Coolier - 新生・東方創想話

年末病の彼女たち

2013/02/28 21:56:19
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【1】 朝  → ごはん 【Side : Alice】



 ――――チュンチュン

 雀の声で目が覚めた。

 私、アリス・マーガトロイドの朝は早い。
 長年の習慣、人間基準でいうところの規則正しい生活の賜物というやつだ。
 ゆるゆると体を起こして時計を探す。短針は4と5の間に留まっていた。

「…………」

 ふむ…、今寝たら今日はもうお昼まで起きない気がする。
 最近の堕落した生活からの経験でわかる。起きるのは早いのだけれど、ここのところ二度寝三度寝の率が8割を超えている。
 例に倣って二度寝の言い訳を巡らすべく、ふやけた思考を展開。
 時間は有限、とかいうのは種族魔法使いなわたしには関係ないんじゃないだろうか。
 そういうのは短い時間の中で生きる人間だとかががんばってくれるだろうし。
 ずぶずぶと思考までもがまどろみに呑まれていく感覚。
 とりあえず、と体を横にしてみると当然のように眠気が強まっていく。
 思考回路は停止寸前。もう手遅れ一歩手前、もしくは後だった。
 真っ当な言い訳をすれば、4時半とか、さすがに早すぎる。しかも真冬のこの時間なんて深夜帯で括っても問題ないだろう。
 だいたい早く起きたところで別にやることもないし。魔法使いは時間に縛られない生き物だし。
 それに種族人間じゃなくても睡眠は大事だ。ってけーねが言ってた。
 適度な睡眠な、とツッこむ先生を幻視した。
 そんなことより、ねむい。



    。
 んん…? 目覚ましに人形をセットしたんだっけ?
 夢と現の境界を行き来していると、ギィッと部屋のドアが開いた音が聞こえ、意識が半分ほどこちら側に引き戻される。ぱたぱたと足音が聞こえるような。
 意識の半分がまだお花畑なのでよくわから「起きろー」 なんか起きろとか言われた気が「朝だー」 次いで体が揺すられた気もする。
 起床を促す言葉を投げかけられながらさらに揺さぶってくる。
 でもこういうのって逆効果なんじゃないかなぁ。まどろみながらゆるゆる揺すられる感覚って、なんだか知らないけど妙に気持ちがいいと思う。あー。
「あー」

 揺れが止まる。なんとなく名残惜しいと思うのは多分気のせいじゃない。

「起きた?」

 確認を求められ、
「うん、うん。寝ても、いい?」
 早く起きろ。そんな温かみのない一言で私の抵抗はあっさり棄却される。

「えぇ…まだ早いわよ…ほら」

 時計を見ると短針は10と11の間に留まっていた。
 ふむ…?
 ほら、うとうと二度寝三度寝を繰り返した結果がこれだよ。

「…やれやれだわ」
「こっちの台詞だわ」
「妬ましいわね」
「何が。私の台詞よ」

 やれやれと、水橋は肩を竦めた。
 しかたないので私もやれやれと呟きながら起きてやることにした。
 やれやれ。





 シャワーしてくる。じゃあご飯作っとく。
 そんな具合に役割分担をして熱いお湯を被ったあたりで、もしかしたらシャワー担当と料理担当って役割分担になってないんじゃあと思い至る程度には頭が覚醒してきた。
 あー。気持ちいいー。
 そういえば寝起きで曖昧なのだけれどさっき鍋がどうとか言われた気がする。
 朝から何を言ってるんだろうあいつは。
 ご飯作ってくるって、まさかそういうことじゃあないわよね。でも時々よくわからないことするし。
 あー。







【1.5】 地底 → 地上 【Side : Parsee】



 地上が景色を真っ白に染めても、地底は年中さほど変わらない景観を保っている。
 たぶんいつぞやの異変がきっかけなのだろう。相互不可侵の取り決めが改められ、地底と地上との親交が増えてから行き来する輩も少なくない。他ならぬその一人が私だった。
 昔馴染だとかで酒盛り好きの鬼が気まぐれで大宴会を開くから、いやぁ平和になったなぁと色々なものを諦めて騒ぎに巻き込まれる他なかった。おかげで知り合いは増えたけれども。
 他ならぬその一人が、ここの家主だった。

