Coolier - 新生・東方創想話

人間友好度: 高

2013/02/03 01:13:51
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「何これ!?」
 その喫茶店の客達は、突如として店内に響き渡った頓狂な声の主を見て、すぐに慌てて目を逸らした。ただの人間ならばともかく、「彼女」はかの大妖怪、風見幽香だったからだ。関わりを持てばどんな目に遭わされるかわかったものではない。
 めざとい者は、その時風見幽香の向かいに座っていた女性に気がついただろう。比較的大柄な幽香と比べればずっと小さく目立たずにいたが、彼女の威圧的な声に欠片も動じず微笑んでいる。
「幻想郷縁起の原稿です。先程も言いましたが」
 とぼける彼女、稗田阿求を幽香は苛立たしそうに睨み付けながら、ティーカップをソーサーに置いた。勢い余って陶器同士がぶつかる音が響く。
「そんなことはわかっているわ。問題はここよ、ここ」
 そう言って幽香は原稿の一角を二度叩いてみせる。

風見 幽香
能力: 花を操る程度の能力
危険度: 極高
人間友好度: 高
主な活動場所: 太陽の畑

「これが何か」
「とぼけるのもいい加減にしなさい。何、この、人間友好度:高って」
 焦れた幽香はついに問題の箇所を口にした。余程聞かれたくないのか、問題箇所を読むときだけは小声になっている。
「客観的事実を述べたまでですよ」
 感情をむき出しにしている幽香と、優雅にハーブティを楽しんでいる阿求のコントラストは鮮やかだ。これでは人間風情に手玉に取られているようにしか見えないではないかと幽香は内心毒づいて深呼吸をした。
「私のどこがどのように人間に友好的なのか教えてくださるかしら?」
 とりあえず冷静な口調を取り繕うが、自分の質問にいちいちお茶一口分の間を開けてから答える阿求を前にすると折角落ち着けた精神がまた乱れ始める。
「そうですね、友人――花屋の娘なのですが――によると、度々やってきては色々と助言をしているとか」
「ただでさえ鉢なんぞに押し込められて窮屈そうな花たちが不適切な取り扱いでさらに辛い目に遭わされるのが嫌なだけよ」
「でも買い物もしていったそうですね? それもにこやかに。他にも例を二十ほど挙げられますが」
「ここが里でなかったら三回くらい殺してたかもしれないわよ。貴方のこと」
 俯いたままの呟きは周囲の席にも聞こえたようで、幽香には周囲から恐る恐るの視線が感じられた。
「何か用? 見世物じゃないわよ」
 幽香が一喝すると周囲の客は縮み上がって視線を外す。これでは商売にならないだろう。阿求は店主の意味ありげで申し訳なさそうな目配せを察して席を立った。
「とりあえず、お散歩でも如何ですか?」



「ああは言いましたが、基本的に本人の要望には応えるつもりです。書き換えましょうか?」
 路上に咲いたたんぽぽを避けながら、阿求はある程度織り込み済みの譲歩案を持ち出した。幽香の性格を考えればあの原稿に反発することは容易く予想できたし、あの反応から彼女の新たな側面を知ることができたのだから十分な成果と言えた。
「まあ……そうね、あの友好度のところだけ書き換えれば文句は言わないわ」
 たんぽぽを避けたのを見て少し顔を綻ばせた幽香は、先程より幾分和らいだ声で言った。
「あら、良いのですか。色々と他にも都合の悪そうな記述がありますけど」
「なんというかねぇ……。私にも面子ってものがあるのよ。『あの幽香が人間にしっぽを振ってこんな内容に文句も言わない』とか言われると面倒だし」
 日傘を弄びながら肩をすくめて見せる幽香に阿求は苦笑いで返す。
「でも、言われる度に叩きのめせばいいのでは?」
 幽香は肩をすくめたまま阿求を横目にため息をついた。
「大して強くもない連中を一匹一匹叩きのめすのってめんどくさいのよ。それなりの奴らはそんな下らない噂話はしないから必然的にそうなるし。蟻を一匹一匹潰していくようなものよ」
 彼女たちの会話が収束し掛かった頃、二人の両脇に並んでいた商店にも切れ目が目立ってきた。
「これくらいで良いわ。貴方、そんなに体強くないでしょう?」
「ありがとうございます。それではこの辺で」
 お辞儀をして去って行く阿求を、幽香はしばし笑顔で眺めていた。

