※ この作品は、拙作春はあ○○○~恋色の春~と繋がってたりします。刺激がかなり強いので苦い物か辛い物を服用してからどうぞ。
それは、ある夏の始めの幻想郷の事。
夜と言うのに、昼間の太陽の余韻がまだ部屋の中に残っている。夕飯を食べ終わった私とアリスは、人形達に家事を任せてのんびりとくつろいでいた。
八卦炉をポケットから取り出して、魔法をそっとかけると冷気が放出され部屋の温度が下がって行くのが肌で感じ取れた。冷たい心地良い風に当たっていると、アリスがそっと私の方に擦り寄って来て。
「わっ、暑くないか?アリス。」
「ううん。そんな事無いよ。魔理沙のあったかさは年中変わらず心地いいもの。」
「とか言って、ホントはこの冷気が目当てなんじゃないか?」
「半分は正解、半分は外れ、魔理沙もまだまだね。」
「はいはい、じゃあアリスにもお裾分けするんだぜ。
そっとアリスの方に程良く冷たい魔法の冷気を当てると、とっても心地良さそうな表情のまま、更に寄り添ってくる。ひっつくとこの時期は暑いんだけど、アリスの温もりは年中変わらず心地良いのも事実。
だが、悲しきかな私を暑くするのはアリスの温もりだけじゃあない。日中の残暑もしかりである。再び暑さを覚えた私は、八卦炉を自分の方に向けて冷気の出力を上げようとしたら・・・
「あ、ダメ。もう少しだけ冷やして頂戴。」
「こ、コラ!この八卦炉はわ、私のだぜっ!」
思いっきり寄りかかり、冷気を噴出する八卦炉を自分の方向に向けようとするアリス。その際に憧れている胸などが背中に当たり、その心地良い柔らかな感触だけで危うく取り落としそうになったりするが落とす訳には行かない。そこは手癖の悪さを最大限に生かして奪われないように上手に捌いてゆく。
「お願い、魔理沙・・・もう少しだけ。」
「私が当たってからなんだぜ、っと!」
八卦炉を綺麗にお手玉してからの胸元にホールインワン、無い胸もこんな時には役に立つ。胸元に収まった八卦炉から冷たい風が吹き出し、汗ばんでいた個所に程良く当たる。これは大変涼しく、この暑い世界に突如として出現したオアシスのような極楽さをもたらす事に気が付いた私はそのまま蹲ってガードの姿勢に入った。
「やるわね・・・流石は魔理沙。」
「へへ。こうしてしまえばアリスも手が出せないだろー」
冷たい風を満喫した上にアリスを出し抜いた事により、頬が自然と緩んでくる。ふかふかのソファーの上でごろごろしながら、アリスにじゃれつかれて過ごす究極にして至高の刻。
だが、それで気分が大きくなってしまったのは大きな失敗であった。この暑さがアリスを大胆にしていた事までちゃんと予測しておくべきだったのだ。
「直接どうこうは出来ないけど、やり方はあるわよー」
アリスが動いた時には既に遅く、私の弱点であるお腹の横をくすぐられてしまったのだ。
「うひゃあ!あ、アリス・・・そこはぁ・・・・・・」
「私に当ててくれないと止めないわよ?あ、でも魔理沙、ひんやりしてるわね。」
「や、やめてっ・・・魔法が切れるからっ。」
容赦なくアリスのくすぐり攻撃は続く。まぁ、生きて来て様々な回避困難な攻撃をくぐり抜けて来た身としては、このアリスの攻撃を何とかしたかったが、完全に覆いかぶさる格好でくすられているのでどうにも出来そうに無い。
暫くは耐えていたが、くすぐられて集中が切れてしまって魔法が解けてしまった。くすぐったさで口を動かすのが大変だったけど、何とか声を絞り出す。
「あっ、魔法が・・・切れた。」
「あら。そんなに早く切れちゃうのか・・・仕方ないわね、っと。」
息を荒くし、涙目の私にウインクを返してからアリスは手を止めてくれた。くっついていた加減で暖まってしまった私とアリスは頬に大粒の汗をいくつも流していた。冷気で冷やされた胸元の部分と、ジメジメとした家の空気との温度差を感じた私は八卦炉を胸元から取り出してより強力な冷気の魔法を詠唱した。
噴出する冷気は、ジワリと暖まった身体に吸い込まれてゆきその度に身震いを起こす。
「全く・・・こっちまで暑くなったら本末転倒だぜ。」
「それもそうね。暑さでどうかしちゃってたわ。」
体感温度が徐々に下がって行き、ほんのりと朱に染まったアリスの頬が少しずつ元に戻って行くのを見て、今度は奪われないだろうとちょっと一安心。
それでも、鬱陶しい暑さであるのには変わりは無く、寧ろ暴れた影響でカラダの芯が暖まってしまった私達の熱は中々冷えそうに無い。
静かな音を立てて冷気を噴出する八卦炉をぼんやりと眺めていると、アリスが。
「暑い時は、脱げばいいんじゃないかしら?」
見事に空間を凍りつかせた、いや、マジで。まぁ、お風呂とか一緒に入ってるし、それ以上の事も・・・って春に続いて何を言わせるんだ!
