Coolier - 新生・東方創想話

見える美と見せない努力

2013/10/19 19:15:51
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注意
・作者にとって都合のいい解釈が多々あります。

・弾幕勝負の描写が少しあり、勝敗があります。

・読まなくても全く問題ありませんが時系列的に『見える変化と見えない不変』『盲目の美』と繋がりがあります。(この二つの後の作品です。しかし今のところ特に意味はありません)

・話の流れとしては
『博麗神社の宴会で見せ物としてお空とミスティアが弾幕勝負をしていた』
という感じです。

・あまりに遅すぎる東方輝針城咲夜さん自機祝い第一弾!

・これらの注意点に引っかかる、もしくは読んでる途中で気になった場合は申し訳ありませんが『戻る』推奨です。

以上のことを読んだ上でそれでもお付き合いいただける方は、しばし時間を頂かせていただきます。

























 博麗神社での宴会、見せ物として始まった弾幕勝負が今まさに決した。焼き鳥撲滅派の鳥と焼くことを推奨する鳥の対決は後者に軍配が上がった。……明日の夕食は北京ダックにでもしようか。



「今の戦いも悪くないけど何ていうのかしら……上品さ?気品さ?……いや、カリスマね。カリスマが足りてないわ」
「そうなのですか?私にはよくわかりません」



 そんなことを言いながらも随分楽しめたのだろう。お嬢様は羽をパタパタと揺らし、すこぶる機嫌はよろしいようだ。宴会での見世物はお好きだし、その中でも弾幕ごっこはお気に入りだから無理もない。



「どうされますか?」
「ん?……あぁまだしばらく見物しておこうか。然るべき相手、然るべき前座の後に本命登場!ってね」
「ご希望の相手は?」
「……えっ?あ、相手?……霊夢とは結構やってるし。……せっかく満月なんだから月の姫とか?」



 そこまで考えていなかったのだろう。私にはあのお姫様がこういう見世物に名乗りをあげるとは思えないが、あえて言う必要もない。とにかく今日のお嬢様は見る側に回るようだ。



「さてと……ミスティアの敵討といこうか。次は私が行くぜ!さとりあたりどうだ?」
「私は見ているほうが好きですので」



 気がつくと魔理沙が名乗り出て対戦相手を探している。……魔理沙か。とりあえず一旦時を止めやられた夜雀の元へ飲み物をわたす。本来私はゲストの立場なのだが、最早染み付いた習性となってしまっているし、身近にそれを咎めるものがいないのも後押ししている。



「うーん……じゃあお燐!勝負だ!」
「あたいもパス。お空の後は荷が重いや」



 次にまた時を止め地獄鴉のもとへ、ついでに4人分の飲み物をわたす。



「……もうだれでもいいから相手してくれー!」
「お嬢さん、相手をお探しですか?」



 そしてまた時を止め魔理沙の前に現れてから仰々しくお辞儀をする。



「今宵は満月、よろしければ一緒に踊っていただけませんか?」
「咲夜が相手か?よし、やろう」
「……ちょっとは合わせなさいよ」



 魔理沙が相手なら盛り上がらないということはないだろう。それにさっきの戦いについて思うこともある。お嬢様にちらりと視線をやると楽しそうに手を振っている。OKが出たことだしせっかくの宴会、私の『美しさ』を表現するのも悪く無いだろう。



◇◇



 星の弾幕が夜空を照らす。それをギリギリのところでかわしながらナイフを投げて牽制、そして位置を確認する。



「おいおいよそ見は禁物だぜ?」
「どんな時でも気配りができてこそメイドよ」



 しかしさすがに口で言うほど余裕はない。互いにまだスペルカードを使っていないとはいえ少しずつ追い詰められる。魔理沙の弾幕は意外と緻密に考えられており、殆どの弾がそれなりの意図を持って襲ってくる。それだけに全ての意図を理解してやれば避け方は明白なのだが……たまに閃きやその場の思い付きの弾も飛ばしてくる。両方の面が実に魔理沙らしいのだが、それが混ざることで少なくても考えて避けるタイプの私にとって難易度が格段に上がる。残念ながら氷精や博麗の巫女のように頭空っぽで避けることは私には出来ないのだ。



