Coolier - 新生・東方創想話

アリスの安楽椅子探偵

2011/05/19 00:55:50
最終更新
サイズ
7.85KB
ページ数
1
閲覧数
1422
評価数
7/29
POINT
1570
Rate
10.63

分類タグ

私はだいぶ頭に来ていた。
いままでの私がしてきた行いを棚に上げて言っているが、本当に怒っていた。
元凶は紅魔館は大図書館の主、パチュリー・ノーレッジである。
順を追って話す。
今日は見事に晴れ渡った空だった。
季節的に理想的な秋空だったと言える。
雲の向こうに透ける空は何処までも澄んでいてふっと自分が空に落ちていくような感覚を覚える位だった。
こんな日はどこかに出かけたくなる。
家でじっとしていられない。もともとそんな性分である。
開きっぱなしの本や底、液体が薄く残っているガラス瓶、そして朝食で使って洗っていない皿を片目に箒をもって外へ飛び出す。
「霧雨魔法店」の看板を通り過ぎてやっとそこで件の空をみることができた。
とても心地がいい風が吹いている。
秋風と言うのだろうか。
私はそんな風に乗って空を飛んだ。

どれくらい飛んでいたか。
ただただ風に身を任せて飛んでいたので時間はわからない。
私は紅魔館に行こうと思い立った。
お土産を仕入れる旅人のように散歩の閉めに本を数冊ほど借りていこう。
飛び回ったのでパチュリーにお茶をたかってもいいかもしれない。
そんなことを考えながら遠くに見える赤い建物に向かって飛んだのだ。
思い返せばこのときが一番楽しかった。

「ずいぶんなことをしてくれるじゃない」
パチュリーの第一声は怒りを含んでいた。
大図書館の主にしては珍しい感情を露にしていた。
「なんだよ。ご挨拶だな」
今日は扉を突き破ってなければ窓も割ってない。
そもそも大図書館のドアは開けっ放しになっていた。珍しく風を取り入れているのかと思ったが。
「この本なんだかわかる?」
パチュリーが差し出した本は黒い重厚な本を突き出した。
表紙には目をつむってうなだれる子供とそれを抱くけったいな頭巾の様なものをつけた彫りが深い人間がこちらを見ている。
下にはタイトルらしき文字がつづられているが読めなかった。
「初めて見るけど」
貸してくれるのか、と何時もの調子なら続けるのだがそんな雰囲気ではないだろう。
「この本は私が今さっき読み終わった本なのよ」
パチュリーは本を丁寧に机に置く。読み応えがあったのか本に敬意を示している。
「最近この本の作者が書いた本が読みたくてここにあるだけ集めてあったの。大変だったのよ奥から探し出してくるの」
パチュリーは私を睨みながら淡々と語る。
「ただ問題があってね。その大切な本を身の回りの置いておくと貴方盗っていくでしょう」
「盗ってないぜ。借りていってるだけだ」
「どちらでもいいわ」
だいぶお怒りのようだ。いつもならここらへんで説教の時間が終わる頃合だ。
「それでうまい具合に隠してたと思っていたら、あなたは狙ったように。あなたには私の読みたい本の優先順位でもわかるのかしら」
「ちょっとまてよ。なんだか私がその本を盗んだような言い方じゃないか」
本の盗んだ借りたは私も詭弁だと思っている。ただし大図書館の信頼関係だからこその所業である。
持って言った本は事前事後に全て報告をしている。そのたびにパチュリーからは小言とお茶を頂戴しているが。
とにかく、ここ最近この図書館で借りた本はない。
「そういってるのよ」
呆れたようにパチュリーは答えた。

私は怒っていた。
日ごろ紅魔館の大図書館から本を持ち出す私でも何も言わず持ち主の大切な本を持っていくほど落ちぶれちゃいない。
蒐集者のプライドがある。
そこまで言うとこの部屋の主である目の前の魔法使いはひとことだけ言った。
「で?」
「で?じゃないだろう。アリス」
私は今アリスの家にいる。この怒りを誰かに聞いて欲しかったのだ。
突然の訪問でもアリスは受け入れてくれて紅茶を入れてくれた。そして向き合って今あった理不尽な扱いについて訴えている。
「そのまま水掛け論の口げんかになって紅魔館を飛び出してきたんだよ」
そこまで言ってアリスが淹れてくれた紅茶を飲む。
紅茶はしゃべり続けた体に染みるように美味しかった。
「貴方が悪いんじゃない」
「おいおい、アリスもかよ」
自分の意見に賛同が貰えないことがこんなにやるせないとは思えなかった。
「私は借りはするけど、盗みはしないんだ。今回は本泥棒だろう?」
「客観的に見たら同じようにしか見えないんだけど」
冷たい意見である。この紅茶でさえこんなに冷たくない。
アリスは頬杖をついた。
「魔理沙はどうするつもりなの?」
「本泥棒を見つける」
「本泥棒?」
「本を盗んだのが私じゃないってことを証明するためには真犯人を捕まえるしかないだろう」
「真犯人ねぇ」
まだ私を疑っているのだろうか。アリスは懐疑的な声を上げる。
「魔理沙。私の質問に答えてもらえる?」
そういってアリスは体を椅子に深く預ける。
「本はいつなくなったの?」
「パチュリーが気づいたのは今日私が大図書館に行く前だと言ってたぜ。そのころに本の続きを読もうとして盗まれたことに気づいたって」
「無くなった本は1冊じゃないわよね?いつごろからどうやって隠してたの」
「隠したのは結構前で、隠し方は何でも私が前に物色した本棚に移動させたって」
「それは賢いわね」
利用者がほとんどいない広い大図書館である。動きが無い以上一度物色した本棚はそうそう見直さないだろう。
それが私にまんまと当てはまっているから腹立たしい。
「ところで何で盗まれた本が一冊じゃないってわかるんだ」
「魔理沙が言ってた本の特徴に心当たりがあるのよ。その本は多分「悲劇の誕生」って本だと思う。同じ作者が書いた本は多分10冊くらいだわ」
「おもしろいのか」
「昔の芸術と哲学の本よ。いつか読んで見なさいな」
俄然と興味がわかない。魔術の本とか物語ではないのなら私の専門ではない。
「じゃあ次よ」
アリスは質問を進める。
「確か大図書館には司書さんがいたでしょう?」
「ああ」
住み込みの小悪魔のことだ。図書館の本を運ぶ姿を良く見かける。
「今日はその司書さんはいたかしら?」
「…そういえば図書館を飛び出すときに入り口にいたぜ」
「それは図書館の外かしら?それとも中?」
変な質問だ。あの時は怒りで頭がいっぱいだったから思い出す必要がある。
「うーんと、小悪魔はドアの外にいたと思う。」
「何か持ってた?」
「…手ぶらだったかな」
「そう」
アリスは初めて紅茶に口をつける。一口飲んでカップを置く。

