Coolier - 新生・東方創想話

門番と強さ

2013/06/07 13:54:26
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 悪魔が住んでいる館――紅魔館。
 同じ日に霊夢と戦った仲であるにも関わらず、私はその館の主と接したことはあまりない。
 近くに寄った事だし、せっかくの機会なので話をしてみようかとも思った。
 でも、門の前に立って、私は彼女を認識する。
 紅魔館の門番――紅美鈴。チャイナドレスと言うらしい衣服に身を包み、紅い髪の上に星がついた帽子を被った妖怪だ。
「…………」
 その門番が、どういうわけか真昼間から(私の能力で薄闇程度にはなっているけど)、壁に背をかけて眠っていた。
 ……門番、なのよね?
 このまま館に入るのもいいかとも思ったけど、せっかくだから悪戯のひとつでもしよう。そう思ったとき、何気なく落ちている一本のナイフを見つけた。
 そういえば、館のメイドはナイフ使いなんだっけ。そうと決まれば話は早い。そのメイドになりきろう。
 善は急げ。私は後ろに回り込んで、眠っている彼女の右肩にナイフを――
「刃物で悪戯は、少々物騒かと思いますよ」
 突然の言葉に、思わずナイフを刺してしまいそうになった。
「起きていたの?」
「これでも一応『気を使う程度の能力』ですので。あなたがナイフを拾った辺りで目覚めましたよ」
「…………」
 眠っていたことは認めるらしい。
「よくそんな性格で、あの吸血鬼があなたを門番にしたわね」
 私の皮肉にも「あはは」と彼女は笑って誤魔化す。
 まぁ、この門番に圧勝できる程じゃないと、館を乗っ取るのは難しいか。
「まぁ私は、外だけでなく、館の中も見張ってますから」
「え?」
 疑問に思った私を見て、門番は自慢気に笑みを浮かべた。
「もし館の外ではなく、館の内側から紅魔館の存在を脅かす存在が出た際、私が最後の砦なんです。妖精メイドの反乱や、パチュリー様の召還魔法失敗、レミリアお嬢様の妹のフラン様が突然大暴れする。それでレミリアお嬢様の命が危うくなることは恐らくはないと思いますけど、もし何らかの方法で紅魔館が内側から危険な状態になった時、最後になんとかできるのは私だけなんです」
「でも、吸血鬼ですらかなわない敵なんて、門番のあなたが勝てるのかしら」
「いいえ、戦うわけではありません。私はそこから逃げるだけです」
 門番が何を言っているのか、その言葉だけではわからない。
「私は助けを求めに行きます。大きな声では言えませんが、博麗神社の巫女はお嬢様より一枚上手です。だからこそ、お嬢様が危険な目に遭われても救うことができる。私は門番であると同時に、館の状況を外から見取る事ができるんです」
「…………」
「まぁ、昼寝した私に咲夜さんが仕置きを据えに来てくれるって事は、館にはそれくらいの余裕がある何よりの証拠ですよ」
 格好付けたことを恥ずかしく思ったのか言葉を付け加えて、門番は笑いながら頭を掻いた。
「しかし、結構寝すぎてしまいましたねぇ。もうこんなに暗く……」
「それは私の能力よ」
「ああ、なるほど。お嬢様との相性が良さそうな能力ですね」
 会話が一段落して、壁に腰掛けるよう門番に勧められ、遠慮なく館の門扉そばに背中をもたせかけた。
 そこで元々の目的を思い出すも、せっかくの機会なのでもう少し話すことにする。吸血鬼を討伐するわけではないけど、館の将と話すなら、まず馬を射ることにしよう。腐っても門番なんだし。
「ん、その表情……。悪戯をしようとしたって、そうはいきませんよ」
「悪戯はさっきしたじゃない。そんなことより、あなたはこの館の住人の中で、何番目に強いのかしら」
「え?」
「門番は二番目に強い人がやるって説があるわ」
 私の言葉を聞いた美鈴の表情は、若干驚いているようにも見える。
「そうすることで、単に倒すだけでなく、相手に『門番でこれだけ強いんだから、中にはそれ以上の怪物がいる』と思い込ませることができる」
「……思ってたより博学なんですね」
「そう霊夢が言っていたわ」
 門番は納得したように小さく笑っていた。
「で、実際どうなのかしら」
 あなたが吸血鬼の次に強いわけではないのなら、私が館に入る可能性もいくらか見えてくるんだけど。
「そうですねぇ。実際のところ、お嬢様や妹様を除けば、それぞれ一長一短ですねぇ。単純な体術だけなら咲夜さんにだって負ける気はありませんけど。パチュリー様は多彩な魔法の使い手ですし。咲夜さんの、ナイフによる手数の多さは圧倒的ですからねぇ。結局はそれぞれに得手不得手な戦い方と場所があるってことですよ」

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