注意:ちょこちょこオリキャラが出ます。そういうのが嫌な人はブラウザの戻るを押してね。
クリスマス。それはサンタのおじさんがプレゼントを配る日。
といっても実際は親がサンタ役をしているのが大抵であり、地霊殿においては私、古明地さとりがサンタ役を務める。
「全員分集まったわね、さてと」
地霊殿では毎年、妹とペットにサンタへの手紙を書かせている。心を読んでプレゼントを決めてもいいのだが、ものを書くことは情操教育に良いので、手紙を書かせることにしている。
「こいしはいつもどおりぬいぐるみね」
可愛らしい文字で「かわいい犬のぬいぐるみをください。」と書いてある。こいしは毎年のように動物のぬいぐるみだ。これだけペットが居るのだから、本物を撫で回せばいい気がするのだが、ぬいぐるみはぬいぐるみの良さがあるらしい。
「彩は綺麗な毛糸ね。セーターでも作るのかしら。陽は「妖精でもわかる『求聞口授』」?奇妙なものを欲しがるわね」
要望にもペットの性格が出る。着飾るものを欲しがる子もいれば遊び道具を欲しがる子もいる。
「空は鉄亜鈴? あの子ダイエットでもしてるのかしら」
あの子はそこらじゅう飛び回ってるし、運動不足とは無縁な気がするのだけど。まあ希望ならばそれにしましょう。
「お燐は……ねこかん?」
一生懸命な字で「ねこかんください!」と書いてある。
このお燐のお願いがこんなにめんどくさいことになるとは、この時は思ってもいなかったのです。
クリスマス猫缶狂奏曲
「ねこかん……ですか。すいませんどのようなものなのでしょうか」
毎年この時期に必ず来てくれる御用聞きに、「ねこかん」について聞いてみたが、反応は芳しくない。
「ひらがなで「ねこかん」でした。あなたでもご存じないですか」
この御用聞きの牛鬼は、見た目は怖いが顔は広く、いままで妹やペットの無茶難題をこなしてきてくれた腕利き商人である。
その彼女が知らないとなると、プレゼント探しは一気に暗礁に乗り上げてしまう。
「『ねこ』はそのまま猫、Catでしょうか。かん、は……寒天の寒とかでしょうかね。とすると……」
(牛乳寒が牛乳を寒天で固めた食べ物なら、猫の肉を寒天で固めた食べ物……)
「あまり変な食べ物想像しないでください」
もしや……お燐が共食いを望むぐらいグレてしまったというの? なんで! 私の愛情不足!? この前の異変といい、私の愛が充分に伝わっていないようね。こうなったら三日三晩おりんを抱えてなでなでもふもふし続けて矯正するしかない! そう、これは教育なのよ! 決して私が思う存分なでなでもふもふしたいわけじゃないの!
「ちなみにそのお願いは誰から出されたものですか?」
頭の中でお燐を思う存分なでなでもふもふちゅっちゅし、無意識に「おねえちゃんの愛が重すぎる」とあきれられていたところに、そのような言葉が聞こえてくる。客の要望に答えようとする彼女の姿勢は商人の鏡だ。
「燐です。うちの火車の」
「あー、お燐ちゃんですか。でもそうすると、猫が食材ということはないですよね…… では「ねこ」の部分は、『猫用の食べ物』の意味かもしれません。でも、猫用の寒天なんて聞いたことないですね」
猫用の食べ物だから「猫」ですか、たしかにその方が意味が通りそうですね。かん、の部分はおそらく寒天じゃないのでしょう。猫にに海藻はよくないですし、ゼリーのお菓子ならときどき食べさせてますし、わざわざサンタさんに頼むほどではないように思う。
「そうですか、ふーむ」
「他のご注文は賜りました。ねこかん、については少しこちらで探してみます」
「分かりました、よろしくお願いします」
といっても、顔が広く、地底の商品ならなんでも知っている彼女が知らないとなると、そこまで期待できない。きっと、なにか代替品を持ってくることになるだろう。それはそれで良い物を持ってくるだろうが、やはりプレゼントには要望通りのものを渡したい。
そもそもお燐はどこで「ねこかん」を知ったのだろうか。地底ではないということは、おそらく地上だろう。仕方ない、かわいいペットのためですし、地上に出ますか。
---
「というわけで、「ねこかん」知りませんか?」
「唐突に来て唐突に質問されても訳がわからないわ」
ということでやって来ました博麗神社。最近ペットたちがちょくちょくご飯をご相伴あずかっている場所である。
「どうしても「ねこかん」が必要なんですよ」
「少し会話しようとは思わないのかしら」
冬でも脇だし巫女服の霊夢さんから、ひとまず情報収集である。あれ?赤いほうが霊夢さんで、緑のほうが早苗さんでしたよね? ちょっと記憶が怪しい。なぜ巫女はみんな脇出しなのだろう。おかげで見分けがつきにくい。空が巫女が見分けられないと言っていたが、その理由もよくわかる。
「地上の物らしいのですが、なにか知りませんか?」
「そうまくし立てられると答えられないわ」
答えられなくても別にいいのだ。こうやってまくし立てていれば、必要な情報は心に浮かんでくる。それを第三の眼で読み取れば、目的達成だ。決してこいしが言うように、私の会話能力が欠けているわけではない。
なになに?
