まえがき
・チルノは原作では文字を読めます。新聞だって読めます。しかしこの話では読めないことになっています。
・妖精に誕生日なんてあるの? なんて疑問に思ってはいけません。
これらを考慮してお読みいただければ光栄です。
森を抜けると、赤い色の花が咲いている場所についた。
ふーん、綺麗な色だけど、変な形。
あたいはこんないっぱいあるありきたりな物じゃなくて、もっと珍しいものを手に入れに来たのよ。
なにか落ちてないかな、と注意深く観察する。
あ、何かみっけ。
なんだこれ、棒だけど、さきっちょが黒い。
ビームでも出るのかな。
ここらへんはこれ以外何も落ちてないわね。
じゃあ珍しいってことかしら。
これでいいや。もって帰ろっと。
『鉛筆の用途』
ここだったかしら。
ここに住んでいる人間は確か、道具のことならなんでも分かるって魔理沙が言ってた。
ってのをこの前盗み聞きした。
「よいしょ、ねー、人間。これがなにか調べてよ」
「……客じゃないみたいだな、それに僕は人間と妖怪のハーフだ」
「いいから。これって何? あんたならわかるんでしょ」
「妖精か。いたずら目的以外で、しかも堂々と入ってくるなんて珍しいね。どれ、みせてごらん」
「盗んじゃダメよ。あたいが苦労して拾ったやつなんだから」
「見たところ鉛筆のようだけど、何か少し違って見えるね。少し触らせて」
「はい」
「ふむ、ロケット…… 用途は普通の鉛筆と何ら変わらないらしいけど。この名前からすると…… 飛ぶのかな」
「え、飛ぶの? やって見せてよ」
「ちょっとまって。うーん、どうするんだ。あ、先端が外れた」
「あー壊した! あたいが頑張って拾ってきたやつなのに!」
「ま、まてまて すぐ直す。……先端には入らないな、ん? 後ろか?」
「あ、直った。あんたすごいわね」
「なるほど、先端の芯が使いづらくなったら後ろに回し、新しいのを使うわけか。面白い」
「で、それは何に使うのよ。弾幕ごっこに使える?!」
「それは、無理そうだな…… ところで、君の名前は?」
「チルノ! 氷の妖精よ」
「そうだな、さっきから肌寒いと思っていたところだよ。僕は霖之助。それでチルノ、これの使い方は『文字や絵を書く』だ」
「文字?」
「そう、この先端は黒鉛だ。それを擦り付けた所は黒く残るんだ」
「なんだ、それだけ? そこら辺に落ちている石でもなぞると白く跡が残るよ」
「まぁそうなんだが…… じゃあチルノはこれ、いらないのかい?」
「うーん、でも珍しかったら……」
「君がさっき言った通り、文字を書く物はあまり珍しくないんだ」
「そうなんだ、でもタダであげるのはなんかイヤだ」
「……そうか、じゃあこれをあげよう。しかも二つだ」
「なにそれ」
「これは鉛筆。用途は『文字や絵を書く』だ」
「さっきのと一緒じゃないの。あれ? じゃあそれ一本あげたら同じ使い道のを二本くれるってこと?」
「そうなるね」
「あんた……バカなの? いいわ交換してあげる」
「そうか、ありがとう」
「あんたも、もう少し勉強しなさいよ。じゃないと損するわよ。またね」
ふふ、なんか知らないけど儲かっちゃった。
でも、どこに使おうかしら。うーん……
「い、いた! チルノちゃん。めっけ」
「あ、大ちゃん。何の話?」
「何の話って…… かくれんぼしてたでしょ!」
「え、あぁそうだったね。見つかっちゃったー」
忘れてた。あ、そうだ。
かくれんぼしてるから森を抜けてあそこに行って……
そんであそこは確か珍しいものが落ちてるって聞いたから、
一人宝探しごっこを思いついて……
「もう、私疲れちゃったよ。休憩しよ?」
「うん。そこの切り株に座ろう、大ちゃん」
「ふー、これからは隠れる範囲を決めようよ。チルノちゃん。見つけるの二日かかるかくれんぼなんて…… 聞いてる?」
