Coolier - 新生・東方創想話

空に二つ目の太陽 (6/6)

2012/07/16 19:12:18
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八月八日 昼前 紅魔館

「フランはまだ起きないかしら。」
咲夜の入れた紅茶を飲むのも随分久しぶりな気がする。
もちろん実際にはそんな事は無いのだが余りにも密度の濃い昨夜の出来事かそう錯覚させるのだ。
「先ほどお食事をお部屋にお届けした時にはまだ眠ってらしたようです。 」
「翼は、どうだった?」
「まだそのままでしたね。」
フランは久しぶりに力を使い果たして死んだように眠っていた。
そうして力を貯め、完全に体の修復が終わる頃には元通りの翼に生え変わるはずなのだがなかなかその兆候がなくレミリアも少々心配になっているようだ。
「幽々子さんが仰っていた空さんを助けた誰か、お嬢様ですよね?」
「前に言ったかもしれないけど運命を変える力なんて誰でも持っているのよ、私はそれがほんの少し強いだけ。最終的に運命を変えられるかは本人の意思の強さ次第だしあの場には私よりもあの地獄鴉の運命転換を強く願っていた者が何人かいたはず、どちらかと言えば彼女達の功績ね。」
「でもお嬢様も大人になられましたね。今回の事でよくそう感じました。」
「お父様が言うには成長すればフランの暴走もなくなるみたいだから、その為には私がまずは当主として成長しないとね。」
「お父様ですか、どのようなお方だったのでしょう。」
「この私の父なんだから、偉大な吸血鬼だったわよ。とても強くて高潔で何よりも人を愛したロード、いつか気が向いたら話してあげる。」
「そうですか、では楽しみにしていますね。」
咲夜は空になったレミリアのカップにお代わりの紅茶を注ぐ。
「それはそうと咲夜、温泉ってどんな物なのかしら?」
「温泉、ですか?そうですね、野外にある大きなお風呂みたいな物です。それがどうかしましたか?」
「お風呂なら私も入れそうね、今夜地底の覚や地獄鴉も神社の温泉に集って宴会するみたいなんだけど貴方も来る?」
「それは楽しそうですね、是非お供させて頂きます。」

八月八日 昼前 八雲紫の館

「紫様、藍様気が付かれましたよ。」
橙の報告を聞いて藍の寝室に飛び込んできた紫。
「藍大丈夫なの?!どこか痛くない?!」
「え、はい。もう大丈夫ですよ、ご心配かけて申し訳ありません。」
「ほら、あれよ。そのね藍・・・ごめん。」
「やめてくださいよ、理由はどうあれ言い付けを破って紫様を探しに行ったせいなんですから。」
「それでもやっぱり今回ばかりは私も反省する事にしたわ、だから藍、何かして欲しい事とか欲しい物があれば何でも言いなさい。」
「そんな急に言われましても・・・あ、それならひとつだけ欲しい物があるのですが・・・」


八月八日 昼前 命蓮寺

「これなら思いの外早く再建できそうですね。」
手際よく進められる工事を見ながら村紗が嬉しそうに白蓮と話している。
見るも無惨な姿になってしまった聖輦船、再び命蓮寺として再建するには相当な時間を要すると思われていた。
しかしその日の昼前には粗末ながらも仮本堂が使える状態にまで出来上がり他の工事も急ピッチで進められている。
あちこちへ飛び散ってしまった破片を天狗達が集め河童が修復する、すべて神奈子の指示である。
本来なら元の命蓮寺のように神奈子が神力をもって再建するつもりだったのだが、一ヶ月の間不眠不休で戦い続け残っていた神力も空に預けてしまった神奈子は自分で考えている以上に消耗していてとても命蓮寺再建などできる状態ではなかったのだ。
そこで自分を信仰する山の妖怪を結集させて再建に当たらせる事にしたのである。
「住職、山門の工事はほぼ終了したのだが少々問題があるのだ。」
白蓮の所にやってきたのは破片探しに駆り出され今は山門修復の監督を任されているナズーリンだった。
「問題とはなんでしょう?」
「河童達が変に張り切ってしまってね、侵入者防止装置とやらを作ろうとしているんだよ。勝手に敷地に入ろうとすればレーザー光線とやらで攻撃する物らしいのだが。」
「それはいけませんね、寺院の門はいつ誰が救いを求めてきてもいいように解放されていなければいけませんから、やめさせて来て下さい。」
「やはりそうか、わかったすぐにやめさせよう。」
「姐さん、実は本堂の方もそんな感じでなのですが・・・」
今度は本堂の監督を任されている一輪がやってきた。
「本堂にも物騒な物を作ろうとしているのですか?」
「いえ、そうではないのですがせり上がり装置を作ろうとしているんですよ、姐さんが説法の時に使えば盛り上がるんだとか。本堂は厳粛な修行の場ですしやはりやめさせましょうか?」
白蓮は少し考え込んでから答えた。
「いえ、それはそのまま作って貰えばいいですよ、手伝っていただいているのにそう無下にするわけにはいきませんし。(読経ライブで使えば盛り上がりそうですしね♪)」
「親方しっかり!」
「大丈夫かい親方?!」
白蓮はせり台で颯爽と登場して読経を始める自分の姿を夢想していたが、河童の職人達の大声で打ち切られてしまった。
どうもただ事ではなさそうな気配に白蓮が走る。
「親方さん、どうかなさいましたか?」
親方はまだ目を白黒させていたが大事ではなかったようだ。
「いや住職さん驚かせてすまないね。ちょいと慌てて水飲んだら咽せちまってよ、なんだか水がえらく粘っこいような感じでさ、どうやら昨夜酒飲みすぎたみてえだわ。まだ酔いがさめてねぇらしい。」
「親方、それ俺もさっき思ったんだよ。しかも水の方から勝手に鼻やら肺に入ってくるし溺れ死ぬかと思ったわ。」
「おいおい気ぃつけな、河童が陸で水筒の水で溺れたなんて笑い話のネタにもなりゃしねえよ。」
「あ、なるほど。皆さんお疲れもあるでしょうし無理はなさらないでくださいね。(村紗、後で見つけたら説教八時間コースですね・・・)」


