Coolier - 新生・東方創想話

止まった時の中で

2013/12/25 11:26:55
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注意
・作者にとって都合のいい解釈が多々あります。

・あまりに遅すぎる東方輝針城咲夜さん自機祝い第二弾!

・メリークリスマス!(話の中でクリスマスは何の関係もありません)

・寿命ネタ?が入ります……取りあえず

・これらの注意点に引っかかる、もしくは読んでる途中で気になった場合は申し訳ありませんが『戻る』推奨です。

以上のことを読んだ上でそれでもお付き合いいただける方は、紅茶でも飲みながらどうぞしばしのお時間を。

































「咲夜……大丈夫……?」



 大丈夫、と答えたつもりだが周りの反応からして声には出せたかは怪しい。私が横になっているベッドの周りには紅魔館の皆が、私の大切な家族がいるようだ。だが最早私の目は朧気にしかそれをとらえることが出来ない。



「もう手の施しようはないの?」
「いくらでも有りますよ。この子が弱っている原因は無茶な能力の使いすぎに体が耐えられなくなっていること。それを解決する薬はいくらでも作れます。しかし……そんな強い薬は今のこの子には耐えられないでしょう。生きたまま治すことは不可能です」



 永遠亭の薬師が首を振るということは、少なくても正しい方法ではどうにもならないということだ。



「咲夜もう一度聞くわ……貴方は」
「……」



 私は無言のまま首を振る。ここは幻想郷、故に人間としての死を覆す方法は決して少なくない。しかし……私はそれを選ぶつもりはなかった。私は人間のまま生を終えるつもりだ。ここまで若い内に身体がだめになるとは思っていなかったが。



「咲夜……」



 お嬢様が私の手を強く握る。しかしもう……握り返す気力はない。何となく分かる、私はこのまま死ぬのだろう。紅魔館での出来事が頭の中を駆け巡る。ここでの日々は私にとってかけがえの無いものだった。



「お嬢……様……ぃま……で…………ぁりが……ぅ」



 最期にお嬢様にお礼が言いたかった。お嬢様に仕えることが出来たことは私にとって幸せだった。伝えることが出来たかは最早わからない。私の意識が沈んでいく。暗く……深く……



◇◇



 幻想郷では死者を見ることは別に珍しいことではない。いざ自分が死んで魂が身体から抜けてもそれ自体に対して特に思うことはなかった。……ただ皆との別れが辛かった。目から溢れる涙を止めることは出来なかった。

 ……どれ位の時間が経ったのだろうか。随分と泣いた気がする。……いや間違いなくかなりの時間が経ったはずだ。にもかかわらず特に何も起こらない。てっきり死んだら勝手に彼岸に行くか死神あたりが連れて行ってくれるものだと思っていたが、自分でいかなければならないのだろうか?……いやもう誤魔化すのはやめよう。答えははっきりとしている。音も動きもない全てが生きながらに死んだような世界、そうこれは時が止まった私の世界。



「どういうことなのかしら……?」



 はっきりとは断言できないが恐らく私は死ぬ前に時間を止めてしまったのだろう。そして……そのままである。私が死んでも時間は動き出さなかったのだ。考えてみれば可能性はたしかにあった。私が眠りについても屋敷の大きさはもとに戻らない。これは能力が一度発動すれば自分で解除するまで消えないことに繋がり得る。また紅白の方の蓬莱人のように死んでも能力が発動するものがいる。これらを考えれば『時を止めたまま死んだ場合、時は止まったままである』という可能性は0ではない。



「まずいわね……」



 少し試してみたが死んでしまった今、私は能力は使えないようだ。



「気長に……とはいかないかもしれないけどなんとかするしかないわね」



 考えても始まらないのでとりあえず動いてみることにしてみた。



◇◇



 いろいろ試してみて分かったことは自分は『幽霊』と『亡霊』の中間の存在のようなものだということだ。霊体ではあるがしっかりと自分の姿を形取り、存在も割りとはっきりしている。にもかかわらず物に触れることが出来ない。体を動かすことには割と早くなれたのでいろいろな場所に調べに行こうと思ったのだが、この物に触れられないというのが大きく立ちふさがる。触れなければ本も読めない。

