Coolier - 新生・東方創想話

晴れた日には

2011/05/03 17:43:25
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閑々として、埃に覆われた部屋で、古びた椅子だけが音を立てる。
長い白髪で、天辺を可愛げなさくらんぼの髪飾りで結んでいる女性が、しばらく続いていた沈黙を破った。
「魅魔、そろそろ動くべきじゃないかしら」
先の女性に劣らず長い緑髪の女性が、抱えていた頭を上げて返答する。
「‥‥‥頼むよ神綺、もう少し待って欲しいんだ。何とか彼女達の力だけで‥‥‥」
「そう言って、一体どれだけの時間が経ったと思っているの?」
俯いて黙りこくる魅魔に、神綺は声を若干荒げた。
「いっつもそうやって、黙っちゃうんだから。あなたは見ていて辛くないの?」
「そりゃ‥‥‥。確かに私も、もう時期が来ているのかもしれないとは思う。‥‥‥仕方ないな」
「仕方ないのよ‥‥‥」
魅魔は置いていた真っ青な長帽子を被り、たちまち霧となって消え、神綺もそれを追うように姿を消した。




黒を基調とした部屋の中、ぬいぐるみの形が装飾された絨毯や周りのフローリングに、衣服が脱ぎ捨てられ、散らかされていて。
そんな部屋の様相で唯一綺麗にされているベッドで眠る少女が、幸せそうに眠り続けていた。
外を見れば、薄暗い中、淡々と雨が降り続き、ザー‥‥‥と、まるで永遠に続くかのような音を立てている。
その音は、今まで彼女が眠り続けていられるのが不自然な程、部屋に響き渡っていた。
しかしそんな彼女も、更に強まる雨音に起こされてしまったようだ。
「ふぁーあ。今日は雨か‥‥‥」
長い金髪の、幼げだが凛とした顔の少女が起き上がる。
ベッドから立ち上がったかと思うと、すぐさま別の部屋へと入った。
その部屋は、彼女が様々な場所から本を盗んでいるため、読み終えた本が積み重なり散りばめられ、ほとんど倉庫に近い有様だ。
彼女は大量の本を見ては投げ、見ては投げ、そうしてお目当ての本が見つかったかと思うと、投げた本も片付けず椅子に座り本を読み始めてしまった。
「おはよう、魔理沙。起きてたのね」
「ああ。早いな、アリス」
魔理沙は顔を本に向けたまま、素っ気無く返す。
「大丈夫なの? ちゃんとご飯食べてる?」
「食べてるよ」
「その割には随分痩せたんじゃない?」
「食べなくたって大丈夫だ。そんなにすぐに死にやしないさ」
「あなたは食べなければ生きていけない人間なのよ? 何か作ってあげるから食べてよ」
「‥‥‥人間だからだろ。私には時間が無いんだ、頼むから話しかけないでくれ」
「話しかけないでくれですって? 炊事洗濯掃除買い物、全部私にやらせておいて、よくそんな事が言えるわね!」
魔理沙は返答せず、ただただ本をじっと見つめている。
「そもそもここだって私の家なのにこんなに本を散らかして!」
「‥‥‥邪魔しないでくれよ。頼むから」
「ああそう! もう知らない!」
そう言い残して、アリスは足早に二階の自分の部屋へと立ち去ってしまった。
魔理沙は深く溜息を吐き、再び本に視線を向け、読書に耽るのであった。




「うう‥‥‥」
ベッドで頭を抱え込むアリスの顔は歪で、眉間には皺が寄せられていた。
「ああ‥‥‥めまいがする‥‥‥」
彼女は寝たまま、小さなテーブルに置いてある瓶を取り、その中からいくつかの粒を出し、強引に口へ放り込む。
水を取るのもままならないのか、彼女はそのまま錠剤をガリガリと食べてしまった。
彼女の頭は慢性的な痛みに襲われ、耳は鳴りっぱなし、更にはめまいを起こしている。
彼女が病院で先ほど食べた薬を処方された時、医師はストレスからくる自律神経失調症だと言った。
ストレスの原因はわかっていたが、彼女はそれをどうする事も出来ず、ついに寝ていても楽になれない状態にまでなってしまったのだ。
そんな中で、泣きっ面に蜂とでも言おうか、彼女の部屋の窓ガラスが、何の前触れも無く割れ、彼女は歪な顔を更に歪ませた。
アリスはもう我慢の限界であった。ついにアリスは、泣き出してしまった。
自らの不幸に対して、そして、そんな不幸に悩まされる自分への情けなさに対して。
そんな彼女の涙を止めたのは、慈愛溢れる、まるで母のように包み込むような声であった。
事実、それは彼女の母の声であった。
そうして泣きつかれた彼女は、深い眠りについた。




