~紅魔館・地下図書館~
「う、うん…」
薄暗い紅魔館の地下図書館、その小さな灯りの元でアリスは目を覚ました
「お、目を覚ましたか…」
朦朧とした意識の中で、聞き慣れた声が聞こえる
ぼやけた視界が鮮明になるにつれて、自分が置かれている状況を把握していく
「魔理沙…」
小さな声で、確かめるようにアリスは呟いた
黒いとんがり帽子に、黒白の魔女服、クセのある金髪…
どれも覚えのあるものばかりだ
「う、うッ…!」
意識が覚醒していくにつれ、忘れていた痛みがぶり返すようにアリスを襲う
急激な鋭い傷みが、アリスの意識を現実に引き戻す
「馬鹿、そんな身体でいきなり起きようとするからだ」
アリスの身体に、その手が触れる…
温かい………
その温もりが、今度ははっきりとアリスを現実に連れ戻した
「ようやくお姫様のお目覚めだ」
目の前にいる見慣れた顔…
その姿を認めて、アリスは安堵した
パチュリーの魔法の前に、一度は倒れた魔理沙が無事でいる
自分の命が危うくなるほど、自らの生命力を魔理沙に渡したアリス
よく見ると、自分の周囲に見慣れぬ魔法陣が描かれている
この魔法陣が、アリスの限界を超えた肉体を回復させたのか…
魔法陣が発する光を身体が吸収するたび、アリスの身体から傷みが消えていく
「魔理沙、この魔法は…」
この魔法陣は相当に高度な魔法を使っている
魔理沙にこんなに高度な魔法陣を扱う力があるとは思えない
「パチュリーがやってくれたんだ。大地の力を集めて、肉体を癒す魔法だそうだ」
やはりそうだった。半死半生の死の淵にあったアリスの肉体をこれほど早く回復できる魔法陣などそうはない
これほどの魔法が使えるのは、パチュリーをおいて他にいないだろう
当のパチュリーは、まるで何事もなかったかのようにロッキングチェアに腰掛け、いつものように本に目を落としている
「ありがとう、パチュリー」
アリスは全てを察した。パチュリーも、魔理沙の気持ちを理解してくれたのだと
アリスの言葉は、自分の肉体を回復してくれた事ではなく、魔理沙の為に協力してくれる事への礼だった
「む、むきゅー(べ、別に貴方達の為なんかじゃないわ、私は自分の魔法の研究の成果を試したいだけなんだからね)」
「………いい加減、むきゅーで喋るのやめなさい」
本に顔を埋めるように、パチュリーが俯きながら言った
パチュリーが、今どんな表情でいるのか、アリスには何となく分かった
「パチュリー様…」
何もない空間から、パチュリーの使い魔の小悪魔が現れた
両手に持った金の装飾の施された盆には、麻沸散と反魂香、反魂丹が乗せられている
いずれも『幽体離脱の法』に必要なアイテムである
「ありがとう、小悪魔」
そう言うと、パチュリーはその盆を台の上におかせ、小悪魔を下がらせた
「目覚めた所、さっそくで悪いんだけど、術式を始めさせてもらうわ…
魔理沙、最後にもう一度だけ確認させてもらう
この魔法は、まだ研究中の魔法だから途中で何が起こるか分からない
下手をすれば、貴方の魂は二度と肉体に戻れなくなるかもしれない
それでもいいのね………?」
パチュリーが睨むような視線で魔理沙を見つめた
彼女がこれから使おうとする魔法は、四大精霊の力を借りて仮初めの命を作り出す魔法だ
しかし、未だに未完成な魔法である上、まだパチュリーはこの魔法を人間で試した事はない
それゆえ、これから何が起こるかは、当のパチュリーですら分からない
「いいぜ、上等だよ。ここまで来て引き下がれるほど、私はビビりじゃないぜ」
期待していた通りの答えだった。魔理沙には怖れるだとか、躊躇うだとか、そういう感情は意味を成さないのだ
ここまで来て魔法が失敗して死ぬのを怖れるようなら、わざわざ紅魔館までやって来はしないのだ
「………いいわ。アリス、貴方はどうなの?。魔理沙一人で行かせるのは心配だから、貴方にもついていって欲しいのだけど」
今度はアリスに聞いた。慥かに、魔理沙一人ではどんな事になるか分からない
しかし、先ほどまでの死闘で受けているダメージは、アリスの方がはるかに多い
いくらパチュリーの魔法で回復したとはいえ、すぐに元のように動ける訳ではない
既に元々の目標は達成している以上、アリスにはこれ以上付き合う義務はない…
「仕方ないわねぇ、魔理沙一人に行かせる訳にもいかないわ。私も最後まで付き合うわ」
いかにも渋々…という感じで、アリスは言った
…っふ、とパチュリーは可笑しくなった。何だかんだ言ったって、アリスもパチュリーも同じ気持ちでいたのだ
「いいでしょう…。では、二人ともこちらに来て」
そういうと、パチュリーは読んでいた本を閉じて図書館のさらに奥へと二人を誘った
誇りを被った書架には、様々な禁書・魔書が並び魔理沙の盗人根性を刺激する
本を盗みたいという衝動と戦いつつ、魔理沙はパチュリーの後を追う
パチュリーは図書館のどん詰まりにある一際大きな書架の前に立った
「sapio ad hoc a priori Pacta sunt servanda facsimile Quod Erat Demonstrandum…」
パチュリーがその書架の前で、聞きなれぬ呪文を唱え始める
これはラテン語か…?。直訳するなら、私が考えた先験的な仮初めの呪文が証明されようとしている…
…と、言った所だろうか?
パチュリーの呪文と共に、その書架が輝きを放ち始める
…いや、輝いているのは書架ではなく、その背後にある壁…
その大きな書架が、ゆっくりと中央で分離し、観音開きに開いていく…
「これは…!?」
魔理沙とアリスが目を見張る
パチュリーの呪文に呼応するように輝くを放っていたのは、巨大な水槽のような物だった…
これは………
「これが錬金術の蒸留器よ、私が研究しているホムンクルス製造機の本体…」
ホムンクルスとは、欧州ルネサンス期の錬金術師・テオフラストゥス・フィリップス・アウレオールス・ボンバストゥス・フォン・ホーエンハイム…
俗に言うパラケルススの著書・De Natura Rerumなどに書かれている人工生命体の事である
一説には、人間の精子を蒸留器にいれ40日間密閉し腐敗させ、人間の血を与えながら馬の胎内と同じ温度で40週保存すると人間の子供ができるという
体躯は人間のそれよりも小さいが、生まれながらにしてあらゆる知識を身に付けているという…
魔理沙は思わず唾を飲んだ。その輝きを放つ蒸留器にはなんとも言えない背徳的で淫靡な印象を受ける
魔理沙とて、人間がどうやって生まれてくるかくらいは知っている
この蒸留器は、その行為によって生まれてくるはずの生命を生み出す機械なのだ
「無論、まだ完璧な装置ではないけれど…。貴方達が向こうの時代に行っている間くらいは持つでしょう」
パチュリーの創り出したそれは、近代化学の祖である錬金術と、古代魔法の一種である精霊魔法とを組み合わせた物である
水素・酸素・炭素・窒素・ナトリウム・カルシウム・リン・イオウ・塩素・カリウム・マグネシウムを混合して造った人工の羊水に、四大元素を組み合わせた魔法陣を描い
てあり、それにウロボロスの紋章を刻み込んでいる
ウロボロスは『尾を飲み込む蛇』の意味であり、蛇が脱皮していく姿から『死と再生』の象徴である
四大元素を組み合わせる事で、第五実体…すなわち『生命』を生み出し、それをこの蒸留器で育てるのだ
「さあ、時間はないわ。二人とも手を出して」
パチュリーが二つの金の針を取り出し、二人を促した
二人とも、一瞬ためらいはしたが、その掌をパチュリーに差し出した
「イテ…!」
パチュリーは徐に、二つの針を二人の掌に刺した
真っ赤な鮮血が、金の針の先端から滴り落ちる
パチュリーは慎重に、蒸留器の脇に設置された梯子を上り、針の先から滴る二人の血を蒸留器に向かって落とした
「うお…!」
微かに蒸留器に落ちた血から、夥しい泡が立ち起こり蒸留器の内部が泡だらけになっていく
同時に、蒸留器に施された魔法陣の輝きが強さを一層に増していく
「………!?。何かが、動いている…?」
泡で白く濁った蒸留器の中で、ほんの微かに何かが動いた…ような気がした
「気にする事はないわ。この中で生まれたモノは、あくまで貴方達の血液を依り代にした仮初めの生命
長くは生きられないし、この蒸留器の中でしか生きていけない…」
パチュリーはそういうが、二人は複雑な気分になった
いくら魔法で作られた仮初めの生命とはいえ、この蒸留器の中にいるのは紛れもなく自分の血液から生まれた生命なのだ
ただ自らの目的のために生命を生み出し、その生命を犠牲にする………
これは生命への冒瀆ではないのか…?