「随分余裕みたいだが来ないんならこ」



 ここで時を止める。まだ大丈夫かもしれないが、このままいけばあと数手先でかなり追い込まれるだろう。その前に反撃し、相手の出端をくじく。それに私は時を止めるのに集中する必要が有るため少し時間を要する。このようにして常に先を読まなければいけないのだ。

 まずは今まで投げた分のナイフを回収する。かなりの数を投げているがどこにどれだけ投げたかは記憶しているのでそう時間はかからない。そしてお嬢様の位置、天狗の位置、そして魔理沙の所作を確認しつつ自分の理想の立ち位置、弾幕の形を思い描く。それができたらあとは再現するだけだ。ナイフを一本一本丁寧に投げて弾幕を形作る。



「……うん、完璧」



 自分の弾幕がどの角度からどう見えるかは把握している。お嬢様からは勿論、天狗の角度からもシャッターチャンスであろう。銀のナイフ故に静止してみれば全てのナイフが反射して像を結び、動かしてみれば流れるような軌道がシンメトリーを形作る。私には派手な力がない分こういう形で美しさを表現する。

 自分の立ち位置に移動しポーズを取る。ちゃんと私、ナイフ、そして魔理沙が天狗のカメラに入るように。そして止まっている時を動かす。



「ちから……恋符『マスタースパーク』」



 魔理沙は会話を途中で止めて素早く周りのナイフの位置を確認し、スペルカードを放った。まだ魔理沙には余裕はあったはずだが、ここでかわしていけばすぐに追い込まれるということが勘でわかったのだろう。私のナイフが星の魔法に包まれてあっけなく吹き飛ばされていく。マスタースパークの特徴的な発射音の中に天狗がシャッターを切った音が聞こえた。どれだけ位置や角度に気を使っても所詮はナイフ、魔法に派手さでは敵わない。仕方ないことだしそれでも構わない。私はメイド、主役には成り得ない存在である。私には私の目指すべき美しさがあるのだ。



「……相変わらず無茶苦茶な能力だよな」
「家事作業にとても便利なのです」
「いいなぁ……、そんな能力あったら何でもできるよな!」
「何でもは出来ない当たりがチャームポイントよ」



 私には時を止めることは出来ても時を戻すことが出来ない。過ぎてしまったこと、終わってしまったことは取り返しがつかないのだ。だが私はそれでいいと思う。取り返しがつかないからこそ精一杯生きるのだ。そもそも取り返しが付いてしまえばあらゆることに完璧を求めすぎて巻き戻しを繰り返し、果てには私が壊れてしまうだろう。



「まぁ弾幕ごっこで相手するならなんとかなるけどな」
「果たしてそうかしら?」



 ここぞとばかりに魔理沙が攻め込んでくる。多少の無茶もお構いなしだ。なんとか距離を取ろうと牽制しつつ高く飛び上がる。



「おっとそんなんじゃ私は止められないぜ!」



 下から魔理沙がどんどん私を追い立てる。この速度で距離を詰められたら今の私には対処ができない。ならばどうするか?もちろん再び時を止めるだけだ。

 時を止めて一息つく。とりあえずこれ以上高く上がるのはよろしくない。……私はスカートなのだ。



「……あら?」



 地面に降り水を飲んで休んでいると宴会料理が目についた。みんなが適当なものを持ってきてそれを片端から並べているので秩序がない。それはいつものことなのだが……



「……この紅茶、美味しくない」



 アリスのケーキ・覚妖怪のクッキー・邪仙の怪しげな……なんだろうこれは?の横に置かれていた紅茶を少し飲んでみたら案の定入れ方が悪い。恐らく霊夢が手を抜いて入れたのだろう。霊夢は緑茶ならともかく紅茶を入れるのは苦手なようだ。