とにかく、普段は控えめなアリスがこうもはっちゃけた事を言うのは珍しい、私は困惑しながら。
「何を言ってるんだ?アリス、遂に暑さで自慢のブレインがやられたのかー」
「いいえ。大丈夫よ、暑くて冷房が期待できない時に体感温度を下げるに服を脱ぐのが一番有効な手段よ。」
「そ、そうは言うがな・・・いきなり脱げっていうのは、そのぉ・・・」
頬を掻きながら私はアリスから視線を背けて窓を見る。空気を読まずにチリンと鳴った風鈴の音も、涼しさでは無くドキドキを加速させるための合図に過ぎない。
そして、何と言っても熱いのには変わりは無く、脱ぐという魅力的な提案を受け入れてしまいそうな自分が居るのだけれど、やっぱり服を脱ぐ所と言うとお風呂場か寝室か・・・居間でそんな事はやっぱり恥ずかしい。
―仕方ないじゃない、だって私だって乙女だもの。
「脱ぎなさいよー」
「誰が脱げだ、お前が脱げよ、このや・・・」
しゅるりと言う音を立ててお気に入りのケープが落ち、いつもの青い服のボタンに手をかけるアリス。その一挙一動に、私は魂まで持って行かれそうな位に引き込まれてしまった。パサッ、と音がして青い服が落ちると、そこには愛らしいピンクのキャミソール姿のアリスが居た。
「ふぅ、良い風。」
ほんのりと朱に染まった肌、微かに光る汗、扇情的で魅力的なアリスのその佇まいは本当に美しい。暫く呆けたままアリスを眺めていた私であったが、アリスがタオルで汗を拭き終わった所で。
「楽よ、魔理沙。魔理沙も脱いだら?」
「うう・・・でもぉ・・・・・」
「いつもの魔理沙なら、恥ずかしがるんじゃないぜって言うじゃない?」
「・・・分かった、脱ぐから笑うんじゃないぞ。」
「笑う訳無いでしょ、そんな事気にする仲じゃないでしょー」
その言葉に被りを振った私は、エプロンドレスのエプロンを外し、上着のボタンを一つ一つ外してからそっと上着を脱ぎ、下に着ている半袖カッターシャツのボタンを外す。全て外し終わった所でそっと、私は服から袖を抜いた。籠っていた熱気から解放された上半身が八卦炉が放出する冷気に当たって心地良かったが、ずっとドキドキが止まらない。
「成程、そう言う事か。」
「だから止めてくれって・・・言ったんだぜ。」
余りの熱さに耐えかねてキャミを着て居ないのが仇となった。アリスの前に晒されたのは、上半身、申し訳程度に膨らんだ胸を覆うブラのみのあられも無い私である。心臓が爆発しそうな位ドキドキが加速していく。腕で胸を護るようにしていると、アリスはそれによって出来た僅かな谷間を見ながら。
「それでも、春よりは大きくなってるわよ?」
「そうかな・・・でも、アリスのにはまだ遠く及ばないんだぜ。」
その言葉を受けてもっと寄せて見たりするけど、ちょっとだけボリュームがあるようでない胸を見ると落胆の溜息が漏れる。まぁ、アリスのたゆまぬ尽力のおかげで春よりは少し大きくなって・・・って言うのは企業秘密だ!
