Coolier - 新生・東方創想話

亡霊の伝教

2012/04/08 21:14:21
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心地よい暖かさが肌になじむ、春の初めだった。
一人の巫女と、一人の魔法使いが弾幕を繰り広げている。
「二人共ー!もう昼になるわよー!」
「わかってるぜ!」
「わってるわよ!」
二人が返事をしながら弾幕を飛ばす。
―――花見もせずに、弾幕なんて・・・魔理沙らしいわね。
アリスはつくづくそう思った。

『不死も死も魅力的かも知れないが、
最も魅力的とされるのは死ぬまで生き続けることである』
―――ある仙人の著作物より抜粋



 壱



「またな!霊夢!」
「ええ。またね。」
弾幕勝負を終え、霊夢が神社へと去っていった。
「アリス、腹が減ってきたぜ。
とりあえず紅魔館に行かないか?近いし。」
「そうねぇ・・・ここまで長引くとは思わなかったからね・・・
って、なんで紅魔館になるのよ。」
私は自信たっぷりに言ってやった。
「最近はフランとよく遊んでやってるからな。時々飯をごちそうになるんだ。
またフランと遊んでやれば、昼食はタダだぜ!」
「成程ね・・・
つまり、紅魔館ではフランと『遊べる』程力の有り余ってる人員が居ないってこと?」
「そういうことだ。善は急げ、だぜ。」
私はアリスの手を引っ張って紅魔館へと向かった。

紅魔館到着。周りを見渡す。
敵影なし。障害物なし。門番熟睡。よし、完璧だ。
「今日も普通に眠ってるわね・・・」
紅魔館の武術の達人、紅美鈴。門番をしているが、熟睡中であることが多い。
てか、私が本を借りに来る時はいつも眠ってるんだが。
私は堂々と門を開け、紅魔館の中に入った。
入った瞬間、目の前には咲夜がいた。
「―――あら、魔理沙とアリスじゃない。」
「よう咲夜、お邪魔するぜ。」
「咲夜、何も咎めるつもりはないのね・・・」
アリスが咲夜に聞いた。
多分、二つのことだろう。
ひとつは私達が無断でここに入ったこと。それも正面から。
二つ目は、門番がザルだったこと。
「ええ。貴方達は信用してるし、美鈴はいつものことね。
―――まぁ後でナイフ刺すけど。」
刺すんかい。
「えらく門番に優しくなったわね・・・咲夜、何かあったの?」
アリスがますます不思議になって聞く。
「美鈴は気を操る能力を持ってるから・・・
邪気や悪意を感じたら、どんなに熟睡してもすぐ起きるわよ。」
それは初耳だ。永遠にザルだと思っていたんだが。
・・・だから私が来る時は寝てるのか・・・。
確かに、本を借りることにはこれっぽっちも悪意なんてないからな!
「まぁとにかく入りなさい。フラン様が会いたがってるから。」
「わかったぜ。―――ついでにひとつ頼みたいことがあるんだが・・・」
「わかってるわ。昼食の用意がもうすぐ出来るから、ロビーで待ってなさい。」
流石はメイド長。瀟洒な動きだ。
私が昼食をねだる事まで想定内ってか・・・
まさに、パーフェクトメイド・・・
・・・レミリアに対する執着心はどうにかしたほうがいいと思うが。
あいつ、鼻血出しすぎて永遠亭に行ったことがあるとかないとか。

ロビーで昼食を済ませ、フランの部屋に来た。
「あ!魔理沙だ!」
元気な声と共に、小さな吸血鬼が現れた。
フランドール・スカーレット。あらゆる物を壊す程度の能力と、アホみたいな魔力を備えている。
・・・が、子供っぽさは相変わらずだ。
フランが私の横に居るアリスを見て、少し驚いたような顔をした。
「それに・・・アリスおねえちゃん?」
「ええ。久しぶりね。」
「ん、アリスも面識あったのか?」
「ええ。時々人里で人形劇をやってたんだけど、その時にフランが居てね・・・
以来、紅魔館で人形劇を頼まれることがあったのよ。」
フランが人里に・・・ その時の周りの反応を想像すると、気の毒になる。
「魔理沙、早く遊ぼうよ!」
「わかってるぜ。」