(いきなり来て一体何なのかしら。いつもペットや妹にご飯食べさせてるんだから、なにかお礼の品でも持ってきたのかと思ったけど手ぶらだし。まあ妖怪に常識を求めてもしょうがないか。それにしてもねこかんねぇ。ねこは、猫だろうけど、かんはなんだろう。ああ、こう寒いと熱燗飲みたいわね。雪を見ながら熱燗とか最高じゃない。つまりねこかんは、猫を使った暖かいお酒……うわぁまずそう)
どうしてみな猫ちゃんたちを食材にしたがるのか。あんなハートフェルトファンシーな動物を食べようとする発想自体万死に値する。きっとこれは誰かの陰謀……スキマか! おのれ! 今度あったら能力を最大限使ってトラウマまみれにしてやる!
「よくわからないわね。ひとまずそういうのは霖之助さんのところでも行けばおいてあるんじゃないかしら。香霖堂にはわけわからないものいっぱいあるし」
頭の中でスキマ妖怪を八つ裂きにしてると、霊夢さんが教えてくれる。香霖堂……魔法の森の入り口にあるお店ですか。ではそこに行ってみましょうか。
「そうですか、ありがとうございました。ひとまずそこに行ってみます」
「そう。今度きたときにちゃんとお礼持って来なさい。後お賽銭も入れていきなさい」
歯に衣着せぬ素敵な巫女さんからの一言である。しかたない、今度クリスマスケーキの余りでもお燐に持たせよう。どうせパーティで余るでしょうし。
ご縁がありますようにと5円札を賽銭箱に放り込んで、博麗神社を離れる。目指すは香霖堂だ。
---
博麗神社から魔法の森の方に向かうと建物が見えてくる。
ここが香霖堂かしら。金属製の標識や謎の白い箱等、雑多な物が店の外にまで置いてある。狸の信楽焼に見送られながら店の中に入る
「こんにちは。香霖堂はここかしら?」
「いらっしゃい。香霖堂はうちだよ。何かようかい?」
接客する気がまったく無い返事である。商売気がなさそうな雰囲気、霊夢さんが思い出していた特徴と一致する。ここが香霖堂で間違いないだろう。
「はじめて見る顔だね。それで、何をお探しかな?」
「じつはねこかんというものを探してまして」
「ねこかん? ねこかんね」
(ねこかん……頭に猫とついているから猫に関するものか? そもそも猫とはよく寝るから「寝子」を由来とするといわれている。だとすると睡眠用具という可能性もあるな。いや、猫に限るのは即決が過ぎるかも知れない。例えば根っ子の略かもしれない。……(略)……ということで「かん」はおそらく缶、最近無縁塚でよく落ちている缶詰めの可能性が高い。じゃあねこかんは猫肉の缶詰めか)
おまえもかプルータス。ドイツもこいつもイタリアもなんで猫ちゃんを食べたがるんだ。四本足ならなんでも食うのは中国人だけで充分だ。日本人なら米を食え!