「おセンチになってるヒマはないわ。生命は所詮、神が創り上げたもの
魔法使いなら、神を冒瀆してナンボよ」
さすが、生粋の魔女であるパチュリーにとっては神への冒瀆など猫の耳クソほどにも気にならないらしい
これが、人間と人間から魔法使いへ転生した者と、生まれながらに魔法使いである者との違いなのだろうか
「さあ、急ぐのよ。この人工生命は持ってせいぜい二時間程度しかない
迷ってる余裕なんてないわ…」
そういって、パチュリーは反魂香を焚いた
亡き人を想い、その霊魂を現世に呼び戻すといわれる香が図書館に充満していく
その香を聞いている内に、二人の心に死に別れた人々の顔が浮かんでくる
幼い頃に死別し、顔も思い出せなくなっていた人々の顔が鮮明に蘇って行く
「さあ、これを飲んで」
そういって、パチュリーは二人に煎じた麻沸散を二人に与えた
三国志に出てくる名医・華佗が切開手術をする際に使ったといわれる麻酔薬であり、肉体を死せるが如き状態にする
二人は麻沸散を煎じた苦い汁を、顔を顰めながら飲み干す
その途端、二人の身体から一気に力が抜けていった
「………?」
不意に、二人は何も感じられなくなった。意識がハッキリしている割に、まるで雲にでも浮かんでいるかのような感覚…
「―――!?」
そして、ようやく二人は気付いた。自分の足元に転がる自分自身の姿に…
「おわぁ―――!?」
魔理沙が思わず声を上げた。自らの手を見れば、薄っすらと向こうが透けて見える
魔理沙の霊魂は肉体を離脱し、幽体だけの存在となったのだ
「何を大声をだしているのよ。どうやら成功したみたいね」
慌てる魔理沙を、パチュリーが嗜める
魔理沙もアリスも、『幽体離脱の法』に成功したのだった
「うう…、妙な感覚だぜ」
肉体を捨て、霊魂だけの存在になるという事は、死んでいるのと同じ状態になっているということだ
自分の身体が、まるで頼りない希薄なガスになったような感覚は、生きている魔理沙にとっては凄まじく不安にさせる
魔理沙は師匠である魅魔を思い出した
悪霊でありながら、いつも飄々として捉え所のない素振りを見せていた魅魔も、常にこんな感覚に襲われていたのか…
「しっかりしなさいよ、魔理沙…。肉体を失っている以上、私達はすでに現世には干渉できなくなっている」
アリスが動揺する魔理沙を励ます
威勢がいい割になんにでも感情を露にする辺りが魔理沙らしい
「少しは落ち着いたかしら?。では、貴方達に注意しておくわ
いま、貴方達は肉体と切り離された存在となった。それは同時に、現世の物に干渉できなくなったという事よ」
パチュリーが説明を始める。肉体と切り離された以上、二人は現世の物には触れる事も、話しかける事もできない
ただ周囲の情報だけが、駄々漏れに入ってくる状況なのだ
霊魂だけの存在になっている以上、目を瞑っても周囲の状況は見えるし、耳を塞いでも音は聞こえる
それが、どんなものであっても…
「術者である私だけは、貴方達の様子を見ることができるけど、普通の人間や妖怪には貴方達の姿は見れない
ちなみに、誰かの肉体に憑依するなんて事もできないわよ
そして、これが一番重要なのだけど、自分たちの頭を見てみなさい」
魔理沙は自分の頭の天辺を見た。普通なら視覚の外にある場所だが、幽体は視覚で見ているのではない
360度、あらゆる方向にあるすべての物が見えるのだ
魔理沙は、自分の頭から靄のような一筋の線が出ているのに気付いた
「それはシルバーコード。貴方の肉体と霊魂をつなぐ生命の線よ
それがある限り、貴方はいつでも肉体に戻る事ができる」
その薄い靄のような線こそ、二人の肉体と幽体を繋ぐ、文字通りの生命線である
「普通は霊魂が肉体を離れると自然と切れてしまう物だけど、今回は私の魔法を使っているからね…
でも覚えておいて、もしも、その線が切れてしまったら………
貴方達は、『二度と肉体に戻る事はできなくなる』…わ」
パチュリーの言葉に、二人が息を呑む
もしも、この線が切れてしまったなら、二人は肉体に戻れず、永久に霊魂のまま虚空を彷徨う事になるのだ
「いいわね、期限はあのホムンクルスの命が燃え尽きるまで…。もう二時間も無いはずよ
それを過ぎると、シルバーコードが切れて肉体に戻れなくなる」
そういうと、パチュリーは床に横たわる二人の身体を魔法で持ち上げた
もはや、悩んでいるヒマはない。時間は限られているのだ
「わかったよ、ありがとよパチュリー。恩に着るぜ」
魔理沙は覚悟を決めたようだった
たとえ、それが命を懸けることになったとしても、ここまできて諦める訳にはいかない
「行くぜ、アリス。時間は待ってはくれないぜ」
「ま、待ちなさいよ」
そういうや、魔理沙はアリスを連れてさっと図書館を飛び出していった
魔理沙らしい思い切りの良さだった
「ちゃんと、生きて帰って来なさいよ…」
一人残されたパチュリーは、二人の肉体をベッドに寝かせ、二人の無事を祈った
~博麗神社~
「高天原に坐し坐して天と地に御働きを現し給う龍王は 大宇宙根元の御祖の御使いにして一切を産み一切を育て
萬物を御支配あらせ給う王神なれば 一二三四五六七八九十の十種の御寶を己がすがたと変じ給いて
自在自由に天界地界人界を治め給う
龍王神なるを尊み敬いて 眞の六根一筋に御仕え申すことの由を受け引き給いて
愚かなる心の数々を戒め給いて 一切衆生の罪穢れの衣を脱ぎさらしめ給いて
萬物の病災をも立所に祓い清め給い 萬世界も御親のもとに治めしせめ給へと
祈願奉ることの由を聞食て 六根の内に念じ申す大願を成就なさしめ給へと
恐み恐み白す」
博麗神社では、霊夢が新しい巫女として迎えられる儀式の最中だった
村長をはじめ、里の人間が見守る中、霊夢が粛々と祝詞を読み上げる
最も重要な龍神祝詞も、なんとかトチらずに唱える事ができた
新しく生まれ変わった神社の境内に置かれた祭壇には、様々な供物と共に博麗神社の御神体が祀られている
かつて、龍神が邪悪なる暗黒龍を封じたといわれる御神鏡である
「此れの神床に祝鎮座す掛巻も畏き 天照大御神を始め奉り
八百萬神達の御札の大前に恐み恐みも白さく
言わまくも畏けれど此れの神床に 大神の御神意に従ひ奉れり
古き神札取除き新しき神札を置き祝奉り 古きは産土神社崇敬奉御社に納め奉らんとして
弥代の幣帛献り平けく安けく聞食て 夜守り日守りに護り給ひ幸へ給へと
恐み恐みも白す」
霊夢の唱える祝詞を、里の人間たちは粛々と聞いている
この幼い巫女が、これから幻想郷を護り、古の作法と教えを伝えていくのだ
ある者は怖れ、ある者は敬い、ある者は不安を覚え、またある者は喜々として儀式に望んだ
この儀式が済めば、霊夢の身は龍神に奉げられ、その肉体は幻想郷を包む結界の鍵となる
同時に、龍神の力を与えられ、比類なき力を手にする事もできる
かつては、その力を笠にきて里の人間に横暴な振る舞いをしたり、多大な貢物を要求する禰宜もいた
まだ幼い霊夢が、どういう巫女に育つか、それは里の人間にとっては最大の関心事であり不安でもあった
「魅魔様、まだ襲わないのかよ…」
幻想郷のはるか上空、成層圏の近くから魔理沙が言った
今日、博麗神社を襲うと決めてから、二人は機会を伺っていた
霊夢も里の人間も、上空十数キロの地点から神社を狙う者がいるとは思うまい
しかし、儀式が始まってから数十分が経とうというのに、まだ魅魔が動く気配はなかった
「ふふふ、馬鹿を言うんじゃないよ。今の巫女程度なら、ここからの攻撃でも倒せる
だが、これは復讐だ。あの巫女の恐怖で引きつる顔を見なけりゃ意味がない
だから暫く待ってやってるのさ、あの巫女が龍神の力をきちんと引き継ぐまでね」
魅魔が答える。これは復讐なのだ。博麗神社に関わる者への復讐だ
圧倒的な力の差を見せつけ、相手を恐怖と絶望へと叩き落す
それでこその復讐なのだ
だから、魅魔は機会を伺っているのだ。霊夢が龍神の力を引き継ぐ瞬間を
「そんなことより、あんたこそ覚悟はいいんだろうね、魔理沙」
今度は逆に魅魔が魔理沙に尋ねた
魅魔は見抜いている。魔理沙の心に、まだ迷いがある事を…
父親への反発心から博麗神社を襲う事を決めた魔理沙だが、それでも心はまだ迷っている
「いいんだ、私はもう人間の里とは関係が無いんだ」
まるで自分自身へ言い聞かせるように魔理沙が言った
しかし、魅魔は魔理沙が拳を硬く握り締めているのを見逃さなかった
「そうかい…」
魅魔は考える、このまま魔理沙を連れて行くべきか…
それが魔理沙の選んだ道といえばそれまでだが、本当にそれでいいのか
「いや、今さら何も言うまい…」
魅魔もまた、自分の内なる声に耳を閉ざした
自分は悪霊だ。復讐に存在の全てを奉げた悪霊なのだ
魔理沙が何を犠牲にしたにせよ、それは魅魔の復讐とは何の関係もない物なのだ
そうして、魅魔は徐に『宿命の杖』を取り出し、魔理沙に向かって魔法を放った
「うわ―――!?」
不意に魔法をかけられ、魔理沙は狼狽する
思わず目を閉じた魔理沙、自分の皮膚にこそばゆいような感覚を覚える
「………?」
目を開いた魔理沙、何が起こったのか一瞬分からなかった
「こ、これは…」
ようやく、自分に起きた変化に気付いた魔理沙
自分の白黒のエプロンドレスが、全身紫色のローブに変わり、手には謎の蔓のような植物…
「あらあら、ウフフ…」
思わず口調まで変わってしまっている
クセのある金髪は、耳にかかる赤い髪に変わり、耳が尖り八重歯も覘いている
魅魔は魔法で、魔理沙の姿を変えてしまったのだ
「それで、里の人間が見てもあんただとは気付かないだろうさ
あんたが覚悟を決めてしまったなら、もう言う事はない
さあ、ショータイムの始まりだよ…
楽しい楽しい復讐劇さ…」
~時の最果て~
魔理沙が去り、輝夜と妹紅は次の時代へ飛び、てゐはどこぞへか消え、優曇華はそれを追った
無人となった『時の最果て』で、慧音は一人で作業に勤しんでいる
この無茶苦茶になっている時代の流れを元に戻そうとしているが、如何せん力が出ない
この『時の最果て』の中では、能力を発動しただけで異常に力を消耗してしまう
同時に、強烈な睡魔に襲われ、意識を保つだけでも大変だった
「全く、情け無い話だ。歴史を操る私が、時間の流れに干渉できないなど…」
必死に睡魔を堪えながら、慧音が言った
輝夜と妹紅が、最初に『時の光』を通った時から試しているが、全く慧音は時間に干渉できないでいる
向こうで二人がどういう状況でいるのか、全く分からないのだ
「それにどうした事だろう…。さっきからなんだか寒気がするし、頭が重い…」
慧音が自分の身体に起こってる変化に気付いた
半獣である慧音が風邪を引くとも思えないが、それでは先ほどから感じるこの悪寒はなんなのか…
「うう…、ダメだ…。少し休もう…、とても作業にならない」
正体不明の体調不良に、慧音は身体を休める事にした
(プププ…、本当に気付かないんだなぁ…)
その様子を見ながら、慧音の体調不良の原因…つまり、幽体となった魔理沙が笑いを堪えながら言った
幽体となった魔理沙は、現世には干渉できないが、慧音のような霊感の強い者は、その存在に気付いてなくとも、その存在を感じる事はできる
幽体になったまま、慧音の頭に乗った魔理沙を敏感に感じた慧音の霊感が、悪寒と頭痛というシグナルで魔理沙の存在を知らせたのだ
当の慧音自身は、そのシグナルの意味を読み取る事は出来なかったが
(もう、馬鹿なことをやってるんじゃないわよ)
アリスが魔理沙を嗜める
二人にはあまり時間が無い。ホムンクルスの命が燃え尽きるまで…
時間の余裕は、それだけしかないのだ
(分かってるぜ。ただの遊びさ)
そういって、二人は件の『時の光』の前に立った
穢れの無い者しか通る事ができないとされる『時の光』
穢れた肉体を分離させ、幽体のみの存在となった二人
今なら、この『時の光』を通る事ができる
(行くぜ、アリス)
魔理沙はアリスの手を引いた
幽体同士なら、その身体に触れ合うことができるらしい
しかし、その触れ合った手からは相手の体温は感じられない
魔理沙の体温を感じられない事に不安を感じながら、アリスは『時の光』に飛び込んだ
~博麗神社~
祭壇に里の人間が玉串を奉げて行く
儀式も終わりが近い中、魔理沙の父は儀式の後に行われる直会の準備をしていた
妖怪の山で採れた山菜や、川で取れた山女やアマゴ、岩魚など山野の珍味が揃っている
彼にとっては、このような儀式など大して意味のあるモノではない
ただ、神社の復旧を手がけた責任者として参加しない訳にもいかない
彼は直会の準備を口実に、退屈な儀式を抜け出していた
元々彼は信心など持ち合わせてはいないし、博麗の力だの何だのと云うものを信じてはいない
無論、氏子としても建前として供物も供えれば祭礼も欠かさないが、それも商売を円滑に進めるため
そもそも、幻想郷にはこの博麗神社しか宗教施設は存在しないのであるから、初めから選択肢などはないのである
信心を持たぬからと祭礼を欠かして商売に支障をきたすよりも、フリだけでもして無駄な争いをせぬようにした方がいい
彼が神社に足を運ぶ理由は、ただそれだけだった
「高天原に神留まり坐す 皇が親神漏岐神漏美の命以て八百万神等を神集へに集へ給ひ
神議りに議り給ひて 我が皇御孫命は 豊葦原瑞穂国を
安国と平けく知食せと 事依さし奉りき
此く依さし奉りし国中に 荒振神等をば 神問はしに問はし給ひ 神掃へに掃へ給ひて
語問ひし磐根樹根立草の片葉をも語止めて 天の磐座放ち 天の八重雲を 伊頭の千別に千別て
天降し依さし奉りき 此く依さし奉りし四方の国中と 大倭日高見の国を安国と定め奉りて
下津磐根に宮柱太敷き立て 高天原に千木高知りて 皇御孫命の瑞の御殿仕へ奉りて
天の御蔭日の御蔭と隠り坐して 安国と平けく知食さぬ 国中に成り出む天の益人等が
過ち犯しけむ種種の罪事は 天津罪 国津罪 許許太久の罪出む 此く出ば天津宮事以ちて
天津金木を本打ち切り末打ち断ちて 千座の置座に置足はして 天津菅麻を本刈り断ち末刈り切りて
八針に取裂きて 天津祝詞の太祝詞事を宣れ
此く宣らば 天津神は天の磐戸を押披きて 天の八重雲を伊頭の千別に千別て聞食さむ
国津神は高山の末低山の末に登り坐て 高山の伊褒理低山の伊褒理を掻き別けて聞食さむ
此く聞食してば罪と言ふ罪は有らじと 科戸の風の天の八重雲を吹き放つ事の如く
朝の御霧夕の御霧を朝風夕風の吹き掃ふ事の如く
大津辺に居る大船を舳解き放ち艪解き放ちて大海原に押し放つ事の如く
彼方の繁木が本を焼鎌の利鎌以て打ち掃ふ事の如く
遺る罪は在らじと祓へ給ひ清め給ふ事を 高山の末低山の末より佐久那太理に落ち多岐つ
早川の瀬に坐す瀬織津比売と伝ふ神 大海原に持出でなむ 此く持ち出で往なば
荒潮の潮の八百道の八潮道の潮の八百曾に坐す速開都比売と伝ふ神
持ち加加呑みてむ 此く加加呑みてば 気吹戸に坐す気吹戸主と伝ふ神 根国底国に気吹放ちてむ
此く気吹放ちてば 根国底国に坐す速佐須良比売と伝ふ神 持ち佐須良比失ひてむ
此く佐須良比失ひては 今日より始めて罪と伝ふ罪は在らじと
今日の夕日の降の大祓に祓へ給ひ清め給ふ事を
諸々聞食せと宣る」
この祝詞は大祓詞だったか、ならば儀式ももう終わる
これで霊夢は、晴れて博麗の巫女として龍神に認められた事になる
ふと、彼は霊夢の様子が気になった
儀式を終えて、彼女は何か変わったのだろうか…?
