空気が冷たく輝く幻想郷の朝。山肌も、森の木々も、うっすらと雪化粧をしている。
博麗神社も例に漏れず、境内は白い絨毯が敷かれたかのように穏やかな佇まいである。
「うぅん、ひんやりして気持ちのいい朝だ。今日は何して遊ぼっかなぁ。」
こんな日だからなのか、いつものことなのか、氷の妖精チルノは元気いっぱいに飛びまわっている。今日の遊び場所は、博麗神社に決まったようだ。
白い絨毯の中心に素足で穴を開ける。両手を腰に当てて仁王立ちをするチルノは、それだけでも満足しているらしく、大きな口を開けてわっはっはと笑っている。
ふと、チルノは高笑いを止めて目を見張る。庇にぶら下がっている見たこともない何かに興味をひかれたようだ。目を丸くしたり、細くしたり、頑張っていたチルノだったが、近付けばいいと思い立ち、一歩、また一歩と歩いて行く。
目標物の目の前まで来たチルノだったが、それが何なのかはわからないままだった。寺子屋で使っている紙のような色をした薄い板が、紐で縛られた状態でぶら下がっている。恐る恐る手を触れてみると、表面はザラザラしていて、固めのスポンジのような感触だった。
「こーらっ。食べ物で遊んじゃだめよ。」
突然声をかけられたせいで、チルノはびくっと肩をすくめる。博麗神社の巫女、霊夢が笑顔を浮かべてチルノを見つめていた。笑顔で怒られる時は碌な事が無いことを思い出し、チルノは後ずさりをしようとしたが、雪に足を取られて転倒してしまった。
「何をやってるのよ。」
呆れた様子の霊夢は、例の板を紐ごと回収している。チルノは腰を押さえながら立ち上がる。
「いたた…… なんだよぅ。あたいは、ぶら下がってる板を見つけたから、こーきしんっていうのを発揮して、がくじゅつてきたんきゅうをしていただけじゃないか。」
「無理に難しい言葉を使おうとしなくていいわよ。」
むすっとした表情を見せるチルノだが、霊夢はさらっと流してしまう。
「ん?」
霊夢が首をかしげて何事かを考え込む。チルノが真似をして首をかしげる。
「チルノ、あなた、凍り豆腐を見たことが無いの?」
「こおりどうふ?」
「さっき触ってたじゃないの。その様子だと、本当に知らないみたいね。」
霊夢が紐を解き、例の板状の物体をチルノに渡す。触ってもいいという許しを得たと理解したチルノは、受け取った板をまじまじと見つめる。
「それは凍り豆腐っていう食べ物よ。寒い日の夜、薄く切った豆腐を外に晒して凍らせるの。凍った豆腐を天日に干して乾燥させればできあがり。」
霊夢の説明をよそに、扇ぐように振ってみたり、ひっくり返してみたりしながら、チルノは凍り豆腐を観察する。いろいろといじりまわしてみたものの、どうにも腑に落ちない様子だ。難しい顔をして考え込んでいたが、突然、何かを閃いたかのように目を見開くと、凍り豆腐に思い切りかじりついた。
「むんっ!?」
口に含んだものを急いで吐き出す。
「霊夢の嘘吐き! これ、食べられるものじゃないじゃないか!」
「嘘じゃないわ。……私の言い方が悪かったのかしら。凍り豆腐は、そのままでは食べないのよ。これから朝御飯を作るつもりだったから、しばらく待ってなさい。」
言い残して、霊夢が奥に引き返す。後に残されたチルノは、軒先に腰かけて、自分の歯形が残った凍り豆腐を恨めしそうに睨みつけている。
「えいっ!」
掛け声とともに、チルノの手の中には一つの氷の塊が誕生した。宿敵を閉じ込めて気がすんだのか、満足げな表情になる。
しばらくすると、土間の方から、トントン、コトコト、という軽快な音が聞こえてきた。朝御飯を食べないまま家を飛び出してきたことを思い出し、チルノはそっとお腹を抱える。
