狂気の夜の大図書館
静かな静かな大図書館
ろうそくの火を囲む
魔女が三人
「いらっしゃい、よく来てくれたわね。魔理沙、アリス」
「何か、楽しいことしようって聞いたら来ないわけにはいかないぜ」
「手短に頼むわ。私はこれでも忙しいから。それにしてもパチュリー、またどうしてこんな夜に?」
暗い図書館の真ん中で、小さなテーブルに座る。
右向かいにはアリス、左向かいには魔理沙が座っている。
テーブルの真ん中には一つ、魔法によって火の消えないろうそく。
そのろうそくがうす暗く、ぼんやりと私達の顔を照らす。
香る香りは咲夜の入れてくれた紅茶とアリスの持ってきたクッキー。
「最近こういうお茶会開けてなかったし、楽しいと思ってね。退屈は魔女を殺す、そうでしょ?」
「退屈は空腹よりも怖いってよく言うからなぁ~」
「初耳だわ」
お得意の魔理沙哲学ね。
彼女の言葉は一見的外れなようで、その実考えさせられるから、おもしろい。
「それで?いったいその暇つぶしに何をするの?」
「おもしろそうなゲームの本を見つけたのよ」
そう……おもしろそうな……
「へぇ。どんなのだ?」
「一人三つずつお話をするのだけれど、二つは本当の話、一つは嘘の話をするの。それで、全部の話を聞いた後嘘だと思う話を順番に選んでいって、当て合うの。一番最初に当てられた人はきつ~い罰ゲームよ」
つまり最初の順番決めが勝負どころということね。
「ふーん……。楽しいの?それ」
訝しむアリス。
「まあいいじゃないか。どうせ暇なんだし」
「魔理沙がそう言うならいいけど……」
……ふふっ……ふふふ……
気付いてない……っ!
こいつらは気付いてない……!
このゲームの正体、本質に!
おもしろいかって?ええ、おもしろいわ。おもしろく、してあげようじゃない……!
「パチュリー……目が月みたいだぜ……」
あら、そんな綺麗な目してるかしら。
「どこかの神にでもなりそうね」
「それで?罰ゲームとやらは何にするんだ?」
「それは特に決めてないけど……何にしようかしら」
きつめがいいわね。でないと意味ないし。
「山の神、洩矢諏訪子の帽子を盗ってくるってのはどう?」
あれって取り外し可能なの……?帽子って言うぐらいだからできるんだろうけど……
「おいおいアリス、そんなんじゃ全然罰ゲームにならねぇぜ。あいつの帽子だったら、私の帽子とこうかんこしたから家にあるぜ」
名刺じゃないんだから……なにやってんのよあんたたち……
「じゃあレミィの帽子は?レミィあれで結構あの帽子気にいっているから、いきなり取ったりしたら怒るわよ」
「あいつの帽子も持ってるぜ」
まさか全員と帽子交換なるものを……!?
私もそういえばいつか交換したような覚えが……
「あんた帽子どれだけ持ってるのよ……」
「私の帽子は百八式まであるぜ」
突き破りそうね、何か。
「うーん、それじゃあ魔理沙、どんなのならいいのよ罰ゲーム」
「そうだな……そうだ!さとりに頼んで恥ずかしいことを暴露ってのはどうだ?好きな人とか」
ガタッ!
「ま、ま、ま、待ちなさいよあんた!そんなのいいわけないじゃない!」
oh……
いや……?それはそれでありなんじゃないか……?魔理沙が負けるように事が運べば……
「それでいいじゃない。他の案もないし」
「うえー……」
アリスも渋々納得する。
「それではさっそくはじめましょう。まずは順番決めね」
ここが勝負どころ、正念場だ。
「どうやって決めるんだ?」
最初を頂く、それが必要……っ!
「私か「じゃあ私から時計回りでいいじゃない」
な……!!!
しまった……出遅れた……
取られてしまった……最初を、勝利への、一歩を……っ!
だ……だがまだ大丈夫、こいつらは何もわかっていない……大丈夫なはずだ……
「よしじゃあそれでいいぜ、アリス話せよ」
「そうね、それじゃあ……」
くっそ、まじくっそ、ちらちら魔理沙みてんじゃねえよくっそ。
「そうね……コホン。この前博麗神社でお茶を飲んでいたら、スキマ妖怪、八雲紫が出てきたの。こんな冬眠してそうな時期にね。それで、霊夢とお話をはじめたの。素直に入れるのが恥ずかしかったんでしょう、紫は霊夢が賽銭箱の方を見ていないのを確認して、スキマを使ってお賽銭を入れたのね。ここでハプニング。霊夢がふと賽銭箱の方を見てしまったの!賽銭箱の上には紫の手、振り返ると紫の真っ赤な顔!固まっていると、紫は言ったわ。ち……ちがうの!これはあ、アレよ!……リサイタルよ!」
……リサイクルね。金は天下で再利用しなきゃってこと……?
