ガチャリとドアを開ける音が部屋に響いた。フランドールは、その音を聞いたが、読んでいる本から顔をあげなかった。ノックもせずに、この部屋を開けるなんてことをする妖怪は、1人しかいない。入ってきた妖怪は、抜き足差し足でフランドールに近づいてくる。気配でバレバレであるが。
そのまま本を読んでいるフリをしていると、視界が冷たい手でふさがれた。
「だーれだ?」
子供のような、ちょっとイタズラっぽい声。聞きなれた友達の声だ。
「ルーミアでしょ?」
「せいかーい! ご褒美に、私に食べら」
「いらない!」
「もう、せめて冗談くらい、最後まで言わせてよね」
「だって、もう聞き飽きたんだもん」
「じゃあ、わたしに飲み込まれ」
「それも嫌。もう、そんなことばっかり言ってると、血吸っちゃうよ?」
「ぶー。せっかく来たのに」
「もう準備できてるよ。マフラーしかいらないけど」
「ちょっと待って。少し休ませてよ」
「えー、早く博麗神社に行こうよ」
「ちょっと、きゅーけー」
ルーミアがトコトコと歩いて、フランドールのベッドに倒れ込む。天蓋つきのベッドは、軽いルーミアの体重を、ポスリと受け止めた。
「あー、ルーミア、また勝手にわたしのベッド使った」
「フランドールも来ればいいじゃない。広いベッドなんだから、二人でも寝られるわよ」
「そうだけどさぁ」
なんとなく納得いかないが、フランドールもルーミアの隣に寝ころぶ。
「ねぇ、昨日は誰にキスしてもらったの?」
「寝る前に、美鈴にしてもらった」
「あれ? でも、跡ついてないよ?」
「そんなに強くしないもん」
ルーミアがフランドールの色素の薄い前髪をかき分けて跡を探すが、見つからないようだ。美鈴は、フランドールの額に触れるだけのキスをしただけなので、見つからなくて当然だが。
フランドールは、額にキスをされるのが好きだった。特に、寝る前にキスをしてもらうのが好きで、毎晩誰かにキスをしてもらうのが習慣になっている。昔の本に、額にキスをするのは友情のキスと書いてあるが、その通りなのかもしれない。額にキスをされると、心がほっこり暖かくなる。確かな暖かさを実感できるのは、冷たい時を過ごしたことがあるフランドールにとって、大切なことだった。
今後もこんな暖かい日々が続いて欲しい。できることなら、この暖かくて優しい日々が永遠に。紅魔館のメンバーがいて、霊夢や魔理沙がやってきて、たまには異変を起こしてみんなで大騒ぎをして。
なんて感傷に浸っていると、額にキスをされた。
「ルーミア、キスした?」
「したよ?」
「どうして?」
「フランドールが寝そうだったから」
「それだけ?」
「うん。でも嬉しそうだよ? 今」
「べっ、別に嬉しくないよ!」
「フランドール、顔赤いよ?」
「もう、なんでこんな妖怪と友達なんだろう」
フランドールはルーミアに背を向けながら言った。赤くなっている顔を、手でおおう。
ルーミアと会ったのは、紅霧異変の少し後。ルーミアは、美鈴が魔理沙にピチュンされている間に、門をくぐり抜けて進入してきた。けれどもルーミアは、あまりに広すぎる紅魔館に迷ってしまう。そのため、手あたり次第に扉を開けていき、偶然見つけたのがフランドールの部屋だった。
いきなり扉を開けられてフランドールは驚いたが、あまり危険な妖怪いは見えなかったので、普通に椅子を出して雑談をしていた。たまたま二人には、霊夢や魔理沙と戦ったことがあるという共通点があったため、雑談は楽しかった。
その日は、あまり長い時間話すことはなかったが、フランドールは美鈴に、ルーミアを通してもらうようにお願いした。
「それ以来、わたしは紅魔館に安心して入れるわけ」
「あれ? だから友達になったの?」
「よく来るようになったからね」
「なんで美鈴にお願いしたんだろう」
「あ、フランドールひどい」
「だってルーミア、イタズラばっかり。さっきのキスとか」
「フランドールの反応が面白いんだもん」
「はぁぁ」
フランドールは大きくため息をついた。本当にどうして、こんな妖怪と友達になったのだろう。
そのことを考えようとした瞬間、フランドールの中に1つの疑問が浮かんだ。
ルーミアと友達になれたのは、フランドールもルーミアも、霊夢や魔理沙と出会っていたから。霊夢や魔理沙という出会っていなかったら、友達にはなれなかったかもしれない。いや、絶対になれなかった。
あのまま、冷たい時を過ごしているだろうから。
2人と出会ってから、魔法のように世界は変わった。紅魔館の中は毎日暖かさに包まれているし、博麗神社に行けば、霊夢と楽しい時間を過ごせる。そして、ルーミアという新しい友達もできた。
でも、あまりにも上手く行きすぎてはいないだろうか?
