内容:世話焼きなアリスとヘタレな魔理沙
今夜はふと思い立ち、大体1週間ぶりに夕食を食べ、気持ちだけの満腹感を味わいながらのんびりと読書をしていた。
喧騒からはほとほと無縁の魔法の森の奥地、集中を妨げる獣の遠吠えも響いてこない静かな秋の夜。
人形に紅茶を作って持ってこさせれば、我が家は紅魔館の図書館に勝るとも劣らない読書環境ではないかと思う。
そんな心地良い静寂を突き破るように、ふと何かが森に落ちる音がした。
ばさばさばさっ、と枝葉を掻き分けるような不快な雑音の後、ずんっ、と鈍い振動が伝わる。
……何かしら。
酔っ払った鴉の妖怪でも墜落したか、はたまた人目が無いと思っての不法投棄の類か。
前者なら放っておくに限るが、後者の場合、物によっては放置すると面倒な事になりかねない。
それぞれの可能性と面倒臭さとその他諸々を考慮し天秤にかけてから、結局私は様子を見に行く事にした。
これが入浴後だったのなら逆の行動をとっていただろう。
とにかく私は外套を引っ掛け、一応用心の為にと2体の上海人形をお供に、音のした方へと向かった。
◆ ◆ ◆
鬱蒼と木々が生い茂る魔法の森の一画、家から2、3分程歩いたところ『それ』は落ちていた。
そう表現する他ないだろう。
その見た目のみすぼらしさは奇しくも不法投棄を想像させたけれど、予想としてはもう一つの方が正解に近かった。
「……魔理沙?」
声をかけてみるとうつ伏せの身体がピクリと動いた様に見えた。
しかしそれきり反応がない。
もう少し近寄って様子をみると、服は所々破れてボロボロ。
髪の毛も黒ずんで(焦げている?)いて普段の彼女からは程遠い風貌ではあ ったが、霧雨魔理沙で間違いないようだ。
「随分壮絶な出で立ちね、だから酔っ払ったまま夜中に飛ぶのは危ないってこの間忠告してあげたのに」
「……ああ、アリスか。そういやここはお前ん家の近くだったな」
そう言いながらやっとこちらに顔を向ける魔理沙。
死相が出ているとは言わないまでも、顔色は悪く、相当疲弊しているように見える。
「別に今日は宴会帰りじゃないんだぜ、それに生憎私は誰かさんと違って、酔った位で飛べなくなる程下戸じゃあない」
「あらそう」
相変わらずの憎まれ口を叩きながらも、その声には力がない。
色々と考えるのは後にして、取り敢えずこの投棄された物体を回収する事にする。
私は人形達に手伝わせながら、肩を貸すようにして魔理沙を立ち上がらせた。
「……今日は随分お節介だな、アリス」
「効率を考えただけよ。完全に動かなくなってからどかすより、少しでも自分で動いてくれるうちに運んだ方が楽でしょう?」
「前言撤回、お前は相変わらず薄情な奴だ」
それきり魔理沙は黙り込んでしまった。
どうやら立っているのも辛いようで、ほぼ全体重をこちらにかけてくるものだから、
とても歩きづらく、時々つられてふらついてしまう。
どうにも私も人形もこういう単純な力仕事には向いていないわね。
「――悪い、迷惑かける」
本当に小さな声で魔理沙が何か喋ったような気がしたけれど、余りに弱々しくてよく聞こえなかった。
取り敢えずそういう事にしておく。
それからも途中何度かつまづきそうになりながら、往路の2倍近くの時間を掛けて彼女を家まで運んだ。
◆ ◆ ◆
「ん、なんだ珍しいな、お前がお菓子以外の物を食べていたなんて」
家に運んだ後、先ずは椅子に座らせ、軽く怪我の応急処置をした。
そこまで深い傷はなかったので、次は蜂蜜とレモンと塩を混ぜた飲み物を飲ませてやると、
魔理沙は大分落ち着いたようだった。
少なくとも表面上は何時もの調子を取り戻した様に見える。
「ちょっとした気まぐれよ」
私は明日の朝にでも、と残しておいたシチューを温め直しながら答えた。
「お前といいパチュリーといい、魔女はお菓子ばかり食ってるよな。
考えるのに甘い物が必要なのは判るけどさ」
「何よ、何か文句でもあるのかしら?」
「いや、羨ましい体質だなって」
これは魔法使いの体質と言ってしまって良いのだろうか。少し違うような気がするのだけど。
食べ物から栄養を得る必要がない、というより得られないというか――
「ブクブクに太っちまえばいいのに」
「二杯目の飲み物は生理食塩水でいいわね」
「嘘嘘、冗談。アリスは今のままが一番可愛いんだぜ」
…………はぁ。
思わずため息もつきたくなる。
「なんだよ、ため息なんかついて」
「少し呆れただけよ」
「なんでだよ」
「いえ、どんな時でもノリと勢いで生きているのね、貴方って」
「だから冗談だって言ってるだろ」
本気で言ったのでは無いのだろう、そんな事は解っている。
等と話しているうちに火にかけたシチューも温まった。
よそって、パンと一緒に人形に運ばせる。
「おー、美味そうだ」
「普段作らない物だからね、味の保証はしないけれど」