あと思考が非常にうるさい! 量が常人の5倍ぐらいの上、情報の9割が無駄知識である。少し思考酔いをしてきた。
「いえ、猫肉を使用したものではなく、ペットの猫に渡す猫用のものを探してまして」
「猫用……ふむ」
(猫用と言っても様々な場合が……)
「そういうのは良いですから、猫が食べる用の缶詰め、あったら出して頂けませんか?」
「む、口に出していたかな?」
訝しげに聞かれる。そういえば自己紹介してなかったわね。
「紹介遅れました、私は地霊殿の主、古明地さとりと申します。貴方の内心は全てこの第三の目でお見通しです」
「ほう、君があのさとり妖怪か。僕は森近霖之助、この店の店主だよ」
(そういえばさとり妖怪は内心をどのように捉えるのだろうか、映像なのだろうか、文字なのだろうか……)
この男は考えを止めると死ぬ病気なのだろうか? 一人なのにとんでもなく煩い。
「ちょっとその思考止めていただけない?」
「思考に文句言われてもなぁ」
「貴方の思考が煩すぎて酔いそうなものよ」
「さとり妖怪も案外不便だね」
五月蝿い、人が気にしていることを。何処かの聖人がしている耳当てのように私も心当てがほしいわ。
「放っておいてください。それよりこの店にある缶詰、出していただけないかしら? これでもお客様なんだけど?」
「缶詰かい? 幾つかあるが」
(賞味期限切れのもあるが出してしまっていいかな)
「あなたに任せておくと煩くてかなわないから全部出してちょうだい。あ、賞味期限切れのはいいわ、食べる目的なので」
少し待つと、缶詰を抱えて霖之助さんが出てきた。
「うちにあるのはこんなもんだね」
色とりどりの缶詰がでてきた。魚の模様のものが多いが、蟹や牛肉と書いてあるものもある。これは……おでん? 変わったものもあるのね。ローマ字が印字された缶詰もいくつかある。SPAM? パンらしき絵が書いてあるし、パンの缶詰だろうか。こっちのはSurstromming? いったいなんだろう。他のと違って絵もないから中身がわからない。
「色々あるのね」
「外の世界はどれだけ食べ物が溢れているんだろうね」
漁っていると、猫が印刷された缶詰が出てくる。
「これかしら……? 猫の顔が印刷されているけど」
「名称:猫缶、用途:猫の食べ物。どうやらお目当ての物のようだね」
「あら、どうしてわかるの?」
「僕は名前と用途が判る能力を持っているからね」
なかなか面白い能力だ。こんな辺鄙な場所で、こんな偏屈な店主の店が潰れないのはこの能力のお陰か。
何にしろ目的の物は見つかった。他の缶詰も美味しそうだし、ついでに全て買っていくことにしようか。ペットたちも喜ぶだろう。
「じゃあ霖之助さん? 全部包んでもらえるかしら?」
「全部かい? 数が多いし幻想郷では作られていない珍しい物だから、値は張るよ?」
それなりに持ち合わせはあるけど、足りるかしら。私は親指大ほどの金属を取り出す。
「これでどうかしら? 純金なのだけど」
地底でとれる金を出す。ちゃんと水銀などの不純物を取り除いた純金だ。
「これはまた、すごいものを出してきたね。十二分すぎてお釣りに困るのだが」
「余った分は霊夢さんにでもサービスしてあげて下さい。いつも妹やペットがお世話になってるみたいですし」
基本的に外に出ないので、お小遣いが有り余っているのだ。ペットにあげてもいいのだが、甘やかし過ぎとこいしに怒られるので自重している。
霖之助さんが、缶詰一式を手早く風呂敷でまとめ手渡してくれる。
「はいどうぞ。重いから気をつけてね」
「ありがとう。それじゃあ、またなにかあれば来ることにするわ」
「お客様なら大歓迎さ。それではまいどあり」
なんだか疲れた。欲しい物が手に入ったことだし、早く家に帰ろう。
---
クリスマス夜、サンタとして妹やペットの枕元においたプレゼントは大好評だった。
お燐も猫缶を気に入ったようで、喜んで食べていた。
他の缶詰も、ペットたちと分けて食べた。蟹なんて初めて食べたが非常に美味しかった。
ただ、一つだけ中身が吹き出した缶詰があり、匂いのひどさと相まって、処分が非常に大変だったことだけはここに記しておく。
クリスマス。それはサンタのおじさんがプレゼントを配る日。
といっても実際は親がサンタ役をしているのが大抵であり、地霊殿においては私、古明地さとりがサンタ役を務める。
「全員分集まったわね、さてと」
地霊殿では毎年、妹とペットにサンタへの手紙を書かせている。心を読んでプレゼントを決めてもいいのだが、ものを書くことは情操教育に良いので、手紙を書かせることにしている。
「こいしはいつもどおりぬいぐるみね」
