「え? マジで?」
「うん」
私がそう言って頷くと、魔理沙は目を丸くした。
「一人って、一人だろ」
「そうよ」
「寂しくないか?」
「全然」
私がきっぱりと言い切ると、魔理沙はうーむと首を傾げた。
「そりゃあまあ……たまにならいいかもしれないけど、いつも一人だとやっぱり寂しいだろ」
「? なんで?」
「なんでって……」
魔理沙は言葉に詰まったようで、そのまま下を向いて固まってしまった。
私も別に魔理沙を困らせたくてこんな返答をしているわけではないので、自然な流れで話の矛先を変えてみた。
「まあ、別に感じ方は人それぞれだからね。どっちが良くてどっちが悪いという問題ではないと思うわ」
「うーむ。まあそれはそうなんだろうけどさ」
魔理沙はまだどこか引っかかっている様子だ。
……と思いきや、急に何かを思いついたような顔つきになって、
「じゃあさ、アリス」
「? なに?」
「どうしてお前は、今日こうして私の家に来たんだ?」
「?」
魔理沙は変な事を言う。
今日ここに来た理由なんて、
「そんなの、あんたと馬鹿話をしたかったからに決まってるじゃない」
思った通りにそう言うと、魔理沙はさっきの三倍くらいに目を丸くした。
「え、あ。え……」
なんて、言葉にならない声まで発している始末だ。
私は何か変なことを言ったのだろうか?
「そ、それだけ……なのか?」
「? そりゃそうよ」
友達の家に来る理由なんて、大体そんなもんだと思うけど。
「あ、あー……そうか。うん、それならいい……うん」
魔理沙は急にトーンを落とした声で、妙にもじもじしながらそう呟いた。
なんか乙女チックで変な魔理沙ね。
「う、うるさい。お前が、変なこと言うからだろ……」
「?」
やっぱり私は変なことを言ったらしい。
全然身に覚えがないけど。
「あ、あー……分かってないならいい。うん。いいんだ、うん……」
「何よ魔理沙。さっきから一人で分かったような分からないようなこと言っちゃって」
「いや、分かった。よく分かったよ。お前が一人でも寂しくないっていうのは、本当だって」
「? まだそんな話してたの?」
今日の魔理沙はどうにも調子がおかしいようだ。
もうとっくに終わったはずの話題を掘り返している。
でもまあ人間だもの、たまにはそういうこともあるのかもね。
私は、今日の魔理沙にはこれ以上とやかく突っ込まない方が良いような気がしたので、少し早いがお暇することにした。
「じゃあ魔理沙。今日はこのへんで失礼するわ」
「お、おう」
どこかほっとしたような表情を浮かべる魔理沙。
なんか腑に落ちない気もするが、まあこれ以上突っ込まないと決めた以上はツッコまない私である。
と、
「忘れてた」
「えっ」
くるりと踵を返し、魔理沙にびしっと人差し指を突き付ける。
「魔理沙。あんた、明後日の夜空いてる?」
「えっ。あ、ああ……別に、空いてるけど」
「じゃあ、私の人形劇のお披露目会に付き合いなさい」
「うぇっ。なんだよそれ」
露骨にめんどくさそうな表情を浮かべる魔理沙。
私はむっとしながらも続けた。
「今度人里でやる新作の予行演習よ」
「何で私が」
「私はあんたに一番最初に見せたいのよ。私の親友であり異変解決のパートナーでもあるあんたに。だからつべこべ言わずに付き合いなさい」
「え、あっ……お、おぅ」
私が端的に理由を告げると、またも魔理沙は押し黙った。
いつもならなんやかんやと言い返して来るのに、やっぱり今日の魔理沙はおかしいようね。
「じゃあそういうことだから。明後日の夜迎えに来るからね」
「わ、わかった」
最後の方は、帽子を目深に被って視線すら私に合わそうとしない魔理沙であった。
まあこの子もお年頃だし、色々あるんでしょう。
―――それから私は、まだ家に帰るには早い時間だったので博麗神社に寄ってみた。
神社では、相変わらず巫女の霊夢が縁側でお茶を飲んでいた。
ここはご相伴に預からざるを得ないわね。
「こんにちは。霊夢」
「あら。あんたか」
こいつもこいつで愛想ないわね。
まあいつものことだけど。
「うるさいわね。ほっといてよ」
「またそうやってつれなくする」
しかし文句を言いながらも、霊夢はちゃんと私の分のお茶も淹れてくれる。
こういうところが霊夢の良いところだと思う。
「褒めても何も出ないわよ」
