神社があまりに暑いから、水を撒いた。
熱が籠もるからふすまもすべて開けた。
水を浴びたりもした。
それなのに、縁側で涼む私の右腕に抱き付いて離れない妖怪が居る。服ももこもこしてるし、漂うお面も鬱陶しい。
「あの、こころ。暑い」
何故かギュッと腕にしがみついたまま、既に五分が経過している。
汗が出てきた。
「我こそは秦こころ。感情を司る者」
「知ってる。宗教家と決別しようとしたことも知ってる」
だから、なんでこんなことしてるのか知りたい。
……新手の嫌がらせだったりするんだろうか。
私がこころをジッと見ていると、無表情のままこころはこくりと頷いた。
「知っていたか」
「そりゃ、その名乗り三回目だから」
そこまで記憶力弱くない。
「知られているのは。憶えられているのは悪くない。嬉しいわ」
そういうと、にへらとこころは破顔した。
「え、あれ!? あんた、笑える様になったの?」
「何が?」
きょとんとした真顔。普段通りの表情。
思わず目を擦る。見間違いだったのだろうか。
「さ、さっき笑わなかった?」
「笑った? どうやるの? どうなってたの?」
見間違いだったのかもしれない。
……まぁいいや。
「で、話戻すわよ。あんた何してるの?」
「ふっふっふ。私は判ったの」
不敵に笑う。でも腕は放してもらえない。
「こうやって誰かと一緒に居ることは楽しくて、そして嬉しいわ。これが感情なの」
ドヤッ。
……あれ!? やっぱり笑ってる!
「こころ。あんたお面なくても、もう大丈夫なの?」
「お面が?」
また真顔に戻る。
あれ……無意識?
二度目に会った時も結構感情表現は豊かになっていたけど、今度は表情もちゃんと変わるじゃない。
「まぁいいわ。それで、なんで抱き付いているの?」
「あててみたの」
「何を?」
訊ねてから、なんとなく気付いた。
……だけど、それにしては、人のこと云えないけど、貧相過ぎる。
「こうやると相手が喜ぶと、里の書物に」
「そう。でも、相手と季節を選んだ方がいいわよ」
「なるほど。道理で暑いと思ったわ」
こころは離れた。
……ほんと暑かった。
「なら、どうしたら嬉しくなるの?」
「自分で考えろ、と云いたいところだけど、一緒に涼んでみる? 今日は暇なの」
「一緒に涼む-」
子供なのか大人なのか掴みかねる妖怪は、居間に上がった私に続いて、両手を上げて居間に上がってきた。
とりあえず……もう一回水を浴びる。
まず服を脱ぐ。
そしてこころのも脱がす。
「……ちょっと恥ずかしい」
頬を赤らめ、体を隠す。まだ表情はやや固いが、恥じらっている感じはする。
「注目されるのは嬉しいのに、これは恥ずかしい。何故だ!」
「裸だからよ」
「そういうものか」
賢いのか阿呆なのか。あと理解してるのかどうなのか。
……裸で飛び出して注目集め始めたら調伏しないと。
ごほんと咳払い。
「さぁ、入るわよ」
「おー」
両手を上げて浴場へ。さっきまで体を隠していたのはなんだったのかという明け透けっぷり。恥じらいが今ひとつ薄いみたいで若干不安。
とりあえず頭から水を被して、洗う。私も浴びて、洗う。
湯船は……避けることにした。下手にこころの面倒見てると逆上せる予感がするし。
風呂を出て、新しい服を着る。
こころの換えがなかったから、巫女装束を貸してみることにした。
「腋が涼しい」
「そうでしょう」
「ちょっと恥ずかしい」
「え、そう?」
腋を押さえて頬を赤らめる。
……そんなことされると私もなんだか恥ずかしくなるなぁ。
「かき氷作ったら食べる?」
「浴びる」
「食え」
居間でシロップ入りの氷浴びたら蹴っ飛ばす。
そう思っていると、こころがにやりと笑い出す。
「ふっふっふ。これが、構われるということなのね! 楽しい!」
「悪い笑顔で云うことか!」
「あ、痛い。攻撃されたら痛い」
デコピンしたら、額押さえて涙目になってた。
ふぅ。随分と表情豊かになったものね。
「作って持ってくるわ」
「頼むわ」
偉そうなところだけ気になるけど……
そしてかき氷を食べていると、きーんとしたのか、目を閉じて額に皺を寄せたりしていた。
「あんたさ。宗教家と決別するんじゃなかったっけ?」
