※ この作品はジェネ内で書いてる甘リアリシリーズの出張版の短編で、魔理沙とアリスが仲良くいちゃいちゃしているのは仕様です。
相当刺激が強いので、服用の際は苦めのコーヒーを片手にどうぞ。
―桜の季節が終わり、新緑萌ゆる頃のお話。
「魔理沙・・・ホントに乗るの?」
「アリス、準備良いぜ。さぁ・・・来て。」
「うん・・・でも、私・・・・・」
「アリス、もしかして、怖いのか?」
「そ、そんな事無いわよ。乗れば良いんでしょ、乗れば・・・」
「うん・・・アリス、おいで。」
「じゃあ、行くわよ。魔理沙・・・」
「あっ・・・」
ギシリというきしむ音が静まり返った夜の魔法の森のアリスの家でした。そして、ばねの跳ね返る音がギッギッと二人の耳に入る。かちゃ、かちゃという数度の小気味よい音の後、それは動きを徐々に止める。乗った時に恥ずかしかったのか目を閉じていたアリスが目を開くと、眼下に居た魔理沙がアリスを見上げて来る。
「・・・アリス」
「魔理沙ぁ・・・」
二人は思わず顔を見合わせた。アリスはただ恥ずかしそうに、そして対する魔理沙は驚いた表情を見せ、視線は一点を向き止まる。
「・・・やっぱり、太ってる?」
「そのようだな・・・」
乙女にとっては認めたくも無い無情な事実を付きつける河童制の体重計。アリスは静かに体重計から降り、魔理沙が用意してくれた椅子に座ってはぁと大きな溜息をついた。
「毎日しっかり食べ過ぎかなぁ。」
「魔法使いは、食べなくても良いからエネルギーが余ってるんじゃないのか?」
「うん・・・消費はしてるけど、魔理沙ほどじゃあ無いわねぇ。」
髪を乾かして貰いながら、アリスは視線を落とした。出るところはしっかり出て、魔理沙も羨むスタイルではある。だが、体重が増えたとあっては、乙女心に与えるダメージはかなり深刻である。はぁ、ともう一つ溜息をついたアリスは、魔理沙の方を見る。
「魔理沙は、太らないわよねー」
「ああ、食べた分は消費してるんだぜ。でも・・・」
「消費しすぎる、と。」
「そう言う事だぜ・・・はぁ。育たないんだよなぁ・・・全く。」
胸を気にしながら、魔理沙が溜息をついた。無駄が無く、しなやかな事が見てとれるスタイルの魔理沙であったが、残念ながら女としての魅力にはイマイチ乏しい。
髪を乾かし終わった魔理沙は八卦炉をそっと横に置いた、すると人形達がやってきてお揃いのパジャマを二人に差し出す。バスタオルとパジャマを交換した二人は各々でもそもそと着替え始める。なお、前のボタンはお互いにかけあうのがこの二人の愛情表現でもある。
「うーん、幸せ太りとは良く言ったもんね。」
「まぁ、大丈夫だぜ。ちょっと運動したら、どうとでもなる。」
「でも、私、魔理沙程激しく動き回れないわよ?」
「いつもの・・・アレでも良いんだぜ。早速・・・するか?」
「うん、やりましょ。」
パジャマのボタンを締め終わった二人は恥ずかしそうではあったが、どちらからともなく手を繋ぎ、仲良く脱衣所を出ていった。
「あぁ・・・魔理沙、もっと、もっと・・・ふぅっ、はぁああっ」
「そう、そう・・・お、良い感じ。ようし、じゃあもう少し行くぜ・・・」
「くうっ・・・・っ、魔理沙ぁ、もっと、ゆっくり・・・お願いぃ。」
「よし、じゃあこれでどうだ・・・」
「うん、これならぁ・・・あぁっ!」
「どうした!アリスっ?」
「あっ、も、もうダメ!あ、あ、い、痛たたたっ!」
「アリス、ごめん!すぐにどくから!」
そう言って魔理沙はアリスの背中から離れた。上体をしっかり前に倒し切ったアリスは、大きく息を吐きながらそっと上体を起こす。
「あぁ、背中の筋が切れるかと思ったわー」
「まぁ、それでもストレッチも大いに進歩してるんだぜ。最初は全然ダメだったじゃないかー」
ふぅ、と息を付くアリスの手を取って立たせる魔理沙。そして、そっと手を繋ぐ。
「まぁ、これも訓練のおかげね。」
「そうそう。やれば、私達には出来ない事なんて無いんだぜ。」
息が落ち着いた所で、魔理沙がその場に座って上体をそのまま倒した。アリスの補助なく、ぺったんと下につく柔軟な身体を見てアリスは思わず感心した。
「やっぱり凄い・・・」
「普通だぜ?」
どんどん柔軟をしていく魔理沙にただただ感心しながら、その様子を眺める。程なくして概ね完了したのか、小さく息を吐きながら立ち上がった魔理沙はアリスに。
「じゃあ、アレ・・・やってみるか?アレなら、良い運動になるんだぜ。」
と持ちかけて来る。最愛の人の提案に目を輝かせたアリスは、コクリと頷き同意の意を示す。魔理沙は白い歯を見せ、最愛の人を見る。そして、そっと抱きつく。
「大丈夫だぜ。どんなアリスでも、私は大好きだからな・・・」
「魔理沙・・・私もよ、大好き。」
抱きつき返すアリス、そうして体温を分け合う二人。もう寒くは無いのだけれども、こうしていると、お互いの気持ちとかが全部伝わってくるような感じがするのだとか。
そして、口づけを交わしてから、そっと離れる。
「ようし、そうと決まれば早速・・・うん。」
「成程、じゃあ、今日は・・・」
「そういうこと、だぜ。」
魔理沙が手を取り、そっと寝室までエスコートする。ドアを開けて部屋に飛び込み、ベットに二人で潜り込んだ。もそもそと所定の位置に付き、ぎゅっと身を寄せ合ってから見つめ合う。
自然と甘いムードになって、お互いのココロがグッと惹かれあうのをしっかりと感じた二人の目はトロンとしている。
「じゃあ、アリス・・・」
「ええ。魔理沙・・・」
