.
我が家には変な来客がよく来る
まあ私としてもいい気分転換になるし、こうして研究が行き詰った時に偶には思い出してみることにしている。
そのたびに思うのだが私の交友関係には何かと被害が多い
・射命丸文の場合
紅茶を読みつつ読書に耽っていると偶に小気味よいパリンという音がする。
その音に対して今はもう驚きとかそれ以前に呆れを感じてしまう、慣れとは恐ろしいものだ。
「アリスさん!取材しに来ました!もしくは新聞購読お願いします!」
「窓の後片付けよろしくね」
「えー」
「クッキーあげるから」
「大至急やってきます!」
いや、窓をぶち抜いたのはそっちだからとかそういう理屈が通じないのは検証済みだ。
自慢ではないが私は彼女、射命丸文程の弁舌の巧みさは持ち合わせていない。
いやそもそも魔法使いにとってそういったものはあまり必要ではないから鍛えていないのだが、やはり遠く及ばない。
今までそれで悪いと思ったことはないが、彼女が私の家に突撃するようになって以来は別だ。
大抵私が何か言った場合口で負けてしまう。
私が悪い悪くないに関わらずはぐらかされたり逸らされたり言い負かされたり。
賞味何十回戦ったかは覚えていないが全敗だと言うことぐらいは覚えている、我ながら素晴らしい戦績だ。
「アリスさん!」
「んー・・・やっぱりパチェに本借りてこようかしら」
「アリスさん?」
「やっぱりあれよね、負け続けるってプライドが許さないわ」
「アーリースーさーん?」
「何かいい本あったかしらね」
「・・・・・・隙あ」
「あら文、もう終わったの?」
「ひゃわぁい!?」
何をわちゃわちゃとしているのだろうか、不審だ。
もしや人形に何か粗相をしようとしたのだろうか、そうだとしたら許さない。
いやこの新聞記者はそんなことしないと思うけど、少しばかり汚いからやりかねないかも。
「なにか非常に失礼なことを考えてたり?」
「あら、わかる?」
「いやぁ・・・新聞記者ですから」
「今の皮肉なこともわかってるの?」
「勿論」
これだ
裏をかいたと思ったら普通に返される。
きわめて何とでもないかのように返されるとイラッとする。
と思ってたら見たくもないドヤ顔を披露された、ハバネロクッキーでもくらえ。
「さあアリスさん、クッキーくださいクッキー」
「ほら、十個に一個ハバネロエキスが練りこまれたクッキー」
「なんですかその罰ゲームは」
「無性にいらっときたからつい」
「なんですかそれは!?」
ハバネロが怖いのか私が怖いのかわからないが中々手を出そうとしない。
ほら食いなさい、そして悶絶しなさい、偶には私に敗北の顔を見せてみなさい。
あれ、なんかこれいいかも。
「ほら、早く冷めないうちに食いなさいよ」
「えー・・・」
「ほら早く、早く、クッキー食べたくないの?」
「ええい、こうなれば南無三!」
一つを手に取りひょいと口の中に放り込む。
さあどうだ、当たりかはずれか。
あたれば美味しい、はずれても色々と美味しい。
「ほむほむ・・・」
「・・・」
「ふむ・・・」
「・・・」
「おお!美味しいです!」
「ちっ・・・当たりね」
「このピリッとした辛さが!」
「えっ」
「いやぁ、なかなか癖になる辛さです」
「えっ」
相当辛いと思ったのに、悶絶する顔が見れると思ったのに。
なにをこいつさくさくと「あ、もう一ついいですか?」とか言いながら食ってるのだ。
試しにひとつ食べたら涙が止まらなくなったのに。
「うまひ、うまひ」
「文」
「んー?」
「ほんとにそれ辛いやつ?」
「やだなぁ、私がアリスさんに嘘つくわけないじゃないですか」
「いや、うん」
おかしい、なんで文はあれを平然と食えるのだ。
ひょっとして分量を間違えたのかもしれない、ひょっとするとあれはただの唐辛子かもしれない。
・・・ひとかけぐらいなら
「ちょっと分量間違えたかも」
「んむ?もっと辛くなるんですか?」
「ちょっとひとつ食べてみるわ」
「大丈夫ですか?」
「端っこだけなら、多分」
一応を思ってはずれは分かるようにしている。
取り出したクッキーをほんのちょっとだけ齧り咀嚼、途端に舌に激しい痛みが走った。
いや、いや、これはひどい、前回より酷くなってる気がする。