紫も案外かわいいとこあるのね。不覚にも笑ってしまったわ。
「あっははは!なんだそれ!話に来て金まで払うとは、太っ腹なアーティストもいたもんだ!」
絶対そんな話じゃないと思うわ……
「ふぅ、次は私ね。えーと、あれは先週のことだったわ。いつぞやレミィがプールで泳ぎたいと言ったことがあってね、プールを作ったことがあったの。先週あれをまたやったときに、レミィが言ったの。ねえパチェ?もしも、もしもよ?もしもこの水が全てプリンだったとしたら……新世界の幕開けじゃない……?」
「あー、あのお子様吸血鬼なら言いそうだなー」
「それでね、私そんなに大量のプリン作るのは咲夜が大変だろうと思って、気を利かして、レミィを一万匹のスライムを召喚して作ったプールに突っ込んでやったの」
「うわぁ……えげつないことするわねあんた……」
「小悪魔にもそう言われたわ……似たようなもんじゃない」
「まぁ、次は私だな。んー、そうだ。霊夢ってかなりの酒豪だろ?どれだけ飲むんだよっていつも思う。でもまあ?あいつも人間だからな。やっぱり飲めばそれだけ酔うわけだ。先日大きな宴会が博麗神社であってな、霊夢はすっかり酔ったわけだ。ふらふらして今にも倒れそうで、あ、これはやばいなと思って、中に連れてって介抱したんだが……」
ガタッ!
「「ちょっと待ちなさい魔理沙。あんたいったい何をしたの」」
やばい話な気がする。R-18な気がする。いや18なんてとうに超えてるけど。
「お、おいおい、どうしたんだよ?まだ途中だぜ?」
「「本当だろうが嘘だろうが、事と場合によっちゃあ粛清するわよ……?」」
「なんだって言うんだ……?まあいい、続きだ、座れよ」
私達二人は座りなおす。
紅茶を一口、落ち着きを取り戻す。
「そんで、霊夢が言うんだよ。あっつい……服ぬがしてぇ、って。おいおいこいつ何言ってんだと思ったけどさ、結構苦しそうだったから脱がしてあげたんだ。そしたらまた、言うんだよ。サラシもぉ……。こいつ……何から何までやらせる気かよ、と思ったけど、まあそこは長い付き合い、やってやったんだ。一周、二周、しゅるしゅる、しゅるしゅると、ゆっくり取っていくんだが、後ろの方に手を回す時抱きつくみたいになってなんか気恥かしいんだ。でも霊夢が言うんだ。ありがとぉまりさぁ……って。その時思ったねぇ。こいつ結構かわいいな、って」
リミットブレイク!