「そうなのか? まあいいや。早速いただきます」
手早くキッチンの後片付けを終えて、私も魔理沙の向かい側に座った。
落ち着いた所で早速、聞く事を聞いておきましょう。
「で?」
「……でって? ああ、ちゃんと美味しいぜ、このシチュー?」
「そうじゃなくて、何があったのよ?」
魔理沙のシチューをすくう手が一瞬止まった。
「別に、なんでも無いんだぜ」
「なんでも無いわけないでしょう? 貴方今、右と左で前髪の長さ違うわよ」
「なにっ、本当か? それは床屋の腕が悪かったのかもしれないな」
「万に一つもそんな訳ないわ」
他ならぬ私が切ったのだから。
ある時伸び放題になっていた彼女の髪を、見ているこっちが鬱陶しくなり、
思いつきで切ってやって以来、私は偶に魔理沙の髪の毛を整えてあげていた。
「聞かないでくれないか?」
「駄目よ」
そう言ってくるだろう事も見越していたので、ほぼ反射的に魔理沙の都合の良い要求を突っぱねた。
その私の反応が意外だったのか、口を半開きにしたまま固まっている魔理沙に、私はさらに畳み掛ける。
「さっきも言ったでしょう、私は貴方の事情や心情を慮って、触れられたくなさそうな話題に触れないであげる程優しくないわ。さ、食べたり飲んだりした分話しなさい」
「……解ったよ」
そう言って悪戯が見つかって説教された子供の様な様子で、魔理沙は重い口を開き始めた。
巫女に負けた。
魔理沙の誤魔化しの入ったまだるっこしい説明をまとめると、どうやらそういう事らしかった。
いつもの様に霊夢と異変解決に向かった魔理沙は、
道中弾幕ごっこで手酷く相手にやられ、その足で(?)すごすごと帰る途中力尽きて墜落した様だ。
それと、その魔理沙の弾幕ごっこの相手をした巫女というのは、当たり前だが霊夢ではなかったらしい。
なんでも、ごく最近妖怪の山に現れた新しい巫女らしいが、その辺りの事情はよく解らない様だった。
しかし恐らく霊夢がなんだかんだ解決しているはずだ、とのこと。
それがまた、魔理沙のプライドを傷つけている様子だった。
――全く、どうでもいい所で意地を張るんだから。
どうにも魔理沙は、特に霊夢をライバル視している節があり、普通に協力すればいいような所で競争をしようとするきらいがある。
協力なんかしたら分け前が半減するだろ? なんて事をよく言っているけど、
そもそも異変を解決して実益がある事なんて殆ど無いだろうに。
それにこう言ってはなんだけれど、魔理沙に出し抜けるほど霊夢は甘くないと思う。
魔理沙本人だって、実際にはそう思っているんじゃないかしら。
以前聞いた霊夢の話だと、今夜の様な事はもう片手では数えられない位あった様だし。
「まあ、大体事情は解ったわ」
「……それだけか?」
「ええ、それだけよ。それとももしかして、慰めて欲しかったかしら?」
「冗談」
喋りながら既に食事を済ませた彼女は、戯けた調子で空いた両手を広げて見せる。
……本人は気づいているか解らないけれど、左腕が上がりきっていない。
服も前髪も左半分の方が特にボロボロで、怪我もそちらに集中していた。
それ等は弾幕ごっこによるものか、はたまた墜落の時の物なのかは解らないけれど。
「そう。ならお風呂入っちゃいなさい。もう沸かしてあるわ。湯船に入るのが辛いならシャワーだけでもしてきなさい」
「いやお構いなく、そこまでは別に必要無いぜ」
「私が構うのよ、そんな泥だらけの人に私のベッドは使わせられないわ」
「は? いやいやもう帰るぜ」
「帰す訳無いでしょう? 下らない意地張ってないで今日はうちで休んでいきなさい」
「別に意地を張ってるって訳じゃないぜ」
「じゃあ遠慮かしら? それこそ貴方らしくもない。別にウチに泊まるのなんて始めてでもないでしょ?」
「いや、そりゃあそうだけど――」
「はいはい、いいから。ほら立って。もう歩けるでしょ? 一人で入れる? なんなら体洗ってあげましょうか?」
「大丈夫だからっ、流石にそれは勘弁してくれ! 一人で入るから」
逃げるように浴室に走って行く魔理沙。
それを見送って、私は裁縫道具と助手の人形の準備を始めた。
◆ ◆ ◆
「おいなんだこのやたら可愛らしい寝巻きは、というか私の服はどうした?」
「文句を言う割には素直に着て出てきたわね……あら、思ったより似合ってるじゃない」
パステルグリーンのネグリジェに身を包んだお風呂上りの魔理沙は、いつもより2、3歳幼く見えた。
髪の毛が面白い状態になっていなければ、何処かのお嬢様でも通じただろう。
「私の質問に答えろって」
「貴方が自身が綺麗になっても、汚い服を着たら同じでしょ?」
「……いや、質問の答えになってないぜ」
「処分したわ」
「なんだとっ?!」
「どのみちあれはもう着れなかったわよ、代わりを用意してあげるから安心なさい」
「えぇ……」
物凄く渋い顔をされた。