体軸がぐらりと傾き咄嗟に椅子に座る、文が途端に慌てだした。
「あんた、なんでこんなの食えるのよ」
「天狗って辛党が多いんですよ」
「異常よ、変よ」
「えへへ」
「褒めてないから」
どうしてこいつは笑うのだろう。
それもこんなに可愛らしく微笑むのだろう。
なんだか負けた気がする、悔しい。
「あんたってさ」
「はい?」
「笑うと可愛いわよね」
「はいぃ!?」
「なんか変なこと言った?」
「魔法使いってみんなそうなんですか?」
「知らないけど、可愛いなあって」
なんか褒めたら途端にわちゃわちゃしだした。
普段口論で負けてるからこういう顔をさせるとなかなか新鮮。
「そのですね、そういうのはもっとですね」
「うん」
「ちゃんと、しっかり・・・ええと」
「うん?」
「とにかく前置きしてくださいよ!」
「え、ええ、まあ今度から気を付けるわ」
「卑怯ですから、不意打ちとか」
よくわからないが
そういえば齧ったクッキーがまだ食べきれていなかった。
私は食べられないことが分かったのでさっさと文に食べてもらうことにしよう。
しかし悶絶顔を見るつもりが失態を犯すとはまだまだ甘い。
「はい」
「あれ?くれるんですか?」
「食べられないから、あげゆ」
「ちょっと舌が足りてないです」
「うるさい、さっさと食いなさい」
「はーい」
何のこともなく文はむしゃむしゃと咀嚼する。
どうしてあれが食べられるのだろう、作っておいてあれだがあれは食べ物ではない。
「いやぁ、美味しいですね」
「試しにそれ食べてみたけど分量間違えてないのよね、うん」
「・・・ん?」
「なに?」
「アリスさん、これって食べかけですか?」
「そうだけど」
「アリスさんの?」
「あ、ごめんなさい。そういうの駄目だったかしら」
「いやいやいやお気遣いなさらずいやいやいや」
「うん?」
「それでは私はここで失礼します!クッキーおいしかったです!」
「あ、ちょっ」
瞬間私の目の前から文が消え失せ、代わりに窓にまた穴が開いた。
修理したというのにまた壊れてしまった、世話が焼ける。
「いや、このクッキー食べられないんだけどなぁ」
どうしようか、これ。
とりあえずこれより辛いのをまた作ってみようか。
多分食べたらまた笑ってくれるだろうから。
―――――――――――損害 窓ガラス二枚 クッキー相当量
▼△▼
・鈴仙・優曇華院・イナバの場合
突然だが、私は日常から薬を服用している。
こう切り出すと大抵の知り合いは妙な顔をするけれど別に変なことではない。
パチュリーほどではないが魔法使いというのは皆体力なしの常時体調不全であるし、それを補うのは至極当然の事。
常に体調に気を使ってたら研究出来ないじゃない、薬飲んでれば心配しなくていいって楽だとか言っていたら魔理沙には白い目をされた。
だがしかし人里の薬屋は遠くにあるし第一そこのを買うぐらいなら自分で作ったほうが効果がいい。
出不精が祟って中々足を運ぶのを躊躇っていたがここ最近永遠亭では薬の訪問を始めたみたいだ。
経営に熱心なことだ、こちらとしてもありがたい。
度々こう言う事を考える時の私は決まって紅茶を飲んだりお菓子を食べたりしている。
これだけ聞くとまるで私が年がら年中ぐうたらに過ごしていると思われるかもしれないが飛んだ誤解だと釘を刺しておく必要があるだろう。
私だって普通に研究するし普通に外に出る、至って人間に近い魔法使いを自称している。
だが来客がある時と言うのは大抵私が休憩している時だから、こういう描写が多くなってしまうのだ、必然的なのだ。
まあ研究中に全く来客に気付かないと言うこともままあると思うが、調べていないので定かではない。
その日は研究が思いのほか上手く行って上機嫌な日だったと思う。
魔力の廻り具合も上々で洗濯物も良く乾いてお菓子も美味しく焼けて。
気分がいい、調子がいい、つきがいい、柄にもなく鼻歌を歌ってしまう程には。
「アリスさんって、鼻歌歌うんですね」
「へぇっ!?」
しまった、つい来客があることを忘れてしまっていた。
来客というのはつまり、薬訪問を行っている鈴仙だった。
まあ永遠亭の外回りをほぼ一手に引き受けているといわれているがご苦労なことだ。