どちらからともなく、深いキスを交わす。この深い深いキスは二人が今日も愛を貫き愛を育んで生きた来た事の証明でもある。そのキスとお互いの温もりと優しさでココロを満たした二人は、そっと抱きつき、愛する人の全てを受け止めた・・・
「えっ、魔理沙・・・そんなの無理だわ・・・・・」
「そうは言うがなアリス、此処はまだまだ・・・」
「確かにそうだけど、ねぇ。それでも、これは少しキツいわ。」
「大丈夫、私が傍に付いているから、さぁ・・・アリス。」
「わかった・・・頑張る。」
「そうだ、それでこそアリスだ。」
「はっ・・・はっ・・・はっ、ま、まりさぁ・・・」
「あぁ、仕方ないなぁ・・・えいっ!」
「もう、らめぇええええええっ!」
「はぁ・・・まりさぁ、やっぱり登り坂はきついわ・・・」
「最悪はおぶってやるから、頑張れ、アリス。」
「うん、頑張る・・・でも、魔理沙もこのコースを走ってたの?」
「ああ。魔法には体力も不可欠だからな。タフじゃ無きゃ野魔法使いの名折れだぜ。」
身軽な運動用の服装で固めた魔理沙がこれまた運動用の身軽な服を着たアリスの背中を押して坂道を登る。体重を気にしていたアリスの為に、魔理沙が運動したら痩せると提案したから、この二人は朝からこうして運動に励んでいただけである。
だが、アリスはそんなに身体的な能力は高くは無い。故に日頃から鍛えている魔理沙の方が体力があるため、このような展開になってしまったのであるが・・・
「都会派も有事に備えて鍛えておかなきゃいけないもんねぇ・・・」
「そうそう、その意気だ。お、もうすぐ天辺なんだぜ。」
「わ、分かった・・・もう少し頑張る。」
ゆっくりと、ゆっくりと歩くようなスピードで坂を登り切ったアリスは、視界の先に開けた光景を見て思わず感嘆の息を漏らした。自分の住んでいる魔法の森を一望するその光景は、彼女にとっては何よりの癒しとなったようだ。
「この道を走って来たのね。」
「そういう事だぜ。ここまで来ると、あんなにちっぽけに見えるのが不思議だよな。」
「ホントねぇ。普段、空を飛ぶからこう言うのって、あんまり気が付かないけど・・・。空を飛べる事って、凄い事なのね。」
「私は、初めて空を飛んだ時にもっとそう思ったよ。」
そう言って風景を眺める魔理沙の遠い目にアリスはキュンとしていた。色んな物を見て来た彼女の目には不思議な魅力があるようだ。そんな目とアリスの目が合って、嬉しそうな様子の魔理沙は、そっと背中のリュックサックからお弁当を取り出した。
「じゃあ、ご飯にしようぜ。ほれ、これアリスの分な。」
「うん。ありがと。」
魔理沙がお揃いのお弁当箱をアリスに渡すと、嬉しそうな顔をしてそれを開ける。釣られて笑う魔理沙も、どこか嬉しそう。お弁当箱の中には、可愛らしいおにぎりと卵焼きと魔理沙特製の煮物が慎ましく入っている。
「へへ、こう言う所で食べるおにぎりは最高だよな。」
「しかも、魔理沙特製だもん。それだけで99点あげても良いわね。」
「あれ?100点じゃないのかー」
「後の1点は・・・魔理沙。」
「そう言う事か。じゃ、ほら、あーんだぜ。」
お互いに食べさせあう二人。特製のお弁当はそれだけでも美味しいけれども、こうやって一緒に食べると美味さは倍増するものだ。
燦々と輝く太陽と優しく吹く風に身を任せて食事を取る二人はとっても穏やかな時間を過ごし、お弁当をすっかり平らげてしまった。
「ああ、美味しかった。」
「お粗末様、なんだぜ。」
水筒に入れていたお茶を呑みながら、魔法の森を眺める二人。暫くはまったりとしていたが、魔理沙がアリスの耳元でこんな事をのたまった。
「・・・じゃあ、食事も済んだし・・・な。」
そのトーンから意図を察知したアリス。すると、魔理沙の耳元に口を寄せて、しっかりとこう答えた。
「もう・・・魔理沙ったら。せっかちね・・・・・」
そう言い終わった二人は頬を赤らめたまま連れ立って立ち上がり、その場を後にした。
「ふぅ、ふぅ・・・・・魔理沙、こんな所で大丈夫なの?」
「ああ。大丈夫だ、信じるんだぜ。」
「ホント、魔理沙って元気ねぇ・・・はぁ、はぁ・・・えっ、本当に入るの?」
「そうだぜ、入るんだぜ・・・嫌か?」
「嘘・・・まぁ、良いけど。もう・・・・ちょっと、はぁ、はぁ・・・ふぅ!」
「よーし、アリス、このままいくぜ!」
「魔理沙、貴女・・・かはっ。はぁ・・・っ。」
「・・・うん、そこの木陰で一回休憩しよう。」
「ぷはぁ、朝からだとジョギングも結構きついわねぇ。」
昼下がりの魔法の森。運動着姿の魔理沙とアリスが、木陰で寄り添い一休み。程良く疲れた魔理沙が息を懸命に整えるアリスを持たれかけさせる。少し汗ばんでいるのをハンカチで拭っていると、二人の間に心地良い風が吹いた。
「でも、こうして見上げる空も綺麗ね。」
「だろ?飛んでるだけじゃ、見えないものもあるんだぜ。」
生い茂る木々の向こうから指し込む木漏れ日、そして青い澄んだ空を見上げるアリス。横では魔理沙も同じ空を見上げている。風でそよぐ魔理沙のいつものお下げを手で掴みそっと撫でる。
「あら、リボンが緩んでるわよ。結び直しておくわね。」
「悪いな、アリスー」
手慣れているのか、直すまでにかかった時間はごくわずかだった。今日はアリスのケープにも使うお揃いのリボンでバッチリと決めた魔理沙。肩を寄せ合って、並んで過ごす二人の手はしっかりと握られている。
仲良く空を眺めて、新鮮な空気を吸って息が落ち着いて来た所で、アリスは立ち上がった。
