● ザ・ロンゲスト・ウェイ
「人間を解体してほしいの」
ある昼下がり、紅茶を一口飲んで、目の前の魔女がゆっくり言った。
彼女の眼はいつもと変わらぬ理性を持っていたし、その表情もいつもと変わらぬ落ち着いたものだった。聴き返そうかと、一瞬思ったが、その言は明瞭で疑問の余地が無かった。とはいえ、言った内容が内容である。何か隠された意図や裏があるかも知れず、まともな返答をするのも躊躇われた。結局、咲夜は様子を見ることにした。
「……面白くない冗談ね」
多分、冗談ではない。かといってそのままの意味にも取れない。
「自分でやればいいでしょ」
「私じゃ無理なのよ」
人形が一体やってきて、今焼きあがったばかりだろうクッキーをテーブルにだした。その人形を魔女は手に取り、丁寧に服を脱がし始めた。
「私じゃ無理なの。判るでしょ」
ぱきっと音を立てて、人形の首を抜いた。腕を背中に押し付けるように力を込めて、根元からはずした。
「私がやると、壊してしまうから」
四肢を失った、いびつな人形の胴体が、テーブルに転がった。
◇◇◇
フランへの贈り物だという人形を手に、アリスが紅魔館にやってきたのは昨日の夜のことだった。アリスには幾度かフランの遊び相手である人形の注文をしたことがあったが、アリスが自ら贈り物として人形を持ってくるなど、初めてのことだった。そんな理由で館の主は上機嫌でアリスのために茶会を開いた。その場でアリスは実験の手伝いに、館のメイド長を貸してほしいと頼み、主は「昼の間なら、まぁよかろう」と鷹揚に返答したのだった。
そうして今朝、咲夜は魔法の森のアリスの家にやって来たのだった。そろそろ梅雨も始まろうかという頃で、森の中はじめついて不快だった。
紅茶を入れて、席に着いた魔女は開口一番、人間を解体しろと言ってきた。咲夜は館で主の食事のために自分と同じ人間の死体を解体している。そのことは別に隠しているわけではないから、アリスが知っていてもおかしくはない。主の食事に供するために同族の遺体を汚すということに、咲夜がまったく葛藤を持っていないかというと、そんなことはない。数日に一度明け方の厨房で行われるその行事は、咲夜にとっては、主への忠誠と人間としての葛藤との狭間、二律背反の中で行われる、ある種の神聖な儀式だった。冗談の具にされてよいもではないし、いわんや、アリスのためにそれをするつもりもない。
「冗談で言っているのではないの」
「冗談でないなら、尚更たちが悪いわね」
「私はね、人を知る必要があるの」
「死体は捜せば都合がつくでしょ。私はできないわ」
「死体では、駄目なの。生きている魂ある人間でなくては」
「……あきれた、人間の私に殺人の依頼とはね」
咲夜はあきれつつも思っていた。「魔女とはこういう生き物だ」と。紅魔館にも魔女が一人住んでいる。かの魔女は相当に力ある上に、変なところに気が利く魔女で、咲夜が館で働くようになってからは、人間を対象にした実験をあまりしなくなったと聞くし、人間を使うときは絶対に咲夜に気づかれないように注意しているようだった。それでも、館全体を見回り、時さえも止めて家事をする咲夜は、館の魔女パチュリーが人間を使った実験を行っていることは知っていた。咲夜に気づかれないようにと、気を回すパチュリーに感謝はしていたが、本当に咲夜を気遣うなら、そもそも人間を使った実験などしなければいいのだ。それでも知識欲と、自らの力の深化のためには躊躇しないのが魔女という生き物であるらしかった。
「殺人でもないの。言ったでしょ?生きてなくては駄目だと。私は魂を知りたいのよ。」
「言っている意味がわからないわ」
「そうね…。私が操れるのは何も人形だけではないのよ。人間でも妖怪でも、相手を人形に見立てることで、操ることができるの。相手から同意が必要だけどね」
「…それで?」
ゴトゴトとさっきアリスが自ら壊した人形が動き出した。
「人形は壊れても、パーツがばらばらになっても、人形として、私の支配下にあるわ。普通は壊れた人形なんて動かしても、意味が無いからやらないけどね」
机の上に散らばった人形の腕が曲がったり、伸びたりしている。
「つまり、人形として、私の支配下にあるなら、人間のパーツをばらしても…」
「やっぱり、たちの悪い冗談だわ」
咲夜は遮って言う。
「ばらばらにしても、人形は人形であり続ける。それはいいわ。でも人形が人形であるために命が必要である証拠がないわ。命がなくても、死体でも人形だとなれば…」
ばらした人形の命は失われる。
「証拠はあるの。一度試したから」
「なんですって?」
「一度試したのよ。森に迷い込んだ外来人を使ってね」
魔女は躊躇しない。もう実行していたのだ。
「ばらばらにしても、彼は生きていたわよ」
「……なら、…もうやったなら、私の力なんて必要ないでしょ」
「逆よ。あの実験の結果、あなたが必要だと判ったの」
「綺麗に解体しないと、動かしづらいのよ。私も一応ヴェサリウスなんかを片手にやってみたんだけどね。慣れてないから。切断面が綺麗じゃないと、神経の兼ね合いとかかしらね、上手くいかないの」
上手くいかなかった実験台、その失敗作は…。
「…その男はどうなったの」
「死んだわ」
アリスは紅茶に一口、口をつけ続けた。
「でも勘違いしないで。上手くばらせなかったことが死因じゃないわ。彼はね、喋ることもできたし、繋がっていない手足を動かすこともできたし、食事をすることもできたわ。ばらばらのままね。けれどね、彼は勘違いしていたの。彼の首から上は、私の作業室の棚の上にあったのだけど、彼はそこに五体満足で拘束されているものだと、そう思っていたのね。顔を動かすことができないのは、がっちり拘束されているせいだと」
「私は何度も彼に『あなたは今、ばらばらになっている』と、『ほら、いま腕を肩からはずしたわ』と、そう伝えたのだけど、彼は信じていなかった。私が彼の首を持って、作業机に散らばった彼の『パーツ』を見せたとき、彼は死んだわ。恐怖で死んだのか、現実を疑って死んだのか、自分が生きていることを信じられなくなったのか、死因はそんなところね」
咲夜は考えている。これは狂気の一種なのだろうかと。目の前の魔女は元は人間だったと、そう聞いている。人の身を捨て、別の存在になるには、それだけの狂気が必要なのだろうか。いや、それを狂気と言っていいのか、別の存在として、思考も思想も志向も人間から離れてしまえば、それは別に普通のことで、そういう存在を、見た目が似ているからと、人として見てしまう事のほうが間違っているのかもしれない。
「だからね、実験台には『彼』みたいな、私の力をそもそも信じていないような人間を使いたくないの。体がばらばらになろうとも、私の力があれば生きてるのだろうと、そう信じてくれるような、そういう人間でしか、上手くいかないと思うの」