「あ、ごめんごめん。これを何かに使おうかなーって」
「これ、鉛筆だよね。どうしたの?」
「そこの、えーっと。りんのすけにもらった」
「りんのすけ…… そこの道具屋さん? へーすごいね」
「うん! あ、そうだ。二本あるから、大ちゃんにあげる! はい」
「え、いいの? ありがとう、じゃあチルノちゃんにお手紙でも書こうかな」
「お手紙? あたいに? なんで?」
「せっかく鉛筆があるんだから、使わないと」
「ふーん、でもそんなの直接言えばいいじゃない。わざわざお手紙にしなくても」
「それもそうなんだけど…… なんていうかな、直接会って話すのもいいけど、お手紙にして文字にすると…… なんかいいんだよ?」
「へー、大ちゃんってまどろっこしいわね」
「あ、あはは」
文字ねえ。ひらがなは読めるけど、あたい文字書けないからなあ。
あ、そういえば。
「そういえば、今度大ちゃん祭やるんだよね」
「大ちゃん祭…… うん、何か妖精のみんなが私の誕生日祝ってくれるって」
「うふふ、楽しみね! なんか誕生祭って、人間みたい」
「うん、言いだしっぺはあの、光の三妖精なんだけど、紅魔館のパーティを見て真似したくなったらしいよ」
「そうなんだ」
「うん、楽しみだね。チルノちゃんの誕生祭もきっとやると思うよ」
「大ちゃんのプレゼント何にしようかなぁ。きっと他のやつよりもすっごくいいのあげるから!」
「うん、ありがとう!」
「じゃ、私プレゼント何にするか考える旅に出るわ! またね!」
「え、う、うん、またねー」
そうだそうだ、一人宝探しごっこもそもそも大ちゃんのプレゼントをあげるために考えついたんだった。
大ちゃんのプレゼント、どうしようかな。
誰かに聞きに行こう。
え、と。ここから近いのは……
「アリスー、アリスー、入るよ!」
「な、何? なんだ、チルノじゃない。どうしたの。急に入られるとビックリするわ」
あたいはアリスに大ちゃん祭りのことを話した。
あと、さっきここに来る途中、妖精と白黒がきのこを奪い合っている話もした。
全然関係ないけど。
「へぇ、妖精も面白いことをするのね」
「なんかいいアイデアない? ほかの奴らに差をつけたいのよ」
「そうねぇ。じゃあお人形を作ってあげるのはどう?」
「あたい、そんなの作ったこと無いよ。それに明後日だし」
「明後日ねえ…… じゃあ、お花を摘んであげるのとかは?」
「そんなの、他の妖精でも簡単にできるよ」
「うーん、そうねぇ。……じゃあ、お手紙とかあげてみれば?」
お手紙?
そういえば大ちゃんもそんな事言ってたっけ。
「お手紙って、そんなにすごいものなの?」
「すごいって言うか…… 貴方、大ちゃんの事好き?」
「うん! 大ちゃんは優しいし、大好き!」
「その事って、大ちゃんは知ってる?」
「うーん、よく遊ぶけど、直接好きって言ったことはない…… なんか小っ恥ずかしいし」
「でしょ? じゃあ手紙に『好きです』って書いて渡すのだったら簡単じゃない?」
「あー、そうかも」
「それに大ちゃんからしたら、貴方が自分のこと好きだって、その手紙を見れば何回でも確認できるでしょ?」
「おー、そっか。手紙ってすごいな。うん、あたい手紙書く! ほら!」
「あ、鉛筆なんて持ってるの。丁度いいじゃない。何か紙はある?」
「紙は持ってない……」
「そう…… しょうがない。じゃあこの便箋をあげるわ」
「ありがとうアリス! でもね!」
「ん?」
「あたい文字かけない」
「……本当に?」
「うん、ひらがな読めるけど、書けない。アリス」
「……な、なによ」
「教えて」
「……」
「教えてください」
「……しょうがないわねぇ。そのかわり、しばらくうちのお手伝いでもしてちょうだいな」