「やっぱり貴方の日ごろの行いが悪いから泥棒呼ばわりされるのよ」
「…なんだよ。散々質問しておいてそれかよ」
やはりアリスも私のことをわかってくれないのだろうか。むっと腹が立ってくる。
「だから何もして無いのに疑われるのよ」
「へ?」
「本を持っていったのは司書さんよ」
「司書って…小悪魔のことか?何でそんなことを?」
「貴方も言ってたじゃない。今日はいい天気だったんでしょ?だから彼女、本の虫干しをしたんじゃないかしら」
「虫干し?」
「本を仕舞ったままにしておくとカビたり痛んだりするのよ。それを防止するために乾燥した日に本を開いて日光に晒すの」
どこかで見たことがある。香霖堂だろうか。本棚の本を全部出して開いて軒下に積むのだ。
「図書館のドアが開いてたのは両手が塞がった司書さんが本を外に持ち運びしやすいように解放したのだと思うわ。魔理沙が見たのは本を干した帰りの司書さんね」
「…霧に包まれたことがあるからじめじめしてそうだもんな。紅魔館の図書館。」
「彼女はパチュリーが本を隠していた本棚の本も虫干ししたのよ。そして本を元の本棚に片付けたのね」
「元の本棚に片付けたなら本は元に戻ってるんじゃないのか」
「隠されてた本がもともと仕舞われてた場所はそこじゃないわ。司書さんは奥の本棚に本を片付けたのよ。あんな立派な図書館で乱雑に本を収納するとは思えないし」
「…ちょっとまてよ」
頭を働かせて今までのアリスの話をまとめる。
「つまりパチュリーが移動させた本を小悪魔が取り出して元の場所に仕舞っちゃったってこと?」
「極端に言うとそういうことね」
「で、パチュリーは本がなくなったもんだから私を犯人だと思ってると」
やっぱりパチュリーの早とちりじゃないか。
「…やっぱり私は悪くないんだぜ」
「そうとも言えないわよ。パチュリーが本を移動させた原因は貴方でしょうに」
「う」
的確な意見が突き刺さる。
「まずはその不遜な態度を改めるべきね」
「…悪かったぜ」
「私に言っても仕方ないわよ」
そういってアリスはカップから紅茶を飲んだ。
「どうしよう」
「そうね。私なら―」

アリスの家を出た後、私は紅魔館へ向かった。
図書館の入り口で本を両手に抱えた小悪魔と出くわす。
「あら、魔理沙さん」
「パチュリーはいるかい?」
「ええ。中にいますよ」
小悪魔の脇を通り抜けようとしたときに小悪魔が神妙な顔で話しかけてきた。
「実はですね。パチュリー様が言ってた本のことなんですけど」
「…全部わかってる。パチュリーの勘違いだったんだろう?」
「そうなんですよって、え?」
きょとんとしている。話が素直に通じて驚いたのだろう。
「荷物持ってるのに引き止めて悪かったな」
小悪魔を背にして図書館の中に入る。
前と同じ場所にパチュリーが座っている。
「…魔理沙」
こちらに気づいたようだ。いや、入っていたときから気づいてたのかもしれない。
パチュリーは立ち上がり私に向き合った。
「パチュリー、えっとさ」
「本の件なんだけど、私の勘違いだったわ。ごめんなさい」
パチュリーは頭を下げる。
「知ってる。でも今日はそのことを言いに来たんじゃないんだ」
「…なに?」
「本の虫干しが大変だって聞いたから手伝いに着たんだよ」
「…そうなんだ」
そう言ってパチュリーは笑ってくれた。
初投稿です。

タイトルどおりアリスに安楽椅子探偵をさせたいと思ったのです。
大谷屋
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.950簡易評価
6.90愚迂多良童子削除
いい雰囲気。
でもオチがちょっとあっさり、というかぶつ切りになっている感じがするのが難ですかね。
8.80名前が無い程度の能力削除
雰囲気、キャラクターともに好きです。
流れも凄く良かったのですが、やはりプロットをそのまま出してきたような感が否めません。
もっと場面場面をしっかり描写して肉付けしていただければ、ぐっと惹きつけられる作品になる気がします。
お話自体は、とても面白かったです。
そのため、やはりとてももったいないような気がします。
10.90名前が無い程度の能力削除
いいんじゃねーの?
11.80奇声を発する程度の能力削除
アッサリしてて良かったと思います
13.90名前が無い程度の能力削除
面白かったです。
次の作品も楽しみにしてます。
22.90名前が無い程度の能力削除
ほんのりほんわか。
些細なすれ違いとは、時に断絶をもたらし、時に親睦を深めます。
25.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです