Coolier - 新生・東方創想話

老いては子に従がわず『序夜』

2011/05/19 17:08:47
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CAUTION!

この作品は東方プロジェクトの二次創作小説です

さらに、激しいオリジナル要素や表現のねつ造、
さらにはキャラの崩壊がふくまれております!

これを見て危機感を覚えたひとはもどるをくりっく!


******************************








それは、ある日突然に、そして当然のごとくやってくる。
自分の放った一閃は、あろうことか幼く、まだ未熟な孫娘に危うく、あるいはたやすくあしらわれてしまった。

「・・・・」
「・・・あ・・・・」

孫娘の嬉々とした顔が目の前で揺れていた。
それ自体は、善い。 孫の心の、幸福自体は何にも代え難い。


そうだ、とうとうこの日がやってきていたのだ。


弟子が師匠を超える日がやってきていたのだ。




**********************************

『老いては子に従がわず 『序夜』』









「やったああああああああ!!」
妖夢がこの日一番の快声、というか雄叫びを上げた。

「あら・・まぁ」
幽々子は今突如、目の前で起きたことを理解できなかった。
彼女も、妖忌、妖夢の剣術を目の当たりにしてきたから、女の身とはいえ剣術に少しは心当たりはある。

「・・・・」
妖忌は、馬鹿のように大口をあけ自分の切っ先を見つめたまま凝固している。
その目の前でウサギになったかのように、ピョンピョン跳び回るその孫が一匹いた。


幽々子は「たまには、こんな事も在るのねぇ・・・」しみじみと考えた。


彼女の知る妖忌は、完全無欠の間違いない豪傑そのものだった。
彼の間合いに入れば、どんな妖怪だろうが天人だろうがお構いなしに真っ二つにされてしまう。

それが、未熟者の孫一匹、しかも年端のいかない女に一敗食わされたのだ。

「勝ったーッ! お師匠にかったーッッ!!」
「あらあらぁ~、妖夢ったらそんなに嬉しいのねー」
喜びはしゃぐ妖夢を茶化しながらも考えていた。


ああ、妖忌が手加減を誤ったのか・・・


『剣の道に入る以上は、孫でも女でも関係ないわ!』と常々豪語していた剣の達人である妖忌。


しかし、そうは言いながらも、愛しい孫娘には真の芯までは非情になりきれていないことを幽々子は重々承知していたのだ。





そんな爺が孫の柔い手を、 何度も 何度も撃っていたのは今だに記憶に新しい。

痛がって泣き出す幼い孫に、鞭打つかのように『立てィッ!!』と怒鳴る彼の顔。

彼の顔は、彼自身は誰にも、孫にも、自分にも、悟らせはしないと思っていたようだが 辛く 苦しく歪んでいた。


剣の道は、弱ければ死ぬのだといつも口癖のように言っていた。
剣を握った以上は、なんとしても強くなければならない。

それが魂魄家の血統だ。

幻想郷の女の子の遊び、スペルカードの弾幕戦は、命を取られることまではない。




しかし、この西行妖の桜の下では、いつかは命のやり取りをすることになる。


そのときの為に、弱くては死ぬのだ、それでは困るのだ。

自分の因縁に巻き込まれた魂魄家に申し訳ないと心で詫びながらも、彼等の邪魔をしなかったのはなぜだろうか?
幽々子は逡巡するも、何故かは解らなかった。




「待て待てィ!! い、今のナシ! 今のはノーカンじゃあ!!」
「やです! 今のは間違いなく一本です! 今のは私の勝ちですから!」



ぶーたれた子供のように駄々をこねながら、孫娘の後ろを色々と弁明しながらついて回る爺、
それを嫌々と勝ち誇る孫が居る。




この、馬鹿げた茶番を見る限りでは、今は悪い時代じゃない。



そう結論して、またバカバカしい日常に戻っていく。

「幽々子様! 今の見てましたよね!? 私の小手が鮮やかに吸い込まれていくのを!」
「違うわい! 今のは、鍔に当たったんじゃ!」

実は幽々子には、自分ほどの実力を持ってしても判断の付かない彼等の素早い剣の勝負はまるっきり分からない。
しかしながら、どうも彼等の中では優劣はしっかり分かっているようなので、あえてこういってやった。

