去年の10月31日。
私、アリス・マーガトロイドはハロウィンを知らないであろう魔理沙に対して、トリック・オア・トリート――お菓子をくれなきゃイタズラするぞ――を宣言することでイタズラをすることを思いつき、実行しようとした。
しかし、どんなイタズラをしようかと夢中になるあまり、自分がお菓子を持ち歩かなかったばかりに、実はハロウィンの事を知っていた魔理沙に逆に宣言され、イタズラを受けてしまうというあるまじき失敗をした。
それから一年、今年もハロウィンの日がやって来た。
きっと魔理沙は今年も来る。
去年はハロウィンを知らないだろうという不意打ちを狙っただけの戦いで前哨戦みたいなもの。
今回はハロウィンの存在を知っているということは互いにわかっている。
この状況下で勝った方こそが真の勝者。
勝者に与えられる商品は相手を好き勝手にイタズラする権利。
この商品を手に入れるため、去年の雪辱を晴らすために今年は勝たねばならない。
去年のようなヘマをしないためにお菓子はたくさん用意した。
物量で防ぐのは知的ではないけれど勝ちには代えられない。
魔理沙のことだから、『例のアレを言い合ってお菓子先になくなった方がダメなんだぜ』と言い出すことは十分にありえる。
そんなものはもはやハロウィンと呼んで良いものか怪しいが、去年だって振り返ってみるとハロウィンとは似て非なるもの。
私の知ってるハロウィンの枠だけで捉えていては確実に負ける。
それだけあの霧雨魔理沙は何事にも理不尽で本気だ。
ドンドンドンドン!
ノックの音がする。
「来た……!」
窓から来ていきなりといった不意打ちや、外で物音を鳴らし続けて呼び出すなど揺さぶってくると思っていたが、正攻法で来たらしい。
もっともあの魔理沙がノックをして来ると言うのは珍しいので、これはこれで狙っている手かもしれない。
「私はそんなことでは動じないけどね」
忍ばせるというには多いお菓子をポケットに入れ、応対に向かう。
「はーい」
ドアを開けると目の前には今宵の対戦相手、霧雨魔理沙の姿があった。
白黒服に黒い魔女帽、ハロウィンでも仮装いらずのいつもの格好。
ただ、帽子に付いているリボンや三つあみに使っているリボンは橙色だ。
橙色はパンプキンの色。
彼女は何事も形から入る、今日という日を意識していると思っていい。
「よ! アリス、今暇か?」
「それなりにはね」
暇というわけではない、これから目の前の相手をイタズラする予定があるのだから。
「それはよかった、じゃあ行こうぜ」
「どこに?」
「紅魔館さ」
「わかったわ」
なぜかは聞かなかった。
こうなった以上行く事は決まっているし、紅魔館に行く事は私にとっても都合がいい。
今日が何の日かを考えると恐らく魔理沙の目的もほぼ同じだろう。
魔理沙も口に出していない以上、今はまだハロウィンという単語を出すべきではない。
すぐに支度を済ませ、魔理沙と共に紅魔館に行く事となった。
雲一つない星空を二人飛んでいると真っ赤な館が見えてくる。
幻想郷に住んでいて知らぬものはいないと言われるほどのこの建造物が目的地の紅魔館。
壁を紅ではなく橙色に塗りつぶせば、今日の舞台にぴったりではないだろうか。
そして夜遅いにも関わらず、門番をしている紅美鈴の姿が見えた。
魔理沙はいつもいきなり弾幕勝負をけしかけて突破しているとのことだが、今日もそうするのだろうか。
私はそういうの乗り気じゃないんだけど……と思ったら特に先制攻撃をしかけるわけでもなく門の前に降り立った。
私もそれに続く。
「あ、魔理沙さんにアリスさん。お嬢様がお待ちですよ。ようこそ紅魔館へ」
どうやら今日私たちが来ることはわかっていたらしい。
この館の主は運命を読み取る力があるというし、当然か。
「おう、それじゃあ入るぜ」
「待ってください」
入ろうとした魔理沙を止め、美鈴は笑顔で一言。
「通行料をもらっていませんよ」
「そんなもの取ってるの?」
私も何度かこの館は出入りしているが通行料などはなかった気がする。
いつの間に制度が変わったのやら、入るのにお金がかかるのなら魔理沙が強行突破するのもわかる。
「いいえ、今日だけですよ、トリック・オア・トリート」
どうやらお菓子が通行料ということのようだ。
笑顔でいう美鈴に対し、魔理沙は戸惑うこと無く飴玉を渡していた。
「ほら、アリスさんも。トリック・オア・トリート」
「はいはい」
ポケットから飴玉を一つ取り出して渡す。
そう、私も魔理沙と同じく飴玉を用意していた。
飴玉はコンパクトでたくさん持ち運ぶのに良く、ビスケットのように粉々になってしまう事故も少ないからだ。
「では確かに。どうぞごゆるりと」
美鈴に促され、魔理沙は門を通り抜ける。
私はその後ろを付いていく形だ。
門前のやり取りでわかった。
魔理沙はハロウィンのことは忘れていなかった。
いや、むしろ忘れていなくて良かっただろう。
もし忘れていたならば今ので魔理沙はアウト、美鈴にイタズラをされることとなっていただろう、それではダメだ。
私は誰かにイタズラされる魔理沙を見たいのではない、私自身がイタズラをしたいのだ。
だからといって、誰かにイタズラされた後に「私も私も!」とお菓子が無い相手に要求するのもダメ。
これでは去年の雪辱は晴らせない、魔理沙に負けを認めさせるようなものでなくてはいけない。
だから今宵の戦いの勝利条件は『魔理沙のお菓子がなくなった時にトリック・オア・トリート宣言し、その後イタズラをする』である。
紅魔館に行くのが都合が良かったのはこのためだ。
正確には人里でも、地底でも人妖がいるところならば何処でも良かった。
自分が宣言せずに相手のお菓子を減らすには奪うか、他人に宣言させるしかない。
直接奪うなどの強引な手段は避けたい。スマートではないし、何より力押しは魔理沙の十八番。
必敗はないが、リスクが大きすぎる。
ただ、魔理沙も今のところ直接的な行動に来てないことを見ると紅魔館に来た目的は恐らく私と同じだろう。
そして館に入り、一直線に前を進む魔理沙。
辺りには人っ子一人の姿もなく、ろうそくの火だけがめらめらと怪しく灯っている。
「場所わかるの?」
「アイツは人を呼んだときは真っ直ぐ行ったところにある部屋で偉そうに座ってるよ」
どうやら私達は呼ばれた側らしい。
魔理沙が戦いの舞台をここに決めたわけではないようだ。
こうしてたどり着いた先には大きな大きな両開き扉。
他の部屋のとは明らかにサイズ、装飾のレベルが段違いで持ち主の格を示すかのように仰々しい。
「入るぜー」
そんな仰々しい扉を目の前にしても魔理沙は怯むことなく、私の家に来るときと変わらない軽い調子でドアを開ける。
その開く動作を見る限り思っているほど扉は重たくはなさそうだ。
――いや、何かおかしい。
いつもはこんな扉開けることはなかったはずだ。
違和感を覚えている私に気づくことなく魔理沙はずかずかと入っていく。
「おー霧雨魔理沙、思ったより遅かったね」
「悪い悪い、アリスが歩くの遅くてさー」
王座といわんばかりの立派な椅子に腰掛けた館主レミリア・スカーレットと魔理沙が軽い挨拶代わりの会話を始めた。
――何か足りない。
「まぁいいや、ほら、トリックオアトリート? 言っておくけどお菓子無かったらひどいよ?」
「心配無用だぜ、ほらよ。吸血鬼さんは飴玉は好きかい?」
「白いのじゃなきゃ好きだよ。前にいろんな味が入ってた缶を手に入れたけど、あれの白いのは最悪だったね。咲夜は美味しいのにもったいないと食べてたが信じられないよ」
そうだ、咲夜を見かけていないんだ。
来客、それも主が呼んだとあれば真っ先に出迎えに来るはずの彼女がいない。
他にもこの館にはたくさんのメイドがいるはずで、ここに来るまでに一人も見かけてないというのはおかしい。
そう思った瞬間、先ほどは誰の気配も感じなかった後ろ――廊下の方から、ドドドドドという足音が聞こえてきた。
これは明らかに一人の量ではない。
思わず後ろを振り向くと、大量の妖精メイド達がまるで何かを目指して我先にと押し寄せてきていた。
アリスは彼女らの邪魔にならないように、否、巻き込まれないように進路を譲ったが、彼女達が向かっているのは譲られた先ではなかった。
「トリックオアトリート! トリックオアトリート!」
先頭にいた妖精が声高らかに宣言すると、周りの妖精も呼応するかのように宣言し、アリスのポケットからお菓子を取り始める。
「ちょ、ちょっと!」
必死に押さえ込もうとするが、数の暴力に圧倒されるしかない。
妖精達は返答を待たず、一人また一人と飴玉を持っていく。
さながら鹿せんべいを持ったまま奈良の公園をうろつき、追い掛け回される観光客のようになっていたその時。
パチン!