失礼な奴ね。
「何よ、何か文句でもあるのかしら? もしかして忘れたのかもしれないけれど、私こういうのは得意なのよ」
「いや勿論忘れた訳じゃ無いけどさ、というかお前の本職みたいなものだろうそれは」
「じゃあ何が不満だっていうのよ」
「だって、お前の趣味ってこれだろう?」
そう言ってネグリジェの裾を摘まむ魔理沙。
「魔理沙はピンクとか似合いそうね」
「やめてくれ、ホント頼むから」
「さあ、どうかしらね」
等と言ってはみたものの、まさか本当にピンクなドレスを作るつもりは無い。
かといって元の様に白黒にするつもりも無いけれど。
あんな地味な色で飛び回られて、周りから魔法使いが皆あんな根暗な色を好むと誤解されるのは面白くない。
けれど知り合いの魔法使いの中で最も陽気な彼女が、一番陰気な色を好んで着ているというのも、そういえばなんだか可笑しな話ね。
「明日の朝には出来上がるわ。今日はもう寝てしまいなさい、疲れているんでしょう?」
「お前はまだ寝ないのか?」
「私はコレを人形達だけに任せられる所まで終わらせて、お風呂に入ってから寝るわ」
「そうかい、それじゃあお言葉に甘えさせて貰うぜ」
そう言い残して魔理沙はぎこちなく左足を庇うようにしながら寝室へ歩いていった。
さて、私もとっとと終わらせてしまいましょうか。
本当はエプロンドレス一つを一晩で、なんていい加減なスケジュールで仕立てなんてしたくないのだけれどしょうがない。
しかし、本当に今更な話ではあるけれど 、どうして私は彼女にここまでしてあげているのかしら。
これではまるでお母さんみたいじゃない。
たとえ将来子供を授かる様な事があったとしても、あんな鉄砲玉みたいな子は願い下げね。
なんて、どうでもいい事を考えながらも手は休めず動かした。
それから3、40分で大まかな作業が終わったので、後は予定通り人形達に任せ、私もお風呂に入る事にする。
いつも通り、先に体と髪を一通り洗ってから、湯船に浸かって目を閉じ考え事をする。
お風呂も食事も睡眠も、気分だけの問題で本当は私には必要の無いものなのだろう。
けれど、だからといってそれらを全て煩わしいと切り捨ててしまえる程、私は紅魔館の魔女の様に魔法使いらしくはなかった。
人間らしくなくなかった、と言い換えてもいい。
今まさにこうして、半ば異常なまでに魔理沙の世話を焼いてしまっているのも、そういうらしくなさというか、らしさの表れなんだろう。
それが、私らしいという事なのだろうかと思うと、少しだけうんざりする。
普段はあまり意識しないけれど、私はあまり自分のこういう所が好きではなかった。
ふと、そんなネガティブな思考を遮るように、リビングにいる筈の人形から異常を知らせる思念の様な物が届いた。
私と人形達は常に魔法の糸で繋がっていて、それを通して私は彼女達を操り、
また何となくではあるが、離れた所にいる人形達の状況を私は把握する事が出来る。
今まさに丁度その辺りの研究の途中で、もう少しでそこまで距離が離れてさえいなければ、人形達の見ている風景や聞いた音を、私も共有する事が出来そうという所まできている。
ともかくリビングで異常があった様なので、あまり大した事ではないだろうけれど、いつもより少し早く入浴を切り上げ、浴室を出た。
◆ ◆ ◆
「いって、コラ邪魔すんなっ、早くしないとあいつが戻ってくるだろうが」
「……」
先ず目に入ったのは上海人形達と荒々しく戯れている魔理沙の後ろ姿だった。
続いてその近くの床で無残にも粉々になっているティーカップと、中に入っていたのであろう液体。
……この娘は大人しく寝ている事も出来ないのかしら。
流石に少し腹がたってきた。
今のこの状況は、私が勝手に世話を焼いている訳だから、それに対して感謝しろだなんて言わない。
けれど、それにしても最低限しおらしく出来ないものか。
あ、コラだからそうやって乱暴に人形を掴むなって何時も言っているでしょ――
「危ないっ!」
頭の中に色々な憤りが渦巻いていたというのに、それを吐き出す事もなく、
気がつけば私はネグリジェを掴んで魔理沙を引っ張っていた。
「えっ? お、おうアリス上がったのか」
「あんたちゃんと足元見なさいよ、これ以上また怪我を増やす気?」
「は? あっ……」
私が後ろに引っ張っていなければ、多分魔理沙は割れたティーカップを思い切り踏みつけていただろう。
「第一なんで貴方起きてるのよ、もう寝るって言ってから1時間くらい経ってるわよ」
「いや、それはその、喉が乾いて……」
どもっている魔理沙をよそに、私は人形達に手早く箒と塵取りと布巾を持ってこさせる。
けれど、やはりというか、実際のところ魔理沙は本調子には程遠いみたいね。
いつもだったらさっきの私の問に対しても「眠ろうとは思ったんだがどうにも私のドレスが気になってな、いつ何時作業をしているお前の人形が、趣味の悪い色の生地を持ってきやしないかと気がきじゃなかったんだ」