 あり得ないことは承知で幻想郷中を飛び回り、この止まった時の中で動けるものを探した。結果はやはり無駄だった。月の姫も山の神も博麗の巫女も皆止まっていた。



「万事休す……なのかしら……」



 紅魔館に戻り溜息をつく。紅魔館の皆のためにも諦める訳にはいかない。しかし……どうすればいいのか思いつかない。



「……ダメね。私は『完全で瀟洒な従者』。この程度の問題解決できなくてどうするのよ」



 お嬢様が私の手を握ってくれているのを見て元気を取り戻す。触れられないのを承知でお嬢様に手を伸ばす。



「!?」



 はじかれた?というのだろうか。霊体故に上手く表現できないが、そんな感覚があった。今まで本や扉に触れようとした時はそんなことはなかったのに。試しにフランドール様、パチュリー様、美鈴と同じように触っていく。結果は同じだった。つまり……



「生き物に触れるとこれが起きるということかしら?」



 恐らくそれで間違いないだろう。では何故このようなことが起きるのか?私が死んでいるからだろうか。なら死んだものが生きたものに触れてはじかれるのは……もしかしてこれは私が誰かに憑依しようとしていることになるのだろうか?それでお嬢様たちの身体、もしくは精神などに拒絶されている?



「……この仮説が正しければ、少し希望があるかもしれない」



 確定事項として生前の私、そして死後の私は止まっている時の中で動ける。ならば何者かに憑依した私も動ける可能性はあるだろう。身体があればとりあえず調べ事はできる。上手くいけば憑依したものの力を使ってこの問題を解決できるかもしれない。



「そうと決まればいろいろ試してみましょう」



 誰に憑依できるのかは全く分からないがとりあえず虱潰しに大きな力を持っていそうなやつを試していこう。



◇◇



「よりにもよってこうなるとは……」



 いろいろ試してみたがなかなかうまく憑依できる人物は見つからなかった。これは無理かと思い始め、次の方法を頭の片隅で考えながら試していると以外な人物に憑依することに成功した。



「ほぼ最低の結果だけど……我儘言ってられないわね……」
《おまえはだれだー!》



 頭の中で声が響く。意外なことに憑依した相手の意識は私と共有する形となるらしい。これは面倒なことになりそうだ。



「私は十六夜咲夜、紅魔館でメイド長をやっております」
《私は崇高な霊廟を守るために生み出されたキョンシーである》
「えぇ知ってるわ。青い方の仙人と一緒にいる、名前は確か宮古芳香……」
《私を知ってるのかー?》
「えぇ。宴会で何度か会ってるもの。貴方は覚えてないでしょうけど」



 残念ながら話は通じそうにない。このキョンシーに憑依できた理由は分からない。死体の身体は死者の魂と相性が良かったのだろうか?ともかくせっかく止まった時の中で動ける体を手に入れたのだ。手放す訳にはいかない。



《それで何のようだー?》
「貴方に協力して欲しいの」



 これまで起こったこと、そして私のすべきことを説明する。恐らく無駄になるだろうが、一応これでも彼女は邪仙の所有物。あれが全くの無能を側に置くとは思えない。ひょっとしたら……



《さっぱりわからん!》



 やはり脳みそが腐っていた。



「……まぁそうでしょうね。それでもいいから少しの間だけ身体を貸してくれないかしら?」
《む?んー……身体を貸すのは……青娥がいいって言うなら》
「さっきも言ったけどあなたと私以外の時間は止まっているから話すことは出来ないわ」《なんと!それは大変だ!》
「だからそれをなんとかするためにあなたの身体を貸して欲しいの」
《身体を貸す?んー……青娥がいいって言ったら》



 ……もうダメかもしれない。



「死んだ後のことはわからないけど、いつまで私がこの状態でいられるかわからないの。お願いだから協力してくれないかしら」
《協力……青娥が》
「……もういいわ」



 このままでは時間の無駄だ。別の方法を考えるしかないだろう。



《……ん?お前死んだって言った?》
「えぇ残念ながら。お香典は紅魔館の方までお願いします」
《うーん……死ぬのはいかん。あれだけはいかんのじゃ》
「……そんなこと言われても死んでしまったものはしょうがないでしょう?」