そんなはずはない…と、彼は思う
霊夢はただ、決められた通りの祝詞を唱え、氏子に玉串を奉げさせただけだ
そんな事で龍神の力が身についたりするものか…
直会の準備も終わってしまっている。後はみんなで飲み食いするだけの事だ
彼が境内に向けて踵を返した頃、その上空に二つの影が近づいていた
「ククク…。どうやら儀式は終わったようだね、では、見せてもらおうか…
新しい巫女の実力とやらを―――!?」
不意に、博麗神社の境内が慌しくなった
先ほどまでは見事なまでに晴れていた空が、急激に暗い雷雲に覆われている
同時に、数百、数千もの鳥が一斉に神社を包む森から飛び立っていった
迷信深い幻想郷の人間にとっては、これほどにも不吉な事はない
その様子を見ながら、魅魔は自らの右手にその魔力を溜め始めた
博麗神社には、以前にも増して強力な結界が張られているようだ
しかし、それは、魅魔にとっては全く無意味なものでしかなかった
『爆裂魔光砲』―――!!
―――その瞬間、魅魔の右手から強大な魔力が放出された
博麗神社に張られた結界は、まるで卵の殻が割れるようにあっさりと砕け散ってしまった
その強烈な爆発音は、それこそ幻想郷中に響き渡らんばかりに広まって行った
神社の境内に集まっていた里の人間は、何が起こったのかさえ理解できず、ただ右往左往するばかりであった
「ふん、小賢しい結界など張りおって、こんな物で私が防げると思ったか………」
魅魔の声が、神社の境内に響き渡る
その声を聞いた途端、それまで右往左往していた里の人間は、腰が砕けたかの如くその場にへたり込んだ
その場にいた里の人間の全員が、宙に浮かぶ二人の姿を見つけた
一人は紫のローブにとんがり帽子、赤い髪の少女…
そして、もう一人は、緑の長い髪に切れ長の鋭い眼、下半身がなく三角の被り物を被っている
誰も何も言わなかったが、誰もがその正体が分かった
彼女こそ、博麗神社を襲い、先代の禰宜を再起不能になるまで痛めつけた悪霊の魔術師なのだと…
「ふん、どうやら自己紹介の必要はないみたいだ…
盛り上がっているところ悪いが、私はそこの博麗の巫女とやらに用があるんだ
命が惜しいヤツはとっとと逃げな…。さもなくば…
巻き添えを食らうよ―――!!」
再び、魅魔の掌から強烈な魔力が放出される
さきほどの結界を破壊した魔法などとは比べ物にならない…
こんなもの、普通の人間なら爆風だけでも全身をバラバラにされてしまう…
―――――――!!
魔理沙は思わず耳を塞いだ
魅魔の放った魔法の衝撃音は、空気の壁を突き破り魔理沙の鼓膜に突き刺さった
反射的に耳を塞いでいなければ、その衝撃音だけで鼓膜が破られていたかもしれない
「おやおや、私とした事が力加減を間違ったかな…?」
魅魔が魔法を放った自分の掌を見つめる
久しぶりの実戦だからか、それとも、復讐を果たす期待に心が逸っているのか、ただの威嚇のつもりが予想以上の力で魔法を放出してしまった
「しまったね、これじゃあ一気に全滅させちまったかもしれない
折角の復讐の楽しみがなくなっちまう」
これほどの威力の魔法では、とても並みの人間にはかわしようが無いだろう
自分では抑えていたつもりだが、想像していた以上に自分の魔力が強くなっているようだ
こんな一撃を食らったのでは、里の人間は勿論、博麗の巫女とて無事には済むまい
「………む!!」
魅魔の魔法が引き起こした強烈な爆風が、神社の境内に猛烈な砂煙を引き起こしている
しかし、その砂煙が薄まるに連れて、徐々に境内の様子が鮮明になる
「まさか―――!?」
魅魔が思わず目を見張った
以前、博麗神社を襲ったときに相手をした神主程度なら簡単に屠っていたであろう一撃…
しかし、砂煙の中から姿を現したのは、御幣を地面に突き刺し、博麗神社全体を護るように結界を張った巫女の姿だった
魅魔が魔法を放った一瞬で、この博麗神社にいた者全てを覆うような巨大な結界を張ってみんなを護ったのだ
「ふふふ、あの一瞬で、これほど強大な結界を張っていたとは…
どうやら、この間の神主よりもやるようだねえ」
魅魔が薄い笑いを浮かべながら地面に降りて行く
幼い少女でありながら、あれほどの魔法を防ぐとは…
これは、思っていたよりも楽しい事になりそうだった
「ふん、いきなり全員を巻き込もうなんて、なんて凶悪な悪霊なのかしら…
あんたなんかに、ここにいる誰一人傷付けさせはしないわ―――!!」
霊夢が祓い棒を魅魔に向けた
同時に、二つの陰陽玉が霊力を放出しながら霊夢の周囲を廻り始める
霊夢が展開していた結界を解いた瞬間、村人たちは蜘蛛の子を散らすように一気に逃げ出した
「どうやら、少しは愉しませてもらえそうだね…」
そういうと、魅魔は『宿命の杖』を霊夢に向けた…
「な、なんなんだ…あれは…」
神社の境内の隅で、魔理沙の父親は腰を抜かしていた
不意に喰らった轟音と衝撃で、どうやっても下半身が動かなくなってしまっている
幸い、すでに悪霊の意識は霊夢に向いているらしく、襲ってきた二人組は彼に気付いてはいない
「なんなんだアイツ等は…、一体、何が起こっているというのだ…!」
彼の目の前で繰り広げられる光景は、あり得ない物だらけだった
人が空を飛び、手から光を放ったと思えば激しい爆発が起きる始末
とても現実とは思えないような光景が、まるで映画のスクリーンから飛び出してきたかのように繰り広げられていく
悪霊の放った一撃が、神社全体を吹き飛ばさんばかりに激しい衝撃を放つ
しかし、その魔法も、霊夢の張った結界に防がれる
村人たちは我先にと逃げ出し、用意されていた直会の料理も引っ繰り返されぐちゃぐちゃになってしまった
人々が逃げ出す中、腰の抜けた彼は身動きすることもできず、ただその場に佇むよりなかった
これは現実の光景なのか、彼は自分自身に何度も問い詰めたがその答えは出るはずも無い
しかし、これが夢か幻であったとしても、今の彼にはどうすることも出来ない
これが現実であると信じたくはない。だが、すでに彼の身体はまるで魂が抜けてしまったかのように動かない
ただ、彼には二人の戦いを見守る事しかできなかった………
~幻想郷上空~
「なんなんだ、この凄まじいパワーは…?」
『時の光』を潜り抜けた魔理沙とアリス
二人が過去の幻想郷に辿り着いた途端、強烈な魔力が神社の方から放たれている事に気付いた
あまりに強大で、それでいてどこか懐かしいその力を、魔理沙はすぐに察した
これは、自らの師である魅魔の魔力であると………
「そうか…、魅魔様は博麗神社へ復讐するために神社を襲った…
あの時に時間が繋がっているのか!」
魔理沙は思い出した。魅魔と共に博麗神社を襲ったあの時を…
「これが、魅魔の力なの…。なんて強力な魔力…
一体、霊夢はどうやってこれほどの力を撃退したというの!」
アリスは驚愕する
神社から、はるかに離れた魔法の森の上空。この位置からでも、その魅魔の放つ魔力の強大さが分かる
今の自分だって、到底敵わないと思えるほどの魔力…
この時代、霊夢はまだ子供だったはず
一体、どうやって霊夢は魅魔を倒したというのか………!?
「そんなことはどうでもいい、行くぜ…!」
そういうと、魔理沙は箒に跨り一気に全速力で神社に向かった
「待ちなさいよ―――!!」
アリスが必死で魔理沙を追いかける
幽体になっていても、魔理沙のスピードは変わらない
少しでも気を抜けば、あっという間にアリスは魔理沙に置いてきぼりにされてしまう
こうして、二人は博麗神社へと向かった
~博麗神社~
「はぁ―――!!」
全身から霊気を放出した霊夢が、勢い良く魅魔に一直線に向かっていく
全身の霊気を祓い棒に集中させ、一気に魅魔に向かった振り下ろそう構える
あまりに愚直な玉砕戦法、あまりに無防備な特攻に魅魔が杖を構える
「―――!?」
………しかし、次の瞬間、まさに魅魔に飛びかかろうとしていた霊夢の姿が消える
無防備な特攻は、魅魔の気を前方に集中させる囮だった…
「…ッフ!」
だが、魅魔は微塵もたじろぎもせず、元の霊夢が居た位置を見たまま、自分の右斜め後方へ拳を突き出した
「ぐぅ………!?」
魅魔の拳が、超スピードで魅魔の背後に回っていた霊夢の顔面にめり込む
無謀な特攻を囮に、魅魔の背後に回った霊夢を、まるでその位置にいる事を知ってたかのように、魅魔が拳が捉えた
「ちぃ―――!?」
『宝具・陰陽鬼神玉』―――!!
魅魔の拳に吹き飛ばされた霊夢が、そのままの状態から巨大な霊気の塊を放つ
あんな体勢から、これほどの大技を放つとは、流石に博麗の巫女…!
霊夢の放った霊気の塊は、猛スピードで魅魔を目掛けて飛んでいく
しかし―――!!
「はぁ―――!!」
魅魔がその霊気の塊に対し、軽く腕を振った瞬間―――!!
その腕の先から霊夢の放ったそれよりも、さらに巨大な魔力が放たれる
魅魔の放った光は、ゆっくりとしたスピードで霊夢の放った霊気の塊を一息で飲み込み、なおも霊夢を目掛けて飛んでいく
それほど力を込めて放ったとも思えない魔力の塊でありながら、とんでもない威力である
「くぅ………!!」
自らが放った陰陽玉が飲み込まれ、その巨大な魔力が霊夢に迫る
霊夢は慌てて着地し、祓い棒を両手で構え、その魔力の塊を受け止める
「ぐ、ぐぅぅ………!!」
………しかし、受け止めはしたものの、それでも魅魔の放った魔力の威力は消えない
霊夢の身体ごと飲み込みそうな勢いで、霊夢を押し潰さんと突き進んでいく
霊夢の小さな身体では、その勢いを止められず。その魔力を受けたまま、身体ごとずるずると後退していく
「はぁ―――!!」
ようやっとの思いで、霊夢はそれを上空に向かって逸らした
…だが、霊夢はすぐに再び驚愕する…!
「………!?。あの悪霊がいない―――!!」
霊夢が気付いた時には、すでに魅魔の姿が消えていた
その時にはすでに遅く、霊夢の首に『宿命の杖』が食い込んでいた
「うぅ………!!」
いつの間にか、霊夢の背後に回っていた魅魔は、両手で『宿命の杖』を霊夢の首に食い込ませ、そのまま霊夢を締め上げた
魅魔の悪霊とは思えない膂力で、一瞬で霊夢の気道は封じられ呼吸を止められる
ゴリゴリと骨が軋むような音を立て、『宿命の杖』は霊夢の首を締め上げる
完全に呼吸を止められると、人間はものの数秒で意識を失ってしまう
「はぁ…!!」
霊夢は必死で魅魔の脇腹に肘鉄を入れる
霊夢の首を締め上げていた力が、微かに緩み霊夢は魅魔から離れる
………と、同時に左手に持っていた祓い棒を、振り返り様に魅魔の顔面に見舞う
手ごたえあり…。霊夢の攻撃が、初めて魅魔を捉えた
「―――!!」
しかし、霊夢の渾身の反撃を食らったにも関わらず、魅魔は平然としたまま
まるで蚊に刺された程度にも、ダメージを食らっていない…!