「ええ、妖夢の勝ちね~、妖忌も大分お爺ちゃんになったのね?」
「やたああああ!!」
「なにぃぃぃいいい!?」

その場で、地団駄を踏んで年甲斐もなく悔しがる爺、いつまでも男はガキのままなのかもしれない。


「妖夢! もう一回じゃい! あんまり調子にのるでない! お前などけちょんけちょんにしてやるからの!」
「ええどうぞ! そろそろ隠居間近のお師匠様に引導を渡して差し上げますよ!」

さっとまた間合いを開けてお互いに剣を納める。






まぁ、次は妖忌が先に妖夢の土手っ腹にたたき込んでしまうだろう








幽々子は次の勝敗を瞬時に予想した。

幽々子は剣の勝負が膂力の勝負であることを理解していた。


いくら修行を積んでいるとはいえ、腕の細い妖夢が太刀筋の速度で男の妖忌に敵うはずがない。

そして、それが最も望ましい結末でもある
妖夢が妖忌を超えるのはもう少しあとでいい


どかっ!


幽々子の裾になにか大きな物体がなだれ込んできた。
「ふおおおぉおお・・・・」

白髪の爺である。
「・・・・・」

いつかはあこがれ、恋い焦がれた、剣鬼が無様にのたうち回っていた。


「おごろろろぉぉおおお・・・」
「うっしゃあああああああああああ!!」

額に汗をじわりと、そして隙間無く貼り付ける真っ青な妖忌。
それを尻目に、「あたぁ!」と気迫をみなぎらせる女剣士。


「も、もう一本じゃあ!」
「望むところ!」

どかっ!




「ま、まだまだぁ!」
「その意気や良し!」

ばきぃ!!





「も、もういっぽんじゃあぁ!!」
「は、はい!」

ごす!





・・・・あれ?





「こ、今度こそ!」
「あ、あの? 師匠・・・? もうおやめになったほうが・・・・」

たんこぶが出来、鼻血が容赦なく自慢の庭の白磁の砂を汚していた。
瞼が腫れたのか、妖忌は最早満足に前が見えていない様に思える。
少なくとも、妖夢はおろか、傍目に見ていた幽々子も最早勝負にならないことは解った。


「ぶるぁあああぁ・・・・」
「・・・・えい!」



よたよたと、生まれたての鹿のように、おぼつかないあんよで歩み寄ってきた祖父を妖夢は、木刀でしたたかに打ち付けた。






無様に面を(早くて全く見えないが)喰らった妖忌はその場で昏倒しぶっ倒れた。


「・・・・」
「・・・・妖夢、ほんとに強くなったのねぇ・・・・」

幽々子は、心底しみじみと納得したように呟いた。

***********************************


久しぶりに帰った妖忌は、庭で剣の稽古をしている愛孫を見かけた。
彼は、長い旅の途中で、孫の成長を見届けに来たのだ。
そして、出来ることなら、最後に自分が与え損なったものを弟子に与えにやってきたのだ。


永い時間、それが彼自身に与えたもの、それは何とも、無慈悲であまりに必然的なものだった。





老いだ






妖夢には、実は妖忌が旅立ったその日に、全ての技量を与えていたつもりでいた。

だから、心おきなく旅立ったのだ。



老いた自分は、最早戦場からは去らなくてはいけない、老兵は死なずして唯去るのみ。
彼一流の思想でもあり、ケジメだった。



自分の主人には『修行のため』などと銘打ってはいたが、膂力が衰え、視界も歪み、 思考が昔のように思いのままに行かなくならなくなり、 爺になった自分は最早修行などそれほどの意味もない、そう思っていた。



だから、全てを弟子に任せて館を離れたのだ。





どこか、知らぬところで人知れず朽ちればいい。



それが、最も良い結末だ。





弟子の中では、師は永遠に超えられない壁でなくてはいけない
もし、自分が身内の知らぬうちに、妖夢に知らぬうちに死ねば、師は弟子の中で永遠に、



超えられぬ幻想として



永遠の研鑽に続いていく。




少なくとも、自分の師は、祖父や、父はそうやって、どこかで朽ちたのだ。
そして、いまでも永遠の壁として、尊敬の対象としてこの心に刻み付いている。



だが、妖忌は旅の途中で気付いてしまった。
自分が、あの愛しい孫に 一番弟子にまだ教えていないものが在ったことにおくばせながらも気付いたのだ。


本当に大切なものを伝えられていない



連綿と受け継がれていたはずの魂を自分は次の世代に伝えられていない



とてつもなく大切なことで、それでいて、言葉では全く伝えられそうにない感覚を伝え損ねていた・・・







いつか暮らした、あのときと一寸も違わない庭で、剣を工夫する愛孫を見つけた。

一目見て、理解できるほどの孫の著しい成長ぶり
歓喜と懐かしさに震え、 もはや満足に動かない四肢を奮い起こして剣を握った。



できることならば、今一度、弟子に残した想いを伝えたい・・・!