「仕方ないわね。私が入れなおしましょうか」



 台所に行くと誰が持ってきたのか見事な川魚が一匹あった。ものはついでだ、これも捌いておこう。あとお酒のあてを二、三品作っておこう。……あとさっきの弾幕を吹き飛ばされた仕返しとして魔理沙の皿に邪仙の持ってきた何かを盛っておいてやろう。



「さて魔理沙は分かっていてやっているのか、それとも……」



 投げたナイフを回収しながら考える。さっきスペルカードによって吹き飛ばされたナイフはいくつかダメになってしまっている。……あまり長引かせる訳にはいかない。

 魔理沙の下方を位置取り綺麗な形で残っているナイフを投げる。恐らく無駄になるだろうが弾幕に妥協は許さない。この勝負はお嬢様も見ているし、この場には天狗もいる。さぁ時を動かして仕切りなおしだ。



「次はそっちか!黒魔『イベントホライズン』」



 先ほどと同じように魔理沙のスペルカードが私のナイフを確実に叩き落としていく。今回はそこまで追い込まれていないのにもかかわらずだ。これで確定だろう。魔理沙は私のナイフの数を計算して戦っている。恐らくすべてのナイフを壊すつもりなのだろう。



「あんまり長く戦っていたらお酒が無くなりそうなんだが、やっぱり一筋縄ではいかないな」
「私としてもそろそろお嬢様の側に戻りたいのですけどね」



 私のナイフを弾幕で吹き飛ばしたあとは多少無理にでも攻勢に出ると決めているらしい。確かに手持ちのナイフが少なくなる分攻撃が甘くなる。



「まぁ最低でも咲夜の料理が温かい間には終わらせたいな」
「望むのならば綺麗に捌いて差し上げますよ。魔法使いの活造りです」
「お断りだぜ。魔法使いはメイドを星のお姫様に変えるのに忙しいんでな」



 ナイフが残り少なくなってくる。一度タイミングを見計らって回収しなければ。



「そこだ!彗星『ブレイジングスター』 」



 時を止めようとした瞬間を狙って魔理沙が無理やりスペルカードを放ち、こちらに向かって突っ込んできた。このタイミングでは時間を止めるのは間に合わない!ナイフを投げて魔理沙の軌道をずらし、体をひねることでギリギリかわすも大きく隙ができる。このままでは次の攻撃は防げない。慌てて時を止める。



「……今のはさすがに危なかったわね」



 完全に不意を突かれた。もう少しナイフが減っていたら危なかった。そして……



「もう少し遅ければバックからズドン!ということね」



 私の背後で魔理沙が弾幕を放った形で止まっている。このスペルは魔理沙自身も高速で動くので間合いや位置取りの点で優位をとられてしまう。勿論リスクもあるが。



「ナイフの残りは……ちょっと厳しいわね」



 使えるナイフはそんなに多くない。やむを得ない、一旦紅魔館に帰ってナイフを補給することにしよう。……別にルール違反ではないはずだ。



◇◇



「これは……寝てるのかしら?」



 時を止めて紅魔館の門の前までやってきた。紅魔館が誇る色鮮やかに虹色な門番は真っ直ぐな姿勢のまま目を閉じている。寝ているのだろうか?それとも瞑想でもしているのだろうか?



「……どっちでもいいわ」



 鼻提灯を作っているわけでも涎を垂らしているわけでもないし、見た目だけならこのままでも紅魔館の門番として景観を損ねることはないだろう。ならば仕事さえしてくれていれば問題ない。ナイフを数本美鈴に向けて投げておく。これがかわせるなら仕事をしているとみなしていいだろうし、当たったなら目も覚めるだろうし。これで永遠に眠るようならいらないし。