 これまでと違う反応に少し困惑する。この死体は意外にも『死』という言葉に敏感に反応するらしい。



《……分かった。お前に協力してやろう》
「あら、急に素直になったわね。本当にいいの?」
《死ぬのはいかんのだ》



 まさか死体に死んだことを同情されるとは思わなかった。



◇◇



「……読めないわね」



 まずは手近なところとして紅魔館の図書館をあたってみたが、何語で書かれているのかさっぱりわからない。



「あなたこれ読める?」
《……んぁ?》
「……寝ているところを悪かったわね」



 魔道書はやはり魔法使いにしか読めないのだろう。人里の貸本屋もそんなことを言っていた気がする。



《あれ?そういえばお前は死んでるって言ってたなー?》
「そうよ」
《なのに今生きてる……仲間?》
「生憎だけど違うわ。私は一生人間のつもりよ」
《ん?でも生きてる……。ん???》
「私もはっきりとはわからないけど多分時が再び動き出したらちゃんと死ねるんでしょうね」
《時が動けば死ぬ……あれ?でもお前》
「今私は時を動かすために尽力している。ある意味死ぬために努力していることになるのかしらね」
《……んー???》



◇◇



 魔道書以外にも読めた本、歴史書や物語や日記などはあったものの結局図書館では何の情報も得られなかった。まだ大丈夫、他にも調べる箇所の候補はある。



《場所を変えるのか?》
「えぇ。改めて考えてみるとここのことを一番知っている人も肝心な時には役に立ちませんから」



 紅魔館の廊下を歩きながら次の行き先を考える。……そういえばこの廊下を歩くのも久しぶりだ。身体が弱ってきてからはベッドで寝たきりだったから。



「そういえば紅魔館の空間も大きくなったままね」



 死ぬ前に元に戻すかどうか決めておかないといけないだろう。大きすぎると掃除は大変になる。私が死んだ後も管理できるのだろうか?かと言って時に弾幕ごっこをするこの廊下を小さくするのは色々と問題がある。



「……そういえばこの辺りだったかしらね」



 そんなに前のことでもないのにもう随分と昔のことのように感じる。ここは『紅霧異変』を解決しに来た霊夢と初めて弾幕ごっこをした場所だ。あの異変で、いやあの少女との出会いで紅魔館は大きく変わった。……のかもしれない。



「……行き先が決まったわ」
《どこだー?》
「次は白玉楼に行きましょう」



◇◇



 はっきり言って時を戻す方法を探すつもりは殆ど無い。こんなピンポイントなことを記したものはないだろうから。一番手っ取り早い方法としては私が自分の身体に戻り、再び時を戻すことだろう。しかし私の身体は既に死んでしまっているので憑依しても何も出来ない。僅かな時間でも身体を復活させる方法を探し、再び時を動かすのが懸命だろうか。


《幽霊がいっぱいだなー》
「そうね」



 ここは一年中幽霊のせいで地上よりもひんやりしている。初めて来た時は温かい印象だったが。



《随分と大きな木だな》
「貴方達が目覚める前にここで春を集めたお姫様がいたの」
《随分と困った奴もいるもんだなぁ》



 貴方も貴方の主人も……いやそもそも幻想郷は困った奴ばかりか。



「彼女はこの桜を咲かせようとしたの。結局満開にはならなかったけど、それはそれは綺麗だったわ」
《おー、青娥と一緒に見たかったなー》



 ここは私が初めて異変解決に出向いた場所だ。そして私がもうすぐ来る場所……なのだろうか?死後のことなど興味がなかったから知らない。私には今が全てだったのだから。しばらく屋敷を散策していると書庫を見つけた。随分と古そうな本がたくさんある。



「……ここもハズレのようね」



 ここにあったのは詩集等のお姫様の趣味のものと、西行寺家や冥界について書かれたものばかりであった。



「次に向かいましょうか」
《ちょっとまってくれー》
「何かしら?急いでるから早くしてね?」
《あの庭師の刀持って帰ろう!青娥がきっと喜ぶ!》
「……まぁ貴方には助けてもらってるしね」



 台所で買ってきた洋菓子を皿に取り分けている妖夢に一言謝罪を入れて刀を抜き取る。長い方は一振りで幽霊十匹分の殺傷能力をもつと言われている『楼観剣』。つまり今の私は一振りで十回殺されてしまうということだ。……そういえば幽霊の単位って匹なんだ。もう一方は斬られたものの迷いを断ち、幽霊に使えば成仏させるという『白楼剣』。……残念ながら魂魄家のものしか使えないので私の迷いは断つことが出来ない。そもそも成仏してしまうかもしれないが。



