Coolier - 新生・東方創想話

母を訪ねて青い鳥

2012/04/27 01:34:15
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「お姉さまお姉さま」

紅魔館の一室。吸血鬼の姉妹が寛いでいた。片方はレミリア・スカーレット、紅魔館の主であり、姉妹の姉である。青白い髪と蝙蝠の羽を持った幼い見た目の吸血鬼。その力はこの幻想郷においてもトップクラスのものであるが、豪奢なベッドに寝転がっている限りにおいては、どこかの国のお姫様のようでもあった。
今声をあげたのはもう一人。レミリアの妹、フランドールスカーレット。レミリアと姉妹とは言うものの、風貌は若干異なり、宝石をちりばめたかのような羽と、太陽のような金色に輝く髪をしていた。フランはレミリアと鏡写しのように寝転がりながら続けた。

「うん。お姉さまはお姉さまよね」

美しい金色の髪がシーツと背中に挟まりくしゃくしゃになっているがそれを気に留める様子も無い。
レミリアは妹の言葉が理解できずに聞き返す。

「そりゃあ、まぁ、姉だけど」

レミリアからしてみてもこの妹が理解できないのは日常茶飯事でもあったので軽くいなす。
ここでレミリアがほかの反応をしめしていたらほかの展開もあったのかもしれないが。

「お姉さまは、お姉さま、私は、妹」
「そう、ね」

肯定はするものの、レミリアには既にいやな予感しかしていなかった。この妹が、自分からなにかを言い出したり、やりだしたりして、良いことが起きたことなど一度も無いのだから。

「母様はどこかしら?」

ぴしっとレミリアの表情に亀裂が走る。

「自然発生した妖怪ならともかく、姉妹、お姉さまがお姉さまで、私が妹、同時発生した妖怪が双子を名乗ることもあるんでしょうけど、私たちの場合はそこに、五年も間が開いてるわ、ということは、どこかに母様がいるはずなの」

理屈は、わかる。筋も通っていなくはない。
おかしいのは、何よりもおかしいのは。
フランドールがこんな理屈でものを考えた、ということが一番おかしい。

「ちょっと、フラン!?」

姉の静止の声なんて聞こえてないかのようにフランドールはベッドから飛び起きると上着を着始める。
羽が邪魔になって上手く着れなかったのか、首が出ていない状態で諦めたようで、

「ではお姉さま、五百年も生きて母様の姿すらボケて忘れてしまったお姉さまの代わりにフランが母様を探
してきますわ」

服を通したくぐもった声がレミリアの耳に届く。

「待ちなさいフラン、大体母親なんて幻想郷にいるわけ」

ドンッと破壊音が響く。
見れば壁にぽっかりと丸い穴があいていた。

「では行ってまいります」

臍が丸出しのままフランは飛んでいってしまった。

「あ・・・・・・ぼ・・・・・・ボケてなんてないわよ!っていうか、五年しか変わんないじゃない!!」

レミリアの叫びは残念ながらフランには届かないのであった。
壁の穴を見つめながら一人残されたレミリアは呆然と立ち尽くす。

「曇天だから一人でも平気でしょうけど・・・・・・・・・」

そこに扉が開き一人の女性が部屋に入ってきた。

「レミィ、どしたの?大きな音がしたけど」

全身を紫色の染料で染めてしまったかのようなかっこうをした女性はパチュリーノーレッジ。レミリアの長年来の友人であり、紅魔館の住人である。普段は図書館に篭っているのだが、面白そうな匂いをかぎつけてきたらしい。

「えーっと、なんていうか、フランが母親探しにでたのよ」
「あーなるほど」
「え!?今ので理解してもらえるの?」
「そりゃ何年アンタの友人やってると思ってるのよ」
「嬉しいわ、わた」
「というのは冗談で、昨日あの子に言われて本を読んでたんだけど」

パチュリーの言葉に少し目をうるませていたレミリアは冗談と聴いた瞬間、ジト目になった。

「本って?」
「『母を訪ねて三千里』」
「どういう話なの?」
「えっと、すごくかいつまむと、小さい子が母親を探しに良く話よ」
「タイトルと情報量が変わってないわよ、それ」
「しかし、まぁ、母親、か」