あれだけのガヤ騒ぎの中ですら関係のないといった透き通った指を鳴らした音が響き渡った。
音の先にはこの紅魔館が誇るメイド長十六夜咲夜の姿。
その音に反応して群がっていた大量の妖精メイドは持ち場に戻る。
飴玉をもらえなかった娘はとても残念そうにしていた。
「大丈夫だった?」
「ええ、でも……」
優しく問いかける咲夜に対して、曖昧に答えるしかない。
ケガなどはなかったのだが、用意していた飴玉のほとんどが無くなっていた。
「なんていうか、すごかったな」
魔理沙に対して苦笑いを浮かべるしかない。
そうだ、魔理沙はさっきの騒動に全く巻き込まれていない。
魔理沙がどの程度お菓子を用意しているかは知らないが、圧倒的な差があると思っていい。
この時点で私は引くことを考えていた。
魔理沙に去年の借りを返してイタズラはしたいが、勝てない戦をするほど愚鈍でもない。
来年またチャンスはある。
問題はこの状況でどうやって撤退するかだが……
パチン!
先ほどと同じ快音が鳴り響く。
音につられて咲夜の方を見ると、一体どこから持ってきたのか大量の飴玉を持っている。
確かあの飴玉は……
「ん、なにこれみかん味じゃないの?」
「私お手製のカボチャ味だぜ、じゃない! なんでお前が私のお菓子を持っているんだ」
「ああ、ごめんなさいトリック・オア・トリートってことでひとつ」
「お前の場合、トリックしかないだろうが。しかも全然一つじゃないし」
「種無し手品ですわ」
あの大量の飴玉は魔理沙のものらしい。
あれだけの量を一瞬で掠め取れる咲夜もさすがだが、魔理沙はいったいどこにあの量を隠していたのか。
お菓子の量対決になっていたら間違いなく負けていただろう。
「ね、アリス。トリック・オア・トリート?」
一瞬ドキッとした。
これで咲夜が魔理沙にしたように私のお菓子を取っていたら敗北が決定していたからだ。
しかし、ポケットには飴玉が残っていた。
咲夜に一個渡し、残りを数えてみると四個。
なんとも心もとない数だ。
私はこれからどう行動すべきか悩んでいた。
魔理沙の大量の飴玉が咲夜に回収されたため、勝ちの目は出てきているので撤退せず戦う選択肢が出てきた。
これで咲夜が魔理沙の飴玉全部取っていたらいいのだが、確証が持てない。
「咲夜、なんで魔理沙のお菓子全部とったの?」
「お嬢様は退屈が嫌いなお方です。今宵この場で誰もイタズラされずに終わってしまうなどということは望まれていません」
咲夜に続いてレミリアが言う。
「だから私が咲夜に指示をしたのさ、あんなにたくさんのお菓子抱えてれば、イタズラできる状況にはならない。それは全く面白くない」
「そういうわけで、お二人のお菓子は均等になるようにしましたわ」
今手元にある四個のお菓子を見る。
つまり、魔理沙も今四個持っているということを示す。
「今更だけど、私達を呼んだのはこのためだったのね」
「そういうことさ。そうそう、言い忘れていたが一度お菓子をもらった奴が再度同じ人に要求するのもナシね。咲夜が何度も宣言してあなたたちのお菓子をゼロにしても面白くないし」
「さっき大量に私のお菓子持っていったのにそれを言うか。まぁ一瞬で勝負が決まってもつまらんしな」
「あと他人から貰ったお菓子を渡すのも禁止ね、数が減らないから決着がつかないし、貰ったものを別の人に渡すなんて失礼でしょう? だから自分で用意したものを渡すこと」
「つまりこの四個で戦えってことか、ルールについては了解だ」
私としては最初からそういうルールだと暗黙的に行動していたが、第三者が明文化してくれるのはありがたい。
「アリス! 今年も私がイタズラしてやるからな、逃げるなよ」
「魔理沙の方こそ」
一時はどうなるかと思ったけど、条件が対等なら問題はない。
必要な情報は揃ったし、後は魔理沙を追い詰めるだけ。
ハロウィンはブレインなのよ、それを思い知らせてあげる。
こうして戦いの火蓋は切って落とされた。
勝利条件は最初と変わらず『魔理沙のお菓子がなくなった時にトリック・オア・トリート宣言し、その後イタズラをする』
同じ人に一度しか宣言できないというルールが決められた以上、自分以外の人に相手の残機を減らしてもらうしかない。
動かなければ負けはないが勝ちもない。
それを互いにわかっているからこそ、強引に別の人に会わせるように動き始める。
部屋を飛び出し、廊下を低空で飛行する魔理沙。
私はそれについていく。
主導権が握られやすいこの状況は望ましくはないが、相手を見失うよりはまだ良い。
仕掛けるには相手が見える位置にいるのが最善。
魔理沙もそれがわかっているので引き離さない程度の速さで飛んでいる。
それにしても全く見かけないわね……
魔理沙は妖精メイドに宣言されていないことを考えると、この廊下で残機を減らしてもらうのが理想だったのだが。
先程の騒ぎを収めた時に咲夜が指示したのかはわからないが、館に入ったときと同じくメイド達の気配がない。
「アリス、ハロウィンは夜行うものだってのは知ってるか?」
「ええ」
「それなら話が早い。ずっとハロウィンやるわけにもいかないし、もし決着が付いていなかったら午前三時、この館の屋上にある時計塔前に集合しよう。勝ちだろうが引き分けだろうが、きっちり終了させたい」
「わかったわ、まぁその前にあなたのお菓子をゼロにしてあげるけどね」
「それはこっちのセリフだ」
やがて魔理沙は高度を下げる、地下への階段に到達したからだ。
これは想定通り、一階だとメイドに遭遇する可能性は高い。
そしてしばらく誰もいない通路を飛行していると目の前に大きな大きな扉が見えてくる。
その扉はレミリアの部屋と同じような装飾が施されている。
これは部屋の主がレミリアと同格だからと以前聞いたことがある。
パチュリー・ノーレッジ。
この先にある大図書館の主でレミリアの友人。
パチュリーは基本的に部屋から出ずに読書をしているため、今も居る可能性が高い。
つまりここは最も人に会う可能性が高い場所。
さらに司書の小悪魔もいることが多いので残機減らしにはもってこいだ。
ただパチュリーも小悪魔も、魔理沙だけではなく私もまだ会っていない人物。
どうにかして相手だけを会わせる必要がある。
『部屋に入ってくれ』などと頼まれて大人しく従うわけがないし、言われて従うつもりもない。
――そうなれば当然。
バタン!!!