《じゃあ次に向かってれっつごー!》
「そうね次は……」
《……ん?どうしたー?》



 帰り際に庭先で花をつけていない木を眺めるお姫様を見つけた。静止した世界の中ではこの人も絵になるなと思う。しかし私が気になったのはその横に置かれている湯呑みだ。


「ちょっと台所に戻るわね」
《忘れ物か?……あ、お腹が空いたのか?》
「洋菓子には紅茶でしょ。ちょっと合うのを入れてくるわ」



◇◇



《さっきもここを通ったぞー》
「同じように見えるかもしれないけどちゃんと進んでるわ」
《ほんとかー?》



 確かに迷いの竹林はどこも同じに見えて迷いやすい。しかしここを迷いの竹林たる真の原因は妖精のイタズラだ。故に時を止めてしまえば目的地にたどり着くのはそれほど難しくない。もっとも今は少し遠回りをしているのだが。



《次に行くのは……何処だっけ?》
「さっきも言ったでしょ?永遠亭よ」
《うーん……覚えるのは苦手だ》



 ……関節は曲がらないし、目の前で揺れるお札は目障りだし、ものを覚えることも出来ない。この子はつくづく不便に思う。不幸かどうかは私の判断することではないが。私はこの竹林の道を忘れることはないだろう。お嬢様と月夜のデートをした道だ。



《お前はいろんなことを覚えてるみたいだな》
「どうして?」
《懐かしがっているような顔をしてる。青娥もたまにそんな顔をする》
「そうね……。いざ死ぬとなるといろんなことが懐かしいわ」



 永遠亭に着くのにそう時間はかからなかった。奥の方に資料室がありそこには膨大な量の資料、カルテ、そして薬品が置かれていた。だが少し目を通せば役に立たないことがわかった。本もカルテも全て同じ筆跡、つまり薬師の書いたものだということだ。そして薬師は私を救うことが出来なかったのだから。薬について書かれた本を適当に眺めた後、ここをあとにする。



《薬を持って帰ろう!青娥が材料に使うかもしれないし》
「……もう何も言わないわ」



 一緒に置かれてあった薬を適当に取り出して懐に入れる。関節が曲がらない上にお腹が空いたと喚くキョンシーがうっとうしいので適当な薬を口に放り込む。赤い丸薬は思った以上に苦かった。屋敷を出ようとすると庭の盆栽を弄りながら家の中にいる兎に微笑みかけている姫を見つけた。



《あ、こいつ知ってる!》
「あら珍しい」
《青娥が興味を持ってた。えーっと……フロウフシ?》
「そうよ」



 蓬莱人は不老不死、そして蓬莱人の生き肝を食べればそのものも不老不死になれる。……時が止まっている今、最も容易に人間を超える方法の一つかもしれない。そしておそらくこの現状を打破する最も手っ取り早い方法でもある。



「……いくわよ」
《おー!》



 ……だがそれは選びたくない。他者を犠牲にしてまで生きながらえたくないなんて聖人君子のような理由からではない。お嬢様が、紅魔館の皆がいない世界で生きていくことを考えられないという自分勝手で人間的な理由からだ。それに私はやはり人間でいたいのだ。



◇◇



「ここもダメね……」
《残念だなー》



 人里に降りて妖魔本の多い貸本屋、歴史家のいる学校、稗田家の資料室等漁ってみたが結果は芳しくない。甘味処でお茶をしたので芳香の機嫌はすこぶるいいが。



「さて次は……」
《何を食べるんだ?》
「……食べることしか頭にないの?」
《食べるのは好きだぞ?ハナヨリダンゴー!》



 死んでもこうはなりたくないものだ。人里を発とうとするとふと視界の隅に花屋が写った。彼岸花だ。



《ん?どした?あの花は食べれるのか?》
「食べれな……貴方は何でも食べれるんだったかしら?」



 彼岸花といえば大結界の異変だ。たしか人に冷たすぎると説教を受けたんだったっけか。結局私は死後よりも今を大切にして生きてきた。やはり川を渡り切るのには相当な時間がかかるのだろうか?時間を早くすすめることができたら楽なのだが。



「……死にたくないわね」
《………………》



 無意識にそんな言葉が出た。



《なぁやっぱり……》
「行きましょう」



 言葉を遮って次の目的地に向かう。



《いいのか……?》



 答えることは出来なかった。しかし自分の中で答えは決まっていた。



◇◇



 博麗神社、正確には分からないが紅魔館以外では私が最も訪れた回数が多い場所。そしてその主は縁側でだらしなくうたた寝をしている。百年の恋も冷めそうな寝顔だ。



《ここも知ってるぞ!ミコがいるところだ》
「えぇそうよ」



 人妖問わず皆がここに集まり、そしてその中心にいながら何者にも平等で囚われない。博麗の巫女である彼女にこんなことを頼むのはおかしな事なのだろう。他にも頼める相手はもちろんいる。しかし私は彼女に頼みたいと思った。博麗の巫女、いや博麗霊夢に。