フランの『遊び』とは、とても過激な弾幕戦闘の事である。
フラン自身が強すぎるので、その『遊び』に付き合いきれる人員が紅魔館にはあまり居ない。
フランがレーヴァテインをかまえ、私は八卦炉をかまえた。
「ちょ、ちょっと!この部屋の中で弾幕して大丈夫なの?」
「大丈夫だぜ。―――ほら。」
気づくと、部屋は非常に広くなっていた。
咲夜の能力は本当に役に立つ。今度、私の家も拡張してもらいたいもんだ。
「―――じゃ、いくぜ!」
フランと私の楽しい『遊び』が始まった。


丁度、弾幕勝負にスパートがかかって来た頃だった。
「新スペル!」
フランがそう叫び、黒いスペルカードを取り出した。
―――禁忌「レッド・ザラキーマ」
フランがスペカ発動と同時に、レーヴァテインをかまえる。
「・・・なんだその名前?」
妙な名前だなと思い、フランに聞く。
「あのね、この前パチェがやってた外のゲームでね・・・
ドラ○エっていうゲームの中に出てきた呪文の名前を借りたの!」
あれ、なんか香霖堂にもあった気がする。
「それでね!このスペルを当てるとね―――」
「どうなるんだ?」
「効果『相手は死ぬ』!」
―――なんだそりゃ。
幽々子じゃあるまいし・・・恐ろしいスペルを作ったもんだ。
「まぁ、投げて当てないと効果ないんだけどね―――それっ!」
黒いオーラを纏ったレーヴァテインがこっちへ向かってくる。
スピードはまぁまぁ。それに曲がってくるわけでもないようだ・・・
成程。これを陽動に使うってことか。少しは成長したのかな?
だけど私は陽動も、それ以外も全部回避できるんだぜ!
そう思い、動こうとした瞬間だった。




・・・乗っている箒が動かない。
それどころか、自分自身の身動きが取れなくなっている。




「・・・何が起きてるんだ。」
レーヴァテインが間近に迫ってくる。
なんでだ!?動け!動けよ!
「魔理沙・・・?」
フランの顔が困惑に満ちた。
フランも、私が普通に避けてくるものだと思っていたようだ。
まずい。
このままじゃ当たる・・・!!



死ぬ・・・?








私の目の前に、アリスが居た。
アリスは私をかばい、レーヴァテインをもろに喰らっていた。
「いたぁ・・・っ」
私の目の前でアリスが苦しそうに悶える。
アリスが床に落ち、倒れた。
「アリス!!」







レーヴァテインはアリスに打撃を与えただけだった。
だが・・・このスペルの効果は―――
フランが真っ先に言った。
「魔理沙、出来る限りスペカの効力を止めたつもりだったんだけど・・・」
フランの顔が真っ青だ。
すると、アリスが腹を抑えながら起き上がった。
「う・・・」
「アリス、大丈夫か!?」
「え・・・ええ・・・」
特に異常もない。スペルの効果はどうなった?
「ばかやろ・・・なんで私をかばったんだ!」
「だって・・・魔理沙が死ぬんじゃないかと思って・・・」
くそっ・・・私をかばって、お前は死んだかも知れないんだぞ・・・
少し経って、部屋にパチュリーが入ってきた。
「パチュリー!」
「フランが何か変なスペルを使ったんじゃないかと思って来てみたけど・・・」
パチュリーがフランを見るなり言った。
「・・・ザラキーマ使ったの?」
「うん・・・でも絶対に避けられる速度だったんだよ!」
「まぁ確かにあれは少し遅いけれど・・・なんでアリスが当たってるのよ・・・」
私がすぐさまパチュリーに説明した。
「フランは悪くないぜ。私が急に動けなくなったんだ。
・・・だけどアリスが・・・」
アリスはまだ苦しそうにしている。
「どれ、見せてみなさい。」
そういって、パチュリーがアリスの腹に手を当てた。
パチュリー・ノーレッジ。通称、動かない大図書館。
その別名の通り、莫大な知識を兼ね備えている。
永琳とまでは言わないが、魔法や呪いなどの類を解除したりすることができる。
「・・・これは・・・」
パチュリーの顔が曇った。
「な、何かわかったのか?」
嫌な予感がする。