もし、霊夢や魔理沙が来なかったら。
もし、ルーミアと出会っていなかったら。
もし、ルーミアが霊夢や魔理沙と出会っていなかったら。
そこまで考えて、フランドールは考えることをやめた。いくら考えても、疑問を解いてくれる言葉が浮かばない。
ふと隣を見ると、ルーミアが幸せそうに小さな寝息をたてていた。
☆☆☆
「ねぇ、美鈴はどう思う?」
フランドールは浮かんだ疑問を美鈴に尋ねた。
外は冬の曇り空で、絶好のお出かけ日和だ。早く博麗神社に向かいたいのだが、ルーミアがトイレにいってしまったのでしかたない。
「そうですねぇ」
そう言って、美鈴が頬に手を当てて考えこむ。
「マフラー、暖かそうですね」
ややあってから、美鈴はチルノと永琳の頭脳と同じくらい、フランドールの質問から離れたことを言った。
「うん、霊夢が作ってくれたから」
けれども、マフラーが暖かいのは事実だ。霊夢が作ってくれたピンク色のマフラーはフランドールのお気に入りである。
「妹様にとって、そのマフラーの縦糸は霊夢さんで、横糸は魔理沙さんみたいですね。紅魔館にとってもですけど。」
「このマフラーを作ったのは、霊夢だけだよ?」
美鈴は何を言いたいのだろうか?
フランドールには、まったくわからなかった。
美鈴は構わず話を進める。
「前に、霊夢さんと魔理沙さんにお礼を言ったんですよ。別々にですけどね」
「何のお礼?」
「半分は謝罪です。紅霧異変のあと、いろいろ変わりましたからね。その時に、妹様のことも話をしたんですけど」
美鈴は、姉であるレミリアや、従者である咲夜が話したがらないことも、ちゃんと話してくれる。
「魔理沙さんは、『お礼は霊夢に言ってくれ』って」
わたしは、ただ霊夢に負けたくないから、行っただけだ。霊夢がいなかったら、フランにも勝てなかっただろうしな。
そういえば、魔理沙は霊夢を友達だけどライバルだと言っていた。昔から、霊夢を目標にしてきたのだろう。
「霊夢は?」
フランドールは尋ねた。
「霊夢さんは『お礼なら魔理沙に言ってよ』だそうです」
実際に戦ったのは魔理沙だし。それに、魔理沙と出会ってなかったら、わざわざ行ってないから。
「『昔のわたしは、博麗の巫女であること以外に存在意義がなかったからね』って。つまり、妹様の前にも、行きすぎた偶然があったんですよ」
「霊夢と魔理沙って、最初から友達じゃなかったんだ」
霊夢と魔理沙にも、二人の出会いがあって。
友達になって、紅魔館にやってきて。
二人はフランドールの過去の傷をかばったり、紅魔館を柔らかな雰囲気で暖めてくれた。
フランドールは、ぎゅっとマフラーを握りしめる。
「霊夢さんと魔理沙さんのような出会いって、なぜかたくさんあるんですよ。わたしもそうでしたし」
「美鈴にも?」
「わたしにもです。あとは、咲夜さんもそうだと思います」
「咲夜も?」
「時間を止められる人間ですから」
「そうだよね……」
たしかに、普通の人間には行きすぎた力だ。普通に人里にいたら、力を隠して暮らしていくしかないだろう。そうしないと、不幸なことになるのは、想像に難くない。
「けれども、偶然お嬢様と出会って、咲夜さんは従者として紅魔館で幸せに暮らしてますよね?」
「時々ドジもするし、仕事しすぎだと思うけど……」
「この前、牛乳と豆乳を間違えてましたからね」
そう言って、美鈴はクスクスと笑う。吸血鬼にとっては、致命傷になりかねないことだけど。
「ま、未遂ですから。でも、咲夜さんが紅魔館に来たことは幸せだと思いませんか? 咲夜さんにとっても、お嬢様にとっても」
「うん。お姉さまも、幸せって言ってた」