「にとり!ちょっといいかい?」
「ん?どうしたの?」
全体の進捗を任されているにとりはあちこち見て回っていたが河童の仲間に呼び止められて足を止めた。
「宿坊と客殿の造成を始めようとしてるんだけどさ、重機の数が合わないんだよ。」
「数が合わないってどういう事?盗まれたの?」
「逆よ逆、一台増えてるのよ。皆に聞いても知らないみたいだし。」
「ふーん、どれどれ。」
まだ作業を始めたばかりの重機が七台、にとりはまっすぐそのうちの一台に向かって歩き出した。
「増えたのってこれだよね?確かに見たことの無い型だねぇ。」
運転席を覗き込んでみるが特に不審な所は無いようだ。
「操作系はうちで使ってるのと同じみたいだ、やっぱり誰かが持ってきたんじゃないの?そもそもこれ使えるの?」
「試しに使ってみたけどすごく調子いいよ、ここにある中で一番調子がいいくらい。」
にとりは思い出した、そう言えば命蓮寺には正体不明で色々なモノに姿を変える妖怪がいるらしい。
「そう言えばさ、この寺にはどんなモノにでも化ける妖怪がいるらしいよ、鵺とか言う名前だったか、ひょっとしたらこれがそうじゃないのかな?」
冗談を言いながらふざけて外装をバンバンと叩くにとり。
疑惑の重機が一瞬震えたような気がして改めてまじまじと見直すがやはり普通の機械に見える。
「まぁ、使えるなら使っちゃおうよ。どうせ七台でもまだ足りないくらいなんだし。」
「そうだね、注意して使わせてもらうわ。」
「じゃあ私は少し出掛けるから後は頼むよ、張り切るのもいいけど山の宴会までには間に合うように切り上げてね。」


八月八日 昼過ぎ 妖怪の山秘密の洞窟

妖怪の山の洞窟に隠された秘密の穴、山に住む妖怪でもごく限られた者しかその存在を知らない。
にとりは重い足取りでその穴を歩いていた。
やがて前方に視界が開け、目的の場所に到達するとリュックから光学迷彩の外套を取り出して羽織る。
自分の姿が見えなくなったのを確認してから飛びたとうとするが思い出したように腰に着けた計測器の電源を入れて数字を確認する。
「(山の神様がくださったこれ、本当に役に立つのかね。)」
たまに電気部品の買い出しに来る街の風景そのものは普段と変わり無いようだった、しかしそこにいつもなら行きかう人間がほとんどいなかった。
その街を抜けて海を渡り別の街の上空に向かうにとりだが何か奇妙な違和感を覚えた。
「おかしいな、もう見えてこないといけないはずなのに。」
ポケットから地図とコンパスを取り出して確認すると違和感の正体はすぐにわかった。
「ここ、街が丸ごと海に変わってるんだ・・・これが核エネルギー兵器の力、ひどいもんだね。地形が完全に変わっちゃってる・・・」
辺りを見回してもそこに街があったとは考えられずひたすら長い海岸線が広がるだけだ。
目を凝らして地上をよく見るとそこはただの更地ではなく様々な物の残骸が積み重なっているようだった。
それを確認するために地上に近付くにとり、不意に腰に着けていた計測器がけたたましく鳴り響く。
「おっといけない、ここはまだ核エネルギーの毒が残っているようだ。」
にとりがまた上空に戻ると警報は止まった。
「外は想像してたより遥かにひどい状況、やっぱり神様の仰る通り見に来るべきじゃ無かったのかな・・・」
核エネルギーを兵器に転用してお互いに殺しあった外の世界の人間、あの怨霊玉を見る限りかなりの数の人間が犠牲になったはずだ。
そんな人間の姿がにとりには将来の自分達河童の姿にダブッて見え、空恐しい気分だった。
元の街に戻ったにとりは一番高いビルの天辺に座り以前と比べてまったく活気の無い地上をぼんやりと眺めている。
「このまま技術革新が進めば、私たちもいつかこうなるのかな。」
「それは無いと思いますよ、スペルカードはその為に存在するというのもありますからね。」
誰に向けた訳でもない独り言に返答されて焦るにとり。
「文も取材に来てたの?驚かさないでよ。」
「外の世界の事は管轄外ですよ、今の私を一言で言い表すならサボりです。」
そう言えば聖輦船の破片探しに集まった鴉天狗の中に文の姿は無かった、あの時からすでにこっちでサボッていたのだろうか。
「文はどう思う?この世界。」
「正直な意見を言わせて頂くとあまり興味が無いです、先程言ったように管轄外ですから、でもこれからよくなっていくとは思いますよ、少し偵察してきたのですが、幻想郷のスペルカードルールのような物を考えているようでした。」
「そうか、死んでしまった人間は可哀想だけど無駄ではなかったんだね。」
「外の人間にスペルは使えないしどんなルールになるのかは少し興味ありますね、それよりにとりさんそろそろ戻らないと宴会に間に合わなくなりますよ。」
「そうだね、ここにいても仕方ないし戻ろうか。」
元の穴を通って幻想郷に帰る途中もにとりは外の人間の事を考えていた。
「(信仰も失って神様にも愛想を尽かされた人間、なんとか自力で立ち直ってくれればいいんだけどね・・・)」