魔理沙は扉を勢い良く蹴飛ばす。
壊れるかどうかなんてお構いなしだ。
ここの扉も見た目とは裏腹に開けやすい構造になっているようであっさり開いた。
魔理沙はというと蹴った反動を利用して転回し、背後に回ろうとしていた。
右手にはミニ八卦炉が見える。
(マスタースパークで私を部屋に押し込もうって魂胆ね、そうはさせるもんですか)
すかさず魔法の糸を魔理沙の身体に接続して魔力を通わせて引っ張り、背後に回られる前に勢いよく魔理沙を放り投げる。
「うお、うおおお!?」
放り投げられた魔理沙は箒とミニ八卦炉を掴んだまま大図書館内へと一直線。
「あ、まずい……」
ちょっと勢いが良すぎた。
このままでは魔理沙が地面に激突してしまう。
彼女とて魔法は扱うものの普通の人間、無事ではすまない。
勝負には勝ちたいが、だからといって魔理沙にケガをさせたくはない、イタズラでは済まなくなる。
衝撃を和らげなくてはと、慌てて引き寄せようとする――
「ん!?」
身体が宙に浮いた。
私は空を飛ぶことが出来るが決して自分から浮いたわけではない。
引き寄せようとしたはずが、逆に引っ張られている。
いくら勢いよく放り投げたといっても魔理沙は体格面で見れば少女中の少女。
魔法の糸で引き寄せられないはずがない、そう思って前方を見ると地面に激突するかと思われた魔理沙が強引な体勢でスペルカード『ブレイジングスター』を発動していた。
「え、うそっ!?」
ブレイジングスターは莫大な推進力を生むスペルカード。
力を緩めた状態では到底止めることは出来ない。
体勢を崩した私はたちまち大図書館の中に引きずり込まれてしまう。
それを確認した魔理沙は極細なレーザーで糸を断ち切り、推進力を維持したまま部屋の外へと向かう。
「くっ、こうなれば相打ちでも……!」
もう一度糸を接続しようとするが、早すぎて追いつかない。
さすが彗星と名を冠するスペルカードなだけはある。
あっという間に魔理沙の姿は見えなくなり、大図書館に一人取り残され――
「来たわね」
――てはいなかった。
万が一にでもと思っていたが、例に漏れず部屋に居たのはパチュリー。
傍らにはその司書の姿もある。
「わかってるわよね小悪魔、せーの」
「「トリック・オア・トリート」」
「最悪だ……」
どんな状況であれ宣言された以上渡さなければならない。
私は仲良く声を揃えて宣言したパチュリーと小悪魔に飴玉を一個ずつ渡した。
「パチュリー様、練習したかいがありましたね」
「ええ、息ぴったりだったわ」
手元にある飴玉が二個になっているのを見て消沈していると、二人のそんな会話が聞こえてきた。
「練習って、パチュリーはハロウィン知らなかったの?」
「まさか。やるのが初めてだっただけよ。これから魔理沙も来るのよね?」
「魔理沙は……多分来ないわ」
「そう……」
よほど楽しみにしていたのか、寂しそうに言うパチュリー。
私だって魔理沙を連れてこれるものなら連れて来たい。
しかし、ここでの目的を果たした魔理沙を連れてくるのは難しいだろう。
「それじゃあ、行くわ」
長居しても仕方がない、時間は限られているのだ。
心の中でごめんとパチュリーに謝りながら大図書館を後にした。
バタン
「あ、いたいた」
大図書館の大扉を閉じて、今後の一手を考えようとした時、不意に後ろから声が聞こえた。
レミリアとどことなく雰囲気が似ているその声を聞いて思い出す。
地下をテリトリーにしているのはパチュリーだけではない。
「……フランドール!?」
「ピンポーン、正解」
どうしてこうタイミングが悪いのか。
そういえばマップ切り替え後にはエンカウントが多いと聞いたことがある。
ここは悪魔の館、紛れも無いダンジョンってわけだ。
しかし、出会っただけではまだ問題はない。
幸いフランドールは地下にいることがほとんどなので、今夜の催しのことは知らないかもしれない。
すぐに話を切り上げてこの場を立ち去ろうとするが――
「トリック・オア・トリート? であってるよね」
あっさりと希望は打ち砕かれた。
大図書館に篭っているパチュリーでも知っているくらいだ、前もってレミリアが館中に周知させていたのだろう。
フランドールが知らないわけがなかった。
「あれ? 違った? 魔理沙からこうすればいいって聞いたんだけど」
と思ったら教えたのは魔理沙か。
あの攻防の後にまっすぐフランドールの部屋に行って教えたのだろう。
完全に後手に回ってしまっているのに危機感を覚えるが、現状は把握しなければならない。
「魔理沙に会ったのね?」
「ん? 会ってないよ」
「教えてもらったんじゃないの? ハロウィンのこと」
「聞いたのは昨日だよ」
なんだろう、すごく重要なことな気がする。
「えっと、なんて聞いたの?」
「今日図書館の方から大きな音がしたらアリスがいるから、トリック・オア・トリートって言うとお菓子もらえるよって」
なんてことだ、まさか戦いが前日から始まっていたとは思わなかった。
魔理沙は一つのイベントに一体どれだけ本気を出しているのか若干呆れたくもなる。
「ねえ、お菓子は?」
私が中々お菓子を出さないものだから、先ほどまでより少し声のトーンを落として催促するフランドール。
「ああ、ごめんなさい。宣言されているものね。はい、これ」
「やった!」
飴玉を一つ受け取り、はしゃぐフランドール。
これで残りの飴玉は一個。
この一個がなくなった時点で負けが決まる。
「もう、ダメか……」
今年も負けてしまうのか。
しかし撤退はレミリアが許さないだろう。
門番がこの時間でも働いているのは、私か魔理沙が負けそうになって逃げるのを防ぐためとも思える。
「なにがダメなの?」
飴玉を大事そうに持っているフランドールを見る。
「……!」
いや、まだ手はある。まだ終わってはいない!