位の事は言ってくるんだけど。
なんて考えながら片付けをしているうちに、大分頭も冷えてきた。
「悪い、その……怒ってるか?」
「それは怒ってるわよ、このティーカップお気に入りだったんだから」
「そうだよな、えっと、ゴメン、ほんと、ゴメン」
はぁ……。
今日は本当にため息の多い日だ。
その私のため息を聞いて、びくりと体をすくませる魔理沙。
「……確かに怒ってるけど、そんなには怒ってないから、泣きそうな顔しないの」
悪戯が見つかった子供の様に、というよりも、まさにそのものといった感じの魔理沙。
俯いてぎゅっと裾を掴んでいる彼女は本当に幼く見えて。
私は思わず魔理沙の頭を胸に抱きしめていた。
「な、なんだよっ、離せって」
「誰にだって偶には今の貴方みたいに何もかも上手くいかないような時があるわ、だからそんなに凹まないの」
よしよし、と。
抱え込んだ頭を撫でる。
「やめてくれよ、余計惨めになるだけだ……」
「いいじゃない、今日だけよ。貴方がそんなだと、私も張り合いがないの」
「私はっ! お前には負けたくないんだっ」
もはや魔理沙の言葉は何の脈絡も無く意味が解らない。
いや、解らなくもないのだけれど。
魔理沙は霊夢と同じ位、いやもしかしたらそれ以上に、私をライバル視しているようで。
こういう私の余裕を持った態度というか、力関係の様な物を感じさせる行動を嫌った。
一方的に私から施しを受けるのが我慢ならないのだろう。
さっきだってそう。
喉が乾いた、なんて言い訳していたけれど、きっと魔理沙は私の為に紅茶を淹れてくれようとしていたのだ。
以前永い夜の時、今と同じ様にうちに泊まった彼女の前で、私は夜寝る前に紅茶を飲む習慣がある事を話した。
それを覚えていたんだと思う。
今日の色々なお世話に対するお礼というか、ささやかなお返しのつもりだったのだろう。
それで上手く動かない体のせいでか、失敗したあげく私を怒らせて、こうして泣きそうになっているのだ。
「今日だけよ今日だけ。詰まらない意地張らないで、今日だけ私に甘えなさい。
そして明日恥ずかしくて私の顔見られないようだったら、私が起きる前に着替えて帰っちゃいなさい。
完成したドレスはそこにかけとくから」
「うる、せー」
もう完全に涙声になった魔理沙を抱きしめる力を強めた。
ああ、ダメだなあ、私も。
きっとこういう時、霊夢なら何もせずに放っておいて、魔理沙が自分で立ち直るのを見守るのだろう。
咲夜だったら、私以上に世話を焼きつつも、甘やかしはしないのかしら。
ともかく、自分の甘さが嫌になる。
けれども、私にはどうしても胸の中のこの娘を離すことが出来なかった。
◆ ◆ ◆
やはりというべきかこの夜の翌朝、私が起きた時には既に、魔理沙は汚い字の書き置きを一つ残してエプロンドレスと共にいなくなっていた。
それから約2月。
特に異変も無く、偶に魔理沙と顔を合わせても、それまでと同じ皮肉混じりなやり取りをするだけだった。
そして研究も順調に進み、人形達と聞いた音や見ている風景を共有出来るようになった頃。
私の持っている一部の人形達が狂い始めた。
――ああ、異変だ。
こうして目に見えて実害のある異変は久しぶりである。
一瞬自分で解決に向かおうかとも思ったけれど、辞めた。
餅は餅屋に任せてしまうのが一番である。
私は霊夢づてに紫に協力を仰ぎ、人形達の機能を強化した。
そして――
「洞窟の中なのに風が凄いぜ」
「……魔理沙? 聞こえるかしら……」
「聞こえない聞こえない。私はまだ正常だ」
「……あっそう。人形返して貰うわよ?」
なんて、いつも通りのやり取り。
人形越しに見える魔理沙が、あの夜私の用意した紺のドレスを着ているのを見て、自然と口角が上がる。
「へぇ、攻撃の支援だけじゃなくて会話も出来るんだな」
「紫が用意してくれたのよ」
さて、いつも通りのお話は一時中断。
そして、楽しい楽しい異変解決の始まり始まり。
今夜はふと思い立ち、大体1週間ぶりに夕食を食べ、気持ちだけの満腹感を味わいながらのんびりと読書をしていた。
喧騒からはほとほと無縁の魔法の森の奥地、集中を妨げる獣の遠吠えも響いてこない静かな秋の夜。
人形に紅茶を作って持ってこさせれば、我が家は紅魔館の図書館に勝るとも劣らない読書環境ではないかと思う。
そんな心地良い静寂を突き破るように、ふと何かが森に落ちる音がした。
ばさばさばさっ、と枝葉を掻き分けるような不快な雑音の後、ずんっ、と鈍い振動が伝わる。
……何かしら。
酔っ払った鴉の妖怪でも墜落したか、はたまた人目が無いと思っての不法投棄の類か。
前者なら放っておくに限るが、後者の場合、物によっては放置すると面倒な事になりかねない。