「おっと、珍しい奴がいるな。どうした? 氷の妖精でも、お腹が冷えたりするのか?」
チルノが顔をあげると、片手をあげて挨拶をする魔理沙の姿が目に入った。
「うわっ、魔理沙、いつの間に? あたいに気づかれずに、良くここまで近付けたな。」
「普通に空を飛んできただけなんだけど。……おや? チルノ、また蛙でも凍らせたのか?」
魔理沙はチルノが持っている氷の塊をまじまじと見つめる。
「ありゃ、これは凍み豆腐じゃないか。」
「しみどうふ?」
「お前が持ってる氷の中にある板みたいなやつだよ。あぁ、しかも歯形がついてる。霊夢に見つかったら怒られるぞ。」
魔理沙が悪戯っぽく笑う。チルノは慌てふためきながら反論を始める。
「魔理沙は嘘吐きだ。さっき、霊夢は、これは凍り豆腐だって言ったもん。豆腐を凍らせた食べ物だって言ったもん。」
「あぁ、だから食べてみた、と。どうだ? 美味かったか?」
「……ぼそぼそしてた。」
「だろうな。そいつは普通そのままじゃ食べないからな。……ん? お前、もう霊夢に会ったのか?」
「うん。朝御飯作るから待ってなさいって。」
くぅ、と小さな音が鳴り、チルノが頬を赤らめる。
「あぁ、さっきお腹を抱えてたのはそのせいだったのか。そういえば、美味しそうないい匂いがしてるな。ちょうどいい、私も一緒に待たせてもらおう。」
魔理沙はチルノの隣に腰掛ける。
「今日は朝御飯を食べに来るって約束してたけど、まさかチルノまで来てるとは。チルノ、運が良かったな。美味しい凍み豆腐が食べられるぞ。」
「なあ、魔理沙、さっきから言ってる、しみどうふ、って、何のことだ?」
「最初に言ったじゃないか。凍り豆腐は凍み豆腐とも言うんだ。凍むというのは、凍る、とか凍りつく、という意味の言葉で、凍らせて作る凍り豆腐は凍み豆腐ってわけだ。……おい、チルノ、大丈夫か?」
チルノは目と頭をぐるぐると回して混乱している。
「あたい、難しいことは、わかんね。」
「悪い悪い、相手がお前だってことを忘れてた。とりあえず、凍り豆腐と凍み豆腐は同じものだって事だけ覚えておけばいいさ。」
「うむむ…… 豆腐が凍って、凍った豆腐にシミができて、シミの豆腐は凍り豆腐……」
「まいったな…… まぁ、美味いものを食べれば落ち着くだろう。おーい、霊夢、まだ御飯はできないのかー?」
魔理沙が土間の方に向かって声をかけると同時に、お盆を手にした霊夢が現れた。
「あら、魔理沙、来てたの? というか、来て早々御飯はできないのかは無いでしょう。親しき仲にも礼儀あり、よ。」
「ごめんごめん、チルノに教育的指導をしていたものでな。」
「言葉の使い方、それで合ってるのかしら。まぁいいわ、せっかく作ったんだから、冷めないうちにお上がりなさい。……って、チルノ、何やってるの?」
「シミが…… 豆腐のシミが……」
「あぁ、気にするな。美味い物を食べれば落ち着くさ。ほら、チルノ、御飯の時間だぞ。」
魔理沙がチルノの手を引いて、霊夢が料理を並べている座敷に向かう。器から立ち上る湯気が食欲をそそるせいか、くぅ、と誰かのお腹が鳴る音がした。
「さて、それじゃあ、いただきます。」
「いただきます。」
「シミ…… シム…… シマ…… 島?」
「いつまでやってるんだ。チルノ、いただきますは?」
「……え? わぁっ、いつの間に? え、えぇと、いただきます。」
挨拶もそこそこに、魔理沙が一番に箸を伸ばす。しんなりとした凍り豆腐の煮物を一切れつかみ、そのまま口へと運んでいく。
「んんっ!」
