Coolier - 新生・東方創想話

午後三時の恋人たち

2013/06/21 21:51:48
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午後三時の恋人たち




「美鈴…あなた、また寝ていたでしょう」

「………」

「前言撤回。あなた…」

「………すうう…」

「現在進行形で寝ているでしょう…この、給料泥棒が…!」

「……ふ、あ!? あれ?咲夜さん…?いつの間に…まーた時間でも止めたんです…いぎッ!!」

「お茶にするわよ。早く来なさい。」




***



長い冬が終わった幻想郷。
待ち続けた春の到来に、妖精たちも沸き立っている。
そんな暖かな空の下。

私、紅美鈴は紅魔館の門番をしている。
一日中立ちっぱなしだったり、見回りをする、結構骨の折れる仕事だ。

ある日そう雇い主に訴えると…

「それじゃあ、美鈴にもおやつの時間を与えるわ。何か食べたいものはある?」

「!?ほんとですか!やったー!!じゃあですね、じゃあですね!私は紅茶とマーラーカオが良いです!」

「ええ、いいわ。毎日午後三時に、咲夜に持って行かせるわ。」

「レミリア様…!有難うございます!一生門をお守りいたします!」

びしり、と敬礼をする。レミリア様のお隣で、「門ですか」と苦笑する紅魔館のメイド長、十六夜咲夜さん。

「この紅魔館の門をお守りするということは、レミリア様をお守りするということです!…もちろん!咲夜さんもお守りするということですよ!」

自信満々に告げると、咲夜さんが白けた顔で「私はあなたより強いわ」とぼそりと呟いた。

「咲夜。美鈴はよくやってくれているわ。」

「そーです!!私、いつでも一生懸命ですよ!」

腕をあげて、力こぶをつくる。咲夜さんがフ、と鼻で笑った。

「いつも門の前で昼寝をしているのは、どこの誰かしら」

「あー!!咲夜さん!やめてくださいよぉ!レミリア様の前ですよ!」

そのやりとりを見ていたレミリア様がククク、と笑った。

「咲夜。美鈴。あなたたちのそれ、マンザイみたいよ。コンビでも組んだら?」

「え!楽しそうで「お嬢様…!そんな、あんまりです…」…うう」

それじゃあ、とレミリア様は豪奢な椅子から優雅に立つ。

「明日から、おやつの時間を与えるわ。頑張りなさい。」

「明日ですかぁ…。」「美鈴!」「はいッ!頑張りますッ!失礼します!」



***



そんなわけで、私にもおやつの時間が与えられるようになった。

「もぐもぐ…レミリア様ったら素敵な御方。本当に私がお願いした紅茶とマーラーカオを毎日出してくださるなんて!」

「…最近お嬢様は番犬の躾け方の本を読まれたのよ」

「え?咲夜さん、なんですかぁ?」

「…なんでもないわ…」

ふぅ、と咲夜さんがため息を吐いた。

「私はとても忙しいのよ。そんな中で―これから毎日美鈴と一緒にお茶を飲みなさい、だなんて…。
 お嬢様には何かお考えがあるのかもしれないけど…正直無駄な時間だわ。私、無駄は嫌いなのよ…」

「あー!咲夜さんも結構言いますね!ふふふ、でも大丈夫です、私は今とても嬉しいので、レミリア様に告げ口はしませんよ!」

「…私も美鈴みたいになりたいわ」
静かに、私から視線を逸らしながら咲夜さんが言う。…え、私みたいに?