アリスの視線が気にはなったが全身が冷やされるのを待って、私はそっと魔導書を手にとって読み始めた。
タイトルは、冷気の魔法について。今以上の冷却効率を得なくては、この夏の暑さで死んでしまいそうな予感がする。今までに得た知識を総動員して、解読の難しい魔法言語の解読を急ぐ私にアリスが正確なサポートをしてくれる。
ホントは自分で解読するのも楽しみなんだけど、こうやって二人で分からない事を分かるようにしていくのも楽しい事だ。
「ここ、こうしたらもっと冷たくなるんじゃない?」
「あー、そうしたら魔法のコントロールが難しくなって、ちょっと加減を間違えるだけで私が凍死する恐れがあるんだぜ。」
「真夏に凍死なんて冗談じゃないわね・・・ごめん、魔理沙。」
「いやぁ、良いんだぜ。あ、でもこれでちょっと方向性が見えて来たぞ。」
凍死する程の冷気を噴射する・・・まぁ、実用レベルの威力を出す事が出来ているコールドインフェルノをより強化すれば可能ではあるが、それも恐ろしい話である。暑さを凌ぐのに、涼しいを通り越して凍死したとあっては死んでも死にきれない。
申し訳なさそうにしているアリスに頬笑みを返して、思い付いた事を胸に忍ばせていた防水の魔法が施したお手製秘密の魔法書・・・とは名ばかりの小さなメモに記す。これは、スカートのポケットだと落下による紛失の危険性があるが、ここなら余程の事が無い限りは盗まれる心配は無い。
「な、何だよ・・・」
「それ、パチュリーのとこで読んだ小説みたいね。女の子は引き出しをいくつも持ってるってあれ。」
「うう・・・そこまでのサイズが無いからなぁ。こんなのしか入れる事ができないんだぜ。アリスならもっと入れられるんじゃないか?」
「うーん、それは私の専門外ね。咲夜当たりにでも聞いてみたら?」
「まだ死にたくは無いぜ。」
「大丈夫、死にそうになったら助けるから。」
「その一歩手前で助けてくれよなー」
笑ってアリスに応えた私は、大切なポイントを要約したメモを再び胸にしまってから魔導書の解読を再開した。覗きこんでくるアリスの色んな所が当たる度に、心地良い温もりが全身に広がり心地良い冷たさがそれを包みこんでいくような感じがする。春先から気温は上がってしまったけど、春の時と変わらぬアリスの温もりに安心感を感じながら私もそれとなく身を寄せる。
「ん、どうしたの魔理沙?」
「当ててんだぜ。」
「じゃ、お返しするわね。」
最初は肩同士から、素肌が擦れ合うのはちょっとくすぐったい。手が回ってきて、頬や胸が肩に当たると冷やされた肌に、アリスの温もりがジワリと染みて行く。トクン、と跳ねた心臓は夏の陽気とアリスの温もりで加熱し、スピードを上げて、愛情を膨らませて行く。
「暑くない?魔理沙。」
「ううん、すごく温かい・・・アリスは?」
「温かいよ、魔理沙。でも、もっと温めて欲しいかも。」
「お安い御用だぜ。」
もらった愛情を膨らませた私はそっと、姿勢を変えてアリスに向きあうような格好を取りぎゅっと抱きしめる。触れ合う胸から伝わる鼓動と温もりがじわじわと包む夏の陽気から私達をどんどん遠ざけて行く。温もりが一つとなって生みだされるのは、私達だけの恋色の世界。
八卦炉の魔法が切れても、二人だけの世界は心地良い温もりに満たされている。触れ合う頬を伝うのは汗か、涙が、早鐘のように響く心臓の鼓動の音はそれを教えてくれない。
だが、どちらか分からなくとも頬を伝う物も私達の愛の証。
少し離れるとお互いのスカート目がけて落ちて行く愛の証が爆ぜるのが見えた。重なる熱い吐息、絡み合う視線。再び迫るアリスに私は、そっと提案を持ちかける。
「そ、その前にお風呂が良いぜ・・・」
そう言って、指を口先に当ててアリスを制止。いつもと立場が変わるのも、夏の陽気のせいなのかもしれない。わかった、という言葉の後にちゅ、と振れた唇の暑さは今感じている暑さなんかとは比較にならない位熱い。そのまま微笑んでお風呂場の方へ優雅な足取りで進んでくアリスの後ろ姿を見ていると、今だ全身に残る彼女の温もりがじめっとした暑さに上書きされていくようでとっても寂しい。