 とはいえ、一応私は地上と地底の境の守番という役目を預かっている立場なので、きちんと手順を踏んで申請した上で友人の家でくつろいでいる。
 職務をいい加減に扱うのはよくない。自分の仕事に誇りを持つことは人生を有意義にする方法の内の一つだとか。だいたいそんな風なことを地上で知り合った先生が言ってた気がする。
 なんとなくそういうことが理解できる程度には私も生きてきたつもりだ。
 それはさておき。知り合った魔法使いの家は存外に居心地が良く、割と好きにしてもいいらしいので勝手を利かせて無為に入り浸らせて頂いている。勝手知ったるなんとやらだ。
 さて、時間もないし。遅めの朝食の内容はどうしたものか。







【2】 和 - 洋 【Side : Alice】



 果たして今朝の食卓にはライス、ミソスープ、サニーサイドアップ、エトセトラといったメニューが並んだ。

「なんで今横文字で言った?」
「ほら私、都会派だから?」
「何言ってんの?」
 失礼な奴だ。
 ひとまず、朝から鍋物が出るのかという心配は杞憂に終わったらしいが、この時間の食事を朝食にカテゴライズして良いのかの方が目下の問題かもしれなかった。

「お、ちゃんと半熟じゃない。腕を上げたわね」
「目玉焼きに料理の腕は関係ないと思うわ」
「それもそうね。撤回しておくわ」
「しなくていいわよ」

「「いただきます」」

 以前、半熟とかないわーなどとのたまった水橋との討論で白熱したことがあった。最終的にはおいしいものが正義よね、という結論で和解、もしくは妥協したのだが。何をかけるかについても同様である。

「ソイソースプリーズ」
「日本語でプリーズ」
「おしょうゆください」
「セルフでプリーズ」
「てめえ」

 お味噌汁を飲みながら考える。具はネギと油揚げ。おいしい。
 最近、朝にパンを食べていない。ここんとこ水橋が早起きだからか。
 いや3、4日に1日くらいはパンが出てくるのだけれど、そういう日に限って起床時間が朝食と昼食が兼用になるような時間帯だから朝に食べた気がしない。
 今日のこれもどちらかといえばお昼だし。箸で黄身を潰して白身にからめる。黄身と白身としょう油とが混然一体となって絶妙なハーモニーを…、つまりおいしい。
 白米が嫌いなわけではないけれど。朝はトーストにジャムと紅茶とか、ハムエッグに野菜スープだとかそういうのが好ましい。む。ほうれんそうのおひたしはもう少し塩気があった方が。
 昔は日替わり気まぐれでいろんな国の料理が朝から出てきたものだ。
 そういった嗜好を好む人だったから。
 その中でもイチゴのジャムを塗ったトーストに、砂糖もミルクもたっぷり入れた紅茶なんてものをよく食べていたような。
 そういえば姉さんは食事にしろなんにしろマナーにうるさい人だったなあ――――

「明日の朝食はパンがいい。ブレッド」
 目玉焼きの下のベーコンを箸で切り分けながらリクエストしてみる。

「覚えてたらそうする。ていうか、明日も惰眠を貪る気なの」
「起きれたら起きるわ。というか、起こして」
「今日も数十分おきに3回くらい起こしたんだけどね」
「まぁそんなことはいいじゃない。ところで幼馴染持ちって勝ち組よね。家がご近所で毎朝甲斐甲斐しく起こしに来てくれて一緒に登校とか妬ましいわー」
「私の台詞取るなっての。あとマンガの読みすぎだろ」
「ん? あ、そういえば。寝起きに鍋がどうとか、言ってなかった?」
「ん。ああ、うん。今日は鍋にしたいなぁ、っていう」
「ああ、そういう。そういえば冬なのにやってないわね。いいんじゃない、鍋」
「わー」
「まあ、久々に買い物もしたかったしちょうどいいわ。毛糸とか、忘れないようにしなきゃ」
「じゃあ私はゆっくりだらだら過ごすことにしよう」
「あんたも来んのよ」