「アリス?」
「ええ、パチュリー?」
「「死になさい」」
「え?ちょ、ま、なんでだぜ!?」
「賢者の石!!!」「首吊り蓬莱人形!!!」
「待て待て待て!避けれるか!!!無理無理む」アッー ピチューン
当然の報いね。
「ぅう……何すんだよぉ……」
「嘘だろうが本当だろうが、許されないことはあるのよ」
「ふん、次は私ね。迷いの竹林での話なんだけど、月のお姫様、輝夜と、蓬莱人、妹紅がいたのね。二人は本当に仲が良くなって、その時もくすぐり合いながら笑って他愛もないことを言い合っていたの。でもね、違ったの。妹紅のこちょこちょは、得てしてこちょこちょではなかったの。わざとかどうかは知らない。でも、それは明らかにこちょこちょじゃなくて、掌底だったの。不死でも痛いものは痛い、輝夜は最初こそノリノリだったものの、しばらくするとすっかり冷めたような顔をして、蓬莱の玉の枝を折りはじめたの。妹紅は、あれ……?かぐや、怒った?それなんかイライラしすぎて現実を見てられない時にするソレだよね……?ごめん、私悪いことした?なんて言って、輝夜は、いや……別に怒ってないわよ。ホント怒ってないから私。怒ってないことを誇りに持てるぐらいだから。もうよく意味がわからないほど冷めてるのね。そしたら妹紅が、じゃあ私どうしたらいい?って、にやりと笑って、言うの。その時、あ、こいつわざとだって思ったわ。そしたら輝夜が顔を真っ赤にして言うの。じゃ、じゃぁ……じゃあじゃあ、キス、してくれたら……許してもいいかな……なんて……いや怒ってないけど。怒ってないけどね!もうさっさとしろよと思ったんだけど、妹紅は焦らすの。ふぅん。かぐやちゃんはキス、してほしいんだ。いいよ。しよ。私もしたい。でもね、かぐやちゃんが、もこう大好き、キスしてください、ってかわいくおねだりできたら、いいよ。うざいからさっさとしなさいと思ってたら輝夜が、うー、ぅ、うー……いいからキスしろバカ!って言って、半ば強引にキスをしたの。燃えているかのような、真っ赤な顔をしてね」
バカップル乙……
「わー……あいつらなかなか恥ずかしいことしてんなぁ……」
私と魔理沙が……!?……なんか違うな。
「私の二つ目ね。咲夜、完全で完璧で瀟洒なメイドとして有名だけれど、彼女も人間、かわいらしいところもあるのよ。あれはよく晴れた満月の次の日、十六夜の日だったわ。昨日が満月の日、狂気に満たされた日であったせいで、咲夜はとてもお疲れだったの。パジャマに着替えるのも億劫で、上はパジャマ、下はメイド服のままで寝てしまったの。次の日の朝、彼女の疲れはとれていなかったのでしょう、下はメイド服を着ているものだから、もう着替えは済んでいると思ってその姿のままレミィの前に出てしまったの。上のパジャマはボタンが外れて胸が見えてしまっているし、下は下で服がヨレヨレになってしまっている。レミィは怒るかなぁ、と思って見ていると、レミィは大笑いして一言、咲夜、新しいティーカップがほしいから香森堂に行ってきなさい、と。咲夜はまだ自分の異変に気づいていない、どうしてお嬢様は笑っておられるのか、という顔をして香森堂に行ったわ。……咲夜は顔を真っ赤にして、なぜかセーラー服を着て帰ってきたわ」
その話は絶対にしないでくださいとあれほど言ったじゃないですか、と咲夜が目配せをしてくるが気にしない。
「あの咲夜がねぇ……にわかには信じられないわ」
「それにしてもレミリアもなかなかひどいことをするな」
レミィはなかなかサディスティックなのよ。……妹様以外には。
「よっし、私二回目だな。そう、私には一つ夢があってだな、それは文に勝つことだ。あいつは幻想郷最速なんて謳われてるじゃないか。気に食わないねぇ。私が一番であるべきだ!そういうわけで、箒にロケットエンジンと私の八卦炉を搭載してもらうべく、にとりのラボに行ったんだ。にとりのラボはまあ油臭いわ、行くのが面倒だわであんまり行きたくなかったんだが、背に腹は代えられない、我慢して入ったんだ。だがにとりがいない。なんだよちくしょーと思って帰ろうと思ったら、どこからかにとりの声がするんだ。どうだ魔理沙、私の姿が見えまい!改良に改良を重ねたこの光学迷彩、誰にも見破ることはできん!従来の光学迷彩は衝撃に弱くて、ちょっとぶつかっただけで効力を失っていたんだが、なるほど改良したのか、と私は感心して声のする方角を見たんだ。するとどうだ、尻が空中に浮かんでいるんだ。しかも、光学迷彩の仕様上全裸でなければならないのだろう、裸なんだ。ああこいつまぬけだなと、頭隠して尻丸出しとはこのカッパと思って、上手く隠れて得意になっているカッパの尻を揉んでやったんだよ。おいおい、かわいいおしりが丸見えだぜ、って。そしたらにとり、ひゃああああああなんて言って、ラボから飛び出して、滝を一気に流れて行ったんだよ。あのときのにとりったら、なかったなぁ」
アリーヴェデルチ!
「「さよならだ、魔理沙」」
「おい!またかよ!?ただあったこと話ただけじゃねえか!おい、お」
「ロイヤルフレア!!!」「ゴリアテ人形!!!」
「しぐっ……」ピチューン
「はぁ、もういいわ。最後三つめね」
そう、三つめ。
これが、これこそがこのゲームの本番。
このゲームの本質、意味!
それは、嘘を言っているかもしれない、嘘であるかもしれないという予防線。
それがあるからこそ言える……普段言えないことを言える……!