立っているのに疲れたのかパチュリーはベッドに腰掛ける。

「探しに、ったって、いるの?」
「いないでしょ」

二人の不安を象徴するかのように、空は雲を湛えていた。


紅魔館から湖を挟んで向かい側、魔法の森の奥に一軒の家がある。
その中では紅魔館では何が起きていたかなんてことまったく知らずに霧雨魔理沙が自らの研究(実験とも言う)に没頭していた。

「ふふふふ~ん♪ふふふふ~ん♪ふふふふん♪ふふふふん」

のりのりである。

「ま~~~~り~~~~さ~~~~~!!!」

何だと振り返るまもなく、魔理沙は吹き飛ばされていた。

「ななんあななあ!?」

一瞬の間に部屋は酷い有様になっていた。
壁は崩壊し、物という物が破壊され、砕けちぎれ、使えるものなど何も無いのではないかという有様だった。
そして、魔理沙の上には、首の無い何者かが馬乗りになっていた。

「うううわわあああ!?」

逃げ出そうともがくが、明らかに魔理沙よりも小さなその体格の人物を魔理沙は跳ね除けることが出来ない。

「わかったわ。魔理沙が母様だったのね!!」

その時羽に引っかかっていた服が激突の衝撃で外れたのか、フランが顔を見せる。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。え?」

破壊された壁やらは放っておくとして(後で紅魔館の奴らから賠償金を取り立てようと魔理沙は心に決めた)問題は突撃してきた人物だ。フランドール・スカーレット。悪魔の妹にして幻想郷の中でも要注意人物筆頭。
下手を打てば一瞬でトマトジュースと化してしまう。

「フランドールじゃあないか。一体何の用だっていうんだぜ」
「魔理沙は本当は私とお姉さまの母様なの!」

(だめだぁあああ!!話が通じる気がまったくしないいぃぃぃい!!!)
てきとーな妖怪や、人間なら頭を叩いて「そうか、頭がおかしいんだな、帰って飯食って寝ろ」といってやるところなのだが。自分が飯になる可能性を考慮すれば中々に勇気の要る選択だろう。

「えーと。何で私がフランの母親なんだ?」
「髪の色がいっしょでしょ!!」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

天使のような笑顔でそう言い放つフランドールが魔理沙には悪魔にしか見えなかった。
魔理沙も引きつった笑みを浮かべながらどうにか話をつなげる。

「・・・・・・・・・・それだけ?」
「うんっ」

(ほかにもいるだろおおおお!!!たくさんよぉおおお!!・・・・・・・・ってあぁ、こいつは知らないのか)
魔理沙の頭の中をたくさんの金髪が駆け抜けるが、基本的に紅魔館から外に出ないフランドールは知らないのだろう。

「えっとね。フラン。冷静に聴いてほしいんだけど」
「なに?母様」

(この時点で冷静じゃないいい!?)

「実は私は母親じゃないと思うんだ」

意を決して魔理沙は告げた。
心臓の音が早鐘のごとく鳴る。
しかし、フランの反応はやはり魔理沙の想像を超えるものだった。

「母様。こんな言葉を知ってる?間違ったものを全て排除していけば、残ったものが真実である」
「う、うん?消去法万能説?」
「だから、今から母様じゃない魔理沙(間違ったもの)を私の力で破壊してくね。そしたら母様である魔理沙(真実)が見つかると思うんだ」
(何も残らないいい!!!)
「待て待てまて落ち着け落ち着け。な、ほら、フランって何歳だっけ?」
「娘の年も忘れたの?」
「娘じゃ――――はい、娘じゃないなんて言おうとしてないよ?そ、それに年も知ってるよ?大体だけど500歳くらいだよね?」

腕にしがみついているフランの握力が骨を粉砕する直前まで強化され、魔理沙はしどろもどろになりながら答える。

「ほら、実は私ってまだ、正確には諸々の事情から言えないけど、30歳には程遠いでしょ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「時間軸的に考えて少しおかしいと思うんだけど?どうかな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?」
(通じた!!!言葉が通じた!!)
「じゃあ、母様は?」

うるんだ瞳でフランは魔理沙を見つめる。

「私の母様はどこにいるの?」
「いな―――――いわけないからさ。ね?どこかでフランのことを見てたりとか、ね?」
「・・・時間軸的におかしくない母様はどこにいるの?」
(なんで泣きそうなんだ!?っていうか、私が泣きたい!!この500歳め!)

500年生きてると言った所で、誰とも接しない年月になんの意味があるだろうか。
フランの精神は、幼い子供のそれだった。

「時間軸的にって・・・・・金髪で?」
「うん。金髪で。だっで私の母様なら髪の毛は金色だと思うわ」
(金髪で、少なくとも500歳を超える年寄り・・・・・・・・・・・・。そんなのいたか?)
「・・・・・・・・・・・・・紫とか?」

想像上の紫に誰が年寄りか!!と怒鳴られた気がするが気にはしないことにする。

「誰?」
「誰と言われてもな・・・・・・・大体。なんで急に母親なんだよ。探してどうするんだ?」
「家族は一緒にいるものでしょう?」
「なんでピンポイントに私の心を削ってくるんだよ・・・・・・・・・・・」
「じゃあ魔理沙も一緒に行こう。家族の暖かさを忘れてしまった哀れな魔理沙のために私が頑張ってそれを思い出させてあげるわ」
「うん。私の都合は?」
「却下」

先ほどの泣き顔はなんだったのだろうかと思うほどのいい笑顔でフランはそう言い放ち、魔理沙の手をとり、自分が入ってくるときに開けた穴から飛び出すのだった。



そのころの紅魔館。魔理沙の家に向かったことも、そこでどのような展開になったのかも知らずにレミリアとパチュリーはのんびりと紅茶をすすっていた。
紅茶のカップを優雅に置くとパチュリーが口を開く。

「母を訪ねて三千里は騙されて遠い地に売られてった母親を探す話なんだから。今一つ違うわね」
「私はそれ知らないけど。じゃあ今のフランのはなんだって言うのよ」
「私はどことなく青い鳥の話を思い出しましたわ、お嬢様」

紅茶を運んでからレミリアの背後に控えていたメイド、十六夜咲夜が口を開く。

「青い鳥?」
「とある兄妹が幸せの青い鳥を探して様々な世界を旅するお話ですわ」
「ふ~ん。フランは一人で行っちゃったけどね」

不満気な顔でレミリアは音を立てて紅茶をすする。当然、行儀が悪いと指摘するものはこの場にはいない。

「なに?レミィ。ふてくされてるの?・・・・なるほどね。あの子は母親という名の幸せの青い鳥を探しに行ったと。面白い解釈だわ」

団欒している紅魔館の外で門番が一人くしゃみをした時。
フランと魔理沙は目的地に突撃していた。

「母様~~!!」

まるで魔理沙宅の様子を再現するように八雲紫の根城は粉砕されていた。
(うわぁ。こんな様子だったのか。外から見ると、えげつないなぁ)
まるでフランに触れるのを拒むかのように破壊されていく物物。
魔理沙はフランに引きずられながら、そんなことを考えていた。

「で?」

額に血管を浮かせながら八雲紫は二人に問う。二人の式神は破砕された家財の修復を行っていた。
魔理沙はしゅんと、正座をして、フランはにこにこと笑っていた。

「魔理沙が、実は母様が母様なんじゃないかって言い出したから、来てみたの」
「いつの間にか私のせいみたいになってる!?」
「で?」

紫の眼筋がひくひくと痙攣していた。背後にはゴゴゴゴゴと恐ろしげな文字列が魔理沙には見えた気がした。

「いや、だからさフランが母親を探してて・・・・・・・」

魔理沙が説明を始めようとしてはたととまる。

「っていうか、張本人なんだからお前が説明しろよ」
「うん?母子の絆があれば言葉なんて不要よ」
「誰が母親じゃ」
「あなた」

紫を指差すフラン。

「なんで?」
「ほら、私と同じ髪の色~」

えへっと無邪気に笑う。
さらに紫の顔に血管が一本浮かぶ。

「そっちの白黒のも同じ色じゃないかしら?」
「だって魔理沙は私より年下だもの。魔理沙から聞いたわ。母様は結構な年寄りだって」
「誰が年寄りか!」
「あぁ!やっぱり怒った!ほら、な?そいつ500歳超えてるんだぜ?幻想郷でも軽くそれを超える年の妖怪となるとそんなにはいないだろ?」

紫がぐっと魔理沙を引き寄せる。
フランには聞こえないような声の大きさで話し始める。

「・・・厄介なの連れてくるんじゃないよ」
「仕方ないだろ」
「金髪なら森にもいたでしょ、なんか、暗いの」
「アリス?」
「そう、それ」
「人形大好きっ子で、娘の名前がフランドールってなんかあざといじゃん」
「そんな、どうでもいい理由であの子うちにつれてきたわけ?一瞬紅魔館のあいつが本気で私に喧嘩売りにきたのかと思ったわよ」
「あいつって、あぁ、レミリアか。ところでどうなんだ、本当は母親だったりとか」
「しないわよ」

紫の言葉に魔理沙はがっくりと肩を落とす。

「良いじゃん。もう母親で」
「じゃあアンタでもいいでしょ。ほとんど唯一肉親が確認されてるキャラとして暖かい家庭を築きなさいよ」
「なんで500歳の娘を持たなきゃいけないんだよ。割合で言うなら50の婆さんが娘になった2歳児とかだぞ、それ。そして、肉親ネタは私の心の傷を抉るからよしてくれ」

頭の中で光景を思い浮かべて暗澹たる顔を浮かべる。

「母様は先ほどから魔理沙と何を話しているの?」

話に入れなかったからか少し不機嫌な声でフランが口を尖らせる。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・魔理沙」

紫が肩をたたきながらとても素敵な顔で魔理沙を見る。

「後はよろしく」

言うが早いかスキマを広げて別の空間に逃げようとする紫だったが、紫が滑り込む瞬間前。
そのスキマが粉微塵に吹き飛んだ。
―――――。

「残念だったな」

諦めたかのような口調で魔理沙は言う。
何度か試すが何度やっても入る前に破壊されるスキマ。

「あら、母様いったいどこへ行こうと言うの?」

邪気しかない無邪気な笑顔を浮かべるフランドール。
フランドールの能力。ありとあらゆるモノを破壊する程度の力。

「・・・・・・・・・・・・・・いくらなんでもスキマを破壊するって無いでしょ。モノじゃないわよ?モノとモノの境界なのよ?」

紫の顔も流石に歪む。

「魔理沙、あんたはどうやって逃れたのよ」
「・・・・・・・・・・・論理的に自分が母親ではないことを証明する。かな」
「ふふふ、幻想郷の賢者とすら呼ばれた私の頭脳をなめてるのかしら?」
「賢者様には少々間が抜けた課題だとは思うが」
「ねえフランドール?」
「なに母様?」
「母親ということは、やっぱり、レミリアの母親でもあるわけよね?」
「そうだよ!お姉さまはもう母様のこと忘れちゃったみたいだけど」
「だとすると、髪の色だけで判断するのは少し曖昧じゃないかしら?だって、レミリアの髪の色は金色じゃないでしょう?」
「・・・・・・・・・・・・・・・あれ?」
「白というか青というか、不思議な色だけど。だからって同じ髪の色を探したって無意味だと思うの」
「・・・・・・・・・・・・・あれ?じゃあ、母様は?」
「二人の共通項を探して、そこから母親を探すのがいいと思うのよ」
「私と、姉さまの?」
「そう」
「はは~ん。羽だな」
「羽ね」
「はね?」

ぱたぱたと飛ぶことにはなんの役にもたたなそうな羽を揺らすフランドール。

「羽を持ってる妖怪っていうと、何人か思い当たるけど」
「でもフランの羽って、少なくとも天狗とかの羽とは似ても似つかないしなぁ」

妖怪が無数にいる幻想郷において、羽などというオプション。誰もが持っているようにも思えるが、実は意外なほど少ない。

「と、言ってはみたけど、私にはそんな変・・・・・・特別な羽を持った奴とか知らないのよね、魔理沙、知ってる?」
「特別な羽?」
(変な羽・・・・かぁ。というか、趣旨がずれまくってる気がするけど。フランが納得してるならそれでも良いか)
「最近見た気がするな」
「最近?」
「確か、あの宝船騒ぎのときだったと思うんだけど」
「あ~。私は詳しくは知らないけど。霊夢が騒いでたわね。ふ~ん。じゃあいってらっしゃい」
「・・・・・・・・・・?」
「なんで二人とも『何言ってるのこのおばさんみたいな目でみてくるのよ』・・・誰がおばさんか!」
「なにも言ってないぜ!?」
「まだ、魔理沙が母様でないことは証明されてないんだから、一緒に行くの。紫も一緒!!」

右手に魔理沙、左手に紫を携えてフランはまた、八雲紫の家を飛び出した。

どこへともなく連れ去られていく二人。
「ねぇ、魔理沙」
「あん?」
「なんか、私、段々この子が可愛く思えてきたわ」
「じゃあ母親になってやれよ」
「既に二児の母みたいなもんだし。それにレミリアもついてくるんでしょ?いやよ。あいつ嫌いだもの」

「くしゅん」
「いかがされましたかお嬢様」

場所は戻って紅魔館。やっていることは変わらない。紅茶の種類が変わり、茶菓子が少々変わった程度だ。

「いやな噂をされた気がするわ」
「フラクタルなのね」
「・・・・?」
「おそらくパチュリー様は非科学的と言いたかったのではないかと。フラクタルは幾何学ですが」

冷静に咲夜が指摘する。

「あぁ、それよ、それ」
「で。青い鳥がどうしたって?幸せを追っかけてってその兄妹はどうしたのよ。大金でも手にしたの?」
「俗物の発想よね」
「・・・・・・・・。じゃあなによ。永遠の命?」
「俗物の発想ね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お嬢様」

心底残念そうな口調で咲夜がレミリアを呼ぶ。

「・・・・・・・・・こしゃくな。じゃあ何だってのよ。幸せってなによ」
「それを探すお話なのですから・・・・・。お嬢様にとっての幸せはなんですか?」
「え?幸せ?・・・・・えーっと。幸せ・・・・・?」

レミリアは考え込むが答えはでないようだった。

「幸せってなにかしらね?」

そんな480年前には終わらせておくような疑問を口にする。そのころ、そんな疑問は数百年先まで持ちそうにも無い彼女の妹はとある森にいた。

「ひぃぃいい!!」
「見つかるもんだな」
「ま、それなりの力を持った妖怪なら見つけんのなんて簡単よ」
「あはは~この人が母様なのね?」

三人に囲まれた哀れな妖怪。
名を封獣鵺と言う。三叉の槍を震えながら構えているが、相手が悪い。
魔理沙、フラン、紫。破壊力だけならば幻想郷でも並び立つものがいないレベルのチームがいつの間にか形成されていたのである。それらに囲まれれば、鵺であろうとも逃げられるものではない。

「良かったな。お前がこいつの母親だ」

魔理沙は鵺の肩をぽんと叩いて激励する。

「え?あぁ!この前の人間!!」
「確かに、面白い羽ねぇ。なんの役にたつのそれ。刺すの?飛べそうにはないし」

紫は興味深げにつついている。飛ぶことに羽がいらないなんてことは百も承知だろうに。

「私のだって飛ぶのには役に立ってないから、お揃いだね母様」
「そうだな。確かにお前のも飛ぶための羽じゃあないな・・・・・って誰が母様か!!」

魔理沙は今までの事情をかいつまんで説明する。
それを黙って聴いていた鵺はしばらくたってから口を開く。

「わかった、お前ら馬鹿なんだな?」

パンッと何かが弾ける音がした。
見れば鵺の構えていた槍の穂先が消滅していた。
それだけではない、鵺の直下に謎の亀裂が発生し、鵺を飲み込もうとしていた。

「うぅっわ!?」

崖にしがみつくように体を支えているがそこに魔理沙が無言で八卦炉を構える。

「母様でもそんなこと言うのは許さないわ」

鬼のように笑うフラン。
その怒りとは別に魔理沙と紫の顔には同じ表情が浮かんでいた。
もう、何でも良いから、お前が母親ってことにしとけ。と。

「だって私母親とかじゃ、うわぁ!?」

胸のリボンが弾け飛ぶ。

「羽がなによりの証拠よ」
「羽だけ!?待て待て待て。私は鵺。な?鵺なの。そう、私は鵺だから、多分子供がいてもその子供は鵺だと思うんだ!!」
「・・・・・・・・・・・・」
「お前は吸血鬼だろ?ってことは、だ。親も吸血鬼のはずじゃあ」
『少なくとも知り合いにはもう吸血鬼なんていないんだぜ(いないわよ)』

魔理沙と紫の声がシンクロする。

「・・・・・・・・・・消去法で母親を探すなよ」

もっともな正論だったが、三人の心には届かない。正しさとはかけ離れた連中だから。

「それに、ほら、お前意味不明とか正体不明とかなんとか言ってただろ?もしかしたら吸血鬼かもしれないじゃん」
「今のお前らが意味不明だよ。っていうか、私は正体不明の妖怪なのさ」
「あぁ、じゃあ吸血鬼ってことでいいだろ」
「良いわね」
「母様~」
「良くないよ!?『正体不明』というキーワードを持った『鵺』という妖怪だから!!ある意味正体ばっちし分かっちゃってるから!!」