「ううん。なんでもない。それよりフランドール話があるの――」
「遅かったな」
「あなたが早いのよ」
午前三時、最終舞台である時計塔の前に行くと既に魔理沙がいた。
大図書館での一件以来会わなかったので数時間ぶりの再会。
月を背に浮遊する魔理沙からは余裕の表情がうかがえる。
「よく逃げなかったな」
「状況が状況だしね、さぁ決着を付けましょう」
「そうだな。あの状況からしてアリスの今手元にあるお菓子は一個だろう? 最終決戦のはじまりだぜ」
そう言って魔理沙はバサッと漆黒の翼を広げる。
「やられたわ、仕組まれていたってわけね、出てきなさいよ」
そう、魔理沙に翼などあるわけがない。
魔理沙の背から顔を出したのは翼の持ち主、レミリア・スカーレット。
「やられた、と言うわりには驚いていないね」
「可能性の一つとして考慮していたわ。だって私は貴方からは宣言を受けていないから。それに魔理沙が私の飴玉が残りゼロと確定していないのに何も手を打たないわけがない」
咲夜は確かに最初お菓子の数は均等にしたけど、機会までは均等にしていなかった。
咲夜が現れるより前に魔理沙はレミリアにトリック・オア・トリート宣言をされていたからだ。
お菓子を減らすことなく結託を持ちかけることの出来るとなれば魔理沙がレミリアを利用することはありえた。
というより、前日から仕込んでいたフランドールの件からして最初から組んでいたんだろう。
残すお菓子の個数も時間を止められる咲夜がいればいくらでも変えられるし、目の前の吸血鬼はその彼女に指示出来る。
そもそもこのお嬢様は退屈が嫌いなのだから観ているだけで満足するわけがない。
全てはこの最終決戦のために整えられたものだったのだ。
しかし組むことには一つ問題がある。
「でもいいの? 魔理沙が勝つには先にレミリアに宣言させないといけない。その場合、レミリア自身は別に私にイタズラできるわけではないし、貴方としては退屈だと思うのだけれど」
「クックック……」
レミリアは、それは苦し紛れの一手だというようにわざとらしく振舞う。
「別にそうでもないよ、私と霧雨魔理沙はチーム……そうだな、名付けるならば紅い吸血鬼と白黒魔法使いで紅魔組といったところかな。手を組む以上、当然商品はチームのものだろう?」
明らかに後出しで追加されたルール。
こういう理不尽さがあるという点では二人はまさにチームだった。
「ふふふ……」
思わず笑い出してしまう。
この場面でその反応が出るのはおかしいのではないかと紅魔組二人は目を合わせる。
「ごめんなさい、その発言聞いて安心したわ。これで心置きなく戦える、ありがとう」
「何を言っているんだ?」
「出てきていいわよ」
そういって私の後ろ、建物の影になっていたところから七色の羽根と共にぴょんと顔を出したのは――
「「フラン!?」」
「そんなに驚くことはないわ、チームを作っていたのは貴方たちだけではなかったというだけのことよ。そうね……紅い吸血鬼と七色の魔法使いで紅魔組ってところかしら? もっともそちらより大分色は多いけれど」
「フラン、いい子だからこっちおいで」
「ヤダ!」
「なっ……貴様何をした」
「別になにも。ただ『魔理沙にイタズラしたくない?』って言っただけよ」
「さすがアリス、人形遣いだけあって"ドール"の扱いに長けているな」
「余裕かましている場合じゃないぞ霧雨魔理沙。今何個お菓子持ってる!?」
「そんなに焦らなくても大丈夫だ、最初から数は減らしてないから四個だ。今この場にパチュリーと小悪魔が出てきても耐えられるぜ」
ここまで魔理沙は妖精メイドとも会うことなく被弾ゼロで来ていた。
もっともレミリアの根回しでそうなっていただけなのだが。
「うああ、だ、だめだ」
レミリアは顔面蒼白な様子でうろたえる。
「おい、しっかりしろ! 小学校低学年レベルの引き算だぞ?」
何も難しいことはない。
『まりさちゃんはアメを4こもっています。そこへありすちゃんとふらんちゃんがきたので、1こずつあげました。さてまりさちゃんはあといくつアメをもっているのでしょうか』
4-2=2、答えはどう考えても0以下にはならない。
それに美鈴からも咲夜からも魔理沙はすでに宣言は受けている、これ以上何があるというのか。
「ねえ、魔理沙、私がさっき笑った理由教えてあげる」
妖しく言ったのが効いたのか、魔理沙はごくりと唾を飲んだ。
「それはね……イタズラ権限がチームに貰えるなら仲間割れをする心配がないってことを知ったからなの。どっちが最後に宣言してもいいからね。いくわよ、お願いフランドール!」
「まかせて!」
戦操『フランドールズウォー』
アリスの掛け声に合わせてフランドールが飛び出す、左手にはスペルカード、フランドールの絵が4つ書かれている。
「フォーオブアカインドからの……」
「「「「トリックオアトリート!!!!」」」」
四人に分身したフランドールが綺麗に声を揃えて宣言する。
「おいおいまてまて! レミリアあれいいのか!? フランドールからの宣言は1回までだろ!」
「あのスペルカードは全部フランであってフランではない、ルール適応外よ……」
諦めの表情でレミリアが言う。
屁理屈を言ってくるのではないかと考えていたが意外だ。
四回宣言なので魔理沙の飴玉は四個渡して……4-4=0、チェックメイトだ。
「まだだ、話に流されてうやむやにされるところだったが、あっちだってお菓子一個しかない。二人で先に宣言すればまだ勝てる!」
「そ、そうだったわね」
レミリアの表情に活力が戻っていく。
「くらえ、せーの」「「トリックオアトリート!!」」
宣言を受けた私は魔理沙とレミリアにお菓子を投げる。
「え、なんで?」
「そもそもなんであなた達は私が持ってるお菓子を残り一個だと思ったの?」
「それは、レミリアなんで!?」
「なんでってこっちが聞きたいわよ、確かに私はアリスの手元にあった四個のお菓子の運命を視た。パチェ、小悪魔、フランに一個ずつ渡って、最後に私。ここで宣言する予定だった私を除けば一個になるはず」
「なるほどそういうこと。でも途中で個数が変わってしまったら?」
「まさかお前」
「この館には厨房があるものね、しかも主とその妹さんはそれはもう大変なデザート好きなものだからお菓子作りの材料には困らなかったわ。もちろんフランドールの許可を得て厨房と食材は使わせてもらったわ。確か自分でお菓子を用意するのは問題なかったわよね」
「そ、そんなのありかよー」
魔理沙は脱力するしかなかった、自分が宣言してしまった以上もう勝ちはない。
「魔理沙、あなたは私から目を離すべきではなかったのよ」
最初のように互いが見える位置で牽制しあっていれば、私はフランドールと組む事もお菓子を作ることも出来なかったのだ。
「そういうわけでトリック・オア・トリート?」
「ああ、ないよ、負けだ、お手柔らかに頼むぜ」
魔理沙は両手を挙げて降参のポーズを取りながら言った。
今日一番魔理沙に言わせたかった台詞、これでようやく去年のリベンジを果たすことが出来た。
「こりゃしてやられたね、これだから幻想郷は楽しくて好きだよ」
楽しかったよと手をひらひらさせながら歩くレミリア
「どこに行くの?」
「へ?」
「あなたもよ、チームにイタズラ権限が与えられるなら当然負けた側もよね」
「お姉さまにもイタズラできるの? やった!」
「そこ、嬉しそうにしない! えーっと、私もそっちの紅魔組に入ろうかなーって」
「認めません!」
「ぎゃー」
アリスとフランドールのイタズラは朝日が昇るまで続けられたという。
私、アリス・マーガトロイドはハロウィンを知らないであろう魔理沙に対して、トリック・オア・トリート――お菓子をくれなきゃイタズラするぞ――を宣言することでイタズラをすることを思いつき、実行しようとした。
しかし、どんなイタズラをしようかと夢中になるあまり、自分がお菓子を持ち歩かなかったばかりに、実はハロウィンの事を知っていた魔理沙に逆に宣言され、イタズラを受けてしまうというあるまじき失敗をした。
それから一年、今年もハロウィンの日がやって来た。
きっと魔理沙は今年も来る。
去年はハロウィンを知らないだろうという不意打ちを狙っただけの戦いで前哨戦みたいなもの。
今回はハロウィンの存在を知っているということは互いにわかっている。
この状況下で勝った方こそが真の勝者。
勝者に与えられる商品は相手を好き勝手にイタズラする権利。
この商品を手に入れるため、去年の雪辱を晴らすために今年は勝たねばならない。
去年のようなヘマをしないためにお菓子はたくさん用意した。
物量で防ぐのは知的ではないけれど勝ちには代えられない。
魔理沙のことだから、『例のアレを言い合ってお菓子先になくなった方がダメなんだぜ』と言い出すことは十分にありえる。
そんなものはもはやハロウィンと呼んで良いものか怪しいが、去年だって振り返ってみるとハロウィンとは似て非なるもの。
私の知ってるハロウィンの枠だけで捉えていては確実に負ける。
それだけあの霧雨魔理沙は何事にも理不尽で本気だ。
ドンドンドンドン!