 外出は午後からということになった。







【2.5】 耐寒、おしゃれ ↑ +10pt 【Side : Parsee】



「さすがに寒いわね」
 アリスはそう言うけれど、モフモフしたコートに加え、帽子、手袋、マフラーの三種の神器を装備している私に隙はない。
 さらに言えば保温効果の魔術コーティング付きとかいうチートな代物。
 前に魔法ってチートよねと言ってみたら、万能ってわけじゃないのよ魔法ってのは法則や制限が云々と論理説明された。勿論わけがわからなかった。
 ちなみにアリスもほとんど同様の装備なわけで。
 とりあえず私の帽子は耳当て付きのニット帽で、アリスのは……、
 ……なんて言えばいいんだろう…? 年中雪に囲まれて過ごす国の人らがかぶってるような…? すごいもさもさしてる。
 兎角、機能性とデザイン性の両立を人生のテーマにしているらしく、コートから何からデザインも柄もいろいろとこだわってるようで。おかげでおしゃれには困らない。
 まあ、誰に見せるわけでもないんだけど。







【3】 買い物 → 人里 【Side : Parsee】



 ちょっと私キノコ嫌いって言ってるじゃないいいでしょ私は好きなんだものよくないわよ私は嫌いなんだものええー全部私が食べるからさぁまったくもうしかたないわねぜったいたべてよね。
 そんな具合に滞りなく会話も弾み買い物も進み食料も雑貨も大漁だった。
 久々の買い物だったし。
 おかげで荷物持ちは大変なことに。重い。
 …ぬ? おお。

「あれ、先生じゃない?」
「どこ?」
「あっち」
「あら、ほんと」

 視線の先には上白沢の先生ともう一人。藤原妹紅。この時期赤のズボンがよく映える。
 向こうもこちらに気付いたらしく小さく手を振ってこちらに近づく。

「ごぶさたね」
「うん、しばらくだな。収穫祭以来か」

 二人とは前にアリスと買い物に行ったとき、こんな具合に遭遇して紹介されて知り合った。
 ども、と私も挨拶。次いで久しぶりと呟く妹紅の両手には買い物袋多数。
 そっちも買い物? と尋ねると、そういうそっちも荷物係?
 見ての通りだ。
 会うたび私と妹紅が毎回荷物持ちしているような気もするが、どういうことだろうか。
 それにこうして里に来る度ほとんど毎回二人と遭遇しているような気もするのだけれど。
 なんだろう、運命的な何かでないなら見回りか買い物が趣味もしくは仕事なのか、単純に暇なのか住所不定無職なのか。片方の人物に概ね該当するような気がしないでもない。
 訝しげな視線でそちらを見やると、「?」という反応が返ってきた。そのやり取りを見た先生も、小さく首を傾げながら同様の反応を寄越してくれた。

「もっとどたばたしてるかと思ったわ。ほら、師走だし」
「まあ、実際そうなんだよ。やっぱり年末は特にな。今は休憩中」

 アリスと先生はだいぶ昔から親交があったらしく、新しく出来た甘味処だとか馴染みの天屋だとかにたまに誘われたり。知り合ってからは私もご相伴に預かっている。
 なんでも昔アリスが擦れてた頃、里の往来で先生に睡眠の大切さを説かれたらしい。
 魔法使いだから睡眠は必要ないのよ目の下に隈つくってる奴が何言ってるんだばかものばかじゃないわよばかうるさいばか。そんな感じだとか。
 それから色々あって仲良くなったのよと前にお酒飲みながら言ってた。
 まあ私にはさほど関係のない話なのだけれども。