それは、とうとう叶わなかった・・・・











****************************


場所は変わって、竹林のど真ん中。



「まぁそんなわけで・・・」
「で、ムキになってこのお爺ちゃんが倒れちゃったと・・・・」
永琳がため息混じりに、気を失っている爺の頭に軟膏を塗りたくっている。

辺りではイナバとてゐが甲斐甲斐しく動き回る。

幽々子と妖夢が妖忌を担ぎ込んだ先はご多分に漏れず永遠亭。
白玉楼にも薬のたぐいは置いてあるが、高齢の怪我ということで大事をとって病院に担ぎ込んだと言うことである。

「これは、 入院が必要ね」
「はぁ・・・」
妖夢が、申し訳なさそうに、そして、呆れたようにため息をついた。

「じゃ、永琳頼んだわね」
「お爺ちゃんを、よろしくお願いします」

妖夢は礼儀正しくお辞儀をし、 永遠亭を後にする。


最早、彼女の中ではこの爺は剣の師匠では無かった。
最愛の、そしていたわるべき祖父に変化したのだ。


「じゃ、妖忌後でね」
「お爺ちゃん、もう無茶はいけませんよ」

返事はない、気を失っているのだと妖夢は思った。


玄関をくぐって、二人の気配がどんどん遠くなり、気配が感じられなくなっていく。



「・・・・もう、起きてもいいのよ?」
「・・・・うむ・・・・」
永琳の言葉を合図に、妖忌が身を診察台から起こす。


「ずいぶん、耄碌したのね?」
「・・・・ふん」

無愛想に鼻だけ鳴らして、返事にする。
永琳が手際よく包帯をあちこちに巻いていく。

「・・・・・い」
「え?」


「歳は・・・・、とりたくないの・・・・」
「・・・そうかもね」


永遠の若さを持つ永琳には、本当の所では妖忌の悩みは解らないだろう。
だが、こうして



一番やりたいことを出来なくなった男の背中を見るのは、どうにもやりきれない気持ちになる




「ま、 結構なことじゃないですか、 そのまま孫娘に死に水をとってもらいなさいな」
「なんじゃい、縁起でもない、 医者はもっと爺の患者をいたわるもんじゃ」
「間違いないわね」

くすりとわらって見せる、 彼女なりの冗談のつもりだったが、 どうも逆効果だったようで、もっと言葉を選ぶべきだったと後悔する。



妖忌が、太い腕をやっと目の前にあげて見せる。


「・・・もう、手が動かんのじゃ・・・、 足も根を張ったように、水の中に居るようで・・・・、 肘から先が一本の枝みたいでの・・・」


「・・・老いは、生き物には避けられない現象ですよ、 そんなに落ち込むことは無いわ」
「・・・・」
「それだけ動いて元気なら、恐ろしく長生きできますよ、お爺さん・・・」



妖忌の表情は、このときは暗く沈んでいた。
これは、唯、勝負の負けを認めただけではない
妖夢は理解をしていなかったようだが、




もっと、勝負の先にあるものに対して、敗北を認めた貌だ




永琳はそう思った。
笹や竹の葉がさわさわとこすり在って、寂しげな音を立て始める。



干涸らびた、唇から、低い秋風のような声が響いた。









「先生、 一つ頼みが在るんじゃ・・・・」
作者のねおと申します

懲りずにまた書いております。

そういうわけで序編です。

妖夢が自機と聞いて思いつきました。

頑張ってみなおしてはおりますが、 表現の間違い、誤字脱字等など
指摘してくださると幸いです。

では)ノシ
ねお
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コメント



0.500簡易評価
9.100愚迂多良童子削除
今更ながらコメ。
これは期待できる。珍妙なロボットが出てこなければw

>>それは、とうとう敵わなかった・・・・
叶わなかった
12.無評価ねお削除
作者のねおです

修正のご指摘ありがとうございます
いまさら、修正をしました

作品を巡回中です
15.80洗濯機削除
こうして師匠を超えていくんですね