「こちらは鶏むね肉の赤ワイン煮込みです。
柔らかいのでナイフを使うときは力の入れ過ぎに気をつけてください。
そしてこちらの人参は甘く煮てますので食べやすいかと」
「ぶー そもそも人参はあんまり好きじゃないって」
「お嬢様の命令ですので、すみません」
頭を下げながら机に食事をひろげる従者は、申し訳なさそうに私を見て微笑む。
咲夜が悪いわけじゃないんだけどね。ちょっと文句。
あ、ちゃんと花の形にしてくれたんだ。やったあ。
「咲夜、花の人参ありがと。それでお姉様は?」
「今朝申したとおり、お客様とディスカッション中でございます」
「……でぃす?」
「簡単に言うと、話し合いをしています。あちらも別の館の主。何か難しい話でもしているのでしょう。
私も必要な時しかお部屋に入れてもらえません」
ふぅん。
話し合いねえ。
ま、私は難しい話パス。
そんなのお姉様がかっこつけながらやってればいいわ。
あら、むね肉なのにジューシーで美味しい。
パサパサしてないわ。
さすが咲夜ね。
「では、また呼ばれるかもしれないので私は戻りますね。何かあったらすぐに」
「ふーい。ありがとねー」
かちゃかちゃと金属音が響く私の部屋。
少し前とは違い、私の部屋は皆と同じ地上にある。変な言い方だけど。
地下の住人の称号はパチュリーに譲ってあげたわ。
多分、お姉さまが許してくれたんだと思う。最近の私は落ち着いた。
以前の私は、ちょっと暴れん坊だったから。若気のなんとかってやつよ。
「ふーっふーぅ。何このスープ。すんごく熱い」
少しとろみのあるスープに苦戦していると、私の頬に少しの風がなぞった。
……ドア開けっぱなしだったっけ?
「ふーっふーっ」
「ふーっふーっ」
スープを吹く息が2つあることを不思議に思って、
やっと私は後ろに立っている人物に気づいた。
「ふひゃあ!」
「ふーぅ、ん?」
な、なにこいつ。
気配とか存在感とか、全くわかんなかった。
「そのスープ美味しそう。ちょっと頂戴」
「……え? え、あ、いいよ」
「やった、ありがと」
そいつは突然現れて、私のスープをすすっている。
とても自然に言われたから何も思わなかったけど、ノックもせずに人の部屋に入るなんて
失礼極まりないやつだな。
「ずず…… あっちち。うん、おいしいね」
「あ、そう? じゃなくて、何よあんた、勝手に人の部屋入って」
「ねー、このぬいぐるみどこで買ったの? すっごい良いじゃない!」
「あ、それね、いいでしょ。咲夜が私の誕生日に作ってくれたの。咲夜ってのは私のメイドで……」
待て。
流されている。少し落ち着こう。
「う、うん。ちょっと、貴方、名前は?」
「こいし」
「そう、こいし。貴方はどこから来たの?」
「地下だよ」
ち、地下?
ここの地下は根暗喘息魔法使いしか居ないはずだけど……
まさか私の元部屋にかってに住み着いたなんとか妖怪とか……
「なに? こいしはどこから湧いてき「だれ?」」
へ?
「貴方のお名前は? 言ってくれないと呼ぶことができないわ」
「え、あ、そうね。私はフランドール。ここの主の妹よ」
そう言うと、こいしはんふふ、と笑いながら機嫌よく部屋をくるくる回り始めた。
食事中だからほこりたたせないでほしんだけど……
「妹ね、妹ー」
くるくる、くるくると。
こいしは私を中心に周りながら自身でも回る。
「ねぇ、ほこりたっちゃう。ここに座って」
「あらごめんなさい。お食事中だったのよね」
こいしは私の正面に座り、こちらを見ながらにこにこと笑う。
ものすっごく食べづらい。
「そんなに見ないでくれる……? 食べづらいんだけど。なにか食べたいなら咲夜を呼んでくるけど」
「ううん、大丈夫よ。じゃあ貴方が食べている間、あのぬいぐるみで遊んでいていい?」
それで見つめられるのをやめてくれるなら、と
私は肉を咀嚼しながら頷く。
こいしはその返事を見るやいなや椅子を蹴り飛ばし、ベッドに置いてあるぬいぐるみに
飛んで向かっていった。(比喩でなく)
こいしはベッドに腰掛け、ぬいぐるみの手足をとって遊んでいる。
きっと、悪いやつではないんだろうけど、掴みどころのないやつだ。
私がデザートの焼きリンゴを食べ終えた時には、すでに二人(こいしとサイのぬいぐるみ、さっちゃん)は
すっかり意気投合しおり、先程のように二人でくるくると回っている。まぁさっちゃんは回されてるんだけど。
「あ、食事は終わった? この子本当にグッドね。サイなのに三足歩行なのがまた良い味を出しているわ」
「そう? 私は初見でドン引きしたけど初めて見てそれを気に入るなんて、
ウチのメイドと一緒で変わっているわね、貴方」
褒め言葉では無いと思うんだけど、こいしは照れくさそうに笑う。
うん、やっぱり変わってるわこの娘。
「さっちゃーん。遊んでもらってよかったわねえ」
「この子さっちゃんていうの?」
「そうよ」
「なんで?」
「サイだから」
言った途端、こいしは吹き出す。
……何か変なこと言ったかしら?
