「おーい! 霊夢ぅー! アリスから良い知らせがあるぞー!」
しばらくして眠たそうな巫女が出てきた。なんともラフな格好だ。参拝客が見たらまず巫女だとは思わないだろう。
「うるさいわねぇ……朝っぱらから人の家の前で大声出さないでくれる?」
「すまん、小声だ」
「まったくもう。いいから上がりなさい。立ってても仕方ないでしょ」
「お言葉に甘えてお邪魔してやるぜ」
魔理沙は意気揚々と乗り込んだ。いつも来ているのに、今日は妙にテンションが高い。
霊夢は悪いことが起こるフラグを立てた。
中は布団しかなかった。ほんとうに布団しかなかった。逆立ちしても、布団しかなかった。
「布団しかないな」
「そのようね」
霊夢は魔理沙に「とりあえず座って」と催促する。
畳が敷き詰められた見慣れた風景に、魔理沙は静かに腰を下ろした。
そういえば昨日も来た気がするーーアリスも一緒だったな。
霊夢は布団を別の部屋に移してから唐突に魔理沙に訊いた。
「で、何の用?」
「客にその態度は失礼だろ」
「もーっ……何のご用件で来られたのでしょうか?」
霊夢が一文字一文字を強めて言った。呆れた顔で魔理沙の目を見据えている。
こんなのは霊夢にとって日常茶飯事だ。慣れっこである。
「僭越ながらこの霧雨魔理沙が伝達してやるぜ」
魔理沙はドーンと胸を張って“小声”で言った。
「今日は流れ星が見られるんだぜ!」
「あーそれ3日前に見たわ」
槍のようにそれは魔理沙に突き刺さった。グサリと胸を圧迫され、鼓動を増す。必死に弁解を図る為に裏に画策した。
「今日は天気も良いんだ。前よりも綺麗だぜ」
魔理沙は後ろに手を回して、握っている酒瓶を振った。呑もうぜーー簡単な傀儡的合図だった。
それを霊夢が見逃すはずがない。気付いてないフリをして、ヘタな自演をする。
「まあ……行ってやらないこともないわね。綺麗だし天気良いし」
「そう来なくっちゃ霊夢!」
魔理沙は霊夢に酒瓶を投げ、立ち上がった。
箒を手にとり、境内に出て跨りかけたところで霊夢に忠告する。
「今日の夜23時、無名の丘で集合。願い事も忘れるなよ」
魔理沙が境内から飛んだ。が、何かを忘れたようにUターンしてきた。
グイグイと霊夢の鼻に人差し指を突きつけた。
「酒瓶は無名の丘までお預けだ。一人で勝手に呑むなよ?」
「へいへいわかってますよ」
今度こそ魔理沙は飛び去っていった。やがて見えなくなり、ようやく霊夢に静かな朝が訪れた。
背伸びをしてから縁側に座って、いつ用意したのか茶を啜り始める。
雲一つない空を仰ぎ見、茶を置いてから小さく呟いた。
「願い事ねぇ……」
「遅いぞ霊夢! もう15分遅れだ!」
「私の腹時計はまだ3分前よ」
無名の丘なんて滅多に来ないから、路を忘れてしまっていた。毒性は嫌いなのだ。尤も、まさかここに出向くとも思ってはいなかった。
「で、言い出しっぺのアリスは来ないの?」
「あ……ああ、アリスはやる事があるらしくてな」
ちょっと戸惑いつつも魔理沙は答えた。なんだが曖昧さが見えたが、霊夢は気にしなかった。
しばしの沈黙。夜空では星だけが自分の存在を誇張してた。風すら吹く事もなく、生温かい微妙な空気が漂っていた。
切り出したのは魔理沙だった。
「お前酒瓶どうした?」
「あ、忘れた」
「なにやってんだよ……」
「いいじゃない、明日の夜に神社来たら宴会開いてあげるわよ」
魔理沙はそれでもあーだこーだ駄々を捏ねている。よほど今夜に呑みたかったのだろう。あの酒高かったんだぞ、と愚痴を並べる。
その時だった。
「あれ流れ星じゃない?」
「どこなんだぜっ!?」
すでに霊夢が指差したところは全くの夜空だった。静謐な星の宴は深々としている。期待してたものはスターダストへと消えていった。
「消えちゃったわね」
「あーあ、私も見たかったぜ」
霊夢は思ったーー前よりもぜんぜん綺麗じゃない。来て良かったわ。
ただ、今頃魔理沙にそんなこと言えるはずもなく、モジモジしていた。
するとすかさず魔理沙が突っ込んでくる。
「で、どんな願い事かけたんだ?」