「そういえば前に貰った洋菓子おいしかったよ。普段ああいったものは食べる機会がないから、尚更な」
「それは何よりだわ。慧音先生には色々とお世話になったからね。このくらいしかできないけど」
「うん、変わりないようで何よりだ。ふふ、また差し入れてくれてもいいんだぞ?」
「ふふふ、期待して待っててもいいのよ?」

 冗談めかして悪人ぽく笑い合う二人。
 職業柄、何かのゲージが上昇した気もするが関係ないことだと思う。

「というかあんたら、遠目からだと一瞬誰かと思ったよ。まあアリスはまだわかるとして」
「そういう妹紅は変わらなさすぎて逆に不安になるわね」

 確かに。マフラーなかったら、ちょっと引いてたかもしれない。
 実際口に出してみると、
「べつにいいし。炎だせるし」

 拗ねた。不変がどうとかアイデンティティが云々という話に及んできてめんどくさかった。

「ところでそれ、いいマフラーね。先生とお揃い?」

 と、何の気なしに尋ねてみると、「ん。まあ」と陰りが見えた。
 ここからどう突っ込むべきかと考えていると、

「あ。それ、私が作ったんだ。細かいところは見逃してくれ」

 先生から直接フォローが入ったので見逃せない流れになってしまった。

「へぇ、先生の手編みなんだ」
「ん」

 こうかはばつぐんだ。

「アリスに教わったんだけど。やっぱりなかなか難しくてな」
「上手くできてるじゃない。せっかく慧音先生に指導するチャンスだったのに、簡単にやり方教えただけで普通に出来てたから残念だったわ」
「そ、そうか? そう言ってもらえるとありがたいな」

 む、いけない。こちらのアイデンティティが仕事し始めた。
 湧いてきたそれを限りなくゼロにして差分をどこかに投げた。

「妹紅、どうかしたか?」
「うん? なに」
「いや、ほら」
「え? うあっ、ご、ごめん」

 おそらく無意識に先生の服の裾を握りしめていた妹紅の姿はなかなかいじらしいものがあって、私の精神状態が余計に厄いことになった。能力を無駄にフル稼働させた結果がこれだよ。

「? よくわからないけど、後で聞いた方がいいのか?」
「な、なんでもないって」

 妹紅も大変だなぁ。 

「まあ…、あれよ、うん。それ、アンタのもアリスの手製だろ?」

 これ以上突いても藪蛇なので素直に話題に乗ることにする。

「いやいやこれは違うわよ。ちょっと前に朝起きたら枕元に置いてあったのよ」
「ん? ああ、クリスマス」
「それそれ。アリスのもサンタって人に貰ったらしいわ」

 なんでも紅と白の衣装を着ているらしいけれど、もしかして巫女の別称か。

「で、あんたは何かあげたのか?」
「謝辞を一つばかし」
「私と同じじゃないか」
 なるほど。だから毎回私たちはこうして荷物持ちをしているのかもしれない。






【3.5】  【Side : Alice】



 我が家には炬燵がある。前に、サンタから貰った。







【4】 夕飯 → 就寝 【Side : Alice】



「はぁー、ぬくいわー」
「はいはい。鍋、今持ってくるから行儀よくしてなさいね」
「はやくー」
 今晩は鍋なので和室でくつろいでいたが、くつろぎすぎじゃないかこいつ。



「盛ってあげるわ」
「ありが、おいちょっ、キノコばっかじゃない!」
「全部食べるって言ってたから」
「だからって一気に盛るとかないでしょ」
「はいどうぞ」
「うわさすがにこれはひどい。きのこの山だわ」
「私はたけのこ派よ」
「なんの話?」
「何が?」
 本当に何の話だろう。



「おにくたべたい」
「ぷっ…。ちょっと今の、こう、にょろーんって感じで、もっかい言って」
「おにくたべたい」にょろーん
「ぶふっ……なによもう、ちょっとかわいいわねケンカ売ってんの?」
「なんでだよ。むしろあんたがケンカ売ってんのか肉食わせろ」
 なんて短気なんだろうと口に出したら余計絡まれた。



