「私のメイドになってほしいの!」
やや肌寒く秋も終盤といった折、日課である花壇の水やりの最中に背後からいきなりである。
「はぁ、それはまた何故?」
何を思い立っての行動かはわからないが、館のあの部屋からこんな門前の花壇にまで、
しかも日中に来るということはよほどのことなのであろうか。
「私もお姉さまみたいに咲夜みたいなのがほしいの」
要件はたったこれだけ。元から姉妹そろって思い立ったが吉日と言わんばかりに行動する
性格であるのは知っていたがあまりに唐突である。
「その咲夜さんじゃダメなんですか?」
「だってあれはお姉さまのメイドだもん。私のじゃない」
どうやら専属のメイドにご執心の様子。文字通りに姉の持ち物を羨む妹そのものであった。
「私は一応門番の仕事があるので兼任になっちゃいますよ?」
自分が仕えているのは姉であるレミリアお嬢様で、その妹君であるフラン様も主の身内なので
形式の上では主同然。
そんなことを仰らなくても貴女は私の主同然ですよ。とやんわりと伝えたが
「それじゃ意味無いの。私だけが主で、私だけに仕えてくれるメイドじゃなきゃ私だけのものにならないもん」
なかなかにフクザツで難しいことを仰る。
「ですがお嬢様の許可なくしてそういうことはちょっとできませんね」
「あ、それなら大丈夫!もうもらったから」
もらった?何を?
「さっきお姉さまの部屋に行ってお願いしたら好きにしなさいって」
…きっと寝ているところを叩き起こされてあしらうようにテキトーに言ったに違いない。
「はぁ、わかりました。そういうことでしたら不肖ながらこの紅美鈴、貴女の手となり足となりましょう」
「やった♪」
「まあそれでも門番の仕事を投げ出すわけにはいかないのでやっぱり兼任にはなってしまいますけどね」
「いいよ。“私の”美鈴になればそれぐらいどうでもいいもん」
やたら“私の”が強調されていたが、自分だけのものというのが心地よいのだろう。
「それじゃあさっそくお散歩しようよ。そうだなー、じゃあ魔理沙の家まで!」
「外出なさるのでしたらお嬢様に許可をもらったほうがいいですよ?それに門番の仕事があるので今すぐはちょっと」
「大丈夫だって。それも全部さっきいいよっていってたもん」
はやくいこうよー、とせがむ新しい主。
…いくらなんでも睡魔に従順すぎないでしょうかね、元主。
†
鬱蒼と茂る木々がほとんどの日を遮り、その隙間から漏れるわずかな光が照らす森の中。
一見して湖底を思わせる雰囲気の中、とある家を目指してゆったりと歩く。
「たまには歩いていくのもいいよね。あ、でもこれが一応初めてだったかも」
「まあ普段はお迎えする側ですものね。お家にいらっしゃるといいのですが」
アポ無しの突撃訪問である上、常に忙しなく動き回っているであろうあの人が在宅しているとは少し考えにくい。
意気揚々と出発なされた主のお供してここにいるのだが、骨折り損になった際にどうなだめるかばかりが
頭に浮かんでしまう。
「っと、ここかな?地図だとこのあたりだけど」
「そうでしょうね。このあたりにある家はこれぐらいでしょう」
咲夜さんに頂いた手書きの地図によるとおおよそこのあたり。入り口には店主同様やる気なさげに
OPENの掛札がある。
よくみると蔦に絡まれている状態ではあるが霧雨魔法店の文字が書かれている看板が目に入る。
「やってるのかなこれ?」
「まあ掛札がある以上はやってるかとは思いますが」
扉に手をかけドアノブを回す。軽い感触。
きぃ、と蝶番が鳴いた。
「ん?ああ、いらっしゃーい。ってなんだ。お前らか」
珍しいこともあるもんだとふんぞり返っている魔理沙がそこにいた。
「今日は気分を変えて“私の”美鈴とお散歩してるの」
「へぇ。私の、ねぇ」
視線がこちらに向いた。やる気の感じられなかった瞳が少し輝いた…ように思える。
「まあいろいろありまして…っと」
そんな視線から目をそらすともう一人の来客者に目が合った。
「こんなところに来客。物好きねあなた達」
