誰の所為だったのか。
そもそも彼女がどうしてこんな惨状を生んでしまったのか。
彼女の青とはまるで似ても似つかぬ、真っ赤な世界に、光は落ちる。
それはまるで雲間のようだった。
◆
次に死んだのは、霊廟の主。
体中が骨折して、首と胴体が泣き別れして、その頭は無残にも丸焼けと化していた。
誰が殺したかは私には分かっていたが、それが真実かは分からない。
◆
今日はあの人の誕生日だからと、あの尼僧は浮ついた気分で食事を拵えていた事を覚えている。
私はそれを、どこか遠くを見るように見つめていた。
こんな感情を、私は知らない。
この感情なら、誰よりも熟知している。
◆
次に死んだのは放火魔だった。
勿論、胴体は首をつけていない。首はどこに行ったのだろうか。不自然なくらい凹んだ地面の底にあって欲しくはないと悪霊は言い、縋るような嗚咽を漏らす。
その頭が探される事は無いだろう。
◆
あの人は、少し甘い方が好きなのよ。
卵焼きの好みなんて聞いてません。聞いてません。聞いてません。
聞きたくありません。
鼻歌なんて、歌わないでください。
◆
次に肉塊になったのは。悪魔の館の主だった。
地面に深く突き刺さる槍に、心臓を縫いつけられていた。
頭なんて、最初から無かったんじゃない?
◆
夜はいつも甘えてくるのよなんて、顔を赤らめて自慢する姿はとてもとても、美しいとしか言えません。
どこを見てるんですか? お茶が吹きこぼれてますよ。
こっちを見てよ、見たいんでしょ?
見たいって言ったんだもの。こっちに来て、私を見てよ。
◆
最後に死んだのは、普通の魔法使いだった。
彼女の体はとても綺麗で、健康的で、瑞々しいままでした。
しかし顔はひどく恐ろしい形相で、何かにひどく怯えてました。
◆
その時の彼女は、泣いていました。
優しい彼女は、愛した彼女は、酷く泣いていました。
でも、私ははっきり見たのです。
悲しみの中で、慟哭の中で。
彼女は誰よりも何よりも、怒りを燃やしていました。
◆
「どうしてここが分かったのか、じゃないわね。どうしてこんなことを、は私か」
彼女は光の無い瞳で私を睨みつけます。
「貴女だったのね、こころ」
体に青と赤の霊気を纏わせて、白銀の刃を編み込んで造られている鎧と日輪のような刃で形作られた圏。
そして薄い雲を背後に、彼女は私を濁った瞳で睨むのです。
そうでしょう、そうでしょう。
何故なら私が彼女の恋人を殺したのですから。
なんでなんでしょう。私はちょっと思っただけなんです。
ちょっと、ほんのちょっと。
私を見てほしかった、私を一人にしないでほしかった、それだけなんです。
私は体の周りに浮いている面を全て、出現させました。
彼女は鎧で体を覆いました。そして、背後から千本の手のように刀剣を現れました。
「どうして貴女が……」
「……どうして?」
好きって感情を覚えた所為だと、私は思います。
◆
「以上が、秦こころの残留思念から読み取った事の顛末よ」
「便利な神もいるものね。死者の声を読み取るなんて」
「あんたのスキマの方が便利よ」
今回の異変の首謀者、というより主犯は雲居一輪であった。
正直、私はあまり意識していなかった存在なため、真相が発覚した直後は誰なのか分からなかった。
しかし入道を精神力のみで操っていると聞いた時には驚愕したものだ。
入道なんて天災中の天災ではないか、それを手足のように操り、あまつさえ法力によって護法童子へと変身するなんて化物もいいところである。千年も研鑽していたのなら。それこそ低位の神にさえ匹敵しかねない。
その気になれば人里が壊滅する。
「そして、その原因となった聖白蓮殺害事件の犯人は秦こころだった、という訳ね」
その通り。
強い嫉妬の感情を持って、聖白蓮が油断した瞬間に背後からブスリ、だ。
そんな秦こころは雲居一輪と共に、死体となって発見された。
秦こころは首から上が無く、雲居一輪は苦悶の表情で死んでいた。
「で、結局この件はどう処理するのよ。霊廟は主が変わるだけとはいえ、寺の方は頭と両手と心が切り離されたようなものなんでしょう?」
まあ今回は頭だけだったけどさ。と、私は不謹慎気味に独り言を言う。
そう言うと、スキマから顔を出している女はくすりと笑う。
「問題ないですわ、問題ありません。しかし、ああ怖い怖い。これはつまり、愛が怖いってお話なんですわ」
その瞳に、光は無く――。
◆
「という夢を見たのです! 愛って怖いですね、一輪!」
「ちょっと待ちなさい寅丸、なんで私がそんな殺人鬼になってるのよ!?」
「ナズーリンが拾ってきたんですよ、えっと『やんでれのおんなのこにあいされ』」
「こっちこいやネズミいいいい!」
そもそも彼女がどうしてこんな惨状を生んでしまったのか。
彼女の青とはまるで似ても似つかぬ、真っ赤な世界に、光は落ちる。
それはまるで雲間のようだった。
◆
次に死んだのは、霊廟の主。
体中が骨折して、首と胴体が泣き別れして、その頭は無残にも丸焼けと化していた。
誰が殺したかは私には分かっていたが、それが真実かは分からない。
◆
今日はあの人の誕生日だからと、あの尼僧は浮ついた気分で食事を拵えていた事を覚えている。
私はそれを、どこか遠くを見るように見つめていた。
こんな感情を、私は知らない。
この感情なら、誰よりも熟知している。
◆
次に死んだのは放火魔だった。
勿論、胴体は首をつけていない。首はどこに行ったのだろうか。不自然なくらい凹んだ地面の底にあって欲しくはないと悪霊は言い、縋るような嗚咽を漏らす。
その頭が探される事は無いだろう。
◆
あの人は、少し甘い方が好きなのよ。
卵焼きの好みなんて聞いてません。聞いてません。聞いてません。
聞きたくありません。
鼻歌なんて、歌わないでください。
◆
次に肉塊になったのは。悪魔の館の主だった。
地面に深く突き刺さる槍に、心臓を縫いつけられていた。
頭なんて、最初から無かったんじゃない?