「宗教家と決別することと、霊夢さんと仲良くすることは相容れるもん」
「……小難しいこと云ってるのか屁理屈こねてるのか」
たぶん屁理屈だろう。
「ついでに聞くけど、何しに来たの?」
「霊夢さんと一緒に居てみたかったの。そしたら、何か学べると思って」
……意外と真面目そうな返答が返ってきたわね。
それにしても……何をなのかしら。
「色々な奴に好かれているあなたに、どうしたら好かれるのかを学びたくて」
難題だった。
……自覚は、ないのだけど。
「私も好かれたいもん」
「それだけ聞くと大層あざといわね」
悪いことではないけれど、堂々と云われるとどうしたものかと。
「注目されるのも、応援されるのも、期待されるのも嬉しかったわ。だから、今度は好かれたい。好かれて、見られたい。それはきっと、素敵なこと」
云いながら、頬を赤らめて、やがてにはっと笑う。
……笑い方は随分と自然になった、というかもう完璧というか。
「これは、良い感情かな?」
「感情に良し悪しを付ける気はないけど、好ましい変化だと思うわ」
「好ましい……好かれてる?」
「えっ!? ちょっと意味違うけど、まぁ、好いている、ってことなのかな?」
すると、今度は歯を見せて童女の様に笑った。
少し、可愛いわね。
「私の表情の不具合は、随分と解消されたみたい。ありがとう」
そういいながら、またこころは抱き付いてきた。
「暑いってのに……」
猫の様に笑うこころは、私の腕にしがみついて笑っていた。
そしてそのまま、こころは夕食を同伴するだけでなく、服は乾いていたというのに、ちゃっかり泊まっていくことにした。
居間に蒲団を二つ敷くと、そっとこころは私の蒲団とこころのふとんを繋げる。
「暑いって」
「一緒に寝てみたい」
抱き付かれたら寝られる自信ないんだけど。
しかし、そう云って聞き入れてもらえる自信もなかったので、溜め息一つ吐いて、そのまま眠ることにした。
風は優しくて、少しぬくいけど、それでも涼しくて。
穏やかで、優しかった。
抱き付かれこそしなかったが、かなり至近距離で向き合う形にはなった。
これはこれで寝苦しい。
「ねぇ、こころ」
「ん? 何?」
眠そうな顔で、けれどジッと私のことを見てくる。
「あんた、急に笑える様になってたけど、何かしたの?」
「特別なことはしていないけど」
そう云いながらこころはそっと私に抱き付いてきた。
……暑い。
「あててみたの」
「いや、それ昼間も聞いたけど」
「ううん」
そう云いながら、こころはニッと笑いながら目を閉じた。
「修正パッチ」
熱が籠もるからふすまもすべて開けた。
水を浴びたりもした。
それなのに、縁側で涼む私の右腕に抱き付いて離れない妖怪が居る。服ももこもこしてるし、漂うお面も鬱陶しい。
「あの、こころ。暑い」
何故かギュッと腕にしがみついたまま、既に五分が経過している。
汗が出てきた。
「我こそは秦こころ。感情を司る者」
「知ってる。宗教家と決別しようとしたことも知ってる」
だから、なんでこんなことしてるのか知りたい。
……新手の嫌がらせだったりするんだろうか。
私がこころをジッと見ていると、無表情のままこころはこくりと頷いた。
「知っていたか」
「そりゃ、その名乗り三回目だから」
そこまで記憶力弱くない。
「知られているのは。憶えられているのは悪くない。嬉しいわ」
そういうと、にへらとこころは破顔した。
「え、あれ!? あんた、笑える様になったの?」
「何が?」
きょとんとした真顔。普段通りの表情。
思わず目を擦る。見間違いだったのだろうか。
「さ、さっき笑わなかった?」
「笑った? どうやるの? どうなってたの?」
見間違いだったのかもしれない。
……まぁいいや。
「で、話戻すわよ。あんた何してるの?」
「ふっふっふ。私は判ったの」
不敵に笑う。でも腕は放してもらえない。
「こうやって誰かと一緒に居ることは楽しくて、そして嬉しいわ。これが感情なの」
ドヤッ。
……あれ!? やっぱり笑ってる!
「こころ。あんたお面なくても、もう大丈夫なの?」
「お面が?」
また真顔に戻る。
あれ……無意識?