「はぁ―――!!」
次の瞬間、魅魔は全身から強烈な気合を発した
猛烈な風に吹き飛ばされるように、霊夢の身体が吹き飛ぶ
ただ気合を放出しただけだと言うのに、霊夢の身体は十数Mは飛ばされた
「―――!?」
成す術もなく吹き飛ばされる霊夢の身体、それにさらに魅魔は追い討ちをかけるように飛び、霊夢を追い越し再び霊夢の背後に回った
吹き飛ばされる霊夢を、魅魔は思い切り蹴り上げ空中高く放り上げる
………と、同時にさらに霊夢を追い、霊夢を飛び越して空中で霊夢の身体を待ち受ける
「しゃあ――――!!」
魅魔のクラッチされた両手が振り下ろされ、霊夢は思い切り地面に叩きつけられた
激しい轟音と砂塵が周囲を包む…
魅魔はゆっくりと地面に降り立つ
霊夢が叩きつけられた地面が、まるでクレーターのようにえぐられている
霊夢はその中心で、地面から生えているかのように直立して上半身が地面にめり込んでいる
「す、すげえ…」
そばでその戦いを見ていた魔理沙が、思わず息を呑む
魅魔の力は勿論知っている
だが、霊夢とて天才と呼ばれた博麗の巫女
ましてや『博麗の力』を受け継いだとなれば、魅魔とてそれを倒すのは用意ではないと思っていた
しかし、現実には魅魔の力は圧倒的だった
霊夢など、まるで問題にならない
そう思わせるほどに…
「まだ、くたばった訳じゃないだろう」
魅魔が自ら創り出したクレーターの中心まで降り、霊夢の足を掴む
まるでイモでも引き抜くかのように、霊夢を地面から引っ張り出す
「はぁ―――!!」
その瞬間、霊夢の両手から霊気が放出され、魅魔の顔面を捉えた
同時に魅魔から開放された霊夢は、魅魔と距離を取り地面に立つ
………つもりだったが、ダメージを受けた身体ではとても自分を支えられず、霊夢は膝をついた
「はぁ…はぁ…、なんてこと、この私がまるで赤ン坊扱いじゃない」
霊夢にとっても、魅魔の強さは想定外だった
先代の神主を簡単に倒した話を聞いて、ある程度はその力を推測していたが、魅魔の力は霊夢の想像していたそれよりも何十倍も強い
「こんなもんかね、博麗の巫女の力は…」
霊夢の仕掛けた奇襲も、まるでダメージを与えられたようには見えない
「今のあんた程度なら、珈琲を一服している間に倒せる…
『博麗の力』の真の力はそんなもんじゃないはずだ
見せてみな、『博麗の力』の真の力を…!」
恐ろしく冷酷な目で、魅魔が霊夢を見据える
あれほどの攻撃を加えていながら、魅魔は手加減を加えていた
霊夢に『博麗の力』の真の力を引き出させるために
「馬鹿ね、そんなに自信があるなら、いま倒しゃあいいじゃない
わざわざ私が全力を出すのを待つ必要なんてないでしょう」
片膝をついていた霊夢が、フラフラになりながら立ち上がる
自分で言うのも可笑しな話だが、霊夢の言う事も尤もである
倒せるときに倒すのが、戦いの定石であるはず
なぜ、わざわざ相手を本気にさせようとするのか
「ふん、分かっちゃいないね。弱っちぃあんたを倒しても意味がないだろう
これは、私の『復讐』なんだよ
あんたが持つ『博麗の力』を全て引き出し、それを叩き潰して、この神社から信仰も崇拝も全て奪い取る
それでなくては、私の『復讐』が意味を成さないのさ」
魅魔が言った。これは、『復讐』なのだ
先代の神主が再起不能になるまで痛めつけられても、里の人間たちは神社を再建し、新しい巫女を立てた
それは、『博麗の力』に対する信仰が、まだ残っていたからだ
『博麗の力』に対する信仰があるから、新しい巫女を擁立して神社を護ろうとする…
このまま、『博麗の力』を引き出さぬまま霊夢を倒したとしても、人々が『博麗の力』を信仰する限り、また新しい巫女を立て、神社を護ろうとするだろう
それでは、霊夢を殺したとしても意味がない…
魅魔の『復讐』は、あくまでも博麗神社への『復讐』なのだ
だからこそ、魅魔は霊夢の中に眠る『博麗の力』を全て引き出さねばならない
すべての力を引き出し、その上で叩き潰さなければ、人々は博麗神社への信仰を失わないだろう
『博麗の力』の全てを引き出し、それを叩き潰し、人々から信仰も希望もなにもかも奪う事が出来てこそ、魅魔の『復讐』は完成するのだ
「あんたには義務がある…。今持てる力を最大限に使い尽くし、私と戦う義務がな…」
圧倒的な魔力を放出しながら、魅魔が霊夢に近づく
まるで空気が凍りついたかのように、何物も音を発しなくなった
木も、草も、空気も、雲も…、ありとあらゆるすべての物が魅魔の発する禍々しい魔力を怖れている
「あんたの力を最大限引き出すきっかけはなにか…、私はずっと考えていた…
身体を少々痛めつけてやれば、その気になるかと思ったが…
どうやら、傷みだけでは足りないようだ…
あんたの力を引き出すのはなんだ?。恐怖か、怒りか…?
あんたの力を引き出すためなら、私はなんでもするよ」
魅魔が徐々に近づいてくるにつれ、その表情がはっきりと読み取れるようになる…
魅魔は本気だ、本気で霊夢の中に眠る『博麗の力』を目覚めさせようとしている
「ふざけんじゃないわよ―――!!」
魅魔の言葉に、霊夢がキレた―――!!
まるで火の玉のような勢いとスピードで、一気に魅魔に突っ込んでいく
そのスピードは、今までの比ではない
魅魔の懐深く飛び込んだ霊夢の拳が、魅魔の顔面を捉えた
今までの霊夢とは、打撃のインパクトがまるで違う
怒りが、霊夢の『博麗の力』を目覚めさせたのか…?
「―――!?」
しかし、あれほどのパンチを顔面に食らっていながら、魅魔は嗤っていた
「やはり、憤怒か…。だが…」
魅魔の拳が、霊夢の腹部をえぐった
魅魔のモーションは、まるでゆっくりとしている
それだというのに、霊夢はまったくその攻撃をかわせる気がしなかった
霊夢は成す術もなく、大きく吹き飛ばされてしまった
「まだだ…、まだ足りんな」
あれほどの攻撃でも、まだ魅魔は容赦しなかった
こんな力では、倒す意味がない
「怒りだけでは不足のようだね…。まったく、誰かさんみたいに手の掛かる娘だよ」
魅魔の力は、あまりに圧倒的過ぎる…
霊夢がどれほどの力を振り絞ろうと、あっさりとそれを上回る力で返してくる
その上、まだこれ以上の力を要求してくる…
この異常なまでの執着心はなんなのだ…?
ただ、先代の神主に騙されたという思いだけで、彼女はこのような狂気ともいえる事をしでかしているのか…?
「み、魅魔様…」
少女・魔理沙はその場にへたり込んだ
自らの尊敬する師である魅魔の、あまりの変貌、あまりの狂気にまるで魂が抜け落ちたように身体が動かない
「や………」
やめてくれ…そう言い掛けて、魔理沙は言葉を飲み込んだ
自分が選んだ道だから…とか、魅魔を崇敬するから…とか、そんな月並みな感情ではなかった
いえば、魅魔に殺される…
ただただ、単純な魅魔への恐怖に、魔理沙は声がでなくなった
初めて会った時、魔理沙は何かにすがりたい気持ちだった
自分の無力感に苛まれ、自分が救われる事しか考えられなかった
ありとあらゆる物が、真っ黒に塗り潰されたような世界の中で、魅魔は希望の光のように感じた
だから、魅魔の鬼のような修行にも耐えたし、魅魔の事を尊敬さえもした
だが、今は違う。魔理沙が今の魅魔に感じているのは、ただの純粋な恐怖だけだ
魅魔を信じているからこそ、魔理沙は姿を変え、人間の里と離別する決意をした
剰え、霊夢が殺され、幻想郷が滅んだとしても、魅魔についていく決心をしたのだ
それが、いま全てを否定されようとしている
目を瞑っても、耳を塞いでも、全ての感覚を閉ざそうとしても、どうしても消す事のできない
魅魔から放たれる、異様な狂気
もはや、魔理沙にも止める事は出来なかった…
「さあ、いい加減で見せてみなよ、あんたの実力を」
魅魔の指先が光った…と、思った瞬間、鋭い光線が霊夢の肩を貫いた
「ぐ、うぅ…」
目にも止まらぬ速さの光線に、肩を貫かれた霊夢は肩を抑える
鋭い傷みが霊夢を襲う。魅魔の放ったほんの微かな光線だというのに、身体の芯に突き刺さるような異様な傷み…
「ほら、とっとと実力を出さないと、死んでしまうよ」
そういいながら、魅魔は光線を連射してくる
「くぅ…!」
霊夢は必死で束になって襲ってくる光線の群を、霊気を込めた祓い棒で撃ち返していく
魅魔が特に力を込めるでもなく撃って来る光線は、それでも一撃一撃が重い
とてもじゃないが、このままでは撃ち返す腕ごともぎ取られてしまう
霊夢は一気に祓い棒に霊気を溜め、地面に突き立てた
『夢符・封魔陣』
霊夢を中心に、無数のお札が乱れ飛ぶ
魅魔が放つ光線を撃ち消すと同時に激しい爆発を引き起こす
激しい爆風が、周囲の木や灯篭を吹き飛ばしていく
霊夢のパワーが、さらに上がっている証拠だ
夥しい数のお札が、魅魔を目掛けて飛来する
その瞬間、魅魔の全身から激しい魔力が一気に高まり、それが両手に集中する
『爆力魔波』
魅魔の両手から、凄まじい魔力が放たれる
霊夢の放ったお札を吹き飛ばし、なおも霊夢に目掛けて直進する
「―――!?」
そのあまりの威力に、霊夢は身のかわしようもなかった
魅魔の放った『爆力魔波』が炸裂した瞬間、霊夢の起こした爆発の数十倍はあろうかという爆風が吹き荒れる
「きゃあ―――!!」
激しい爆風が、霊夢の身体を吹き飛ばし、霊夢の身体は祭壇を突き抜け神社の賽銭箱に叩きつけられた
「おおっと…」
あまりの爆風に、技を放った魅魔自身も爆風に煽られ体勢を崩した
あれほど圧倒的な破壊力の技を使っていながら、息一つ切らしていない
「まだだ…、まだ足りん…」
賽銭箱に叩きつけられ、巫女服もボロボロの霊夢…
これほどまでになっても、魅魔はまだ満足できないでいた
(か、勝てない…)
霊夢にとっては、絶望的な状況だった
魅魔の力はあまりにも絶対的で、圧倒的だった
霊夢だって全力で戦っているつもりだが、まるで歯が立たない
それでもなお、あの悪霊は満足していないのだ…
霊夢の全身が悲鳴を挙げている。どれほど天才と呼ばれていようと、霊夢はまだ十二歳の少女…
いまだに肉体の成熟しきらないこの歳で、これ以上の力を出せば、仮に魅魔を倒せたとしても霊夢の身体はバラバラになってしまう
「どうやら、怒りだけでは不足のようだね…」
静かに…ゆっくりと、魅魔が近づいてくる…
立ち上がろう…、そう思っても霊夢の全身に力が入らない…
受けたダメージのせいではない…
霊夢の身体が、怖れているのだ
目の前に迫る悪霊の圧倒的な力と、復讐への執着を…
霊夢にとって、生まれて初めて感じる恐怖…
自分が死ぬ事が怖いのではない
ただ、只管に魅魔が怖い…
「どうした…。立たないのかい…?」
昏い…冷酷な目が霊夢を見据える
何がこれほど、彼女を復讐へと駆り立てるのか…
憎悪、憤怒、怨恨、怨念、怨望、憤懣、怨嗟、執着、意地…
それは、どんな言葉にも表せないように思えた…
復讐と云うそのものが、彼女の存在意義であるようにすら思える
自らの存在の全てを賭けている魅魔に対して、霊夢がどれほど憤り、怒りを放っても無意味に過ぎない
そんなものでは、この魅魔の全存在を賭けた復讐心に克つ事はできない
「愚かだね、自分の力を引き出すのに理由など必要かい…?」
「―――!?」
霊夢の心を見透かしたかのような魅魔の言葉に、霊夢は驚いた
どうやら、魅魔は霊夢の心を読んだようだ
「いいだろうさ、あんたが自分一人で力を引き出せないほど未熟だというのなら…
その気になるようにしてやろうじゃないか…」
そういうと、魅魔は霊夢に手を向けた
魅魔の復讐心に抗するほどの闘争心を持たない霊夢に、どうすれば本気にさせる事ができるか…
魅魔はようやくその方法が分かったようだ
「な、な………!?」
魅魔が霊夢にその手を向けた途端、霊夢の身体が宙に浮いた
霊夢の身体から自由が奪われ、身体が自分の意思とは全く関係なく空に浮かんでいく
「な、何をしたの…!?」
激しく狼狽する霊夢の動きは、魅魔が手を動かすそれととリンクしている
これは、魅魔に動きを操られているのか
「なぁに、あんたに一つ…『人間の里を破壊』して貰おうと思ってね」
「―――!?。なんですって!」
魅魔の言葉に霊夢が衝撃を受ける
そうしている内にも、霊夢の身体がみるみる上空へと浮き上がっていく
幽体化しているアリスと魔理沙の隣をかすめるように、霊夢の身体が上空に舞い上がる
(魅魔…!、どういうつもりなの!)
