Coolier - 新生・東方創想話

傘の上を撥ねる雨の音が心地いい

2013/08/23 23:51:10
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 まだ少し、暑い。
 強烈な日差しこそ無くなったのだが、空気が暑く乾燥している所為か、人里には病人が増えたという話を聞いた。季節の変わり目と言うのは、実に難儀なものである。
 雲山が日の光を遮っているとはいえ、暑いのは変わりない。
 私の視線の先から、一人の女性が歩いてくる。
 半袖から伸びる二の腕が眩しいのは、鍛えられている証なのだろうか。健康的だ。
 
「遅いわ、先にチルノが来たら二人で叱るつもりだったのに」
「ははは。すいません、ちょっと並んでまして」

 私のパシリと化しているのは、私の背後にある真っ赤な館の門番である。メイドの許可を得て、門番を交代する代わりに、おすすめのお菓子を買ってくるという契約の元に行動している。
 今日はサラシが緩いのか、けしからんおっぱいが軽く揺れて、目の保養だ。私の持論としては、姐さんのように先端が尖った感じの方が好きなのだが。
 私のは大きさこそ合格だが、形がイマイチな気がする。とか言っていたら、美鈴が私にお菓子を投げてきた。

「口に出てますよ」
「あら、本当?」
「まったく、もう」

 左手で受け取った菓子は冷たく、最近チルノ達が開いた氷菓子屋の物らしい。なるほど、これは確かにおすすめだ。
 ミスティアのコネとお金で食材を買い、チルノがそれを凍らせる。リグルと橙と大妖精が勘定を担当して、ルーミアが隣で美味しそうに試食するのだ。
 今回は氷バナナのようだ。美味しいのか?

「美味しいですよ、私もためしに一本食べましたから」

 美鈴はもう食べ始めている。頭がキーンとならないのか、一気に根元まで咥えている。
 うん、一瞬だけ銀髪のメイドが写真を撮っていたような気がしたが、気の所為だと思おう。多分、時間停止を一瞬忘れていたのだとか、推察するまでもない。
 ん?

「美鈴、三本買ったの? 渡したお金じゃ、二本買って少し余るぐらいだと思うけど」

 実はチルノの氷菓子は結構高い。正確に言えば、果物などの食材が高値。
 ちなみに『ひゃくまんえん!』とか、氷菓子の値段を適当に決めたチルノの金銭感覚を矯正したのは、説教好きな仙人である。物好きなことだ。

「はは、実はその人に借りたんですよ」
「その人?」

 そう言うと、美鈴は上を指差す。手を使わずに氷菓子咥えてるのは、なんだろう、背徳的な匂いがする。あ、またメイド。
 私は指差された上空へと目を向けた。
 そこには、大きなドラムがくるくると回っている姿が見える。
 去年、付喪神達の下剋上異変の後に知り合った女性のものだった。

「あら、雷鼓じゃない。あなたお金とか持ってたの?」
「この間呑んだじゃないか、ミスティアの店で」
「そう言えばそうね」

 ドラムがくるっと垂直になると、スーツを脱いで腰に巻いている、宝塚系女子がへばりついていた。口には同じようにバナナを咥えている。
 額に滲む汗は隠せていないものの、爽やかに微笑んでいるため好感度アップが図れるだろう。地味な僧職系女子としては素直に羨ましい。

「もうすぐ店長も来るそうだ。今日は大盛況だったからな。あ、それと君達がしようとしている事に私も参加させてもらおう」

 私は少し悩んで、ぐっと親指を上げる。
 この場合の店長というと、チルノの事だ。
 食材が無くなると閉店するので、ほとんど午前中に閉まっている。
 もうすぐ日が真上に昇るので、そろそろ閉まる頃だろう。
 これで残すはチルノのみとなった。太鼓妖怪というイレギュラーも来たが、まあ問題ない。

「今日はなんだかお父さん達が多かったですね。流石は大黒柱、奥さんに買って行ったんでしょうねー」
「美鈴、その予想は当たってるけど外れてるわ」
「ははは、一輪は邪推が過ぎるな」
「せんせー、私だけ会話から置いてけぼりくらってまーす」
「美鈴だもの」
「美鈴だからな」

