Coolier - 新生・東方創想話

メイドと臣従

2013/06/28 11:00:22
最終更新
サイズ
8.35KB
ページ数
3
閲覧数
2713
評価数
4/6
POINT
390
Rate
11.86

分類タグ

「それにしても珍しいわね。あなたみたいな妖怪が何の様かしら」
 客間で差し出されたケーキと紅茶に舌づつみを打っていた私に、紅魔館のメイド――十六夜咲夜が問いかけてきた。
「何だったかしら。自分で言うのもなんだけど、刹那的に生きてるから、もう覚えてないわ」
 広く言って妖怪の世話をしている彼女にとっては、さほど問題のある発言ではなかったらしく、溜息を吐いて椅子に座り紅茶のカップを口に付ける。
 毎日忙しくしているこのメイドも、この時間帯は割と休憩をとれるらしい。館の主は夜行性なのでまだ眠っている。
「まぁいいわ。お嬢様方やパチュリー様の機嫌を損ねないのなら、とくに追い出す必要もないか。一人は何かと暇だし」
「門番の見張りはいいのかしら」
「もう行ったわ。案の定眠っていたから額にナイフを刺してあげたわ。いい気付けになったでしょうね」
「…………」
 私が館に近付いた時も門番は寝ていた。というのは黙っておこう。
 館で思い出した、一つ気になることがあるのよね。
「この館、どうなってるの?」
 私の曖昧な問いにメイドは首を傾げていた。
「あ、ええと。なんていうかこの館、変に広いのよ。何て言えばいいのか分からないけど、外から見た館の大きさより中に入った時の方が広く感じるのよ。勘違いとは思えないほどに」
 私の言葉を聞いたメイドは、まるで嬉しさを抑えているかのような表情で話し出す。
「それは私の能力よ」
「?」
 メイドの能力……確か、時を止める能力だったかしら。前に魔理沙が、『時止めとか、あいつも吸血鬼みたいだ』とか言ってたから、何となく覚えているわ。
「時止め……というよりは、時を操る、って言った方が正しいわ。止めるだけじゃなくて、遅くすることも速くすることもできるわ」
 はっきりしているようで中々よく分からない能力ね。使い方次第でとんでもないことができそう。いや、もうしているのかしら。
「時間を速めるということは、空間を広めるということと同義なのよ」
「?」
 率直に言う。分からない。
 私がそういう能力を持っていないせいなのか。それとも私が、チルノとお友達のせいなのか。
「時間を速めると、相対的にその空間にいる人間は遅くなるということ。時間の速さを二倍にしたとして、その空間にある五十メートルの廊下を歩くには、本来百メートルを歩く時間が必要になる。分かりやすく言うなら、こんなところかしらね」
「…………」
 もうチルノと友達でいいや。さっぱりわからない。それと空間が広く感じる事と、どう関係しているのか。
「ルーミア? ……理解、できたかしら」
「ええどうもありがとうとてもべんきょうになったわ」
 完全に棒読みだった。メイドもそれを察してくれたようで、この会話は終わった。
「でも大変そうね、あなた」
 話を切り替えるために発した私の言葉に、メイドはまたも疑問に思っている。
「人間が夜行性の妖怪の世話をするなんて、中々できる事ではないわ」
「別に、毎日忙しいけど辛くはないわよ。恩返しだと思えば容易いわ」
「恩返し?」
 言葉に迷ったのか、メイドは少しだけ目を泳がせながら紅茶を啜る。
 私が言葉を待っている事を察知し、彼女は観念したかのように溜息を吐いた。
「ちょっと、独り言をいいかしら」
「え?」
「今から少し長い独り言を言うだけ。興味がなくなったらいつでも部屋から出ていいわよ」
 せっかくなのでケーキのおかわりを頼む。直後、一瞬でそれは皿に置かれていた。……能力の無駄遣いじゃないかしら。
 とりあえず、私はメイドの独り言を聞くことにした。

 ある時代のある場所の館に、一人のメイドがいたわ。名前? そんなのどうだっていいでしょう。
 彼女はとても真面目に働き、人当たりも良かった。何故なら彼女にとって、その館の主は恩人だったから。
 元々彼女は、小さな家に住む一人の少女だった。でも彼女はある日突然、能力を得た。そしてそれを人々に見せた。何の前触れもなく能力に目覚めたんだもの。『大人になれば誰でもこうなる』と勘違いしてしまったのね。
 そして彼女は、能力と引き換えに大事な物を失った。周辺の人達からは奇妙な呪術士扱いされ、親は呪われた子供として、親しく接しようとしなくなってしまった。その時代では、魔女狩りの文化が残っていたの。

コメントは最後のページに表示されます。