「まかせろ!」
それから、私は大ちゃんのために、
アリスに文字を教わることになった。
もちろん、アリスの家の手伝いはめんどうだけど、大ちゃんのためだから。
――――――――――
最初は、文字が書けないなんて聞いたから絶望的だったけど、
読めるだけあって、チルノの上達はすごく早かった。
やはりこの子は妖精の中でも別格なのだろう。
よく馬鹿にされることもあるけど、それは言動や態度がそれっぽいだけであって、
この子の潜在的な能力は他の妖精の比ではない。
まず、チルノが頼んできたその日の夜、自分の名前はかけるようになった。
そして今日は、手紙の内容を決める。誕生祭はもう明日だ。
「『ちるの』。うん、ミミズののたくった字ではあるけれど読めなくはないわね。ひらがななのはしょうがないとして」
「だろ?! あたいったら……」
「はいはい、でも本番はこれからよ。まず、手紙の内容を決めましょう」
ちなみに、練習の紙は天狗の新聞の余白を使用している。
新聞の有効活用方法だ。
「うーん、どういう事を書けばいいの」
「それは貴方が決めなさい。普段、大ちゃんのことを貴方がどういう風に思っているかでいいのよ」
「じゃあ、ともだち、とか?」
「うーん、それだけじゃ分かりづらいかも知れないわね」
「じゃあ…… やっぱり、すきです、とか」
「それでいいわね。じゃあ手紙には自分の名前と、すきです、ってことは書きましょうか」
「うん!」
「じゃあまずは私が書くわ。それをお手本にして、書いてみて」
私は余白にすきです、と書いてチルノに見せる。
何か私が少し恥ずかしくなってきたじゃない。
「これですきです、っていうの?」
「えぇ…… っていうか、貴方読めるんじゃなかったっけ?」
「うん。『ち』と『る』と『の』は読めるわよ。あたいの字だもん」
……だから名前は上達が早かったのか。
先は長そうだ。
「ていうか何この字。『き』と『ち』ってどこがどう違うのよ」
「まず画数が違うわ、それに下の丸いところの向きも違うし…… って、馬鹿な説明させないで」
「ば、バカだって!」
「いや、あなたのことを言ったわけじゃなくて」
「あ、そう」
そしてチルノの猛特訓が始まった。
どうしても『き』が『ち』に見えるらしく、何度も間違った。
それに『す』が『よ』や『お』の点がないのになってしまい、うまく書けない
『す』は難易度が高いのか……
「あ、これはどう? うまくできた」
「またきがちになってるわよ。これじゃあ『よちでよ』になっちゃうわよ」
「あはは、なにそれー」
「貴方が書いたのよ!」
だ、駄目だ…… やっぱりさっきの撤回するわ。
はぁ、疲れてきた……
「……」
「どうしたの?」
「……なんか、悪いわね。うまくできなくって」
「なによ、今更」
「アリスに迷惑かけてさ、もう諦めようかな……」
全く、普段の威勢はどうしたのよ。
「……チルノ、本当にそれでいいの?」
「え?」
「大ちゃんに、好きってことを伝えたいんでしょ?」
「うん……」
「じゃあ、頑張りなさい。私に手伝わせておいて、できなかった、なんて許さないわ」
「うん、ごめん。頑張る」
「大事なのは、想いよ。たとえ字が下手でも、それだけ貴方が大事に持ってる大ちゃんだもの。心を込めれば、『よちでよ』でも喜んでくれるわ。貴方、最強なんでしょ?」
「うん…… あたいは最強…… く」
「ん?」
「よちでよって…… くくく」
「だから、貴方が書いたんでしょって!」
ったく、元気じゃない。
ふぅ、しょうがない。
私が妖精のためにこんな事までするなんて。本当に一時の気の迷いなんだからね。
「チルノ、貴方はこのお手本を見ながら練習してなさい。私は少し出かけてくるわ」
「え、うん。もう夕方だよ?」