願い事ーーそういえば流れ星に願うとそれが成就するとかしないとか言ってたわね。特に気にも留めなかったから願掛けなど忘れていた。
ここで霊夢は少しイタズラを仕掛けた。後に“後悔”することも知らずに。
「なにも願い事してないから、魔理沙にその願い事の権利を譲歩してあげる」
「なんだ、それは?」
「流れ星ってね、見た本人が願掛けし損なうと他の人に願い事を叶える効力を与える事ができるの。自分の効果は犠牲にね」
「初耳だぜ」
「魔理沙は私に流れ星を見せてくれたじゃない? だから、私は貴女に願い事の権利をあげます」
「おー、サンキュー霊夢!」
もちろん、そんなの今考えた嘘だ。霊夢は流れ星を見れただけで満足であった。そもそも迷信なのは明白だった。霊夢自身この伝説を信じるとも思わないし、魔理沙が私のあからさまな嘘を見破れないとも思いもしなかった。
些細な事が、変な好奇心と行動力を生む。
「そうだな……私は特に願い事がない」
「盗んで解決。魔理沙の基本ね」
「さすが霊夢だぜ」
そう言うと、魔理沙が不意に箒に跨った。そして宙に浮くと、星を散らして一直線に空を飛んだ。
すかさず霊夢はついていく。
「ちょっと魔理沙どこ行くのよ」
「お前が私に願い事の権利をくれたなら、私は流れ星の情報を教えてくれたアリスにその権利を譲歩するぜ」
なんだか面倒な事になってきた。
霊夢はそう思ったが、別に止める事はしなかった。
なんだか子どもを見ているようで、魔理沙が可愛く見えた。
「お邪魔してるぜアリス!」
「夜中に楽園の素敵な巫女がやって来ました」
「入ってから言うな。霊夢はいらっしゃい」
「アリス、それは贔屓って言うんだぜ?」
「あら、クッキーの作り方の伝授、中断しても良いのよ?」
アリスは特に驚きもせず、さも子どもと遊ぶかのように二人を操る。まるで手の中の人形のように。
「霊夢サンタがやってきました。願いを届けにやってきました」
「そのようね。……ねぇ魔理沙? 霊夢どうしちゃったの?」
魔理沙は首を振った。
サンタは季節外れだが、ちょっと霊夢が可愛い。
「えーと……つまり霊夢サンタは私にお届けものがあるのかしら?」
「お届けものはこの魔理沙が」
そう言って霊夢は魔理沙を指差した。魔理沙としてはいきなり話を振られて戸惑っている。
アリスに至っては訳がわからなかった。
「まずは状況説明してちょうだい。魔理沙、貴女よ」
「つまりだなーー霊夢が流れ星を見て願い事がないから私に権利を譲ったのだが私も特に願い事がなかったから全ての元凶であるアリスにその権利を直々に授与しに来たんだ」
アリスは理解したーー魔理沙との付き合いは長い。説明下手はもう慣れっこだった。その説明で把握できてしまう自分に酔った。
「つまり、霊夢サンタは私に願い事を叶える権利をくれたのね」
「厳密には私だ」
「厳密には霊夢じゃないの」
「……とりあえず、アリスは何か願い事言え!」
願い事を言え、だなんて言われたのは生まれてこの方初めてだ。
霊夢はいつのまにか正常に戻っていて、アリスに向けて合掌していた。おそらく空気を読めと言っているのだろう。なるほど、さっきのおちゃらけた可愛いサンタモードの霊夢も仕様だったらしい。
「そうね……特にないけれど……」
アリスは胸いっぱいに空気を吸い、魔理沙を見て、言った。
魔理沙はワクワクしながらアリスの発言を見守る。
「次は魔理沙が私を誘ってくれますように……っと」
ピンク色の靄が三人を包んだ。目には見えないけれど、確かに三人は不思議と火照っていた。特に魔理沙は。
「ちょっと用事思い出したわ! また明日ね!」
早くも靄に耐えられなくなった霊夢は“その場の空気を読み”、その場から退散した。
魔理沙はドアから出て霊夢の名前を読んだが、時すでに遅し。闇の中へ霊夢は消えていた。
アリスはとても優しい声で魔理沙を呼び止めた。
「魔理沙、クッキー焼いてるんだけど……食べていかない?」
魔理沙は人差し指で頬を掻き、数秒してから笑って答えてくれた。
「そうだな、夜空に光る星形のを頼む」