「がっかりさせないでね」



 持ってきた宴会料理の差し入れを適当に並べた後、美鈴の額を指で小突いて屋敷の中に向かう。願わくばこの料理がお供え物になりませんように。

 図書館に向かうと館を出発した時と同じ体勢でパチュリー様が本を読んでいた。もっとも横に積まれていた本の数は変わっていたが。



「……何が書いてあるのかさっぱり分からない」



 細かい字で分からない言葉で書かれているこれらの本は魔法使いにしか読めないのだろう。こんなものを長時間読んでいて疲れないのだろうか?余計なお世話かもしれないが身体を冷やさないようにケープをかけ、リラックス効果のあるお茶を淹れる。



「たまには私達の言うことにも耳を貸してくださいね?いつか体を壊してしまいますよ」


 ページをめくろうとしているパチュリー様の右手を優しく解き、両手でそっと包んだ後膝の上に置く。

 次に地下室に向かうとフランドール様が布団で眠っていた。今夜は精神面の調子が芳しくないらしく宴会には欠席なされている。



「フランドール様も……もう少し私達の言葉に耳を傾けていただければ嬉しいのですが……」



 まぁこればかりはどうにもならないのかもしれない。私が生きている間に少しでも改善されればいいのだが。今度の宴会は一緒に行けたらいいなと考えながらフランドール様の目尻の涙を拭い、手の甲にキスを落とす。



◇◇



 地下室から出て自室に向かう。そういえばメイド妖精もホフゴブリンも姿が見えない。妖精メイドは私がいないのをいいことにサボっているのかも知れない。ホフゴブリンもひょっとしたらこの館で上手くやっていけてないのかも知れない。良くない想像が頭の中に浮かんでは消える。部下をこんな見方しかできないから煙たがられているのだろうに。



「……鬼のいぬ間にということなんでしょうね」



 高いレベルを常に要求し、いつも説教ばかりの私は妖精メイド達にとって面倒な存在なのだろう。本来人間に仕えるべきなのを慣れない職場でこき使われているホフゴブリンにとって私は目障りな存在なのだろう。別に構わない。私が嫌われようが彼ら彼女らがしっかり仕事を覚えてくれれば。私はいつまでも紅魔館にいられるわけではないのだから。



「……あら?」



 自室の前に立つと部屋の中に気配を感じる。特に鍵などがあるわけではないが、私に無断で部屋に入っていい人物は全員部屋の外にいることを確認している。



「泥棒……でも魔理沙じゃないし……」



 何にしても見れば分かることだ。躊躇いなくドアを開ける。すると……



「……?」



 そこには予想外の光景が広がっていた。おめかししたメイド妖精達、タキシードに身を包んだシュールなホフゴブリン達。机の上にはいつもより少し豪華なごちそうと、ろうそくの刺さった大きなケーキ。そして明るく飾り付けされた部屋の中でもひときわ目立つ巨大な横断幕には『さくやさんたんじょうびおめでとう』の文字。



「……困った子達ね」



 並んでいる料理はあまりに統一感がないし、盛り付けも雑な部分が目立つ。部屋の飾りつけも細かい点に粗があるし、横断幕の文字はお世辞にも綺麗とは言えない。ケーキに刺さっているろうそくの数も多すぎる。この子達の中では私はそんなに年上に見られているのだろうか?全く失礼な話だ。そして何より……今日は私の誕生日ではない。一体何を勘違いしたのだろうか。



「まだまだ私がいないとダメね」



 ナイフの入っている引き出しはメイド妖精の一人が開けている。これでナイフがなくなっていれば私がここに来たことに気づくだろう。これではナイフの回収ができない。随分と間の悪いことだ。



◇◇



「おっと、そう来ると思ったぜ!恋風『スターライトタイフーン』 」



 とりあえず博麗神社まで戻って時を動かしナイフが魔理沙を襲うも、スペルカードにあっさりと吹き飛ばされてしまう。それどころか今までより投げたナイフが少ない分、ただ迎撃されるだけでなく私自身も狙う余裕が出てきている。



「随分とナイフが少ないぜ?そろそろネタ切れ……どうした?随分嬉しそうな顔をしてるじゃないか」
「気のせい……いや、ちょっといいことがあったのよ」
「そりゃあ良かったな!」