ここで魔理沙に気持ちを伝える。
いつもならば流されてしまうところも、嘘か本当かを考えなければならないゲームであるから、魔理沙はこれを流すことはできない……っ!
どうしても考えてしまう、つまり……意識してしまうということ……!
強烈に印象に残る……それは魔理沙との距離を一気に詰めるビショップ!
圧倒的印象……!
さあアリス、さっさとしょうもないことを言って私に順番を回しなさい。
もう心の準備はできているの……!
「……ふふっ……ふふふ……残念ね……パチュリー」
アリスがにやり、と私に不敵な笑みを向ける。
ゾクリ
なんだ……いったい何……?
まさか……気付いているのか……?このゲームの本質に……っ!
「な……何が残念なのかしら……?」
「あなたの浅はかな考え、作戦がよ」
ぐにゃぁ……
そ、そんな……気付いている……っ!
こいつはき、気付いている……
やめて……やめてぇ……!
「顔が歪んでるぞパチュリー……どうしたらそんなになるんだよ……」
やばい涙が溜まって来た。
いや……まだだ……!
まだ可能性はある……っ!
アリスが実は何も気付いてなんかいないという、その可能性!
運否天賦に魔理沙との恋路を預けなければならないのは癪だが、もう他に道はない……!
アリスが気づいていれば、破滅。圧倒的破滅……っ!
神よ、神よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
「私の三つめ。魔理沙、私はあなたのことが、大好きよ」
ああああああああああああっぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!
「な……なな!!急に何言ってるんだぜ!?」
「あら、お話をしただけよ。私が嘘を言ってるかどうか、……しっかり考えてよね」
終わった……すべて終わった……
例え私が次同じように言ったとしても、お前もかよという空気が流れ、印象は薄い。
アリスが私を見て、小声で言う。
「……計画通り」
すべてしてやられた……
思えば最初の順番決めの時からそうだった……
私はアリスには到底及ばないのだ。
最後の最後で私は何をしていた?
魔女の私が、あろうことか神にお祈りなんてしていた。
勝利は自分で生成するものなのに……
くそ……っ!くそ……くそ……っ!
「まったく、びっくりするぜ。あー、暑い暑い。さ、パチュリーの番だぜ」
今更私に何を言えと……
「そ、そうね……」
アリスのにやけ顔が異常に腹が立つ。
「……!!!」
見える、突破口!
気付く、蜘蛛の糸に!
何を勘違いしていたのかしら……
後とか先とか、順番なんて関係ない……
先に言われたからって、負けが決定しているわけじゃない……!
ちょっとの印象の違いなんて関係ない……!
魔理沙が本当に私を好きでいてくれるなら!!!
「魔理沙!!!私、私も魔理沙のことが大!好き!!!」
「え、ちょ!」
魔理沙へと勢いよくダイブし、押し倒し、キス。
「ねえ魔理沙。私は魔理沙が大好きだよ。この気持ちは本当?嘘?どっち……?」
「……お前そんなの」
「ちょっと!!!と、とりあえず離れなさいパチュリー!」
「邪魔しないでよアリス、まだ答えを聞いてないわ」
「そういうゲームじゃないでしょこれ!」
「嘘か本当か言い合うゲームでしょ?ならあってるじゃない」
「最後に言い合うって話だったでしょ!まだ魔理沙の話が終わってないし!」
「途中の考察タイムですぅ、言ってなかったかしらぁ?」
「言ってないわよ!!初めて聞きましたよ!!!」
「だーーー!もう!!!ケンカするんじゃねえ!!!」
魔理沙の声で、一度私達はケンカを止める。
「お前らよく聞け。私の三つめだ。私はお前達が好きだ。ああ、大好きだ。これからもずっと、仲良く、楽しく生きていきたいと思ってるんだ。だからケンカなんてするんじゃねえよ。楽しいことはみんなで笑う、嫌なこともみんなで笑う。そうやって生きていきたいんだ。この気持ち、本当か、嘘か、どっちだ?」
「……」「……」
かっこよすぎてなんかもう……しびれり……
「むきゅ……」「ふにゃ……」
あとの事はなんだか覚えていません。
静かな静かな大図書館
ろうそくの消えた大図書館
魔女達のお茶会
本日のところはおしまい
静かな静かな大図書館
ろうそくの火を囲む
魔女が三人
「いらっしゃい、よく来てくれたわね。魔理沙、アリス」
