私、アリス・マーガトロイドは右手のスプーンで、左手にある水平に切られたウシの絵柄のついた小瓶下半分を必死でつついている。なぜこのような状況になったかということは追々説明するとして、現在の状況を確認しておきましょう。
魔理沙、私の友人だけれども、原因は彼女にある。彼女があんなものを持って私の家に来なければ、何も起こらなかったのに。今、それを攻めても仕方がないということはわかっている。
「アリス、いるかしら?」
そこに現れたのは、パチュリー。動かない大図書館の異名の割にはよく我が家に遊びにくる。私の今の姿勢を見て少し驚いている。
「なにを、しているの?」
パチュリーの問い。そうね、今の私と魔理沙の格好を見たら、それも聞きたくなるわよね。私はともかく魔理沙なんて、小瓶を逆さまにして飲み口の下で口を開けているんですもの。
「で、貴女達は何をしているのかしら?」
パチュリーがもう一度尋ねる。そうね、話しましょう、なぜこんなことになったのかを。
時間は一時間前に遡るわ。時刻は洗濯物をして、お昼ご飯を食べ終わったあたりかしら。部屋でうとうとしていたら、
「アリスー!いるかー?面白いモノ貰って来たぜ」
魔理沙がやってきた。なんだか大事そうに篭を抱えている。なにかしら?そう思っていると、
ドン!
ウシの絵柄のついた小瓶が机に現れたの。じっくり観察したみると、どうやら牛乳?が入っているみたい。
「牛乳よね?」
一応、確認。すると、魔理沙はニコニコしながら
「違うんだなー。これ、飲むヨーグルトっていうらしいぞ」
正体を明かしてくれた。
「ヨーグルトを飲むの?」
いまいち、ピントこない。ヨーグルトは好きだし、ジャムとかを入れてよくたべるけど、
「飲むの?」
もう一度聞いてしまう。
「そうだぞ!なんか身体にもいいし、面白そうだから霖之助の奴がくれたんだ」
なるほど、外の世界のモノね。道理で知らないわけね。それに霖之助さんもなんだかんだで魔理沙のことが心配なのね。そして、小瓶を実際に手にとって見てみる。
「なるほど、確かに牛乳よりも少しトロミがあるわね」
だろー、と言いながら、魔理沙はもう一本を篭から出す。
「よし、飲もうぜ」
素早く二本の封を切り、一本を差し出す。
「アリスの健康に、なんちて」
カチンと瓶を鳴らして、一気に煽る。もう、私は魔女だからもう病気にはならないのに。変なところで気を使ってくれるんだから。
「魔理沙の健康に」
私も軽く瓶を掲げ、一口。
「あら、意外と」
イケる。いつと食べているヨーグルトよりも酸味がなくて、いいわね。見た目ほどドロドロしていなくて、心地いい飲み口だわ。
「……」
あら、急に魔理沙が静かに?
「……」
「ま、魔理沙、何をしているのかしら?」
魔理沙は小瓶を逆さまにして飲み口の下で口を開けている。
「あぁ、ほら、これ底になんか溜まってるだろ?それが飲みたくてさ。抽出物みたいで身体にいいかなーって」
上を向いて口を開けたまま答える。確かに小瓶の底には半固形の白い塊が溜まっていた。これは魔理沙の言いたいことがわかるかも。
元来、私達魔法使いは、研究のために何日も連続で実験をしたり、試薬をもとめて何年も旅に出ることがあるくらいコダワリの強い生き物。その生き物の眼前に適度に美味しくて、健康にもいいドリンクの抽出物があるとすれば、これは、もう、
誰よりも早く大量に摂取するしかないじゃない!
「で、魔理沙、その方法でうまくいくの?」
まずは情報収集。この業界の基本ね。先人の知恵を借りるところから戦いは始まっているわ。うまくいっていれば、それを改良するし、そうでなければ別の方針を立てる必要があるもの。
「いんや、どうも落ちて来ないんだよなー。家で一回試したんだけど、ダメだったし、今回もダメかなぁ」
なるほど、逆さまでは落ちてこない程度の強度なのね。
「このまま強く揺すっても、ダメなんだよなぁ」
魔理沙のボヤキが続く。結構な強度ね、抽出物め。その時、私の頭に雷鳴が!