アリスが叫ぶが、幽体化している者の声は現世の者には届かない
二人には、ただ見守ることしかできないのだ
「あんたがいつまで経っても煮え切らないからさ、その迷いを断ってやろうというのさ」
魅魔が霊夢に向けていた手を握る…
…と、同時に霊夢の全身からこれまでに無いほどの霊気が集まっていく
集まった霊気が、霊夢の目の前で収束していく
あり得ないほど巨大な霊気の塊が、霊夢の前に出現する
「お前は所詮、心のどこかで甘えているのさ…。誰かに守って貰えると…、幻想郷の為に戦っていれば許されると思ってるのさ
自分に優しく接してくれた人に甘えて、頼っているんだ…
だから、お前のその甘えを断ち切ってやろうというのさ
お前自身の手でな…!」
「う、うぅ………、やめてぇ…!!」
霊夢は必死で抵抗する
魅魔は本気だった。本気で霊夢の手で人間の里を破壊させようとしている
霊夢は博麗神社に捨てられ拾われた時から、周囲に愛されて育てられた
本人にその気がなくても、心のどこかで里の人間たちに、自分を愛してくれている人間に甘えている
自分が死ねば、幻想郷が消滅してしまう…
それが分かっていながら、心の隅で自分は許されるのだと思っていた
だから、どれほど魅魔の攻撃を受けても、どこかで他人事のように思っていた
それ故に、どうしても、何があっても幻想郷を護らなければならない…という気持ちよりも魅魔への恐怖が勝ってしまった
魅魔は、霊夢のそうした甘えを断ち切ろうとしている
霊夢自身の手で、人間の里を破壊させることによって…
(狂ってる…、魅魔は狂っているわ…。そこまでして、霊夢を本気にさせて、何になるというの…!)
アリスが目を覆った。もはや、見ていられない
霊夢が幻想郷を破壊する姿など見たくない
(魅魔様…)
魔理沙は複雑な気分だった
これは自分の過去を再生しているのである
あの時の自分は、ただ見ているだけしかなできなかった
だが…、今なら…
今なら………
「どういうことだ…、本気なのか…?」
神社の境内の隅から、魔理沙の父は腰を抜かしたまま空を見上げている
目の前で起きている事が、全く理解できない
しかし、霊夢がどうやらあの悪霊に操られているらしいということは分かった
霊夢の身体から発する霊気が、人間の里に向かって放たれようとしているからだ
あの悪霊の復讐への執着心は異常だ…
ただでさえ圧倒的な力を持っていながら、霊夢の中に眠る力を無理やりにでも引っ張りだそうとしている
それが、一体なんになるというのか
逃げ出そうにも彼の下半身はずっと麻痺した状態になっている
ここから動く事も出来ぬ上、先ほどから喉もカラカラに渇いて声も出ない
ただ霊夢が操られ、幻想郷を破壊する様を黙ってみているしかないのだ
「魅魔様………」
…ふと、近くから少女の声がした
彼が振り返ると、そこには悪霊と共に姿を現した少女の姿があった
紫色のローブに、尖った耳と赤い髪
彼はそれが、自分の娘の魔理沙であると気付かなかった
(あんな少女も、博麗神社への復讐の為に戦っているのか…)
あの悪霊がなんの為に、あれほどまでに復讐に執着するのかは分からない
だが、その復讐心が、あのような幼い少女までも戦いに駆り出してしまった…
あの少女が何者なのかも分からない…
しかし、それでいながら、何故か彼は彼女を放って置く事ができなかった
「やめて………、お願い…。なんでも言う事を聞くから…」
自らの意思とは関係無しに、霊夢の両手に霊気の塊が集まり、次第に巨大化していく
必死で逆らおうとしても、魅魔の巨大すぎる力の前には意味をなさない
人間の里を灰燼に帰すには十分すぎるほどの霊気を集めてなお、さらにその力は増していく
このままでは、人間の里どころか、幻想郷そのものさえも破壊してしまいそうな勢いで、巨大な霊気の塊は膨らんでいく
(魅魔様………、もうやめてくれ…!?)
幽体となり、状況を見守っていた魔理沙が、八卦炉に手を掛ける
あの時の魔理沙は、ただ魅魔の力を恐れ、なにもすることが出来なかった
しかし、あれから時は流れ、魔理沙は多くの強敵と出会い、戦い、力をつけた
今なら、魅魔を止める事だってできる―――!!
(魔理沙、何をやってるの―――!!)
八卦炉を取り出した魔理沙を、アリスを見つけて咎める
(うるせえ、黙ってみてろって言うのかよ…!!)
二人の戦いに、力ずくで闖入しようとする魔理沙
初めから分かっていたことだった。魔理沙の性格からして、こんな状況になれば黙っていられるはずがないのだ
(お馬鹿、歴史の流れに介入するつもりなの!?。未来を知っている私達が過去に干渉してしまっては、未来が間違ったほうへ行ってしまうわ)
アリスが魔理沙を止める。本来なら、二人はこの時代には存在していないはずなのである
二人が歴史に介入してしまっては、未来が変わってしまう
尤も、二人は現世と切り離された幽体であるから、元から介入することはできないが、それを忘れてしまうほどに二人は狼狽している
これが、魅魔が言っていたことなのだろうか…
魔理沙にとっての、封印してしまった過去…。変えてしまいたい心の傷…
だが、魔理沙ははっきりとこの場面の事を覚えているはずなのだが…
(やめて、魔理沙、この後がどうなってしまうか、貴方は知っているはずでしょう…!
もしも、貴方がここで介入してしまったら、本当に幻想郷がほろんでしまうかもしれないのよ…!)
そう、魔理沙とアリスがいた時代まで、幻想郷も人間の里も慥かに存在しているのだ
ここで幻想郷が滅びる事はないはずはないのだ
魔理沙が下手に介入してしまっては、歴史が変わって幻想郷が滅んでしまうかもしれない
(ぐぅ…。ちくしょう、私はまた…ただ黙って見とくしかねえのかよ…!!)
自らの無力さを嘆き、魔理沙は唇を噛み締める
そうしている間にも、霊夢の手の中には、それこそ惑星一つでも破壊できそうなほどの霊気の塊が生まれていた
「うぅ…、やめて…。私を殺せばいいじゃない…。どうしてこんな事をさせるの…」
霊夢は必死で、この巨大な霊気の塊が発射されないように、必死で引き止めようとする
しかし、もはやそれは無駄でしかない。今にも、その幻想郷を丸呑みしてしまいそうな霊気の塊は、発射される時を待ち構えている
「みじめだねえ、博麗霊夢…。止めたいんなら、自分の力で止めてごらんよ
アンタが自らの力で、自分の中に眠る『博麗の力』を目覚めさせる事ができるなら簡単な事さ…」
冷たい、冷酷な目で魅魔が霊夢を見つめる
もはや、どんな哀願も通じない…
魅魔にあるのは、ただただ復讐の一念だけだ…
そのためには、どんなことだってする…
人間の里など、霊夢の力を引き出すための単なる道具でしかない…!!
「アンタの力を引き出すため…。つまりは、私の為に…人間の里には消えてもらうよ…」
魅魔が呟いた瞬間―――!!
巨大な霊気の塊が、霊夢の手を離れ、人間の里に向けて発射された
………
…………………
…………………………………
…………………………………………………
………それは、非常にゆっくりとした動きで、地表に吸い込まれていくかのように落ちていった
永遠とも思える空白………、そして、次の瞬間には、それは一気に弾けた―――!!
地が震え、天が泣いた…
太陽の光すら圧倒するような強烈な閃光と、惑星が砕け散ってしまったかのような轟音
まるで、この世の終わりとすら思えるような凶悪な爆風が、数キロはなれた神社でさえ巻き込み吹き荒れる
激しい震動と爆風が、まさに世界の終末を思わせる
巻き上げられた土煙が太陽を閉ざし、世界が光と断絶されていく
世界が闇に閉ざされた頃、霊夢の眼前に、人間の里だった所の姿が映し出される
「い、イヤァァァ―――!!」
そこに広がっていたのは、人間が住むべき家も、人間が丹精込めて耕した田畑も…
何もかもが消滅し、ただ荒野が果てしなく続く…
それは、如何なる生物の生存さえ許さない、荒れ果てた荒野とかした人間の里の姿だった
「もう二、三発撃ってみるかね…。お望みとあらば…」
魅魔の言葉も、霊夢には届かない
絶望…という言葉でさえ生温い。霊夢は、何もかもがなくなってしまったかのように立ち尽くしている
自分が育った村が、自分を育ててくれた人も、一瞬で消えてしまった…
しかも、それを自分自身の手でやってしまった…
まるで、霊夢の中がカラッポになってしまったかのように、まるで火の消えた蝋燭のように頼りなく宙を漂っている
絶望、後悔、挫折、悲観、消沈、失望、悔恨、憔悴、阻喪………
どれだけ言葉を並べても足りないほど、霊夢の心はガラスのように砕け散ってしまった
「―――!?」
抜け殻のようになり漂っていた霊夢が、いつの間にか魅魔の背後に回った
速さではない。まるで一度消えた存在が、魅魔の背後で復活したかのように、魅魔は全くその動きを掴めなかった
「許せない…。自分が愛した場所も、自分を愛してくれた人も護れないなんて…
なにより、自分自身をゆるせないわよ…」
霊夢の周囲を、これまでに無いほどの霊気が包んでいる
その霊気を感じた瞬間、魅魔は背筋が凍るほどの緊迫感を覚えた
まるで頼りない、切れ掛かった電球のような、今にも消えてしまいそうな力…
まるで空蝉のようにカラッポになって、今にも吹き飛ばされそうな霊夢から、それでもあり得ないほどの力が湧いてくる
これが、『博麗の力』の真価なのか…?
(なんなの、この霊気…。まるで頼りない、朧気な力でありながら、それでいて途轍もなく強い…!)
霊夢の発する力に、アリスが驚いている
しかし、その力に触れていると、人間の里を破壊され、ショックを受けた心が癒されていくようにも感じられる
まるで、何か温かい大きな力で護られているような気がする
(霊夢…自分自身が許せずに、自分と戦っているのか…)
魔理沙も息を呑む
いつも呑気にお茶を飲んでいる霊夢からは考えられないほど、まるで消えてしまいそうなほど霊夢が小さくなっていく
しかし、それと反比例するかのように、放出される霊気は強く、優しく、温かくなっていく
今、霊夢は乗り越えようとしているのだ…
『博麗の力』の真の力を引き出すため、自分自身の限界の壁を超え、打ち破ろうとしている
「ククク、面白い…。私の身体がアンタを怖れているようだ…
私は初めて、勝敗の分からない戦いに身をおけるかもしれない」
霊夢が、自分自身との葛藤と戦う中、魅魔は高らかに嗤った
魅魔ほどの魔術師なら分かる。霊夢の力が、自分と同等にまで高まろうとしていることを…。霊夢が今、自らの殻を打ち破るために戦っている事を…
「感謝して貰おう、アンタは今、私と同じ強さの境地に立ちつつある
お前は自分の無力さを恨んだだろう…!