「何か、楽しいことしようって聞いたら来ないわけにはいかないぜ」
「手短に頼むわ。私はこれでも忙しいから。それにしてもパチュリー、またどうしてこんな夜に?」
暗い図書館の真ん中で、小さなテーブルに座る。
右向かいにはアリス、左向かいには魔理沙が座っている。
テーブルの真ん中には一つ、魔法によって火の消えないろうそく。
そのろうそくがうす暗く、ぼんやりと私達の顔を照らす。
香る香りは咲夜の入れてくれた紅茶とアリスの持ってきたクッキー。
「最近こういうお茶会開けてなかったし、楽しいと思ってね。退屈は魔女を殺す、そうでしょ?」
「退屈は空腹よりも怖いってよく言うからなぁ~」
「初耳だわ」
お得意の魔理沙哲学ね。
彼女の言葉は一見的外れなようで、その実考えさせられるから、おもしろい。
「それで?いったいその暇つぶしに何をするの?」
「おもしろそうなゲームの本を見つけたのよ」
そう……おもしろそうな……
「へぇ。どんなのだ?」
「一人三つずつお話をするのだけれど、二つは本当の話、一つは嘘の話をするの。それで、全部の話を聞いた後嘘だと思う話を順番に選んでいって、当て合うの。一番最初に当てられた人はきつ~い罰ゲームよ」
つまり最初の順番決めが勝負どころということね。
「ふーん……。楽しいの?それ」
訝しむアリス。
「まあいいじゃないか。どうせ暇なんだし」
「魔理沙がそう言うならいいけど……」
……ふふっ……ふふふ……
気付いてない……っ!
こいつらは気付いてない……!
このゲームの正体、本質に!
おもしろいかって?ええ、おもしろいわ。おもしろく、してあげようじゃない……!
「パチュリー……目が月みたいだぜ……」
あら、そんな綺麗な目してるかしら。
「どこかの神にでもなりそうね」
「それで?罰ゲームとやらは何にするんだ?」
「それは特に決めてないけど……何にしようかしら」
きつめがいいわね。でないと意味ないし。
「山の神、洩矢諏訪子の帽子を盗ってくるってのはどう?」
あれって取り外し可能なの……?帽子って言うぐらいだからできるんだろうけど……
「おいおいアリス、そんなんじゃ全然罰ゲームにならねぇぜ。あいつの帽子だったら、私の帽子とこうかんこしたから家にあるぜ」
名刺じゃないんだから……なにやってんのよあんたたち……
「じゃあレミィの帽子は?レミィあれで結構あの帽子気にいっているから、いきなり取ったりしたら怒るわよ」
「あいつの帽子も持ってるぜ」
まさか全員と帽子交換なるものを……!?
私もそういえばいつか交換したような覚えが……
「あんた帽子どれだけ持ってるのよ……」
「私の帽子は百八式まであるぜ」
突き破りそうね、何か。
「うーん、それじゃあ魔理沙、どんなのならいいのよ罰ゲーム」
「そうだな……そうだ!さとりに頼んで恥ずかしいことを暴露ってのはどうだ?好きな人とか」
ガタッ!
「ま、ま、ま、待ちなさいよあんた!そんなのいいわけないじゃない!」
oh……
いや……?それはそれでありなんじゃないか……?魔理沙が負けるように事が運べば……
「それでいいじゃない。他の案もないし」
「うえー……」
アリスも渋々納得する。
「それではさっそくはじめましょう。まずは順番決めね」
ここが勝負どころ、正念場だ。
「どうやって決めるんだ?」
最初を頂く、それが必要……っ!
「私か「じゃあ私から時計回りでいいじゃない」
な……!!!
しまった……出遅れた……
取られてしまった……最初を、勝利への、一歩を……っ!
だ……だがまだ大丈夫、こいつらは何もわかっていない……大丈夫なはずだ……
「よしじゃあそれでいいぜ、アリス話せよ」
「そうね、それじゃあ……」
くっそ、まじくっそ、ちらちら魔理沙みてんじゃねえよくっそ。
「そうね……コホン。この前博麗神社でお茶を飲んでいたら、スキマ妖怪、八雲紫が出てきたの。こんな冬眠してそうな時期にね。それで、霊夢とお話をはじめたの。素直に入れるのが恥ずかしかったんでしょう、紫は霊夢が賽銭箱の方を見ていないのを確認して、スキマを使ってお賽銭を入れたのね。ここでハプニング。霊夢がふと賽銭箱の方を見てしまったの!賽銭箱の上には紫の手、振り返ると紫の真っ赤な顔!固まっていると、紫は言ったわ。ち……ちがうの!これはあ、アレよ!……リサイタルよ!」
……リサイクルね。金は天下で再利用しなきゃってこと……?