ノックの音がする。
「来た……!」
窓から来ていきなりといった不意打ちや、外で物音を鳴らし続けて呼び出すなど揺さぶってくると思っていたが、正攻法で来たらしい。
もっともあの魔理沙がノックをして来ると言うのは珍しいので、これはこれで狙っている手かもしれない。
「私はそんなことでは動じないけどね」
忍ばせるというには多いお菓子をポケットに入れ、応対に向かう。
「はーい」
ドアを開けると目の前には今宵の対戦相手、霧雨魔理沙の姿があった。
白黒服に黒い魔女帽、ハロウィンでも仮装いらずのいつもの格好。
ただ、帽子に付いているリボンや三つあみに使っているリボンは橙色だ。
橙色はパンプキンの色。
彼女は何事も形から入る、今日という日を意識していると思っていい。
「よ! アリス、今暇か?」
「それなりにはね」
暇というわけではない、これから目の前の相手をイタズラする予定があるのだから。
「それはよかった、じゃあ行こうぜ」
「どこに?」
「紅魔館さ」
「わかったわ」
なぜかは聞かなかった。
こうなった以上行く事は決まっているし、紅魔館に行く事は私にとっても都合がいい。
今日が何の日かを考えると恐らく魔理沙の目的もほぼ同じだろう。
魔理沙も口に出していない以上、今はまだハロウィンという単語を出すべきではない。
すぐに支度を済ませ、魔理沙と共に紅魔館に行く事となった。
雲一つない星空を二人飛んでいると真っ赤な館が見えてくる。
幻想郷に住んでいて知らぬものはいないと言われるほどのこの建造物が目的地の紅魔館。
壁を紅ではなく橙色に塗りつぶせば、今日の舞台にぴったりではないだろうか。
そして夜遅いにも関わらず、門番をしている紅美鈴の姿が見えた。
魔理沙はいつもいきなり弾幕勝負をけしかけて突破しているとのことだが、今日もそうするのだろうか。
私はそういうの乗り気じゃないんだけど……と思ったら特に先制攻撃をしかけるわけでもなく門の前に降り立った。
私もそれに続く。
「あ、魔理沙さんにアリスさん。お嬢様がお待ちですよ。ようこそ紅魔館へ」
どうやら今日私たちが来ることはわかっていたらしい。
この館の主は運命を読み取る力があるというし、当然か。
「おう、それじゃあ入るぜ」
「待ってください」
入ろうとした魔理沙を止め、美鈴は笑顔で一言。
「通行料をもらっていませんよ」
「そんなもの取ってるの?」
私も何度かこの館は出入りしているが通行料などはなかった気がする。
いつの間に制度が変わったのやら、入るのにお金がかかるのなら魔理沙が強行突破するのもわかる。
「いいえ、今日だけですよ、トリック・オア・トリート」
どうやらお菓子が通行料ということのようだ。
笑顔でいう美鈴に対し、魔理沙は戸惑うこと無く飴玉を渡していた。
「ほら、アリスさんも。トリック・オア・トリート」
「はいはい」
ポケットから飴玉を一つ取り出して渡す。
そう、私も魔理沙と同じく飴玉を用意していた。
飴玉はコンパクトでたくさん持ち運ぶのに良く、ビスケットのように粉々になってしまう事故も少ないからだ。
「では確かに。どうぞごゆるりと」
美鈴に促され、魔理沙は門を通り抜ける。
私はその後ろを付いていく形だ。
門前のやり取りでわかった。
魔理沙はハロウィンのことは忘れていなかった。
いや、むしろ忘れていなくて良かっただろう。
もし忘れていたならば今ので魔理沙はアウト、美鈴にイタズラをされることとなっていただろう、それではダメだ。
私は誰かにイタズラされる魔理沙を見たいのではない、私自身がイタズラをしたいのだ。
だからといって、誰かにイタズラされた後に「私も私も!」とお菓子が無い相手に要求するのもダメ。
これでは去年の雪辱は晴らせない、魔理沙に負けを認めさせるようなものでなくてはいけない。
だから今宵の戦いの勝利条件は『魔理沙のお菓子がなくなった時にトリック・オア・トリート宣言し、その後イタズラをする』である。
紅魔館に行くのが都合が良かったのはこのためだ。
正確には人里でも、地底でも人妖がいるところならば何処でも良かった。
自分が宣言せずに相手のお菓子を減らすには奪うか、他人に宣言させるしかない。
直接奪うなどの強引な手段は避けたい。スマートではないし、何より力押しは魔理沙の十八番。
必敗はないが、リスクが大きすぎる。
ただ、魔理沙も今のところ直接的な行動に来てないことを見ると紅魔館に来た目的は恐らく私と同じだろう。
そして館に入り、一直線に前を進む魔理沙。
辺りには人っ子一人の姿もなく、ろうそくの火だけがめらめらと怪しく灯っている。
「場所わかるの?」
「アイツは人を呼んだときは真っ直ぐ行ったところにある部屋で偉そうに座ってるよ」
どうやら私達は呼ばれた側らしい。
魔理沙が戦いの舞台をここに決めたわけではないようだ。
こうしてたどり着いた先には大きな大きな両開き扉。
他の部屋のとは明らかにサイズ、装飾のレベルが段違いで持ち主の格を示すかのように仰々しい。
「入るぜー」
そんな仰々しい扉を目の前にしても魔理沙は怯むことなく、私の家に来るときと変わらない軽い調子でドアを開ける。
その開く動作を見る限り思っているほど扉は重たくはなさそうだ。
――いや、何かおかしい。
いつもはこんな扉開けることはなかったはずだ。
違和感を覚えている私に気づくことなく魔理沙はずかずかと入っていく。
「おー霧雨魔理沙、思ったより遅かったね」
「悪い悪い、アリスが歩くの遅くてさー」
王座といわんばかりの立派な椅子に腰掛けた館主レミリア・スカーレットと魔理沙が軽い挨拶代わりの会話を始めた。
――何か足りない。
「まぁいいや、ほら、トリックオアトリート? 言っておくけどお菓子無かったらひどいよ?」
「心配無用だぜ、ほらよ。吸血鬼さんは飴玉は好きかい?」
「白いのじゃなきゃ好きだよ。前にいろんな味が入ってた缶を手に入れたけど、あれの白いのは最悪だったね。咲夜は美味しいのにもったいないと食べてたが信じられないよ」
そうだ、咲夜を見かけていないんだ。
来客、それも主が呼んだとあれば真っ先に出迎えに来るはずの彼女がいない。
他にもこの館にはたくさんのメイドがいるはずで、ここに来るまでに一人も見かけてないというのはおかしい。
そう思った瞬間、先ほどは誰の気配も感じなかった後ろ――廊下の方から、ドドドドドという足音が聞こえてきた。
これは明らかに一人の量ではない。
思わず後ろを振り向くと、大量の妖精メイド達がまるで何かを目指して我先にと押し寄せてきていた。
アリスは彼女らの邪魔にならないように、否、巻き込まれないように進路を譲ったが、彼女達が向かっているのは譲られた先ではなかった。
「トリックオアトリート! トリックオアトリート!」
先頭にいた妖精が声高らかに宣言すると、周りの妖精も呼応するかのように宣言し、アリスのポケットからお菓子を取り始める。
「ちょ、ちょっと!」
必死に押さえ込もうとするが、数の暴力に圧倒されるしかない。
妖精達は返答を待たず、一人また一人と飴玉を持っていく。
さながら鹿せんべいを持ったまま奈良の公園をうろつき、追い掛け回される観光客のようになっていたその時。
パチン!