可愛らしい文字で「かわいい犬のぬいぐるみをください。」と書いてある。こいしは毎年のように動物のぬいぐるみだ。これだけペットが居るのだから、本物を撫で回せばいい気がするのだが、ぬいぐるみはぬいぐるみの良さがあるらしい。
「彩は綺麗な毛糸ね。セーターでも作るのかしら。陽は「妖精でもわかる『求聞口授』」?奇妙なものを欲しがるわね」
要望にもペットの性格が出る。着飾るものを欲しがる子もいれば遊び道具を欲しがる子もいる。
「空は鉄亜鈴? あの子ダイエットでもしてるのかしら」
あの子はそこらじゅう飛び回ってるし、運動不足とは無縁な気がするのだけど。まあ希望ならばそれにしましょう。
「お燐は……ねこかん?」
一生懸命な字で「ねこかんください!」と書いてある。
このお燐のお願いがこんなにめんどくさいことになるとは、この時は思ってもいなかったのです。
クリスマス猫缶狂奏曲
「ねこかん……ですか。すいませんどのようなものなのでしょうか」
毎年この時期に必ず来てくれる御用聞きに、「ねこかん」について聞いてみたが、反応は芳しくない。
「ひらがなで「ねこかん」でした。あなたでもご存じないですか」
この御用聞きの牛鬼は、見た目は怖いが顔は広く、いままで妹やペットの無茶難題をこなしてきてくれた腕利き商人である。
その彼女が知らないとなると、プレゼント探しは一気に暗礁に乗り上げてしまう。
「『ねこ』はそのまま猫、Catでしょうか。かん、は……寒天の寒とかでしょうかね。とすると……」
(牛乳寒が牛乳を寒天で固めた食べ物なら、猫の肉を寒天で固めた食べ物……)
「あまり変な食べ物想像しないでください」
もしや……お燐が共食いを望むぐらいグレてしまったというの? なんで! 私の愛情不足!? この前の異変といい、私の愛が充分に伝わっていないようね。こうなったら三日三晩おりんを抱えてなでなでもふもふし続けて矯正するしかない! そう、これは教育なのよ! 決して私が思う存分なでなでもふもふしたいわけじゃないの!
「ちなみにそのお願いは誰から出されたものですか?」
頭の中でお燐を思う存分なでなでもふもふちゅっちゅし、無意識に「おねえちゃんの愛が重すぎる」とあきれられていたところに、そのような言葉が聞こえてくる。客の要望に答えようとする彼女の姿勢は商人の鏡だ。
「燐です。うちの火車の」
「あー、お燐ちゃんですか。でもそうすると、猫が食材ということはないですよね…… では「ねこ」の部分は、『猫用の食べ物』の意味かもしれません。でも、猫用の寒天なんて聞いたことないですね」
猫用の食べ物だから「猫」ですか、たしかにその方が意味が通りそうですね。かん、の部分はおそらく寒天じゃないのでしょう。猫にに海藻はよくないですし、ゼリーのお菓子ならときどき食べさせてますし、わざわざサンタさんに頼むほどではないように思う。
「そうですか、ふーむ」
「他のご注文は賜りました。ねこかん、については少しこちらで探してみます」
「分かりました、よろしくお願いします」
といっても、顔が広く、地底の商品ならなんでも知っている彼女が知らないとなると、そこまで期待できない。きっと、なにか代替品を持ってくることになるだろう。それはそれで良い物を持ってくるだろうが、やはりプレゼントには要望通りのものを渡したい。
そもそもお燐はどこで「ねこかん」を知ったのだろうか。地底ではないということは、おそらく地上だろう。仕方ない、かわいいペットのためですし、地上に出ますか。
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「というわけで、「ねこかん」知りませんか?」
「唐突に来て唐突に質問されても訳がわからないわ」
ということでやって来ました博麗神社。最近ペットたちがちょくちょくご飯をご相伴あずかっている場所である。
「どうしても「ねこかん」が必要なんですよ」
「少し会話しようとは思わないのかしら」
冬でも脇だし巫女服の霊夢さんから、ひとまず情報収集である。あれ?赤いほうが霊夢さんで、緑のほうが早苗さんでしたよね? ちょっと記憶が怪しい。なぜ巫女はみんな脇出しなのだろう。おかげで見分けがつきにくい。空が巫女が見分けられないと言っていたが、その理由もよくわかる。
「地上の物らしいのですが、なにか知りませんか?」
「そうまくし立てられると答えられないわ」
答えられなくても別にいいのだ。こうやってまくし立てていれば、必要な情報は心に浮かんでくる。それを第三の眼で読み取れば、目的達成だ。決してこいしが言うように、私の会話能力が欠けているわけではない。
なになに?