「まったく…。キノコのどこが嫌なのよ」
「匂いとか味とか、食感とか」
「わーおう、全否定じゃない」
「それに見た目がアレっぽくて」
「ぶはっ」
「きたない」
「食事中にそんな事言うアンタが悪い」
「いやいやほんともう」
「うわーアリスやーらしー」
「うん? いや見た目なめくじみたいじゃない?」
「えっ」
「えっ」
「…………」
「なんだと、思ったの?」
「おにくたべたい」にょろーん
「ふむぅ。これからはえろばしやらすぃとよばざるをえない」
「うっせえばーか!!」



「あー、瓶空いたわね」
「おー、じゃんじゃん持ってこいー」
「はいはい」



「飲みすぎた…」
「吐くなよ。絶対吐くなよ。絶対だぞ」
「おろろろろ」
「まだ余裕があるわね」



「大丈夫?」
「…その優しさが憎いわ」

 水橋は酔っ払うと妬ましいとか言いながら相手を褒め殺しにする癖がある。

「スタイルいいし器用だしきれいな髪だし料理おいしいし」
「ははは、もっと褒めていいのよ」
「私ほんとアリスすごいと思う。尊敬してるもん」



「っていう設定どうかしら?」
「何言ってんだおまえ」
 やっぱり可愛げが足りていないらしかった。



「ちょっと待って。今の私は魔法使い(魔女)だと思っていたけれど、昔の私を魔法少女と呼ぶには若干ロリ過ぎる」
「え、なに? 頭おかしくなったの?」
「ほら、それに今の私には上海とか蓬莱とかマスコットもいるし…これはつまり…」
「つまり、どういうことなの…?」
「今の私が! 私こそが魔法少女だったのよ!!」
「な、なんだってーかっこぼうよみ」
「これは合法的に私が魔法少女を公言できるかどうかの重大な問題なのよわかってるの? 主人公になれるかもしれないのよ?」
「なんだかよくわからないけど、自分のことを魔法少女とか言っちゃう恥ずかしい子だってことはわかった」
「わかったようなわからないようなことを言わないでよ!」
「わけがわからないわ」
「私もわからないわよ!」
「やだこの人めんどくさい」
「ふふっ、魔法使いだからかしらね」
 本当に何を言ってるのかわからなくなってきた。



「ちょっと、ここで寝るなっての」
「んぅ…わかって、る…」
「ほら寝室行けー」
「ふわぃ…」
「…もう」



 寝た。すーすー寝息を立てて夢の世界に旅立ったらしい。
 はぁ。と多分にアルコール成分が含まれたため息を漏らし、部屋の片付けを人形たちに任せる。

「ほら、歩け。Stand up。Go to the bedよ」

 言って、水橋を立ち上がらせる。身体に直接魔力の糸を接続しての身体操作だ。前を歩かせ、私もそれに続いた。

「…むぅ。操符「水橋パルスィ」」

 そのまんますぎる。酒の席で弾幕るような機会があったら試してみてもいいかもしれない。
 式神「水橋パルスィ」GO! そうして大回転しながら相手に突っ込んでいく水橋。今やったら大惨事間違いなしだ。
 耳を澄ますと、うーとか呻いてるけど、大丈夫だろうか。





 さて、普段なら暖炉を焚いたりひと手間かけるのだが、酔った私は無駄に魔法を使う。そういうのを楽しむ状態じゃないし。
 水橋はどうだか知らないけれど、文字通り温室育ちの私には真冬の寒気はちょっとだけ堪える。
 室温を22±1度に設定。湿度も少しだけ高める。演算式に魔力を乗せ、室内の空気に巡らせた。