あれだけのガヤ騒ぎの中ですら関係のないといった透き通った指を鳴らした音が響き渡った。
音の先にはこの紅魔館が誇るメイド長十六夜咲夜の姿。
その音に反応して群がっていた大量の妖精メイドは持ち場に戻る。
飴玉をもらえなかった娘はとても残念そうにしていた。
「大丈夫だった?」
「ええ、でも……」
優しく問いかける咲夜に対して、曖昧に答えるしかない。
ケガなどはなかったのだが、用意していた飴玉のほとんどが無くなっていた。
「なんていうか、すごかったな」
魔理沙に対して苦笑いを浮かべるしかない。
そうだ、魔理沙はさっきの騒動に全く巻き込まれていない。
魔理沙がどの程度お菓子を用意しているかは知らないが、圧倒的な差があると思っていい。
この時点で私は引くことを考えていた。
魔理沙に去年の借りを返してイタズラはしたいが、勝てない戦をするほど愚鈍でもない。
来年またチャンスはある。
問題はこの状況でどうやって撤退するかだが……
パチン!
先ほどと同じ快音が鳴り響く。
音につられて咲夜の方を見ると、一体どこから持ってきたのか大量の飴玉を持っている。
確かあの飴玉は……
「ん、なにこれみかん味じゃないの?」
「私お手製のカボチャ味だぜ、じゃない! なんでお前が私のお菓子を持っているんだ」
「ああ、ごめんなさいトリック・オア・トリートってことでひとつ」
「お前の場合、トリックしかないだろうが。しかも全然一つじゃないし」
「種無し手品ですわ」
あの大量の飴玉は魔理沙のものらしい。
あれだけの量を一瞬で掠め取れる咲夜もさすがだが、魔理沙はいったいどこにあの量を隠していたのか。
お菓子の量対決になっていたら間違いなく負けていただろう。
「ね、アリス。トリック・オア・トリート?」
一瞬ドキッとした。
これで咲夜が魔理沙にしたように私のお菓子を取っていたら敗北が決定していたからだ。
しかし、ポケットには飴玉が残っていた。
咲夜に一個渡し、残りを数えてみると四個。
なんとも心もとない数だ。
私はこれからどう行動すべきか悩んでいた。
魔理沙の大量の飴玉が咲夜に回収されたため、勝ちの目は出てきているので撤退せず戦う選択肢が出てきた。
これで咲夜が魔理沙の飴玉全部取っていたらいいのだが、確証が持てない。
「咲夜、なんで魔理沙のお菓子全部とったの?」
「お嬢様は退屈が嫌いなお方です。今宵この場で誰もイタズラされずに終わってしまうなどということは望まれていません」
咲夜に続いてレミリアが言う。
「だから私が咲夜に指示をしたのさ、あんなにたくさんのお菓子抱えてれば、イタズラできる状況にはならない。それは全く面白くない」
「そういうわけで、お二人のお菓子は均等になるようにしましたわ」
今手元にある四個のお菓子を見る。
つまり、魔理沙も今四個持っているということを示す。
「今更だけど、私達を呼んだのはこのためだったのね」
「そういうことさ。そうそう、言い忘れていたが一度お菓子をもらった奴が再度同じ人に要求するのもナシね。咲夜が何度も宣言してあなたたちのお菓子をゼロにしても面白くないし」
「さっき大量に私のお菓子持っていったのにそれを言うか。まぁ一瞬で勝負が決まってもつまらんしな」
「あと他人から貰ったお菓子を渡すのも禁止ね、数が減らないから決着がつかないし、貰ったものを別の人に渡すなんて失礼でしょう? だから自分で用意したものを渡すこと」
「つまりこの四個で戦えってことか、ルールについては了解だ」
私としては最初からそういうルールだと暗黙的に行動していたが、第三者が明文化してくれるのはありがたい。
「アリス! 今年も私がイタズラしてやるからな、逃げるなよ」
「魔理沙の方こそ」
一時はどうなるかと思ったけど、条件が対等なら問題はない。
必要な情報は揃ったし、後は魔理沙を追い詰めるだけ。
ハロウィンはブレインなのよ、それを思い知らせてあげる。
こうして戦いの火蓋は切って落とされた。
勝利条件は最初と変わらず『魔理沙のお菓子がなくなった時にトリック・オア・トリート宣言し、その後イタズラをする』
同じ人に一度しか宣言できないというルールが決められた以上、自分以外の人に相手の残機を減らしてもらうしかない。
動かなければ負けはないが勝ちもない。
それを互いにわかっているからこそ、強引に別の人に会わせるように動き始める。
部屋を飛び出し、廊下を低空で飛行する魔理沙。
私はそれについていく。
主導権が握られやすいこの状況は望ましくはないが、相手を見失うよりはまだ良い。
仕掛けるには相手が見える位置にいるのが最善。
魔理沙もそれがわかっているので引き離さない程度の速さで飛んでいる。
それにしても全く見かけないわね……
魔理沙は妖精メイドに宣言されていないことを考えると、この廊下で残機を減らしてもらうのが理想だったのだが。
先程の騒ぎを収めた時に咲夜が指示したのかはわからないが、館に入ったときと同じくメイド達の気配がない。
「アリス、ハロウィンは夜行うものだってのは知ってるか?」
「ええ」
「それなら話が早い。ずっとハロウィンやるわけにもいかないし、もし決着が付いていなかったら午前三時、この館の屋上にある時計塔前に集合しよう。勝ちだろうが引き分けだろうが、きっちり終了させたい」
「わかったわ、まぁその前にあなたのお菓子をゼロにしてあげるけどね」
「それはこっちのセリフだ」
やがて魔理沙は高度を下げる、地下への階段に到達したからだ。
これは想定通り、一階だとメイドに遭遇する可能性は高い。
そしてしばらく誰もいない通路を飛行していると目の前に大きな大きな扉が見えてくる。
その扉はレミリアの部屋と同じような装飾が施されている。
これは部屋の主がレミリアと同格だからと以前聞いたことがある。
パチュリー・ノーレッジ。
この先にある大図書館の主でレミリアの友人。
パチュリーは基本的に部屋から出ずに読書をしているため、今も居る可能性が高い。
つまりここは最も人に会う可能性が高い場所。
さらに司書の小悪魔もいることが多いので残機減らしにはもってこいだ。
ただパチュリーも小悪魔も、魔理沙だけではなく私もまだ会っていない人物。
どうにかして相手だけを会わせる必要がある。
『部屋に入ってくれ』などと頼まれて大人しく従うわけがないし、言われて従うつもりもない。
――そうなれば当然。
バタン!!!