強くなりたいだろう、自分の持つ全てを捨ててでも、私を殺したいだろう…!
今がその時だ…!。強く信じな、力こそが全てだと…!。私を殺せるだけの力が欲しかろう…!」
魅魔が自らの魔力を誇示するかのように、黒いオーラに包まれた魔力を放出している
あの日、人間の王に騙まし討ちをくらい、命を落とした時、魅魔はこの世にいる全ての人間を恨んだ
この世にある全ての物に絶望し、暗黒の心が地獄の業火に焼かれ、全身を引き裂かれるような苦しみに喘いだ
恨む事で悪霊に転生し、全人類への復讐を誓った
復讐を果たすために、この世に存在するあらゆる力を手に入れた
力を手に入れる度に、復讐の心は大きく燃え上がり、魅魔の心には異常なまでの復讐への執着心が生まれた
魅魔は、霊夢にも自分と同じような絶望を味わわせた…
未熟な霊夢の力を目覚めさせるには、自分と同じ絶望を食らわせるしかないと思ったからだ
「魅魔様………」
幼い魔理沙が呟く…
もはや、恐怖心さえ吹き飛んでしまった
魔理沙にとっても、人間の里は故郷なのだ
それなのに、悔しいとか、恨めしいとか、そういう湿っぽい感情は起こらなかった
何故だか、魔理沙には分かってしまった気がした
どうして、魅魔がこれほどまで霊夢の力を目覚めさせようとしているのか…
魔理沙は、魅魔に向かって駆け出そうとした
その時………!?
「待て―――!?」
一人の男の声が、魔理沙を止めた
そんなはずはない。もう、この神社にいた人間たちは逃げ出してしまったはずだ
魔理沙は振り返る…
「待つんだ…」
「―――!?」
聞き覚えのある、懐かしい声…
声の主に、魔理沙は驚愕する
声の主は、人間の里きっての大店、『霧雨道具店』の店主であり、魔理沙の父親であった
「どこに行く気だ、早くあの二人から離れるんだ。巻き込まれるぞ」
魅魔が魔理沙にかけた変身の魔法で、どうやら魔理沙だとは気付いていないらしい
爆風の衝撃のお陰で、なんとか下半身にも力が入るようになった
魔理沙が二人の戦いに向かおうとしているのを見て、それを止めに入ったのだ
「うるせえ、アンタには関係ないだろう」
反射的に、魔理沙は父親に逆らった
魔理沙の中には、父親の言葉に自動的に反発する心がべっとりとこびりついているのだ
「馬鹿をいうな…。君はまだ幼いのだ…。どんな経緯があってあの悪霊と行動を共にしているのかは知らんが、このままでは君も大変な事になる
いま、あの悪霊は霊夢に意識が向いている。逃げるなら今しかない
すぐに、あの悪霊は狂っているとしか思えない。今のウチに手を切って、逃げ出すんだ」
父が言う事も尤もだった。もはや魅魔は完全に異常だ
復讐と云う妄執にとり付かれ、破壊活動を繰り返す悪魔と化している
あんなものと付き合っていては、命がいくつあっても足りない
「いいか、これは君の為なんだ。きっとよくない事が起こる
あんな悪霊とは付き合わない方がいい」
「ふざけるな、アンタに指図される謂われはないぜ!
私の人生は、私が決めるんだ―――!!」
「私の言う事が聞けないのか―――!!」
「―――!!」
………魔理沙が言い返した瞬間、父は声を荒げて魔理沙を叱った
その瞬間、魔理沙の心に、あの日の記憶が蘇る…
父親と大喧嘩して、家を飛び出したあの日…
あの日も同じように、自分の勝手な考えを押し付ける父親に反発し、そして、怒鳴り散らされた…
「いいか、あの悪霊は異常だ。復讐の心に、身体の髄まで浸かってしまっているんだ
君もあんな風になりたいのか。意味の無い破壊活動を繰り返して、意味もなく大勢の命を奪って生きて行きたいのか!
君にだって両親はいるはずだろう、それが、そんな生き方を望むと思っているのか!
君があの悪霊の元に走っても、あの悪霊は君の事なんて、これっぱかしも考えちゃいないぞ!
自分と同じように、ただ力と破壊だけを求めるように教えていくだけだ
あんな悪霊はほっといて、君は元の世界にもどるんだ!」
魔理沙の脳裏に、あの大喧嘩をした日から今日までの光景がフィードバックされていく
最初は、魔理沙はただ怖れ、危うく殺されかけそうになった
弟子となってからも、鬼のように厳しい修行を受けさせられた
散々痛めつけられ、死ぬような思いもした…
しかし………
魅魔は自分にとって、最後の希望だった
魔法使いとして生きる道を示してくれた、ただ一人の師匠…
この数ヶ月間の魅魔との生活…
それが、魔法使いとしての魔理沙の全てなのだ
魔理沙の心に、魅魔の顔が蘇った
「うるせえ…!!。魅魔様の事を何も知らないくせに、勝手な事を言うんじゃねえ…!
魅魔様は、アンタが思ってるような狂った悪霊じゃねえ…!!
魔族の誇りと、偉大な叡智を持った魔術師だ…
誰もが距離を置いてしまうから、誰も魅魔様の心を知らないだけだ
アンタがなんといっても、私は魅魔様の所へ行くぜ…!!」
そういうと、魔理沙は父の手を振りほどき、魅魔へ向かって飛び出した
「馬鹿な…」
父はその場に立ち尽くした
何故、あの娘は、あの悪霊についていくのか…
まるで理解できない
まるで、全てが夢の中の出来事のように思えた
彼にはただ、それを黙って見つめる事しかできなかった
「私はアンタとは違う…!。違う…!」
魅魔の言葉を振り払うかのように、霊夢は魅魔に突っ込んでいく
「どこが違う…!」
しかし、闇雲に突っ込んだ霊夢は、簡単に魅魔に弾き返されてしまう
急激に上がった霊力に、未成熟な霊夢の身体がついていけていない
まるで暴れ馬にでも乗っているかのようで、コントロールが効かない
おまけに、膨大な霊力を修めるには、まだ霊夢の身体は幼すぎる
制御できたとしても、その力を使えば霊夢の肉体もタダではすまない
それほどまでに、『博麗の力』の真の力とは凄まじいものなのか
「さあ、立て。大して効いていないはずだ
私を憎め、私を殺したいと言え、それがお前の力の源だ
悔しかろう、恨めしかろう、お前は私と同じ境地に立とうとしているのだ
お前は私と同じだ、地獄の業火に焼かれ、復讐に燃える鬼だ…!
さあ、見せてみろ…!。貴様の力を…!!」
太陽が閉ざされた闇の世界に、魅魔の声が高らかに響く
あくまでも、霊夢を自分と同じ復讐の暗黒面に引き込もうとしているのか…
「私はアンタとは違う…。私は…」
霊夢は只管に魅魔の言葉を否定する…
もしも、霊夢が怒りのままに力を解放するなら、それは、魅魔と同じく只の復讐鬼になってしまう…
そうじゃない…。霊夢は探している…
魅魔とは違う、強くなる理由を…
復讐の為でなく、力を解放する為の理由を…
「ふん、ここまで来て、まだ力を解放する為の理由を探しているのかい?
まったく、どこまでも手間の掛かる娘だねえ…」
またも、魅魔は霊夢の心を見透かした
霊夢はまだ迷っている
博麗の真の力に目覚めながら、その力を解放する事に迷っている
「どうやら…、『人間の里』を破壊しただけじゃ不足のようだね…
もう面倒だ…。この幻想郷ごと、破壊してやろうか…?」
そういうと、魅魔は全身の魔力を開放し、それを両手に集め始めた…
「私の『爆力魔波』は、私の高めた魔力を凝縮して放つ最大の奥義…
私が全身の魔力を集めれば、幻想郷如きを滅ぼすのは容易いこと」
魅魔を取り巻くドス黒い魔力のオーラが、魅魔の両手に集まっていく
これは、先ほど霊夢が放った一撃よりも、はるかにデカイ…!?
本気で、幻想郷を破壊する気なのか…!!
「やめなさい…!」
霊夢が魅魔に突っ込んでいく
しかし、魅魔は霊夢が拳を放った瞬間、姿を消した
「ぐッ………!?。どこに消えたの…」
霊夢が周囲を見渡すが、どこにも見当たらない
霊夢が西の空を向いたとき、陽の光が霊夢の目を差した…
「馬鹿な………!?。それは、ありえない………!」
霊夢の直感が、すぐにそれを知らせた
いま、幻想郷の空は、霊夢が放った一撃が巻き起こした粉塵で覆われて陽の光は遮られている
それに、まだ陽が西に傾くには時間が早すぎる
(な、なんなの…、あれは…)
その存在に気付いたアリスが、まるで金縛りにでもあったように硬直してしまった
西の方角に、燦然と輝くその光…
だが、それは、太陽の光ではなかった…
「ククク…、何を驚いているんだい?」
そこには、太陽と見紛うばかりに巨大な光の玉を掲げた魅魔の姿があった
いくら魅魔の魔力が膨大とはいえ、太陽の光と錯覚してしまうほどの光球を作り出すとは
「言ったはずだよ、私がその気になれば、幻想郷を破壊する事など容易いことだとね…」
その、あまりに巨大すぎる光の玉を掲げ、魅魔が嗤う
こんな物をぶっ放されれば、いくら霊夢とて跳ね返せない
(馬鹿な、あんなもの、本気で撃つ気なの…?)
その、常識も桁も外れた巨大すぎる魔力の塊に、アリスは感覚のない幽体でありながら身体の髄が凍りつくような寒気を覚えた
さきほど、霊夢に撃たせたものだって、十分すぎるほどにデカイものだった
その数倍はあるかという魔力の塊…
雲の流れが異常に早くなり、空が歪んで見える
あまりの力の強さに、空間にひずみが生じてきている
こんなものを撃ったら、地球ごと木っ端微塵になっても可笑しくない
(魅魔様………)
魔理沙は、その状況をただ見守っていた
古ぼけていた記憶が、徐々に鮮明になってきた
あの時、魔理沙は見ていたのだ、この光景を…
それなのに、今までそれを思い出そうとはしていなかった
自分の中に閉じ込めて、カギをかけていたのだ…
「さあ、どうするんだい?。また、自分の育った場所を失うかい?
言っておくが、私は幻想郷を滅ぼすのになんの躊躇も無い
止めたかったら、私を殺すしかないんだよ
私を恨んで、憎んで、復讐に心を燃やすんだ
怒りのままに力を解放しな、簡単な事さ、それで全てを忘れられる
さあ、あと十秒だけ待ってやる…
さっさと決めな………」
「うう………」
魅魔の言葉が、霊夢の心に突き刺さる
もはや、躊躇っている時間はない…
だが、ここで怒り任せに力を解放すれば、霊夢自身も復讐の泥沼に引きずり込まれてしまう…
「10…9…8…」
魅魔のカウントダウンが、無情にも過ぎていく…
もはや、どうしようもないのか…
霊夢も魅魔と同じように、復讐と云う修羅の道に入り込むしかないのか…
「6…5…4…」
何故だろう、魅魔を憎む気持ちがありながら、どうしても霊夢は魅魔を憎み切れないでいる
自分に人間の里を崩壊させ、今、さらに幻想郷さえも破壊しようとしている相手でいながら…
それでも、何かが霊夢の心にブレーキをかけている
復讐の鬼と化した魅魔の心から、霊夢もまた、何かを感じ取ろうとしている…
「3…2…1…」
しかし、もはや迷っている時間はない
魅魔を止めるには、このまま力を解放するしかない
幻想郷そのものを破壊させる訳にはいかない
霊夢が復讐と云う煉獄の苦しみを味わったとしても、幻想郷を護るにはそれしかない
「0………」
カウントダウンが止まった瞬間、魅魔がその魔力を撃ち放つ
もう時間がない、霊夢が、一気に霊気を開放しようとした…
その瞬間―――!?