 息ぴったりだぜ。と、私と雷鼓は意味もなくハイタッチする。
 会話の意味が分からず、首を傾げる美鈴はやはりエロティックだ。私はきょろきょろと周りを見てみるが、今回のメイドは隙が無いようだ。
 しかしこんなエロい美人がヅカ系美人と一緒に人里に行ったのか、教育に悪いなあ。
 いや、あの堅物教師も大して変わらないか。

「五千百度とは言わないが、夏は暑いものだな」
「雲山の陰に入ってるあなたが何を言っているのかしら?」
「こりゃ失敬」

 これが結構涼しいので、夏になると命蓮寺中庭上空には、薄紫の雲が出るのだ。
 私は指をくるくると回し、雲山にもう少し広がるようにお願いする。

「あ、私も入れてくださいよー」
「ほらほら、広がったから入りなさいよ」
「やっぱり一輪は気が利きますねー」
「褒めても雲しか出ないわよ?」
「助かりまーす」

 と、美鈴も陰の中に入ってくる。

「一輪も、その暑そうな頭巾脱いだ方がいいですよ」
「ああ、それもそうね。いくら親友の形見とは言え、自分を蒸し殺すのはよくない」
「そりゃそうだわ」

 私は頭巾を後ろにずらし、頭を露出させる。
 今日は後ろ髪を一つにまとめているが、姐さんの要求によってはおさげにしてたりする。長いと便利だが、暑いのが難点だ。

 そうして三人でバナナを食べていると、雲山の陰が真上から動いていく。
 草木が揺らめく姿を楽しんでいると、地平の向こうから青い妖精が飛んできている姿が見えてきた。
 後ろには夜雀達が並んで飛んできている、けれども妙な連中もついてきていたりするのは、途中で拾ってきたのだろうか。

「紅白巫女に白黒魔女、騒霊三姉妹に白狼天狗に花妖怪、山の巫女やら狼女山彦なんて、随分と圧巻。震えが来るような壮々たるメンバーだ」
「ははは、巫女来ちゃいましたねえ。異変扱いされちゃうんでしょうか」
「ま、迷惑はかけないから良いんじゃないかしら?」

 私はすぐに金輪で雲山に、『もっと広がる』ように指示する。念じた瞬間、一気に雲が屋根のように広がる。
 降り立ってきた人妖達は、次々と雲山の下に入る。

「アンタらがやろうとしてること聞いたわよ。妖怪の癖に」

 やべ、紅白巫女さんが仁王立ちしてらっしゃる。
 戦々恐々とする私と赤髪二人。

「ま、今回は認めてあげるわ。妖怪の癖に、みんなの助けになるみたいだし」

 ほっと胸を撫で下ろす。うむ、今日も胸は柔らかい。
 そうしているとチルノもやってきて、よっ!と私達に挨拶する。

「なんかみんなついてきたけど、大丈夫か?」
「ううん、まあいいわ。当初の五人よりは多いけど、数が多いに越したことは無いしね」
「ところでチルノちゃん、今回の事は」
「うん! めーりん達がすっげえことやるってすっげえ自慢した!」
「おかしいなー、私は止めたんだけどなー」
「まあ、多少漏れる事は計算の内よ。妖精の口に戸は立てられないって言うしね」

 実際、美鈴も雷鼓を連れてきたわけだし。
 しょうがない、采配しよう。これでも私は、寅丸以外で唯一封印されずに、みんなを探し続けた不屈の僧侶だ。宝塚系ではないが、僧職系の本領発揮と行こうじゃないか。