紫も案外かわいいとこあるのね。不覚にも笑ってしまったわ。
「あっははは!なんだそれ!話に来て金まで払うとは、太っ腹なアーティストもいたもんだ!」
絶対そんな話じゃないと思うわ……
「ふぅ、次は私ね。えーと、あれは先週のことだったわ。いつぞやレミィがプールで泳ぎたいと言ったことがあってね、プールを作ったことがあったの。先週あれをまたやったときに、レミィが言ったの。ねえパチェ?もしも、もしもよ?もしもこの水が全てプリンだったとしたら……新世界の幕開けじゃない……?」
「あー、あのお子様吸血鬼なら言いそうだなー」
「それでね、私そんなに大量のプリン作るのは咲夜が大変だろうと思って、気を利かして、レミィを一万匹のスライムを召喚して作ったプールに突っ込んでやったの」
「うわぁ……えげつないことするわねあんた……」
「小悪魔にもそう言われたわ……似たようなもんじゃない」
「まぁ、次は私だな。んー、そうだ。霊夢ってかなりの酒豪だろ?どれだけ飲むんだよっていつも思う。でもまあ?あいつも人間だからな。やっぱり飲めばそれだけ酔うわけだ。先日大きな宴会が博麗神社であってな、霊夢はすっかり酔ったわけだ。ふらふらして今にも倒れそうで、あ、これはやばいなと思って、中に連れてって介抱したんだが……」
ガタッ!
「「ちょっと待ちなさい魔理沙。あんたいったい何をしたの」」
やばい話な気がする。R-18な気がする。いや18なんてとうに超えてるけど。
「お、おいおい、どうしたんだよ?まだ途中だぜ?」
「「本当だろうが嘘だろうが、事と場合によっちゃあ粛清するわよ……?」」
「なんだって言うんだ……?まあいい、続きだ、座れよ」
私達二人は座りなおす。
紅茶を一口、落ち着きを取り戻す。
「そんで、霊夢が言うんだよ。あっつい……服ぬがしてぇ、って。おいおいこいつ何言ってんだと思ったけどさ、結構苦しそうだったから脱がしてあげたんだ。そしたらまた、言うんだよ。サラシもぉ……。こいつ……何から何までやらせる気かよ、と思ったけど、まあそこは長い付き合い、やってやったんだ。一周、二周、しゅるしゅる、しゅるしゅると、ゆっくり取っていくんだが、後ろの方に手を回す時抱きつくみたいになってなんか気恥かしいんだ。でも霊夢が言うんだ。ありがとぉまりさぁ……って。その時思ったねぇ。こいつ結構かわいいな、って」
リミットブレイク!
「アリス?」
「ええ、パチュリー?」
「「死になさい」」
「え?ちょ、ま、なんでだぜ!?」
「賢者の石!!!」「首吊り蓬莱人形!!!」
「待て待て待て!避けれるか!!!無理無理む」アッー ピチューン
当然の報いね。
「ぅう……何すんだよぉ……」
「嘘だろうが本当だろうが、許されないことはあるのよ」
「ふん、次は私ね。迷いの竹林での話なんだけど、月のお姫様、輝夜と、蓬莱人、妹紅がいたのね。二人は本当に仲が良くなって、その時もくすぐり合いながら笑って他愛もないことを言い合っていたの。でもね、違ったの。妹紅のこちょこちょは、得てしてこちょこちょではなかったの。わざとかどうかは知らない。でも、それは明らかにこちょこちょじゃなくて、掌底だったの。不死でも痛いものは痛い、輝夜は最初こそノリノリだったものの、しばらくするとすっかり冷めたような顔をして、蓬莱の玉の枝を折りはじめたの。妹紅は、あれ……?かぐや、怒った?それなんかイライラしすぎて現実を見てられない時にするソレだよね……?ごめん、私悪いことした?なんて言って、輝夜は、いや……別に怒ってないわよ。ホント怒ってないから私。怒ってないことを誇りに持てるぐらいだから。もうよく意味がわからないほど冷めてるのね。そしたら妹紅が、じゃあ私どうしたらいい?って、にやりと笑って、言うの。その時、あ、こいつわざとだって思ったわ。そしたら輝夜が顔を真っ赤にして言うの。じゃ、じゃぁ……じゃあじゃあ、キス、してくれたら……許してもいいかな……なんて……いや怒ってないけど。怒ってないけどね!もうさっさとしろよと思ったんだけど、妹紅は焦らすの。ふぅん。かぐやちゃんはキス、してほしいんだ。いいよ。しよ。私もしたい。でもね、かぐやちゃんが、もこう大好き、キスしてください、ってかわいくおねだりできたら、いいよ。うざいからさっさとしなさいと思ってたら輝夜が、うー、ぅ、うー……いいからキスしろバカ!って言って、半ば強引にキスをしたの。燃えているかのような、真っ赤な顔をしてね」