魔理沙は扉を勢い良く蹴飛ばす。
壊れるかどうかなんてお構いなしだ。
ここの扉も見た目とは裏腹に開けやすい構造になっているようであっさり開いた。
魔理沙はというと蹴った反動を利用して転回し、背後に回ろうとしていた。
右手にはミニ八卦炉が見える。
(マスタースパークで私を部屋に押し込もうって魂胆ね、そうはさせるもんですか)
すかさず魔法の糸を魔理沙の身体に接続して魔力を通わせて引っ張り、背後に回られる前に勢いよく魔理沙を放り投げる。
「うお、うおおお!?」
放り投げられた魔理沙は箒とミニ八卦炉を掴んだまま大図書館内へと一直線。
「あ、まずい……」
ちょっと勢いが良すぎた。
このままでは魔理沙が地面に激突してしまう。
彼女とて魔法は扱うものの普通の人間、無事ではすまない。
勝負には勝ちたいが、だからといって魔理沙にケガをさせたくはない、イタズラでは済まなくなる。
衝撃を和らげなくてはと、慌てて引き寄せようとする――
「ん!?」
身体が宙に浮いた。
私は空を飛ぶことが出来るが決して自分から浮いたわけではない。
引き寄せようとしたはずが、逆に引っ張られている。
いくら勢いよく放り投げたといっても魔理沙は体格面で見れば少女中の少女。
魔法の糸で引き寄せられないはずがない、そう思って前方を見ると地面に激突するかと思われた魔理沙が強引な体勢でスペルカード『ブレイジングスター』を発動していた。
「え、うそっ!?」
ブレイジングスターは莫大な推進力を生むスペルカード。
力を緩めた状態では到底止めることは出来ない。
体勢を崩した私はたちまち大図書館の中に引きずり込まれてしまう。
それを確認した魔理沙は極細なレーザーで糸を断ち切り、推進力を維持したまま部屋の外へと向かう。
「くっ、こうなれば相打ちでも……!」
もう一度糸を接続しようとするが、早すぎて追いつかない。
さすが彗星と名を冠するスペルカードなだけはある。
あっという間に魔理沙の姿は見えなくなり、大図書館に一人取り残され――
「来たわね」
――てはいなかった。
万が一にでもと思っていたが、例に漏れず部屋に居たのはパチュリー。
傍らにはその司書の姿もある。
「わかってるわよね小悪魔、せーの」
「「トリック・オア・トリート」」
「最悪だ……」
どんな状況であれ宣言された以上渡さなければならない。
私は仲良く声を揃えて宣言したパチュリーと小悪魔に飴玉を一個ずつ渡した。
「パチュリー様、練習したかいがありましたね」
「ええ、息ぴったりだったわ」
手元にある飴玉が二個になっているのを見て消沈していると、二人のそんな会話が聞こえてきた。
「練習って、パチュリーはハロウィン知らなかったの?」
「まさか。やるのが初めてだっただけよ。これから魔理沙も来るのよね?」
「魔理沙は……多分来ないわ」
「そう……」
よほど楽しみにしていたのか、寂しそうに言うパチュリー。
私だって魔理沙を連れてこれるものなら連れて来たい。
しかし、ここでの目的を果たした魔理沙を連れてくるのは難しいだろう。
「それじゃあ、行くわ」
長居しても仕方がない、時間は限られているのだ。
心の中でごめんとパチュリーに謝りながら大図書館を後にした。
バタン
「あ、いたいた」
大図書館の大扉を閉じて、今後の一手を考えようとした時、不意に後ろから声が聞こえた。
レミリアとどことなく雰囲気が似ているその声を聞いて思い出す。
地下をテリトリーにしているのはパチュリーだけではない。
「……フランドール!?」
「ピンポーン、正解」
どうしてこうタイミングが悪いのか。
そういえばマップ切り替え後にはエンカウントが多いと聞いたことがある。
ここは悪魔の館、紛れも無いダンジョンってわけだ。
しかし、出会っただけではまだ問題はない。
幸いフランドールは地下にいることがほとんどなので、今夜の催しのことは知らないかもしれない。
すぐに話を切り上げてこの場を立ち去ろうとするが――
「トリック・オア・トリート? であってるよね」
あっさりと希望は打ち砕かれた。
大図書館に篭っているパチュリーでも知っているくらいだ、前もってレミリアが館中に周知させていたのだろう。
フランドールが知らないわけがなかった。
「あれ? 違った? 魔理沙からこうすればいいって聞いたんだけど」
と思ったら教えたのは魔理沙か。
あの攻防の後にまっすぐフランドールの部屋に行って教えたのだろう。
完全に後手に回ってしまっているのに危機感を覚えるが、現状は把握しなければならない。
「魔理沙に会ったのね?」
「ん? 会ってないよ」
「教えてもらったんじゃないの? ハロウィンのこと」
「聞いたのは昨日だよ」
なんだろう、すごく重要なことな気がする。
「えっと、なんて聞いたの?」
「今日図書館の方から大きな音がしたらアリスがいるから、トリック・オア・トリートって言うとお菓子もらえるよって」
なんてことだ、まさか戦いが前日から始まっていたとは思わなかった。
魔理沙は一つのイベントに一体どれだけ本気を出しているのか若干呆れたくもなる。
「ねえ、お菓子は?」
私が中々お菓子を出さないものだから、先ほどまでより少し声のトーンを落として催促するフランドール。
「ああ、ごめんなさい。宣言されているものね。はい、これ」
「やった!」
飴玉を一つ受け取り、はしゃぐフランドール。
これで残りの飴玉は一個。
この一個がなくなった時点で負けが決まる。
「もう、ダメか……」
今年も負けてしまうのか。
しかし撤退はレミリアが許さないだろう。
門番がこの時間でも働いているのは、私か魔理沙が負けそうになって逃げるのを防ぐためとも思える。
「なにがダメなの?」
飴玉を大事そうに持っているフランドールを見る。
「……!」
いや、まだ手はある。まだ終わってはいない!