「だからですね、わたしは、会うべき人と出会えることは、しあわせだなぁ、と思うんです。霊夢さんと魔理沙さんも。もちろん、妹様やルーミアも」
そう言って、美鈴は笑うと、ペタンと地面に座った。まるで、もう話はおしまいだというように。
「え? それじゃあ、幸せだから出会うってこと?」
あわてて、フランドールは尋ねる。まだまだ聞きたいことはたくさんあるのに。どうして幸せだから出会うのか? とか。美鈴の出会いとか。
けれども美鈴は、「それもいいかもしれませんね」と言うだけだった。
「めーりん!!」
「また美鈴が寝てるの?」
強引に美鈴に話しかけようとすると、後ろから声をかけられる。聞きなれた、子供のようなイタズラっぽい声だ。
「ルーミア?」
「せいかーい! ご褒美にわたしに食べら」
「いらないよ!」
「もう、最後まで言わせてって言ってるじゃない」
「なんか、それも聞き飽きてきた」
「そうかもね。そろそろ行く?」
「え?」
「博麗神社」
「あ!」
館の時計を見ると、すでに出発する予定だった時間を大きく過ぎている。
「急ごうよ」
「もう、ルーミアが遅いからだよ」
「フランドールだって、わたしと一緒に寝てたじゃない」
「あれは、ルーミアが寝てたから! あ、美鈴、いってくるね! それと帰ってきたら、またお話するから!」
ルーミアの手を引っ張りながら言うと、美鈴は「いってらっしゃい。お気をつけて」と、手を振ってくれる。
博麗神社に向かう途中、フランドールはふと思った。
霊夢にも、美鈴と同じことを聞いてみてもいいかもしれない。もし、魔理沙も一緒にいたら、魔理沙にも。できれば、二人の出会いの話を聞いてみたい。
出来すぎた幸せな時間を楽しみながら。
そのまま本を読んでいるフリをしていると、視界が冷たい手でふさがれた。
「だーれだ?」
子供のような、ちょっとイタズラっぽい声。聞きなれた友達の声だ。
「ルーミアでしょ?」
「せいかーい! ご褒美に、私に食べら」
「いらない!」
「もう、せめて冗談くらい、最後まで言わせてよね」
「だって、もう聞き飽きたんだもん」
「じゃあ、わたしに飲み込まれ」
「それも嫌。もう、そんなことばっかり言ってると、血吸っちゃうよ?」
「ぶー。せっかく来たのに」
「もう準備できてるよ。マフラーしかいらないけど」
「ちょっと待って。少し休ませてよ」
「えー、早く博麗神社に行こうよ」
「ちょっと、きゅーけー」
ルーミアがトコトコと歩いて、フランドールのベッドに倒れ込む。天蓋つきのベッドは、軽いルーミアの体重を、ポスリと受け止めた。
「あー、ルーミア、また勝手にわたしのベッド使った」
「フランドールも来ればいいじゃない。広いベッドなんだから、二人でも寝られるわよ」
「そうだけどさぁ」
なんとなく納得いかないが、フランドールもルーミアの隣に寝ころぶ。
「ねぇ、昨日は誰にキスしてもらったの?」
「寝る前に、美鈴にしてもらった」
「あれ? でも、跡ついてないよ?」
「そんなに強くしないもん」
ルーミアがフランドールの色素の薄い前髪をかき分けて跡を探すが、見つからないようだ。美鈴は、フランドールの額に触れるだけのキスをしただけなので、見つからなくて当然だが。
フランドールは、額にキスをされるのが好きだった。特に、寝る前にキスをしてもらうのが好きで、毎晩誰かにキスをしてもらうのが習慣になっている。昔の本に、額にキスをするのは友情のキスと書いてあるが、その通りなのかもしれない。額にキスをされると、心がほっこり暖かくなる。確かな暖かさを実感できるのは、冷たい時を過ごしたことがあるフランドールにとって、大切なことだった。