「お茶さえ出してくれれば十分よ」
そう言いながら、ずず、とお茶を啜る。
うむ、出涸らしかと思いきや存外に美味い。
たまには日本茶も悪くないわね。
「んで、何か用なの?」
霊夢はぶっきらぼうに尋ねる。
「べつに。暇だったから」
「ふぅん」
単純な理由を述べると、霊夢はそれきり興味を無くしたように黙った。
私も特に述べることがなかったので、そのまま黙ってお茶を啜った。
ずずず。
ずずず。
夕焼け空を仰ぎながら巫女と飲む緑茶はなかなかの美味だった。
と、
「ねえ」
「ん?」
目線は正面を向いたまま、ぽつりと霊夢が漏らした。
「あんたは……一人でいるとき、寂しくない?」
「え?」
思わず聞き返した。
まさか一日で二度も同じ話題を聞くことになるとは思わなかったからだ。
「どうして?」
「んー……なんとなく」
本当になんとなく聞いただけのようだった。
まあいくら勘の鋭い霊夢といえど、先ほどの私と魔理沙の会話内容まで当てられるはずもないが。
「……まあ、結論から言うと、全然寂しくないわね」
「本当に?」
「うん。おひとり様でもちょう楽しいですけど何か?」
「…………」
魔理沙に言ったのと同じ回答を用意してやると、霊夢は意外にもそこで黙った。
「そう……」
なんて、似つかわしくないセンチな口ぶりで山の稜線を見やる始末だ。
まったく、魔理沙といい霊夢といい、今日の幻想郷ではメランコリー病でも流行っているのだろうか?
いい加減げんなりしてきたので、私は今度は積極的に攻め込んでみた。
「じゃあ逆に聞くけど、一人だとなんで寂しいと思うの?」
「なんでって……そりゃあ一人だから、でしょう」
「トートロジーねぇ」
私はやれやれと西洋風に肩を竦めてみせた。
霊夢は少しむっとした顔つきになる。
「ふん。あんただって、家で一人だと寂しい思いしてるくせに」
「何でそうまでして私を寂しがりにしたいのよ」
「そうに決まってるわ。だって、私だって……」
言いかけて、霊夢はそこで口をつぐんだ。
ふむ。
いつも泰然と構えているようにみえる霊夢でも、たまには寂しさを感じることもあるようね。
まあ人間だものね、そういうこともあるでしょう。
「知った風なこと言わないでよ」
「何怒ってるの」
「おこってない」
そう言いながらも、霊夢はぷいと横を向いてしまった。
うーん、この子はこうなると結構頑固なのよねぇ。
しょうがない、ここはお姉さん的ポジションからアドヴァイスをしてあげようかしら。
「じゃあ、寂しいときは楽しいことを考えたらいいんじゃない?」
「……何よ。楽しいことって」
「たとえばそうね、私と一緒に栗拾いをすることとか考えてみたらどうかしら」
「はあ? なんであんたと栗拾いなんかしなくちゃいけないのよ」
またもキレ気味の霊夢。
この子はカルシウムが足りてないのかしら。
ちゃんと牛乳飲まなきゃだめよ。
「だって楽しいじゃない、栗拾い。別に紅葉狩りとかでもいいけど」
「そ……それはまあ、楽しいかもしれないけど……」
「私はいつも、そういうこと考えてるわよ」
「えっ」
そこで霊夢の表情から棘が抜けた。
これはチャンスとばかりに私は続ける。
「私は霊夢と一緒に何かするの、すごく楽しいと思ってるからね」
「なっ」
「だから想像すると楽しくなるの。霊夢と一緒に栗拾いしたり、紅葉狩りしたら楽しいだろうなーって。家に一人でいるときは大体そういうこと考えて過ごしてるわ」
「…………」
「だから私は、家で一人でいても全然……」
「も、もういい」
「えっ」
見ると、霊夢の顔が紅葉を散らしたように紅く染まっていた。
「わ、わかった、わかったから……もういいわ」
「あ、そう」
「…………」
霊夢は無言になり、そのまま俯いてしまった。
先ほどの魔理沙とほとんど同じ状態だ。
「まあ、わかってくれたのならいいわ」
私はそれだけ言うと、縁側から立ち上がった。
魔理沙にしても霊夢にしても、今日はどこか調子がおかしいようなのでそっとしとこうという判断だ。
と、帰る前に一言だけ伝えておかないと。
「今度栗拾いするからね。予定空けときなさいよ」
「わ、わかったわよ……」
消え入りそうな声だったが、一応返事がもらえたので良しとしよう。
―――そのまま家に帰っても良い時間だったが、私はなんとなく気になることがあったので紅魔館に寄ってみた。