 さて。と1人ごちて、広いベッドに水橋を横たわらせる。接続を解いて、毛布をかけてやる。
 そして、その横の空いたスペースにぼふんと倒れこむ。

 部屋まで運んでやるのは面倒だったし。というか、自分だけ温い部屋で寝るのは罪悪感がある。
 それこそ部屋まで運んでやった上寝心地のいい環境まで整えてやるのはめんどくさい。後で目を覚まして勝手に部屋に戻って寝るだろう。

 近付きすぎているのかもとは思うけれど、今更もういいかとも思う。

 おやすみ。
 当然返事はなかったが、隣から聞こえる寝息がそれの代わりだったのかもしれない。







【4.5】  【Side : Parsee】



 ……。…zzz。







【5】 早起き → 二度寝 【Side : Alice】



 ――――チュンチュン

 雀の声で目が覚めた。

「朝チュンね…」

 前に誰かがそんな台詞をのたまったのを覚えている。
 おお、朝チュンだぜ。とかそんな感じだったような気がする。私は意味がわからなかったので、そうね、とだけ返したような気もする。

 私、アリス・マーガトロイドの朝は早い。
 長年の、人間でいうところの規則正しい生活の賜物で、私的な習慣だ。
 とはいえ起きる時間にはまだ早い気がする。ゆるゆると体を起こして時計を探すと、短針は5と6の間に留まっている。

 睡眠の必要のないはずの種族魔法使いにも睡眠欲はあるらしい。朝ごはんとかは…、まあ、起きたら考えるからいいや。
 現実味のあるぬくもりに少しだけ体を寄せ、心地よさと眠気に素直に身を任せることにした。







【5.5】 現実 → 逃避 【Side : Parsee】



「…………。うあっ」
 起きた。なんかものっそい暑いし寝苦しいし息苦しい気がするというか、気のせいじゃない。
 アリスと寝ると経験則から3割程度の確率で抱き枕になって朝を迎えることがあってつまり今がそういう状況だった。
 頭がホールドされててかなり厄い。うぎぎと首をひねった際に頬にべちょっと冷たくてかなり不快な感触がしたのが気分の急降下に拍車をかけた。
 涙で、とかならまだしも酒臭いよだれで人の胸元を湿らせてしまっているようで罪悪感だか羞恥心だかよくわからないとりあえずマイナス方向の感情が私を襲う。
 負の感情なんて地底の妖怪の私にはお似合いじゃないとか皮肉な考えを浮かべる余裕もなかった。なによりすごく気持ち悪い。
 無理矢理隙間に手を突っ込んで拭うと「んっ」とか妙な声が降ってきた。これ以上勘弁してほしい。
 起床からわずか数分で気分の立ち下がりがやばい。眠気が残っている内に再び夢の世界に旅立ってただの抱き枕に成り下がる決意を決めた。

 すぐ傍からは小さな寝息。起きる気配はないらしい。
 鈍いだけなのか、それとも。
 こちとら疎まれ者だってのに、まったく。
「……妬ましいわ」

 心の中でおやすみと呟き、現実に手を振った。
金髪の子かわいい
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コメント



0.1010簡易評価
9.90名前が無い程度の能力削除
途中どっちのセリフかわかりにくい部分もありましたが金髪の子かわいい
13.80名前が無い程度の能力削除
もう少し話にメリハリが欲しかったけど金髪の子かわいい
14.100名前が無い程度の能力削除
ミソスープ、サニーサイドアップ、ソイソースの順番…
もしかして作者さんはドラクエユーザー(具体的には初代ドラクエモンスターズ)?

やはり金髪の子かわいい
17.80奇声を発する程度の能力削除
うん、金髪の子かわいい
21.90名前が無い程度の能力削除
ね...妬ましい...
もこたんとけーねがきたところで誰がしゃべってるかわからなかったよー
22.90名前が無い程度の能力削除
幼馴染同士の阿吽の呼吸を見てる気分
金髪の子かわいい
26.90名前が無い程度の能力削除
えろばしやらすぃかわいい
29.803削除
二人とも可愛いなチクショウ