……つい飛び込んでしまったが、これからどうすればいいのだろうか。そもそも飛び込んで良かったのだろうか。死神は……行けといったはずだ。あれ?川に飛び込めって言ってないかもしれない。……間違えちゃったかしら。
三途の川は綺麗ではあるようだが、とても暗く何も見えなかった。自由に動くことすらままならない今の状態では沈んで……魂って浮くんだろうか、それとも沈むんだろうか。ともかく川の中をなされるがままに漂っていた。
不規則に揺れている中で不意に一方から引っ張られるような感覚があった。死神が私を見つけた時と似ているかもしれない。……ということは今までの話は夢だったのだろうか?随分と都合のいい話だとは思っていたが。
「……あら?」
随分と久しぶりに喋った気がする。ここは……博麗神社だ。つまり私は生き返ったらしい。
《邪魔!》
頭に声が響いたかと思うと急に投げ出されたような感覚に陥った。
「……あ、ほんとに出来た」
目の前にいるのは服の色と頭がおめでたい巫女、博麗霊夢だった。
「あんた咲夜よね?」
紅魔館のメイド長、十六夜咲夜ですわ。
「何とかじゃベリなさいよ」
魂なのに叩かれた。相変わらず滅茶苦茶な巫女だ。どうやらさっきは霊夢の身体に憑依していたようだ。確かに視点が若干低かったし、脇が寒かった。……女の子としてあんなに肌を人前に見せるのは如何なものだろうかと今更ながらに思う。
「まぁ多分あってるでしょ」
幻想郷はこんな輩ばかりだ。
「それにしても神様を降ろす術で死人を降ろした私がすごいのか、それともあんたが普通の人間じゃないのか……いや普通の人間ではないか」
どうたら霊夢は月に行った時の神降ろしの術で私を呼び出したらしい。ならば私は神様なのだろうか。……メイドの神様?
「どうでもいいわ。それより願い事の件よ。いくら賽銭渡されたってね、あんな我儘な吸血鬼の面倒を見ていられるわけないじゃない。あいつ絶対に私より長生きでしょ。あんなのに一生付き合ってられないわ。だから紅魔館のことは自分で何とかしなさい」
そう言って一つ大きな欠伸をした後、縁側に座ってお茶を飲み始めた。
……ありがとう、霊夢。
どうせ聞こえないことは分かっていたが、それでもお礼を言いたかった。そして私は行かなければならない。私の居場所、愛しい家族のもとに。
「……どういたしまいて」
◇◇
……上手く動けないのを忘れていた。霊夢と別れた後、ひたすら紅魔館を目指しているがなかなかたどり着けない。その途中で気づいたことだが周りの様子からして普通の人間や妖怪には私は見えないらしい。ただの幽霊や亡霊とは少し勝手が違うようだ。姿を見れただけでも死神や霊夢は有能だったのだろう。……いや死神は職業上やっぱり会話ぐらい出来なきゃマズイのではないだろうか。
随分と時間がかかったが、なんとか霧の湖までたどり着くと紅魔館の方からやってくる二人組がぼんやりと見えた。よく見えないがなんか青っぽい……、面倒くさいやつに会っちゃったかしら。
「お、ひーさーしーぶーりー!」
「あら芳香、この魂がメイドさんですか?」
「そうだぞー」
二人組は芳香と邪仙だった。それにしても芳香には私だと分かるようだ。同じ死体だからだろうか。
「そうですか。その節は私の芳香がお世話になったようで」
「お世話されたぞー」
世話をやいた覚えはないし私はむしろ手伝ってもらった立場である。まぁ必要以上に苦労はしたが。
「そうだ、咲夜……そのー……ごめん!」
いきなり芳香に謝られた。こちらには身に覚えがない。なにせさっきまで死んでいたのだから。……いや今もまだ死んでいるし、芳香も死んでいるが。
「咲夜が消える前に何かを私に頼んだはずなんだけど……」
……忘れたのか。
「申し訳ありません。うちの芳香は可愛いのですが、何分物覚えが悪い上に物忘れが激しいもので。……そこも可愛いのですがね。脳が腐っているので仕方ないことなのです。……腐っていて可愛いのですがね」
「何かを誰かに言うように頼まれたのは覚えていたんだが……そこから先がさっぱり思い出せなかった!それで青娥に頼んだんだ」
「えぇそうです。そこで忘れてしまったものは仕方ないのでメイドさんに生き返ってもらって直接言ってもらおうと思いまして」
どちらかと言えば仕方がないのは忘れたことではなく、死んでしまったことだと思う。
「幸運にも閻魔様が魂は返してくれるらしいですし、博麗の巫女の力を使えばその魂を降ろすことができる可能性がありました。後の問題は身体ですが、そこは私の専門です。死体の修理は慣れていますから。おまけに運命を操る吸血鬼が見方についてるのですから不運な失敗も起きなさそうですし」
……私は随分と大勢の人々のお陰でここに戻ってくることができたらしい。
「正直に言えば死体を『人間』のまま弄ったことはなかったので少し心配なのですが」
……ん?