(いきなり来て一体何なのかしら。いつもペットや妹にご飯食べさせてるんだから、なにかお礼の品でも持ってきたのかと思ったけど手ぶらだし。まあ妖怪に常識を求めてもしょうがないか。それにしてもねこかんねぇ。ねこは、猫だろうけど、かんはなんだろう。ああ、こう寒いと熱燗飲みたいわね。雪を見ながら熱燗とか最高じゃない。つまりねこかんは、猫を使った暖かいお酒……うわぁまずそう)
どうしてみな猫ちゃんたちを食材にしたがるのか。あんなハートフェルトファンシーな動物を食べようとする発想自体万死に値する。きっとこれは誰かの陰謀……スキマか! おのれ! 今度あったら能力を最大限使ってトラウマまみれにしてやる!
「よくわからないわね。ひとまずそういうのは霖之助さんのところでも行けばおいてあるんじゃないかしら。香霖堂にはわけわからないものいっぱいあるし」
頭の中でスキマ妖怪を八つ裂きにしてると、霊夢さんが教えてくれる。香霖堂……魔法の森の入り口にあるお店ですか。ではそこに行ってみましょうか。
「そうですか、ありがとうございました。ひとまずそこに行ってみます」
「そう。今度きたときにちゃんとお礼持って来なさい。後お賽銭も入れていきなさい」
歯に衣着せぬ素敵な巫女さんからの一言である。しかたない、今度クリスマスケーキの余りでもお燐に持たせよう。どうせパーティで余るでしょうし。
ご縁がありますようにと5円札を賽銭箱に放り込んで、博麗神社を離れる。目指すは香霖堂だ。
---
博麗神社から魔法の森の方に向かうと建物が見えてくる。
ここが香霖堂かしら。金属製の標識や謎の白い箱等、雑多な物が店の外にまで置いてある。狸の信楽焼に見送られながら店の中に入る
「こんにちは。香霖堂はここかしら?」
「いらっしゃい。香霖堂はうちだよ。何かようかい?」
接客する気がまったく無い返事である。商売気がなさそうな雰囲気、霊夢さんが思い出していた特徴と一致する。ここが香霖堂で間違いないだろう。
「はじめて見る顔だね。それで、何をお探しかな?」
「じつはねこかんというものを探してまして」
「ねこかん? ねこかんね」
(ねこかん……頭に猫とついているから猫に関するものか? そもそも猫とはよく寝るから「寝子」を由来とするといわれている。だとすると睡眠用具という可能性もあるな。いや、猫に限るのは即決が過ぎるかも知れない。例えば根っ子の略かもしれない。……(略)……ということで「かん」はおそらく缶、最近無縁塚でよく落ちている缶詰めの可能性が高い。じゃあねこかんは猫肉の缶詰めか)
おまえもかプルータス。ドイツもこいつもイタリアもなんで猫ちゃんを食べたがるんだ。四本足ならなんでも食うのは中国人だけで充分だ。日本人なら米を食え!