「ごめんなさい、そろそろ良いわよ。」
「おう。謝る事なんて無いぜ、出来ればこのままアリスの膝枕でも良かった位なんだが・・・」
「でも、それじゃ私のダイエットにならないから、それは帰ってからね。」
「やったぜー、ありがとなーアリス。」
アリスに手を引いて貰って立ち上がった二人は、黙々とジョギングを再開する。少し先を走る魔理沙は本当に楽しそうに走っており、ちょっと苦しそうなアリスとは対照的。普段から鍛えている魔理沙とそうでないアリスの差が出ていると言った所か。
それでも、一緒に飛ぶ事とはまたちょっと違う風景を楽しみながら懸命に走る二人の表情は輝いていた。
そんな調子でじっくりと身体を動かした魔理沙とアリスは、太陽が沈む頃には魔理沙の家の前まで帰って来ていた。
「はぁ・・・はぁ。」
「よーし、アリス、良く頑張ったんだぜ・・・」
「何度か天国が見えそうだったけどね・・・」
「そうか・・・じゃあ、ちょっと失礼するぜ。」
肩で息をするアリスに魔理沙がそっと近寄りヒーリングをかける。治癒の呪文はそれほど得意じゃ無かったけど、アリスが何時もかけてくれるのを見て覚える・・・否、魔理沙流に言うなら盗むと言った所であろうか。
アリスのそれと同じく優しい光がアリスを包んで、アリスの疲労が癒されてゆく。息が落ち着いたアリスは、お返しにと魔理沙にヒーリングをかけてあげる。
「あぁ・・・やっぱりアリスには敵わないんだぜ。」
「そう?でも、魔理沙もこの短期間ですっごく上手になったわよ。」
「先生が最高だからな。」
「ふふっ、ありがと。」
魔力をこうやって交わすのも、この二人の大切なコミュニケーション。お互いの魔力がお互いに注ぎこまれ疲れを癒してゆく。言葉を交わす、身体に触れる、そしてココロを通わせるのとはまた違う二人の大切な交流の仕方なのだ。
すっかり疲れも取れて、走る前のような状態に戻った魔理沙とアリスは
「さて、丁度良い時間になったし・・・」
「そうね。ご飯にしましょ。」
「おう。」
家のドアにかかっていた魔力施錠を解錠し、魔理沙が入る。そして、アリスが靴を揃えながら入ると、魔理沙が両手を広げて待っていた。
「おかえり、アリス・・・」
「ただいま、魔理沙。」
魔理沙にすっぽりとくるまれて、幸せそうなアリス。少しの間抱き合っていたが、やがて魔理沙がこんな事をアリスに聞いて来た。
「お風呂にするか、それともご飯?それとも・・・私?」
その一言に耳まで真っ赤にするアリス、魔理沙が気恥ずかしさのあまりぷいと横を向いてしまったが、ちょっと違和感を感じたアリスがそっと離れたいなって意思表示を送る。その意思表示を正確に読み取った魔理沙は、アリスの肩を持ってそっと距離を取る。
「どうしたんだ?アリス。」
「汗かいてベタベタだから・・・ね。」
「そっか・・・じゃあ・・・・・」
「ええ・・・」
人形を操りバスタオルやら替えの服等を用意するアリス。魔理沙はそれを見てアリスの手をしっかりと握って脱衣所の方へ駆け込んだ。
「ひゃんっ、アリス・・・そこは・・・・・」
「ほら、だぁめ。じっとしてなさい。ここ、こすったら何時もこうね。」
「そうは言うが・・・きゃっ。」
「魔理沙・・・可愛いわ。」
「だって、アリスがそんな事するから・・・あっ!」
「大丈夫よ、そのまま身を任せなさい・・・魔理沙。」
「あっ、そこ・・・う、ああ、あ、ああっ!!」
「ちょっと、魔理沙。背中こすっただけじゃなーい。」
「でも、だって・・・アリスの、気持ち良いんだもん。」
泡に包まれた魔理沙が同じく泡に包まれたアリスにふくれっ面をする。それに細くて長い指を突き立てて魔理沙にぷしゅーと言わせるアリス。
それを何度も何度も繰り返す二人の文字通りのスキンシップ。烏天狗が居れば、一面記事になっても仕方ないような光景だ。
わしわしと背中を洗うのを再開したアリスに完全に呆け切っている魔理沙は、とっても幸せそう。
夢見心地の感覚に包まれた魔理沙は、そっとアリスにもたれかかった。
「ああ、此処が天国なんだぜ・・・」
「ふふっ、そうなの。」
「暖かくて心地良くってさ。ホント、幸せだ、ってぷぱっ」
そう言うか言わない時に身体を洗い終わったアリスがシャワーを魔理沙にかける。頭をぶるぶると振り回すと美しい金色の髪が舞い、滴が周囲に飛び散る。
魔理沙が振り返ると、シャワーを持って悪戯っぽくほほ笑むアリスの姿があった。
「おーい、アリス・・・いきなり何すんだよー」
「天国は貴女だけの物じゃないわよ。私も、平等に得る権利があるわ。」
「それはつまり・・・」
「そういうこと、魔理沙。私もお願いね。」
タオルとシャワーを受け取った魔理沙はアリスの後ろに回る。珠のような美しい白い肌がちょっと上気したのか、ほんのりと朱に染まっている。わしゃわしゃとタオルに石鹸を付けて泡立てる魔理沙であったが先ほどの悪戯をされたままでは何となく気が済まなかったのか、タイミングを見計らって行動に映る。
「よくもやってくれたな、このー!!」
「きゃっ!」
激しいが、それでも優しくアリスの背中に触れる魔理沙。くすぐったそうにしているアリスに構わず、わしゃわしゃと背中を洗いながら身体を寄せた。うりうりと言いながら身体を洗う魔理沙の表情も、くすぐったそうにじゃれて来る魔理沙を見るアリスの表情もとっても明るい。
それでも、ちゃんと仕事はこなすのが魔理沙流。ちゃんと洗い終わった二人は、また湯船にそっと浸かった。
「ふう・・・」
「んもう、お風呂入る前より疲れたら意味ないじゃない。」