「まぁちゃんと直っているでしょう」
今間違いなく字が違った。
「ですが暫くの間はメンテナンスが必要でしょうし、週四くらいで伺わせていただきますわ」
二日に一日以上のペース……本当に私の身体は大丈夫なのだろうか。
「妖怪化させるなり仙人にするなりすればもっと簡単だったのですが、吸血鬼さんが許してくれなかったもので」
やはりお嬢様は私の意志を尊重してくれたらしい。
「ではあまり長く引き止めても悪いですし、私達はこれにて」
「また遊びに行くからなー」
そう言って芳香と邪仙……青娥は去っていった。次に来るときには美味しいお茶菓子を用意しておこう。……いや私の身体次第か。青娥の口ぶりを聞けば心配は拭えないが、後は生き返ってから考えればいいだろう。
……霧の湖まで来たが紅魔館まではまだ距離がある。二人に連れて行ってもらえばよかった。
◇◇
ここまで来るのに随分と苦労した。魂だけの姿での移動の話ではない。いろんな人のお陰で私はここまで戻って来ることが出来た。閻魔が私の魂を引き受け、死神が私を見つけ、博麗の巫女が私を導き、邪仙が体を直す。そしてそれらが失敗しないよう運命を弄ってくれたお嬢様。皆のお陰でとうとう私はここまで来た。ベッドでは私の身体が変わらず置かれており、その手をお嬢様が握っている。紅魔館のメイド十六夜咲夜、今お嬢様のもとに戻ります。
「……咲夜?」
「はい、咲夜でございます」
お嬢様が私の胸に飛び込んでくる。思ったように体が動かずそのままベッドに倒れこんでしまう。
「私としたことが……随分泣いたわ」
「すいません」
「この主不孝者」
「申し訳ありません」
「生き返らせるの大変だったんだから」
「ありがとうございます」
「……大好きよ」
「私もです」
「おかえり」
「紅魔館のメイドにしてお嬢様のただ一人の従者、十六夜咲夜ただいま帰りました」
②死亡のまま
③その他
どんな結末が良かったのか簡単にでいいので意見をいただけるとありがたいです。今後のためにも!一応どのパターンもアイデアとしてはありましたが、書きやすさ・好み等、まぁいろんなことを考えた結果こうなりました。正直人によってはあり得ない結末だと思ってはいます。
3さん
……まぁ近い考えです。細かいこと言い出すと長くなりそうなので取りあえず今はこのへんで。
5さん
ありがとうございます。サラッと読める文章も書いてきましたが今回は人の心に響きやすい(と勝手に私が思っている)『死』についても書いてるのでこういう感想は嬉しいです。ただ……やっぱり難しいですね。
失礼ながら予想外に良かったです
アンケートですがノーコメントで
結末が変わればそれはまた別のお話で、別のお話には別のお話の起承転が必要でしょう
後書きのパーティも幻想郷らしいいい加減さが好きです。