魔理沙の視界が再び明るくなったのは、耳をつんざく音に起こされ、顔に乗せてあった本がずり落ちたからであった。
彼女は辺りを見回すも、彼女の視界に一切変化は見られず、急いで階段へと向かった。
「やぁ、魔理沙。‥‥‥久しぶりだねぇ」
それは二階のアリスの小奇麗な部屋に居た。
「な、なんであんた‥‥‥が‥‥‥!?」
魔理沙が目を見開いて動かなくなる程驚いたのは、魅魔がそこにいたからではなかった。
全身が赤黒く染め上げられた、一つの大きな人形が、魅魔の腕には抱えられていた。
「悪いな。抵抗するものだから、つい」
「い、意味わかんねぇぜ。とりあえず、それはなんだ?」
「アリスだよ、ア・リ・ス。おっと、八卦路なんて私に向けて、どうするつもりだ? まさかアリス事焼き殺す気か?
安心しな、まだ生きてる。まぁ、取り返して欲しければ、私を倒すしか無いんだがな」
魔理沙は俯き、掲げた八卦炉を、そっと降ろして、呟いた。
「もう、いい」
「何だって?」
魔理沙はすがり付くように言い放つ。
「もういいから! 早くアリスを治してくれよ!」
「そ、そいつは‥‥‥いいのかい? アリスは私達の世界へ連れて行ってしまうが?」
「いいんだよ! いいから早く!」
彼女はもはや涙を止める事が出来なかった。
魔理沙はきっと、アリスに対して愛情をもって接してこなかった為に、彼女の母である神綺の怒りを買い、そうして耐え切れなくなった魅魔がアリスを元の世界へ戻しに来たのだろうと、そう確信していた。
彼女は決してアリスをぞんざいに扱いたかった訳ではなく、むしろ同居し始めた時のように、幸せに暮らしていきたかったのだが、利己的な傾向があった為に、いつの間にか、アリスより自らの成長を重視するようになっていた。
そうして外れてしまった歯車は、魔理沙の自尊心も相まって、元に戻る事を拒否していた。
そうした事情を理解していた魔理沙は勿論、全て自分のせいであることはわかっていたのである。
わかっていたのにも関わらず、元に戻そうと行動出来なかった自分自身への悔いの涙であった。
「私にだって自覚はある。私には、アリスと暮らす権利なんて無いんだ。是非とも連れて行ってくれ。アリスだって、その方がきっと‥‥‥」

顔を上げた魔理沙の目に映るのは、ひどい雨音の中、雲ひとつ無い顔で眠るアリスの姿のみであった。




魔理沙は淡々と、薄暗い部屋の中で読書をしている。
その隣には、一体どこから持ってきたのかと思うほど高く積み上げられた本の塊がいくつもあった。
「おはよう、魔理沙」
「ああ、おはよう」
魔理沙は視線を本から外してアリスを見ると、低い塊の一つに本を置いて、日差しを遮っていたカーテンを開けに窓辺へ向かった。
「‥‥‥買い物でも行こうか」
「あら、珍しいのね。あんたから誘ってくるなんて」
「こんな晴れた日に、外にも出ないなんて、気が狂っちまいそうだ」
「ふふ、それもそうね」
微笑むアリスの顔は、太陽のような輝きを放っていた。




屋根が剥げ落ちて、ねずみ色の空からわずかな光が入る中で、小気味の良い金属音が鳴り響いた。
『乾杯』
二人はグラスの中の赤い液体を全て飲み干してしまった。
神綺がその余韻に浸る中、魅魔が口を開いた。
「本当に予想外だった。いやぁ、私の考えじゃ、魔理沙が『返してくれ!』って懇願した所で、アリスを大事にするよう約束させるつもりだったんだが‥‥‥」
「結果オーライよ。というか、そんな陳腐なアイデアだったの?」
「感情を誘導させるような行動は取りたくなかったんだ」
「‥‥‥へぇ、そう、それなら尚更結果オーライね」
曇り空からひょっこり顔を出した月が、微笑を湛えている二人の紅潮した顔を照らしていた。
どうも初めまして、そして、読んで頂きありがとうございました。
実はこれが処女作でして、精一杯推敲させて頂きましたが、稚拙な部分も多くあったと思われます。
ここだけは気に入らないなどという意見も大歓迎でございますので、一言あれば、どうかお願いいたします。
ワク
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コメント



0.510簡易評価
8.40名前が無い程度の能力削除
なんぼ何でも、魔理沙が自己中過ぎる気が…
大なり小なり、魔理沙にそういう傾向はあるといや、確かにある物の…

もはや、ただのドメスティックバイオレンスにしか見えず。
読んでいて、かなりキツかったです。
アリスの元に現れた神綺(?)の台詞がないのも疑問。
初投稿ということもあり、今後に期待です。
10.無評価作者削除
>>8
ご意見ありがとうございます。
気に入っていただけなかった様で、残念な限りです。精進します。
次はシリアス以外で書こうと考えています。
12.60名前が無い程度の能力削除
重要なシーンの展開が早くて、というかあっさりしていて状況の理解がし辛かったです。
登場人物4人の立ち位置とか関係性がいまいち飲み込めないままだったのですが、その反面、魔理沙の心の声を通じて地の文で状況を全部説明させてしまったのはなんだか頂けませんでした。
欲を言えば、この物語に至るまでのマリアリの関係を周辺含めてもちっと掘り下げて頂きたかった。
傷ついたアリスが魅魔の幻覚だったのなら大分イメージ違いますけどね、本文からは判別不能でした。
とりあえずラストの二人の親バカっぷりはほっこりしました。
次回作に期待してます!
15.無評価作者削除
>>12
ご意見ありがとうございます。
恐らく、勢いが先行してしまったのと、物語が自己完結してしまったまま書いた結果なのだと思います。
その点を頭に入れながら、今回以上の物が書けるよう努力します。
16.無評価名前が無い程度の能力削除
夫婦喧嘩に親が出てきた
って理解でいい?
18.無評価作者削除
>>16
そう捉えてもらっていいですよ。
19.60糸目削除
少し話が分かりにくい所がありましたが、慣れや経験で無くせるものだと思うのでこれからの作品に期待してます。最後の魔理沙がアリスを大事にしている感じは十分に伝わってきたので安心しました。
20.無評価作者削除
糸目さん
ご意見ありがとうございました。
話が分かりにくいというのは不利なものですね。物語を甘く見すぎていました。
ですが分かりにくいなりにも伝わった所はあったようで、そう言って頂けて、本当に嬉しいです。