必死な鵺だった。
正体不明をポリシーにしてきた妖怪が、自ら正体が丸分かりだと宣言しているのだ。
とても憐憫を誘う光景だった。

「うーん。でも私もそろそろ母様を探すのはそろそろ最後にしたい感じなの」
「ああ!!そういえば!!湖の近くでお前に似た髪をした何の妖怪か分からない奴見た!!見たよ!ほんとに!!そいつに違いない!!実に正体不明だったもん!!お前の帽子に付いてるリボンっぽいのも付いてたし!!なに!?住んでる所が湖から近い!?むしろ隣!?なるほど、あれはきっと娘を見守っていたに違いない!!」

鵺が必死に言葉を紡ぐ。記憶を手繰り、どうにかして無理にでもフランの新たなる母親候補を見つけるために。

「・・・・・・・うん!!今度こそ母様な気がしてきた!!」

フランが目を輝かせ、後ろで二人がげんなりし、鵺はほっとした表情を見せた。
必死な言葉。それはいつの時代も心に届くものだ。
というより、フランにとっては最後の言葉が漠然と彼女の思う親子像に合致したのだろう。
しかしほっとしたのもつかの間だった。フランの羽が棘付きの鞭のように鵺に絡みつく。

「さぁ!みんなで母様を探しに行こう!!」
「えぇ!?」
右手に紫、左手に魔理沙、羽には鵺を引き連れてフランは飛ぶ。
その光景は、母を訪ねて三千里でもなく、青い鳥でもなく、グリム童話の白鳥くっつけのようであった。


首を容赦なく締め付ける羽に鵺が失神寸前で踏みとどまっているとき、そんなことが起きてるとは露ほども知らずに紅魔館ではお茶会が続いていた。

「咲夜、じゃあアンタの幸せってなによ」

答えられなかったのが悔しかったのかレミリアは側に控える従者へと問う。

「私はお嬢様に仕えることが全てであり、幸せでもあるのです」

優等生な受け答えであった。

「パチェは?」
「私?・・・・・・・・・家から出ないまま世界の全てが手に取るように分かるようにならないかしら?」
「・・・・・・・・・・・幸せなの?それ」
「人の幸せにケチつけられるほどの幸せを持ってるわけでもないでしょうに」
「・・・・・。まぁ、いいわ。問題なのはフランよ。なによ、母親とか、良いじゃない、母親くらいいなくたって」

レミリアは帽子をグイッと目深にする。

「良いじゃない、たった二人の姉妹じゃないの・・・・・・。私だってお姉ちゃんなのに・・・・・・・・・・・。フランのばか・・・・・・・・・・・」

パチュリーと咲夜は目を合わせるとこっそりと嘆息する。

「お嬢様」
「なに?」

少し嗚咽の篭った声。

「青い鳥の最後。兄妹はどこで幸せの青い鳥を見つけると思いますか?」
「・・・・・・・・・・・・・・。自分達の住んでいる家・・・・・で見つけてくれたら・・・・・・良いと・・・・思う」
「ええ。その兄妹もたくさんの世界を旅してきて、最後に幸せの青い鳥は自分達の家の鳥かごの中にいた、ということに気づくのです」
「フランも気づいてくれるかな?」
「ええ。妹様も聡い方ですから」
「レミィも心配性ね。・・・・・・ま、そのうち母親なんて忘れて帰ってくるわよ。レミィにとってそうなように、紅魔館(ここ)が幸せなんだから」


吸血鬼の姉が家族の暖かな言葉にこっそりと涙を流しているとき、全く別の理由で泣いている妖怪がいた。
魔理沙(主人公)にフランドール(EXボス)、封獣鵺(EXボス)、八雲紫(PHボス)、を合わせた連合軍に囲まれ動くことすらままならない笑えてきてしまうほど底なしに不幸な妖怪。ルーミア。

「痛いって!!この羽!!見ろよ!!この良く分からない宝石!?のせいで私の服ぼろぼろじゃん!!」

羽から解放された鵺は悲惨な有様になっていたが、誰も気にも留めない。

「無意味にセクシーだな。いっそ全裸にしてセクシーじゃなくしてやるぜ?」
「私も羽の生え際とか見てみたいから魔理沙、やっちゃいなさい」

魔理沙の言葉に紫がマッドな同意をする。

「なにぃ?私が脱いだらすごいぞ!?」

鵺は無い胸を堂々と張る。
対抗したのか紫も情動的に腰をくねらせる。

「この中でなら私に勝てるプロポーションはいないでしょ?」
「年の功・・・か」
「なんか言った?」

小声で紫の声に突っ込みを入れる魔理沙だったが紫に凄まれて一瞬で引き下がる。

「あなたが母様ね?」

この四人に囲まれて。
なにか反論が出来る存在は幻想郷に何人いるのだろうか?