あと思考が非常にうるさい! 量が常人の5倍ぐらいの上、情報の9割が無駄知識である。少し思考酔いをしてきた。
「いえ、猫肉を使用したものではなく、ペットの猫に渡す猫用のものを探してまして」
「猫用……ふむ」
(猫用と言っても様々な場合が……)
「そういうのは良いですから、猫が食べる用の缶詰め、あったら出して頂けませんか?」
「む、口に出していたかな?」
訝しげに聞かれる。そういえば自己紹介してなかったわね。
「紹介遅れました、私は地霊殿の主、古明地さとりと申します。貴方の内心は全てこの第三の目でお見通しです」
「ほう、君があのさとり妖怪か。僕は森近霖之助、この店の店主だよ」
(そういえばさとり妖怪は内心をどのように捉えるのだろうか、映像なのだろうか、文字なのだろうか……)
この男は考えを止めると死ぬ病気なのだろうか? 一人なのにとんでもなく煩い。
「ちょっとその思考止めていただけない?」
「思考に文句言われてもなぁ」
「貴方の思考が煩すぎて酔いそうなものよ」
「さとり妖怪も案外不便だね」
五月蝿い、人が気にしていることを。何処かの聖人がしている耳当てのように私も心当てがほしいわ。
「放っておいてください。それよりこの店にある缶詰、出していただけないかしら? これでもお客様なんだけど?」
「缶詰かい? 幾つかあるが」
(賞味期限切れのもあるが出してしまっていいかな)
「あなたに任せておくと煩くてかなわないから全部出してちょうだい。あ、賞味期限切れのはいいわ、食べる目的なので」
少し待つと、缶詰を抱えて霖之助さんが出てきた。
「うちにあるのはこんなもんだね」
色とりどりの缶詰がでてきた。魚の模様のものが多いが、蟹や牛肉と書いてあるものもある。これは……おでん? 変わったものもあるのね。ローマ字が印字された缶詰もいくつかある。SPAM? パンらしき絵が書いてあるし、パンの缶詰だろうか。こっちのはSurstromming? いったいなんだろう。他のと違って絵もないから中身がわからない。
「色々あるのね」
「外の世界はどれだけ食べ物が溢れているんだろうね」
漁っていると、猫が印刷された缶詰が出てくる。
「これかしら……? 猫の顔が印刷されているけど」
「名称:猫缶、用途:猫の食べ物。どうやらお目当ての物のようだね」
「あら、どうしてわかるの?」
「僕は名前と用途が判る能力を持っているからね」
なかなか面白い能力だ。こんな辺鄙な場所で、こんな偏屈な店主の店が潰れないのはこの能力のお陰か。
何にしろ目的の物は見つかった。他の缶詰も美味しそうだし、ついでに全て買っていくことにしようか。ペットたちも喜ぶだろう。
「じゃあ霖之助さん? 全部包んでもらえるかしら?」
「全部かい? 数が多いし幻想郷では作られていない珍しい物だから、値は張るよ?」
それなりに持ち合わせはあるけど、足りるかしら。私は親指大ほどの金属を取り出す。
「これでどうかしら? 純金なのだけど」
地底でとれる金を出す。ちゃんと水銀などの不純物を取り除いた純金だ。
「これはまた、すごいものを出してきたね。十二分すぎてお釣りに困るのだが」
「余った分は霊夢さんにでもサービスしてあげて下さい。いつも妹やペットがお世話になってるみたいですし」
基本的に外に出ないので、お小遣いが有り余っているのだ。ペットにあげてもいいのだが、甘やかし過ぎとこいしに怒られるので自重している。
霖之助さんが、缶詰一式を手早く風呂敷でまとめ手渡してくれる。
「はいどうぞ。重いから気をつけてね」
「ありがとう。それじゃあ、またなにかあれば来ることにするわ」
「お客様なら大歓迎さ。それではまいどあり」
なんだか疲れた。欲しい物が手に入ったことだし、早く家に帰ろう。
---
クリスマス夜、サンタとして妹やペットの枕元においたプレゼントは大好評だった。
お燐も猫缶を気に入ったようで、喜んで食べていた。
他の缶詰も、ペットたちと分けて食べた。蟹なんて初めて食べたが非常に美味しかった。
ただ、一つだけ中身が吹き出した缶詰があり、匂いのひどさと相まって、処分が非常に大変だったことだけはここに記しておく。
さとり様、シュールストレミングはマズイ!
気になったのは缶を包む描写で、猫缶を一式包んだのか、でてきた缶詰を一式包んだのかが分かりにくかったかな?
後奔走するって割に香淋堂で普通に見つかって、ちょっとボリューム不足な感じですかね。
いやそれを抜きにしても、とても楽しめました、良ssでよかったです
ところでさとり様はお賽銭に五千円札入れたのか・・・
可愛らしいお話でした
変に暴走させず全体を通してハートフルにした方が良かったかもしれません。