魔法の森なんて巡回ルートには絶対ないことは断言できる、それだけ辺鄙なところなのだし。
「アリスさんの紅茶って、美味しいですよね」
「そう言ってもらえると嬉しいわ」
「愛情がこもっているんですか?」
「そうかしらね、そうなんじゃない?」
まあ、そんな場所にわざわざ来させているのは私のせいなのだし。
せめてこうして薬を売りに来るときにはお茶とお菓子を供することにしている。
こちらが客なので紅茶は一つグレードが高いもの、お菓子はケーキとかランクの高いもの。
「助かりますよ、こっちはへとへとなので」
「悪いわね、変な場所をルートに組み込ませちゃって」
「いえいえそうじゃなくて、わざわざ何かを用意してくれる家なんてないんですよ」
「そうなの?」
「こちらが妖怪ということもあるのでしょうが…威厳がないんですかね?」
「ああ、鈴仙は確かに…」
「確かにってなんですか!?」
ぷぅっと頬を膨らませながら怒られてもいかんせん勢いというか、どうにも可愛らしさが先立ってしまう。
そうかこれか、これが原因なのか。
「全くもう!アリスさんにまで弄られたら私はどこに避難したらいいんでしょう」
「ごめんごめん…って避難?」
「アリスさんぐらいですよ、こうして丁寧に接してくれるのは」
「ああ…あんたもなのね」
「ここに来ればおいしい紅茶とお菓子を食べられますし、役得です」
嬉しそうに紅茶を飲む姿を見るとこちらも嬉しくなる。
どこかの魔法使いとか妖怪とか有象無象とかはさも当然のようにこちらが何かを供するものだと思っている節がある。
かといって性格上強く言い出せないのが辛い、そもそも私が勝てない相手がこの幻想郷には多すぎる。
だからこうしてやたら丁寧に接してくれる鈴仙は私の癒しの一つともなっているのかもしれない。
私も彼女に同じことを感じているのかもしれない、そう考えるとなんだか妙な気分になる。
「両想いかもね」
「へっ!?」
そうかもしれない。
「そういえばアリスさんって胡蝶夢丸をよく飲みますよね」
「ええ、あれは効き目が良いから」
「眠れないんですか?」
「うーん、どちらかというと悪夢を見たくないって方かしら」
「ふむ…」
「けど、どうかしたの?」
「いえいえ、私の能力で波長を操って何とかできないかなって」
「そんな事できるの?」
「任せてください!」
唐突にそういいだした鈴仙に私は嫌な予感を抑えられなかった。
鈴仙はやる気はある、熱意もあるし技術もある。
能力だって波長を操るなんて珍しく興味深いものを持っているのだが。
「そんな心配そうな顔せずとも大丈夫ですよ、催眠術みたいなものです」
「いや、そういうことじゃなくてね」
「うむ?ではどんな意味が」
「ああうん、杞憂を祈るわよ」
この家には妙な客人が多すぎるから疲れているのかもしれない。
鈴仙はにっこりと笑うと私の目を見た、狂気を微塵とも感じさせない理性を並々と宿した目がこちらを見ている。
「じゃ、始めますね」
「お願いするわ」
準備、と言ってもそれは心持ちらしい。
やたらと張り切りながら鼻息荒くしている鈴仙を見ているとやはり、嫌な予感がする。
「いつもそんな調子なの?」
「いえいえ、でもアリスさんに頼られるとか滅多にありませんからね!」
「まあ、私が誰かを頼るなんて滅多に無いけど」
そんなにレアなものなのだろうか。
「そういえば鈴仙の能力って波長?ってやつを操るのよね」
「波長と言っても音波や光波とか様々ですけどね」
「汎用性高そうね」
「あはは、でも普段は弾幕ごっこぐらいしか使えませんよ、そんな頭持ってませんし」
「なんとなくで使えるんじゃないの?」
「演算が必要なんですよ、波長である以上なんとなくで使える範囲には限りがあります」
「でも、凄いわね」
「そうですか?そんなことありませんよアリスさん」
そう言いながらも顔がにやけてるぞとは言わない。
多分あの奇人変人異人揃いの館では褒められる機会に恵まれてないのだろう。
そう思うとあの月人は教育するということに関してだけは凡人なのかもしれない。
「そうだ!私新しくスペル開発したんですよ」
「ふぅん、おめでとう鈴仙」