「それに今度は『彼』のように使い捨てるつもりはないの。そうなると、私の刃物を扱う腕では、綺麗に切れなくて実験に支障が出るし、元に戻した時に障害が残るかもしれないでしょ。だから、解体の経験も豊富で、刃物の腕も信用できる、あなたが必要なの」
「…誰なの?」
アリスの力を信用している人間。一人で人形劇ができるという程度なく、体がばらばらになろうとも、彼女を信用できるような人間は、そうはいないはずだった。なら咲夜の知り合いである可能性は高い。
「もう来る頃よ」
アリスはカップを傾けて紅茶を飲んだ。もう来る頃、アリスの家を知っている人物。この瘴気漂う森を抜け、ここまで来る事ができる人間。もう一人しかいないんじゃないかと、咲夜は思った。
その人間はノックもせずにいきなり入ってきた。
「よー、アリス。あんだ、咲夜もいるのか」
いまだ人間の魔法使い、霧雨魔理沙が咲夜の気も知らずに、いかにも暢気に現れた。
「やっぱり、あなただったのね……」
「んん?実験台の話か?まぁな」
なにが「まぁな」なのか。魔理沙は自分がこれからどうなるか、知らないんじゃないかと、寧ろそうとしか思えなかった。
「アリスはあなたを、ばらばらに解体したいそうよ」
「ああ、そう聞いてるが?」
知っているらしい。知っていてこの態度とは、咲夜は絶句するしかなかった。自分がもしパチュリーに「咲夜、あなたを解体するわ。死なないようにするから安心して」と言われて、こういう態度でいられるだろうか。魔理沙は肝が太いとかアリスを信用しているとか、そういう以前にやはり魔女なのだ。アリスを一瞥すると、こちらも涼しい顔で紅茶に口をつけている。やってられないと思った。
「帰るわ」
「え?おい、咲夜?」
咲夜はそのまま魔理沙の呼びかけにも答えず、さっさと出て行ってしまった。残された魔理沙がアリスに事の次第を問うても、「いいのよ、しょうがないでしょ」としかアリスは言わなかった。
◇◇◇
魔理沙が紅魔館の大図書館にやってきたのは、その翌日だった。
「アリスはあの後、『ああ』とか『うん』とかしか言わねーし、なんか咲夜は未だに怒ってるっぽいし、何なんだ一体」
魔理沙は魔法のことで行き詰ると、この図書館の客用の椅子に座り、半ば独り言のように愚痴やら疑問やらを垂れる。装飾の多いどっしりとした大テーブルを挟んだ対面に座る図書館の主は、殆どの場合、興味無さそうに手元の本を読んでいるが、偶に何事かを呟いて、それが魔理沙の助けになったり、ならなかったりする。
魔理沙が「生きたまま、バラバラになれるなんて、なかなか出来ない経験なんだがなぁ」と残念そうに言うと、やっと対面から声が返ってきた。
「アリスはそんな実験をして、何が知りたかったのかしらね」
なにを今更と魔理沙は思ったから、アリスが言っていた通りに答えた。
「アリスは人間を知る必要があるって言ってたぞ。魂を知るとか」
「バラバラにしたら、人を魂を知ることが出来るのかしら?」
「やらないよりか判るんじゃないか?」
「魔理沙はあの子のすることに対して盲目過ぎるわね、無条件で信用しすぎ」
「そんなつもりは無いんだが」
「盲目もいいとこよ。解体したいっていうのは、要は目で見たいって事でしょう。目で見たって魂のことなんてわかる筈ないし、目で見て判ることなんて今更知る必要ないでしょ。まだわからない部分があるっていうなら、解剖学の本がここに山ほどあるわ」
「生きたままってのは重要じゃないのか?」
「馬鹿の上塗りよ魔理沙。生きている人体と死にたての人体に差なんて有りはしないわ」
「そうか?いや、それ変だろ。だって死んでるんだぜ」
「目に見えるもの、つまり人体に関して言うならば、生死は瞬間に切り替わるわけじゃないわ。人の体は徐々に死んでいくの。一般的には意識と脈拍が消え、反射反応もしなくなった時点で『この人間は死んだ』と判断されるけど、人体はまだ死にきってないのよ。葬式が終わって棺の蓋が閉じられる寸前の死体を見たことが無いの?髭も伸びてるし爪も伸びてるのが判るわよ」
「…そうなのか」
「生きてようが死んでようが人体を解体して判ることなんて、本読んでも判ることしかないわ。そして本を読んでわかるようなことならばアリスはすでに知っているわ。そして魂について何らかの知見を得たいなら、解剖なんて無意味よ。」
ページをめくる音がする。対面の書痴はまだ本を読んでいるらしい。
「まぁでも人形遣いにしか判らない事もあるのかも知れないぜ。自律人形の作り方なんて本に書いてないだろ」
「自律人形?アリスの目標だとかっていう?」
「んん?そうだろ?」
「おめでたいわね、魔理沙。そんなの嘘に決まってるじゃない」
「嘘って。そうなのか?」
「さぁ。嘘じゃなければ何かの方便かしらね」
ぱたんと読んでいた本を閉じると、図書館の主はやっと顔を上げた。
「魔理沙、人形の定義はなんだと思う?」
「んん、人型をした玩具(おもちゃ)かな?」
「アリスの上海人形は別に玩具じゃないわね」
「あー、そうだな……」
「人形の定義はね、人の形をした、生き物ではないものよ」
「それは不味いんじゃないか?『生き物じゃない』なんて言ったら…」
「そうね。生物の定義なんて、それこそ宇宙の深奥に迫る問題ね。だから卑怯だけど言い換えるわ。人形とは人型をした機械よ」
「んで、機械の定義とは?って話か。そーだなぁ」
「生物の定義と同じように、機械の定義もまた厳密に考えるなら難しい問題ね」
「いや、まて機械の定義は立てられるはずだ。入力された命令に従う。いや命令が入力されなければ動かないものだ」
「そうね。生物が誕生の瞬間に『生存せよ』と入力されていないなら、その定義でいいかもね」
「ああ、その可能性があるのか」
「誰にも判らない問題だから、この場では置いとくわ」
パチュリーはクッキーを一つ摘んでぽりぽりと食べる。その仕草が小動物のようで、魔理沙は密かに気に入っている。
「さて、『命令されなければ動かない』というのが、機械の定義の一部である以上、人形もこれに従うわよね。『命令されなければ動かない』のに自律しているって、どういうことかしら」
「ああ……そういうことか」
「完全自律人形っていうのは、『あり得ない物』の言い換えでしかないわ」
だとするなら、アリスは何を考えているのか。あの実験は何のためのものなのか。パチュリーの話に納得する一方で、魔理沙はアリスの「夢」が嘘だとは信じきれずにいる。なんの証拠もないが、かつて、アリスと出合ったばかりの頃聞いた、彼女の夢。あのとき、彼女が少し恥ずかしそうに明かした「夢」を、魔理沙は嘘や方便と簡単に断ずることが出来なかった。
「んーむ。パチュリーの言うことは判るんだけどな。私は嘘とかそういうんじゃ無いと思うけどなー」