「なに笑ってんのよ」
「ぷくくっ…… だって、サイなのに、さっちゃんて…… 変なのー あっははは」
言い終わるとこいしは手を叩いて笑う。
最近落ち着いてきた私でも、イライラするぞ。
「ちょっと! 笑わないでよ、どこがおかしいっていうのよ!」
「ふ、ふっふふ…… ふう。だってさ、フランドール」
「フランでいいわ」
「フラン、貴方ここの主の妹ってことは吸血鬼なんでしょ?」
そうよ、だから気に入らないこと言ったらどこの誰だかわからないあんたなんか
一瞬でぬいぐるみみたいにできるだけの力はあるんだからね。
あんたの死体も私のベッドに飾って上げようか!
と、憎悪のこもった目線を送りつつ頷く。
「でしょ。じゃあフラン、吸血鬼だって理由で『きゅうちゃん』って名付けられたらどう?」
「……あ」
「ね、おかしいでしょ?」
……た、確かに。
何も言えなくなってしまった。
「そっか…… じゃあ私さっちゃんにすごく変な名前つけちゃったのかな……」
「それは違うわよフラン」
「え?」
「貴方はさっちゃんのことを想ってさっちゃん、て付けてあげたんでしょ? ならさっちゃんも嬉しいはずよ。
お友達が一生懸命考えて付けてくれた名前なんだから」
「……」
「だから、さっちゃんもさっきはごめんね。お友達がいっぱい考えてくれた名前を笑っちゃって」
本当に。
何者なのかしら、この娘は。
突然入ってきて、変なやつだと思ったら、ちゃんと色々考えてて……
「許すって」
「え?」
「こいしのこと許すって。さっちゃんがいってるわ」
「……そう! ありがとうさっちゃん! それにフランも」
私は何もお礼を言われることはしていないわ。
さっちゃんが太っ腹なだけよ。
「フランにはぜひうちに遊びに来てほしいわ。私の部屋にもぬいぐるみがあるの」
「へーそうなんだ」
「うん、実はね、今貴方のお姉さんと話してる相手って私のお姉ちゃんなのよ。
そのぬいぐるみはお姉ちゃんが作ってくれたの!」
なるほど。
これでなぜこいしがここにいいるのかと、
さっき私がここの主の妹だと聞いて喜んだ理由がわかった。
「きっとうちのあーちゃんもフランともさっちゃんとも仲良くなれるはずよ」
「あーちゃんて言うんだ?」
「うん、アルマジロのあーちゃん」
「もしかして、それって……」
「うん、もちろんアルマジロだからアーちゃんよ!」
満面の笑みでそう言うこいしがとても愉快に笑うから、
私もつられて笑ってしまう。
まったく、あんたも同じコトしてんじゃないの。あははっ
ひとしきり笑い、食事用の紅茶を一つのコップで半分ずつ飲みながら笑いを落ち着ける。
こんなに遠慮なく笑ったのは久しぶりかもしれない。
「私のお姉ちゃんはね、とても優しいのよ。私がどんなに夜遅く部屋に行っても
怒らないでベッドに招いてくれるし」
そういえば、最近お姉さまと寝る機会が減った気がする。
もう、子供じゃないしなあ。
それにお姉様も最近誘ってくれなくなったし、妹離れのつもりなのかな。
「フランはお姉さんの事好き?」
「んー、微妙ね。この前お姉様のワッフル食べただけで涙目で怒ってきたし」
「あははっ、微妙なんだ」
「でもたまに格好良く見える時があるわ。それにフランドール。この名前はお姉様が付けてくれたんだけど
とても気に入っているのよ」
「本当に!」
こいしは両手をぱちんとならし、私の手を握りしめてくる。
とてもいい笑顔。
「こいし、こいしもお姉ちゃんが付けてくれたんだよ」
「そ、そうなの? これってすごいわね。ねぇ、私達って……」
両手を握りながらこいしはふふん、と笑う。
こいしも気づいているようだ。
私はとても嬉しくなってこいしの両手を強く握り返した。
笑顔も自然に、にじみ出てきた。
「「すっごく、似ているわね!」」
「失礼します。食器を下げに……あら」
「あ、おじゃましてまーす」
「ちょっとこいし、いまズルしなかった? ここの白、さっき黒だったでしょ」
「え、何のこと? そんなことないよ」
こいしとリバーシに夢中になっていると、咲夜が食器を下げに来た。
とても、珍しそうなものをみるようにこちらを見ている。
「あの、こちらの方は……?」
「こいしです。お姉ちゃんの妹です」
「それじゃわかんないでしょ。今お姉さまと話し合いしてる人の妹なんだって」
「あら、そうでしたか。すみません気づかずに……」
「いーのよ。あ、それでお姉ちゃん達どんな感じなの?」
そういえば、こいしの姉というのもどんな人物か見てみたい。
お姉さまも何やってるか気になるし。
あ、だったら。
「お姉様たちの様子を見に行きましょうか」
「あ、賛成。お姉ちゃんがうまくやってるか見に行きたい!」
「ってことで咲夜、お姉様達どこにいるの?」
咲夜は、きっとお姉様に私が来ないようにと命令を受けているんだろう。
しかめっ面でなにやらぶつぶつと悩んでいる。
「いいじゃない咲夜。ちょっとだけだから」
「……ですが」
「そういえばこいしがさっちゃんべた褒めしてたよ。これを作れる人なんてどんなすごい人なんだろう、
どんなに綺麗なんだろう、どんなに巨乳なんだろうって」
「ちょっとだけですよ」
ちょろい。
とてもちょろい。
にこにこ笑顔の咲夜の後ろをついていっている途中、こいしが
私そんなこと言ったっけ?