八月八日 昼過ぎ 温泉

「これが地上の温泉、地霊殿にも温泉はあるけど景色がいい分だけ気分も良いわね。」
さとりは温泉に浸かりながら上空を見上げた。
雲ひとつ無い十六夜の月明かりが地上を照らしている。
広い温泉にはたくさんの人間や妖怪が集まっていた。
博霊の巫女や魔法使いなど、さとりのよく知っている顔もいる。
更には空を助けてくれた幽霊姫と庭師やすきま妖怪とその式、さらにその式、吸血鬼やその従者、隅の方でずっと酒を飲み交わしている鬼二人、こんな人混みは慣れていないさとりはどうしても気後れしてしまう。
なんとか輪に入れないかと色々考えてはいるのだがどうしても話掛ける事ができないでいた。
「ほらレミリア、頭洗ってあげるからこっち来なさいよ。」
ずっと湯船に浸かったまま出ようとしないレミリアを霊夢が呼んでいる。
「頭くらい貴方にあらって貰わなくても大丈夫よ、自分の頭でも洗ってたらいいんじゃないの?」
レミリアは頑として湯船から出ようとしない。
レミリアの心を読んださとり、どうもレミリアは恥ずかしくて答えに困っているようだ、そしてこれは皆と仲良くなるチャンスだと思った。
「あの、霊夢さん。レミリアさんはシャンプーハットと言うものが無いと頭を洗えないんだそうですよ。」
もちろんさとりからしたらなんの裏も無く親切心で伝えたつもりだった、本人が恥ずかしくて言い出せない事を本人の代わりに。
「ちょ・・・!ちょっと!何勝手に人の心を読んでくれてるの?!」
レミリアが顔を真っ赤にして怒りだしたのでさとりはひどく驚いた。
「あ、ごめんなさい。教えてはいけなかったのでしょうか?」
「いけないに決まってるでしょ!」
レミリアはチラリと霊夢の方を見た、案の定霊夢はニヤニヤと笑っていた、魔理沙と紫まで一緒に。
「べ、別に悪い事じゃないでしょ。そこの黒猫だってまだ使ってるんじゃない?」
「あ、いや、橙はもうかなり前から使ってないんですよ。ごめんなさい。」
別に何も悪いことはしていないがとても申し訳なさそうな藍。
「しょうがないでしょ!そう、私は吸血鬼だから流水は苦手なのよ。」
「あら、でも妹様は去年くらいからお使いになっていませんけど・・・あっ!」
咲夜のまさに余計な一言だった。
「本当に吸血鬼は水が苦手だって理由だけなのかしら?」
紫に茶化されたレミリアは横目でさとりを睨む。
「覚めぇ・・・いつか覚えてなさいよ・・・!」
「そんなに恥ずかしがる事無いわよ~。うちの妖夢だってもっと大きくなるまで使ってたんだから。」
「な?!いきなり何を仰るんですか幽々子樣!」
思いがけず自分に飛び火した妖夢はレミリア以上に赤面して慌てる。
「ほんとに妖夢は甘えんぼさんだからね~。今でもたまにおね・・・」
「あーほら!幽々子様!あの月見てください!ものすごく綺麗ですよー!」


「藍、橙、そろそろ行きましょう。」
「あら、紫もう帰るの?」
霊夢が新しい酒瓶の封を開けながら残念そうな顔をした。
「ごめんなさい、ちょっとこれから野暮用があってね。」
「紫、二人ともまだ疲れが取れてないんだから程々にしなさいよ。」
やはりここでも幽々子は何でもお見通しなようだった。


八月八日 昼過ぎ 紅魔館

その頃紅魔館では昨夜から眠り続けていたフランが目を覚ましてもぞもぞと起き出していた。
目覚めたフランは真っ先に部屋の壁に掛けてある鏡を覗き込んだ。
そこにはよく見慣れた自分の羽が二枚映っていてホッとしたようなどこか残念なような気持ちになった。
ベッドに戻ると背中から抜け落ちた黒い羽が床に落ちていた。
その羽を拾い上げて見つめていると昨日の事を思い出す。
久しぶりに外の空気を吸って気分がよかったのもあるし、姉とあれだけ長い時間一緒にいたのも久しぶりな気がする。
「私も早くお父様やお姉様みたいにかっこいい吸血鬼になりたいな。」
独り言をいいながらベッドの下から木箱を引きずり出し、持っていた黒い羽を中にしまうとまたベッドの下に箱を隠す。
「あれ?そういえば私のお父様とお母様ってどうして紅魔館にいないんだろ?」
何気無しに考えたそれは実に奇妙な感覚だった。
偉大だった父や母、姉と暮らしていたのは覚えているのに父母と別れた部分の記憶だけはきれいさっぱりと抜け落ちているのだ。
思い出そうと記憶を辿る、父と相対する奇怪な姿の男。
もちろん人間でも吸血鬼でもなく幻想郷の妖怪ともまた違う。
思い出そうとすると頭の中のよくわからない何かが邪魔をする 。
頭の芯が熱に冒されたように熱く火照り視界が赤みがかる。
「いけない!お腹の下に力を入れて深呼吸・・・」
昔美鈴と出会ってすぐの頃に教えてもらったこのおまじないは実によく効く。
今までにも暴走しそうな時に何度かこれで助かったことがあるのだった。
「お父様とお母様の事はまた今度お姉様に聞いてみましょ、ふぁー・・・」
大きな欠伸をしながらフランはまた布団に潜り込んでそのまま眠りについてしまった。