だいたい、そんな嘘をつく必要があるのかと思う。確かに魔女は普通、自分の大目標や探求の対象を他人に明かしたりしない、らしい。自分の研究の方向性が知られてしまうと、攻撃手段や使える魔法がばれてしまって危険なのだという。しかし、それなら言わなければいいだけだ。わざわざ嘘をつく必要はない。実はアリスはまったく別の属性の魔法を修行していて、それを隠すためとも思えない。魔理沙がそんな内容のことを喋ると、パチュリーは「その通りよ」と言った。
「その通り?つまりどゆことだ?」
「つまり彼女は自分を騙しているのよ」
◇◇◇
紅魔館からの帰り、魔理沙はアリスの家に寄っていくことにした。自律人形の夢が嘘か真かはともかく、あの実験の目的はなんとなく聞いておきたかった。
「アリス居るかー?」と声を上げつつ、ドアノブに触れると、魔理沙は「あれ?」と思った。鍵が掛かっているのだ。それも魔法鍵が。アリスは家に居るときは鍵をかけないし、家を空けるときも、物理的な鍵こそすれ、魔法鍵をかけたりしない。この時もう、魔理沙は予感していた。いま室内で何が行われているのか。魔理沙はドアの前でアリスを呼ぶことなく、急ぎ足で作業室の窓まで行った。作業室の窓にはカーテンが掛かっていたが、隙間から皮エプロンをかけたアリスが見えた。
「アリス、おーい。居るんだろ。見えたぞー」
コンコンと窓をこぶしで叩きつつアリスを呼ぶと、しばらく間をあけて、やっとアリスが返事をした。
「魔理沙、今忙しいの。悪いけど帰ってくれない?」
帰れない、と魔理沙は思った。何故こうも強く思ったのか、そのときの魔理沙は自分の心理を確かめる余裕も無いほど、強く思った。
「なぁアリス、邪魔はしないからさ。見学させてくれよ。頼む」
アリスは元々、咲夜に手伝わせて、万全の状態で自分を実験台にするつもりだった。ところが今、咲夜の協力が得られなくなって、自分以外の人間を使って実験をしている。アリスは失敗を見越してそうしている。あまりいい気分ではなかった。
「アリス、頼むよ」
極力平静を装った声で、アリスを呼び続けた。
ややあって、「表にまわんなさい」と声があった。
ドアが開くと、そこには困ったような疲れたような顔をしたアリスがいた。「邪魔はしないからさ」と言いつつ、魔理沙がすばやくアリスの家に入ると、奥の作業室から声がした。
「ねぇアリス?誰なの?」
幼い女の子の声だった。
前の実験で男はアリスの力を信じきれずに死んだ。今度は人形使いのの力を信じきったものを使うと、アリスはそう言っていた。別に魔理沙しか候補が居ない訳ではなかったのだ。要はアリスの力を信じ込ませればいいのだ。
「お友達よ、アン。私の友達」
魔理沙は箒を玄関脇に立てかけると、そのまま作業室に進む。作業台の上にはバラバラの四肢。女の子の首はパーツが見えないようにだろう、作業台より低い椅子の上にあった。
「友達の魔理沙よ。魔理沙も魔法使いなの」
「すごい。ほんとの魔法使いみたい。魔理沙、わたしアン」
「みたいじゃなくて、ほんとの魔法使いだぜ」
と言って、魔理沙は指を弾いて、星型の小さな光を飛ばした。
「すごい!」
それに触れようとしたのかもしれない。作業机の上の彼女の腕が二本とも曲がったり伸びたりした。それを見て、魔理沙は努力して感情を消し、隅の椅子に座った。
アリスは魔理沙の出した星に興奮する少女を宥めると、実験に戻った。アリスは少女の四肢を曲げさせたり、物を持たせたり、また、魔法糸で直接操って動かしたりした。そのたびに、作業机の上のパーツはバタバタと歪に動いた。
魔理沙は、前にアリスの実験台になって外来人の男が死んだと聞いても、別になんとも思わなかった。幻想郷に迷い込んだ外来人は、ごく幸運なものを除いて、殆どは死ぬのだ。彼等の死が幻想郷という世界を支えていることを、魔法の森に住む魔理沙は重々承知している。森の中で、いままさに妖怪に襲われている人間と行き会ったことも、何度かある。そういうときでも、助けてくれと言われたり、縋りつかれたりしない限り、魔理沙はしいて助けたりしなかった。それが、魔法の森で暮らす魔理沙の倫理だった。
目の前の少女はどうなんだろう、と魔理沙は考える。彼女は哀れな外来人だ。この世界では死んでもしょうがない存在。多分彼女は魔理沙に助けてくれと言ったりしないだろう。しかし、ある意味で彼女は自分の身代わりだと、そういう考えも消えなかった。
「さぁ、もう一度魔法をかけるわよ、アン」
そういって、アリスは椅子の上の少女の首に目隠しをした。開胸されていた胴体を閉じて、パーツを元通りに綺麗に並べ、首を据える。アリスが開いた右手をきゅっと閉じると、少女のパーツもそれぞれが引っ付いて、一見彼女は元通りになった。
「さぁ、恥ずかしいでしょ?これを着て」
アリスは上半身を起した少女に首を通す穴の開いたシーツのようなものを着せた。
「大丈夫?歩ける?」とアリスが聞くと、少女は「うん」と元気に返事をして、上半身を起したまま腰を滑らせて作業机の端まで移動して、そこから飛び降りて、そして、転んだ。
アリスが駆け寄って抱き起こした。少女は恥ずかしそうに頬を掻いて立ち上がった。若干ふらつきながらも、アリスに付き添われつつ、歩いて作業室をでた。そして、そう広いわけでもないリビングを一周した。その間、少女は二度転び、二度ふらついて壁に手をついた。
「ねぇアリス。なんか変なの、おかしーの」
何かがおかしいと言い募る少女をアリスは何も言わずに抱き上げると、作業台に寝かせた。アリスがぱちんと指を鳴らすと、もう少女は何も言わなかった。アリスは俯き加減に背を丸め作業台に両手をついている。少女の寝息が聞こえた。
「魔理沙。帰ってくれる」
静かに小さくアリスが言った。魔理沙はもう何も言わなかったし、ここに居る気もしなかった。「ああ」とだけ言って立ち上がった魔理沙は、寝ている少女の顔を一度見て、箒を手にそのままアリスの家を出た。ドアを閉め大きく息をついて、二三歩進み、箒に跨ったところで、アリスの家の中から何か陶器が砕ける音がした。魔理沙は振り返らなかった。
◇◇◇
それから数日経って、魔理沙は人里をいく目立つメイド服を見つけて声をかけた。咲夜と話したいことがあったし、それは紅魔館の中でするには、なんとなく憚られる話題だと思えたから、人里で会えたのはちょうど良かったと思った。茶屋で団子と茶を注文して、表の縁台に座った。
「なぁ、咲夜。お前なんでアリスの手伝いしなかったんだ?私が実験台だったからか?」
「それもあるけど、実験台が魔理沙じゃなくてもやらなかったわ」
「アリスは…信用できないか?」
「100%の、全幅の信頼は無いかもね。でもそれが理由じゃないわ」
「ただ嫌だっただけよ。それだけ」
まぁそういうことなんだろう。人を解体しろというのだ。死なないと言われても気分のいいものでもないだろう。レミリアのためには出来ても、アリスのためにそれをやるのは嫌だと、そういうことだろう。レミリアと咲夜が真実どういった関係なのか、あれこれ推測はできても、本人達以外は誰もその真相にはたどり着けないのだ。