みるみるうちに、魔理沙の顔がほころんでいく。
「いやぁ、やっぱり霊夢の作る凍み豆腐の煮物は美味いなぁ。口の中に入れたとたんに、じゅわっと溢れだす煮汁の味がなんとも言えない。どうやって出汁をとってるんだ?」
「どうやって、って、普通に出汁をとってるだけよ。」
「その普通がわからないから聞いてるんだよ。ほら、チルノも食べてみろって。」
魔理沙に促されて、チルノは恐る恐る箸を伸ばす。小さめの一切れをつかんで口に運び、一瞬ためらいをみせた後に、意を決したようにして口の中に放り込んだ。
「ふむぅっ!?」
目を見開いて驚きの表情を見せる。しかし、すぐにその表情は満面の笑顔に塗り替えられた。目を輝かせながら、チルノは叫んだ。
「んめぇっ! なんだこれ! すげーうめーぞ!」
「そんなに絶賛されると、なんだか照れるわね…… あぁ、ほらほら、口の中に食べ物を入れたまま喋らない。」
「霊夢、これ、もっと食っていいか?」
「えぇ、ここにある分なら、御好きにどうぞ。」
「やった! さすが霊夢、伊達に巫女をやってるわけじゃないんだな! 見直した!」
「はいはい、こぼさないように気をつけて食べるのよ。」
その言葉を許しと捉えたのか、チルノは凍り豆腐の煮物を自分のもとに引き寄せた。
「あっ、チルノ、独り占めはずるいぞ。」
魔理沙が取り返そうとして箸を伸ばす。
「やぁだ! これはあたいのものだ!」
チルノは魔理沙の伸ばした箸を氷漬けにしてしまった。それだけでは終わらず、キッとした表情で魔理沙を睨みつけている。
「おぉ、こわいこわい。こいつは仕方ないな。」
「ちょっとまって、仕方ないって、これじゃあ私の朝御飯のおかずまでとられたままじゃない。」
「ここにある分なら、御好きにどうぞ、って言ったのは霊夢だろ。まぁ、諦めるんだな。」
そうこうしているうちに、チルノは器に盛ってあった分をぺろりと平らげてしまった。物足りなそうな霊夢や魔理沙に対して、チルノは満足そうに笑顔を浮かべている。
「うまかったー! なぁ、霊夢、この、こおりの豆腐、また食べに来てもいいか? いいよな? な?」
「はぁ…… わかったわ。食べたくなったら、またいらっしゃい。」
「やったー! 約束だからな! また食べに来るからな! わーい!」
小躍りしながら、チルノは飛んで行った。残された霊夢と魔理沙は、顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。
「おい、いいのか? こりゃ、明日も来るぞ。」
「保存してる分はあるけれど…… お豆腐、買ってきておくべきかしら。」
「私も力を貸すよ。なんというか、乗りかかった船だ。」
「あら、珍しいわね、魔理沙の方から貸す、なんて。」
「……実をいうと、私も、もっと食べたいな、なんて。」
頬を赤らめて話す魔理沙を見て、霊夢がほほ笑む。
「そういうことなら仕方ないわね。じゃあ、早速手伝ってもらうことにしようかしら。」
「早速? 何をすればいいんだ?」
「お豆腐を凍らせる準備をするのよ。」
そう言って、霊夢は土間の方へと向かって行った。魔理沙も続いて土間へと向かっていく。
博麗神社の境内には、穴のあいた白い絨毯が敷き詰められている。絨毯が溶け、春を告げる妖精の便りが来るまでは、博麗神社に不思議なオブジェクトが現れることだろう。氷精の舌を虜にするほどの魅力を秘めた、こおりの豆腐という名のオブジェクトが。
博麗神社も例に漏れず、境内は白い絨毯が敷かれたかのように穏やかな佇まいである。
「うぅん、ひんやりして気持ちのいい朝だ。今日は何して遊ぼっかなぁ。」