バカップル乙……
「わー……あいつらなかなか恥ずかしいことしてんなぁ……」
私と魔理沙が……!?……なんか違うな。
「私の二つ目ね。咲夜、完全で完璧で瀟洒なメイドとして有名だけれど、彼女も人間、かわいらしいところもあるのよ。あれはよく晴れた満月の次の日、十六夜の日だったわ。昨日が満月の日、狂気に満たされた日であったせいで、咲夜はとてもお疲れだったの。パジャマに着替えるのも億劫で、上はパジャマ、下はメイド服のままで寝てしまったの。次の日の朝、彼女の疲れはとれていなかったのでしょう、下はメイド服を着ているものだから、もう着替えは済んでいると思ってその姿のままレミィの前に出てしまったの。上のパジャマはボタンが外れて胸が見えてしまっているし、下は下で服がヨレヨレになってしまっている。レミィは怒るかなぁ、と思って見ていると、レミィは大笑いして一言、咲夜、新しいティーカップがほしいから香森堂に行ってきなさい、と。咲夜はまだ自分の異変に気づいていない、どうしてお嬢様は笑っておられるのか、という顔をして香森堂に行ったわ。……咲夜は顔を真っ赤にして、なぜかセーラー服を着て帰ってきたわ」
その話は絶対にしないでくださいとあれほど言ったじゃないですか、と咲夜が目配せをしてくるが気にしない。
「あの咲夜がねぇ……にわかには信じられないわ」
「それにしてもレミリアもなかなかひどいことをするな」
レミィはなかなかサディスティックなのよ。……妹様以外には。
「よっし、私二回目だな。そう、私には一つ夢があってだな、それは文に勝つことだ。あいつは幻想郷最速なんて謳われてるじゃないか。気に食わないねぇ。私が一番であるべきだ!そういうわけで、箒にロケットエンジンと私の八卦炉を搭載してもらうべく、にとりのラボに行ったんだ。にとりのラボはまあ油臭いわ、行くのが面倒だわであんまり行きたくなかったんだが、背に腹は代えられない、我慢して入ったんだ。だがにとりがいない。なんだよちくしょーと思って帰ろうと思ったら、どこからかにとりの声がするんだ。どうだ魔理沙、私の姿が見えまい!改良に改良を重ねたこの光学迷彩、誰にも見破ることはできん!従来の光学迷彩は衝撃に弱くて、ちょっとぶつかっただけで効力を失っていたんだが、なるほど改良したのか、と私は感心して声のする方角を見たんだ。するとどうだ、尻が空中に浮かんでいるんだ。しかも、光学迷彩の仕様上全裸でなければならないのだろう、裸なんだ。ああこいつまぬけだなと、頭隠して尻丸出しとはこのカッパと思って、上手く隠れて得意になっているカッパの尻を揉んでやったんだよ。おいおい、かわいいおしりが丸見えだぜ、って。そしたらにとり、ひゃああああああなんて言って、ラボから飛び出して、滝を一気に流れて行ったんだよ。あのときのにとりったら、なかったなぁ」
アリーヴェデルチ!
「「さよならだ、魔理沙」」
「おい!またかよ!?ただあったこと話ただけじゃねえか!おい、お」
「ロイヤルフレア!!!」「ゴリアテ人形!!!」
「しぐっ……」ピチューン
「はぁ、もういいわ。最後三つめね」
そう、三つめ。
これが、これこそがこのゲームの本番。
このゲームの本質、意味!
それは、嘘を言っているかもしれない、嘘であるかもしれないという予防線。
それがあるからこそ言える……普段言えないことを言える……!
ここで魔理沙に気持ちを伝える。
いつもならば流されてしまうところも、嘘か本当かを考えなければならないゲームであるから、魔理沙はこれを流すことはできない……っ!