アンはどうしてるかな、と魔理沙は考えている。そして、それが欺瞞であることも気づいている。本当に気になってるのは、「どうしているか」ではなく「どうなったか」なのだ。咲夜が手伝っていれば、アンは外に帰れたかもしれないという考えは、魔理沙の心の奥底に確かにある。けれども、そのことで咲夜を責めるのはお門違いもいいとこだ。
「なぁ。仮に、森の中で今まさに妖怪に襲われてる人間を見つけたとしたら。咲夜はどうする?」
「さぁ、場合によるわね」
「私もそうだ。一応基準みたいなのはあるけど、助けるか助けないか、やっぱり場合によるんだよ」
「どうしたの?変なこと言い出して」
「これってさ、すごく歪だと思うんだ。多分、普通の人間だったら、それはもう助けて、助けようとして当たり前だと、私は思うんだ」
「…そうね」
「だから、たまに思うんだ。喰う側と喰われる側が、意思疎通できる世界ってのは、どこか歪(いびつ)なんじゃいないかって」
「ちがうわよ。魔理沙」
「ちがうかな?」
「歪なのは私達よ」
「霊夢だったら、一も二も無く助けてるわ。例え襲ってるのが知り合いの妖怪であっても」
「…そうだな」
咲夜とわかれて、一人薄暮の空を飛びながら、魔理沙は考えていた。自分はもうただの人間じゃ無いのかもしれないと。すでに、人間の枠から半歩外にいるのかもしれないと。
――アリスもパチュリーも、こうして人を辞めていったのかな。
パチュリーは生まれながらに魔法が使えたというし、少し違うかもしれない。
霊夢は確かにどんな場合にも人を助けるだろう。それは博麗の巫女という立場もそれを後押ししてはいるだろうが、彼女なら例え巫女という立場に無くても迷わないだろう。
咲夜はどうだろう。彼女もまた自分と同じように境界線上に立つものだ。いや、自分よりよほど妖怪に近しい立場にいる。そう長い年月彼女を見ているわけではないが、やはり彼女は妖怪屋敷の住人で、そこに住む妖怪達は咲夜の家族なのだと、そう実感する事が何度もあった。逆に魔理沙にしてみれば、よく咲夜は人であることを辞めずにいるものだと、そう思う。辞めてしまったほうが、よほど彼女の生活は楽になるだろうと思うのだ。そして、彼女は割りと簡単に人を辞められるのだ。レミリアに噛ませればいい。実務的な彼女がそれをしないのは、それなりに大きな理由が、きっとあるのだろう。そうして見れば、むしろ彼女は半歩外にいるというよりは、もう殆どその外側にいて、それでも必死でしがみ付いているのかも知れないと、魔理沙は思う。
なら自分はどうなのだ。自分はか弱い人の身で妖怪と対等に付き合うことに、ある種の矜持や誇りに似たものを持ってはいるが、そんなのはただの見得に過ぎないのじゃないかと、宙ぶらりんな立ち位置はただの迷いの産物なのではないかと、そんな気もしてくるのだった。
「どうかしてるぜ」と小さく呟いた。こんなことを考えている自分が、である。自分は自分だ、人間である前に私は霧雨魔理沙なんだと、自分に言い聞かせて、それから、声に出すことにした。
「私は私だ。好きにやるぜ。人間なんて、辞めたくなったら辞めてやらぁ」
◇◇◇
何週間か経った。梅雨が明けたばかりだというのに、やたらと暑かったその日、アリスの家のドアをノックするものがあった。
あの実験の後、ずっと鬱々と過ごしていたアリスは、そのノックの音が、自分の知る誰のものでもないことにすぐ気づいた。そもそもアリスの家を訪れるものは少ないのだ。博麗の巫女ならドンドンと激しくドアを殴りつけながら何か呼ばわってくるはずだし、紅魔館のメイドなら規則正しく、激しくは無いがよく響くノックをするし、同じ森に住む人間の魔法使いなら、そもそもノックなどしない。そういえば魔理沙はどうしているだろう。あの実験の後、会っていなかった。
どうせ、知らない相手だからと、はじめは思った。ドアを開けるのが億劫だった。トントンと弱々しく叩かれるドアの音を聞きながら、アリスは裁縫をする手を止めなかった。知っている者とは会いたくなかったし、知らぬ者とは尚更会いたくなかった。
そうしてるうち、ふとアリスはその音に聞き覚えがあることを思い出した。何年か前に一度だけ訪れてきた相手。あれは確か…
「アリス、いるんでしょう?開けなさい」
パチュリーだった。外はもう暑い。あの引き篭もりの虚弱な書痴なら、このまま無視していれば、根負けして帰るだろうと思った。
「悪いけど、会いたくないわ。帰って」
「暑くて死にそうなの。あけて」
大きくため息をつきながらアリスは立ち上がった。ドアを開けると、ひんやりとした風が流れ込んできて、汗一つ掻いていないパチュリーがふわふわと入ってきた。そういえば大図書館の空調を魔法で管理しているのだ、この魔女は。
「死にそうには見えないわね」
「日差しだけで死ぬかと思ったわ。…あなたも酷い顔してるわね」
「悪かったわね」
床上5cmを滑るように移動してリビングの椅子に座ると、思い出したかのように「座っていいかしら?家主さん」と聞いてきた。アリスは憮然とした表情で「どうぞ」とだけ言って、茶を淹れにキッチンに入った。
「それで、何のよう?」
「子供がいるって聞いていたんだけど…?」
「死んだわ。それ聞きにわざわざ来たの?」
「まさか。どうでもいいわ、そんな事。ちゃんとした依頼があってきたのよ」
「…あなたが?」
紅魔館では大概の衣服はアリスに発注しているのだ。レミリアの夜会用のドレスから妖精メイドの制服まで、質の高い洋装を大量に作れるのは、この幻想郷では彼女くらいだった。もちろん、普段注文に来るのは咲夜だったから、パチュリーが来たのは何か別の理由があるのだろうとアリスは思った。
「人形を作ってほしいの。そうね…その人形」
視線だけで、他の人形とは別に、一体だけテーブルの上に座らされていた人形を示した。
「上海?」
「そう。その上海のコピーがほしいわ。隅から隅まで、その人形と全く同じのが」
「ずいぶん、妙な注文ね」
「そう?一つ一つ皆違う 様に作る、あなたが変なのかもしれないわよ。私は同じのがほしいの」
上海のコピーならすぐに出来る。なにせ、補修用のパーツが大量に準備してあるのだ。面倒な話なら断ろうと思っていたアリスだったが、これなら受けてもいいかと思った。
「急がなくていいわ。ゆっくりやって頂戴」
そう言ってパチュリーはアリスの返事も待たず、来たときと同じようにふわふわ滑るように出て行った。アリスはしばらくどうしたものかと考えていた。ここ最近、人形に触れていない。家事は全て自分でやり、時間は手慰みの裁縫で潰していた。ちょうど良い機会かもしれないとは、さっきから考えている。こんな鬱々と時間を潰す毎日を続けていても何の意味も無い。しばし立ち尽くした後、やっとアリスは作業室の戸棚から上海人形のパーツ一揃えを持ってきた。