「紅魔館のみんなのことを……お願いします」



 そう言って賽銭箱に財布のお金をすべて入れる。……芳香が色んな所で物を盗ったり食べたりしたせいで思ったより額は少なかったが。



《青娥が言ってたぞー?博麗神社の賽銭箱にお金を入れるのは募金と意味が変わらないって》
「いいのよご利益目当てなわけじゃないから。私は神様を信じていないし」



 ……まぁ幻想郷では神様なんて珍しくないが、神頼みのような形で頼りにするつもりはない。それなら守矢神社にいけばいいだろうし。



「私は博麗霊夢にお願いしてるの」
《なのにお賽銭いるのかー?》
「……死ぬ前に貧しい少女を救って善行を積んだのよ」



 立ち去る前に霊夢のお腹に毛布をかけてやる。霊夢の表情が少し変わったような気もしたが、きっと気のせいだろう。



◇◇



 紅魔館に帰ってきて久しぶりに館全体を歩いてみた。意外なことに家事について特に言うことはなかった。妖精メイドやホフゴブリンは私の分も頑張ってくれているのだろう。一つ心残りが消えた。強いて言えば紅茶のカップが最近使われた様子がなかったことだろうか。私がベッドから出られなくなってから誰も紅茶を飲んでいないようだ。妖精メイドがお嬢様達の満足する紅茶を入れられるかといえば……若干不安である。



「さて……そろそろ終わらせましょうか」



 私の家族が集まっている寝室で一息つく。これまでの過程では結局目的の資料は得られなかった。しかし様々な資料からある仮説を導き出すことが出来た。

 白玉楼では生前の西行寺幽々子と死後の西行寺幽々子ではどちらも死に関する能力を持っていたことが分かった。つまり生前と死後で能力は大きく変わらない可能性がある。

 永遠亭のカルテによれば私の体が弱った原因、最早死因となるのだろうが、それは能力の使いすぎであったが、それでも能力を使うことに不備はないだろうことが書かれてあった。つまり弱っていた状態でも能力は使えたのだ。

 死後に霊体となった身体が止まった時の中で動けることや、人間の体には過ぎた能力であったことなどからから私の能力は身体より魂に起因したものだということになるだろう。

 つまり……本当は今でも時を動かすことができることに繋がるのではないだろうか?これはあくまで予想の話になってしまう。しかし改めて幻想郷を回ってみて思った。私は死にたくないのだ。ならば無意識に時を動かすことに迷いがあった可能性はあるのではないだろうか。



《……死ぬのか?》
「あら?どうして?……まぁそもそも私も貴方も死んでるけど」
《そうだけど……えーっと……あれ?》
「ごめんなさい、変なところで話の腰を折ってしまったわね」
《さっき終わらせるって言ったけど……》



 そう、終わらせると決めた。死体だが身体もあるし成功する可能性はある。いや、不思議と成功する確信がある。あとは覚悟を決めるだけだ。



《……このままじゃダメなのか?》
「それじゃあ貴方だって困るでしょ?貴方の主人も止まったままだし」
《それは困る!……でもお前が死んじゃうのもダメだ》
「うーん……一応礼を言っておくべきなのかしらね?でもダメよ。私はどのみちお嬢様達のいない世界では生きていけない。それに死んでまで迷惑はかけられないわ」
《……》



 残念ながらキョンシーに丸め込まれるほど口下手ではないのだ。一度『白楼剣』のことが頭をよぎるが無視し、目をつぶって意識を集中する。私はここが好きなのだから未練をなくすことは出来ない。ならばこの迷いは断ち切るのではなくそのまま抱えて持って行こう。これが私の生きた証なのだから。



「そうだわ。あなたに一つお願いがあるの」
《なんだ?》
「レミリアお嬢様に伝えて欲しいの。今まで有難うございましたって」
《……分かった》
「……忘れないでよ?」
《……う、うん》
「じゃあ貴方もありがとう」



 最期に一度紅魔館の皆を見ようとして……止めた。きっと見てしまうとまた迷ってしまうし今の身体では触れるつもりもないからだ。それに皆のことはちゃんと心に刻まれているから。






―――そして私は夢の様な紅い日々に別れを告げた。







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