視線の先、部屋の隅のほうにある安楽椅子で編み物をしているアリス・マーガトロイドがそこにいた。
「アリスさんもいらっしゃいましたか」
「ちょっと用事でね。時間がかかるっていうからこうやって暇をつぶしながら待ってるわけ」
だいぶ時間がたっているのか、編んでる途中のマフラーらしきものはもうすぐ作り終えそうなぐらいに
出来上がっている。
「…その割には魔理沙さんは何もしてないようですが」
「モノを引き取りに来たんだけど、このバカがしまった場所忘れちゃったんですって」
なんたる間抜け。と失笑気味のアリス。
「はぁ、それはまた。それで今思い出している最中というところでしょうか?」
「そ。なんでもちょっと動かしただけでもどこが崩れるかわからないんだそうよ?」
だからうかつに手が出せずに記憶の海を揺蕩って探っているらしい。そんなことになるぐらいなら
普段から整理すればいいのに。
「そんなことしたらめんどいだろー?あとこの配置はいつでも欲しいものが手に届くように
配置された計算された配置なんだよ」
豪語するわりには今にも崩れそうな書類や箱の山達が雑多に置かれているだけにしか見えない。
物は言いようか。
「そんなことしなくても手で探したほうが早いよ!どこかにあるなら私も探すの手伝うからさ!」
早くやっちゃおうよ!と手を引く妹様。結構な力なのかやや顔が歪んでいる。
「あのなフラン。この繊細で綿密な配置はお前が扱うにはデリケートだからちょっと座って待ってろ」
「むぅ。そんなことないもん。私のほうが魔理沙よりお片付けできるよ?」
えっへんと胸を張る。まあ確かに整理されているほうだとは思いますが、あれはただ単純に調度品が
少ないからだと思われる。
「片づけじゃないんだけどな…」
「いっしょだよ。で、何を探せばいいの?本?」
これかな?っと適当に重ねられた本のひとつを引っこ抜く。
「おいおいやめろって――あ。」
その時にはもう遅い。雑多に積み上げられていたあの謎の建造物たちが埃を巻き上げて
崩れていく光景が見える。
また一つ、私に仕事が増えた瞬間だった。
†
「まったく…余計な仕事増やしやがって…」
無残にも散らばった本や書類の束を片づける作業が始まった。
もちろん事の張本人である妹様の従者たる自分は否応なくこの作業をしなくてはならないのだが。
「別にいいじゃない。こうでもしなきゃあなたあのまま何もしないではぐらかすつもりだったでしょ?」
いい気味ねと遠くのアリス氏は優雅にお茶を楽しんでいる。本音としては見てないで
ちょっと手伝ってほしい。
「浮かばなかったんならしょうがねーだろ」
「それがだめだったんだから手で探しなさいってこと。それなら見つかるでしょ」
どうも本当に借りていた(かどうかも怪しいが)本の回収に来たらしい。当の本人ははぐらかすつもりだったらしく
渋々といった形で本と書類をまとめつつ目的のものを探す。
「別にこの山がどうなろうとどうでもいいけどね。ただあなたもあの子ぐらい動けば見つかるんじゃない?」
目線の先、散乱してる紙と本の上を目を輝かせて探し物をしてる妹様がそこにいた。
嬉々として宝物でも掘り起こすように探している。
「んー、これかな?それともこれかな?どっちだろ?」
アリスから聞いた本の特徴に似ているものを片っ端から掘り当てては積んでいく。
「だからあいつに探し物は任せてるよっての。私は保護者のほうに後片付けさせるから」
「保護者じゃなくて“私の”メイド!」
聞こえていたのかすぐさま反論。妹様の中では譲れないらしい。
「そうかい。じゃあそのメイドに後始末させてるってわけだ」
今この惨状を片づけることだけが重要な魔理沙にとっては心底どうでもいいらしい。
まあわからなくもないが。
「メイドねぇ。貴女いつから門番やめちゃったのかしら?」
探し物に夢中になってる妹様をよそに、メイドに何か思い入れでもあるのか、アリスが
そのキーワードにつっこんでくる。
「ちゃんとやってますよ。兼任です。あとメイドっていうのは比喩表現だと思いますよ?