空を見ると少し空は赤みがかっていた。
今日は一日文字の練習だけで潰れてしまったのか……
「ん、まぁすぐ帰ってくるわ」
「うん、いってらっしゃーい」
私はもうすぐ陽が沈みそうな空を背中に、紅魔館近くの湖まで向かった。
「うーん、確か、緑色の髪で、背が結構高くて…… あ、貴方」
「な、なんでしょう……」
「貴方かしら? 大ちゃんって」
「えぇ、確かにそう言われてます。貴方は森に住んでいるアリスさんですか? 常々チルノちゃんからお話を聞いてます」
「妖精にしては礼儀正しいわね。そうよ、私はアリス。それで貴方、明日誕生祭なんだって?」
「えぇ、そうです。妖精の皆が計画してくれて」
「そのことなんだけど、実はチルノから相談を受けてね、貴方のために手紙を書きたいそうなの」
「わ、そうなんですか! あれ、でもチルノちゃん……」
「そうなのよ。文字が書けないの。でも、昨日から貴方の為にずーっと練習してるのよ」
「本当ですか?」
「えぇ、それで私が言いたいのは、もしあの子からの手紙が不完全でも、笑わないで受け取って欲しいの、あの子頑張ってるのよ」
「……そうなんですか。私のために。嬉しい」
「ま、貴方ならこんなお節介なこと頼まなくても良かったようね」
「もちろんです。チルノちゃんが頑張ってしてくれたものなんて、私には無下にできません」
「そう、それが聞けてよかったわ。じゃあまたね」
「わざわざそれを言いに来てくださったんですか? どうも、ありがとうございます。私とチルノちゃんの分のお礼です」
「……ふーん、貴方みたいな妖精も居るの。本当に、面白いわね。幻想郷って」
やることをやったので湖を後にする。
わざわざこんな事しなくても良かったわね。とんだ取り越し苦労だわ。
「ただいま。どう、チル……」
チルノは机に突っ伏してすーすーと寝息を立てていた。
机には白い部分がほとんど見えない新聞が散乱していた。
「うん、これだけ練習したんだもの。大丈夫、うまくいくわ、チルノ」
私はチルノをベッドに運び、新聞を片付け、いつも通り人形を作り、
明日はチルノを起こすために早めに床についた。
――――――――――
「……はっ。し、しまった」
「チルノ、起きて。えーと、お祭りお昼からだったわよね……」
「んー? ……今いつよ…… ふぁー」
「え、えぇと、お日様はもう真上よ。もう始まってるかも知れないわ」
「ほ、本当に?! あわわ、寝過ごしちゃった……」
「あ、手紙書きなさい、手紙。はい、便箋」
「あ、ありがと。もう時間無いからあっちにいってから書くよ! じゃあね、アリス。終わったらまた来るから!」
「ま、まって。これ持ってきなさい」
「ん? ……うわぁ。すごい。大ちゃんそっくりだ」
「昨日の夜作ったの。私からよ。おめでとうって伝えておいて」
「う、うん! ありがとうアリス!」
アリスの人形をもらって湖に急ぐ。
あぁ、まだ始まってなきゃいいけど。
「チルノ、遅いよー」
「始めようと思っちゃったじゃない。サニー、チルノ来たから始めちゃいましょ」
「ごめんごめん。ふぅ、疲れた」
『りょうかーい、よし』
『えー、と。お集まりいただいてありがとうございます! 今日は、大ちゃんの誕生祭です! 楽しみましょう!』
わー、と歓声が上がる。
大ちゃん関係なく、みんな集まって騒ぎたいだけじゃないの。
それにしてもこの料理……
「ねぇ、ルナ。この料理一体どうしたの?」
「あ、そっかチルノはプレゼント係だもんね。料理はお料理係がどっかそこらへんからかっぱらってきたんじゃないの?」
そういう係があったんだ。
そうだ! プレゼントのお手紙書かなきゃ。
えぇと、まず自分の名前を袋に書いて……
……よし、なかなかね。
それで、中身の紙にすきですって……
あ、あれ?