「いいじゃあないか。楽しかったんだし。」
「それはそうだけどさぁ・・・」
ちゃぷんという音がして、そのまま消え入る。ほうと、溜息を二つ付けば、心地良く疲れがお湯に染みだしていくようだ。何度か溜息が湯気と共に消えた時、魔理沙が閉じていた目を開けて、アリスの方を見て
「それにこんな調子だと・・・な。」
顔が赤いのは温まっているからか、ドキドキしているからか。触れる肌からそれを読みとったアリスも釣られてドキドキしてしまう。
このドキドキはお互いに大好きな事なんだけれども、もどかしさや恥ずかしさを含むので何とも言えない雰囲気が二人の間に広がって行き、それが更にドキドキを加速させてゆく。
「それはどう言う意味?」
アリスがわざとすっとぼけた顔をして聞いてみる。すると魔理沙は、ふっと表情を崩してから、耳元で囁く。
「今晩、私の部屋に来れば分かる事だぜ。」
言葉は要らなかった。ドキドキをコントロールしながら、アリスはそっと魔理沙の前で頷き、彼女の目を見た。
扇情的で情熱的な目では無く、優しい見慣れた目の輝きがそこにあって、ちょっとだけホッとするアリス。安堵の表情を浮かべたアリスに魔理沙はうんと頷いて
「んーでも、まずは夕飯だな。アリス、今日は私の特製ダイエット食をご馳走しよう。」
「やった、凄く楽しみ。」
「そうと決まれば、早速始めるぜ。先に上がるけど、アリスはこのままゆっくりしてても良いぜ。」
そう言いながら湯船から出る魔理沙の手を掴むアリス。慌てて後ろを向く時に跳ねた水滴がアリスにかかったが、アリスはそれを払おうともせずに振り向いた魔理沙の目を見てそっと自分の意思を伝えた。
「待って、私も手伝うわ・・・私も和食を覚えたいの。」
「じゃあ、一緒にやるか。」
「ええ!」
掴んだ手が繋がって、仲良く浴槽を出る二人。中睦まじく脱衣所に消えて行った二人の明るい声が、夜の帳が落ち始めた魔法の森に消えて行った。
「魔理沙、魔理沙っ!」
「アリス・・・アリスっ!もっと・・・一つに!」
「ええ、私達の・・・全てを一つに!」
「よし・・・ここまでは順調だ。後は・・・んうっ?」
「どうしたの、魔理沙?」
「ヤバい・・・アリスッ!」
「えっ・・・で、でも!」
「も、もう、そんなに長く持ちそうにない・・・」
「分かった・・・此処に出して・・・魔理沙っ!」
「あ、アリス!!出すぞ!!!」
次の瞬間、凄まじい恋色の魔力の奔流が、幻想の夜空を切り裂いた。魔理沙は息を荒げながら上海と蓬莱が開けてくれた窓と、未だ魔力が反応している自分の手を見ながらその場にへたり込んだ。
「危ない危ない、魔力がオーバーロードする所だったぜ・・・生命創造の魔法どころの話じゃ無くなるとこだったぞー」
「んもう、無茶しすぎよ。魔力の増幅を一気にしたら、負担も大きくなるのに・・・」
そっとアリスに寄りかかる魔理沙。この二人の魔力は、永夜事変での通常攻撃で実証された通り同調しやすい性質があるのだが、それを生かして、莫大な魔力を消費する生命創造の魔法の完成の為に魔力を同調させていたのである。
しかしながら、莫大な魔力ともなればコントロールが難しく、溜めこんだ魔力の暴走を引き起こしたが最後、自分の身を破壊しかねない。それを避けるため、魔理沙はその増幅した魔力をいつも通り弾幕に変換して撃ち出したと言う訳である。
「うーん、でも同調させたら恋のように一気に膨らんでいくイメージでだなー」
「そうねぇ。感情をそういう風に持って行って魔力を増幅させるのは、確かに効率は良さそうだけどね。」
色々とあーでもない、こーでもないと思案しながら色々な可能性を模索していく魔理沙。アリスもその話を聞きながら、アドバイスや意見交換を交わしてゆく。問題点はあっという間に整理され、今後へ繋がるデータが二人の中に蓄積されていった。
ある程度それが纏まって一息ついた時、アリスは魔理沙の左手をそっと握って。
「恋は焦らずって言葉もあるでしょ?」
「アリス?」
「じっくりと愛に至るまで暖めるから、素敵なのよ・・・私達のように。」
「そうだな。」
恋色の輝きが二つ、魔理沙の家の寝室を照らす。その温かで優しい光に照らされた二人のココロは、温かな物で満たされる。
それは・・・心地良い、恋色に彩られた愛だった。
見つめ合って、静かな時間を過ごしていた二人であったが、やがてどちらからともなくベッドに入り、そっと寝そべった。そのまま自然と二人は寄り添い、距離が限りなく0へと近づいて行く。
二人の距離と心の距離が・・・
「さって、今日は残念だったが・・・」
「そうね・・・でも、きっと何とか出来るわよ。」
「ああ、私達には不可能は無いもんな。」
「恋色の魔法には、ね。」
真っ赤になった顔を見つめ合う二人、恋人握りをして。そっと口づけを交わす。長い長い口づけは、二人が今日と言う恋色に彩られた日を仲良く過ごせた事へのお互いに送る感謝の気持ち。
離れた二人の息は少し荒かったけど、それでもココロは落ち着いていた。
「・・・愛してるぜ、アリス。」
「うん、私も愛してる。魔理沙。」
そして、魔理沙とアリスは愛を燃やす。今、この時と言う一生に一度しか無い瞬間を、大切な人と共に過ごすと言う幸せを分かち合いながら、幻想の夜は更けて行き・・・今日と言う掛け替えの無い日が終わる。
愛を確かめ合った二人は一緒に迎える恋色の朝を夢見て、眠りに落ちた・・・
相当刺激が強いので、服用の際は苦めのコーヒーを片手にどうぞ。
―桜の季節が終わり、新緑萌ゆる頃のお話。
「魔理沙・・・ホントに乗るの?」
「アリス、準備良いぜ。さぁ・・・来て。」
「うん・・・でも、私・・・・・」
「アリス、もしかして、怖いのか?」
「そ、そんな事無いわよ。乗れば良いんでしょ、乗れば・・・」
「うん・・・アリス、おいで。」
「じゃあ、行くわよ。魔理沙・・・」
「あっ・・・」
ギシリというきしむ音が静まり返った夜の魔法の森のアリスの家でした。そして、ばねの跳ね返る音がギッギッと二人の耳に入る。かちゃ、かちゃという数度の小気味よい音の後、それは動きを徐々に止める。乗った時に恥ずかしかったのか目を閉じていたアリスが目を開くと、眼下に居た魔理沙がアリスを見上げて来る。
「・・・アリス」
「魔理沙ぁ・・・」
二人は思わず顔を見合わせた。アリスはただ恥ずかしそうに、そして対する魔理沙は驚いた表情を見せ、視線は一点を向き止まる。
「・・・やっぱり、太ってる?」
「そのようだな・・・」
乙女にとっては認めたくも無い無情な事実を付きつける河童制の体重計。アリスは静かに体重計から降り、魔理沙が用意してくれた椅子に座ってはぁと大きな溜息をついた。
「毎日しっかり食べ過ぎかなぁ。」
「魔法使いは、食べなくても良いからエネルギーが余ってるんじゃないのか?」
「うん・・・消費はしてるけど、魔理沙ほどじゃあ無いわねぇ。」
髪を乾かして貰いながら、アリスは視線を落とした。出るところはしっかり出て、魔理沙も羨むスタイルではある。だが、体重が増えたとあっては、乙女心に与えるダメージはかなり深刻である。はぁ、ともう一つ溜息をついたアリスは、魔理沙の方を見る。
「魔理沙は、太らないわよねー」
「ああ、食べた分は消費してるんだぜ。でも・・・」
「消費しすぎる、と。」
「そう言う事だぜ・・・はぁ。育たないんだよなぁ・・・全く。」
胸を気にしながら、魔理沙が溜息をついた。無駄が無く、しなやかな事が見てとれるスタイルの魔理沙であったが、残念ながら女としての魅力にはイマイチ乏しい。
髪を乾かし終わった魔理沙は八卦炉をそっと横に置いた、すると人形達がやってきてお揃いのパジャマを二人に差し出す。バスタオルとパジャマを交換した二人は各々でもそもそと着替え始める。なお、前のボタンはお互いにかけあうのがこの二人の愛情表現でもある。
「うーん、幸せ太りとは良く言ったもんね。」
「まぁ、大丈夫だぜ。ちょっと運動したら、どうとでもなる。」
「でも、私、魔理沙程激しく動き回れないわよ?」
「いつもの・・・アレでも良いんだぜ。早速・・・するか?」
「うん、やりましょ。」
パジャマのボタンを締め終わった二人は恥ずかしそうではあったが、どちらからともなく手を繋ぎ、仲良く脱衣所を出ていった。
「あぁ・・・魔理沙、もっと、もっと・・・ふぅっ、はぁああっ」
「そう、そう・・・お、良い感じ。ようし、じゃあもう少し行くぜ・・・」
「くうっ・・・・っ、魔理沙ぁ、もっと、ゆっくり・・・お願いぃ。」
「よし、じゃあこれでどうだ・・・」
「うん、これならぁ・・・あぁっ!」
「どうした!アリスっ?」
「あっ、も、もうダメ!あ、あ、い、痛たたたっ!」
「アリス、ごめん!すぐにどくから!」
そう言って魔理沙はアリスの背中から離れた。上体をしっかり前に倒し切ったアリスは、大きく息を吐きながらそっと上体を起こす。
「あぁ、背中の筋が切れるかと思ったわー」
「まぁ、それでもストレッチも大いに進歩してるんだぜ。最初は全然ダメだったじゃないかー」
ふぅ、と息を付くアリスの手を取って立たせる魔理沙。そして、そっと手を繋ぐ。
「まぁ、これも訓練のおかげね。」
「そうそう。やれば、私達には出来ない事なんて無いんだぜ。」
息が落ち着いた所で、魔理沙がその場に座って上体をそのまま倒した。アリスの補助なく、ぺったんと下につく柔軟な身体を見てアリスは思わず感心した。
「やっぱり凄い・・・」
「普通だぜ?」
どんどん柔軟をしていく魔理沙にただただ感心しながら、その様子を眺める。程なくして概ね完了したのか、小さく息を吐きながら立ち上がった魔理沙はアリスに。
「じゃあ、アレ・・・やってみるか?アレなら、良い運動になるんだぜ。」
と持ちかけて来る。最愛の人の提案に目を輝かせたアリスは、コクリと頷き同意の意を示す。魔理沙は白い歯を見せ、最愛の人を見る。そして、そっと抱きつく。
「大丈夫だぜ。どんなアリスでも、私は大好きだからな・・・」
「魔理沙・・・私もよ、大好き。」
抱きつき返すアリス、そうして体温を分け合う二人。もう寒くは無いのだけれども、こうしていると、お互いの気持ちとかが全部伝わってくるような感じがするのだとか。
そして、口づけを交わしてから、そっと離れる。
「ようし、そうと決まれば早速・・・うん。」
「成程、じゃあ、今日は・・・」
「そういうこと、だぜ。」
魔理沙が手を取り、そっと寝室までエスコートする。ドアを開けて部屋に飛び込み、ベットに二人で潜り込んだ。もそもそと所定の位置に付き、ぎゅっと身を寄せ合ってから見つめ合う。
自然と甘いムードになって、お互いのココロがグッと惹かれあうのをしっかりと感じた二人の目はトロンとしている。
「じゃあ、アリス・・・」
「ええ。魔理沙・・・」
どちらからともなく、深いキスを交わす。この深い深いキスは二人が今日も愛を貫き愛を育んで生きた来た事の証明でもある。そのキスとお互いの温もりと優しさでココロを満たした二人は、そっと抱きつき、愛する人の全てを受け止めた・・・