こんな日だからなのか、いつものことなのか、氷の妖精チルノは元気いっぱいに飛びまわっている。今日の遊び場所は、博麗神社に決まったようだ。
白い絨毯の中心に素足で穴を開ける。両手を腰に当てて仁王立ちをするチルノは、それだけでも満足しているらしく、大きな口を開けてわっはっはと笑っている。
ふと、チルノは高笑いを止めて目を見張る。庇にぶら下がっている見たこともない何かに興味をひかれたようだ。目を丸くしたり、細くしたり、頑張っていたチルノだったが、近付けばいいと思い立ち、一歩、また一歩と歩いて行く。
目標物の目の前まで来たチルノだったが、それが何なのかはわからないままだった。寺子屋で使っている紙のような色をした薄い板が、紐で縛られた状態でぶら下がっている。恐る恐る手を触れてみると、表面はザラザラしていて、固めのスポンジのような感触だった。
「こーらっ。食べ物で遊んじゃだめよ。」
突然声をかけられたせいで、チルノはびくっと肩をすくめる。博麗神社の巫女、霊夢が笑顔を浮かべてチルノを見つめていた。笑顔で怒られる時は碌な事が無いことを思い出し、チルノは後ずさりをしようとしたが、雪に足を取られて転倒してしまった。
「何をやってるのよ。」
呆れた様子の霊夢は、例の板を紐ごと回収している。チルノは腰を押さえながら立ち上がる。
「いたた…… なんだよぅ。あたいは、ぶら下がってる板を見つけたから、こーきしんっていうのを発揮して、がくじゅつてきたんきゅうをしていただけじゃないか。」
「無理に難しい言葉を使おうとしなくていいわよ。」
むすっとした表情を見せるチルノだが、霊夢はさらっと流してしまう。
「ん?」
霊夢が首をかしげて何事かを考え込む。チルノが真似をして首をかしげる。
「チルノ、あなた、凍り豆腐を見たことが無いの?」
「こおりどうふ?」
「さっき触ってたじゃないの。その様子だと、本当に知らないみたいね。」
霊夢が紐を解き、例の板状の物体をチルノに渡す。触ってもいいという許しを得たと理解したチルノは、受け取った板をまじまじと見つめる。
「それは凍り豆腐っていう食べ物よ。寒い日の夜、薄く切った豆腐を外に晒して凍らせるの。凍った豆腐を天日に干して乾燥させればできあがり。」
霊夢の説明をよそに、扇ぐように振ってみたり、ひっくり返してみたりしながら、チルノは凍り豆腐を観察する。いろいろといじりまわしてみたものの、どうにも腑に落ちない様子だ。難しい顔をして考え込んでいたが、突然、何かを閃いたかのように目を見開くと、凍り豆腐に思い切りかじりついた。
「むんっ!?」
口に含んだものを急いで吐き出す。
「霊夢の嘘吐き! これ、食べられるものじゃないじゃないか!」
「嘘じゃないわ。……私の言い方が悪かったのかしら。凍り豆腐は、そのままでは食べないのよ。これから朝御飯を作るつもりだったから、しばらく待ってなさい。」
言い残して、霊夢が奥に引き返す。後に残されたチルノは、軒先に腰かけて、自分の歯形が残った凍り豆腐を恨めしそうに睨みつけている。
「えいっ!」
掛け声とともに、チルノの手の中には一つの氷の塊が誕生した。宿敵を閉じ込めて気がすんだのか、満足げな表情になる。
しばらくすると、土間の方から、トントン、コトコト、という軽快な音が聞こえてきた。朝御飯を食べないまま家を飛び出してきたことを思い出し、チルノはそっとお腹を抱える。
「おっと、珍しい奴がいるな。どうした? 氷の妖精でも、お腹が冷えたりするのか?」
チルノが顔をあげると、片手をあげて挨拶をする魔理沙の姿が目に入った。