「フランが力を抑えたおかげで、即死は免れたみたいだけど、
―――もって三日ね。」



三日・・・!?
アリスの顔が歪む。
ただでさえ真っ青だったフランの顔が、更に青くなる。
なんという手違いだろうか。
あの時、何故動けなかった?そのせいでアリスが―――
違う。今をなんとかしないと。
後悔に浸っている場合じゃない・・・!
パチュリーが言った。
「とにかく、まずは永琳のところへ行ってみることね。
・・・急いだほうがいいわ。」
「・・・わかった。」
「アリスおねえちゃん・・・」
フランが涙目になっている。
私はフランの頭を撫でながら言った。
「フラン、アリスは必ず助けるから安心しろ。」
そして私は、アリスを連れて永遠亭へと向かった。
―――時間が無い。



 弐



「永琳!居るか!?」
アリスがかなりぐったりしてきた。
永琳を呼ぶなり、うどんげが出てきた。
「魔理沙とアリス・・・?
師匠なら、今取り込み中で・・・」
「私なら居るわよ。」
気づくと、うどんげの後ろに永琳が居た。
「師匠!・・・薬の調合をしていたのでは?」
「まだ途中よ。でも、今はこっちの方が急用ね。
・・・魔理沙、アリスを運んできなさい。」
永琳はすぐに事の重要さを察知したようだ。
うどんげは何がなんだかわからないような顔をしている。
私は言われるままに、永琳の診療部屋へとアリスを運んだ。


私は何があったかを一通り話した。
「・・・本当に残念ね。」
「な、何がだ。」
「あいにく、私は余命を延ばす薬を作ることが出来ない。」
「なんでだよ!!」
私は声を荒げて言った。
「だってお前自身、蓬莱の薬を使って不老不死なんだろ!?
それに、お前の能力は『あらゆる薬を作る程度の能力』じゃないのか!?」
永琳が悲しそうな顔をして言った。
「魔理沙、蓬莱の薬は元々私が作れるわけじゃない。
あれは姫の力も込みで作ってる物なのよ。
それに・・・生死に関わる直接的な薬は作ることは難しいわ。代償が必要になる。」
「・・・代償って一体なんだ。」
「そうね・・・たとえば・・・」
永琳が少し間を空けて言った。


「魔理沙・・・貴方の命とか?」
「それはだめよ。」
アリスが即答した。
「魔理沙・・・別の方法を探しましょう・・・」
「アリス、お前わかってるのか?死ぬかも知れないんだぞ!」
「・・・魔理沙が死んだら意味ないわ。」
アリスの目がこっちを睨んでいる。
私は何も言い返せなかった。強い目で、アリスは私を睨んでいた。
「・・・わかったぜ。
永琳、ありがとな。」
「ええ。治るといいわね。」
私はすぐに、アリスを乗せて箒で飛び立った。


「師匠、蓬莱の薬をあげればよかったのでは?」
「いいえ、きっとそれを言えばアリスは拒むでしょう。
それに―――」
「?」
「・・・なんでもないわ。」
永琳は、何が起こって魔理沙とアリスがここに来るかわかっていた。
(永遠亭の貯蔵庫には、余命を延ばす薬は山ほどある。
後で謝っておかないといけないわね。)



 参




「あとは・・・スキマ妖怪の所か・・・?
いや、寿命を延ばすのなら命蓮寺に居る聖か・・・」
私は箒で飛びながら、必死に考えていた。
永琳の元へ行けばなんとかなると踏んでいたのが間違っていたというのか・・・
フランのスペル・・・効力・・・


『相手は死ぬ』


死・・・あ、そうだ!
「アリス、ちょっと飛ばすぜ!」
「え、ええ・・・」
私は真っ先にある所へ向かった。



「やっと着いた・・・」
そこは白玉楼だった。
ここに居る西行寺幽々子という亡霊姫は、幽霊の管理をまかされてるし・・・
それに、あいつの能力は『死を操る能力』だったな。何かわかるかも知れない。
そう思っていると、すぐに殺気を感じた。