「そ・・・・・そーなのかー」


「お姉さま~~」

威勢の良い声が紅魔館に響き渡る。

「ようやく幸せの青い鳥の場所が分かったのかしら?そんじゃ、咲夜、行くわよ」

パチュリーが腰を上げる。

「え?」
「姉妹の再会を邪魔するもんじゃないわ」

そのまま図書館へとすたすたと歩いていってしまう。

「お姉さま~~どこ~~?」

咲夜もパチュリーの意図を介して一瞬とかからずその場からいなくなる。
お茶会セットは全て片付いていた。
完璧なメイドとは、こういうことを言うのだろう。
(フランったら、結局さびしくなって帰ってきたのかな?まったくまだまだ手のかかる妹だこと)
不思議とそわそわする気持ちを押し殺してレミリアは悠然と構える。
と言っても。部屋の扉が開きフランが姿を現した時には、にへらとだらしない表情になっていたが。
(そうよね、母親なんて見つかるわけないんだから。もっと落ちつくべきだったわ。失態失態)
フランがにこにこと笑う。

「フラン・・・・」
「お姉さま」

レミリアがその口をもう一度開こうとしたとき。

「母様を見つけてきたよ~~」

ピシリと朝の光景をなぞる様にレミリアの表情が凍る。
もう片方の扉が開き、ルーミアが姿を現す。

「さ、さぁ、む、娘達よ~。母の胸に飛び込んで、き、きなさい~」

ルーミアが人類は十進法を採用しましたとでも言いたげに手を広げ、顔を強張らせながら言い放つ。


「あん!?」
レミリアの威嚇に失神したルーミアなど鼻にもかけず、フランはにこにこと花のように笑っていたという。
読んで頂きありがとうございました。
元々は友人の漫画原作にと書いていたものでしたが企画自体がぽしゃってしまったので小説用に手直ししてみました。
テーマはどたばた姉妹愛でしょうか。

感想コメント頂ければ幸いです。
日月ハコ
[email protected],jp
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コメント



0.840簡易評価
2.80名前が無い程度の能力削除
フラン迷惑過ぎるww
落ちはもう少し綺麗な方が好みだったり
あとぬえの名前はひらがなで「ぬえ」ですよ
3.100名前が無い程度の能力削除
三点リーダーの使い方に注意かな。
『・』じゃなくて『…』を使うのが慣例です。

それはさておき。
誰か助けて! メリーが息をしてないの!
吸血鬼ネタでヌルーされるのはお約束なのか……。
フランドールは可愛いなぁ。
4.50名前が無い程度の能力削除
るーみあ大好きEXるーみあ大好き 扱いわるくね?(´・ω・`)
面白かったのでこの点数で(*ω*
11.80奇声を発する程度の能力削除
フランw
面白かったです
13.80名前が無い程度の能力削除
まぁ、悪くは無かったけれど
15.100名前が無い程度の能力削除
面白い!
16.70名前が無い程度の能力削除
落とし方がスマートじゃないなあ、と思った
母親の存在について解がないのも辛いところ
そのほかは楽しく読ませていただきました
17.70名前が無い程度の能力削除
ルーミアのっちゃうんだw
勢いは良い感じ。もう一捻り欲しかった。
19.80名前が無い程度の能力削除
どたばた、が途中ごちゃごちゃ、になってしまってわかりにくい所が…
とはいえ笑わせていただきました。
20.70名前が無い程度の能力削除
状況描写や繋ぎが簡素でなのは漫画原作に用意していたからでしょうか。よって、文章だけ追ってしまうとどこで盛り上がってどこで落ちればいいのか正直困ります。特に三人以上が集まった場面で淡々と会話文だけ続けられるとせっかくの勢いも萎えます。あとなんかさり気にアリスがDisられてる気がする。
母親探しを、寓話に乗っけて描こうっていう発想と、それを乗りこなしたという点はうまいと思います。
22.100名前が無い程度の能力削除
色々と破壊して突っ走るフランちゃんが可愛いですね
それにしてもルーミア・スカーレットママの誕生とは…