「それは秋特有の現象でしょうね」
「へぇ」
訪れたのはパチュリーのもとだ。
そして彼女に尋ねた内容はもちろん、今日の魔理沙と霊夢に起きた異変についてだ。
「人間は今頃の季節になると、訳もなく情緒不安定になったり、物寂しくなったりする傾向があるのよ」
「そうだったのね」
そこでようやく合点がいった。
季節に伴う性質の変動、つまり春に動物に訪れる発情期のようなものだったのね。
「……そのたとえはどうかと思うけど、まあ訂正するほど間違いではないわね」
「なるほどねぇ」
腕組みをしながら頷く私。
やっぱり持つべきものは知識のある友達だわ。
「……さ、そういうことで用が済んだのならとっとと帰って頂戴。私はまだ読書の途中……」
「あら。そんなこと言わないで、もうちょっとおしゃべりしましょうよ」
「えっ」
私が何の気なしに言うと、パチュリーはむきゅっと目を丸くした。
「私、あなたとお話するの好きだもの。すごくためになるし、楽しいわ」
「そ、そう」
「うん」
「な、ならまあ……いいけど」
私が思った通りのことを言うと、パチュリーまで魔理沙や霊夢と同じような反応を示した。
おかしいわね、これは人間特有の現象じゃなかったの?
「べ、別に私は、そういうのじゃないわよ……」
「ふぅん」
まあパチュリーがそう言うのなら、これ以上突っ込むのはやめておくけど。
あ、そんなことより。
「ねぇ。今度一緒に人里の古本屋巡りをしましょうよ」
「え……えぇ? べ、別にいいけど……なんでまた」
「なんでって……あなたと一緒に本について色々しゃべったりしながら歩いたら楽しいだろうなって、前から思ってたから」
「そ、そう……」
パチュリーはほとんど吐息程度にしか聞こえない声でそう言うと、そのまま俯いて読書に戻ってしまった。
うーむ、秋はどうやら人間以外にもセンチな情緒を与える季節のようね。
私は紅茶のカップをソーサーに置き、椅子から立ち上がった。
「まあ、そういうことだから。また誘いに来るからね」
「う、うん……」
パチュリーは本から視線を上げなかったけど、まあ了承してくれたから良しとしよう。
私は図書館を後にし、帰路へと着いた。
「結構遅くなっちゃったわ」
魔法の森に向かって空を飛びつつ、一人ごちる。
明日は特に予定も無いし、一日家でゆっくりしよう。
「家で一人でいるのも、それはそれですごく楽しいんだけどなあ」
魔理沙に見せる人形劇や、霊夢とする栗拾い、パチュリーと行く古本屋巡り……。
こんなにも楽しいことだらけの毎日なのに、寂しくしろなんて言う方が無理だ。
「ま、いいか」
私はそれ以上考えるのをやめた。
元々悩みなんて無いのが私だし。
どうせ魔理沙も霊夢もパチュリーも、秋特有のセンチメンタル疾患にかかっただけだろう。
「そうそう、全部秋のせいなんだわ」
私はそう結論付けて、我が家までの空の旅をくるくる楽しむことにした。
了
「うん」
私がそう言って頷くと、魔理沙は目を丸くした。
「一人って、一人だろ」
「そうよ」
「寂しくないか?」
「全然」
私がきっぱりと言い切ると、魔理沙はうーむと首を傾げた。
「そりゃあまあ……たまにならいいかもしれないけど、いつも一人だとやっぱり寂しいだろ」
「? なんで?」
「なんでって……」
魔理沙は言葉に詰まったようで、そのまま下を向いて固まってしまった。
私も別に魔理沙を困らせたくてこんな返答をしているわけではないので、自然な流れで話の矛先を変えてみた。
「まあ、別に感じ方は人それぞれだからね。どっちが良くてどっちが悪いという問題ではないと思うわ」
「うーむ。まあそれはそうなんだろうけどさ」
魔理沙はまだどこか引っかかっている様子だ。
……と思いきや、急に何かを思いついたような顔つきになって、
「じゃあさ、アリス」
「? なに?」
「どうしてお前は、今日こうして私の家に来たんだ?」
「?」
魔理沙は変な事を言う。
今日ここに来た理由なんて、
「そんなの、あんたと馬鹿話をしたかったからに決まってるじゃない」
思った通りにそう言うと、魔理沙はさっきの三倍くらいに目を丸くした。
「え、あ。え……」
なんて、言葉にならない声まで発している始末だ。
私は何か変なことを言ったのだろうか?