「!」

白玉楼の門が開き、素早い斬撃が私に向けて飛んできた。
―――ッ!
刀の切っ先は、私の顔の目の前で止まった。
「ま、魔理沙さんでしたか・・・ごめんなさい・・・」
危うく、額に穴が空くところだった。
刀を降ろし、慌てて謝ったのは白玉楼の庭師、魂魄妖夢だ。
「お前、もう少し相手を見てから攻撃しろよな。
もしお前が刀を止めようとしなかったら、ゼロ距離マスパ撃ち込んでたとこだぜ。」
妖夢が私の手を見て冷や汗を流す。
私の手には、準備万端の八卦炉が握られていた。
「そ、それで・・・魔理沙さんは何の用でここに?
って、アリスさん大丈夫ですか!?」
妖夢がぐったりとしたアリスを見て驚く。
「ええ・・・今はね・・・」
「妖夢、私は幽々子に用があって来たんだ。会わせてくれ。」
「幽々子様ですか?わかりました・・・こっちに来てください。」
妖夢に案内され、幽々子の部屋に行く。
きっと、アリスが死なない方法があるはずだ・・・
私は強く信じた。


「幽々子様!お客です。」
客間を開けると、そこに西行寺幽々子が居た。
「幽々子!頼みがあるんだ、聞いてくれないか。」
「なにかしら?魔理沙と・・・」
幽々子の目が鋭くなった。
「・・・妖夢、すぐここに布団を出して。アリスを寝かせなさい。」
「え?あ、はい!」
どうやら、幽々子はアリスがどんな状況に置かれているのかわかったみたいだ。
「幽々子、実は・・・」
「事情は話さなくていいわ。
貴方は『アリスを助けたくて』、ここに来たんでしょう?」
「・・・ああ。」
「制限時間はあと三日ってとこかしら?」
その能力ゆえなのか・・・?
相変わらず鋭いな。いっつも飯ばっか食べてるくせに・・・
「それでだ。幽々子、アリスをなんとか死なせない方法は無いか?」
「そうねぇ・・・」

少し幽々子が考え込み、指を三本出した。
「方法は三つ。ま、貴方に出来るとは思えないけれど―――」
「いいから教えてくれ!」
仕方ないわね―――そう言わんばかりに幽々子は一つ目の方法を提示する。


「一つ目は、しだれ桜の芽を取ってくる方法。あ、ただし色が青い奴ね。」
「しだれ桜の芽・・・?なんだ、楽な方法があるじゃないか!
今すぐ取ってくるぜ!」
「魔理沙、私の話を最後まで―――」
私はその言葉がよく聞こえないまま、しだれ桜の芽を探すべく箒で飛んだ。
―――今は春。色がなんだろうと、桜はたくさんあるぜ!


「幽々子様・・・しだれ桜の芽にしても、青色の芽なんてありましたか?」
アリスは眠っていた。死が近くなってきている証拠だ。
「ええ。あるわよ。
まぁ、魂の残り香が触れた芽しか青くならないんだけど。」
「魔理沙さんは見つけられるんでしょうか・・・
幽々子様の力でアリスさんを治すことはできないのですか?」
「・・・私の力は、誰かに死を与えることしか出来ないわ。
妖夢、そろそろ三時よ。何かおやつになるもの持ってきて頂戴~」
「わかりました。ちょっとまっててくださいね。」
妖夢がいつものように甘味を取りに行く。
幽々子はアリスを見ながら思った。
―――絶対見つからないでしょうね。
ましてや、桜はほとんど咲いてしまったもの。
「ま・・・あと二つの選択肢を聞いて、魔理沙がどうするか・・・ね。」



 肆



なんでだ!なんで無いんだよ!
一日中探し回ったのだ。
しだれ桜はたくさんあった。だが、肝心の青色の芽が無い。
あと二日・・・
私は一旦、白玉楼に戻ることにした。
まだ、残る二つの方法を聞いていない。
その二つの方法なら・・・!