「落ちて来ないなら、こっちから取りにいけばいいじゃない!」
「なんだってー?」
魔理沙の声を背に台所に走る。スプーン!スプーンよ!えーと、普通のスプーンだと大きすぎるから、ティースプーンよ!あの棚の中、あった!これで、あの抽出物を食べることが出来るわ!
「お、それでイケるのか?」
後ろから覗き込まれる。
「見てなさい、魔理沙。貴女より先にこれを食べてみせるわ!」
私はスプーンを飲み口から差し込もうする。手が震える、仕方ないわね、私は幻想郷で初めて飲むヨーグルトの抽出物を食べる者になるのだから!
カツン
え?
「へへーん、飲み口にスプーンが入らないでやんの!」
魔理沙がニタニタしながら、手を叩く。ウソ……だって、これが我が家で一番小さいスプーンよ。
「そういうのって、思ってたより小さいとか大きいとかあるよな」
まだケタケタ笑っている魔理沙。そう、そうくるのね。これは私に対する挑戦ね。ならば、こちらにもそれ相応の対応があるわ。
「シャンハイ、お願い」
シャンハイを呼び出し、小瓶の真ん中を水平に切り落としてもらう。
「これでスプーンが入るわ」
切り口にスプーンを差し込む。魔理沙は目を見開いて、歴史的瞬間を見つめている。私はスプーンで底の塊をすくい、それを口に運ぶ。
「あ、あ、あぁ」
魔理沙の喉から声が聞こえる。
「うん、美味しい」
思わず声が出てしまう。魔理沙の悔しそうな顔が、なお美味しさを引き立てる。
が、ここで魔法使いとして私は気付いてしまった。
スプーンの形状的に底を完全にすくうことが出来ない!
どうしようかしら、このままでは全部食べることが出来ないわ。
「いや、お前の勝ちでいいよ」
魔理沙が何か言っているが、今はそれどころではない。私はこれを食べきらないといけない、そして今、パチュリーの訪問にいたる。
「……なるほどね」
パチュリーがため息混じりに状況を理解してくれた。
「何かいい知恵はあるかしら?」
スプーンで底をつつきながら、パチュリーに尋ねる。
「あるわよ」
え?今、なんて言った?私のスプーン戦法よりもうまくいく方法が?
「こうすればいいんじゃないかしら?」
目の前の小瓶を手に取った彼女はシャカシャカと振ったのだ。
~終わり~
魔理沙、私の友人だけれども、原因は彼女にある。彼女があんなものを持って私の家に来なければ、何も起こらなかったのに。今、それを攻めても仕方がないということはわかっている。
「アリス、いるかしら?」
そこに現れたのは、パチュリー。動かない大図書館の異名の割にはよく我が家に遊びにくる。私の今の姿勢を見て少し驚いている。
「なにを、しているの?」
パチュリーの問い。そうね、今の私と魔理沙の格好を見たら、それも聞きたくなるわよね。私はともかく魔理沙なんて、小瓶を逆さまにして飲み口の下で口を開けているんですもの。
「で、貴女達は何をしているのかしら?」
パチュリーがもう一度尋ねる。そうね、話しましょう、なぜこんなことになったのかを。
時間は一時間前に遡るわ。時刻は洗濯物をして、お昼ご飯を食べ終わったあたりかしら。部屋でうとうとしていたら、
「アリスー!いるかー?面白いモノ貰って来たぜ」
魔理沙がやってきた。なんだか大事そうに篭を抱えている。なにかしら?そう思っていると、
ドン!
ウシの絵柄のついた小瓶が机に現れたの。じっくり観察したみると、どうやら牛乳?が入っているみたい。
「牛乳よね?」
一応、確認。すると、魔理沙はニコニコしながら
「違うんだなー。これ、飲むヨーグルトっていうらしいぞ」
正体を明かしてくれた。
「ヨーグルトを飲むの?」
いまいち、ピントこない。ヨーグルトは好きだし、ジャムとかを入れてよくたべるけど、
「飲むの?」
もう一度聞いてしまう。
「そうだぞ!なんか身体にもいいし、面白そうだから霖之助の奴がくれたんだ」
なるほど、外の世界のモノね。道理で知らないわけね。それに霖之助さんもなんだかんだで魔理沙のことが心配なのね。そして、小瓶を実際に手にとって見てみる。
「なるほど、確かに牛乳よりも少しトロミがあるわね」
だろー、と言いながら、魔理沙はもう一本を篭から出す。
「よし、飲もうぜ」
素早く二本の封を切り、一本を差し出す。
「アリスの健康に、なんちて」
カチンと瓶を鳴らして、一気に煽る。もう、私は魔女だからもう病気にはならないのに。変なところで気を使ってくれるんだから。
「魔理沙の健康に」
私も軽く瓶を掲げ、一口。
「あら、意外と」
イケる。いつと食べているヨーグルトよりも酸味がなくて、いいわね。見た目ほどドロドロしていなくて、心地いい飲み口だわ。
「……」
あら、急に魔理沙が静かに?