寂しさを紛らわすかのように熱を全身で受け止めてぼんやりとしていると、お風呂場を覗きにいったアリスが声を上げた。
「ゴメン、お風呂沸かすの忘れてた!うっかりしてたわ・・・」
「おお、アリスにしては非常に珍しい。今から入れるとなると後・・・」
「30分はかかるわね・・・」
「うわぁ・・・その間この熱気と格闘せにゃならんのかー」
「私とした事がうっかりしていたわ・・・魔理沙。とりあえず拭いてあげるから万歳して?」
「おお、ばんざーい。」
慣れと言うのは恐ろしいものである、熱気で羞恥心が飛んだのもあり反射的に万歳をする。甲斐甲斐しくアリスが愛の余韻が今だ残る上半身の汗を拭いてくれるのが心地良い。その傍らで、冷気の魔法が切れた八卦炉を回収して仕舞い、少し温くなった麦茶を飲んだ所である事を閃いた。
冷たい空気よりも効果的に涼しくなり、なおかつアリスとくっついていられる方法をだ。
思い付いたら即、行動。私はお風呂を指差しながら思い付いた事を進言してみる。
「そうだアリス、お湯だと余計に茹だっちゃうんだぜ、ここは水風呂と言うのも良いと思うんだが。」
「あ、それは名案ね。今度は手ぬかりなく準備するわ。」
「それと、もう一枚タオルを頼めるか?アリスも拭かなきゃ汗でベトベトになるぜ。」
「まぁ、ありがとう。気配りのパターンも豊富になってきたわね。」
「胸程じゃないけどなー」
上海をお風呂場の方に飛ばすと、水の落ちる音がし始めギィ、とドアの閉まる音がする。水の落ちる音はそれを境に殆ど聞こえなくなり、再び静かな時間が流れ始める。横に座ったアリスと目が合い、自然とどちらからともなく寄り添った。
「暑くないか?」
「ど、どうせすぐ水風呂で冷ますんだし・・・だから今はー」
「わかった、アリス・・・水が入るまで、ね。」
笑い合ってまた抱き合って目を閉じた私は、そっとアリスの胸に顔を預ける。じめじめとした熱さよりも心地良い温もりがより感じられて幸せな気持ちで満たされる。
その姿を見た上海がバカジャネーノとか叫びながら水が入った事を告げるまでの短い時間ではあったが、私達は確かに二人だけの世界で温もりを分かち合い言葉は無くとも愛を語り合う事が出来た。
―水風呂に入ろうと立ち上がった私達の手はしっかりと繋がれていた。
ミ☆
「それっ!今日も一番乗りだぜ!!」
「こら、魔理沙。心臓に負担がかかるわよ。もし何かあったらどうするつもり?」
「そん時はアリスの人工呼吸が受けられるだけだぜー」
んもう、と言うアリスにお構いなく私は湯船で大きく伸びをした。勿論、ちゃんとシャワーを浴び身体を清めてからの事であるのだが・・・
かけ湯ならぬかけ水をするアリスの姿を眺めながら心地良さを感じる冷たい水の心地良さに身を任せていると、夏の陽気で熱せられた身体の熱が疲れと共に水の中に融け込んでいくような感じがする。
「ああ、冷たくて気持ちが良いぜー」
「そりゃそーでしょ。一番湯・・・じゃなくて一番水だもんねぇ。」
「冷たいアリスは好きじゃないぜ。」
「どうせなら、一緒に入りたかったわ。」
バシャッ、と音を立てて桶の水がアリスの全身を滑る。陶磁器のようなお肌、そして無駄無くかつ魅力的なスタイル、そしてその整った顔立ち・・・全てが美しい。滑る肌の水滴が魔法の光を反射し、色とりどりの輝きがバスルームに舞った。
その姿に私はしばし見とれてしまった。見慣れている光景ではあるが、今日は水風呂で湯気が無い分鮮明にアリスの姿が見えるため、普段よりも余計に意識してしまう。
「どうしたの、魔理沙。ぼーっとして。」
「女神様に見とれてただけなんだぜ?」
「私は神様なんかじゃないわ、只の魔法使いよ。」
「私にとっての女神様である事には変わりは無いぜ。」
「っ・・・!」