どうしても考えてしまう、つまり……意識してしまうということ……!
強烈に印象に残る……それは魔理沙との距離を一気に詰めるビショップ!
圧倒的印象……!
さあアリス、さっさとしょうもないことを言って私に順番を回しなさい。
もう心の準備はできているの……!
「……ふふっ……ふふふ……残念ね……パチュリー」
アリスがにやり、と私に不敵な笑みを向ける。
ゾクリ
なんだ……いったい何……?
まさか……気付いているのか……?このゲームの本質に……っ!
「な……何が残念なのかしら……?」
「あなたの浅はかな考え、作戦がよ」
ぐにゃぁ……
そ、そんな……気付いている……っ!
こいつはき、気付いている……
やめて……やめてぇ……!
「顔が歪んでるぞパチュリー……どうしたらそんなになるんだよ……」
やばい涙が溜まって来た。
いや……まだだ……!
まだ可能性はある……っ!
アリスが実は何も気付いてなんかいないという、その可能性!
運否天賦に魔理沙との恋路を預けなければならないのは癪だが、もう他に道はない……!
アリスが気づいていれば、破滅。圧倒的破滅……っ!
神よ、神よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
「私の三つめ。魔理沙、私はあなたのことが、大好きよ」
ああああああああああああっぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!
「な……なな!!急に何言ってるんだぜ!?」
「あら、お話をしただけよ。私が嘘を言ってるかどうか、……しっかり考えてよね」
終わった……すべて終わった……
例え私が次同じように言ったとしても、お前もかよという空気が流れ、印象は薄い。
アリスが私を見て、小声で言う。
「……計画通り」
すべてしてやられた……
思えば最初の順番決めの時からそうだった……
私はアリスには到底及ばないのだ。
最後の最後で私は何をしていた?
魔女の私が、あろうことか神にお祈りなんてしていた。
勝利は自分で生成するものなのに……
くそ……っ!くそ……くそ……っ!
「まったく、びっくりするぜ。あー、暑い暑い。さ、パチュリーの番だぜ」
今更私に何を言えと……
「そ、そうね……」
アリスのにやけ顔が異常に腹が立つ。
「……!!!」
見える、突破口!
気付く、蜘蛛の糸に!
何を勘違いしていたのかしら……
後とか先とか、順番なんて関係ない……
先に言われたからって、負けが決定しているわけじゃない……!
ちょっとの印象の違いなんて関係ない……!
魔理沙が本当に私を好きでいてくれるなら!!!
「魔理沙!!!私、私も魔理沙のことが大!好き!!!」
「え、ちょ!」
魔理沙へと勢いよくダイブし、押し倒し、キス。
「ねえ魔理沙。私は魔理沙が大好きだよ。この気持ちは本当?嘘?どっち……?」
「……お前そんなの」
「ちょっと!!!と、とりあえず離れなさいパチュリー!」
「邪魔しないでよアリス、まだ答えを聞いてないわ」
「そういうゲームじゃないでしょこれ!」
「嘘か本当か言い合うゲームでしょ?ならあってるじゃない」
「最後に言い合うって話だったでしょ!まだ魔理沙の話が終わってないし!」
「途中の考察タイムですぅ、言ってなかったかしらぁ?」
「言ってないわよ!!初めて聞きましたよ!!!」
「だーーー!もう!!!ケンカするんじゃねえ!!!」
魔理沙の声で、一度私達はケンカを止める。
「お前らよく聞け。私の三つめだ。私はお前達が好きだ。ああ、大好きだ。これからもずっと、仲良く、楽しく生きていきたいと思ってるんだ。だからケンカなんてするんじゃねえよ。楽しいことはみんなで笑う、嫌なこともみんなで笑う。そうやって生きていきたいんだ。この気持ち、本当か、嘘か、どっちだ?」
「……」「……」
かっこよすぎてなんかもう……しびれり……
「むきゅ……」「ふにゃ……」
あとの事はなんだか覚えていません。
静かな静かな大図書館
ろうそくの消えた大図書館
魔女達のお茶会
本日のところはおしまい
香霖堂
月の表現が上手いなと思いましたww
その他のギャグも面白かったですw
面白かったです。
まぁ、性教育なんか受けておらず好奇心旺盛な子供心が真っ盛りな年頃だろうし、
面白可笑しく生きて行きたいって我侭を通すのは凄いらしい感じがしますね。
色々と笑わせていただきました