「……」
「ま、魔理沙、何をしているのかしら?」
魔理沙は小瓶を逆さまにして飲み口の下で口を開けている。
「あぁ、ほら、これ底になんか溜まってるだろ?それが飲みたくてさ。抽出物みたいで身体にいいかなーって」
上を向いて口を開けたまま答える。確かに小瓶の底には半固形の白い塊が溜まっていた。これは魔理沙の言いたいことがわかるかも。
元来、私達魔法使いは、研究のために何日も連続で実験をしたり、試薬をもとめて何年も旅に出ることがあるくらいコダワリの強い生き物。その生き物の眼前に適度に美味しくて、健康にもいいドリンクの抽出物があるとすれば、これは、もう、
誰よりも早く大量に摂取するしかないじゃない!
「で、魔理沙、その方法でうまくいくの?」
まずは情報収集。この業界の基本ね。先人の知恵を借りるところから戦いは始まっているわ。うまくいっていれば、それを改良するし、そうでなければ別の方針を立てる必要があるもの。
「いんや、どうも落ちて来ないんだよなー。家で一回試したんだけど、ダメだったし、今回もダメかなぁ」
なるほど、逆さまでは落ちてこない程度の強度なのね。
「このまま強く揺すっても、ダメなんだよなぁ」
魔理沙のボヤキが続く。結構な強度ね、抽出物め。その時、私の頭に雷鳴が!
「落ちて来ないなら、こっちから取りにいけばいいじゃない!」
「なんだってー?」
魔理沙の声を背に台所に走る。スプーン!スプーンよ!えーと、普通のスプーンだと大きすぎるから、ティースプーンよ!あの棚の中、あった!これで、あの抽出物を食べることが出来るわ!
「お、それでイケるのか?」
後ろから覗き込まれる。
「見てなさい、魔理沙。貴女より先にこれを食べてみせるわ!」
私はスプーンを飲み口から差し込もうする。手が震える、仕方ないわね、私は幻想郷で初めて飲むヨーグルトの抽出物を食べる者になるのだから!
カツン
え?
「へへーん、飲み口にスプーンが入らないでやんの!」
魔理沙がニタニタしながら、手を叩く。ウソ……だって、これが我が家で一番小さいスプーンよ。
「そういうのって、思ってたより小さいとか大きいとかあるよな」
まだケタケタ笑っている魔理沙。そう、そうくるのね。これは私に対する挑戦ね。ならば、こちらにもそれ相応の対応があるわ。
「シャンハイ、お願い」
シャンハイを呼び出し、小瓶の真ん中を水平に切り落としてもらう。
「これでスプーンが入るわ」
切り口にスプーンを差し込む。魔理沙は目を見開いて、歴史的瞬間を見つめている。私はスプーンで底の塊をすくい、それを口に運ぶ。
「あ、あ、あぁ」
魔理沙の喉から声が聞こえる。
「うん、美味しい」
思わず声が出てしまう。魔理沙の悔しそうな顔が、なお美味しさを引き立てる。
が、ここで魔法使いとして私は気付いてしまった。
スプーンの形状的に底を完全にすくうことが出来ない!
どうしようかしら、このままでは全部食べることが出来ないわ。
「いや、お前の勝ちでいいよ」
魔理沙が何か言っているが、今はそれどころではない。私はこれを食べきらないといけない、そして今、パチュリーの訪問にいたる。
「……なるほどね」
パチュリーがため息混じりに状況を理解してくれた。
「何かいい知恵はあるかしら?」
スプーンで底をつつきながら、パチュリーに尋ねる。
「あるわよ」
え?今、なんて言った?私のスプーン戦法よりもうまくいく方法が?
「こうすればいいんじゃないかしら?」
目の前の小瓶を手に取った彼女はシャカシャカと振ったのだ。
~終わり~
でもこれ結構好きです。