「待ってくれ―――!?」
二人の間の空間に、一人の少女が割り込んだ
紫のローブに赤い髪、尖った耳に八重歯が覘く…
そこに割り込んできたのは、幼い魔理沙だった
「もう、やめてくれ…魅魔様…」
先ほどまで、魅魔の力に恐怖し、震えるだけだった魔理沙が、毅然と魅魔を止めようとしている
「そこをどきな、これはアタシの復讐だよ。邪魔をするんなら、アンタでも容赦はしないよ」
魅魔が冷酷な目つきで、魔理沙を突き放す
魅魔は本気だ…
いびつに歪んだ殺気が、それを知らせている
「もう十分だろう。人間の里を破壊されて、霊夢は本当は立ち直れないほどのショックを受けたんだ…
復讐と迷いとの葛藤で、肉体の傷み以上の苦しみを味わったんだ
もういいだろう、馬鹿な復讐なんてもう終わりだ
二人で帰ろう、あの魔法の森の家へ…」
魔理沙が、魅魔から放たれる冷たく刺す様な殺気にも気おされずに言った
その瞬間、魅魔の表情にはっきりとした怒りが現れた
「所詮、アンタも人間だねえ…。あれほど言っていたのに、最後には私を裏切るつもりかい…?」
あの天狗の新聞で霊夢が『博麗の巫女』になることを知ってから、魅魔は何度も魔理沙に確かめた
魔理沙は、悩みながらも魅魔についていく道を選んだのだ…
それを、ここに来て裏切ろうというのなら、それは魅魔の怒りを買って当然だ
「違う…!。私は魅魔様を裏切ったりしない…!
私は………!!」
「ならば何故…!。私の復讐の邪魔をするんだ………!!」
魔理沙の言葉を、魅魔の怒号が遮った…
明らかな、はっきりとした怒りが、魅魔を包んでいる
いや、これは違う…
これは、怒りではない…
いま、魅魔を包んでいるのは、怒りじゃない…
これは…悲しみ…?
「もう、自分に嘘を吐くのはやめようぜ…」
手に持っていた蔓を握り締め、幼い魔理沙が呟いた
(嘘…?。魔理沙、これはどういう…?)
状況を見つめていたアリスが、魔理沙に尋ねる
しかし、そこから先は聞けなかった…
状況を見守っていた魔理沙は、とても厳しい表情になっていた
魔理沙は思い出している。あの時の状況を…はっきりと…
「もう復讐なんて嘘を吐くのはやめろよ
本当は、復讐なんてどうでも良くなってるんだろ…
ただ、自分の中の遣り切れない気持ちをどうしていいか分からないから、復讐だと偽って戦ってるんだろ
もう、復讐したい相手の顔も思い出せないんじゃないのか
もうやめてくれ…。魅魔様は、誇り高い魔族なんだろう…
本当に、一番苦しんで来たのは、あんたじゃないか…
霊夢の力に固執するのも、霊夢に自分と同じような苦しみを与えているのも、『自分と同じ境遇』の存在が欲しかったからなんだろう…」
幼い魔理沙が、自分の心の裡をぶちまけた
「アンタ………」
霊夢が、二人の間に割り込んできた魔理沙を見つめる
ようやく、霊夢も気付いた…
霊夢が感じていた迷いの正体…
それは、魅魔自身の悲しみだった
「人に裏切られて、どうしようもなくやるせなくなって、それをどうしていいのか分からなくて…
アンタはずっと悩んで、苦しんで来たんだろう…
もういいじゃないか…。自分を許してやっても…
これ以上、苦しんでる魅魔様を見たくないぜ…」
自分が護ってきた人間に裏切られ、復讐の為に悪霊として転生した時、すでに彼女を裏切った人間も国もなくなっていた
まるで、自分自身の中にぽっかりと穴が空いたように、魅魔の心は空虚なスキマに押しつぶされそうになった
どうしようもなくなった彼女は、それを全人類への復讐という偽りの心で埋めていた
力を求め、無意味に命を奪っていくたびに、彼女の心は焼かれ爛れ、苦しみに悶えていった
焦がれ、乱れる心を静めるために、さらに新たに力を欲し、その度に命を奪っていく…
出口の見えない、苦しみの螺旋階段を、ただ只管昇る事で誤魔化していた
「煩瑣い…!。聞いた風な口を叩くな…!
私が自分を誤魔化して生きて来ただと、人間風情に私の心が分かってたまるか…!
私は悪霊だ…!、復讐を糧に怨讐によって存在する悪識者だ…!
私は、悪霊の魔術師だ
復讐こそが私の存在意義、復習のみが私の心だ…!
さっさと去ね…!。たとえ弟子のアンタでも、私の邪魔をするなら死んでもらうよ…!」
魔理沙の言葉に、魅魔が乱れている
威厳も何もない、感情だけの言葉で魔理沙を脅している
だが、もはやそれは魔理沙には通用しない
魔理沙には分かってしまったのだ…
魅魔がこれまでに背負ってきた悲しみも、その苦しみを…
「………」
霊夢はどうしていいのか分からなくなった
霊夢も知ってしまったのだ。魅魔の心を…
あの悪霊が、ずっと心の奥に仕舞い込み、隠し続けてきた心の秘密を知ってしまったのだ
もはや、あの悪霊は戦えないだろう…
このまま、あの娘と一緒に、どことなりへと消えていくだろう…
とても長い時間を掛けて、二人でずっと一緒に暮らしていけば、いつかはあの悪霊の心も癒えるに違いない…
そう思った瞬間………
「ええい…!!、このどうしようもない馬鹿弟子が…!!
貴様など、もはや弟子ではない…!。私の前から消え去れ…!!」
「………!!」
(………!!)
身動きするヒマも無かった…
魅魔が放った緑色の光線が、魔理沙の胸を貫き、魔理沙はそのまま地面へ落ちて行った…
一瞬の静寂が、周囲を包んだ
霊夢は、何が起きたのか理解できなかった
なぜ、あの娘が撃たれなければならないのか…
魔理沙の身体は、森の中へ落ちてもはや見えない…
「うあぁぁぁ――――!!!」
その瞬間、霊夢の中で、何かが切れた…!
まるで霊夢の周囲を、乱気流が直撃したかのような激しい風が吹き荒れる
陰陽玉が激しく光、その一つ一つが太陽の数倍とも思えるような輝きを放ち霊夢のまわりを周回し始める
まるで霊夢の身体が太陽を飲み込んだかのように熱く、強烈な光を放つ
なんという強大さ、なんという圧倒的な霊気…!!
霊夢の中の『博麗の力』が、一気に開放された
「どうして…、どうして、あの娘を撃った…!!
あの娘は、あんたの為に、自分の身を挺して入ってきたのに…!!」
霊夢の感情が爆発していた…
それは、怒りでも、悲しみでもない…
ただ、どうしても、魅魔のこの行いだけは許せない
「ふん、愚かな。人間如きが私に知った風な口を叩くからさ…
だが、お陰であんたが真の力を解放してくれたようだね…
だったら、もっと早くやっておくべきだったねえ」
そういって、魅魔が嗤った
「ふざけんじゃないわよ…。自分を想ってくれる人を傷つけて、自分の勝手な妄想で人を傷つけて、それで満足っていうの…!?
あの娘がどんな気持ちで、アンタの心を明かしたと思ってるの…!!
もう、誰もアンタの為に傷つけさせない…!。アンタの腐った性根を叩きなおしてやるわ…!!」
霊夢はキレていた
あの娘の言ったことは、多分、正しかったのだ
ただ、それをどうして良いのか分からなかった
だから、あの悪霊はまた復讐と云う隠れ蓑にすがったのだ
「フ…。できるのかね…?
コイツを受けても…!!」
その瞬間、魅魔は西の上空に溜めていた魔力の塊を一気に放った
まるで、本当に太陽が落ちてくるようにさえ感じる
強大にして強烈な光が、霊夢に迫る
『霊夢奥義・夢想天生』
自らに、その巨大な光球が迫った瞬間、霊夢はその奥義を放った
自らの霊気を最大限に放出し、その光球に突っ込んでいく
霊夢の全身を包む膨大な霊気が、光球を押し戻し、霊夢の身体がその光球に食い込んでいく
「何―――!?」
次の瞬間、まるでシャボン玉が消し飛ぶように、その巨大な光球が弾けて消えた
弾け跳んだ光球の破片が、まるで流星のシャワーのようにそこら中に散らばっていく
その光のシャワーの中を、霊夢は魅魔を目掛けて一直線に突っ込んだ
「ぐぅッ―――!!」
霊夢の拳が、魅魔のどてっ腹をえぐる
その動きは、魅魔の目を持ってしても、拳はおろか身体のこなしさえ見えなかった
「ぬぅッ―――!1」
しかし、それでも魅魔は倒れない
霊夢の右の顔面に、魅魔の拳がめり込…まない…!
「クッ………!?」
しかし、魅魔の拳が完全に顔面を捉えたというのに、霊夢はまったくダメージを受けていない
「ハァ―――!!」
霊夢の満力を込めたアッパーカットが、魅魔のジョーの先端を捉えた
魅魔の身体が、まるでバネ仕掛けの飛び出す玩具のように勢い良く飛び出す
その勢いは、対流圏では全く衰えず、慌てて体勢を立て直した頃には成層圏まで魅魔は吹き飛ばされていた
「ぐ、ぐぐぅ………。おのれぇ―――!?」
逆上した魅魔が、霊夢に向かって急降下していく
迎え撃つ霊夢と、魅魔の拳が交差する
「何―――!?」
魅魔の渾身の拳が、霊夢を捉えたかに見えた
しかし、魅魔の拳には手ごたえが伝わって来ない
逆に、霊夢の拳がカウンターとなり魅魔の顔面を捉えた
「うぅ………」
たった三発、霊夢の拳がヒットしただけだというのに、魅魔は大きなダメージを受けている
霊夢の攻撃力が異常に上がっている
それに加え、どういうわけか魅魔の攻撃が全く霊夢に通用しない
まるで、霊夢の身体が実体のない幻にでもなったかのように、攻撃が当てられない
「『夢想天生』は博麗の巫女の究極奥義よ…。貴方には私の姿が見えているでしょうが、この技を発動している限り、貴方は私に触れ事は一切できない
もう終わりよ…!!」
「………!?」
これが霊夢の究極奥義…
実体を空に消し去り、敵の攻撃を無効化し一撃を加える…
絶対無敵の最強奥義…
完全に無意識の内に放っている技であり、歴代の巫女の中でも体得出来た者はいないとされる博麗の巫女の究極奥義…
「馬鹿な…。アンタみたいな小娘が、今まで誰も体得できなかった究極奥義を習得するなど…」
魅魔が狼狽する…
博麗神社を調べた時に、その奥義の存在は聞いていた
しかし、これまでに体得した者は皆無である上、この技は自ら意識して放つことのできる技ではない…
自らの実体を空と化し、無意識のうちに放つ技ゆえに、この技を放つものは、この技を技として認識することができない…
「慥かに、今までの私ならこの奥義を使いこなす事はできなかったでしょう…
でもね、あなたは、あの娘を撃った…
あの娘は、本当にあんたの事を思って、私達の間に入ってきた…
復讐の業火にその身を焼かれているあんたを、救い出そうとした…
それなのに…」
霊夢の表情に、怒りは無かった…
どこまでも穏やかで、静かで、そして悲しそうだった…
「あの娘の『悲しみ』が、この拳に宿った…
あの娘の『悲しみ』が、私の中の『博麗の力』を引き出したのよ」
霊夢の全身から、膨大な霊気が溢れ出す
それは、荒々しい戦いの気ではなく、穏やかで暖かい木漏れ日のような霊気だった
自らの心の闇を、偽りの復讐の心で塗り固め、復讐の業火に焼かれる魅魔を救おうとした魔理沙
魔理沙は魅魔を救おうとしたが、魅魔の心の闇は深く、反対に魅魔に撃たれてしまった…
その魔理沙の『悲しみ』が、霊夢に乗り移った
魔理沙の『悲しみ』が、霊夢の中に眠る『博麗の力』を引き出したのだ
「これが、あなたに裏切られたあの娘の『悲しみ』よ―――!?」
霊夢が一気に魅魔との間合いを詰める
その動き、身体のこなしは、魅魔の目にも見切れない
かわす事もできぬまま、霊夢も拳が魅魔の顔面を捉える
「ぐ………」
霊夢の拳が、魅魔の顔を、腕を、腹を撃つ
魅魔はその攻撃をかわす事もできず、反撃しようにも、全ての攻撃はまるで霞か雲でも相手にしているかのようにすり抜けてしまう
魅魔は、全く霊夢に手も足もでなくなってしまった
「あんたが感じている痛みは、あの娘が味わった痛みよ…
あんたには、あの娘の苦しみが分かるの…?