ぷい、と後ろを向くアリス。恥じらう姿もやっぱり可愛い。水の中で伸びをしていたのを止めて、アリスの背中をそっと指でつつくと少しだけ顔がこっちを向いた。
「そろそろ女神様にも来ていただきたいんだぜ。冷たくて気持ちいいぜ。」
「うん・・・じゃ、エスコートしてくれると嬉しいな。」
「お安い御用だぜ。」
前を向いたアリスの手を取ると、アリスがゆっくりと浴槽に足を漬けた。ウインクを一つして合図を送るとじっくりと慣らすかのようにそろそろとアリスが湯船に降下していく。その間しっかりと手は繋いだままで、滑ったりしないようにアリスを護りながら入浴・・・と言うよりは入水するのをエスコート。ちゃぷん、と言う音と共に水が波紋を広がっていく向こうには、愛しの人の澄まし顔があった。
「ん・・・冷たくて気持ちいいわー」
大きく伸びをして足を伸ばすアリス。二人が入るスペースは十分にあるけど、足と足が触れ合う瞬間がとってもくすぐったい。くすぐっささにぶるりと身震いをすると、心配そうにアリスが覗きこんでくる。
「魔理沙、貴方・・・もしかして。」
「・・・いや、大丈夫だ。」
嫌な視線を感じたが、ちゃぷん、と水を鎖骨の辺りにかける私。まったく、この年になっても私がそんな粗相をすると思っているんだろうか・・・
それはさておき、冷たいが、寒くはならない程度の温度になっているこの水風呂。言われてみれば、身体の火照りが徐々に緩和されてきて確かに冷たさを感じるレベルまで身体は冷えて来ている。それでも唯一触れたアリスの足から伝わる温もり、手に残るアリスの温もりは心地良いのは変わらない。
優雅に寛ぐアリスの方へもっと足を寄せて見ると、アリスの温もりが冷えた身体を満たしていき、幸せな気持ちに包まれる。
「良いわね、こういうのも。火照った身体がどんどん冷やされて良い感じね。」
「ああ。この時期ならではの楽しみだぜ。これが冬場なら大惨事だぜ。」
「・・・二人で暖めあったら大丈夫かしら?」
「きっと大丈夫だと思うぜ。なんたって、私とアリスだしー」
そういって手を後ろに付いてそっとアリスに背中を向けてから彼女にもたれかかる。んもう、という一声のあとで手が腰の所に回されてそっと抱きしめられる。背中越しに感じるアリスの温もりは、この冷たい水の中にあっても全く変わる事は無いし、寧ろ冷たい所に居るからより一層強く感じられる。
「・・・お、これは大発見だぜ。」
「どうしたの、魔理沙?」
「普通のお風呂ならこうしてくっついてたらのぼせる危険性があるが、水風呂ならその危険性はない!」
「それは言えてるわ。水風呂だからこそ、ね。」
振り返って歯を見せて笑うと、うんうんと頷くアリスの姿が。きゅっと壊れ物を抱くかのように私に寄り添うアリスの温もりがますます強く感じられる。回りが冷やされているからこそ、その温もりを逃がさないように、そしてもっと温めるように身も心もしっかりとアリスの傍に寄り添う。
背中越しに触れる、柔らかな温もりは私の温もりと同調して熱を持つ。冷たい水が温くなりそうな勢いの愛の熱を私の全てで感じ取っていると、アリスが耳元で囁いた。
「魔理沙、ちょっといいかな?」
「ん、どうしたんだ、アリス。」
「このままだと私の背中が冷たいままだわ。」
「奇遇だな、私も前が冷たくて仕方なかったんだよ。」
少ない言葉で意図を察知した私達はお互いに立ち上がってポジションを変えた。私が先に湯船にもたれかかって、そこにアリスを迎え入れる格好だ。準備が出来た事を告げるとアリスはそろそろっと身体を落としてゆっくりと水に浸かる。十分な温もりを得た背中と湯船が接触したときに冷たさを覚えたけど、迎え入れたアリスの柔らかさとか温もりがそれを一気にかき消してくれて、ココロがキュンとする。
「魔理沙の温もりがね、普通のお風呂より強く感じられるわ。」
「おお!そうだな、素肌越しのアリスの体温がよーく分かる。しかも、のぼせる心配はないしー」
「・・・ええ、長い事こうして居られるわね。」