 紅魔館に戻ったのにナイフは回収できなかった。それどころか美鈴に投げた分減ってしまった。スペルカードによって逃げ場がふさがり、それを利用して魔理沙が一気に勝負をかけてくる。私の牽制も最小限のもので、最早決着は時間の問題だろう。それでも最善を尽くし、闘いぬく。格好わるいところは見せられない。



「そろそろ決着だぜ!」



 魔理沙の誘導から完全に逃れる術は私にはない。魔理沙の中で決着の形は見えているに違いない。誘導する先から考えてほぼ間違いなく先ほど私を追い込んだ『ブレイジングスター』で決めるつもりだろう。先ほどそれで私を倒せる手応えを感じたことは明らかだ。それに……私も魔理沙がそのスペルを使うよう誘導に乗っている。



「光撃『シュート・ザ・ムーン』」



 私の前後から星の弾幕が降り注ぐ。弾幕に気を取られ瞬間的に魔理沙が私の視界から外れる。しかし大丈夫、ちゃんと気配は追えている。この量の弾幕をかわしながらでは集中できないから時を止めることは出来ない。その上私は魔理沙を見失っている。とどめを刺すならこの弾幕が止んだ瞬間だろう。



「止めだ!」
「!?」



 魔理沙の弾幕が止んだ。それと同時に視界の外からものすごい速度で突っ込んでくる気配を感じる。勝負を決定づける一撃となりえるだろう。そう……普通ならば。私はこの弾幕が来ることを予め読んでいるしタイミングも方向も予測できている。そして何より寸前にそのスペルを見ている。

 箒が触れる直前に身を翻し、グレイズしながら無理やりかわす。そしてカウンターの要領で魔理沙にナイフを峰打ちで叩き込む。タイミングは完璧だ。



「……えっ?」
「星符『ドラゴンメテオ』」



 私の身体が星の光に包まれたかと思うと、すごい勢いで地面に叩きつけられる。……何が起こったのかさっぱりわからない。とりあえず時を止めて状況を確認する。



「い、痛い……」



 涙目になりつつなんとか体を起こして上空を見て……やっと何が起こったのかを理解した。完璧なタイミングで決まるはずのカウンターは空振った。罠にはめたつもりが罠にはまっていたのだ。恐らく魔理沙はスペルが終わると同時に箒のみを私の方に飛ばし、自分は更に上に飛んだのだろう。そして私がカウンターに失敗した所にすかさずスペルカードを打ち込んできた。そんなところだろう。……ごまかしようもなく私の完敗だ。



◇◇



「おーい咲夜ー、生きてるかー?」
「まだ死ぬわけにはいかないからね」



 土煙の中何事もなかったように無表情で立ち上がり、服についた汚れを払う動作を行う。滞り無くやって見せたが、本音を言うと体中が痛い。それでもせめて余裕を見せて誤魔化そう。時を止めている間に先ほどボロボロに成ったメイド服は着替えたし、服の下に巻いた包帯には誰も気づいてないだろう。ついでに天狗のフィルムも抜いておいた。



「随分とタフだなぁ、もう一回戦行くか?」
「もう十分楽しんだでしょ?私はそろそろお嬢様のもとに戻らないと」
「うーんアリスや文もなんだが、余裕を持って負けられるとこちらとしてはイマイチ勝った気にならない」



 少なくても今の戦いで私に余裕はなかった。確かに勝ち方や戦い方にはこだわったが、それは今回の戦いでは美しくない勝利は敗北に同じと考えていたからだ。……もっとも負ければ意味は無いが。



「まぁいいや、誰か私とやらないかー?このままもう一戦だ!」



 魔理沙はまた相手を探し始めた。タフなのは魔理沙の方だろうに。勝負が終わったのでお嬢様のもとに戻る。下を向いて目を合わせないようにしているつもりだが……生憎身長差のせいで目が合ってしまう。