「そ、それだけ……なのか?」
「? そりゃそうよ」
友達の家に来る理由なんて、大体そんなもんだと思うけど。
「あ、あー……そうか。うん、それならいい……うん」
魔理沙は急にトーンを落とした声で、妙にもじもじしながらそう呟いた。
なんか乙女チックで変な魔理沙ね。
「う、うるさい。お前が、変なこと言うからだろ……」
「?」
やっぱり私は変なことを言ったらしい。
全然身に覚えがないけど。
「あ、あー……分かってないならいい。うん。いいんだ、うん……」
「何よ魔理沙。さっきから一人で分かったような分からないようなこと言っちゃって」
「いや、分かった。よく分かったよ。お前が一人でも寂しくないっていうのは、本当だって」
「? まだそんな話してたの?」
今日の魔理沙はどうにも調子がおかしいようだ。
もうとっくに終わったはずの話題を掘り返している。
でもまあ人間だもの、たまにはそういうこともあるのかもね。
私は、今日の魔理沙にはこれ以上とやかく突っ込まない方が良いような気がしたので、少し早いがお暇することにした。
「じゃあ魔理沙。今日はこのへんで失礼するわ」
「お、おう」
どこかほっとしたような表情を浮かべる魔理沙。
なんか腑に落ちない気もするが、まあこれ以上突っ込まないと決めた以上はツッコまない私である。
と、
「忘れてた」
「えっ」
くるりと踵を返し、魔理沙にびしっと人差し指を突き付ける。
「魔理沙。あんた、明後日の夜空いてる?」
「えっ。あ、ああ……別に、空いてるけど」
「じゃあ、私の人形劇のお披露目会に付き合いなさい」
「うぇっ。なんだよそれ」
露骨にめんどくさそうな表情を浮かべる魔理沙。
私はむっとしながらも続けた。
「今度人里でやる新作の予行演習よ」
「何で私が」
「私はあんたに一番最初に見せたいのよ。私の親友であり異変解決のパートナーでもあるあんたに。だからつべこべ言わずに付き合いなさい」
「え、あっ……お、おぅ」
私が端的に理由を告げると、またも魔理沙は押し黙った。
いつもならなんやかんやと言い返して来るのに、やっぱり今日の魔理沙はおかしいようね。
「じゃあそういうことだから。明後日の夜迎えに来るからね」
「わ、わかった」
最後の方は、帽子を目深に被って視線すら私に合わそうとしない魔理沙であった。
まあこの子もお年頃だし、色々あるんでしょう。
―――それから私は、まだ家に帰るには早い時間だったので博麗神社に寄ってみた。
神社では、相変わらず巫女の霊夢が縁側でお茶を飲んでいた。
ここはご相伴に預からざるを得ないわね。
「こんにちは。霊夢」
「あら。あんたか」
こいつもこいつで愛想ないわね。
まあいつものことだけど。
「うるさいわね。ほっといてよ」
「またそうやってつれなくする」
しかし文句を言いながらも、霊夢はちゃんと私の分のお茶も淹れてくれる。
こういうところが霊夢の良いところだと思う。
「褒めても何も出ないわよ」
「お茶さえ出してくれれば十分よ」
そう言いながら、ずず、とお茶を啜る。
うむ、出涸らしかと思いきや存外に美味い。
たまには日本茶も悪くないわね。
「んで、何か用なの?」
霊夢はぶっきらぼうに尋ねる。
「べつに。暇だったから」
「ふぅん」
単純な理由を述べると、霊夢はそれきり興味を無くしたように黙った。
私も特に述べることがなかったので、そのまま黙ってお茶を啜った。
ずずず。
ずずず。
夕焼け空を仰ぎながら巫女と飲む緑茶はなかなかの美味だった。
と、
「ねえ」