それぞれの可能性と面倒臭さとその他諸々を考慮し天秤にかけてから、結局私は様子を見に行く事にした。
これが入浴後だったのなら逆の行動をとっていただろう。
とにかく私は外套を引っ掛け、一応用心の為にと2体の上海人形をお供に、音のした方へと向かった。
◆ ◆ ◆
鬱蒼と木々が生い茂る魔法の森の一画、家から2、3分程歩いたところ『それ』は落ちていた。
そう表現する他ないだろう。
その見た目のみすぼらしさは奇しくも不法投棄を想像させたけれど、予想としてはもう一つの方が正解に近かった。
「……魔理沙?」
声をかけてみるとうつ伏せの身体がピクリと動いた様に見えた。
しかしそれきり反応がない。
もう少し近寄って様子をみると、服は所々破れてボロボロ。
髪の毛も黒ずんで(焦げている?)いて普段の彼女からは程遠い風貌ではあ ったが、霧雨魔理沙で間違いないようだ。
「随分壮絶な出で立ちね、だから酔っ払ったまま夜中に飛ぶのは危ないってこの間忠告してあげたのに」
「……ああ、アリスか。そういやここはお前ん家の近くだったな」
そう言いながらやっとこちらに顔を向ける魔理沙。
死相が出ているとは言わないまでも、顔色は悪く、相当疲弊しているように見える。
「別に今日は宴会帰りじゃないんだぜ、それに生憎私は誰かさんと違って、酔った位で飛べなくなる程下戸じゃあない」
「あらそう」
相変わらずの憎まれ口を叩きながらも、その声には力がない。
色々と考えるのは後にして、取り敢えずこの投棄された物体を回収する事にする。
私は人形達に手伝わせながら、肩を貸すようにして魔理沙を立ち上がらせた。
「……今日は随分お節介だな、アリス」
「効率を考えただけよ。完全に動かなくなってからどかすより、少しでも自分で動いてくれるうちに運んだ方が楽でしょう?」
「前言撤回、お前は相変わらず薄情な奴だ」
それきり魔理沙は黙り込んでしまった。
どうやら立っているのも辛いようで、ほぼ全体重をこちらにかけてくるものだから、
とても歩きづらく、時々つられてふらついてしまう。
どうにも私も人形もこういう単純な力仕事には向いていないわね。
「――悪い、迷惑かける」
本当に小さな声で魔理沙が何か喋ったような気がしたけれど、余りに弱々しくてよく聞こえなかった。
取り敢えずそういう事にしておく。
それからも途中何度かつまづきそうになりながら、往路の2倍近くの時間を掛けて彼女を家まで運んだ。
◆ ◆ ◆
「ん、なんだ珍しいな、お前がお菓子以外の物を食べていたなんて」
家に運んだ後、先ずは椅子に座らせ、軽く怪我の応急処置をした。
そこまで深い傷はなかったので、次は蜂蜜とレモンと塩を混ぜた飲み物を飲ませてやると、
魔理沙は大分落ち着いたようだった。
少なくとも表面上は何時もの調子を取り戻した様に見える。
「ちょっとした気まぐれよ」
私は明日の朝にでも、と残しておいたシチューを温め直しながら答えた。
「お前といいパチュリーといい、魔女はお菓子ばかり食ってるよな。
考えるのに甘い物が必要なのは判るけどさ」
「何よ、何か文句でもあるのかしら?」
「いや、羨ましい体質だなって」
これは魔法使いの体質と言ってしまって良いのだろうか。少し違うような気がするのだけど。
食べ物から栄養を得る必要がない、というより得られないというか――
「ブクブクに太っちまえばいいのに」
「二杯目の飲み物は生理食塩水でいいわね」
「嘘嘘、冗談。アリスは今のままが一番可愛いんだぜ」
…………はぁ。
思わずため息もつきたくなる。
「なんだよ、ため息なんかついて」
「少し呆れただけよ」
「なんでだよ」
「いえ、どんな時でもノリと勢いで生きているのね、貴方って」
「だから冗談だって言ってるだろ」
本気で言ったのでは無いのだろう、そんな事は解っている。
等と話しているうちに火にかけたシチューも温まった。
よそって、パンと一緒に人形に運ばせる。
「おー、美味そうだ」
「普段作らない物だからね、味の保証はしないけれど」
「そうなのか? まあいいや。早速いただきます」
手早くキッチンの後片付けを終えて、私も魔理沙の向かい側に座った。
落ち着いた所で早速、聞く事を聞いておきましょう。
「で?」
「……でって? ああ、ちゃんと美味しいぜ、このシチュー?」
「そうじゃなくて、何があったのよ?」
魔理沙のシチューをすくう手が一瞬止まった。
「別に、なんでも無いんだぜ」
「なんでも無いわけないでしょう? 貴方今、右と左で前髪の長さ違うわよ」
「なにっ、本当か? それは床屋の腕が悪かったのかもしれないな」
「万に一つもそんな訳ないわ」
他ならぬ私が切ったのだから。
ある時伸び放題になっていた彼女の髪を、見ているこっちが鬱陶しくなり、
思いつきで切ってやって以来、私は偶に魔理沙の髪の毛を整えてあげていた。
「聞かないでくれないか?」
「駄目よ」