どういうのだっけ。昨日あんなに練習したのに思い出せない……
ど、どうしよう。お、おちつけ。
確か…… そうだ、『き』は『ち』が反対になったやつで……
あ、あれ? こんなのだっけ……
そ、それで、『す』はこんな感じで……
あれ? 何回まるをかくんだっけ……
た、確かこんなじゃなかったはず、間違っちゃった……
いいや、ぐしゃぐしゃしちゃえ。
うわ、なんか汚くなっちゃった……
え、と『で』は……
『みんなそろそろ酔っ払ってきたー? 私は結構飲んでるよー じゃあ、大ちゃん前に来て。プレゼントの時間だよ』
ぱちぱちぱちぱち、と大きな拍手があがる。
どうしよう、まだかけてないよ……
う、だ、駄目だ。泣くな。
頑張らなきゃ。大ちゃんのためだもん。
でも…… 中身がないお手紙なんて……
『大事なのは、想いよ』
……想い。
アリスが言ってた想い……
どうすれば大ちゃんに伝わるだろう。
想い……
『ではでは、最後はチルノ。あがってきてー』
「う、うんー」
私はサニーと、他のプレゼント係と大ちゃんがいる台にあがる。
大ちゃんの手にはいっぱいの花、すごくきれいな石、どこからか拾ってきたような少し汚いけどきれいな靴など色々なものがあった。
「え、と。これはまず、アリスから、おめでとうって」
「わ、すごい。私の人形? うふふ、すごい似てるね」
「うん。アリスはすごいよね…… で、これはあたいから……」
「チルノちゃん、私がお手紙好きって覚えてくれてたんだね。ありがとう!」
「うん…… でも、でもね、うまく書けなかった…… ごめんね」
「いいの。チルノちゃんがくれるお手紙ってだけで嬉しいよ。あとでゆっくり読むね」
『うん、これで全員、渡し終えたわね。じゃあ料理がなくなるまで、ぱーっと騒ぎましょう!』
台から降りて、少しお酒を呑む
。
う、うーん、なんとなく大ちゃんに近寄りづらいなあ。
あ、大ちゃんが私の手紙読んでる。
……あ、あれ? 泣いちゃった……?
ぐしゃぐしゃで汚かったからかな……
あれ? でもこっち見て笑ってる。
気づいてくれたのかな。
――――――――――
「……うーん、少し、心配しすぎかしら。でも……」
私は湖と魔法の森の間をうろうろ飛んでいた。
二日間とはいえ、チルノの世話をしたからか、不安でここまで来てしまったのだ。
でも妖精たちのお祭りに私がでしゃばるのも……
ちょっと覗くくらいいいかな?
いや、でもバレたら恥ずかしいし……
「アリスさん」
「うわ、びっくりした。って貴方、大ちゃんじゃないの。祭はもう終わったの?」
「はい。みんな酔っ払っちゃって寝ちゃう妖精が続出で」
「あ、そうなの。チルノは?」
「チルノちゃんも私にお手紙を渡した後、お酒いっぱい飲んじゃって。今は湖で寝ています」
「あはは、そうなんだ。あ、チルノの手紙、どう? ちゃんと出来てた?」
「そうですね。見ます?」
「いいの?」
「はい。アリスさんも練習に付き合ってくれたんですし、見る権利はあると思います」
「そう。じゃあ遠慮無く」
「あ、あとお願いなんですが、便箋を持っていませんか?」
「えぇ、持ってるけど……」
「チルノちゃんに返事を書こうと思うんです。チルノちゃんからもらった鉛筆もありますし」
「それは喜ぶわね。じゃあ見せてもらうわ」
私は大ちゃんから手紙を受け取る。
『さるの』
……練習では上手くいってたのに。
中身は大丈夫だろうか……
中身を出し、開いてみると……
大量の『よちでよ』がぐしゃぐしゃされて消されてるもので真っ黒になっていた。
「あちゃー、やっぱりお手本なしじゃ駄目だったか」
「いえ、よく見てください。私、これを見た時に本当に涙が出てきちゃって…… それで返事を書かなきゃなって思ったんです」
「え? うん」
チルノが大ちゃんに送った手紙。
それには文字は書いてなかった。
だけど、鉛筆でぐしゃぐしゃにされて黒くなった便箋のはじっこに
小さなハートマークが書かれていた。
ふふ、チルノのやつ。
ちゃんと想いを伝えることができたのね。
貴方は本当に『最強』かもしれないわ。
『鉛筆の用途』
終わり
面白かったです でも少し内容がありきたりだったかも
話がテンポよく進み、面白かったです。
読んでいてホッと出来る話でした。
こういうオチとは、見事です。
チルノの、無邪気で奔放な部分がところどころに立ち現われていて、妖精っぽくてよかった。