八月八日 夕刻 妖怪の山

妖怪の山の山頂、拓けた高台には山に住む妖怪達が終結していた。
出店を出している河童もいる、もはや宴会と呼ぶ規模ではなくここに神奈子か諏訪子がいれば大祭と呼べるような大宴会だ。
広場の中央には篝火が焚かれ各々持ってきた魚や肉を好き勝手に焼いて食べたり、しかし一番人気があるのはやはり酒だった。
文はそんな宴会の様子をあちこちと見て回っている。
普通の新聞記者なら写真を撮って回るのだろうが彼女はゴシップやスキャンダルのように派手な記事しか興味が沸かないのだ。
「いやはやしかしよくもこれだけ集まったものです。これだけの数の妖怪が集まったら何か事件でも起こしてくれたら面白いんですがね。」
出店で買ったりんご飴を舐めながら広場を見渡すと、人の輪から少し離れた所に座って一人で酒を飲んでいる者を見つけ文は彼女の隣に座った。
「りんご飴食べますか?美味しいですよ。」
「いらないわよ。それあんた今舐め回してたじゃないの。」
「あやややや、貴方実は潔癖性ですか?確かにそれだから部屋から出ないのだと言われたら納得ですが。」
姫海棠はたて、文の商売敵であるがお互い記者としての手腕は高く評価している相手、はたてが滅多に外出しない為に顔を会わす機会は少ないが互いに不思議な親近感はあった。
「しかし貴方が来ているとは思いませんでしたよ、いつものように部屋で携帯電話と睨み合いしているとばかり。」
「私だってたまには外に出るわよ、こんな大宴会はまたいつやるかわからないし。」
「そうですね、普段はあまり意識しませんがこれだけの数の妖怪がこの山にいるのですか、団結力があるのはいい事ですが今回の事を考えると少々恐ろしいです。」
「恐ろしいって?何の事言ってんの?」
「結果的に山の神様は私達を謀(たばか)って裏で幻想郷を守っていたわけですが、私達天狗も河童もよくそんな神様に疑問を持たず信仰を捧げていたなと、普通に考えたらありえない事でしょう?」
「なんで?幻想郷を守る為に戦っている神様を信仰するのは当たり前じゃない。」
「それならそうですけどね、でもそんな事はわからなかったわけじゃないですか。それなのに上から指示があったから信仰しようって少し間違えば危険な集団になると思うのですよ。」
「ん・・・?ごめん、あんたの言ってる意味よくわかんないわ、いつも以上に。」
「そうですか?自分達の住んでいる世界を破壊すると言っている神様を信仰するという事のほうが理解しかねますが・・・」
「あー、そうか。あんた知らされてないんだっけ。」
はたては会話の噛み合わなさに合点がいったようで一人ケタケタと笑っている。
「知らされてないとはなんの事でしょう?」
「ほら、神様があの異変と戦ってた事、あんたは知らないと思うけど他の天狗はみんな知ってたわよ、河童も知ってたはずだけど。」
「ちょっと待ってください、それはどういう事なのでしょうか?何故皆さんはそれを知っていたのですか?」
「あんたが紅魔館に行ってる時にね、山でも非常召集があったのよ。その時に私達は天魔様から全部教えてもらったから。」
「え・・・いやいや、それはいいとしてそれなら何故私には誰も教えてくれなかったのですか?後で教えてくれても良かったじゃないですか。」
「大天狗様の御指示でね、あんたには秘密にしとけって。あんたは博霊の巫女と一緒に行くだろうし何より口が軽いからって。」
「そんな、大天狗様まで私の事をそのように思われているのですか・・・」
「発案したのは白狼天狗の子だけどね、なんだっけあんたがいつもケンカしてる子。」
「椛・・・ですね?」
「そうそう、あの子があんたに教えたら巫女や他の妖怪にまですぐ知れ渡るからって、結局大天狗様の判断であんたには教えないって決まったのよ。」
「そんな・・・私はジャーナリストとしての使命を果たしているだけなのにそんな風に思われていたのですか・・・」
文はがっくりと肩を落とす、ふと前方にモロキュウをつまみに仲間と酒を飲んでいるにとりを見つけて手招きした。
「にとりさん、ちょっと大事なお話があるので来てくれませんか?」
「へ?何?大事な話って。」
にとりは二人の前に向かい合うように座った。
大事な話と言うことで表情も真剣だ。
「今回のこの異変で守矢の神様が私達を謀って自分達だけ戦ってたじゃないですか、貴方はそれ知ってましたか?」
にとりはきょとんとした表情で文とはたての顔を交互に眺めた。
その顔は「今ごろ何を言っているの?」とでも言いたげだ。
「え?ひょっとして文は知らなかったの?山の妖怪はみんな知ってると思ってたけど。」
はたてはお腹を抱えて笑い転げている。
「あーもう、やっぱりたまには外に出るべきね、こんなに面白いことがあるんだから。」