「うわっ、魔理沙、いつの間に? あたいに気づかれずに、良くここまで近付けたな。」
「普通に空を飛んできただけなんだけど。……おや? チルノ、また蛙でも凍らせたのか?」
魔理沙はチルノが持っている氷の塊をまじまじと見つめる。
「ありゃ、これは凍み豆腐じゃないか。」
「しみどうふ?」
「お前が持ってる氷の中にある板みたいなやつだよ。あぁ、しかも歯形がついてる。霊夢に見つかったら怒られるぞ。」
魔理沙が悪戯っぽく笑う。チルノは慌てふためきながら反論を始める。
「魔理沙は嘘吐きだ。さっき、霊夢は、これは凍り豆腐だって言ったもん。豆腐を凍らせた食べ物だって言ったもん。」
「あぁ、だから食べてみた、と。どうだ? 美味かったか?」
「……ぼそぼそしてた。」
「だろうな。そいつは普通そのままじゃ食べないからな。……ん? お前、もう霊夢に会ったのか?」
「うん。朝御飯作るから待ってなさいって。」
くぅ、と小さな音が鳴り、チルノが頬を赤らめる。
「あぁ、さっきお腹を抱えてたのはそのせいだったのか。そういえば、美味しそうないい匂いがしてるな。ちょうどいい、私も一緒に待たせてもらおう。」
魔理沙はチルノの隣に腰掛ける。
「今日は朝御飯を食べに来るって約束してたけど、まさかチルノまで来てるとは。チルノ、運が良かったな。美味しい凍み豆腐が食べられるぞ。」
「なあ、魔理沙、さっきから言ってる、しみどうふ、って、何のことだ?」
「最初に言ったじゃないか。凍り豆腐は凍み豆腐とも言うんだ。凍むというのは、凍る、とか凍りつく、という意味の言葉で、凍らせて作る凍り豆腐は凍み豆腐ってわけだ。……おい、チルノ、大丈夫か?」
チルノは目と頭をぐるぐると回して混乱している。
「あたい、難しいことは、わかんね。」
「悪い悪い、相手がお前だってことを忘れてた。とりあえず、凍り豆腐と凍み豆腐は同じものだって事だけ覚えておけばいいさ。」
「うむむ…… 豆腐が凍って、凍った豆腐にシミができて、シミの豆腐は凍り豆腐……」
「まいったな…… まぁ、美味いものを食べれば落ち着くだろう。おーい、霊夢、まだ御飯はできないのかー?」
魔理沙が土間の方に向かって声をかけると同時に、お盆を手にした霊夢が現れた。
「あら、魔理沙、来てたの? というか、来て早々御飯はできないのかは無いでしょう。親しき仲にも礼儀あり、よ。」
「ごめんごめん、チルノに教育的指導をしていたものでな。」
「言葉の使い方、それで合ってるのかしら。まぁいいわ、せっかく作ったんだから、冷めないうちにお上がりなさい。……って、チルノ、何やってるの?」
「シミが…… 豆腐のシミが……」
「あぁ、気にするな。美味い物を食べれば落ち着くさ。ほら、チルノ、御飯の時間だぞ。」
魔理沙がチルノの手を引いて、霊夢が料理を並べている座敷に向かう。器から立ち上る湯気が食欲をそそるせいか、くぅ、と誰かのお腹が鳴る音がした。
「さて、それじゃあ、いただきます。」
「いただきます。」
「シミ…… シム…… シマ…… 島?」
「いつまでやってるんだ。チルノ、いただきますは?」
「……え? わぁっ、いつの間に? え、えぇと、いただきます。」
挨拶もそこそこに、魔理沙が一番に箸を伸ばす。しんなりとした凍り豆腐の煮物を一切れつかみ、そのまま口へと運んでいく。
「んんっ!」
みるみるうちに、魔理沙の顔がほころんでいく。
「いやぁ、やっぱり霊夢の作る凍み豆腐の煮物は美味いなぁ。口の中に入れたとたんに、じゅわっと溢れだす煮汁の味がなんとも言えない。どうやって出汁をとってるんだ?」