「……負けてしまいました」
「終始防戦の上に最後の逆転の一発も外れ。これ以上ない完敗ね」



 やれやれとため息をつきながら言う。お嬢様は過程を楽しむが何より結果から物事を見るタイプ、どれだけ頑張ろうと『結局負けたんでしょ?』で片付ける。



「真面目にやればもっといい勝負になっただろうに、私や天狗を気にしたりしすぎよ」
「その……」
「何か言いたいことでもあるの?」
「……」
「咲夜」
「……せっかくお嬢様が見ているので、格好いいところを見せたいと思って」



 自分でも驚くほど小さく、そして尻すぼみな声が出た。言いながら悔しさと情けなさと恥ずかしさがこみ上げてきて、顔が赤くなるのが分かる。



「参観日ではしゃぐ小学生じゃないんだから……」
「すいません……」
「……まぁいいわ、今度はしっかり勝ちなさい」
「……はい」



 お嬢様が私の頭を優しく撫でながら言った。



「どうだレミリア、次はお前が相手にならないか?」
「私は弱った咲夜を慰める仕事があるからパス」
「なんだよ、つまんねぇの」



 ……落ち込んでいても仕方がない。次で挽回するしかないのだから。お嬢様の中に残る私の姿が完全で瀟洒な従者であるために。
「……ん……ぅん~」



 目が覚めたので起き上がり時計を確認する。時刻は……まだまだ午前中。人間と頻繁に付き合うようになってから随分と長い時間が経った。天下の吸血鬼ともあろうものが早起きが習慣とはお笑いだ。……いや月下の吸血鬼のほうがかっこいいか?

 クローゼットから自分の服を取り出す。最近まで人任せでやっていたことだが、これくらいは問題なくできる……はずだ。

 ふと机の上においてある写真と目があった。私としたことが寝ぼけていたとはいえうっかりしていた。



「おはよう咲夜」



 咲夜の言葉を思い出す。『私は長く生きられませんが、ふと写真でも見てたまに私のことを思い出していただければそれで十分ですわ』と。紅魔館のアルバムには咲夜の写真はたくさんあるが、そんなものがなくても私は咲夜のことを忘れないというのに。
福哭傀のクロ
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コメント



0.550簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
後書きぃ〜!グワァー。

確かに、時間を止めながら戦っているとこれくらいの余裕になるのかもしれません。戦いながら料理を作り紅茶を淹れ…。
咲夜も魔理沙も観客の目を気にしながら弾幕を張っているあたり、気の利く奴らです。これなら宴会芸にもピッタリでしょう。
2.70非現実世界に棲む者削除
悪い。これはこれで感動するのだが、自分としては(あとがきで)「結局はこういう形に終わる」ってのは気に入りませんでした。
6.70きみたか削除
咲夜さん瀟洒すぎて素敵。命名決闘法ならではの戦い方がいいですね。
私の読解力が足りないのでなければ、私も後書き不要に一票。本編が十分綺麗なだけに蛇足感が大きかった。
7.70奇声を発する程度の能力削除
後書きがちょっと
お話は良かったです
9.100みやび削除
瀟洒なようで瀟洒じゃないちょっと瀟洒な咲夜さん。
可愛かったです。
10.100名前が無い程度の能力削除
あとがきは賛否両論ですね。
すいませんが、私はあとがき反対に一票で
しかしながら、内容は感動しました。
今後の作品もまっています
13.100もんてまん削除
いやぁ、何事にも余裕を持ってるあたり流石咲夜ちゃん。
こういう従者がいるレミリアは鼻が高いでしょうね。
19.90名前が無い程度の能力削除
お嬢さまの前でカッコつけたい咲夜さんがとてもとても可愛い。
時を止めている間にあちらこちらに出没し様々なことをしている咲夜さんがシュールで読んでいて楽しかったです。
優しく格好良いお嬢さまも素敵でした。
あとがきは不意打ちでしたが、自分はこのような不意打ちは好きです。