そう言ってくるだろう事も見越していたので、ほぼ反射的に魔理沙の都合の良い要求を突っぱねた。
その私の反応が意外だったのか、口を半開きにしたまま固まっている魔理沙に、私はさらに畳み掛ける。
「さっきも言ったでしょう、私は貴方の事情や心情を慮って、触れられたくなさそうな話題に触れないであげる程優しくないわ。さ、食べたり飲んだりした分話しなさい」
「……解ったよ」
そう言って悪戯が見つかって説教された子供の様な様子で、魔理沙は重い口を開き始めた。
巫女に負けた。
魔理沙の誤魔化しの入ったまだるっこしい説明をまとめると、どうやらそういう事らしかった。
いつもの様に霊夢と異変解決に向かった魔理沙は、
道中弾幕ごっこで手酷く相手にやられ、その足で(?)すごすごと帰る途中力尽きて墜落した様だ。
それと、その魔理沙の弾幕ごっこの相手をした巫女というのは、当たり前だが霊夢ではなかったらしい。
なんでも、ごく最近妖怪の山に現れた新しい巫女らしいが、その辺りの事情はよく解らない様だった。
しかし恐らく霊夢がなんだかんだ解決しているはずだ、とのこと。
それがまた、魔理沙のプライドを傷つけている様子だった。
――全く、どうでもいい所で意地を張るんだから。
どうにも魔理沙は、特に霊夢をライバル視している節があり、普通に協力すればいいような所で競争をしようとするきらいがある。
協力なんかしたら分け前が半減するだろ? なんて事をよく言っているけど、
そもそも異変を解決して実益がある事なんて殆ど無いだろうに。
それにこう言ってはなんだけれど、魔理沙に出し抜けるほど霊夢は甘くないと思う。
魔理沙本人だって、実際にはそう思っているんじゃないかしら。
以前聞いた霊夢の話だと、今夜の様な事はもう片手では数えられない位あった様だし。
「まあ、大体事情は解ったわ」
「……それだけか?」
「ええ、それだけよ。それとももしかして、慰めて欲しかったかしら?」
「冗談」
喋りながら既に食事を済ませた彼女は、戯けた調子で空いた両手を広げて見せる。
……本人は気づいているか解らないけれど、左腕が上がりきっていない。
服も前髪も左半分の方が特にボロボロで、怪我もそちらに集中していた。
それ等は弾幕ごっこによるものか、はたまた墜落の時の物なのかは解らないけれど。
「そう。ならお風呂入っちゃいなさい。もう沸かしてあるわ。湯船に入るのが辛いならシャワーだけでもしてきなさい」
「いやお構いなく、そこまでは別に必要無いぜ」
「私が構うのよ、そんな泥だらけの人に私のベッドは使わせられないわ」
「は? いやいやもう帰るぜ」
「帰す訳無いでしょう? 下らない意地張ってないで今日はうちで休んでいきなさい」
「別に意地を張ってるって訳じゃないぜ」
「じゃあ遠慮かしら? それこそ貴方らしくもない。別にウチに泊まるのなんて始めてでもないでしょ?」
「いや、そりゃあそうだけど――」
「はいはい、いいから。ほら立って。もう歩けるでしょ? 一人で入れる? なんなら体洗ってあげましょうか?」
「大丈夫だからっ、流石にそれは勘弁してくれ! 一人で入るから」
逃げるように浴室に走って行く魔理沙。
それを見送って、私は裁縫道具と助手の人形の準備を始めた。
◆ ◆ ◆
「おいなんだこのやたら可愛らしい寝巻きは、というか私の服はどうした?」
「文句を言う割には素直に着て出てきたわね……あら、思ったより似合ってるじゃない」
パステルグリーンのネグリジェに身を包んだお風呂上りの魔理沙は、いつもより2、3歳幼く見えた。
髪の毛が面白い状態になっていなければ、何処かのお嬢様でも通じただろう。
「私の質問に答えろって」
「貴方が自身が綺麗になっても、汚い服を着たら同じでしょ?」
「……いや、質問の答えになってないぜ」
「処分したわ」
「なんだとっ?!」
「どのみちあれはもう着れなかったわよ、代わりを用意してあげるから安心なさい」
「えぇ……」
物凄く渋い顔をされた。
失礼な奴ね。
「何よ、何か文句でもあるのかしら? もしかして忘れたのかもしれないけれど、私こういうのは得意なのよ」
「いや勿論忘れた訳じゃ無いけどさ、というかお前の本職みたいなものだろうそれは」
「じゃあ何が不満だっていうのよ」
「だって、お前の趣味ってこれだろう?」
そう言ってネグリジェの裾を摘まむ魔理沙。
「魔理沙はピンクとか似合いそうね」
「やめてくれ、ホント頼むから」
「さあ、どうかしらね」
等と言ってはみたものの、まさか本当にピンクなドレスを作るつもりは無い。
かといって元の様に白黒にするつもりも無いけれど。
あんな地味な色で飛び回られて、周りから魔法使いが皆あんな根暗な色を好むと誤解されるのは面白くない。
けれど知り合いの魔法使いの中で最も陽気な彼女が、一番陰気な色を好んで着ているというのも、そういえばなんだか可笑しな話ね。
