そういえば、弾幕勝負では霊夢や魔理沙にあっさり負けてたわね、この門番。
……いや、となると。いくら弾幕勝負だからといって、門番、魔女、ナイフ使い、更には吸血鬼の全員に勝つ霊夢達って何なの?
本当に人間?
まぁ、しかし。
「私個人としての意見なんだけど、妖怪であるあなたより人間の方が立場が上だなんて。同じ妖怪である立場として言わせてもらうけど、舐められてるんじゃないかしら」
「いえいえ。直接的な戦闘ならともかく、お嬢様の身の回りのお世話をすることが、咲夜さんは上手ですから」
「それだけで妖怪が下げられることが、私はどうにも気に入らないのよ。あんな人間、あなたの手に掛かれば取って食べることくらい難しくないじゃない」
「いえいえ、咲夜さんはあくまでもお嬢様の餌ですから食べることなんてできませんよ。それに、咲夜さんを私の得意な戦いに引き込む事自体が、難しいと思いますね」
私の問いに答えた美鈴は、快活に笑っていた。
少々得心の気がいかないものの、私はいつも通り、納得したようなこの一言を言う。
…………。
……いや、待って。
「餌?」
あまりにも小さな単語で、自分でも無意識に受け流しかけていた。
いつも通り、『そーなのかー』と間抜けに返事をしようとしていた。
でも、門番の口から出たその言葉を反芻し、だんだんとその違和感を感じてくる。
それだけではない。単語を返した時、明らかに美鈴の表情が変わっていた。
彼女自身も、まさか疑問を持たれると思っていなかったのだろう。幻想郷妖怪の使う比喩として受け流されると思っていたのだろう。
「あー」
ばつが悪そうに美鈴は笑う。しかしそれは先程とは違い、くすくすと小さく笑う。
「いやいや。まさか突っ込まれるとは思ってもいませんでしたねぇ」
ルーミアさん。と言う言葉が急に重く感じた。
「せっかくだから、もう少しお話を続けませんか」
「……ご自由に」
では。と言って美鈴は一度、館の方に目を掛け、すぐに視線を戻した。
「先程も言いましたが、率直にいうと、咲夜さんはレミリアお嬢様の餌――食料です」
相槌を打たない私を見て、門番は言葉を続ける。
「今は特にお祝い事もなく、咲夜さん自身の身体も成熟しきってはいないため、まだ食べれらることはありませんけどね」
冗談で言っているのかどうか、分からなかった。さっきまで人の良さそうな表情で話していた門番。今現在の彼女の表情は、同じである。嘘を吐いているつもりなど微塵も感じさせないような。
同時に、先程の会話が、自分の頭の中で反芻される。
「あなた……館の中で何番目に強いのかしら」
「その質問、さっきしたじゃないですか」
「ええ。さっきはあなたが吸血鬼の右腕ではないことに納得いかなかったけど。でも、あなたの言っていることが本当で、吸血鬼を除いてあなたが最も強いのなら、門番をしている理由に納得がいくわ」
「…………」
「内側からの異変。つまり、もし『餌』が吸血鬼の目を盗んで館から抜け出しても、まだあなたがいる」
「いえいえ。それは買い被りすぎですよ。咲夜さんは時間を止めることができます。そうされたら、私のような一妖怪なんて簡単に振り切られ――」
「使う前に倒せばいい」
別に、門番の言葉を信じているわけではない。
「できるわけないじゃないですか」
「私はできると思っているわ」
お互いに、信じ疑う立場が逆転していることに何も思わず、会話は続く。
「どうして、私が咲夜さんを倒せると」
「あなたが妖怪だから」
短絡的な考えだと思われたのだろうか、門番は手で口を隠して微笑んでいた。しかし、徐々に堪えきれなくなったのか声に出して笑い出す。
「あ……あっはっはっはっは! いやだなぁ、冗談ですよ、冗談」
「…………」
「そ、そんなに疑わないで。このことは、一妖怪の言葉に乗った門番の暇つぶしと思ってください」
門番は強引に話を終わらせようとしたけど、私はもう一つ確認したいことがあった。
「じゃあ、一ついいかしら」
「どうぞ。お詫びに答えてあげます」
「確か吸血鬼は、決まった血が好きなんだっけ?」
「B型の血……ですか?」
門番は、こちらの方を向いていない。