「起きて、こころ。準備するわよ」

 その名前を呼ぶと、雲山の中からお面を付けた美少女が、逆さまに顔を出した。
 ぶるんと揺れた所を見ると、サラシも下着も身に着けていないようだ。けしからん。

「おはよ、一輪」

 そして私は他の臨時メンバーを把握して、出来る限り対応できるであろう指示を出すことに努める。

「美鈴、まずはパチュリーに知らせて、二人で水の属性を強めて」
「理解!」
「雷鼓は――」

 そして私達は、乾いた世界に異変を起こすのだ。


 ◆


 人里に、雨が降る。

 人々は急造された舞台で突然始まった、秦こころの静かな舞に魅了され始めた。
 そこに打楽器の静かながら力強い音色が天空から降り注ぎ、続いて騒霊三姉妹次女の管楽器が吹き鳴らされる。
 音が増えていき、最後に夜雀の歌声が加わる時、既に音楽は熱狂の域に達していた。
 神事のように踊る二人の巫女も熱狂に加わり、リズムに乗った人々の熱が最高潮に達した時に、最初の一滴は雷鼓のドラムへと落ちた。
 やがて、人々は徐々に気付いてく。
 空気を湿らせる天の恵みに、空から降ってくる雫に。
 上空には人魚や楽団が飛んで、青い妖精が緑の妖精と楽しげに踊っている。
 人里に雨が降る。
 七曜の魔女と龍の末女から力を得た入道雲に、氷の妖精と音楽が刺激を与えた。
 入道からは豊作を約束する落雷と共に、恵みの雨が降る。

 寺子屋で教鞭を執る大魔法使いと歴史家は、窓に駆け寄る子供達を止めず。
 運航していた聖輦船で、正体不明と舟幽霊が踊りだす。
 悪魔の館の主人と妹は、バルコニーで優雅に紅茶を飲み。
 竹林では不死者達が笑う。
 妖怪の山で新聞を書きながら、天狗は空を見る。
 マヨヒガの猫は毛繕いして、幼き主に会いに行く。
 魔法の森で、人形達が雨を知らせる。
 古本屋の幼き店番は、焦がれる人に文を書く。
 乾いた地面は雨を吸い、曇った天は笑いながら雷を落とす。
 花は活力を喜び虫は鳴く。
 光の三妖精は、雨の音を消して遊んでいる。
 入道使いが、相棒を誇りながら胸を張り。


 幻想郷に、雨が降る。
雨が降るっていいことですよね。ちょっと気分は沈みますけど。
子供の頃は水たまりの水が長靴の中に入っても、楽しそうにはしゃいでましたよね。天気の悪い雨の日でも雪の日でも風の日でもみんな楽しんでもいいんですよ。迷惑かけない程度には。
雨の日には水没ごっこしてましたし、風の日にはメリーポピンズしてましたし、雪の日には少ない雪をかき集めて雪合戦してました。
勿論ゲームしてもいいんですよ。雨の日にマジカルバケーションして、ちょっとさびしい気分になったのはいい思い出です。
本を読んで感傷に浸ってもいい、夢水清志郎と怪盗クイーンがお気に入りでした。
なんだかんだ言って、雨の日が好きです。それだけです。





まあ、大人になった今となっては濡れ透けとか考えながら雨の日は外を見てますけどね。
大人になるってかなしいことなのとか思いつつも濡れて透けた美少女女子高生が二人でいちゃいちゃしてないか探してます。
キモいです。まさか子供の頃はこんなキモい思考の大人になるなんて考えませんでした。いつの間にか濡れた白蓮様を一輪さんが拘束していちゃらぶする卑猥な話とか書いてます。大人になるって怖いですね。
ラック
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コメント



0.620簡易評価
2.100名前が無い程度の能力削除
あとがきwwww
本編は色々ネタ仕込んでクスッとした。めーさくもかわいいし、こういう空気好きだ
3.90名前が無い程度の能力削除
三月精を見る限り農業が大きな位置を占める人里経済圏にとって、降雨をコントロールできるというのは最高のアドバンテージになるでしょう。
そして信仰も集まるでしょう。思えば、原初の宗教の多くは、雨乞いをその利益の一つに据えていたのですから。

雰囲気が和気藹々としていてとても良かったです。非常に多数のキャラクターを出しながら、それぞれに役話を与えているのはすごい。
4.90奇声を発する程度の能力削除
所々のネタも面白く楽しく読めました
7.90名前が無い程度の能力削除
一輪さんwwww
とても面白かったです!
9.100名前が無い程度の能力削除
面白かった

あとがきはよくわかる気がするww
16.90名前が無い程度の能力削除
能力の使い方の発想が好きです
21.803削除
雨雨降れ降れのSSですが、会話が小気味良く、読んでいて清々しさを感じます。
原作で絡みのないキャラ同士のSSは見ていて新鮮ですね。
原作では描かれない幻想郷の1ページ、という印象を受けました。