と、とても不思議そうな顔で聞いてきた、それは無視した。
言わぬが花、知らぬが仏ってやつよ。
「ここですが…… 一応、私が何をしているのか見てみます」
部屋の前で、咲夜がドアを少しだけ開けて部屋の中を確認する。
少しこっ恥ずかしいが、お姉さまが他の人とどのような難しい話をしているか、
とても気になっていた。
それはこいしも同じのようで、そわそわしてぱたぱたとせわしなく足を動かしている。
まだかなまだかな。
何しているのかな。
……ん?
「さくやー、何してんの、早く早く、お姉さま達は何しているのよ」
「ねぇフラン、このお姉さん固まってるよ」
こいしがさくやのおしりをぷよぷよとつつく。
何の反応もない。
私は咲夜の胸をつつく。
何の反応もない。
「なんだろ、私も見ちゃおうっと」
「あ、ずるい!」
こいしはドアの隙間から中の様子をうかがう。
やはり、しばらくしても反応がないのでおかしく思い話しかける。
なんだ中にメドゥーサでもいるのか。
「ちょっとこいし、なにして……!」
一体何を見たのか。
こいしの目はうつろになり、顔面は蒼白だ。
「ちょっと…… 二人共どいて」
私は意を決してドアを開けた。
まず、目についたものは二つ。
血みどろになって倒れている、頭に紅葉の髪飾りをつけた金髪の少女。
それと見える『幻想郷最も可愛い妹は誰だ選手権』の看板。
そして……
「だぁかぁら、見てみなさいよこの写真! 可愛いでしょ?! フラン、私の妹!
この下着! 水玉! 私が買ってあげた下着を履いているの! 現在進行形!
私はこのフランの下着姿の写真(120枚)と一緒に毎日寝てるんだから!」
「ふふふ、その程度。うちのこいしなんて無意識にかまけて私のベッドにほぼ毎日入ってくるのよ。
その時の写真。ほら、こんなかわいいおへそをあらわにして…… うへへ」
「は、そんなもの。ついにこの写真を出す時が来たようね。
これは私が永夜異変の時に外に出たためすごく寂しくなってぬいぐるみをぎゅっと抱きしめながら
お姉さまぁ…… とつぶやきながら涙目になっている写真よ!」
「な、なかなか可愛いわね…… じゃあこちらも。
初めてこいしがお風呂に一人で入った時のものよ。
シャンプーをしている時に後ろに誰かいそうな気がしてとても怖くなって
すっごくちっちゃくなって震えながらシャンプーしている時の写真よ! もちろん全裸!」
「く……やるわね」
二人の姉が写真片手に殴りあっている、そんな光景が広がっているものだから。
私はにこりと笑って二人の愛すべき姉に両手を向け、
ゆっくりと拳を握った。
いろんな意味でぶち壊しだ。
『妹たちはにこりと笑う』
終わり
しかし後半が酷い。なんで幻想郷の姉って変態ばっかりなんだろうww
ところでこの選手権3人で開催してるのかww
最初タグが一体何だろうと思ったけどまあいいやって読み進めてた。
そのことを忘れてて読み終わった後でタイトルに戻って初めて気がついた。涙が止まらない……
前半あんだけほのぼのしてて微笑ましい展開だったのにもったいないよww幻想郷らしいけどwwwwwww
タイトルにクスリと笑ってしまいました。次回も楽しみに待ってますね!
しずはー!
こいしちゃんかわいい
そして最高の姉たちでしたw
早々に萌え殺されたのか?
むぅ、秋じゃないから能力が低下していたか……。絶対違う気がするが。