ギュッとアリスを抱きかかえ身体を密着させて、お互いの温もりを分け合おうとする私達。僅かに揺れる水面に映る私達の顔は熱いお風呂に浸かった訳でもないのにほんのりと朱に染まっている。共鳴する心臓の鼓動が微かに水面を揺らし始めた時、振り向いたアリスの熱い吐息と私の吐息が重なった。
「贅沢だよな、冷たくて心地良いのと、暖かくて心地良いのと両方いっぺんに堪能できるの、って。」
「そうね。それが魔理沙と共有できるのが、とっても素敵・・・」
そう言うアリスの唇にそっと唇を寄せる私。融けそうな位に熱い唇の触れ合いは、目眩すら起きそうな位である。ここまで高めて来た気持ち、ムードもあってかより強くアリスの気持ちとかを感じる事が出来、ココロの中がじーんと熱くなり、カラダ中が熱で満たされていった。二度、三度唇を重ねる度にその熱は全身を包みこみ、ふわふわとした感覚を呼び起こして行く。
―あったかい。
暑さや熱さとは全く異なるこの別種の心地良さ。この広い広い世界の中で愛し合う奇跡が産んだ、この世界では私達にしか作り出せない恋色の温もり。
唇を放した私達は自然と向かいあい、寄りかかってくるアリスをそっと受け止めた。
「あったかい・・・アリス。いや、寧ろ熱いな・・・」
「ええ。水風呂なのに、熱いわ・・・魔理沙となら。」
「ああ・・・アリス。夏の暑さよりも・・・アリスの熱で満たされたいんだぜ。」
「私もよ、魔理沙。魔理沙の熱で満たされたいな・・・」
とろんとした視線が合い、再び唇が重なる。擦れ合い、触れ合うカラダの温もりは熱に変わり、私達を包みこんで、愛が恋色の炎となって静かに揺らめく。
そして、お互いの熱がお互いをゆっくりとゆっくりと溶かして一つにしてゆく・・・
―魔法の森で奏でられる夏の虫のオーケストラの中、私達は最愛の人との愛を歌う
この幻想の世界でも私達にしか奏でられない恋色のメロディを・・・
融けあってまどろんでいた意識が戻った時、私は正面からアリスに抱きつかれていた。穏やかな表情で小さく熱い息を漏らすアリスの頬に少し水をかけてやると、くすぐったそうに目を開けた。
そして微笑むアリスに頬笑みを一つ返して伝えあう感謝の気持ち。
―ありがとう
その言葉でまた心が温もりに満たされてゆく。どこまでも温まるココロの心地良さはどんなものにも変えられない素敵な物だ。
素敵な物を共に紡いでいけるパートナーは、どんなお宝やマジックアイテムにも変えられない、私の最高の宝物。どんな金銀財宝よりも眩く、そして愛おしいアリスの笑顔がこっちを向いた、そして・・・手を伸ばして私の背中に回して来る。
「・・・魔理沙が温めてくれた、身体が冷えたら大変だからね。」
「でも、水風呂もこのままだと沸いちゃいそうだな。」
「いいじゃない。私達の温もりで満たされてるんだもの。」
寄りかかって来たのに合わせて私はそっとアリスを受け入れる。そしてそのまま無言で、私達は再び体温を分かち合う。
「愛してる、魔理沙。」
「ええ・・・私も、アリス。」
お互いの全てが、再び愛の温もりに満たされるまで・・・
それは、身も心も温まる愛で満たされた私達のたった一度しかない人生と言う名の物語の大切な記憶…
―夏は暑い夜。アリスの傍だとなおさらの事。
ちょっと蒸し暑い部屋か、水風呂で愛を多く深めあうのが良いわ。
また、一つ二つ、ほのかな感情を込めた愛の囁きを交わすのも素敵だし
愛する人と温もりを満たし合ったりする事も・・・また素敵。
(魔理沙之草紙序段より、一部抜粋。)
いいよねマリアリ。
だからどんどん描いて行ってください。
この作者さんが書く甘いのは、ケーキにクリームハチミツ砂糖餡子その他甘いのぶちこんで
ケーキの形してるけど食べたら甘すぎて胃もたれするレベル
美味しい甘さじゃなくて「うっ…」ってなる甘さかなぁ
何回「愛」使ってるんだーみたいな
まぁ俺の好みの問題なんですけども。すみません…
水風呂が沸騰して蒸発したときいて