「ちょっと見ててください、中々良く出来たと思うので」
「……この家の中でやるの?」
「大丈夫です、規模を小さくするので」
何かがおかしい、いや何かを間違えた気がする。
そこまで来てようやく私の額に嫌な汗が流れ始めた。
振り切れてはならないゲージが振り切れてしまった、そんな気がする。
すわ、これが狂気の力か、なんと恐ろしいのだ狂気の力。
止めるまでもなくスペルカードを取り出した鈴仙はそれを発動し。
結果として我が家は鈴仙の前方全てが吹き飛ぶという大惨事に見舞われた。
爆発落ちとは珍しい、第一にそう思った私の感覚はとうに麻痺していたらしい。
後日談だが修羅と化した永琳と共にやってきた鈴仙に謝られた、許した。
怒らないからこれからも来てくれと言ったら抱きつかれた、許した。
だがお詫びの月人特製ケーキがトイレに籠りきりになるほどのブツであったことは絶対に許さない、
―――――――――――損害 紅茶とケーキ 家半壊 そして地獄のような腹痛
▼△▼
・霧雨魔理沙の場合
みしみしと嫌な音がしたと知覚した時にはすでに扉は蹴破られているのだろう。
予想通り鈍い破壊音が家中に響いたときには既に迎撃部隊が玄関へと殺到していた。
最近では扉を破壊された怒りよりも先に「ああ、魔理沙が来た」と思ってしまう事が恨めしい。
「毎度懲りないわね、あんたも」
「ドアがある方が悪いのぜ」
「ドアはあんたみたいな泥棒を避けるためにあるものだと思うんだけど」
「残念ながら私は泥棒じゃないのぜ、お客なのぜ」
「器物損壊をする客が居るのかしらね」
「いるのぜ、ほら」
相変わらずの減らず口だ。
そもそも、この人間魔法使いから厚かましさを取ったら何が残るのだろうか。
何も残らないんじゃないかなんて、時々思うのだ。
手をふいと動かして人形を退散させると魔理沙の顔に笑みが浮かぶ。
魔法使いとしてはあまりにも邪気が無さすぎる、人間らしい笑み。
パチュリーなんかこんな顔しないだろう、そう思うとなんだか笑える。
「どうしたんだぜ?」
「いや、あんたって本当に能天気に笑うわよね」
「これは余裕と言うもんだぜ」
「そうしとくわ」
全く、口が減らないこと。
「アリスー、お腹すいたのぜ」
「まったくもう・・・紅茶がいい?コーヒーがいい?」
「どっちがおすすめなんだ?」
「今日は紅魔館からいい茶葉が仕入れられたわね」
「じゃあそれで」
相変わらず、人の家を自分の家だと思っている。
普通に返してしまう私も私だが、ちょっと厳しくした方がいいかもしれない。
そう思っていながらも全然厳しく出来ないあたり情けない。
「そうだ、クッキー焼きあがってた」
「おっ、私クッキーが好きなのぜ」
「あんたは大抵何でも好きでしょうが」
魔理沙は紅茶もコーヒーも飲む、自分で淹れる事もするようだがその腕は凄惨なものだ。
まあ、大抵は眠気覚ましで味なんて二の次だろうからそうなるのだろうが。
やはり美味しいものを知らないと言うのは可愛そうな気がする。
「出来たわよ、自分の分は持っていきなさい」
「なんだよ、アリスの分は人形がやってくれるじゃないか」
「じゃあ要らないのね?」
「分かったのぜ、ちょっと待ってるんだぜ」
「大人は苦いものでも普通に飲めるんだぜ」とか時折偉そうに私に吹聴する。
そしてそう言いながら私に隠れてこっそりと角砂糖を多めに入れる。
要するに、ただの強がりだ。
ばればれなのだが多分本人はばれてないと思っているだろう。
そう思うとおかしい様な、痛々しい様な感情が湧きあがる。
カップに並々と赤茶の液体が注がれていくのを見ていた魔理沙は、きょろきょろと机の上をさり気なく見渡した。
大抵そう言うときの魔理沙は角砂糖の入った壺を探している。
私は大抵ストレートで飲むので角砂糖は使わないが、そういった時の為に壺をさり気なく机の上に置いてある。
だが時々、あんまり苛ついたときは意地悪をして置かないでおく。
するといつまで経っても飲めなくて紅茶には手を付けずにずっと焼き菓子を食べているので大抵腹の虫も収まる。
まあ、あまりやりすぎると泣くので程々にするが。
「ふふん、このクッキーうまいのぜ」
「そっちはジンジャーね、それでこっちはシナモンよ」