八月八日 夕刻 守矢神社

守矢神社の裏手、過去に幻想郷で行われた御柱祭に使われた御柱が祀られている場所。
まだ数は少ないが御柱祭自体は外の世界よりもハイペース、言うなれば神奈子の気分次第で行われているのですぐに辺り一杯に御柱が立てられるようになるだろう。
その中の一番高い柱の上、一ヶ月前に神奈子と諏訪子が水杯を交わした場所にその二柱、あと一ヶ月前にはそこにいなかった巫女東風谷早苗がいた。
「さ、何はともあれ危機は去ったんだ。勝利を祝して乾杯しようよ。」
上機嫌で杯を掲げる諏訪子に対し神奈子はばつが悪そうに自分の目の前に置かれた湯飲みを覗き込む。
早苗はむすっとして一目で機嫌が悪いのだとわかる。
「ねぇ、早苗?今日はさ、ほら祝いの席だから今日だけ、ダメ?明日からちゃんとやるから。」
「ダメです、諏訪子様や他の皆さんが命懸けで戦っているときにご自分は紫さんと弾幕遊びだなんて守矢の主神として示しがつきません。神奈子様は今日から一ヶ月間ケジメの為に酒断ちして頂きます!」
「はあぁ、終わったら美味しい酒が飲めると思ってそれを楽しみにずっと頑張ってたのにねぇ。」
一番の楽しみを奪われて絶望から深い溜め息を漏らす神奈子。
「まぁまぁ、そのお茶だって里の人間が奉納してくれた最高級品なんだよ、ありがたく頂かないと。」
そういう諏訪子はニヤニヤと笑っている、明らかにこの状況を楽しんでいるようだ。
「私も長いこと軍神として生きて数えきれないほど戦にも出たけどこんなに空しい勝利の宴は初めてだよ・・・」
ぼやく神奈子の眼前で突然空気が揺らいだ。
気配を察知した神奈子と諏訪子に緊張感が走った。
神奈子にはもう見慣れたすきまが開いて中から現れたのはもちろん八雲紫である。
「楽しそうな所に申し訳ないんだけど、決着をつけに来たわよ。」
「思ったより早いけどいずれ来るとは思っていたわ。今なら心置きなくやれるわね。」
神奈子はゆっくりと立ち上がって腕を組み紫に挑発的な眼差しを向ける。
早苗は突然の乱入者にただオタオタしていた。
「そんなに焦らないで、まあ座りなさいよ。」
勝手にその場に座り込んだ紫が自分の隣に新しいすきまを開く。
「橙、本当に一人で大丈夫?私も手伝おうか?」
「大丈夫です、藍様はまだ怪我が治らないんだから休んでて下さい。」
「あーもう本当に橙はいい子だなぁ!」
すきまの奥から何か声が聞こえて紫はやや呆れたように口元をひきつらせる。
やがてピカピカなオレンジ色の猫車に大きな樽を乗せた橙がすきまから現れた。
「橙、そこに置いてくれるかしら。」
橙は樽をひょいと持ち上げると易々と床に置いた。
やはり見た目は幼くとも妖獣、容姿に似合わない力があるようだ。
「ありがとう、藍が心配するからもう戻りなさい。」
「は~い。」
橙は猫車を押してすきまの中に戻っていった。
紫が藍に何か欲しいものが無いかと聞いて藍が欲しがったのがこの猫車だった。紫は里で買ってきたと言っているが藍は当然のように信じてはいない、ともあれ藍も橙も気に入っているようだ。
樽の上には普通より一回り大きめな杯がいくつか重ねてあり紫はそのうちの一杯を樽酒で満たし神奈子に差し出した。
「今日の勝負はこれよ、どう?受けて立ってもらえるかしら?」
神奈子はあぐらをかいて座り直すと不敵に笑いながら差し出された杯を受け取った。
「ふふふ、この私に酒で勝負を挑むとは愚かしいにもほどがあ・・・」
「神奈子様! 」
神奈子は早苗の事を完全に忘れてしまっていた。
「あの、早苗。ほらせっかくお客さんに勧められたんだしさ。ダメ?」
早苗は呆れたように大きな溜め息をついた。
「仕方ないですね、じゃあ今回は許してあげます。でも次に何かあったら三ヶ月ですよ。」
「じゃあほら、貴方も。」
紫は早苗にも同じように並々と酒の注がれた杯を差し出した。
「あ、いや早苗はまだ傷に障るかもしれないからやめたほうがいいんじゃないかな・・・?ね、神奈子。」
「あ、あぁ、早苗は今日のところは控えたほうが・・・」
「何を仰るんですか。せっかくお客様が勧めてくださるのに口もつけないんじゃ失礼ですよ。」
早苗は口をつけるどころか大きめの杯一杯の酒を一気に飲み干した。
「み、見かけによらずなかなかやるもんね。」
紫は早苗の飲みっぷりにすっかり面食らったようだ。
「あ!」
諏訪子が突然大声をあげた。
「私もちょっと挨拶にいく所があるからこれで失礼するよ。」
「え?ダメですよ諏訪子様せっかくお客様がみえてるのに!」
早苗が呼び止めるのも聞かず諏訪子はその場から飛んでいってしまった。


八月八日 夕刻 永遠亭

例月祭、永遠亭で満月の夜に行われる祭である。
祭と言っても神事ではなく元々は月の使者から身を隠す為の行為だったのだが永夜異変以降は単なる宴会に変質してしまっていた。
そんな状態なので永琳も今回は開催を見送り次の満月にやればいいやと軽く考えていた。
しかし例月祭に配布される丸餅を楽しみにしている兎らの猛抗議に遭い仕方なく一日遅れで開催する事となったのだ。
今は兎達に餅を配り終えた鈴仙とてゐが後片付けに奔走している。
そして客間には三人、永琳、輝夜、そして普段はここにいないが永琳に招かれた妹紅が月見そばをすすっていた。
「どうよ?筍や笹が主食の貴方にはご馳走なんじゃないかしら。」
輝夜の冷やかしも意に介さぬとばかりに無言でそばをすする妹紅はあっという間につゆまですべて飲み干してしまった。
「うん、確かに美味しいな。母がよく作ってくれた蕎麦掻きを思い出す味だ。」
妹紅は貴族の生まれとはいえ恵まれた環境で育ったわけではない。
正室の子であればそれこそ宝物のように可愛がられたのかもしれないが妹紅はその立場にはなく、母と二人貧しい暮らしをしていたのだ。
「何よしんみりして、例月祭なんだからもっとパーッと明るくしなさいよね。」
「あ、あぁ、すまない。」
当然何か言い返してくると思っていた輝夜は妹紅が思いのほか素直だったので毒気を抜かれてしまったようだ。
輝夜と同じく永遠の命を得たた妹紅は長い年月を一人で生きてきた、常に永琳が傍に寄り添っていた輝夜との決定的な違いがそこにある。
その中で本人も知らずのうちに記憶の底に封印した普通の人間だった頃の記憶がこの家庭的な雰囲気を切っ掛けに甦ってきたのだろう。
妹紅は空になった器をじっと見つめている、その肩が小さく震えていた。
「紅妹?あんた泣いてるの?」
「バカな事を、そんなわけないだろう・・・」
「まぁどうでもいいんだけど。でも次の満月、また来たければ来てもいいわよ?仕方無いから歓迎してあげるわ。」
ずっと蕎麦をすするフリをしながら二人の様子を窺っていた永琳は二人には見えないように満足そうな笑みを浮かべていた。