自分だけの専属従者がほしかっただけかと」
「?、普通にメイドじゃない」
そりゃまあ確かにそうなのですが。
「ただ単純に自分だけのものがほしかっただけかと」
おそらく姉に対する咲夜。その関係にあこがれていたのではないかとアリスに説明する。
「そういうお年頃なのかしら?」
「そんなものでしょうかねぇ。でもまあ事実として今は私の主であるので全力はつくしますが」
そう駄弁りつつも手は留めない。帰りが遅くなるのはちょっと避けたいのだ。
「んー?あ、これかな?」
見つけた!と高々と一冊の本を掲げる。
「ああそれね。どうもありがとう」
その本を受け取ったアリスに頭をなでられてまんざらでもないご様子。
「じゃあ用も済んだし失礼するわ」
安楽椅子から立ち上がって出口に向かって歩く。
「っと、そうだ」
ふぁさっ、と妹様の首にあるものがかけられる。
「まああなたがいなったらきっと返ってこなかっただろうしね」
お礼替わりね。と、先ほどまで編んでいたマフラーをプレゼントした。
「くれるの?」
「ええ。なんとなく編んでいただけだったし。誰かに使っていただけるほうが光栄よ」
マフラーはあたかも妹様のために編まれていたような、自身の羽と同じきれいな七色のだった。
「それじゃ今度こそ。それ、大事にしてね」
「うん!」
あんなにも嬉しそうに満面の笑みを浮かべる妹様を久しぶりに見たと思う。
それだけでもここに来たかいはあったのかもしれない。
「なかなかに美しい光景結構だけどな。お前らこれどうにかしてから帰れよ?」
わかってはいたが、この白黒はもうちょっと空気を読んでほしかった。
†
なんとかあの紙と本をまとめ上げ、日が落ち切る前に館まで戻ってくることができた。
夜になると厄介な輩が多く出るので、この時間に帰ってこれてよかった。
「よかったですね。プレゼントをいただけて」
あれ以降大事そうにあのマフラーを眺めている妹様。ただの散歩からおもわぬ収穫である。
「うん。今日は楽しかった!」
そういっていただけて光栄です。と一礼。まあ連れ出されたも同然であって、私自身は
特に何かしたわけではないのだが。
「でもこのままっていうのも何か歯がゆいよね」
そういってうじうじしている。どうやらアリスさんになにか贈り物をしたいと見た。
「そうですねー。機会がありましたら、今度はこちらがプレゼントをもってアリスさんの
お家に行ってみるのもいいかもしれませんね」
いったい何を贈るかはわからないが、まああの人ならそう邪険にはしないだろう。
「そうだね!じゃあ今度はアリスの家にお散歩しに行こうよ!」
約束だよ!と指切りをしようと指を出す妹様。どこで覚えたのだろうか。
「…我が主のご意向のままに」
夕日を背に、そういって指切りを交わしたのだった。
やや肌寒く秋も終盤といった折、日課である花壇の水やりの最中に背後からいきなりである。
「はぁ、それはまた何故?」
何を思い立っての行動かはわからないが、館のあの部屋からこんな門前の花壇にまで、
しかも日中に来るということはよほどのことなのであろうか。
「私もお姉さまみたいに咲夜みたいなのがほしいの」
要件はたったこれだけ。元から姉妹そろって思い立ったが吉日と言わんばかりに行動する
性格であるのは知っていたがあまりに唐突である。
「その咲夜さんじゃダメなんですか?」
「だってあれはお姉さまのメイドだもん。私のじゃない」
どうやら専属のメイドにご執心の様子。文字通りに姉の持ち物を羨む妹そのものであった。
「私は一応門番の仕事があるので兼任になっちゃいますよ?」
自分が仕えているのは姉であるレミリアお嬢様で、その妹君であるフラン様も主の身内なので
形式の上では主同然。
そんなことを仰らなくても貴女は私の主同然ですよ。とやんわりと伝えたが
「それじゃ意味無いの。私だけが主で、私だけに仕えてくれるメイドじゃなきゃ私だけのものにならないもん」
なかなかにフクザツで難しいことを仰る。
「ですがお嬢様の許可なくしてそういうことはちょっとできませんね」
「あ、それなら大丈夫!もうもらったから」
もらった?何を?
「さっきお姉さまの部屋に行ってお願いしたら好きにしなさいって」
…きっと寝ているところを叩き起こされてあしらうようにテキトーに言ったに違いない。
「はぁ、わかりました。そういうことでしたら不肖ながらこの紅美鈴、貴女の手となり足となりましょう」
「やった♪」
「まあそれでも門番の仕事を投げ出すわけにはいかないのでやっぱり兼任にはなってしまいますけどね」
「いいよ。“私の”美鈴になればそれぐらいどうでもいいもん」
やたら“私の”が強調されていたが、自分だけのものというのが心地よいのだろう。
「それじゃあさっそくお散歩しようよ。そうだなー、じゃあ魔理沙の家まで!」
「外出なさるのでしたらお嬢様に許可をもらったほうがいいですよ?それに門番の仕事があるので今すぐはちょっと」
「大丈夫だって。それも全部さっきいいよっていってたもん」
はやくいこうよー、とせがむ新しい主。
…いくらなんでも睡魔に従順すぎないでしょうかね、元主。
†
鬱蒼と茂る木々がほとんどの日を遮り、その隙間から漏れるわずかな光が照らす森の中。
一見して湖底を思わせる雰囲気の中、とある家を目指してゆったりと歩く。
「たまには歩いていくのもいいよね。あ、でもこれが一応初めてだったかも」
「まあ普段はお迎えする側ですものね。お家にいらっしゃるといいのですが」
アポ無しの突撃訪問である上、常に忙しなく動き回っているであろうあの人が在宅しているとは少し考えにくい。
意気揚々と出発なされた主のお供してここにいるのだが、骨折り損になった際にどうなだめるかばかりが
頭に浮かんでしまう。
「っと、ここかな?地図だとこのあたりだけど」
「そうでしょうね。このあたりにある家はこれぐらいでしょう」
咲夜さんに頂いた手書きの地図によるとおおよそこのあたり。入り口には店主同様やる気なさげに
OPENの掛札がある。
よくみると蔦に絡まれている状態ではあるが霧雨魔法店の文字が書かれている看板が目に入る。
「やってるのかなこれ?」
「まあ掛札がある以上はやってるかとは思いますが」
扉に手をかけドアノブを回す。軽い感触。
きぃ、と蝶番が鳴いた。
「ん?ああ、いらっしゃーい。ってなんだ。お前らか」
珍しいこともあるもんだとふんぞり返っている魔理沙がそこにいた。
「今日は気分を変えて“私の”美鈴とお散歩してるの」
「へぇ。私の、ねぇ」
視線がこちらに向いた。やる気の感じられなかった瞳が少し輝いた…ように思える。
「まあいろいろありまして…っと」
そんな視線から目をそらすともう一人の来客者に目が合った。
「こんなところに来客。物好きねあなた達」
視線の先、部屋の隅のほうにある安楽椅子で編み物をしているアリス・マーガトロイドがそこにいた。
「アリスさんもいらっしゃいましたか」
「ちょっと用事でね。時間がかかるっていうからこうやって暇をつぶしながら待ってるわけ」
だいぶ時間がたっているのか、編んでる途中のマフラーらしきものはもうすぐ作り終えそうなぐらいに
出来上がっている。
「…その割には魔理沙さんは何もしてないようですが」
「モノを引き取りに来たんだけど、このバカがしまった場所忘れちゃったんですって」
なんたる間抜け。と失笑気味のアリス。
「はぁ、それはまた。それで今思い出している最中というところでしょうか?」
「そ。なんでもちょっと動かしただけでもどこが崩れるかわからないんだそうよ?」
だからうかつに手が出せずに記憶の海を揺蕩って探っているらしい。そんなことになるぐらいなら
普段から整理すればいいのに。
「そんなことしたらめんどいだろー?あとこの配置はいつでも欲しいものが手に届くように
配置された計算された配置なんだよ」
豪語するわりには今にも崩れそうな書類や箱の山達が雑多に置かれているだけにしか見えない。
物は言いようか。
「そんなことしなくても手で探したほうが早いよ!どこかにあるなら私も探すの手伝うからさ!」
早くやっちゃおうよ!と手を引く妹様。結構な力なのかやや顔が歪んでいる。
「あのなフラン。この繊細で綿密な配置はお前が扱うにはデリケートだからちょっと座って待ってろ」
「むぅ。そんなことないもん。私のほうが魔理沙よりお片付けできるよ?」
えっへんと胸を張る。まあ確かに整理されているほうだとは思いますが、あれはただ単純に調度品が
少ないからだと思われる。
「片づけじゃないんだけどな…」
「いっしょだよ。で、何を探せばいいの?本?」
これかな?っと適当に重ねられた本のひとつを引っこ抜く。
「おいおいやめろって――あ。」
その時にはもう遅い。雑多に積み上げられていたあの謎の建造物たちが埃を巻き上げて
崩れていく光景が見える。
また一つ、私に仕事が増えた瞬間だった。
†
「まったく…余計な仕事増やしやがって…」
無残にも散らばった本や書類の束を片づける作業が始まった。
もちろん事の張本人である妹様の従者たる自分は否応なくこの作業をしなくてはならないのだが。
「別にいいじゃない。こうでもしなきゃあなたあのまま何もしないではぐらかすつもりだったでしょ?」
いい気味ねと遠くのアリス氏は優雅にお茶を楽しんでいる。本音としては見てないで
ちょっと手伝ってほしい。
「浮かばなかったんならしょうがねーだろ」
「それがだめだったんだから手で探しなさいってこと。それなら見つかるでしょ」
どうも本当に借りていた(かどうかも怪しいが)本の回収に来たらしい。当の本人ははぐらかすつもりだったらしく
渋々といった形で本と書類をまとめつつ目的のものを探す。
「別にこの山がどうなろうとどうでもいいけどね。ただあなたもあの子ぐらい動けば見つかるんじゃない?」
目線の先、散乱してる紙と本の上を目を輝かせて探し物をしてる妹様がそこにいた。
嬉々として宝物でも掘り起こすように探している。
「んー、これかな?それともこれかな?どっちだろ?」
アリスから聞いた本の特徴に似ているものを片っ端から掘り当てては積んでいく。
「だからあいつに探し物は任せてるよっての。私は保護者のほうに後片付けさせるから」
「保護者じゃなくて“私の”メイド!」
聞こえていたのかすぐさま反論。妹様の中では譲れないらしい。
「そうかい。じゃあそのメイドに後始末させてるってわけだ」
今この惨状を片づけることだけが重要な魔理沙にとっては心底どうでもいいらしい。
まあわからなくもないが。
「メイドねぇ。貴女いつから門番やめちゃったのかしら?」
探し物に夢中になってる妹様をよそに、メイドに何か思い入れでもあるのか、アリスが
そのキーワードにつっこんでくる。
「ちゃんとやってますよ。兼任です。あとメイドっていうのは比喩表現だと思いますよ?
自分だけの専属従者がほしかっただけかと」
「?、普通にメイドじゃない」
そりゃまあ確かにそうなのですが。
「ただ単純に自分だけのものがほしかっただけかと」
おそらく姉に対する咲夜。その関係にあこがれていたのではないかとアリスに説明する。
「そういうお年頃なのかしら?」
「そんなものでしょうかねぇ。でもまあ事実として今は私の主であるので全力はつくしますが」
そう駄弁りつつも手は留めない。帰りが遅くなるのはちょっと避けたいのだ。
「んー?あ、これかな?」
見つけた!と高々と一冊の本を掲げる。
「ああそれね。どうもありがとう」
その本を受け取ったアリスに頭をなでられてまんざらでもないご様子。
「じゃあ用も済んだし失礼するわ」
安楽椅子から立ち上がって出口に向かって歩く。
「っと、そうだ」
ふぁさっ、と妹様の首にあるものがかけられる。
「まああなたがいなったらきっと返ってこなかっただろうしね」
お礼替わりね。と、先ほどまで編んでいたマフラーをプレゼントした。
「くれるの?」
「ええ。なんとなく編んでいただけだったし。誰かに使っていただけるほうが光栄よ」
マフラーはあたかも妹様のために編まれていたような、自身の羽と同じきれいな七色のだった。
「それじゃ今度こそ。それ、大事にしてね」
「うん!」
あんなにも嬉しそうに満面の笑みを浮かべる妹様を久しぶりに見たと思う。
それだけでもここに来たかいはあったのかもしれない。
「なかなかに美しい光景結構だけどな。お前らこれどうにかしてから帰れよ?」
わかってはいたが、この白黒はもうちょっと空気を読んでほしかった。
†
なんとかあの紙と本をまとめ上げ、日が落ち切る前に館まで戻ってくることができた。
夜になると厄介な輩が多く出るので、この時間に帰ってこれてよかった。
「よかったですね。プレゼントをいただけて」
あれ以降大事そうにあのマフラーを眺めている妹様。ただの散歩からおもわぬ収穫である。
「うん。今日は楽しかった!」
そういっていただけて光栄です。と一礼。まあ連れ出されたも同然であって、私自身は
特に何かしたわけではないのだが。
「でもこのままっていうのも何か歯がゆいよね」
そういってうじうじしている。どうやらアリスさんになにか贈り物をしたいと見た。
「そうですねー。機会がありましたら、今度はこちらがプレゼントをもってアリスさんの
お家に行ってみるのもいいかもしれませんね」
いったい何を贈るかはわからないが、まああの人ならそう邪険にはしないだろう。
「そうだね!じゃあ今度はアリスの家にお散歩しに行こうよ!」
約束だよ!と指切りをしようと指を出す妹様。どこで覚えたのだろうか。
「…我が主のご意向のままに」
夕日を背に、そういって指切りを交わしたのだった。
次も期待させてもらいます。
綺麗な良いお話でした
とても素敵でした
一番好きな組み合わせだと思います。
思いついたらこれの続きを書こう・・・と思います。
メイフラ良いじゃないですか