「あら、ほとんど一日中探し回ってたみたいだけど・・・
・・・見つからなかったのね。」
とっくに夜になっていた。
「幽々子、すぐに残ってる二つの方法とやらを教えてくれ。」
「そうね・・・今は妖夢も寝てることだし。」
ん?どういうことだ?
何か引っかかる物言いだ。
「・・・二つ目の方法だけど。」
「ああ、一体なんなんだ?」




「貴方の魂と引き換えに、アリスの死を取り消す方法。」




「私の・・・魂・・・」
「そう。つまり、貴方は死んでアリスが生きる方法ね。」
・・・簡単に言ってくれるものだ。
こいつは元より亡霊だし、仕方ないか。
だけど、アリスが私に死ぬなと言ったんだ。この方法は取れない。
「じゃあ、三つ目の方法はなんだぜ?」
「三つ目はね・・・」
幽々子が嫌な笑みを浮かべ、私に顔を近づけて言った。
「二人が生きる代わりに―――」




「貴方の寿命と、アリスの元の寿命・・・両方を半分にし、
生きている間に絶対の『不幸』をもたらす方法よ。」




「な・・・」
「因みにね、不幸はかなりの負担になると思うわ。
小さなものじゃあない・・・もっと、とても大きな不幸。
死にかけることもあるだろうし、周りから見捨てられるかも知れないし・・・
それに」


幽々子の手が私の首を掴んだ。
「貴方とアリスは、もう同じ状況ではいられなくなるかも知れないわ。」
「ど・・・どういうことだ。」
「例えば・・・貴方とアリス、半永久的に離ればなれになるとか。」
今までに無い恐怖だった。
ずっと・・・会えない・・・?
考えられない・・・考えたくもないことだ。
「あとは・・・そうねぇ」
「もう言わないでくれ。」
幽々子が続きを言うのが恐かった。私はすぐに抑制する。
「その選択は絶対にしない。・・・何があっても。」
「あら、そう。」
「・・・アリスを泊めてくれててありがとうな。
もう一度芽を探してくるよ。」
「わかったわ。せいぜい頑張りなさい。」
ああ、芽を探さないと。
でなければ最悪の選択が待っている。
でも、もし見つからなかったら・・・
私はあることを覚悟し、芽を探しに出た。




芽を探してから、二日目になった。
相変わらず見つからない。もう幻想郷中を飛び回ったが・・・
しだれ桜の数はそこまで多くはなかった。
探し回っているうちに、アリスと過ごした時間が脳裏に蘇っていく。







『アリスの人形は精密に動くよな。そのうち意思でも持つんじゃないか?』
『そうね・・・いずれは完璧な人形を作りたいわ。』
『完璧な人形?』
『ええ。私の昔からの夢。
意思もあって、会話出来て・・・こう言ってると人間を作りたいって言ってるみたいだけどね。』
『アリスの夢か・・・
いつか叶うといいな!』
『勿論よ。生きてる間に必ず完成させてみせるわ。
・・・その時は、魔理沙も立ち会ってよね?』
『ああ、そのつもりだぜ。』







私は毎日を自由に生きてる。
だけど、アリスには夢がある―――
だったら。


「また見つからなかったの?」
「ああ。どこにもな。」
白玉楼に戻ってきた。妖夢は人里に買い物をしに行っているらしい。
「そこでだ。幽々子。」
「・・・なにかしら。」



「私の魂、使ってくれないか。
アリスを、死なせないで欲しいんだ。」
幽々子は少し考えると、口を開いた。
「かまわないわ。」
「本当か!」
希望が見えた―――


「でもね」

幽々子が恐ろしい速さで私の背後に回った。
私の肩に幽々子の手が触れた。寒気が全身に回ってくる。
「少し考えてみてもいいかも知れないわ。」
「な・・・何をだよ?」



「仮に―――今の貴方とアリスの立場が逆だったら?」


肩に置いていた幽々子の手が私の頬に移り、もう片方の手が首に触れる。
「アリスがこう言うわ。『魔理沙を死なせないために、私の魂を使って』・・・って。」
「!」
私はすぐさま答えようとした。

「それは絶対にダメ・・・」


あ・・・!?