「ん?」
目線は正面を向いたまま、ぽつりと霊夢が漏らした。
「あんたは……一人でいるとき、寂しくない?」
「え?」
思わず聞き返した。
まさか一日で二度も同じ話題を聞くことになるとは思わなかったからだ。
「どうして?」
「んー……なんとなく」
本当になんとなく聞いただけのようだった。
まあいくら勘の鋭い霊夢といえど、先ほどの私と魔理沙の会話内容まで当てられるはずもないが。
「……まあ、結論から言うと、全然寂しくないわね」
「本当に?」
「うん。おひとり様でもちょう楽しいですけど何か?」
「…………」
魔理沙に言ったのと同じ回答を用意してやると、霊夢は意外にもそこで黙った。
「そう……」
なんて、似つかわしくないセンチな口ぶりで山の稜線を見やる始末だ。
まったく、魔理沙といい霊夢といい、今日の幻想郷ではメランコリー病でも流行っているのだろうか?
いい加減げんなりしてきたので、私は今度は積極的に攻め込んでみた。
「じゃあ逆に聞くけど、一人だとなんで寂しいと思うの?」
「なんでって……そりゃあ一人だから、でしょう」
「トートロジーねぇ」
私はやれやれと西洋風に肩を竦めてみせた。
霊夢は少しむっとした顔つきになる。
「ふん。あんただって、家で一人だと寂しい思いしてるくせに」
「何でそうまでして私を寂しがりにしたいのよ」
「そうに決まってるわ。だって、私だって……」
言いかけて、霊夢はそこで口をつぐんだ。
ふむ。
いつも泰然と構えているようにみえる霊夢でも、たまには寂しさを感じることもあるようね。
まあ人間だものね、そういうこともあるでしょう。
「知った風なこと言わないでよ」
「何怒ってるの」
「おこってない」
そう言いながらも、霊夢はぷいと横を向いてしまった。
うーん、この子はこうなると結構頑固なのよねぇ。
しょうがない、ここはお姉さん的ポジションからアドヴァイスをしてあげようかしら。
「じゃあ、寂しいときは楽しいことを考えたらいいんじゃない?」
「……何よ。楽しいことって」
「たとえばそうね、私と一緒に栗拾いをすることとか考えてみたらどうかしら」
「はあ? なんであんたと栗拾いなんかしなくちゃいけないのよ」
またもキレ気味の霊夢。
この子はカルシウムが足りてないのかしら。
ちゃんと牛乳飲まなきゃだめよ。
「だって楽しいじゃない、栗拾い。別に紅葉狩りとかでもいいけど」
「そ……それはまあ、楽しいかもしれないけど……」
「私はいつも、そういうこと考えてるわよ」
「えっ」
そこで霊夢の表情から棘が抜けた。
これはチャンスとばかりに私は続ける。
「私は霊夢と一緒に何かするの、すごく楽しいと思ってるからね」
「なっ」
「だから想像すると楽しくなるの。霊夢と一緒に栗拾いしたり、紅葉狩りしたら楽しいだろうなーって。家に一人でいるときは大体そういうこと考えて過ごしてるわ」
「…………」
「だから私は、家で一人でいても全然……」
「も、もういい」
「えっ」
見ると、霊夢の顔が紅葉を散らしたように紅く染まっていた。
「わ、わかった、わかったから……もういいわ」
「あ、そう」
「…………」
霊夢は無言になり、そのまま俯いてしまった。
先ほどの魔理沙とほとんど同じ状態だ。
「まあ、わかってくれたのならいいわ」
私はそれだけ言うと、縁側から立ち上がった。
魔理沙にしても霊夢にしても、今日はどこか調子がおかしいようなのでそっとしとこうという判断だ。
と、帰る前に一言だけ伝えておかないと。