「明日の朝には出来上がるわ。今日はもう寝てしまいなさい、疲れているんでしょう?」
「お前はまだ寝ないのか?」
「私はコレを人形達だけに任せられる所まで終わらせて、お風呂に入ってから寝るわ」
「そうかい、それじゃあお言葉に甘えさせて貰うぜ」
そう言い残して魔理沙はぎこちなく左足を庇うようにしながら寝室へ歩いていった。
さて、私もとっとと終わらせてしまいましょうか。
本当はエプロンドレス一つを一晩で、なんていい加減なスケジュールで仕立てなんてしたくないのだけれどしょうがない。
しかし、本当に今更な話ではあるけれど 、どうして私は彼女にここまでしてあげているのかしら。
これではまるでお母さんみたいじゃない。
たとえ将来子供を授かる様な事があったとしても、あんな鉄砲玉みたいな子は願い下げね。
なんて、どうでもいい事を考えながらも手は休めず動かした。
それから3、40分で大まかな作業が終わったので、後は予定通り人形達に任せ、私もお風呂に入る事にする。
いつも通り、先に体と髪を一通り洗ってから、湯船に浸かって目を閉じ考え事をする。
お風呂も食事も睡眠も、気分だけの問題で本当は私には必要の無いものなのだろう。
けれど、だからといってそれらを全て煩わしいと切り捨ててしまえる程、私は紅魔館の魔女の様に魔法使いらしくはなかった。
人間らしくなくなかった、と言い換えてもいい。
今まさにこうして、半ば異常なまでに魔理沙の世話を焼いてしまっているのも、そういうらしくなさというか、らしさの表れなんだろう。
それが、私らしいという事なのだろうかと思うと、少しだけうんざりする。
普段はあまり意識しないけれど、私はあまり自分のこういう所が好きではなかった。
ふと、そんなネガティブな思考を遮るように、リビングにいる筈の人形から異常を知らせる思念の様な物が届いた。
私と人形達は常に魔法の糸で繋がっていて、それを通して私は彼女達を操り、
また何となくではあるが、離れた所にいる人形達の状況を私は把握する事が出来る。
今まさに丁度その辺りの研究の途中で、もう少しでそこまで距離が離れてさえいなければ、人形達の見ている風景や聞いた音を、私も共有する事が出来そうという所まできている。
ともかくリビングで異常があった様なので、あまり大した事ではないだろうけれど、いつもより少し早く入浴を切り上げ、浴室を出た。
◆ ◆ ◆
「いって、コラ邪魔すんなっ、早くしないとあいつが戻ってくるだろうが」
「……」
先ず目に入ったのは上海人形達と荒々しく戯れている魔理沙の後ろ姿だった。
続いてその近くの床で無残にも粉々になっているティーカップと、中に入っていたのであろう液体。
……この娘は大人しく寝ている事も出来ないのかしら。
流石に少し腹がたってきた。
今のこの状況は、私が勝手に世話を焼いている訳だから、それに対して感謝しろだなんて言わない。
けれど、それにしても最低限しおらしく出来ないものか。
あ、コラだからそうやって乱暴に人形を掴むなって何時も言っているでしょ――
「危ないっ!」
頭の中に色々な憤りが渦巻いていたというのに、それを吐き出す事もなく、
気がつけば私はネグリジェを掴んで魔理沙を引っ張っていた。
「えっ? お、おうアリス上がったのか」
「あんたちゃんと足元見なさいよ、これ以上また怪我を増やす気?」
「は? あっ……」
私が後ろに引っ張っていなければ、多分魔理沙は割れたティーカップを思い切り踏みつけていただろう。
「第一なんで貴方起きてるのよ、もう寝るって言ってから1時間くらい経ってるわよ」
「いや、それはその、喉が乾いて……」
どもっている魔理沙をよそに、私は人形達に手早く箒と塵取りと布巾を持ってこさせる。
けれど、やはりというか、実際のところ魔理沙は本調子には程遠いみたいね。
いつもだったらさっきの私の問に対しても「眠ろうとは思ったんだがどうにも私のドレスが気になってな、いつ何時作業をしているお前の人形が、趣味の悪い色の生地を持ってきやしないかと気がきじゃなかったんだ」
位の事は言ってくるんだけど。
なんて考えながら片付けをしているうちに、大分頭も冷えてきた。
「悪い、その……怒ってるか?」
「それは怒ってるわよ、このティーカップお気に入りだったんだから」
「そうだよな、えっと、ゴメン、ほんと、ゴメン」
はぁ……。
今日は本当にため息の多い日だ。
その私のため息を聞いて、びくりと体をすくませる魔理沙。
「……確かに怒ってるけど、そんなには怒ってないから、泣きそうな顔しないの」
悪戯が見つかった子供の様に、というよりも、まさにそのものといった感じの魔理沙。
俯いてぎゅっと裾を掴んでいる彼女は本当に幼く見えて。
私は思わず魔理沙の頭を胸に抱きしめていた。
「な、なんだよっ、離せって」