「もう一度考えてみなさい・・・
もう一度考え直して、再度二つ目の選択肢を選ぶなら―――」
幽々子の手から、私の心臓に冷気のようなものが流れてきた気がした。



「すぐに貴方を殺して、アリスを治してあげるわ。」





『あと5時間でその時が来るわ。
最後を看取るのなら、早めに戻ってくることね。』
幽々子の言葉を聞き、私はもう一度芽を探しに行った。
・・・というよりは、考える時間が欲しかった。



アリスは、同じ魔法使いとして初めての友達だ。
今までたくさん魔法について語り合って・・・
絶対に失いたくないし、これからも笑いあって話をしたい。
その日常を、取り返したい。




でも、アリスから見た私は?
もしもアリスも同じことを思うなら。
なら・・・




見つけた。
最善の選択肢があった。







「あら、早かったわね。
アリスはそこに寝てるわ。もう持たないだろうから・・・
何か言いたいことがあれば、言っておくことね。」
「幽々子。私、選んだよ。」
「・・・それは―――」
幽々子が私から目を離さずに言った。
「魂と引き換えにアリスを救うってことかしら?」
「いや、違うぜ。」
「・・・なら、ちゃんと最後まで看取ってあげなさ―――」
「それも違うぜ。」
幽々子の目つきが変わった。
「それはつまり・・・」
「ああ。」




「どっちも死なない。何があっても、二人共生きるんだぜ!
生きてないと、会って話すことも何も出来ないし・・・
半永久的に会えなくても、手紙でも意思の疎通は出来る。」



「それに、アリスも私に生きていて欲しいと思うしな。」



「だから―――頼む。私達が二人共生きる、第三の選択肢を選びたいんだ。
・・・出来るか?」




「・・・その答えを出せるようになったのね。」
幽々子はアリスの額に手を当てると、何かを唱え始めた。
一分もせずに、幽々子はアリスの額から手を離した。
「さ、見てごらんなさい。」
私は言われるがままにアリスの顔を覗き込んだ。



アリスの顔色が・・・戻っている・・・?
息も落ち着いて・・・
「ゆ、幽々子・・・」
「実はね、三つ提示した選択肢なんだけどね・・・」



「アレ全部嘘よ♪」



な!?


「青い芽に関しては、残存した魂から幽霊が発生しすぎてもいけないから頼んだだけ。
あと、私は誰かの魂と引き換えに誰かの寿命を操ることなんて出来ないわ。」
頭の中が整理できない。
嘘?なんで嘘なんて・・・!
「じゃ、三つ目は!?」
「それも嘘よ~
そんな代償なんて無くても、私は死を操れるんだから関係ないわ。」
「死を・・・操れる・・・?」
ちょっとまて、それって・・・


「そうよ。私はいつでもアリスを助けることが出来たわ。簡単にね。」
「・・・じゃあなんでこんなことしたんだよ!!」
「声を荒げてはいけないわ。・・・こんな句があってね。」



己の刻 隣の刻も 失せ難し
       双を拾うが 訪れし笑み



「昔、まだ私が句を詠み始めて間もない頃に作った句よ。」
「どういう意味なんだ?」
「―――『自分の生きる時間、
隣に居る友人の生きる時間、
どちらも失うのは辛いこと。
だけど両方を選んでお互いで生きれば・・・
また、笑い合える日が来る。』
・・・そういう意味よ。」
「・・・まさか。」
「ええ。私の誘導したとおりに、貴方はこの句の意味がわかるようになった。
うまく行ったみたいで良かったわ~」
「誘導って・・・もしかして・・・!」


『フランは悪くないぜ。私が急に動けなくなったんだ。』


「あれ・・・お前の仕業だったのか!?」
「そうよ~。全然気づかなかったでしょう。」
いつの間に私に術を・・・!?
「貴方が前にここに来て、お菓子をつまみ食いした時にね。
若干幽霊を憑けておいたの。」
食の恨みは恐ろしいってか・・・いつの間に憑けたんだ・・・
「でも・・・!本当に危なかったんだぞ!アリスが即死してたら・・・!」
「それはありえないわね。貴方を介してアリスには死への耐性をつけておいたもの。」
「・・・全部仕組んでたってことか。」
最初から最後まで、全部幽々子の仕業だったのか・・・
「でも貴方―――