「おっ、確かにいい香りなのぜ」
「あんたももうちょっと料理やってみたら?」
「私にはアリスが居るからいいのぜ」
なんだそれ
そりゃ、私が魔法使いで魔理沙が人間である以上私より魔理沙が長生きする事なんてないだろうけど。
まさか、死ぬ間際まで私の世話を要求する気だろうか魔理沙は。
いや、魔理沙はそんな事をしないだろう。
きっと大人になったら少女のようなあどけなさは消えて、自分で何でも出来る様になる。
コーヒーだって紅茶だってきっとストレートで飲めるようになるし、料理だって上手くなるだろう。
魔理沙は努力が出来る人間だ、そして成長する人間だ。
きっといつか私に頼らずとも生きるようになる、そう遠くないうちに。
「アリスっ、紅茶がさめるのぜ」
「ん?ああ、そうね」
「また難しいこと考えてるのか?」
「あんたじゃ考え付かないことよ」
きっと将来私は魔理沙にとって過去になる。
そう遠くないうちに魔理沙にとって私は過去の思い出にしまわれる存在になる。
今私の考えていることが、将来の魔理沙が理解できるようになる頃には。
そう考えるといささか寂しいものだ。
「なあ、アリス」
「うん?」
「お前さえよければさぁ、私の家で一緒に研究しないか?」
「なんでよ、今だって共同研究してるでしょ?」
「いや、そういうことじゃなくてさぁ…」
「…?変な魔理沙」
そう言うと、ぷいとむくれたようにうつむき私から目を逸らす。
まだ子供の柔らかさが抜けきっていないようなその仕草、その振る舞いはいつか見られなくなる。
それがなんだか口惜しいようで、どこか物寂しいようで。
「まあ、あんたがここに来るならクッキーの一つは焼いてあげるわ」
「本当か!?」
「…あんた、本当は私をどけちとか思ってるんじゃないの?」
「いや、そういうことじゃなくてだな、うん」
だから今のうちはこの口減らない人間の言うことを聞いてあげることにしよう。
いつかの日、私が在りし日の魔理沙を思い出せるように。
魔理沙が子供であるうちは、私を忘れないうちは。
「また、変なこと考えてるだろ」
「全然?」
―――――――――――損害 ドア一枚 クッキーバスケット半分 そして魔導書二冊
▼△▼
・東風谷早苗の場合
ここまで我が家がぶっ飛んだり割れたり半壊したりしたわけだが。
いや言い方を変えれば魔法使いに欠けがちな対人、対妖の機会に恵まれたわけだが。
こちらとしてはまあ、あまり怒ったことはない。
お菓子を食べてくれるのは嬉しいし美味しいと言ってくれるのはもちろん嬉しい。
侵入方法や被害はあれだが家なんて人形に任せていれば半日で組みあがる、無論材料はいるが。
家の裏方に常に材料のストックがあるから準備は万端だ。
まあ、私の感覚がおかしな方向に麻痺しているからかもしれないが。
「早苗?」
「なんでしょうアリスさん」
だがそれも私のちっぽけな常識の範囲内で、だ。
とぼけたように私の目の前で首をかしげる早苗は本当に自分が何をしたかわからないのだろうか。
「なんで私の家が朝起きたら守屋神社にあるのかしら」
「奇跡です!」
「奇跡じゃないわよこれ、奇跡(物理)よ」
奇跡で何でも解決すると思っているのだろうか、どこの神の子だ。
ああそうか海割れるし、そういうスペカ持ってるし当てつけだろうか。
「奇跡を用いれば何でもできますよきっと」
「ちょっとよくわからないわね」
「だってどんな理不尽な事があっても奇跡だととかなんか言えば解決する気が」
「しないわよ」
「しないんですか!?」
「しないわよ!」
現在早苗と私は神社の縁側で言い合いをしているわけだが、このままでは押し切られそうな気がする、押し切られる。
このままではいけない、素数でも数えて落ち着こう。
状況を把握することは重要だ、私は都会派の魔法使いだから当然冷静だ。
まず今日起こったことをまとめてみるとしよう。
朝起きたら隣で早苗が寝ていた、そこまではいい。
そのまま早苗をひっぺがえして窓の外を見てみるとどう見て魔法の森ではない。
まず第一に木ではなく平坦な空間が見えた、そのまま左に寄ってみるとどこかで見た神社が見える。
朝起きるとそこは守屋神社だった、洒落にもなんにもならないのだが。