今後もこんな暖かい日々が続いて欲しい。できることなら、この暖かくて優しい日々が永遠に。紅魔館のメンバーがいて、霊夢や魔理沙がやってきて、たまには異変を起こしてみんなで大騒ぎをして。
なんて感傷に浸っていると、額にキスをされた。
「ルーミア、キスした?」
「したよ?」
「どうして?」
「フランドールが寝そうだったから」
「それだけ?」
「うん。でも嬉しそうだよ? 今」
「べっ、別に嬉しくないよ!」
「フランドール、顔赤いよ?」
「もう、なんでこんな妖怪と友達なんだろう」
フランドールはルーミアに背を向けながら言った。赤くなっている顔を、手でおおう。
ルーミアと会ったのは、紅霧異変の少し後。ルーミアは、美鈴が魔理沙にピチュンされている間に、門をくぐり抜けて進入してきた。けれどもルーミアは、あまりに広すぎる紅魔館に迷ってしまう。そのため、手あたり次第に扉を開けていき、偶然見つけたのがフランドールの部屋だった。
いきなり扉を開けられてフランドールは驚いたが、あまり危険な妖怪いは見えなかったので、普通に椅子を出して雑談をしていた。たまたま二人には、霊夢や魔理沙と戦ったことがあるという共通点があったため、雑談は楽しかった。
その日は、あまり長い時間話すことはなかったが、フランドールは美鈴に、ルーミアを通してもらうようにお願いした。
「それ以来、わたしは紅魔館に安心して入れるわけ」
「あれ? だから友達になったの?」
「よく来るようになったからね」
「なんで美鈴にお願いしたんだろう」
「あ、フランドールひどい」
「だってルーミア、イタズラばっかり。さっきのキスとか」
「フランドールの反応が面白いんだもん」
「はぁぁ」
フランドールは大きくため息をついた。本当にどうして、こんな妖怪と友達になったのだろう。
そのことを考えようとした瞬間、フランドールの中に1つの疑問が浮かんだ。
ルーミアと友達になれたのは、フランドールもルーミアも、霊夢や魔理沙と出会っていたから。霊夢や魔理沙という出会っていなかったら、友達にはなれなかったかもしれない。いや、絶対になれなかった。
あのまま、冷たい時を過ごしているだろうから。
2人と出会ってから、魔法のように世界は変わった。紅魔館の中は毎日暖かさに包まれているし、博麗神社に行けば、霊夢と楽しい時間を過ごせる。そして、ルーミアという新しい友達もできた。
でも、あまりにも上手く行きすぎてはいないだろうか?
もし、霊夢や魔理沙が来なかったら。
もし、ルーミアと出会っていなかったら。
もし、ルーミアが霊夢や魔理沙と出会っていなかったら。
そこまで考えて、フランドールは考えることをやめた。いくら考えても、疑問を解いてくれる言葉が浮かばない。
ふと隣を見ると、ルーミアが幸せそうに小さな寝息をたてていた。
☆☆☆
「ねぇ、美鈴はどう思う?」
フランドールは浮かんだ疑問を美鈴に尋ねた。
外は冬の曇り空で、絶好のお出かけ日和だ。早く博麗神社に向かいたいのだが、ルーミアがトイレにいってしまったのでしかたない。
「そうですねぇ」
そう言って、美鈴が頬に手を当てて考えこむ。
「マフラー、暖かそうですね」
ややあってから、美鈴はチルノと永琳の頭脳と同じくらい、フランドールの質問から離れたことを言った。
「うん、霊夢が作ってくれたから」
けれども、マフラーが暖かいのは事実だ。霊夢が作ってくれたピンク色のマフラーはフランドールのお気に入りである。
「妹様にとって、そのマフラーの縦糸は霊夢さんで、横糸は魔理沙さんみたいですね。紅魔館にとってもですけど。」
「このマフラーを作ったのは、霊夢だけだよ?」
美鈴は何を言いたいのだろうか?