「えっ、魔理沙・・・そんなの無理だわ・・・・・」
「そうは言うがなアリス、此処はまだまだ・・・」
「確かにそうだけど、ねぇ。それでも、これは少しキツいわ。」
「大丈夫、私が傍に付いているから、さぁ・・・アリス。」
「わかった・・・頑張る。」
「そうだ、それでこそアリスだ。」
「はっ・・・はっ・・・はっ、ま、まりさぁ・・・」
「あぁ、仕方ないなぁ・・・えいっ!」
「もう、らめぇええええええっ!」
「はぁ・・・まりさぁ、やっぱり登り坂はきついわ・・・」
「最悪はおぶってやるから、頑張れ、アリス。」
「うん、頑張る・・・でも、魔理沙もこのコースを走ってたの?」
「ああ。魔法には体力も不可欠だからな。タフじゃ無きゃ野魔法使いの名折れだぜ。」
身軽な運動用の服装で固めた魔理沙がこれまた運動用の身軽な服を着たアリスの背中を押して坂道を登る。体重を気にしていたアリスの為に、魔理沙が運動したら痩せると提案したから、この二人は朝からこうして運動に励んでいただけである。
だが、アリスはそんなに身体的な能力は高くは無い。故に日頃から鍛えている魔理沙の方が体力があるため、このような展開になってしまったのであるが・・・
「都会派も有事に備えて鍛えておかなきゃいけないもんねぇ・・・」
「そうそう、その意気だ。お、もうすぐ天辺なんだぜ。」
「わ、分かった・・・もう少し頑張る。」
ゆっくりと、ゆっくりと歩くようなスピードで坂を登り切ったアリスは、視界の先に開けた光景を見て思わず感嘆の息を漏らした。自分の住んでいる魔法の森を一望するその光景は、彼女にとっては何よりの癒しとなったようだ。
「この道を走って来たのね。」
「そういう事だぜ。ここまで来ると、あんなにちっぽけに見えるのが不思議だよな。」
「ホントねぇ。普段、空を飛ぶからこう言うのって、あんまり気が付かないけど・・・。空を飛べる事って、凄い事なのね。」
「私は、初めて空を飛んだ時にもっとそう思ったよ。」
そう言って風景を眺める魔理沙の遠い目にアリスはキュンとしていた。色んな物を見て来た彼女の目には不思議な魅力があるようだ。そんな目とアリスの目が合って、嬉しそうな様子の魔理沙は、そっと背中のリュックサックからお弁当を取り出した。
「じゃあ、ご飯にしようぜ。ほれ、これアリスの分な。」
「うん。ありがと。」
魔理沙がお揃いのお弁当箱をアリスに渡すと、嬉しそうな顔をしてそれを開ける。釣られて笑う魔理沙も、どこか嬉しそう。お弁当箱の中には、可愛らしいおにぎりと卵焼きと魔理沙特製の煮物が慎ましく入っている。
「へへ、こう言う所で食べるおにぎりは最高だよな。」
「しかも、魔理沙特製だもん。それだけで99点あげても良いわね。」
「あれ?100点じゃないのかー」
「後の1点は・・・魔理沙。」
「そう言う事か。じゃ、ほら、あーんだぜ。」
お互いに食べさせあう二人。特製のお弁当はそれだけでも美味しいけれども、こうやって一緒に食べると美味さは倍増するものだ。
燦々と輝く太陽と優しく吹く風に身を任せて食事を取る二人はとっても穏やかな時間を過ごし、お弁当をすっかり平らげてしまった。
「ああ、美味しかった。」
「お粗末様、なんだぜ。」
水筒に入れていたお茶を呑みながら、魔法の森を眺める二人。暫くはまったりとしていたが、魔理沙がアリスの耳元でこんな事をのたまった。
「・・・じゃあ、食事も済んだし・・・な。」
そのトーンから意図を察知したアリス。すると、魔理沙の耳元に口を寄せて、しっかりとこう答えた。
「もう・・・魔理沙ったら。せっかちね・・・・・」
そう言い終わった二人は頬を赤らめたまま連れ立って立ち上がり、その場を後にした。
「ふぅ、ふぅ・・・・・魔理沙、こんな所で大丈夫なの?」
「ああ。大丈夫だ、信じるんだぜ。」
「ホント、魔理沙って元気ねぇ・・・はぁ、はぁ・・・えっ、本当に入るの?」
「そうだぜ、入るんだぜ・・・嫌か?」
「嘘・・・まぁ、良いけど。もう・・・・ちょっと、はぁ、はぁ・・・ふぅ!」
「よーし、アリス、このままいくぜ!」
「魔理沙、貴女・・・かはっ。はぁ・・・っ。」
「・・・うん、そこの木陰で一回休憩しよう。」
「ぷはぁ、朝からだとジョギングも結構きついわねぇ。」
昼下がりの魔法の森。運動着姿の魔理沙とアリスが、木陰で寄り添い一休み。程良く疲れた魔理沙が息を懸命に整えるアリスを持たれかけさせる。少し汗ばんでいるのをハンカチで拭っていると、二人の間に心地良い風が吹いた。
「でも、こうして見上げる空も綺麗ね。」
「だろ?飛んでるだけじゃ、見えないものもあるんだぜ。」
生い茂る木々の向こうから指し込む木漏れ日、そして青い澄んだ空を見上げるアリス。横では魔理沙も同じ空を見上げている。風でそよぐ魔理沙のいつものお下げを手で掴みそっと撫でる。
「あら、リボンが緩んでるわよ。結び直しておくわね。」
「悪いな、アリスー」
手慣れているのか、直すまでにかかった時間はごくわずかだった。今日はアリスのケープにも使うお揃いのリボンでバッチリと決めた魔理沙。肩を寄せ合って、並んで過ごす二人の手はしっかりと握られている。
仲良く空を眺めて、新鮮な空気を吸って息が落ち着いて来た所で、アリスは立ち上がった。
「ごめんなさい、そろそろ良いわよ。」
「おう。謝る事なんて無いぜ、出来ればこのままアリスの膝枕でも良かった位なんだが・・・」
「でも、それじゃ私のダイエットにならないから、それは帰ってからね。」