「お師匠様、よろしいでしょうか。」
「いいわよ、何?」
部屋にやってきた鈴仙が永琳に何やら耳打ちする。
「わかったわ、じゃあ・・・診察室にお通しして。」
少し考えて鈴仙に指示を出した永琳。
「ごめんなさい、ちょっと来客があって外させてもらうけど。今夜は寛いでいってね、妹紅。」
診察室に来た永琳は薄暗い灯りを点けて棚からコップを二客だした。
そして机の引き出しの奥に隠している小さな酒瓶を取り出して机の上に置く。
そのうちに客人を伴った鈴仙がやってきた。
「いらっしゃい、今日は例月祭で屋敷は立て込んでるからこんな所で申し訳ないのだけど。鈴仙ありがとう、戻っていいわよ。」
鈴仙は客人に対して警戒しているようだったが素直に永琳の言葉に従った。
「まずはお礼を言わせて欲しい、早苗を助けてくれた事と私達の目論見に協力してくれた事、本当にありがとう。」
「気にしなくていいのよ、目の前に怪我人が居れば医者としては診るのが当たり前だし、異変の事も元々貴方達に協力するつもりでやったわけではないしね。」
諏訪子は帽子を取り深々と頭を下げた。
「貴方ほどの神格に頭を下げられるなんてなんだかおかしな気分だわ。」
永琳は先程用意したコップに酒を注いで諏訪子に差し出した。
「どうぞ座って、大したものは用意できないけどこれは月の酒よ。と言っても私達ももう月には戻れないから月の製法で作った地上の酒なんだけど。」
諏訪子は患者用の丸椅子に腰かけて受け取ったコップの中身に口をつけた。
「確かに美味しいね、しかも今までに飲んだことの無い不思議な味だ。」
「それにしても早苗さん、本来ならまだ入院してて欲しいくらいなんだけど。さすが現人神というところかしら。」
「そりゃあ早苗は私の自慢の子孫だからね。」
諏訪子は自分が褒められたかのようにニターッと嬉しそうに笑った。
「だったらもう少し労ってあげたら?相当悩んでたみたいよ彼女。」
「ダメなんだよそれじゃ。確かにここは信仰を集めるにはいい世界だけど外みたいにちょっとした奇跡くらいじゃ通用しない。早苗にはもっと成長して貰わないと。」
「貴方達って只の仲良し家族という訳ではないのね、少し見直したわ。」
「仲良しだけじゃやっていけないからね、特にこの世界はさ。それじゃ私はそろそろお暇させて頂く事にするよ。」
「あら、もう帰るの?これ持っていく?」
永琳がまだ半分ほど中身の残った酒瓶を諏訪子に差し出す。
「いや、いいよ。また改めて早苗も連れてくるから。」
「そんなに気を使わなくていいのに。見かけによらず律儀なのねえ。」
「神様やるのって適当に見えて実はそんなもんなんだよ、それじゃお酒美味しかったよ、ありがとう。」
諏訪子はもう一度頭を下げて帰って行った。
「本当につかみどころがないわね、敵に回らなくてよかったわ。」
永琳は残った酒瓶をまた引き出しの奥に隠すと明かりを消して客間に戻って行った。


八月八日 黄昏時 守矢神社

守矢神社の裏手、御柱の墓場などと呼ばれている場所。
諏訪子が帰ってくると一人でちびちびと酒を飲む神奈子にすやすやと寝息を立てている早苗がいた。
「諏訪子、あんた自分だけ逃げたね?」
「あはははは、あの状況であの場に残るほうがおかしいよ。すきま妖怪はどうしたの?」
「少し前にげっそりした顔で帰って行ったわよ、幻想郷の管理者を自称するくせに私と遊んでるとは何事かって早苗に散々扱き下ろされてね。」
神奈子はその時の事を思い出して一人クスクスと笑っている。
「じゃあ私もちょっと飲みなおそうかね。」
神奈子の対面に座った諏訪子が差し出された杯を受け取って辺りを見渡す。
山頂に建てられた神社のさらに高い位置にあるここからは山の様子が一望できる守矢神社の関係者しか知らない展望スポットである。
「おー、妖怪のところまだ篝火がついてるよ。元気だねぇ。ん?ちょっと神奈子。あれ!」
神奈子は諏訪子の指差すほうに目を凝らす。
「ほら神奈子見えない?あれ御神渡りじゃない?」
諏訪子が指差している大きな池の水面、確かに御神渡りのような氷の盛り上がりが見える。
「バカね、御神渡りって今何月だと思ってるのよ。どうせそこら辺に住んでる氷精の悪戯でしょ。」
「いいじゃん、氷精の悪戯で現れる御神渡り。いかにも幻想郷らしくてさ。」
「それもそうね、じゃあ明日明後日は祭にしましょう。日が昇ったら朝一から山中に触れ回るわよ。」
「祭やるのはいいけどさ、蛙狩神事だけは絶対許さないよ?」
「何言ってるのよ。蛙狩神事がなかったら盛り上がらないでしょ?」
「あれで盛り上がってるの神奈子だけじゃん!もうさ、ずっとここで暮らすなら蛙と蛇とかそんなのいらなくない?そうすればそのダサい注連縄もいらなくなるよ。」
諏訪子のダサい注連縄発言に神奈子の顔が一瞬引きつった。
「あんたねぇ、そりゃ私もエネルギー革命とか色々やってるけど何でもかんでも古いものを無くせばいいってもんじゃないのよ。」
「だいたいさぁ今どき生きた動物を生贄にするとかナンセンスなのよ。埴輪とかでいいじゃん、合理的にいこうよ。」
「あんたは神のくせに神事の重要性がわかってないの!そんなだから私にコロッと負けたのよ!」
「おー言ってくれるねぇ。あの時は油断してたし力も薄くなってただけよ、今だったら神奈子なんて軽く捻ってやれるけど?」
「そう、それなら試してみる・・・?」
「そうね、せっかくこの世界には揉め事は弾幕で解決するってルールがあるんだし。私が勝ったら明日の蛙狩神事は蛙のオモチャを使うって事でいいよね?」
完全に戦闘モードに入った二人は朝日が差し始めた空を戦いの場に選び飛び立っていった。