ここまで驚いたのはこの前起きたら隣で早苗が裸で寝ていたことぐらいだろうか。
「昨日は激しか」まで言ったところで黙らせたが。
それにしてもどうして家を神社まですっ飛んでこさせたのだろうか。
どうやってとか聞いたところでどうせ「奇跡です!」としか言わないだろうからこの際奇跡の仕業にしておこう。
「だってアリスさん、この間私がこちらに住んだらどうかって聞いた時言ってたじゃないですか」
「なんてよ」
「『私の家は守屋神社には無いから駄目だわ』って」
「どうしてそれがお断りの表現だって気づかないのかしら」
早苗はあほなのではないだろうか、あほなのだろう。
脳内会議の議題にかけるまでもなく即刻で判決が下されたのでこの件については永久に施行を停止することを決定した。
「それで、私の家はいつになったら元に戻るのかしら」
「えっ、このままでいいじゃないですか」
「戻さなかったら私永遠に口聞かないわよ」
「ごめんなさい許してください」
やたらということを素直に聞くものだ。
まあ口聞かないとか言ったところで私のことだ、一週間程したら普通に接しているのだろうが。
「でも」
「まだ何かあるのかしら」
「条件が」
「そっちが勝手にやりだしたのに?」
「お願いですよぉ」
「……内容にもよるわ」
ああ、どうしてこんなに押しというものに弱いのだろうか。
そんなに悲しい目をされたら腰が引けてしまう、卑怯だ。
そしてその策略にまんまとはまってしまう私も私だが。
「…膝枕」
「ひざまくら?」
「そうです、それ」
「して欲しいの?」
「はい、駄目ですか?」
「いや、いいけど」
まさかそんな可愛らしい要求だとは思っていなかったわなんて口が裂けても言わない。
どんなぶっ飛んですっ飛んだ事を要求されるのかと思っていただけに吃驚してしまった。
了承された様だと理解した早苗は「やった」と言いばんばんと畳を叩いた。
「じゃあここ、ここで」
「はいはい」
座るとすぐにぼふっと早苗の緑髪が舞った、膝の上に人一人分の重みがずしりとかかる。
もぞもぞと、最初は落ち着かないように震えていた早苗は次第に落ち着いてきたようだった。
規則正しい鼓動が膝を通して伝わってくる、心地よいのだろうか。
早苗はしばらくしても何も喋らない。
静かだった、あの二柱はどこかに出かけているのだろう。
次第に高くなる空と、青い空と、その下に私達だけが居る気がした。
「アリスさんが」
「うん」
「普通にこうしてくれるなんて思ってもいませんでした」
「そんな酷い性格だと思われてたのかしら」
「とんでもないですよ、でもあんまりにも突飛だったでしょ?」
「最初は、そう思ったんだけどね」
最初は驚いた
だがよく考えると、なんとなく分かってくる。
「小さい頃は」
「うん」
「よくこうして膝枕されてました」
「そう」
「好きでした、こうされるの」
誰に、とは言わない。
たぶん今の早苗は誰かに見られたくない顔をしていた。
「夢で見たんですよ、その時の事」
「そうなの」
「ええ、だから」
それにしたって私の家をすっ飛ばすのはどうかと思うがとは言わない。
「ごめんなさい」
謝るぐらいならやらなければいいのにとは言わない。
「ごめんなさい」
それぐらいなら素直に呼んでくれればいいのにとは言わない。
「アリスさんはやっぱり優しいですね」
「そうかしら、冷たいわよ私は」
「そりゃ膝は少し冷たいですけど、最近暑いので丁度いいです」
「減らず口を叩けるぐらいには回復した?」
「ありがとうございます」
「じゃあ、もう大丈夫?」
「はい」
「…本当に?」
「……もう少し」
「しばらくかかりそうね」
まあ研究に行き詰っていたし、いい気分転換になるかもしれない。
「じゃ、昼になったら私の家でご飯でも食べる?」
「…白米ありますか?」
「図々しいわね」
「日本人の心ですし」
今日ぐらいはこのままでいいのかもしれない。
―――――――――――損害 昼飯の材料 人形二体
他にも多々あるのだが今いいアイディアが湧いてきた。
ここでこの手記は終わりにして研究に取り掛かるとしよう。
また研究に煮詰まったら書いてみるのもいいかもしれない。
.