人形はすぐに出来た。全く同じ人形を作ったのは、初めてだった。ちらりと、テーブルに座る上海を見る。全く同じ姿をしているはずなのに、小さな違和感が消えない。その正体がわからないアリスは、必要も無いのに人形に魔力糸を繋いだ。そして上海にも。
そうして、自分の周りをくるくると飛ぶ二体の人形をアリスはぼうっと見ていた。全く同じ容姿のはずなのに、見分けるのは容易だった。何故見分けられるのだろうと、まずは思った。細かい傷やら、些細な汚れやら、そういったもののおかげなのか。自分としては汚れやら傷やらは目に付くたびに修繕していたはずなのにと思う。上海人形を手にとって見る。やはり綺麗なものだ。新しく作った人形と遜色ない。
新鮮な驚きだった。長年自分の一番傍にいた人形だから、絆のようなものでもあるのだろうかと、魔女らしくない事も思う。しかし、この上海人形という総体で考えるなら、たしかにアリスにとってもっとも親しく、最も古い人形かも知れないが、アリスはそれを頻々に修繕し、パーツを取り替えているのだ。上海の最も古い「部分」でも、多分組まれてから半年位のものだろう。ならば、この新しい人形には感じない親しさというか気安さというか、内実の良く分らない感情はなんなのか。
自分は上海に宿った魂を感じているのだろうか。
◇◇◇
テーブルの上の紅茶はすでに温い。魔法によって空調された大図書館は、夏の日差しを浴びる外界と比べたら、天国のように過ごしやすい。この時期、魔理沙はどうしても図書館で過ごす時間が多くなる。涼みに来ているのだ。もう少し経って体が夏に慣れれば、また違うのだが、今年は梅雨が明けて一気に暑くなった。
「昨日、アリスと会ってきたわ」
「誰が?」
「私がよ。決まってるでしょ」
「マジか。お前は図書館から出たら死ぬもんだと思ってたぜ」
「何度か神社の宴会にも行ってるんだけど」
「ああ、そういや居たな」
図書館の大机にだらしなく肘をついている魔理沙。対面には久しぶりに日の光を浴びたらしい日陰の魔女。「そんで…」魔理沙は少し姿勢を直して聞く。
「どうだった?」
この書痴が図書館を離れるなんて、相当なことだとは思ったが、彼女が何をしに行ったのかより、アリスの様子はどうだったのかの方が聞きたかった。
「人形を注文してきたわ」
「いや、そうじゃなくて。アリスはどんなだった?」
「さぁ?自分で確かめたらいいでしょ。もう来るわよ多分」
「来るのか?」
「言ったでしょ?人形を注文したって。簡単な注文の筈だから、今日にも来るわよ」
魔理沙は「ああ」と言って、ぐにゃりと机に顎を乗せた。「会ってないんだよなー、あれから」と呟いた。それから聞こうか聞くまいか散々悩んで、やっと声に出した。
「アンは…、どうだった?」
「アン?実験台の子の事?」
「うん」
「いなかったわ」
「そっか……」
「まぁ、そうだよな」と呟く。自分があの少女の記憶を「不幸な外来人カテゴリ」に放り込んで忘れることができないのは、きっと名前を聞いてしまったからなのだろうと思う。魔理沙は自分から聞いたくせに、彼女の顔や声やしぐさを思い出さないようにと、必死に頭の中に靄をかけていた。そうしてから、あの時自分は何であんなにしつこく実験を見たがったのだろうと、最近何度かしている後悔をまた繰り返した。
「なぁ、あの実験は……やっぱり無意味なのか」
「無意味よ。いえ、無意味だとアリスが気づいたなら、厳密には無意味ではないけど。……気にしているの?その子の事」
「そら、まったく気にならないって訳じゃないさ。私は人間だからな」
「罪悪感を感じる?それとも怒り?」
「両方とも違う…と思う」
じゃぁ何なんだと聞かれると判らないのだが。アンが死んだ原因が自分にある訳ではないし、アリスが殺したという事だって「しょうがない」事だと理解している。魔理沙が鶏を絞めたようなものだ。だが、やはり気にはなるし、無意味だと言われればいい気分にはなれない。
「アリスは怖いのよ」
「何が」
「魂が。普通に人形に魂が宿ると言うことが」
「普通なのか」
「普通よ。前に森の道具屋で髪の伸びる人形を見たって、魔理沙言ってたわよね」
「アリスにとっては人形に魂が宿るという現象は、もっと稀有で魔術の深奥にあるべき事柄なのよ」
「もし、精魂こめて作った人形に魂が宿る、大切にされた人形に魂が宿るということになったら、人形達ははたして自分を好いてくれるのか、自分のために遣い捨てることを許してくれるのか」
「許すも何もアリスはそりゃぁ大事に扱ってるぞ」
「大事にしているから愛しているからこそよ。例えばアリスは先の意味もない的外れな実験で、二人の魂ある人間を殺しているわね。あれはアリスが彼等をどうでもいいと思ってるから殺せたのよ。愛してたら殺せないわ」
どうもこの図書館の魔女は、この話になると口調がきつくなるなと、魔理沙は思った。
「…あいつは人形に爆薬詰め込むけどな」
「関係性の問題なのよ。道具として愛しているなら、道具として使えるのよ。魂を持ったらもう道具だと認識できないかも知れない。実際はそうじゃ無いかもしれないけど、その可能性を恐れているのよアリスは」
「だから、アリスは嘘をついたの。自分の夢は自律人形だなんて」
普段物静かに話すパチュリーが声を張る。まるで、この場に目の前の魔理沙以外の聴衆がいるかのように。
「そこらへんの本を読めばわかるけど、人形が魂を持つ話なんて腐るほどあるわ。おまけにここは幻想郷なのよ。極々普通の話なのよ。人形が魂を宿すなんて」
パチュリーの視線は微妙にずれて、魔理沙を透かし、そのずっと後ろ、大図書館の入り口の辺りに向けられた。ああ、きっともうすぐアリスが来るんだろうなと魔理沙は思った。そして魔理沙はずっと後ろのほうで僅かに何かがきしむ音を聞いた。なにもこんな話を本人の前で続けなくてもいいのに。
「でもアリスはそれじゃ困る。だからアリスは嘘をつく。一つ目の嘘。そこらへんにある魂を宿した人形はでたらめ。魂を持つと言うならそれは自律してなければならないという嘘を」
こちらへ近づく足音がする。きっともうパチュリーは魔理沙に対して話していない。
「繰り返すけど、アリスにとっては魂を持った人形なんて、そうそう在って貰っちゃ困る存在なの。だから遠ざけた。自分が魔女としての一生、その全てを費やした先に。二つ目の嘘。自律人形の夢」
だんだん近づいてきた足音は、魔理沙の隣まで来て止まった。何と声をかけようかと魔理沙が迷っているうちにパチュリーに先を越された
「あら、アリス。早かったわね」
なにが「あら、アリス」だ、と魔理沙は思った。なんだか知らないが、この引き篭もりの書痴はアリスに対して腹を立てているのだ。彼女は他者のやる事など無関心というタイプの筆頭だと魔理沙は思っていたから、いまのパチュリーのアリスに対する態度には違和感が募るばかりだった。