「やれやれ、私も丸くなったのかしらねぇ」



「あら霊夢、何を読んでいるの?」
 幻想郷もすっかり陽差しがきつくなり、博麗神社では蝉の声があたりに充満していた。神社の縁側で縁側でぐったりと寝そべりながら本を読んでいた博麗霊夢は、声に応えて頭を重たそうに持ち上げた。
「はぁ、どうしてこう、面倒なときに限ってめんどくさい客が」
 霊夢は不平をこぼしながらも井戸へと向かった。いつものように何か冷やしてあるのだろう。
「おかえりなさい、霊夢」
 幽香はさも当然という様子で霊夢が持ってきた冷たい麦茶に口を付ける。妖怪とは言え暑さは感じるので、冷えた飲み物はこうした酷暑の日にはありがたかった。ついつい飲む勢いが強くなって喉が鳴る。
「で、何?」
 胡散臭そうな目で睨み付けながら霊夢が訊ねると、幽香は先程の質問を繰り返した。
「何って、今度出る幻想郷縁起よ。公開する前に巫女に目を通して欲しいって」
「なるほどねぇ。この暑い中ご苦労様」
 幽香の労いを霊夢はむしろ不気味に思ったようで、気味の悪そうな顔をした。
「あんたが人を気遣うなんて、雨でも降らせるつもり? ただでさえ蒸し暑いのに」
「心外ねぇ。まあほら、博麗の巫女が暑さで倒れたなんてなったら幻想郷始まって以来の騒動だし」
 おどけて見せた幽香に目を合わせることなく、霊夢は手元の幻想郷縁起を再び開いた。
「はいはい――あ、あんたが載ってるじゃない。ぷっ、何これ」
 霊夢はおかしそうに縁起の一ページを幽香に示した。

風見 幽香
能力: 花を操る程度の能力
危険度: 極高
人間友好度: 最悪
主な活動場所: 太陽の畑

「あんたらしいじゃない。極高に最悪って」
「あらあら、怖がられてるのねぇ私って」
 先日の出来事をおくびにも出さずに幽香はそう言ってのけた。
「聞いたわよ。里で暴れかけたって。変な仕事を増やさないで欲しいわ。まったく」
 あの喫茶店での出来事のことかと幽香は思い当たった。尾ひれ背びれがつけばそういう話にもなるだろう。
「ちょっと御阿礼の子が生意気な口を利いたから、少し思い知らせてやろうかと思っただけですわ」
「あんたねえ……。ま、いいわ。話がそれだけなら帰った帰った。喋っただけでも暑いんだから」
「はいはい、私もついでに寄っただけだから、お邪魔なら失礼するわ」
 今度はいつ押しかけてやろうかと悪戯っぽく笑いながら、幽香は霊夢に背を向けて人間の里への買い物へと向かった。
以前書いてみて上手くいかなかったアイディアをベースに新たに書き直してみました。人間など歯牙にも掛けない孤高の大妖怪風見幽香も良いですが、最近幾分角が取れてきたゆうかりんもいいと思います。

前作のコメントで質問された方がいましたが、一応意図したHNの読みは「ひとまるしきせんしゃ」です。
10式戦車
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コメント



0.1470簡易評価
4.70名前が無い程度の能力削除
前回あやもみをあれだけ書けたのだから今作は少し練りが足りない気がする
幽香SSでギャップ萌えも定番の一つなので、もう一歩が欲しい
5.90名前が無い程度の能力削除
これはいい幽香。
内容はちょっとあっさりし過ぎてて、残念かな?
6.100名前が無い程度の能力削除
あきゅんのキャラが好きだわ
7.90奇声を発する程度の能力削除
これは良い幽香ですね
16.80名前が無い程度の能力削除
短くまとまってるとも言えるけれど、アッサリし過ぎて惜しい気もする。
キャラ像は良いのですが。
28.70euclid削除
>「で、何?」
が文脈的に霊夢の発言にも幽香の発言にも取れるので、その後を読むときにちょいと混乱してしまいました。
でも幽香さんかわいらしかったです
29.80名前が無い程度の能力削除
優しいゆうかりんもアリですね
縁起を見た他の人妖の反応も気になる
34.803削除
あっさりしすぎという感想は、もっと読みたいの延長上。
つまりは、このSSはもっと読みたいと思わせるだけのものを持っています。