「!? 咲夜さん!?どうしたんですか…げほっ…びっくり…して…まーらーかおが、気道に…」

「あーもう!紅茶、冷めてるから飲みなさい!」

「あふ…う、ありがとうございふ…ぐっ…」

「まったく…」

咲夜さんがカップを手渡し、席を立って私の背中をさすってくれた。なんだかんだ言って、優しいんだなあ。
私、愛されてるかも。

「で、一体どういう意味なんですか?」

「あなたみたいなおめでたいアタマだったら、苦労しないってことよ。」

…愛されてはいないみたいだ。

「…でも、そうなったらいいですね!」

「…え…?」

「ほら、咲夜さんっていつも働き詰めでしょう?眉間にシワが寄ってますよ。…せっかく美人なのに、勿体無いです。」

向かい合った咲夜さんに、指先を伸ばして眉間を柔らかく触る。
驚いて固まっている咲夜さん。ふふ、なんだか珍しいなあ。

「な、なにするの…!」

そう言う咲夜さんは、真っ赤だった。

「ふん…私のことなんて、気にしないでいいわ。」

「えー、気になりますよう。」

「! な、なんでよ…」

「だって、私も咲夜さんも、レミリア様に仕える仲間でしょう?」

そう言うと、咲夜さんは少し何かを考えて「そう…」と呟き、ティーカップを片付け始めた。

「ご馳走様でした!午後も頑張りますよー!」

はいはいとあしらわれながらも、えいえいおー!と拳を空に突き上げる。

「見てるからね。昼寝したら、ナイフよ」

「だいじょーぶですっ!糖分とカフェインで頭しゃっきりです!」

にこにこと笑ってVサインをする。しかし咲夜さんは見ていない。―見てるって、言ったのに…

「じゃあね。」

これが、すっかり日常の風景になっていた。

***


「うーん…」

「どうしたの、何か考え事かしら美鈴?」

「明日は、月餅が食べたいなー…なんて」

「…マーラーカオには飽きたかしら?」

「いえいえ!マーラーカオも良いんですよ。大好きです。でも、月餅も食べたいんです」

「ゲッペイ、ってどうやって作るのかしら?」

咲夜さんが難しい顔をした。

「月餅はですねー、生地に三温糖とこし餡を練りこんで…さらにそれでこし餡を包み込むんですよー!」

「へえ…調べてみるわ」

ん?なにか引っかかる。

「あれ?もしかして…今までのおやつって、咲夜さんが作ってくれてたんですか…?」

「そうよ」

「!!…か、か…!」

私は喜びに震える。まさか!こんなに美味しいマーラーカオを作ってくれていたのが、咲夜さんだったなんて…!
いつも食べているマーラーカオの出来は完璧と言って良いだろう。綺麗な黄色で、ふかふかで、甘さは控えめ。
私の好みをなぜ知っているんだ…?と思うほど。

「なによ…。」

「感動ですッ!!咲夜さん、咲夜さんって、すごいですね!!こんなに美味しいおやつを作れるなんて!」

また、咲夜さんの頬が真っ赤になる。

「しょ、しょうがないじゃない!だって…他のメイドはマーラーカオを知らなかったんだから」

「咲夜さんは知ってたんですか?」

咲夜さんは真っ赤になってうつむいた。「…調べたのよ」

「え?」

「調べたの!…あなたが食べたいって言うから…こ、これはお嬢様に言われたからしょうがなく!」

「ふふ、咲夜さんだーいすきです!結婚しましょう!毎日おやつを作ってください!」

「なっ…!わ、私もあなたも女よ!結婚できるはずがないわ!」

ダンッ、と咲夜さんがテーブルを叩いて椅子から立ち上がった。

「ふふふー!そこですか?もし私が人間で男だったら、結婚してくれたんですかー?」

「う…それは…わ、私は一生お嬢様に仕える身なの!そんな…れ、恋愛とか結婚とかにうつつを抜かしてる場合じゃないの!」

咲夜さんがムキになっている。顔も耳もすっかり真っ赤だ。

「冗談ですよ!ふふふ、ちゃんとわかってますよー。咲夜さんも、私も女の子だし」

「……そうね」

なんだか急に咲夜さんの勢いがしゅるる…となくなっていく。

「結婚はできませんよね。でも、私咲夜さんのことだーいすきです!」

「あ……」

「ずっと、ずっと一緒にお茶しましょうね!ずっと、紅魔館をお守りしましょうね!」

「………め」

「め?」

「美鈴のくせに!!門番のくせに!!私はお嬢様のものなの!!