「ううん。なんでもない。それよりフランドール話があるの――」
「遅かったな」
「あなたが早いのよ」
午前三時、最終舞台である時計塔の前に行くと既に魔理沙がいた。
大図書館での一件以来会わなかったので数時間ぶりの再会。
月を背に浮遊する魔理沙からは余裕の表情がうかがえる。
「よく逃げなかったな」
「状況が状況だしね、さぁ決着を付けましょう」
「そうだな。あの状況からしてアリスの今手元にあるお菓子は一個だろう? 最終決戦のはじまりだぜ」
そう言って魔理沙はバサッと漆黒の翼を広げる。
「やられたわ、仕組まれていたってわけね、出てきなさいよ」
そう、魔理沙に翼などあるわけがない。
魔理沙の背から顔を出したのは翼の持ち主、レミリア・スカーレット。
「やられた、と言うわりには驚いていないね」
「可能性の一つとして考慮していたわ。だって私は貴方からは宣言を受けていないから。それに魔理沙が私の飴玉が残りゼロと確定していないのに何も手を打たないわけがない」
咲夜は確かに最初お菓子の数は均等にしたけど、機会までは均等にしていなかった。
咲夜が現れるより前に魔理沙はレミリアにトリック・オア・トリート宣言をされていたからだ。
お菓子を減らすことなく結託を持ちかけることの出来るとなれば魔理沙がレミリアを利用することはありえた。
というより、前日から仕込んでいたフランドールの件からして最初から組んでいたんだろう。
残すお菓子の個数も時間を止められる咲夜がいればいくらでも変えられるし、目の前の吸血鬼はその彼女に指示出来る。
そもそもこのお嬢様は退屈が嫌いなのだから観ているだけで満足するわけがない。
全てはこの最終決戦のために整えられたものだったのだ。
しかし組むことには一つ問題がある。
「でもいいの? 魔理沙が勝つには先にレミリアに宣言させないといけない。その場合、レミリア自身は別に私にイタズラできるわけではないし、貴方としては退屈だと思うのだけれど」
「クックック……」
レミリアは、それは苦し紛れの一手だというようにわざとらしく振舞う。
「別にそうでもないよ、私と霧雨魔理沙はチーム……そうだな、名付けるならば紅い吸血鬼と白黒魔法使いで紅魔組といったところかな。手を組む以上、当然商品はチームのものだろう?」
明らかに後出しで追加されたルール。
こういう理不尽さがあるという点では二人はまさにチームだった。
「ふふふ……」
思わず笑い出してしまう。
この場面でその反応が出るのはおかしいのではないかと紅魔組二人は目を合わせる。
「ごめんなさい、その発言聞いて安心したわ。これで心置きなく戦える、ありがとう」
「何を言っているんだ?」
「出てきていいわよ」
そういって私の後ろ、建物の影になっていたところから七色の羽根と共にぴょんと顔を出したのは――
「「フラン!?」」
「そんなに驚くことはないわ、チームを作っていたのは貴方たちだけではなかったというだけのことよ。そうね……紅い吸血鬼と七色の魔法使いで紅魔組ってところかしら? もっともそちらより大分色は多いけれど」
「フラン、いい子だからこっちおいで」
「ヤダ!」
「なっ……貴様何をした」
「別になにも。ただ『魔理沙にイタズラしたくない?』って言っただけよ」
「さすがアリス、人形遣いだけあって"ドール"の扱いに長けているな」
「余裕かましている場合じゃないぞ霧雨魔理沙。今何個お菓子持ってる!?」
「そんなに焦らなくても大丈夫だ、最初から数は減らしてないから四個だ。今この場にパチュリーと小悪魔が出てきても耐えられるぜ」
ここまで魔理沙は妖精メイドとも会うことなく被弾ゼロで来ていた。
もっともレミリアの根回しでそうなっていただけなのだが。
「うああ、だ、だめだ」
レミリアは顔面蒼白な様子でうろたえる。
「おい、しっかりしろ! 小学校低学年レベルの引き算だぞ?」
何も難しいことはない。
『まりさちゃんはアメを4こもっています。そこへありすちゃんとふらんちゃんがきたので、1こずつあげました。さてまりさちゃんはあといくつアメをもっているのでしょうか』
4-2=2、答えはどう考えても0以下にはならない。
それに美鈴からも咲夜からも魔理沙はすでに宣言は受けている、これ以上何があるというのか。
「ねえ、魔理沙、私がさっき笑った理由教えてあげる」
妖しく言ったのが効いたのか、魔理沙はごくりと唾を飲んだ。
「それはね……イタズラ権限がチームに貰えるなら仲間割れをする心配がないってことを知ったからなの。どっちが最後に宣言してもいいからね。いくわよ、お願いフランドール!」
「まかせて!」
戦操『フランドールズウォー』
アリスの掛け声に合わせてフランドールが飛び出す、左手にはスペルカード、フランドールの絵が4つ書かれている。
「フォーオブアカインドからの……」
「「「「トリックオアトリート!!!!」」」」
四人に分身したフランドールが綺麗に声を揃えて宣言する。
「おいおいまてまて! レミリアあれいいのか!? フランドールからの宣言は1回までだろ!」
「あのスペルカードは全部フランであってフランではない、ルール適応外よ……」
諦めの表情でレミリアが言う。
屁理屈を言ってくるのではないかと考えていたが意外だ。
四回宣言なので魔理沙の飴玉は四個渡して……4-4=0、チェックメイトだ。
「まだだ、話に流されてうやむやにされるところだったが、あっちだってお菓子一個しかない。二人で先に宣言すればまだ勝てる!」
「そ、そうだったわね」
レミリアの表情に活力が戻っていく。
「くらえ、せーの」「「トリックオアトリート!!」」
宣言を受けた私は魔理沙とレミリアにお菓子を投げる。
「え、なんで?」
「そもそもなんであなた達は私が持ってるお菓子を残り一個だと思ったの?」
「それは、レミリアなんで!?」
「なんでってこっちが聞きたいわよ、確かに私はアリスの手元にあった四個のお菓子の運命を視た。パチェ、小悪魔、フランに一個ずつ渡って、最後に私。ここで宣言する予定だった私を除けば一個になるはず」
「なるほどそういうこと。でも途中で個数が変わってしまったら?」
「まさかお前」
「この館には厨房があるものね、しかも主とその妹さんはそれはもう大変なデザート好きなものだからお菓子作りの材料には困らなかったわ。もちろんフランドールの許可を得て厨房と食材は使わせてもらったわ。確か自分でお菓子を用意するのは問題なかったわよね」
「そ、そんなのありかよー」
魔理沙は脱力するしかなかった、自分が宣言してしまった以上もう勝ちはない。
「魔理沙、あなたは私から目を離すべきではなかったのよ」
最初のように互いが見える位置で牽制しあっていれば、私はフランドールと組む事もお菓子を作ることも出来なかったのだ。
「そういうわけでトリック・オア・トリート?」
「ああ、ないよ、負けだ、お手柔らかに頼むぜ」
魔理沙は両手を挙げて降参のポーズを取りながら言った。
今日一番魔理沙に言わせたかった台詞、これでようやく去年のリベンジを果たすことが出来た。
「こりゃしてやられたね、これだから幻想郷は楽しくて好きだよ」
楽しかったよと手をひらひらさせながら歩くレミリア
「どこに行くの?」
「へ?」
「あなたもよ、チームにイタズラ権限が与えられるなら当然負けた側もよね」
「お姉さまにもイタズラできるの? やった!」
「そこ、嬉しそうにしない! えーっと、私もそっちの紅魔組に入ろうかなーって」
「認めません!」
「ぎゃー」
アリスとフランドールのイタズラは朝日が昇るまで続けられたという。
しかし、アリスはパチュリーと小悪魔に宣言しておけば補給はできたんじゃない? とは思った。同じ人に二回宣言できないだけみたいだし。
まぁ、みんな楽しそうで何よりだ!
>>4様
補給の件について暗黙的に進めてしまっており、説明が不足していたため修正いたしました。
ご指摘ありがとうございました。
みんな楽しそうでなにより