我々が完全にテロを防ぐことは難しいと言わざるを得ない。
 我々は幻想郷に対しては慎重にことにあたり、決して妖怪を刺激するべきではない。
 この結論を基本的な前提としなければいけないだろう。





 さて。ここから先の文章にはある一つの意見が載っている。この意見は多くの人間の議論によって判断されるべきものだろう。それだけ、一種過激な要素を含んでいるからだ。
 幻想郷に対しては慎重な態度、いやむしろ東洋のことわざを引用するなら「触らぬ神に祟りなし」のスタンスで無視を決め込んでしまってもいいかもしれない。だが、この地球には合衆国以外にも霊的技術の探査及び研究に熱意をもっている国家がある。ロシア連邦と中華人民共和国だ。
 この二つの国家は自他共に認める大国であるが、合衆国と比べるとどうしても二番手三番手になってしまう。二カ国はそれを嫌がり、必死になって合衆国に追いつこうとしている。経済において、科学において、そして霊的技術において。
 CIAはロシアと中国が幻想郷に大きな関心を寄せているという情報を手に入れた。詳細は分からない。しかし、この二カ国が大きなリスクを省みず、幻想郷に対して行動を起こす可能性はゼロではない。もし二カ国が幻想郷の力を手に入れてしまったら、我が国の安全保障を現在のレベルで保つことは難しいと思われる。
 我々は未来において起こりうる可能性について検討すべきだ。
 もしロシアと中国による幻想郷侵攻の予兆を察知したならば、先に合衆国が幻想郷に影響力を及ぼしたほうがいいと我々は考える。
 軍事的支配下に置こうと言うのではない。だが、脅迫じみたことは行う。幸い我々は青年Aの脳を解剖する過程において、幻想郷の結界が「幻想になったもの」、つまり一般的に見られなくなったものを結界内にとりこむ作用があることを知った。これを利用する。旧式となりあとは廃棄するしかない爆弾などを数百個、一斉に幻想入りさせる。ほぼ確実に幻想郷はパニックに陥るだろう。その混乱下において我々はこちらが有利な条約を結ばせるのだ。大きなリスクはあるだろう。しかし、世界のパワーバランスが崩れ去るよりはましだと思う。





 重ねて言うが、これは一つの意見に過ぎない。一つの想定に過ぎない。そもそもロシア及び中国も合衆国が幻想郷の情報を得ていることを知っているだろうから、おいそれと強引な行動をすることはないと考えられる。だが、準備はしておくべきだろう。









 CIAはこのレポートを大統領へ提出する。読後はサインをお願いしたい。
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コメント



0.960簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
ABSOLUTE SECRECY
Summary Foreign Situational Note for the President
Concerning the barrierd land in Japan controlled by a group of mythical creatures, "Gensokyo".
Prepaired by Marmorous Hearn, senior analyst of Central Intelligence Agency
3.80名前が無い程度の能力削除
↑最高に⑨(いい意味で)
4.90非現実世界に棲む者削除
ふむ...こういうのもたまにはいいかもしれない。
非常に面白い作品でした。

ただ、いかなる理由であっても外の世界の人間は(組織的な意味で)幻想郷に介入すべきでは無いというのが、私個人の意見です。
楽園の平和を保つ為に。
6.80名前が無い程度の能力削除
行間空いてるのでてっきり仕込があるかと思ったらそんなことなかった
7.90絶望を司る程度の能力削除
命が惜しければ幻想郷への干渉は実際かなり危険だなーと。大結界越えたら即スキマにボッシュートとか嫌すぎる。
8.80奇声を発する程度の能力削除
斬新な感じで面白かったです
9.90名前が無い程度の能力削除
そら幻想郷にちょっかいかけようとして
隙間から光弾でも打たれたら9.11の再来だもんなぁ
手はだしたくないでしょう
10.90名前が無い程度の能力削除
これはなかなか面白い
21.100リペヤー削除
GJ! 続くのかな?続くのならば嬉しいです。
22.無評価リペヤー削除
あ、書き忘れてた。
もしかしてこのレポートを書いたのはメリーの父親…だったり?
26.70名前が無い程度の能力削除
ところで幻想入りさせた爆弾がそのままスキマによって返品される可能性があるわけですがそれはw
そもそもそういう計画のために“必要”な爆弾なので幻想的な存在にはなりえないのではなかろうか
外界側から見た幻想郷に対する認識をレポート形式で纏めたというのはなかなか面白い切り口だと思いました
28.90名前が無い程度の能力削除
面白い切り口でした。
サックリ読めて、テンポも良いです。

これって、「幻想郷をダシにして軍縮を行わせる策略」を描いた話なのでは……?

と考えてしまいました。
29.無評価青坂章也削除
 閲覧及びコメント本当にありがとうございます! 作者の青坂章也です。
 えーと……コメント28さんの意見を読ませていただき……そりゃそういう疑問も出るよなぁ……という感じです。戸惑わせてしまってごめんなさい。
 一応僕の脳内設定としては、紫も幻想郷の外のことはなんでも分かっているわけではなく、今回CIAが提言した意見の方法を実践した場合、幻想郷は奇襲を受けてしまうことになります。ありとあらゆる事態を未然に防ぐことが出来るレベルで万能ならば、そもそも幻想郷を作らず、そのまま人間世界を支配してしまえばいいのに、それが出来ないのなら、やはり紫にも難しいことはたくさんあるんじゃないか。それが僕の考えです(めんどくさいからという理由かもしれませんが……)
 また、爆弾が「必要」になった時点でそれは幻想ではなくなるのでは? というのも確かにその通りで、けれどこれまた脳内設定として、「必要」になったものでも幻想に近づけば無理やり幻想郷に送ることは可能です。つまり、本来のルールを捻じ曲げて強制的に幻想入りさせやすくなるのです……以上、全て妄想! 二次設定!
 長々とこんなことを書いて申し訳ありません。しかし改訂をするとそれをあとがきに記録しなければいけません。そうなると本文を読み終わったあとの余韻がちょっと悪くなるな、と考えたのです。
 
32.90F15削除
タイトル見てノータイムでクリックしてしまったものです。
面白いテーマの作品で良いですね^^
33.100dai削除
外から見た幻想郷の評価って良いですね。
楽園は楽園のままでいて欲しいので、あまり介入はして欲しくないですけどね。
37.90名前が無い程度の能力削除
すごく面白い。合衆国かあ。
ゆかりん本気で怒らせたら勝てないと思うなあ。
というか霊的技術を伝えたのがゆかりんならそれを動作不能にする術もゆかりんが握っていると考えられますね。
外の世界と闘うとしたら幻想郷の人妖はどうするんでしょう。妄想が広がります。面白いです。
39.80名前が無い程度の能力削除
こういうのもありだと思いました。