最初は『絶対どうにかなる』って思ってたでしょう?」


「!」
「それじゃあ意味が無いわ。それなら、魂は価値なんてないもの。
『死ぬかも知れない』・・・そんな状況で生きるから、価値があるのよ。」
確かに、幽々子の言うとおりだ。
永琳のところへ行けばどんな病気でも治る。いつもそうだったから、今回もそうだと思っていた。
それ以外にも、妖怪賢者・紫は様々な知識と方法を持ち・・・
命蓮寺の聖白蓮も居るんだと、たくさんの可能性を目の前にして、安堵していたかもしれない。
「命は大切にしなさい・・・他人の命も、自分の命も。」

私の中で、何かが変わった気がした。
大切なことを、教えてもらった気がする。

「・・・ああ。ありがとうな。幽々子。」
「う・・・」
アリスの意識が戻った。
「アリス!大丈夫か!?」
「ええ・・・あれ、体の調子が元に戻ってる・・・?」
「・・・幽々子が治してくれたんだぜ。」
「私・・・生きてるのよね・・・?」
アリスが起き上がって、こちらを向く。


「ああ。生きてるぜ。・・・アリスも、私も生きてるぜ!」



今までに無い感動だった。
気づくと涙が溢れて、どうにも止まらなかった。
アリスに何があったかを全て話すと、アリスはゆっくりと微笑んで言った。
「―――幽々子が・・・成程ね。大切な物で返してくれたってことね・・・」
「ん?返してくれたってどういうことなんだ?」
「幽々子に聞いてみればわかるわよ。」
「・・・幽々子に?」


―――白玉楼
「あれ・・・幽々子様。」
「なにかしら?」
「アリスさんと魔理沙さんはもう行ったのですか?」
「ええ。・・・借りは返したわ。」
「へっ?」
「妖夢。」
「あ、はい。なんでしょうか?」
「アリスに改めて感謝しておきなさいね。」
「アリスさん・・・ああ、服の修繕のことで―――
・・・あ!修繕費まだ払ってませんでした!今すぐ行って―――」
「いいのよ。もうチャラになったから。」
「??」
妖夢の服の修繕ついでに、壊れた戸や襖まで直してもらったから・・・
アリスには、アリスの大切な人に大切な事を教えた。
きっと、アリスにとっては何よりも嬉しい事でしょうね。
「妖夢。一つ頼まれてくれる~?
多分もう一度魔理沙が来るでしょうから、何か和菓子でも作って頂戴~。」
「魔理沙さんが・・・?わ、わかりました!」
「ふふふ・・・」

貴方は人間だから、なおさら知っておかないとね。
幻想郷では・・・
死んだら冥界へ。
稀に人妖になることもある。
致命傷でも月の頭脳があらゆるものを治す。
可能性で満ち溢れている故に、大切なことを見失ってしまう者も多いでしょうけど・・・
だからこそ、今回教えたことには価値がある。
「幽々子様ー!魔理沙さんが来ましたよー!」
・・・あら、早かったわね。
「はいはい。すぐに通して頂戴~」
永琳にも協力頼んでおいて良かったわ・・・
今度借りを返さなくちゃね。



命ある者が居る限り、命は大切にされる。
二回目の投稿です。でもやっぱ粗い。

正直、シリアスよりかはギャグ線の方が書くの楽な気がしてきています。

創作秘話としては


非想天則のランダムを三回やって、
魔理沙→幽々子→アリス
「主要メンバー決定!」

こんな感じで創作が始まりました。解せぬ。

読んでいただければ光栄です。
-1
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コメント



0.640簡易評価
4.70奇声を発する程度の能力削除
うーん、少し粗くて展開もちょっと急な感じもしましたが面白かったです
13.70名前が無い程度の能力削除
暇を持て余した幽霊の遊びにしか思えないwww