八月九日 朝方 博麗神社

「まったく・・・レミリアはしょうがないとして他の連中はちゃんと片付け手伝っていくべきよね。」
すでに朝日が半分ほど顔を出した博麗神社。
温泉から神社の境内に場を移して続けられていた宴がついさきほど幕引きとなり、ぶつぶつと文句を言う霊夢とさとりが二人で宴の後片付けをしていた。
「ごめんなさい、おくうとお燐も手伝わせたかったんですけど地底の仕事が溜まってしまっているので・・・」
「ああ、仕事があるなら仕方ないのよ。でも鬼は地底で飲みなおすって二人してさっさと帰っちゃうし幽々子だってどうせ仕事なんかしてないんだから手伝うのが当然だと思うのよ。」
「仕方ないですね、私も手伝いますのでさっさと済ませてしまいましょう。」
霊夢は掃除の手を止めて、てきぱきと食べ残しや飲み残しをゴミ袋にまとめているさとりに目をやった。
「こいつ思ったよりもいいやつだったわ。ですか、ありがとうございます。」
片付けの手を止めずにさとりが霊夢の心を読む。
「だからそうやって勝手に人の心を読まなきゃほんとにいいやつなのにね。」
「仕方ないんですよ、私も色々悩みましけどこれは覚のアイデンティティですから。今回色々な方と関わって妖怪も人間も神も自分らしく生きるのが一番だと改めて思いました。」
「そんなもんかしらね、妖怪って厄介な連中よねほんと。」
「妖怪からしたら霊夢さんのほうがよほど厄介な存在ですけどね。あれ、誰か来たみたいですよ。」
霊夢が空を見上げると大きな風呂敷包みを持った人物が神社へ向かって飛んできているのが見えた。
「あら、どうしたのよ。まだあんたの出番じゃないでしょ?」
「何を言ってるんですか、もう立秋が過ぎたんだかられっきとした秋ですよ。」
やってきたのは秋穣子、豊穣を司る女神立った。
穣子は持ってきた風呂敷包みを地面に奥と縛ってある口を開けた。
風呂敷の中には鮮やかな色合いにぎっしりと実の詰まったとうきびが並べられている。
「おいしそうでしょう?収穫祭にはまだ早いけど沢山御供え頂いたのでお裾分けに持ってきたんですよ。」
「どうせ普段ロクな野菜も食べていないだろうから、ですか。霊夢さん・・・豊穣の神様に御心配をかけてしまうほどここの神社は生活が苦しいのですか?」
敢えて口な出さなかった部分を言い当てられた穣子はドキッとした。
「あ・・・あなたが覚ね、噂には聞いた事あるけど、こんなところで会うとは思わなかったわ。」
「もっと気持ち悪い見た目だと思った。ですか。うふふ、もっと気持ち悪い覚もいるかもしれませんよ、どこかに。」
「ねぇ、霊夢さんこの子なんとかしてよ。」
「無理よ、普段ロクな野菜も食べてないから力が沸かないわ。」
「あはは・・・まあとにかくこれ置いていくからしっかり食べてよね。」
穣子は持ってきた荷物を置いて逃げるように飛んでいってしまった。
「なるほど。これは便利かもしれないわね。」
「嫌な奴を追い返すには便利な妖怪。ですか。そのように誉められてもあんまり嬉しくはありませんね。」
「ああもう勝手に読むなって言ってるのに!」
霊夢は山と積まれたとうきびを三本だけ取り神社の縁側に置くと風呂敷を結び直した。
「ほら、これあんたの分。あの黒猫やらバカ鴉にも食べさせてあげて。他にペットがいるみたいだし遠慮なく持っていきなさい。もう片付けはそれでいいからとうきび持ってさっさと帰っていいわよ。」
「うーん、でも・・・ここだけもう少し片付けていきますよ。」
「もういいわよ、これ以上あんたにいられたら好き放題に心読まれてたまんないから。」
「(あんたも疲れてるだろうし早く帰って休みなさい。ですか。霊夢さんも思っていたよりいい方なのですね。)わかりました、じゃあお言葉に甘えさせて頂きますね。」


八月十日 朝方 地霊殿古明地さとりの執務室

さとりはなんだか何年も戻ってきていない気がする執務室の椅子に腰を降ろした。
「(さすがに色々ありすぎて疲れたわね。おくうとお燐も仕事が落ち着いたら休ませてあげないと。)」
戻ってきてすぐに神社でもらった大量のとうきびを食堂に預けて自室で少しだけ休むつもりがほぼ丸一日眠ってしまっていた。
自分でも思っている以上に疲れが溜まっているようだ。
机にはペット達の報告書が同じように溜まっている、結構な高さまで積み上がっておりすべて目を通す事を考えるとさすがのさとりも少々気後れしてしまった。
一番上には今まで見たことの無い筆跡の報告書があったので気になって手に取ってみる。
「とうもろこし、おいしかったですありがとう 空。」
「何これ全然仕事の報告ではないじゃないの。」
文句を言っているさとりの顔は嬉しそうに笑っていた。
空は字を教えてもすぐに忘れてしまうので他のペットのように報告書を出す事を諦めていたのをさとりは知っていたのだ。
誰に教えてもらったのか、恐らくお燐だろうが自分の署名は漢字まで使われていて少々驚いた。
「色々と少しづつ変わっていくのね、いえ変わったというより成長したのかしら。」
そんな事を考えていたさとり、不意に目の前にこいしが立っている事に気がついた。
「ねえお姉ちゃん、今日山の神社でお祭りなんだって。私行きたい。」
こいしは持ってきた祭りの案内ビラをさとりの前に置いた。
「そう、じゃあ行ってきていいわよ。おくうとお燐が今日からしばらく非番になるから連れて行ってもいいからね。」
「お姉ちゃんは行かないの?」
予想外の反応だった、いつもならばこれで納得するはずなのだが。
「え?私?」
「そうだよ、おくうもお燐もだけどお姉ちゃんも一緒に行こうよ。」
正直なところ祭のような人や妖怪が多く集まる場所には行きたくないさとり。
しかしこいしが自らこんな事を言い出すのは初めて、それと比べたら人混みで心を読まされる苦労など些細な問題だと思えた。
「わかったわ、じゃあこの仕事だけ片付けたら支度するから少し待ってね。」