「どうやって、って、普通に出汁をとってるだけよ。」
「その普通がわからないから聞いてるんだよ。ほら、チルノも食べてみろって。」
魔理沙に促されて、チルノは恐る恐る箸を伸ばす。小さめの一切れをつかんで口に運び、一瞬ためらいをみせた後に、意を決したようにして口の中に放り込んだ。
「ふむぅっ!?」
目を見開いて驚きの表情を見せる。しかし、すぐにその表情は満面の笑顔に塗り替えられた。目を輝かせながら、チルノは叫んだ。
「んめぇっ! なんだこれ! すげーうめーぞ!」
「そんなに絶賛されると、なんだか照れるわね…… あぁ、ほらほら、口の中に食べ物を入れたまま喋らない。」
「霊夢、これ、もっと食っていいか?」
「えぇ、ここにある分なら、御好きにどうぞ。」
「やった! さすが霊夢、伊達に巫女をやってるわけじゃないんだな! 見直した!」
「はいはい、こぼさないように気をつけて食べるのよ。」
その言葉を許しと捉えたのか、チルノは凍り豆腐の煮物を自分のもとに引き寄せた。
「あっ、チルノ、独り占めはずるいぞ。」
魔理沙が取り返そうとして箸を伸ばす。
「やぁだ! これはあたいのものだ!」
チルノは魔理沙の伸ばした箸を氷漬けにしてしまった。それだけでは終わらず、キッとした表情で魔理沙を睨みつけている。
「おぉ、こわいこわい。こいつは仕方ないな。」
「ちょっとまって、仕方ないって、これじゃあ私の朝御飯のおかずまでとられたままじゃない。」
「ここにある分なら、御好きにどうぞ、って言ったのは霊夢だろ。まぁ、諦めるんだな。」
そうこうしているうちに、チルノは器に盛ってあった分をぺろりと平らげてしまった。物足りなそうな霊夢や魔理沙に対して、チルノは満足そうに笑顔を浮かべている。
「うまかったー! なぁ、霊夢、この、こおりの豆腐、また食べに来てもいいか? いいよな? な?」
「はぁ…… わかったわ。食べたくなったら、またいらっしゃい。」
「やったー! 約束だからな! また食べに来るからな! わーい!」
小躍りしながら、チルノは飛んで行った。残された霊夢と魔理沙は、顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。
「おい、いいのか? こりゃ、明日も来るぞ。」
「保存してる分はあるけれど…… お豆腐、買ってきておくべきかしら。」
「私も力を貸すよ。なんというか、乗りかかった船だ。」
「あら、珍しいわね、魔理沙の方から貸す、なんて。」
「……実をいうと、私も、もっと食べたいな、なんて。」
頬を赤らめて話す魔理沙を見て、霊夢がほほ笑む。
「そういうことなら仕方ないわね。じゃあ、早速手伝ってもらうことにしようかしら。」
「早速? 何をすればいいんだ?」
「お豆腐を凍らせる準備をするのよ。」
そう言って、霊夢は土間の方へと向かって行った。魔理沙も続いて土間へと向かっていく。
博麗神社の境内には、穴のあいた白い絨毯が敷き詰められている。絨毯が溶け、春を告げる妖精の便りが来るまでは、博麗神社に不思議なオブジェクトが現れることだろう。氷精の舌を虜にするほどの魅力を秘めた、こおりの豆腐という名のオブジェクトが。
大喜利のフリだと受け取りました。座布団は自分で返上して来ます……
チルノの無邪気さに癒される作品でしたが、そのチルノのリクエストに乗る魔理沙と照霊夢もまた可愛いですね
和むなぁ
おいしいよね!
普通に家族になっているあたりに和みました
あったかいお話で和みました
\うめえ/
3人で囲む霊夢の高野豆腐良いですね(うち(愛知)の回りは高野豆腐派です)