自分の信じていたものに裏切られた者の苦しみが理解できるの…?」
魅魔を滅多打ちにしながら、霊夢が言った
(魔理沙………)
霊夢に打たれながら、魅魔の心の中に魔理沙の顔が浮かんでくる…
あの日、博麗神社を襲った夜。神主の姦計に嵌って瀕死の重傷を負った魅魔…
あの時、魔理沙を殺さなかったのは、ただ魔理沙自身も魔法の力が使えるという理由だけだった
助ける気などなかった…。魔理沙の傷を癒したのも、ほんの気まぐれだった…
押しかけ同然に自分に弟子入りして来た魔理沙を、最初は鬱陶しくも思っていた
キツい修行をさせて、根を上げさせれば、その内逃げ出すだろうと思っていた
しかし、魔理沙は逃げ出さなかった。魅魔の厳しい修行にも耐え、メキメキと実力をつけてきた…
(私は、子犬みたいに自分にじゃれ付こうとするアイツを面倒だと思っていたんじゃないのか…
私がどんなにつっけんどんに接しても、アイツは私から離れようとしなかった…
仕舞いには、人間の里を捨てて私と一緒に博麗神社を襲うおうとさえした…)
どれほど魅魔の修行が辛く、厳しくとも、魔理沙は魅魔から離れようとはしなかった
それは、ただ人間の里に戻るのがイヤだとか、父親の顔を見たくないとか、そういうものではなかった
本当に、魔理沙は心から魅魔を尊敬し、魅魔の事を信じているから…
だから、魔理沙はどんな辛い修行でも耐えられた
だから、どんなに厳しい修行でも、乗り越える事が出来た…
(私は、アイツを殺そうと思えば、いつでも殺せた
あの陰気な助平男に引き渡そうと思えば、いつでもそうできたじゃないか…)
霖之助が魔理沙を連れ戻そうとした時、魅魔は頑として渡さなかった
魔理沙は自分の意思でここにいるのだと、何度も霖之助に言い聞かせた
弱っちいくせに、何度もしつこく魔理沙を取り戻そうとする霖之助に心を乱された…
魅魔は、自分でも気付かない内に不安になっていたのだ
魔理沙がいつか自分の元を離れ、自分の住んでいた世界に戻ってしまうのではないかと…
魅魔は、それを怖れていたのだ…
「う、うう………」
神社付近の森に墜落していた魔理沙が呻きながら立ち上がる
慥かに、魔理沙はあの時、魅魔に胸を撃たれて墜落したはず
普通なら、すでに死んでいてもおかしくはない
「こ、これは…」
魔理沙が胸元を探ると、八卦炉がゴロリ…と転がってきた
これが、魅魔の攻撃から魔理沙を救ったのか…
これで、この八卦炉は、都合二回、魔理沙の命を救った事になる
「魅魔様…」
魔理沙が空を見上げる
そこでは、見た事もないほど大きな霊気を纏った霊夢が、魅魔を滅多打ちにしていた
霊夢の奥義の前に、魅魔は成す術もなくただ打たれているだけだった
まるで、魂が抜けてしまったかのように…
「なんなんだ、あの霊夢の力は…。それに、どうして魅魔様はなにもせずに打たれ続けてるんだ」
魔理沙には分からない。自分が魅魔に撃たれたことによって、霊夢が『博麗の力』に完全に目覚めてしまった事に
博麗の巫女の最終奥義『夢想天生』の前に、反撃する事もできずに打たれ続けている事に…
ただ、魔理沙の目の前で、魅魔は成す術もなく打たれ続けている
あの最強の魔術師たる魅魔が…、どんな不可能も可能にし、天変地異も震天動地も自由自在に操る魅魔が…
「そんなことがあってたまるか―――!?」
魔理沙は無我夢中で飛び出した
魅魔に撃たれた事など、すっかり忘れていた
魅魔は魔理沙に教えた。魔法の力は、どんな敵でも打ち砕く最強の力だと…
魔法使いなら、どんな困難だって自分の力で打ち砕くのだと…
その魅魔が、成す術もなくこのままやられていいはずがない―――!!
魔理沙は再び二人に向かって飛び出した
「う、うぅ………」
霊夢に散々打たれ、魅魔の身体は満身創痍となっていた
霊夢の究極奥義『夢想天生』の前に、全く歯が立たない状況だった
まるで糸が切れた人形のように、霊夢に胸倉を掴まれても外す事もできなかった
「少しは、あの娘の心の傷みが分かったかしら…?
でも、これが最後よ…。綺麗さっぱり消滅して、あの世であの娘に詫びる事ね…」
そういうと、霊夢は魅魔の身体を大きく天に向かって放り投げた
空中に放り出した魅魔に向け、霊夢はその究極の『博麗の力』を凝縮し始める
陰陽球が光を放ち、霊夢の指先に集中していく
これまで、二人が放ってきたどんな力よりも強力で巨大な光が、霊夢の指先に集まっていく
こんなものを喰らえば、いかな魅魔といえど消滅は免れない
これが、最後の決着になるのか…
「終わりよ―――!!」
霊夢の指先に、恐ろしく巨大な光の玉が出来上がっている
もはや、これまで………!?
「待て―――!!」
………と、思った瞬間、霊夢は背後から羽交い絞めにされた
何者かが、霊夢を後ろから止めていた
「あなたは―――!?」
霊夢はその存在に気付き、愕然とした
そこにいたのは、魅魔に撃ち落されたはずの、あの少女なのだ―――!!
「お馬鹿!、何をやってるんだい!!
さっさと離れな!」
いち早くそれに気付いた魅魔が、魔理沙に向かって叫ぶ
魔理沙の力では、今の霊夢には到底敵わない
「イヤだ…!!。ここで離したら魅魔様がやられちまうじゃないか…!!
魅魔様は、最強の魔術師なんだ。霊夢になんか負けるもんか…!!
このまま私ごと撃ってくれ…!
魅魔様は負けちゃいけないんだ―――!!」
魔理沙の全身を、燃える様な真っ赤な魔力が包んでいる
八卦炉で増幅させた自分の魔力を、もう一度自分自身に取り込んでいるのか…
しかし、『夢想天生』を使っている霊夢の動きを止めるには、それこそ無限に近い力が必要になる
魔理沙の力では、いくらも止められないはずである
「く…、この!。離しなさい…!」
霊夢が魔理沙を振りほどこうとするが、それでも魔理沙は離さなかった
いくら八卦炉で魔力を増幅させているとはいえ、どうしてこれほど耐えられるのか…
「馬鹿、もう離れるんだ。お前の力でどうにかなる相手じゃない!
私にかまうんじゃない!。逃げろ―――!!」
魅魔が魔理沙に向かって叫ぶ
だが、それでも魔理沙は離れない
最強の魔術師である魅魔は、誰にも負けない
そのためには、魔理沙は自分が魅魔に撃たれてもいいと考えていた
「イヤだ、絶対に離すもんか…!!」
魔理沙は意地でも霊夢を離さなかった
二人とも、自分自身の身だって危ういというのに、相手の為に一歩も引かなかった
「全く、この馬鹿師弟は…」
霊夢は呆れてしまった
結局、この二人はこういう形で落ち着いてしまった
初めから、こうなる事が決まっていたかのように…
この娘の為に、究極奥義にまで目覚めたのが馬鹿らしく思えてきた
「これ以上、あんたらに付き合いきれないわ…
本気でやらせてもらうわよ…。魔理沙―――!?」
「―――!?」
その瞬間、霊夢は魔理沙の名を叫び、魔理沙のどてッ腹に深い肘鉄を入れた
霊夢は、当に気付いていたのだ…。この娘の正体が魔理沙であることを…
「馬鹿な…。魔理沙だと…」
それを聞いた魔理沙の父は呆然とした
魅魔の魔法で姿を変えられた自分の娘に、全く気付かなかった…
それ以前に、自分の娘が、本当に自分たちの住む世界とは全く違う世界に行ってしまったことがショックだった
霊夢の肘鉄を食らった魔理沙が吹っ飛び、神社の境内に真っ逆さまに落ちていく
まるで流れ星が地面に落ちたかのように、魔理沙の身体は神社の境内に突っ込んだ
「イテテ…、くそ…、霊夢め…!」
全身を強か打った魔理沙…
ふと気付くと、魔理沙の周囲には、青々とした榊や供え物の神酒、玉串などが散乱している
どうやら、魔理沙は祭壇に直撃したようだった
ピキ………!!
…ふと、乾いた音が周囲に響いた
魔理沙が視線を落とすと、そこには一枚の鏡が落ちていた
中央に、魔理沙が突っ込んだ衝撃で割れたのであろう、大きな亀裂が入っている
その鏡こそ、博麗神社の御神体であり、かつて龍神が暗黒龍を封印したという鏡であった
「なんだ…?」
魔理沙が訝しげに、その鏡を見つめる
中央に入っていた亀裂は、どんどんと大きくなり、まるで内側から何者かが打ち破ろうとしているかのようにヒビが増えていっている
同時に、亀裂の隙間から微かに光が漏れ始め、その光が吸い寄せるかのように黒い雲が天を覆い、ぬるく生臭い風が吹き始めた
「なんだ、これは…?」
魅魔も周囲の様子が変わっている事に気付いた
鏡から放たれる光が強くなり、禍々しい妖気が漏れ出してきている
「ま、まさか………。これが、伝説の…ッ!!」
霊夢は思い出した。先代の神主が霊夢に告げた、幻想郷の創世に関わる伝説
今では、博麗神社を祀る者にだけ伝えられる、封印されし禍々しき妖怪の伝説
その瞬間―――!!。天から一筋の雷か鏡に向かって落ちた
鏡は粉々に砕け散り、それと同時に、今まで誰も見た事もないような禍々しい妖気が溢れ天に昇って行く
激しい暴風と稲妻が周囲に襲い掛かる
禍々しい黒雲の切れ間に、黒い鱗に覆われた巨大な生物の姿が見えた…
(な、なんなんだよ、こりゃあ…)
(ば、化け物………)
その様子をじっと見つめていたアリスと魔理沙が、その場で腰を抜かす
黒い鱗に覆われた長い胴体、二本の長い角と髭、黒く硬そうな鬣に覆われ、強大な牙と爪を持つ…
その身の丈は千尺ほどはあろうかとも思える巨体に、邪悪でどす黒い瘴気に包まれた龍…
伝説の邪龍・暗黒龍が復活した
新手の釣りでしょうか?
これは命令だ
このシリーズ、地味に更新待ってたりします。完結まで頑張って下さい。
空恐ろしいわ
面白かったです 体調に気をつけて下さいね
次作にも期待
もう少しコメント見て考えてほしい
好評の意味を知っているのでしょうかw
こんな痛いことを、いい大人が書いてると思うと大変見苦しいです。
途中まで霊力使ったり魔法使ったり、そこそこファンタジーなバトルを繰り広げておったのに
霊夢が究極奥義「夢想天生」を繰り広げた瞬間泥臭さマックスの殴りオンリーになって吹いた。
あれか、巫女棒で突っついたりお札飛ばすより、最後はパンチ入れた方が強いってのか
しかもついさっき龍神の力を手にしたばかりの幼い女の子だったはずだってのに迷うことなく
腹と顎と顔を殴りに行く所とか霊夢さんマジ稀代の巫女。博麗の巫女の幻想郷信頼度は桁が違いすぎた。
「苦しみが理解できるの?」
とか言いながら滅多打ちにするとか、挙句の果てにその滅多打ちのせいで満身創痍の魅魔さまの胸倉つかみあげるとか
後ろから魔理沙に羽交い締めにされても肘鉄ぶちこんで回避するとか戦い方までセメントすぎる。
伝説の邪龍・暗黒龍とやらが復活するらしいが、これだけ強い霊夢さんが居ると
不安も何も全く感じないし、あっさり龍の胸倉をつかみあげて
顔面と顎とどてっ腹にパンチを打ち込んで撃破する絵面しか想像できないから困る
不思議です
これからも頑張ってくださいね
自分は好きですよ、こういうの