八月十日 昼前 守矢神社境内

再び元の牧歌的な空気を取り戻した幻想郷。
神の気分ひとつで突発的な祭が始まり妖怪達が騒ぎ立てる。
境内の特設ステージではパンクロックの爆音が響き渡っている。
そういえばこのパンクロックはそれまでまったく無かったものの少し前から幻想郷で流行しだしたものだ。
悠久を感じさせる世界にも少しづつ変化を見せている。
「お姉ちゃん、あっちだよ。蛙狩神事ってのがあるんだって。」
さとりの腕を引っ張り走り出すこいし、その後ろを空とお燐が追いかける。
少し前までなら考えられない光景。
あの時以来さとりがこいしの心を読めることは無いがそれでも少しづつこいしが変わっているのを感じた。
「あ、さとちゃんだ。おーいさとちゃーん!」
母親に連れられて出店を見ていたのはこいしが寺子屋で怖い太陽をやっつけると約束をした少女だった。
母親は四人の姿を見て少しいぶかしげな顔をしたが娘とこいしが楽しそうに話しているのを見て安心したようでさとりに会釈した。
「こいしおねえちゃん約束守ってくれたんだね。」
「うん、でもこいしだけじゃないよ。こいしのお姉ちゃんもお燐もおくうも他にもいろんな人がいたんだよ。」
「へぇー私も会ってみたいな。」
「お姉ちゃんとお燐とおくうはここにいるよ。そうそうもうすぐ蛙狩神事だよ、見に行こうよ。」
「それって蛙さんを矢で刺しちゃうんだよね、なんだか怖いよ。かわいそうだし。」
「大丈夫よ、今日はおもちゃの蛙でやるんだって。ね、だから見に行こうよ。」
「おもちゃの蛙さんなんだ、変なの。じゃあさとこも行く。お母さんいいでしょ?」
「そうね、じゃあ皆で一緒に見に行きましょうか。」
妖怪と人間、立場はまったく違っても本人同士にその気さえあればわかりあえる、そんな可能性を感じさせる一行の姿だった。


八月十日 昼前 守矢神社上空

紫は上空から祭を見下ろしながら感慨に耽っていた。
「色々な事はあったけど、今のところこの世界はうまくいっているわ。」
もうずっと昔に封印したつもりだった記憶が蘇ってくる。
「もっと早くこうなれば犠牲を出さずに済んだのに・・・」
「あらあら?珍しく弱気ねー。」
いつの間にか幽々子がやってきていた。
「どうしたの?こんなところで、貴方の事だから出店で何か食べてると思ったけど。」
「私が行ったら他のお客さんの分が無くなっちゃうわよー。それよりあんまり昔の事は気にしないほうがいいわ。特にあの巫女達の事はね、貴方の責任ではないんだから」
「そうね、今を大事にとは思うけどやっぱり考える時はあるのよ。」
「紫って普段はいい加減なくせにそういうところは意外と気にしいなのよね。」
異変のたびに少しづつ色々な事が変化成長を続けて様変わりしながらもその姿を保ち続ける世界。
次に何かが起こるまでこのままの姿で流れていくのだろうか。
「幽々子、うちに来る?何か食べさせてあげる。昔の話も沢山したいし。」
「へぇ今日はそんな気分なのね。いいわよ、お腹いっぱい食べさせてくれるんだったら付き合ってあげる。」
これで終わりとなります、長々とお付き合い頂きありがとうございます、お口に合わなかった方はごめんなさい。
穣子様も五話のみすちーと同じで強引に出番を作りに行った結果こんな感じに。
六話に限った事ではないのですが伏線っぽかったり含みを持たせてる部分はそのうちに書きたいなーと思ってる部分です。
今現在プロットが頭の中に出来ているだけの状態なのでだいぶ先になると思いますが、もし今回のが気に入って頂けたら気長にお待ちくださいませ。
ぷっち
https://twitter.com/maripuchichi
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コメント



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1.70名前が無い程度の能力削除
話の大きさに文章が付いていかなかった感じでした。
2.無評価名前が無い程度の能力削除
行がつめつめで読むのが大変ですね。
二話目の時点で気づいたなら、面倒でも一話目から修正を入れてた方が良かったと思います。
分割もあんまり良くないですね。
同じ人が、同じ作品を細かく切って連続で投稿するのはあまり好かれません。
読む時も一々新しいページに飛ぶの面倒ですし…

それから、「・・・」は「……」を使った方がいいのと、台詞の「」の中の文の最後には句点はいれなくて大丈夫です。
4.50名前が無い程度の能力削除
会話文が多いわりにはキャラクタが活きていないのが不満です。
よく読むと面白い会話をしていたりするんですが、あまりにも情景が想像しづらくぼんやりとしてしまいました。端的に言えば退屈でした。
これだけ文章を書けるひとならもっと面白いものが読みたいなあと思ってしまいました。
7.30名前が無い程度の能力削除
なんというかテンプレ的な設定のキャラが、テンプレ通りの事をやってる感じのありきたりな内容。
8.無評価名前が無い程度の能力削除
何でみんなそんな低評価なんだよ?俺は結構好きだったけど。
9.80↑のものですが削除
評価つけ忘れてた
10.50名前が無い程度の能力削除
(iPhone匿名評価)