フランドールには、まったくわからなかった。
美鈴は構わず話を進める。
「前に、霊夢さんと魔理沙さんにお礼を言ったんですよ。別々にですけどね」
「何のお礼?」
「半分は謝罪です。紅霧異変のあと、いろいろ変わりましたからね。その時に、妹様のことも話をしたんですけど」
美鈴は、姉であるレミリアや、従者である咲夜が話したがらないことも、ちゃんと話してくれる。
「魔理沙さんは、『お礼は霊夢に言ってくれ』って」
わたしは、ただ霊夢に負けたくないから、行っただけだ。霊夢がいなかったら、フランにも勝てなかっただろうしな。
そういえば、魔理沙は霊夢を友達だけどライバルだと言っていた。昔から、霊夢を目標にしてきたのだろう。
「霊夢は?」
フランドールは尋ねた。
「霊夢さんは『お礼なら魔理沙に言ってよ』だそうです」
実際に戦ったのは魔理沙だし。それに、魔理沙と出会ってなかったら、わざわざ行ってないから。
「『昔のわたしは、博麗の巫女であること以外に存在意義がなかったからね』って。つまり、妹様の前にも、行きすぎた偶然があったんですよ」
「霊夢と魔理沙って、最初から友達じゃなかったんだ」
霊夢と魔理沙にも、二人の出会いがあって。
友達になって、紅魔館にやってきて。
二人はフランドールの過去の傷をかばったり、紅魔館を柔らかな雰囲気で暖めてくれた。
フランドールは、ぎゅっとマフラーを握りしめる。
「霊夢さんと魔理沙さんのような出会いって、なぜかたくさんあるんですよ。わたしもそうでしたし」
「美鈴にも?」
「わたしにもです。あとは、咲夜さんもそうだと思います」
「咲夜も?」
「時間を止められる人間ですから」
「そうだよね……」
たしかに、普通の人間には行きすぎた力だ。普通に人里にいたら、力を隠して暮らしていくしかないだろう。そうしないと、不幸なことになるのは、想像に難くない。
「けれども、偶然お嬢様と出会って、咲夜さんは従者として紅魔館で幸せに暮らしてますよね?」
「時々ドジもするし、仕事しすぎだと思うけど……」
「この前、牛乳と豆乳を間違えてましたからね」
そう言って、美鈴はクスクスと笑う。吸血鬼にとっては、致命傷になりかねないことだけど。
「ま、未遂ですから。でも、咲夜さんが紅魔館に来たことは幸せだと思いませんか? 咲夜さんにとっても、お嬢様にとっても」
「うん。お姉さまも、幸せって言ってた」
「だからですね、わたしは、会うべき人と出会えることは、しあわせだなぁ、と思うんです。霊夢さんと魔理沙さんも。もちろん、妹様やルーミアも」
そう言って、美鈴は笑うと、ペタンと地面に座った。まるで、もう話はおしまいだというように。
「え? それじゃあ、幸せだから出会うってこと?」
あわてて、フランドールは尋ねる。まだまだ聞きたいことはたくさんあるのに。どうして幸せだから出会うのか? とか。美鈴の出会いとか。
けれども美鈴は、「それもいいかもしれませんね」と言うだけだった。
「めーりん!!」
「また美鈴が寝てるの?」
強引に美鈴に話しかけようとすると、後ろから声をかけられる。聞きなれた、子供のようなイタズラっぽい声だ。
「ルーミア?」
「せいかーい! ご褒美にわたしに食べら」
「いらないよ!」
「もう、最後まで言わせてって言ってるじゃない」
「なんか、それも聞き飽きてきた」
「そうかもね。そろそろ行く?」
「え?」
「博麗神社」
「あ!」
館の時計を見ると、すでに出発する予定だった時間を大きく過ぎている。
「急ごうよ」
「もう、ルーミアが遅いからだよ」
「フランドールだって、わたしと一緒に寝てたじゃない」
「あれは、ルーミアが寝てたから! あ、美鈴、いってくるね! それと帰ってきたら、またお話するから!」
ルーミアの手を引っ張りながら言うと、美鈴は「いってらっしゃい。お気をつけて」と、手を振ってくれる。
博麗神社に向かう途中、フランドールはふと思った。
霊夢にも、美鈴と同じことを聞いてみてもいいかもしれない。もし、魔理沙も一緒にいたら、魔理沙にも。できれば、二人の出会いの話を聞いてみたい。
出来すぎた幸せな時間を楽しみながら。
>あまり危険な妖怪いは見えなかったので、
い→に かな?