「今度栗拾いするからね。予定空けときなさいよ」
「わ、わかったわよ……」
消え入りそうな声だったが、一応返事がもらえたので良しとしよう。
―――そのまま家に帰っても良い時間だったが、私はなんとなく気になることがあったので紅魔館に寄ってみた。
「それは秋特有の現象でしょうね」
「へぇ」
訪れたのはパチュリーのもとだ。
そして彼女に尋ねた内容はもちろん、今日の魔理沙と霊夢に起きた異変についてだ。
「人間は今頃の季節になると、訳もなく情緒不安定になったり、物寂しくなったりする傾向があるのよ」
「そうだったのね」
そこでようやく合点がいった。
季節に伴う性質の変動、つまり春に動物に訪れる発情期のようなものだったのね。
「……そのたとえはどうかと思うけど、まあ訂正するほど間違いではないわね」
「なるほどねぇ」
腕組みをしながら頷く私。
やっぱり持つべきものは知識のある友達だわ。
「……さ、そういうことで用が済んだのならとっとと帰って頂戴。私はまだ読書の途中……」
「あら。そんなこと言わないで、もうちょっとおしゃべりしましょうよ」
「えっ」
私が何の気なしに言うと、パチュリーはむきゅっと目を丸くした。
「私、あなたとお話するの好きだもの。すごくためになるし、楽しいわ」
「そ、そう」
「うん」
「な、ならまあ……いいけど」
私が思った通りのことを言うと、パチュリーまで魔理沙や霊夢と同じような反応を示した。
おかしいわね、これは人間特有の現象じゃなかったの?
「べ、別に私は、そういうのじゃないわよ……」
「ふぅん」
まあパチュリーがそう言うのなら、これ以上突っ込むのはやめておくけど。
あ、そんなことより。
「ねぇ。今度一緒に人里の古本屋巡りをしましょうよ」
「え……えぇ? べ、別にいいけど……なんでまた」
「なんでって……あなたと一緒に本について色々しゃべったりしながら歩いたら楽しいだろうなって、前から思ってたから」
「そ、そう……」
パチュリーはほとんど吐息程度にしか聞こえない声でそう言うと、そのまま俯いて読書に戻ってしまった。
うーむ、秋はどうやら人間以外にもセンチな情緒を与える季節のようね。
私は紅茶のカップをソーサーに置き、椅子から立ち上がった。
「まあ、そういうことだから。また誘いに来るからね」
「う、うん……」
パチュリーは本から視線を上げなかったけど、まあ了承してくれたから良しとしよう。
私は図書館を後にし、帰路へと着いた。
「結構遅くなっちゃったわ」
魔法の森に向かって空を飛びつつ、一人ごちる。
明日は特に予定も無いし、一日家でゆっくりしよう。
「家で一人でいるのも、それはそれですごく楽しいんだけどなあ」
魔理沙に見せる人形劇や、霊夢とする栗拾い、パチュリーと行く古本屋巡り……。
こんなにも楽しいことだらけの毎日なのに、寂しくしろなんて言う方が無理だ。
「ま、いいか」
私はそれ以上考えるのをやめた。
元々悩みなんて無いのが私だし。
どうせ魔理沙も霊夢もパチュリーも、秋特有のセンチメンタル疾患にかかっただけだろう。
「そうそう、全部秋のせいなんだわ」
私はそう結論付けて、我が家までの空の旅をくるくる楽しむことにした。
了
ずっと秋でいい。
秋万歳!
一人で寂しいやつみたいなことを言う人は、一人でいるとき寂しいんだろうなー
その点秋姉妹ってすげぇよな、二人で一人でもん
なんだかんだで霊夢や魔理沙よりも年長だろうからこういうのも似合うね
皆のお姉さん役だよね
確かに人生楽しそうだ
後書きにふいたw