「やったぜー、ありがとなーアリス。」
アリスに手を引いて貰って立ち上がった二人は、黙々とジョギングを再開する。少し先を走る魔理沙は本当に楽しそうに走っており、ちょっと苦しそうなアリスとは対照的。普段から鍛えている魔理沙とそうでないアリスの差が出ていると言った所か。
それでも、一緒に飛ぶ事とはまたちょっと違う風景を楽しみながら懸命に走る二人の表情は輝いていた。
そんな調子でじっくりと身体を動かした魔理沙とアリスは、太陽が沈む頃には魔理沙の家の前まで帰って来ていた。
「はぁ・・・はぁ。」
「よーし、アリス、良く頑張ったんだぜ・・・」
「何度か天国が見えそうだったけどね・・・」
「そうか・・・じゃあ、ちょっと失礼するぜ。」
肩で息をするアリスに魔理沙がそっと近寄りヒーリングをかける。治癒の呪文はそれほど得意じゃ無かったけど、アリスが何時もかけてくれるのを見て覚える・・・否、魔理沙流に言うなら盗むと言った所であろうか。
アリスのそれと同じく優しい光がアリスを包んで、アリスの疲労が癒されてゆく。息が落ち着いたアリスは、お返しにと魔理沙にヒーリングをかけてあげる。
「あぁ・・・やっぱりアリスには敵わないんだぜ。」
「そう?でも、魔理沙もこの短期間ですっごく上手になったわよ。」
「先生が最高だからな。」
「ふふっ、ありがと。」
魔力をこうやって交わすのも、この二人の大切なコミュニケーション。お互いの魔力がお互いに注ぎこまれ疲れを癒してゆく。言葉を交わす、身体に触れる、そしてココロを通わせるのとはまた違う二人の大切な交流の仕方なのだ。
すっかり疲れも取れて、走る前のような状態に戻った魔理沙とアリスは
「さて、丁度良い時間になったし・・・」
「そうね。ご飯にしましょ。」
「おう。」
家のドアにかかっていた魔力施錠を解錠し、魔理沙が入る。そして、アリスが靴を揃えながら入ると、魔理沙が両手を広げて待っていた。
「おかえり、アリス・・・」
「ただいま、魔理沙。」
魔理沙にすっぽりとくるまれて、幸せそうなアリス。少しの間抱き合っていたが、やがて魔理沙がこんな事をアリスに聞いて来た。
「お風呂にするか、それともご飯?それとも・・・私?」
その一言に耳まで真っ赤にするアリス、魔理沙が気恥ずかしさのあまりぷいと横を向いてしまったが、ちょっと違和感を感じたアリスがそっと離れたいなって意思表示を送る。その意思表示を正確に読み取った魔理沙は、アリスの肩を持ってそっと距離を取る。
「どうしたんだ?アリス。」
「汗かいてベタベタだから・・・ね。」
「そっか・・・じゃあ・・・・・」
「ええ・・・」
人形を操りバスタオルやら替えの服等を用意するアリス。魔理沙はそれを見てアリスの手をしっかりと握って脱衣所の方へ駆け込んだ。
「ひゃんっ、アリス・・・そこは・・・・・」
「ほら、だぁめ。じっとしてなさい。ここ、こすったら何時もこうね。」
「そうは言うが・・・きゃっ。」
「魔理沙・・・可愛いわ。」
「だって、アリスがそんな事するから・・・あっ!」
「大丈夫よ、そのまま身を任せなさい・・・魔理沙。」
「あっ、そこ・・・う、ああ、あ、ああっ!!」
「ちょっと、魔理沙。背中こすっただけじゃなーい。」
「でも、だって・・・アリスの、気持ち良いんだもん。」
泡に包まれた魔理沙が同じく泡に包まれたアリスにふくれっ面をする。それに細くて長い指を突き立てて魔理沙にぷしゅーと言わせるアリス。
それを何度も何度も繰り返す二人の文字通りのスキンシップ。烏天狗が居れば、一面記事になっても仕方ないような光景だ。
わしわしと背中を洗うのを再開したアリスに完全に呆け切っている魔理沙は、とっても幸せそう。
夢見心地の感覚に包まれた魔理沙は、そっとアリスにもたれかかった。
「ああ、此処が天国なんだぜ・・・」
「ふふっ、そうなの。」
「暖かくて心地良くってさ。ホント、幸せだ、ってぷぱっ」
そう言うか言わない時に身体を洗い終わったアリスがシャワーを魔理沙にかける。頭をぶるぶると振り回すと美しい金色の髪が舞い、滴が周囲に飛び散る。
魔理沙が振り返ると、シャワーを持って悪戯っぽくほほ笑むアリスの姿があった。
「おーい、アリス・・・いきなり何すんだよー」
「天国は貴女だけの物じゃないわよ。私も、平等に得る権利があるわ。」
「それはつまり・・・」
「そういうこと、魔理沙。私もお願いね。」
タオルとシャワーを受け取った魔理沙はアリスの後ろに回る。珠のような美しい白い肌がちょっと上気したのか、ほんのりと朱に染まっている。わしゃわしゃとタオルに石鹸を付けて泡立てる魔理沙であったが先ほどの悪戯をされたままでは何となく気が済まなかったのか、タイミングを見計らって行動に映る。
「よくもやってくれたな、このー!!」
「きゃっ!」
激しいが、それでも優しくアリスの背中に触れる魔理沙。くすぐったそうにしているアリスに構わず、わしゃわしゃと背中を洗いながら身体を寄せた。うりうりと言いながら身体を洗う魔理沙の表情も、くすぐったそうにじゃれて来る魔理沙を見るアリスの表情もとっても明るい。
それでも、ちゃんと仕事はこなすのが魔理沙流。ちゃんと洗い終わった二人は、また湯船にそっと浸かった。
「ふう・・・」
「んもう、お風呂入る前より疲れたら意味ないじゃない。」
「いいじゃあないか。楽しかったんだし。」
「それはそうだけどさぁ・・・」
ちゃぷんという音がして、そのまま消え入る。ほうと、溜息を二つ付けば、心地良く疲れがお湯に染みだしていくようだ。何度か溜息が湯気と共に消えた時、魔理沙が閉じていた目を開けて、アリスの方を見て