魔理沙は、恐る恐るといった風にアリスのほうに顔を向けた。アリスの顔は髪に隠れて見えなかった。きっとさっきのパチュリーの話はアリスにも聞こえていただろうし、パチュリーもアリスに聞かせるつもりで声を張っていたのだろう。アリスは魔理沙の隣、パチュリーの対面で動かなかった。きっと睨んでいるんだろうなと思った。パチュリーは例の半眼でアリスを見ている。ここで怒鳴りあいの喧嘩でも始まれば、いっそ楽なんだが。
もちろん魔理沙の思ったように怒鳴りあいなど起こらず、しばしの睨み合いの後、アリスは「ご注文の品よ」と言って、手に持った箱を大机に置いた。パチュリーはそれを箱から取り出して、すこし眺め、それからまた口を開いた。
「顔が少し違うわね」
「……気のせいよ」
「いいえ、気のせいじゃないわ。あなた上海と同じ人形を作るのが嫌だったんでしょう?」
「さぁ、どうだったかしら」
あの後、結局アリスは組上げた人形の首を取り外し、全く新しく作り直した別の首と取り替えた。上海のコピーを作ることを、なぜ自分は避けるのか。その答えは判りきっている様で、けれども言葉に出来なかった。パチュリーに見破られるだろうという予感もあった。
「あなたが同じ人形を作ることを拒む理由はなに?」
「別に拒んでないでしょ」
「一度は同じ人形を作って気づいてしまったのかしら?魂の存在に」
「魂なんて…そんなもの無いわ。その人形にも上海にも。人形は私にとっては道具よ。剣士の剣、大工の槌とかわらないわ」
「本当にただの道具なら、全く同じでも構わないはずよ。それどころか、同じ物のほうが便利な場合だってあるでしょうね」
魔理沙はアリスが唇をかんでるのを見ていた。
「アリス。遠回りを否定はしないけど、最長の途を探すのはやめなさい」
「何を言ってるのかわからないわ」
「私にはあなたが最長の途を探しているようにしか見えない。その道を歩くと、まるで前に進んでいるかのように感じられるでしょうね。でも最長の途なんて在りはしないわ。それはたださ迷っているだけよ」
「…偉そうに…余計なお世話よ」
ばんと大きな音を立てて、アリスが机を叩いた。それからもう一度「余計なお世話よ」と小さく言って踵を返した。最後のほうのアリスの声は絞り出したような声で、魔理沙はアリスがそんな風に喋るのを聞いたことが無かった。その辺にしとけと何度か口を挟もうとしたが、結局魔理沙の口は開かれずじまいだった。パチュリーの言が全面的に正しいとも思えなかったが、アリスも普通じゃない。
アリスはさよならも言わずに、つかつかと図書館から出て行った。「はあぁ」と魔理沙は大きなため息をつく。目の前の魔女は、もう脇にあった本を広げていた。
「パチュリー。お前怒ってんのか?」
「怒ってなんかいないわ」
「なら…」
「魔理沙。迷いは魔女を殺すの」
殺すのよと、そうパチュリーは呟いた。魔理沙には判らないことだらけだ。アリスが二人の人間を実験で殺してしまったこと。他人に関心などないはずの魔女がなぜそのことを気にするのか。いや、パチュリーはその実験そのもではなくて、そこに至ったアリスの考えを怒っているのか。それは本当に彼女が言うように迷いなのか。迷いは魔女を殺すとはどういう意味なのか。比喩なのか実際にそうなのか。
「魔理沙、魔女は迷うと死ぬの。…そこらにいる普通の妖怪と魔女の最大の違いはなんだと思う?」
「そりゃぁ、色々あるだろ…」
「妖怪も魔女も、人間では考えられないほど長寿よね。でも妖怪はその長寿をもって自らを高めようとはしないわ。探求し成長しようと欲する精神こそが、魔女を魔女たらしめているの。でもこの欲望のせいで魔女は迷い、そして狂うのよ」
「外の世界の魔女のイメージはあなたも知っているでしょ?嬰児を焼き、喰らい、乱交し、疫病をばら撒き、人を呪う。こうしたイメージは出鱈目でもあるけど、同時に根拠もあるのよ。他者に関心が無く、ただ自らの成長のために探求する存在。そんな存在が探求の方向を見失ったらどうなるかしら。魔女は…容易に狂うの」
「そして私は狂った魔女達を嫌になるほど見てきたの」
パチュリーの眼は本には向けられていないようだった。魔理沙はそこまで聞いてやっと何かを掴んだ気がしていた。この外から来た魔女は喋る時は矢鱈と喋るくせに、肝心なことはなかなか言わないのだ。
「やっぱり、パチュリーは怒ってたんだな」
「別に怒ってる訳じゃないと言った筈だけど」
「いいや、怒ってる。それに、心配してるならもっとアリスに言うべきことがあるだろ」
「私はただ、もう見たくないだけよ。魔女が狂っていく様を」
心配してるなら心配してると言うべきなのだ。嘘を暴いて相手を追い詰めてどうなると言うのだ。
「私にできることは全部やったから。もう後は魔理沙にまかすわ」
と、パチュリーは魔理沙の眼を見ずに言った。
「よし、任された」
魔理沙は、そう言った。
そうして、魔理沙は空を飛んでいる。飛びながら考えている。自分でもなぜだか判らないが、魔理沙はものを考えるとき、一人で当ても無く幻想郷の空を飛ぶのだ。自宅で魔術の研究をしているときも、ふと煮詰まると、昼でも夜でも箒を手に家を飛び出すし、そんな調子だから、雨の日は出来るだけものを考えないようにしている。
「あの館の奴等は…」と魔理沙は思う。あの館の住人は外の世界で嫌な経験ばかりしているな、と。魔理沙は少し前に咲夜からも外の嫌な話を聞かされた。山の神社や、森の道具屋で話に聞く分には、外の世界も面白そうなのに。
ぐんっと魔理沙は高度を上げる。地平線とそこまで続く大地。一見それは途切れなく続いているように見えて、実際は博麗大結界によって区切られている。魔理沙が今見ている風景のうち半分以上は、魔理沙の手には届かない風景なのだ。いつか、外の世界を見て周ると、空を飛べるようになった時、魔理沙は密かに心に決めていた。しかし、誓ったというほど固い決意でもない。魔法に習熟し、出来ることが増え、行ける場所が広がるにしたがって、仕切られた狭い世界だと思っていた幻想郷は、魔理沙にとって逆にどんどん広くなっていった。そういう風だったから、きっと自分の寿命はこの幻想郷を隅々まで見て周る、その過程で尽きてしまうかもしれないと思ってる。
――でも、いつか知り尽くすんだ
そうしたら、人を辞めるかもしれないな、と。そう思う。それから、「ああ、やっぱり自分も魔女なんだな」とそう思った。
アリスもきっとこんな感じで、夢を決めて、そうして人を辞めたんだろうなと思う。それは決然確固とした目標や決意では無く、もっと薄ぼんやりした願望というか夢想というか、そうしたものに違いないと、そう思うのだ。逆にそうでなければ、それは夢とは言えないんじゃないかと、そう思った。
だから、パチュリーの言う「嘘」は間違ってはいないが、きっと的外れだ。
◇◇◇