 心も、体もお嬢様にお仕えしてるのに…!こんな!美鈴ごときに心を乱されるなんて!」

「…え?」

咲夜さんはこうなったら、と言ってまくし立てた。

「そうよ!私がお嬢様に提案したの!美鈴におやつの時間をつくるなら、私がお菓子を作りますって!

 犬の躾け方の本を読んで、アメとムチを覚えたお嬢様はすぐに乗ってくださったわ!

 もともと美鈴のことが気になってたのよ!明るくって、元気で…私とは正反対で。

 それに…め、美鈴が、きれいだ、なんて言うから…言うからぁ!!…ひっく、えぐ」

私は驚きすぎて声を失っていた。
あの完全で瀟洒な咲夜さんが?私のことでこんなに取り乱している…?  

「でも、美鈴は、わたしのこと仲間だって…言って、ひぐっ、特別な目で、見てくれないからぁ!
 
 美鈴の馬鹿!アホ!鈍感門番!…もうしらな、」

「咲夜さん」

「う…」

「私、とっても嬉しいです!」

「うう、」

「私…。咲夜さんのこと、特別な目で見てますよ?」

「…………ほん、と?」

「本当です!だって…こんな綺麗で、強くて、しっかりしてて、ちょっと厳しいけどちゃんと優しくて。」

「…褒めたってなにもでないわよ」

「ふふふ、私咲夜さんがいてくれるから、頑張れるんですよ。」

「………。」

「咲夜さんをお守りします。なにが、あっても。」

「…私はあなたより強いわ。…でも、あなたは私の弱さを見抜いたの。―美鈴。」

咲夜さんは静かに笑った。

「はい!」

「美鈴に、月餅の作り方を教わりたいわ。」

「はい!一緒に作りましょう!」

「美鈴と、明日も一緒にお茶がしたいわ。」

「ふふ、私もです!」

「ありがとう―……美鈴、」

「なんですか?」

「好きなの」

「ふふ、知ってますよ!私も咲夜さん、だーいすきです!両想いですよ!
 
 やっぱり、結婚しますか?私の生まれ故郷には、熱いお湯を被ると男になると言う伝説が―」

「そのままの美鈴がいい」

「…!」

「…ばかみたいに真っ赤ね。…二人とも。」

「うふふふ!咲夜さん、タコさんみたいです!」

照れ隠しのナイフが、頭に突き刺さった。
お気に入りの帽子だが、もう気にはしなかった。




***




その頃、紅魔館―


「レミィ。もしかしてあなた、二人の運命を操りでもしたの?」

「パチェ。見ていたの?」

「…ええ、なにやら門がの方が騒がしかったからね…」


「私は何もしていないわ。二人が素直になったからよ。あの子たちはよく働いてくれてるからね。

 それに、ご褒美をあげたかった番犬は一匹ではなかったってことよ。」
ほのぼのとしためーさくが書きたいと思い、挑戦しました。
幻想郷にタコはいるのでしょうか。

読んで下さって、ありがとうございます。とても励みになります。
ねづみ
[email protected]
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コメント



0.520簡易評価
4.90名前が無い程度の能力削除
おおう…甘い甘い
5.90名前が無い程度の能力削除
犬っぽい美鈴だなー
大人然、お姉さん然としている美鈴が最近増えた中、昔な感じの美鈴ネタ(中国ネタが流行っていた頃とか)を思い出して、なんだかよかった
6.100ちん削除
うまく乗せられたように見せてしっかり2人にご褒美をあげる流れを作る…さすがカリスマは格が違った
8.80奇声を発する程度の能力削除
良い甘さでした
11.703削除
咲夜さんが取り乱すのは珍しい。
甘いSSでした。