魔理沙の喋り方がおかしい。
あんなにも語尾に「ぜ」はついたりしないような気がするのですが。
あと、誤字がいくつか。
厚かましさを盗ったら→取ったらでは?
一個目の守屋神社の名前が洩矢神社になっています。
作品の雰囲気は良かったので、今後も頑張ってください。
クールで知的、冷たい女とうそぶきつつも根が親切なアリスがモテない道理は何処にもなかったな
魔理沙の言葉遣いに不自然なところが目立ったのでその辺で減点しました
別に問題がないくらい中身がないのはちょっとね。
あとなぜ永琳が修羅の如くなってやって来たのでしょう?鈴仙がアリスに被害を与えたのだから変では?
誤字が多過ぎるのも気になります。守矢神社です。
話もテンプレ鈍感親切モテモテアリスで工夫が無いように思います。
”煮詰まった”じゃなくて、”行き詰まった”かな?
あと、間違ってたら申し訳ないんだけど。
ようするにこれ、全部アリスの妄想だったってことでいいんだよね?
だから、魔理沙の口調とか、登場人物が異常で、甘えんぼのロリっこなわけだ?
だから、”交友関係は”被害が多いんだ? あってる?
まあ、あってなくてもアリスかわいいよアリスってことで90点!
アリスがかわいかったのでこの点数で。
アリスについては、もはや誰こいつとしか思えん。
申し訳程度に地の文で魔法云々言うだけで、性格も能力も背景もアリスの印象がなく、
ギャルゲーの極力特徴を失くして感情移入させやすくした主人公みたいだな。
このアリスはきっと目がないに違いないw
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:::::::::::::::: 「_二二7ニヽ>
::::::::::: ♪ ,イ ハノハヘト、!ハ(
:::::::: )ハi o o iイ,.ゝ、
::::: rァ--ン'ヘ、_∀ ノi-‐''7つ ┼
:: (( ヽ、 _,! -==ニ二''ー.イ ))
: + ,.-'ァ' 7 i ヽ`ヽヽヽ.
/ / /'! i ハ Y ',
__人__ / i ハ_ ! ハr'  ̄!ヘハi ヽ.
`Y´ ノiヽ.!/ _レ' '" ̄ |/ ! ハ
i`ヽ. ハ. !.'´ __ "".! ハ i __人__
,.-‐ゝ ヽァ- ...,,_ _イ_.ノ_7" i´ ヽ. / ,イ i/ `Y´
ヽ、 i i | `"T'i `ヽ.ヽ.___,ノ ,.イ / ハ,.ヘ!
'ー---r!/ i、i `r=i'´レ'、 / !,.─‐---ァ、
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`!ヽト、__ / __i_ ', ./::::::::/´`ヾ/
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`Y´ ,.「ヽ.,、_____ハ____」、ー---‐'"
/ /ヽ、_ }l l{ ,.イヽ.
/ /  ̄|'´| i ヽ.
 ̄/ ___ / i o ___ ─‐ァ l |  ̄/ /二/ ___ _,.ィ'´ /
/\ / ヽ、 ノ´ ノ /\ / | /__ヽ,
「ぜ」魔理沙かわいいは同意。マスコット的な意味でお子さ魔理沙を表現するなら有りかなー、と
ただ各々の関連性、背景の薄さやキャラクターが弱いのは、短編オムニバス(?)では仕方ないと思うけどやっぱり勿体無いですね。この作品からルート分岐した話がみたいかも…文アリ流行らないかなー(ボソ
あと最後にレイアリ持ってくるあたり、らしいと思いましたw
コメントの醜さに余韻を消されたので
この点数です
愉快な被害目録でした。良かったです。