「それにこんな調子だと・・・な。」
顔が赤いのは温まっているからか、ドキドキしているからか。触れる肌からそれを読みとったアリスも釣られてドキドキしてしまう。
このドキドキはお互いに大好きな事なんだけれども、もどかしさや恥ずかしさを含むので何とも言えない雰囲気が二人の間に広がって行き、それが更にドキドキを加速させてゆく。
「それはどう言う意味?」
アリスがわざとすっとぼけた顔をして聞いてみる。すると魔理沙は、ふっと表情を崩してから、耳元で囁く。
「今晩、私の部屋に来れば分かる事だぜ。」
言葉は要らなかった。ドキドキをコントロールしながら、アリスはそっと魔理沙の前で頷き、彼女の目を見た。
扇情的で情熱的な目では無く、優しい見慣れた目の輝きがそこにあって、ちょっとだけホッとするアリス。安堵の表情を浮かべたアリスに魔理沙はうんと頷いて
「んーでも、まずは夕飯だな。アリス、今日は私の特製ダイエット食をご馳走しよう。」
「やった、凄く楽しみ。」
「そうと決まれば、早速始めるぜ。先に上がるけど、アリスはこのままゆっくりしてても良いぜ。」
そう言いながら湯船から出る魔理沙の手を掴むアリス。慌てて後ろを向く時に跳ねた水滴がアリスにかかったが、アリスはそれを払おうともせずに振り向いた魔理沙の目を見てそっと自分の意思を伝えた。
「待って、私も手伝うわ・・・私も和食を覚えたいの。」
「じゃあ、一緒にやるか。」
「ええ!」
掴んだ手が繋がって、仲良く浴槽を出る二人。中睦まじく脱衣所に消えて行った二人の明るい声が、夜の帳が落ち始めた魔法の森に消えて行った。
「魔理沙、魔理沙っ!」
「アリス・・・アリスっ!もっと・・・一つに!」
「ええ、私達の・・・全てを一つに!」
「よし・・・ここまでは順調だ。後は・・・んうっ?」
「どうしたの、魔理沙?」
「ヤバい・・・アリスッ!」
「えっ・・・で、でも!」
「も、もう、そんなに長く持ちそうにない・・・」
「分かった・・・此処に出して・・・魔理沙っ!」
「あ、アリス!!出すぞ!!!」
次の瞬間、凄まじい恋色の魔力の奔流が、幻想の夜空を切り裂いた。魔理沙は息を荒げながら上海と蓬莱が開けてくれた窓と、未だ魔力が反応している自分の手を見ながらその場にへたり込んだ。
「危ない危ない、魔力がオーバーロードする所だったぜ・・・生命創造の魔法どころの話じゃ無くなるとこだったぞー」
「んもう、無茶しすぎよ。魔力の増幅を一気にしたら、負担も大きくなるのに・・・」
そっとアリスに寄りかかる魔理沙。この二人の魔力は、永夜事変での通常攻撃で実証された通り同調しやすい性質があるのだが、それを生かして、莫大な魔力を消費する生命創造の魔法の完成の為に魔力を同調させていたのである。
しかしながら、莫大な魔力ともなればコントロールが難しく、溜めこんだ魔力の暴走を引き起こしたが最後、自分の身を破壊しかねない。それを避けるため、魔理沙はその増幅した魔力をいつも通り弾幕に変換して撃ち出したと言う訳である。
「うーん、でも同調させたら恋のように一気に膨らんでいくイメージでだなー」
「そうねぇ。感情をそういう風に持って行って魔力を増幅させるのは、確かに効率は良さそうだけどね。」
色々とあーでもない、こーでもないと思案しながら色々な可能性を模索していく魔理沙。アリスもその話を聞きながら、アドバイスや意見交換を交わしてゆく。問題点はあっという間に整理され、今後へ繋がるデータが二人の中に蓄積されていった。
ある程度それが纏まって一息ついた時、アリスは魔理沙の左手をそっと握って。
「恋は焦らずって言葉もあるでしょ?」
「アリス?」
「じっくりと愛に至るまで暖めるから、素敵なのよ・・・私達のように。」
「そうだな。」
恋色の輝きが二つ、魔理沙の家の寝室を照らす。その温かで優しい光に照らされた二人のココロは、温かな物で満たされる。
それは・・・心地良い、恋色に彩られた愛だった。
見つめ合って、静かな時間を過ごしていた二人であったが、やがてどちらからともなくベッドに入り、そっと寝そべった。そのまま自然と二人は寄り添い、距離が限りなく0へと近づいて行く。
二人の距離と心の距離が・・・
「さって、今日は残念だったが・・・」
「そうね・・・でも、きっと何とか出来るわよ。」
「ああ、私達には不可能は無いもんな。」
「恋色の魔法には、ね。」
真っ赤になった顔を見つめ合う二人、恋人握りをして。そっと口づけを交わす。長い長い口づけは、二人が今日と言う恋色に彩られた日を仲良く過ごせた事へのお互いに送る感謝の気持ち。
離れた二人の息は少し荒かったけど、それでもココロは落ち着いていた。
「・・・愛してるぜ、アリス。」
「うん、私も愛してる。魔理沙。」
そして、魔理沙とアリスは愛を燃やす。今、この時と言う一生に一度しか無い瞬間を、大切な人と共に過ごすと言う幸せを分かち合いながら、幻想の夜は更けて行き・・・今日と言う掛け替えの無い日が終わる。
愛を確かめ合った二人は一緒に迎える恋色の朝を夢見て、眠りに落ちた・・・
筈なのにめちゃくちゃに甘いぞ・・・?
コーヒーだと思ったらこれ黒砂糖じゃねえか…
ニヤニヤが止まんねぇんだどうしてくれる。
まあ、それは良いとしてグッジョブでした!!
凄まじいまでの糖分ですw
甘ーーーーーーいマリアリごちそうさまでした!
さて、塩は何処にあったかな・・・