しばらくして眠たそうな巫女が出てきた。なんともラフな格好だ。参拝客が見たらまず巫女だとは思わないだろう。
「うるさいわねぇ……朝っぱらから人の家の前で大声出さないでくれる?」
「すまん、小声だ」
「まったくもう。いいから上がりなさい。立ってても仕方ないでしょ」
「お言葉に甘えてお邪魔してやるぜ」
魔理沙は意気揚々と乗り込んだ。いつも来ているのに、今日は妙にテンションが高い。
霊夢は悪いことが起こるフラグを立てた。
中は布団しかなかった。ほんとうに布団しかなかった。逆立ちしても、布団しかなかった。
「布団しかないな」
「そのようね」
霊夢は魔理沙に「とりあえず座って」と催促する。
畳が敷き詰められた見慣れた風景に、魔理沙は静かに腰を下ろした。
そういえば昨日も来た気がするーーアリスも一緒だったな。
霊夢は布団を別の部屋に移してから唐突に魔理沙に訊いた。
「で、何の用?」
「客にその態度は失礼だろ」
「もーっ……何のご用件で来られたのでしょうか?」
霊夢が一文字一文字を強めて言った。呆れた顔で魔理沙の目を見据えている。
こんなのは霊夢にとって日常茶飯事だ。慣れっこである。
「僭越ながらこの霧雨魔理沙が伝達してやるぜ」
魔理沙はドーンと胸を張って“小声”で言った。
「今日は流れ星が見られるんだぜ!」
「あーそれ3日前に見たわ」
槍のようにそれは魔理沙に突き刺さった。グサリと胸を圧迫され、鼓動を増す。必死に弁解を図る為に裏に画策した。
「今日は天気も良いんだ。前よりも綺麗だぜ」
魔理沙は後ろに手を回して、握っている酒瓶を振った。呑もうぜーー簡単な傀儡的合図だった。
それを霊夢が見逃すはずがない。気付いてないフリをして、ヘタな自演をする。
「まあ……行ってやらないこともないわね。綺麗だし天気良いし」
「そう来なくっちゃ霊夢!」
魔理沙は霊夢に酒瓶を投げ、立ち上がった。
箒を手にとり、境内に出て跨りかけたところで霊夢に忠告する。
「今日の夜23時、無名の丘で集合。願い事も忘れるなよ」
魔理沙が境内から飛んだ。が、何かを忘れたようにUターンしてきた。
グイグイと霊夢の鼻に人差し指を突きつけた。
「酒瓶は無名の丘までお預けだ。一人で勝手に呑むなよ?」
「へいへいわかってますよ」
今度こそ魔理沙は飛び去っていった。やがて見えなくなり、ようやく霊夢に静かな朝が訪れた。
背伸びをしてから縁側に座って、いつ用意したのか茶を啜り始める。
雲一つない空を仰ぎ見、茶を置いてから小さく呟いた。
「願い事ねぇ……」
「遅いぞ霊夢! もう15分遅れだ!」
「私の腹時計はまだ3分前よ」
無名の丘なんて滅多に来ないから、路を忘れてしまっていた。毒性は嫌いなのだ。尤も、まさかここに出向くとも思ってはいなかった。
「で、言い出しっぺのアリスは来ないの?」
「あ……ああ、アリスはやる事があるらしくてな」
ちょっと戸惑いつつも魔理沙は答えた。なんだが曖昧さが見えたが、霊夢は気にしなかった。
しばしの沈黙。夜空では星だけが自分の存在を誇張してた。風すら吹く事もなく、生温かい微妙な空気が漂っていた。
切り出したのは魔理沙だった。
「お前酒瓶どうした?」
「あ、忘れた」
「なにやってんだよ……」
「いいじゃない、明日の夜に神社来たら宴会開いてあげるわよ」
魔理沙はそれでもあーだこーだ駄々を捏ねている。よほど今夜に呑みたかったのだろう。あの酒高かったんだぞ、と愚痴を並べる。
その時だった。
「あれ流れ星じゃない?」
「どこなんだぜっ!?」
すでに霊夢が指差したところは全くの夜空だった。静謐な星の宴は深々としている。期待してたものはスターダストへと消えていった。
「消えちゃったわね」
「あーあ、私も見たかったぜ」
霊夢は思ったーー前よりもぜんぜん綺麗じゃない。来て良かったわ。
ただ、今頃魔理沙にそんなこと言えるはずもなく、モジモジしていた。
するとすかさず魔理沙が突っ込んでくる。
「で、どんな願い事かけたんだ?」
願い事ーーそういえば流れ星に願うとそれが成就するとかしないとか言ってたわね。特に気にも留めなかったから願掛けなど忘れていた。