二度目に会った時も結構感情表現は豊かになっていたけど、今度は表情もちゃんと変わるじゃない。
「まぁいいわ。それで、なんで抱き付いているの?」
「あててみたの」
「何を?」
訊ねてから、なんとなく気付いた。
……だけど、それにしては、人のこと云えないけど、貧相過ぎる。
「こうやると相手が喜ぶと、里の書物に」
「そう。でも、相手と季節を選んだ方がいいわよ」
「なるほど。道理で暑いと思ったわ」
こころは離れた。
……ほんと暑かった。
「なら、どうしたら嬉しくなるの?」
「自分で考えろ、と云いたいところだけど、一緒に涼んでみる? 今日は暇なの」
「一緒に涼む-」
子供なのか大人なのか掴みかねる妖怪は、居間に上がった私に続いて、両手を上げて居間に上がってきた。
とりあえず……もう一回水を浴びる。
まず服を脱ぐ。
そしてこころのも脱がす。
「……ちょっと恥ずかしい」
頬を赤らめ、体を隠す。まだ表情はやや固いが、恥じらっている感じはする。
「注目されるのは嬉しいのに、これは恥ずかしい。何故だ!」
「裸だからよ」
「そういうものか」
賢いのか阿呆なのか。あと理解してるのかどうなのか。
……裸で飛び出して注目集め始めたら調伏しないと。
ごほんと咳払い。
「さぁ、入るわよ」
「おー」
両手を上げて浴場へ。さっきまで体を隠していたのはなんだったのかという明け透けっぷり。恥じらいが今ひとつ薄いみたいで若干不安。
とりあえず頭から水を被して、洗う。私も浴びて、洗う。
湯船は……避けることにした。下手にこころの面倒見てると逆上せる予感がするし。
風呂を出て、新しい服を着る。
こころの換えがなかったから、巫女装束を貸してみることにした。
「腋が涼しい」
「そうでしょう」
「ちょっと恥ずかしい」
「え、そう?」
腋を押さえて頬を赤らめる。
……そんなことされると私もなんだか恥ずかしくなるなぁ。
「かき氷作ったら食べる?」
「浴びる」
「食え」
居間でシロップ入りの氷浴びたら蹴っ飛ばす。
そう思っていると、こころがにやりと笑い出す。
「ふっふっふ。これが、構われるということなのね! 楽しい!」
「悪い笑顔で云うことか!」
「あ、痛い。攻撃されたら痛い」
デコピンしたら、額押さえて涙目になってた。
ふぅ。随分と表情豊かになったものね。
「作って持ってくるわ」
「頼むわ」
偉そうなところだけ気になるけど……
そしてかき氷を食べていると、きーんとしたのか、目を閉じて額に皺を寄せたりしていた。
「あんたさ。宗教家と決別するんじゃなかったっけ?」
「宗教家と決別することと、霊夢さんと仲良くすることは相容れるもん」
「……小難しいこと云ってるのか屁理屈こねてるのか」
たぶん屁理屈だろう。
「ついでに聞くけど、何しに来たの?」
「霊夢さんと一緒に居てみたかったの。そしたら、何か学べると思って」
……意外と真面目そうな返答が返ってきたわね。
それにしても……何をなのかしら。
「色々な奴に好かれているあなたに、どうしたら好かれるのかを学びたくて」
難題だった。
……自覚は、ないのだけど。
「私も好かれたいもん」
「それだけ聞くと大層あざといわね」
悪いことではないけれど、堂々と云われるとどうしたものかと。
「注目されるのも、応援されるのも、期待されるのも嬉しかったわ。だから、今度は好かれたい。好かれて、見られたい。それはきっと、素敵なこと」
云いながら、頬を赤らめて、やがてにはっと笑う。
……笑い方は随分と自然になった、というかもう完璧というか。
「これは、良い感情かな?」
「感情に良し悪しを付ける気はないけど、好ましい変化だと思うわ」
「好ましい……好かれてる?」
「えっ!? ちょっと意味違うけど、まぁ、好いている、ってことなのかな?」
すると、今度は歯を見せて童女の様に笑った。
少し、可愛いわね。
「私の表情の不具合は、随分と解消されたみたい。ありがとう」
そういいながら、またこころは抱き付いてきた。
「暑いってのに……」
猫の様に笑うこころは、私の腕にしがみついて笑っていた。
そしてそのまま、こころは夕食を同伴するだけでなく、服は乾いていたというのに、ちゃっかり泊まっていくことにした。
居間に蒲団を二つ敷くと、そっとこころは私の蒲団とこころのふとんを繋げる。
「暑いって」
「一緒に寝てみたい」
抱き付かれたら寝られる自信ないんだけど。
しかし、そう云って聞き入れてもらえる自信もなかったので、溜め息一つ吐いて、そのまま眠ることにした。
風は優しくて、少しぬくいけど、それでも涼しくて。
穏やかで、優しかった。
抱き付かれこそしなかったが、かなり至近距離で向き合う形にはなった。
これはこれで寝苦しい。
「ねぇ、こころ」
「ん? 何?」
眠そうな顔で、けれどジッと私のことを見てくる。
「あんた、急に笑える様になってたけど、何かしたの?」
「特別なことはしていないけど」
そう云いながらこころはそっと私に抱き付いてきた。
……暑い。
「あててみたの」
「いや、それ昼間も聞いたけど」
「ううん」
そう云いながら、こころはニッと笑いながら目を閉じた。
「修正パッチ」
完全に不意打ちでした。まさかの。まさかの。ああー見事。
その面倒見の良さが、皆に好かれる由縁ですね。
オチもよかった!
ただこころちゃんは霊夢をさん付けしてませんでした?
まあどうあれとても良い作品でした。
こころちゃん可愛い!
無表情なこころちゃんもかわいいし表情豊かなこころちゃんもかわいい
タイトルは本文中に関係のあることが合ってようやく結びつける人なのです。
ほのぼのしてたのに吹きだしちゃったよww
で、心ちゃんが表情豊かになるパッチはいつですか?
完璧にひっかかりました。読めませんでした。パッチが出た時に読んでいれば気づいたかも……あー悔しい。
こころの笑顔パッチね、あててみたいような、そうでないような。
拙者が大爆笑でござるよ
とても良いこころでした