「誰にだって偶には今の貴方みたいに何もかも上手くいかないような時があるわ、だからそんなに凹まないの」
よしよし、と。
抱え込んだ頭を撫でる。
「やめてくれよ、余計惨めになるだけだ……」
「いいじゃない、今日だけよ。貴方がそんなだと、私も張り合いがないの」
「私はっ! お前には負けたくないんだっ」
もはや魔理沙の言葉は何の脈絡も無く意味が解らない。
いや、解らなくもないのだけれど。
魔理沙は霊夢と同じ位、いやもしかしたらそれ以上に、私をライバル視しているようで。
こういう私の余裕を持った態度というか、力関係の様な物を感じさせる行動を嫌った。
一方的に私から施しを受けるのが我慢ならないのだろう。
さっきだってそう。
喉が乾いた、なんて言い訳していたけれど、きっと魔理沙は私の為に紅茶を淹れてくれようとしていたのだ。
以前永い夜の時、今と同じ様にうちに泊まった彼女の前で、私は夜寝る前に紅茶を飲む習慣がある事を話した。
それを覚えていたんだと思う。
今日の色々なお世話に対するお礼というか、ささやかなお返しのつもりだったのだろう。
それで上手く動かない体のせいでか、失敗したあげく私を怒らせて、こうして泣きそうになっているのだ。
「今日だけよ今日だけ。詰まらない意地張らないで、今日だけ私に甘えなさい。
そして明日恥ずかしくて私の顔見られないようだったら、私が起きる前に着替えて帰っちゃいなさい。
完成したドレスはそこにかけとくから」
「うる、せー」
もう完全に涙声になった魔理沙を抱きしめる力を強めた。
ああ、ダメだなあ、私も。
きっとこういう時、霊夢なら何もせずに放っておいて、魔理沙が自分で立ち直るのを見守るのだろう。
咲夜だったら、私以上に世話を焼きつつも、甘やかしはしないのかしら。
ともかく、自分の甘さが嫌になる。
けれども、私にはどうしても胸の中のこの娘を離すことが出来なかった。
◆ ◆ ◆
やはりというべきかこの夜の翌朝、私が起きた時には既に、魔理沙は汚い字の書き置きを一つ残してエプロンドレスと共にいなくなっていた。
それから約2月。
特に異変も無く、偶に魔理沙と顔を合わせても、それまでと同じ皮肉混じりなやり取りをするだけだった。
そして研究も順調に進み、人形達と聞いた音や見ている風景を共有出来るようになった頃。
私の持っている一部の人形達が狂い始めた。
――ああ、異変だ。
こうして目に見えて実害のある異変は久しぶりである。
一瞬自分で解決に向かおうかとも思ったけれど、辞めた。
餅は餅屋に任せてしまうのが一番である。
私は霊夢づてに紫に協力を仰ぎ、人形達の機能を強化した。
そして――
「洞窟の中なのに風が凄いぜ」
「……魔理沙? 聞こえるかしら……」
「聞こえない聞こえない。私はまだ正常だ」
「……あっそう。人形返して貰うわよ?」
なんて、いつも通りのやり取り。
人形越しに見える魔理沙が、あの夜私の用意した紺のドレスを着ているのを見て、自然と口角が上がる。
「へぇ、攻撃の支援だけじゃなくて会話も出来るんだな」
「紫が用意してくれたのよ」
さて、いつも通りのお話は一時中断。
そして、楽しい楽しい異変解決の始まり始まり。
それはそうと、大変面白かったです。頭の悪い自分にも易しい文章でサクサク読めました。・・・本当に初めて?だったら次にも期待大です!
それからなにより人物の性格が良いですね。自分は永夜抄のEDから
魔理沙⇒壁にぶつかったら乗り越えようと悩むタイプ
アリス⇒取りあえず今できる範囲で最優先だと思うことをする
というイメージですので、ちょっとした事で落ち込んだり意地を張ってる魔理沙と、他人に無関心なようでおせっかいなアリスの組み合わせはとても当人同士らしいと感じました。まぁこの日が特別なだけで普段はもっと淡白な感じなんでしょうけどね。
欲を言えばもうちょっと読みたかったです(笑)
最後にはアリスに甘えちゃうのがもう…!
アリスが魅力たっぷりで魔理沙も可愛い。
なんか微妙に自分に対しても誤魔化しがありそうな地の文にニヤニヤしてました。
続きを読みたいと思わせるお話でした
霊夢なら放っておいて、自ら立ち上がるのを待つ
咲夜だったら、私以上に世話を焼きつつも、甘やかしはしない
そんな話はまだですか?
魔理沙の心情を慮って尚且つ甘やかしちゃうアリスさんマジお姉さん。
魔理沙、アリス以外のキャラの造形も既に固めてるのかなー、と思わせる節があって(具体的には霊夢と咲夜)、これからの投稿が少し楽しみです。
貴方の書く霊夢と咲夜も見てみたい。
よかったです。
これは続編も期待して良いんですよね!そうですよね!
次回作にも期待してます
もっとあなたの幻想郷を知りたくなるような心地よい作品でした。
この雰囲気いいですね。大変面白かったです。
次も期待大ですね。
ヘタレ魔理沙も悪くない