逃げるように、自宅に戻ったアリスを、棚に並んだ人形達が出迎える。アリスは人形達の視線を浴びて動くことが出来なかった。
頭の中ではパチュリーの言った言葉が、意味を成さずにばらばらになって渦巻いている。一つ目の嘘、二つ目の嘘。自分は自分を騙していたのか。人の身を捨てるとき立てた、あの目標も己をごまかす為のものだったのか。迷っていると言うなら、すでにその時から自分は迷宮のただ中にいたのか。
上海とまったく同じ人形を、上海とは違うと、自分が感じたのはなぜか。上海には魂がすでにあるのか。蓬莱には仏蘭西にはあるのか。一つ一つ同じ人形を作って確かめようか。確かめて、それで自分が全ての人形のオリジナルとコピーを見分けてしまったら、その時は自分はどうしたらいいのだろう。
壊そう、そう思った。一度全てを壊そう。全ての人形を壊し、部品も全て燃やしてしまおう。パチュリーの言っていたことは本当かもしれない。自分はなぜ上海のコピーを作る事を嫌ったのだろう。道具なら同じでいいのに。自分は今まで気づかぬうちに人形の魂を感じていたのか。感じつつも無自覚だったのか、もうどうでもいい。この人形達に魂があろうが無かろうが。燃やしてしまうのだ。そうして、また新しい人形に囲まれよう。まだ魂の宿るはずも無い、新しい人形に。
そうして、アリスは一歩を踏み出そうとして、その一歩を踏み出せず、ぺたりとその場にしゃがみこんだ。壊して燃やしてまた作って、また魂を感じそうになったら壊すのか。こんなことに意味は無いのは判っている。まさに自分は今、パチュリーの言っていた最長の途を歩んでいると、そう思った。
結局、アリスは踏み出すことも、下がることも出来ず、何時間もその場に膝を抱えてしゃがんでいた。日が低くなって、部屋の中が赤く照らされるようになってから、玄関のドアが静かに開いて、魔理沙が入ってきた
「何しに来たの……」
「どうしたんだよ、そんな所でしゃがみこんで」
見られたくなかった。特に魔理沙には、見られたくなかった。
アリスがはじめて魔理沙と出合った時、魔理沙はそれは酷い格好をしていた。汚れてぼろぼろの着物を着て、瘴気漂う森をうろついている小汚い少女だった。迷い込んだものだと思ったら、この森の住人だと言う。アリスは、大棚のお嬢様で家事一般からっきしだったその少女に家事を教え、料理を教え、そして少しだけ魔法も教えた。アリスはいつの間にか魔理沙を妹のように思うようになっていた。それも出来の悪い。その出来の悪い妹分は、まるでアリスの気持ちなど知らぬという風に、つかつかと歩いてきて、アリスの腕を引っ張った。
「ほら、アリス。立てよ」
「…むり、立てないの」
立ったら、人形達を壊してしまうかもしれない。自分はもう踏み出すことも退くことも出来ないのだ。
魔理沙は「そうか」と言って、そのままアリスの前にしゃがみこんで、思いきりアリスに顔を寄せた。アリスの顔を照らしていた夕日が三角帽子のつばで遮られた。
「なぁ、アリス。パチュリーはお前の言った夢を嘘だって言ったけどな、私はあんなの信じてない」
そうして魔理沙は、あの人懐こい顔でにっと笑う。
「私はパチュリーと違って知識も経験もないから、私がアリスの立場だったらっていう考え方しか出来ない。私がアリスみたいに人形が好きで、かわいい人形を作ることが出来て、それをすごく上手く操れて。もし、私がそうだったら、私は自分の友達を作ろうとすると思う。自律人形って友達みたいなもんだろう?アリスが操るわけじゃなくて、向こうが勝手に動いて、勝手に考えるんだろ」
友達を作りたい。そうだったかも知れないなと思う。正直言って、自分は何であんな夢を掲げたのか、今になっては、もうよく判らないのだ。よく判らないからこそ、パチュリーの言葉に揺れたし、ついさっきまで全てを壊そうなどと考えていたに違いなかった。
「だけどさ、パチュリーは『アリスの人形には魂が宿ってる』とも言ってたぜ。私はこっちは信じてるんだ」
魔理沙の鳶色の眼は澄んでいて、アリスのそれより幾分色素の濃い金髪は夕日に輝いている。こんな可憐な少女がこの場にいるのが、アリスにはひどく場違いに感じられた。魔女になってからずっと、自分はずっと人形に囲まれて暮らして、自分の傍にあるのは常に人形だけだと、そう思っていた。
「私はさ、結構遠くからでも、上海と蓬莱を見分けられるんだぜ。顔もわからない、衣装の違いも見えない遠くでも、動き方とかでなんとなく判るんだ。本当にあいつ等が道具だったら、そんな事無いだろ?あいつ等、私達が話してるの聞いてリアクションしたりするじゃないか。あれも全部アリスが動かしてるなんて、私にはとてもそうは思えないぜ」
「あいつ等だって始めはそうじゃなかったと思うんだ。でも、アリスに大事にされて、長いこと一緒に暮らして、そんで魂を持ったんだろ?だから…さ、このまんまずっと、アリスと暮らし続けてれば、いつか、あいつ等はアリスの友達に、自律人形になるんじゃないかと、こう思うんだ、私は」
魔理沙が顔を離す。背を伸ばし後ろに手をついて、また歯を見せて笑う。
「変なこと言ってるかな?」
変な事は、言っているだろう。アリスはまるで呆けたかのような表情だった。言葉と理論に立脚すべき魔法使いが何を言っているのかと、魔理沙に呆れていたし、自分が他者をこんなにも愛おしいと思うとは信じられなくて、自分に呆れていた。
「お前、もしかして今呆れてるだろ?」
「うん。……でも立てるようになったわ」
「んじゃ、立てよ」と魔理沙がアリスの手を取る。何時間もしゃがんでいて足が痺れてたから、もちろんアリスはよろめいた。アリスが思ったとおり、魔理沙は受け止めてくれて、思ったとおり、二人の顔は触れ合わんばかりだった。状況は思ったとおりだったが、この後どうするかアリスは考えていなかった。頬ずりでもしようか、それとも抱きつこうかと、ちょっと迷って、結局何もしなかった。なんだか自分は凄くずうずうしいなと、そう思った。それでも握った魔理沙の手をアリスは離せなかった。ここでこの手を離してしまうのは、とても惜しいような、もったいないようなそんな気分だ。
アリスは俯いたまま、小さく「ありがとう」と言い、魔理沙は「おう」と答える。二人とも握った手をどうしようか、握ってていいものか、離すタイミングはいつなのだろうとか、赤くなりながら考えていた。
魔理沙が何か軽口でも言おうかなと考えている内に、先にアリスが暗くなりつつある窓の外を見て「…晩御飯、食べていくでしょ?」と誘った。魔理沙はもちろん快諾した。そうしてやっと二人は握った手を離した。