◆
夜はいつも甘えてくるのよなんて、顔を赤らめて自慢する姿はとてもとても、美しいとしか言えません。
どこを見てるんですか? お茶が吹きこぼれてますよ。
こっちを見てよ、見たいんでしょ?
見たいって言ったんだもの。こっちに来て、私を見てよ。
◆
最後に死んだのは、普通の魔法使いだった。
彼女の体はとても綺麗で、健康的で、瑞々しいままでした。
しかし顔はひどく恐ろしい形相で、何かにひどく怯えてました。
◆
その時の彼女は、泣いていました。
優しい彼女は、愛した彼女は、酷く泣いていました。
でも、私ははっきり見たのです。
悲しみの中で、慟哭の中で。
彼女は誰よりも何よりも、怒りを燃やしていました。
◆
「どうしてここが分かったのか、じゃないわね。どうしてこんなことを、は私か」
彼女は光の無い瞳で私を睨みつけます。
「貴女だったのね、こころ」
体に青と赤の霊気を纏わせて、白銀の刃を編み込んで造られている鎧と日輪のような刃で形作られた圏。
そして薄い雲を背後に、彼女は私を濁った瞳で睨むのです。
そうでしょう、そうでしょう。
何故なら私が彼女の恋人を殺したのですから。
なんでなんでしょう。私はちょっと思っただけなんです。
ちょっと、ほんのちょっと。
私を見てほしかった、私を一人にしないでほしかった、それだけなんです。
私は体の周りに浮いている面を全て、出現させました。
彼女は鎧で体を覆いました。そして、背後から千本の手のように刀剣を現れました。
「どうして貴女が……」
「……どうして?」
好きって感情を覚えた所為だと、私は思います。
◆
「以上が、秦こころの残留思念から読み取った事の顛末よ」
「便利な神もいるものね。死者の声を読み取るなんて」
「あんたのスキマの方が便利よ」
今回の異変の首謀者、というより主犯は雲居一輪であった。
正直、私はあまり意識していなかった存在なため、真相が発覚した直後は誰なのか分からなかった。
しかし入道を精神力のみで操っていると聞いた時には驚愕したものだ。
入道なんて天災中の天災ではないか、それを手足のように操り、あまつさえ法力によって護法童子へと変身するなんて化物もいいところである。千年も研鑽していたのなら。それこそ低位の神にさえ匹敵しかねない。
その気になれば人里が壊滅する。
「そして、その原因となった聖白蓮殺害事件の犯人は秦こころだった、という訳ね」
その通り。
強い嫉妬の感情を持って、聖白蓮が油断した瞬間に背後からブスリ、だ。
そんな秦こころは雲居一輪と共に、死体となって発見された。
秦こころは首から上が無く、雲居一輪は苦悶の表情で死んでいた。
「で、結局この件はどう処理するのよ。霊廟は主が変わるだけとはいえ、寺の方は頭と両手と心が切り離されたようなものなんでしょう?」
まあ今回は頭だけだったけどさ。と、私は不謹慎気味に独り言を言う。
そう言うと、スキマから顔を出している女はくすりと笑う。
「問題ないですわ、問題ありません。しかし、ああ怖い怖い。これはつまり、愛が怖いってお話なんですわ」
その瞳に、光は無く――。
◆
「という夢を見たのです! 愛って怖いですね、一輪!」
「ちょっと待ちなさい寅丸、なんで私がそんな殺人鬼になってるのよ!?」
「ナズーリンが拾ってきたんですよ、えっと『やんでれのおんなのこにあいされ』」
「こっちこいやネズミいいいい!」
本編:あとがき 30:60
まさに今の読者のレベルを体現した作品でした。
この手の作りにするなら本編でもっと引き込んでくれんと
ってなるかボケー!