ここで霊夢は少しイタズラを仕掛けた。後に“後悔”することも知らずに。
「なにも願い事してないから、魔理沙にその願い事の権利を譲歩してあげる」
「なんだ、それは?」
「流れ星ってね、見た本人が願掛けし損なうと他の人に願い事を叶える効力を与える事ができるの。自分の効果は犠牲にね」
「初耳だぜ」
「魔理沙は私に流れ星を見せてくれたじゃない? だから、私は貴女に願い事の権利をあげます」
「おー、サンキュー霊夢!」
もちろん、そんなの今考えた嘘だ。霊夢は流れ星を見れただけで満足であった。そもそも迷信なのは明白だった。霊夢自身この伝説を信じるとも思わないし、魔理沙が私のあからさまな嘘を見破れないとも思いもしなかった。
些細な事が、変な好奇心と行動力を生む。
「そうだな……私は特に願い事がない」
「盗んで解決。魔理沙の基本ね」
「さすが霊夢だぜ」
そう言うと、魔理沙が不意に箒に跨った。そして宙に浮くと、星を散らして一直線に空を飛んだ。
すかさず霊夢はついていく。
「ちょっと魔理沙どこ行くのよ」
「お前が私に願い事の権利をくれたなら、私は流れ星の情報を教えてくれたアリスにその権利を譲歩するぜ」
なんだか面倒な事になってきた。
霊夢はそう思ったが、別に止める事はしなかった。
なんだか子どもを見ているようで、魔理沙が可愛く見えた。
「お邪魔してるぜアリス!」
「夜中に楽園の素敵な巫女がやって来ました」
「入ってから言うな。霊夢はいらっしゃい」
「アリス、それは贔屓って言うんだぜ?」
「あら、クッキーの作り方の伝授、中断しても良いのよ?」
アリスは特に驚きもせず、さも子どもと遊ぶかのように二人を操る。まるで手の中の人形のように。
「霊夢サンタがやってきました。願いを届けにやってきました」
「そのようね。……ねぇ魔理沙? 霊夢どうしちゃったの?」
魔理沙は首を振った。
サンタは季節外れだが、ちょっと霊夢が可愛い。
「えーと……つまり霊夢サンタは私にお届けものがあるのかしら?」
「お届けものはこの魔理沙が」
そう言って霊夢は魔理沙を指差した。魔理沙としてはいきなり話を振られて戸惑っている。
アリスに至っては訳がわからなかった。
「まずは状況説明してちょうだい。魔理沙、貴女よ」
「つまりだなーー霊夢が流れ星を見て願い事がないから私に権利を譲ったのだが私も特に願い事がなかったから全ての元凶であるアリスにその権利を直々に授与しに来たんだ」
アリスは理解したーー魔理沙との付き合いは長い。説明下手はもう慣れっこだった。その説明で把握できてしまう自分に酔った。
「つまり、霊夢サンタは私に願い事を叶える権利をくれたのね」
「厳密には私だ」
「厳密には霊夢じゃないの」
「……とりあえず、アリスは何か願い事言え!」
願い事を言え、だなんて言われたのは生まれてこの方初めてだ。
霊夢はいつのまにか正常に戻っていて、アリスに向けて合掌していた。おそらく空気を読めと言っているのだろう。なるほど、さっきのおちゃらけた可愛いサンタモードの霊夢も仕様だったらしい。
「そうね……特にないけれど……」
アリスは胸いっぱいに空気を吸い、魔理沙を見て、言った。
魔理沙はワクワクしながらアリスの発言を見守る。
「次は魔理沙が私を誘ってくれますように……っと」
ピンク色の靄が三人を包んだ。目には見えないけれど、確かに三人は不思議と火照っていた。特に魔理沙は。
「ちょっと用事思い出したわ! また明日ね!」
早くも靄に耐えられなくなった霊夢は“その場の空気を読み”、その場から退散した。
魔理沙はドアから出て霊夢の名前を読んだが、時すでに遅し。闇の中へ霊夢は消えていた。
アリスはとても優しい声で魔理沙を呼び止めた。
「魔理沙、クッキー焼いてるんだけど……食べていかない?」
魔理沙は人差し指で頬を掻き、数秒してから笑って答えてくれた。
「そうだな、夜空に光る星形のを頼む」
なんか、もう、むずむずする~っ!ふひひひひ
だが可愛いから許す
でも他人の気持ちを慮るとか空気を読むとかが一番苦手そうな霊夢が
気を遣い空気を読むとは…。