アリスがエプロンをして、キッチンに入るのを見てから、魔理沙は椅子に腰掛けた。テーブルには上海人形が座っている。その顔をつつきながら「はて、こいつが将来自由に喋ったり、勝手に動いたりするもんかな」と今更考えたりした。ここの人形達が皆そうなったら、ここはさぞ賑やかな家になるだろうなと、手元の上海や棚に並ぶ人形達を見ているうちに、上海がふわりと魔理沙の手から浮き上がって、そして棚からも何体かの人形が魔力糸を繋がれて、キッチンに飛んでいった。そこで「ああ、いつもの風景になった」と魔理沙は安心して、席を立った。
「アリス。ちょっと散歩してくる」
「散歩って、いまご飯作ってるんだけど?」
アリスの言い分はもっともで、魔理沙は散歩といって何時間も空を飛んだりする。
「すぐ戻るよ。箒置いていくからさ」
「歩くの?」
「散歩って言ったろ?」
魔理沙が歩いて散歩するということが、さも珍しいようにアリスは言った。魔理沙も自分で珍しいなと思っていた。玄関を出て、魔法の光を傍らに浮かべる。辺りを歩きながら、花壇からではなく、そこらの雑草の花を何本か抜いた。それから裏に回って、しばらく辺りをうろうろと歩いて、やっと木立の中に掘り返された跡を見つけた。苔の生えていない五寸くらいの丸い石が置かれている。多分間違いなかろうと、思った。
この墓を探したのは、ただなんとなく「遣り残した事があるな」と、そういう違和感というか心残りというか、そういったものに体が反応しただけだった。
魔理沙はその石の前に花を供えて、手を合わせた。
「やっぱ、強いて忘れようとするってのは、違うよな」とそう小さく声に出した。要は人であるか否かではなく、人でありたいかどうかなんだ。咲夜のいうように、自分は歪で普通の人間じゃないかもしれない。でもほんの短い時間とはいえ知り合って、そして死んだ人の記憶を忘れようとするなんて、その事を絞められた鶏に例えるなんて、それこそ人を辞めようとしていると、今になって気付いた。私はまだ人を辞めない。辞めるのは人をやりつくした後に、まだ欲望が、パチュリーのいう探求の精神が残っていたらだ。だから、私は人であろうと努力しなきゃいけないんだきっと。
――悪かったな。忘れようとして
もう一度、手を合わせて、それから表に戻った。咲夜が窓から中の様子を覗いていた。
「あら、外に居たのね」
「なんでお前が居るんだ。そしてなに覗いてんだ」
「パチュリー様に様子を見て来いって言われたのよ」
咲夜が肩をすくめて言う。
「なんだ、あいつ意外に心配性なのか。それとも私の信用が無いのかな」
「両方じゃない?まぁ平気そうだし、帰るわ」
背を向けた咲夜に魔理沙は聞いた。
「なぁ咲夜。咲夜は、レミリアに噛んでもらおうと思ったことは無いのか?」
「何言ってるの?大丈夫?」
と、振り向いて魔理沙の顔を覗き込み「魔女も大変ね」と溜息と共に言った。それから、またむこうを向いた。
「私は幻想郷(ここ)に来てやっと人になれたのよ。そうそう辞めて堪るもんですか」
まるで独り言のようにそう言って、地面を蹴って飛んでいった。魔理沙はそれを見送りながら「メイドも大変だな」と独り言を言った。
アリスの夢は、人間だったアリスが人を辞める時に決めて、そして魔女になってからの生き方の指針だったはずだ。迷ったり間違えたりはしただろうが、それは確かなことのはずだ。だったらその夢は「人間であったアリス」と「魔女のアリス」を繋ぐもので、きっと安易に捨てたりしてはいけないものだと、魔理沙は思う。やっと人になったと言う咲夜は、きっとこれから夢を作るんだろう。もう既にあるのかもしれない。自分が人を辞めるかは、まだ分らないけれども、辞めるならいい夢を魔女霧雨魔理沙に贈らなきゃいかんなと、玄関のドアを開けながら思った。
「私は狂いたくないしな」
部屋にはいると、包丁がまな板を叩く音と、食材に火が通るいい匂いがしてきて、腹がくうと鳴った。そうして魔理沙はようやく戻ってきた日常を感じていた。
(了)
咲夜のほうがよほど人間らしいですな
本編の方もいつメインキャラがヤバい事になるのかと身構えながら読んでました
あとがきにあるような作品だったら絶対に否定してたでしょうから。
中々シリアスな作品でした。
少ししか出てないけど咲夜さんがとっても魅力的ね
だけどちょこっとだけ動きがないと感じました
極論に行くのは簡単ですが、物語にすると人間臭さが抜けて面白みがほとんどなくなってしまいます。
魔女、というある意味本当に人間に近い妖怪に焦点を当ててのこの物語より面白くするのは、困難だったかと思います。
ただの妖怪なら何も悩まないのでしょうし、霊夢も悩まないでしょう。登場人物の選択もお見事だったかと思います。
とても素晴らしいです。
狂気からアリスは解放されたのかな?そうだったらいいんだけど
あ、あとがきの設定も、作品になったものを見てみたいです。
果てない夢を追う魔女たちは、その過程にこそ意義と楽しみを見出すのでしょう。ちょうど、レミリアが「狭くてきゅうくつで長い旅」だからこそ楽しんでいる、と紫が語ったのと同じように。だからこそ、迷わぬように、目標を見失ないように、魔理沙(や咲夜)には「人間」というアンカーが必要になる。
まぁこらちも中々怖い話ですが、色々考えさせられるものが。
読んでいて、本物の魔女であるパチュリーとアリスも、似ているようで大きな差があることを感じました。
自身の探究のためなら結構簡単に人を殺す二人ですが、お話の中ではパチュリーの方がどこか躊躇(というか咲夜(=人間)への遠慮?)を感じているような一面があります。
パチュリーはやっぱり「人間(咲夜)と一緒に暮らしていること」が大きくて、人間を「どうでも"よくない"存在」と感じているのかなあ、と。
一方アリスは長く一人で暮らしていて、人間より、人形の方に愛着を感じているような節があります。
だから最初の青年やアンを殺すことを(咲夜や魔理沙という"人間"に対しても)割とオープンに言えてしまう。
もしもの話ですが、アリスが魔理沙とずっと暮らしていたら、パチュリーのような遠慮も感じるようになったのでしょうか。
なんか言ってることがよくわかんなくなってしまいましたが、とにかく面白かったです!
ありがとうございました。
あと誤字報告をば
>いわんや、アリスのためにそれをすつもりもない。
するつもり
>まだわからない部分がるっていうなら
部分がある
>魔理沙を妹のように思うようなっていた
ようになっていた (誤字じゃなかったらすみません)
魔理沙は魔法使いだけどやっぱり人間でそこが魅力的だな、とも。
面白かったです。
幻想郷らしい恐ろしさといとおしさを感じました
夢が夢たり得ないことに気づいた時、
魔女は存在意義を失うという事でしょうか。
こういう解釈は初めて見ました。
面白かったです。
またこの世界観でお話を読みたい。
誤 作業台に寝かた
正 作業台に寝かせた
暗いけど救いもある話になって本当に良かった…
この展開の方が好きです
パチュリーの説明が残念すぎる
推測や予想ですらない妄想で否定されたアリスさんが可哀想