Coolier - 新生・東方創想話

持ってくのは良いけどちゃんと返してくれ

2013/01/07 16:27:17
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 血の香がする悪魔の薔薇の開発をレミリアに依頼されたパチュリーは、頭を悩ませていた。交配作業を行う時に鉄分等のミネラルを含ませることを思いついたものの、参考になる本が見当たらず良い塩梅にたどり着けずにいたのだ。咲夜の力を借りて高速で交配を繰り返すも、出来上がるのはカミソリのように鋭い花を付ける薔薇や錆びついて触れると崩れてしまうほど脆い薔薇など、どれもレミリアの気に入る物では無かった。
 パチュリーは『魔法で楽しむ!魔界の植物百選』を読んだことがあったし、グロテスクな挿絵が沢山あるその本は図書館の蔵書として確かに記録されていた。それでも本は見つからず、苛立ったパチュリーは司書悪魔を捕まえては「整理整頓がなっていない」「管理不足だ」となじった。人間の魔法使いが本を盗って行ったに違いないと司書悪魔が言いだしたのは、躾が必要だと提案したレミリアによってロープで縛られ逆さづりにされている時だった。

 一理あると踏んだパチュリーは魔理沙の家へ咲夜を派遣したが、成果は上がらなかった。帰ってきた咲夜はすっかり森の瘴気にあてられてしまって、気味が悪いほど陽気になり色鮮やかなキノコを大量に採取していた。鼻歌交じりに紅茶にキノコを混ぜる様が恐ろしく、しばらくは彼女の淹れた紅茶を飲むまいとパチュリーとレミリアは誓った。気づけば司書悪魔は魔界へ帰ってしまっていて、門番や妖精メイドは頼りにならない。不服ではあったが、パチュリーはコートを羽織ると森へ飛んだ。

 冬の冷たい空気に体を震わせながら森の上空に辿りついたパチュリーは、眼下を見下ろして眉をひそめた。この季節でも葉を付ける常緑樹の森はただでさえ見通しが悪いのに、深い霧まで立ち込めているから尚更厄介だった。
 とても家など見えはしない。風に吹かれてくしゃみをしたパチュリーは、意を決して森へと降りていった。
 霧と葉の天井を抜けて森の中に入ると、冬だというのに空気は生暖かく湿っていた。菌糸類の胞子が充満した環境は想像以上に過酷で、咳をしたパチュリーは体を折り曲げた。その時、地面に群生するマーブル柄のキノコを見てパチュリーは戦慄した。見覚えがあるその柄は、咲夜が持ち帰ったキノコと同じものだった。

 途端に、見えている世界がショッキングピンクに染まった。頭の中でビヨンビヨンと弦を弾くような音が響き、眩暈と吐き気を催した。
 強力な幻覚作用に見舞われたパチュリーの前に、レミリアの姿が現れた。服装や体つきはレミリアそのものだったが、頭だけがパチュリーの想像する“魔界薔薇”とすげ替わっていた。木の陰からは、メイド服を着た“魔界睡蓮”が酔っぱらいの躍るバレエような動きで無数に現れた。先頭に躍り出たのは同じくメイド服を着ているが顔は懐中時計の“魔界月光花”だった。
 おかしな世界に放り込まれたパチュリーは、ぼんやりとした頭で『魔法で楽しむ!魔界の植物百選』の内容を思い出していた。記憶の片隅に追いやっていた“魔界薔薇”のレシピが、少しずつ浮かび上がってくる。もう少しで思い出せるというところまで来て、顔を覗き込む司書悪魔が見えた。他に比べるとマシな造形をしていたが、目があるはずの場所から青い“魔界蒲公英”が咲き誇っていた。
 急に怖くなったパチュリーは後ずさりをした。すぐに木にぶつかって、崩れ落ちた。“魔界蒲公英”の司書悪魔がぬるりと迫ってきて、キスをした。天地がひっくり返って、パチュリーは意識を失った。



 パチュリーが目を覚ましたのは、見慣れた部屋のベッドの上だった。体を起こすと驚くほど快調で、そばにはフランドールと、申し訳なさそうにしている司書悪魔がいた。司書悪魔の顔に魔界の花は咲いていなかった。

「目が覚めた?森で倒れていたのを魔理沙が運んできたのよ」

 担ぎ込まれたのは三十分ほど前だとフランドールに教えられた。森の中でうわごとを繰り返しているパチュリーを見つけた魔理沙は大急ぎで紅魔館まで飛ばしたという。ベッドに寝かせるとパチュリーは落ち着いたようで、安心したと魔理沙は帰って行った……と思ったのもつかの間、図書館で本を物色する魔理沙と魔界から戻ってきた司書悪魔が鉢合わせたらしい。
 すぐに魔理沙はレミリアの所へ突き出され、今は無理やり弾幕ごっこをさせられているという。耳を澄ませば、確かに爆発音と怒鳴り声が聞こえた。コンティニューだ!と魔理沙が叫んでいた。
 パチュリーにとって残念だったのは、思い出しそうだった“魔界薔薇”のレシピがすっかり引っ込んでしまった事だった。あのキノコに体調を良くする効果があるのなら、それも兼ねて咲夜の持っている分を頂戴するのも手かもしれない。邪な考えでパチュリーが口の端を吊り上げていると、フランドールが咳ばらいをした。

「病人には、絵本を読んであげなくちゃね」

 フランドールがここに居るのは見舞いのためではなく、暇つぶしがしたかっただけらしい。彼女が背中に隠していた本を取り出した時、パチュリーは驚かざるを得なかった。
 派手なショッキングピンクの表紙には『魔法で楽しむ!魔界の植物百選』と書かれていた。
やりつくされたネタだと感じたのはきっとまぼろし
ゴブリンの出番もまぼろしだった

1/10 18:38
指摘いただいたので誤字修正、概要追加
トロ食べたい
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コメント



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3.10名前が無い程度の能力削除
描写がきつかったのでタグか概要に注意文が欲しかった
12.90名前が無い程度の能力削除
司書悪魔の証言(推測)だけで確かにどこにもまりさが持ってったとは書いてないわな。フランちゃんェ…
やりつくされたと言うか起承転結がキッチリハマってるって感じじゃないすかね

>森の正気
ん、瘴気の事?
14.90名前が無い程度の能力削除
そうか、どこかで見覚えがあると思ったらどこぞのイカレた野球掲示板の看板下品スレそっくりなんだ!
16.90名前が無い程度の能力削除
こあが魔界まで本買いに行ったと妄想w
17.903削除
上手くまとまっていました。短編のお手本にしたいですね。