『瀟洒な従者も人の子である』
博麗神社の敷地内でひらかれた花見の宴席。
人妖が集まってわいわいとにぎやかしく過ごしている。
その輪から少し外れた場所に紅魔館の従者二人が待機していた。
普段紅魔館の門番をしている赤い髪の妖怪と、主の側仕えの瀟洒なメイドである。
珍しく今日の花見には、紅魔館の妖精メイドを除くオールメンバーが参加している。
動かない大図書館も身体の調子がよく小悪魔を伴い出席し、主の妹のフランドールも最近落ち着いているということで出席を許された。
普段留守番の多い美鈴も、その供を命じられたのだった。
開始から今に至るまで、フランドールの言動に危険は感じられないため、こうしてそばを離れ、少し遠くから見守っている。
咲夜もいつものごとくレミリアの側に控えていたが、途中で美鈴のいる方へやってきた。
なんでもレミリアから呼ぶまで側に来なくていいと言われたらしい。
疲れたわ、ちょっと寄りかからせて、と咲夜が美鈴と背中合わせに座ってから、暇にあかせてしりとりをしている。
「き、き……ええと、きんにく」
「くすり」
「り、り、りかい」
「いのり」
「り、りぃ~、また”り”ですかぁ。もう5,6回は答えた気が。えーと、えーと、あっ、りょうり!!」
「……リハビリ」
「ぐふっ」
会心の一撃とばかりに「り」で終わる言葉で攻めたのにあっさりと返り討ちに遭い、美鈴が撃沈した。
背中合わせだから咲夜がどんな顔をしているのかはわからないが、時折聞こえるクスクスという笑い声と背中に伝わる振動からはそれなりにご機嫌が良いように思える。
二人がしりとりを終え、ぽつりぽつりと会話しながら小一時間で宴もたけなわ、そこかしこで挨拶をしつつ帰り始める出席者たち。
それを傍目にみながら赤い髪の妖怪、美鈴は自分の後方に向かってつぶやく。
「お嬢様たち、まだ帰られないんですかねぇ」
「・・・お楽しみいただいているのなら、何よりだわ」
一呼吸おいて紅魔館のメイド、咲夜が答える。
先ほどからぽつりぽつりの会話がさらに少なくなっている気がする。
こころなしか、背中に感じる咲夜の体温も大分あたたかい。眠いのだろうか。
「咲夜さん、ここにいていいんですか。さっき挨拶してきた山の上の巫女さん……ええと早苗さんがもっと話したそうにしてたじゃないですか」
少し背中を揺すりながら、問う。半霊の庭師もこちらをちら見しながらウロウロとしてた気がする。
自分がいては、中々話しかけにくいのかもしれないなー、などと思いつつ咲夜の答えを待つ。
「……んー、うん。今日はいいわ」
「そうですか」
「うん」
咲夜にしてみれば、美鈴の側を離れるわけにはいかない。
美鈴が宴会の席にいるのは珍しい。幻想郷には極度の人妖見知りもいれば、極度の人妖好きもいるのだ。
普段接することのない者に対してはなおさら、絡んできたりする者も。
大分前の宴会になるが、レミリアに付き従い、しばらく美鈴から目を離していたら、いつの間にか鬼2匹に気に入られ、飲み比べと腕相撲を交互にやっていた。
無茶にもほどがある。勝てるわけがない。
「わ、たしが……い…ぃと……じゃない」
私が、という言葉以外よく聞こえなかったが、その独り言?以降咲夜から言葉は聞こえてこなかった。
あ、おちたな、と思いつつ今度はなるべく振動を与えないよう気をつけて周囲に目をやる。
地底組と守矢神社の面々が帰っていくのが見えた。
少しホッとする。
鬼との力比べと飲み比べは後々のダメージが大きい。
こう見えて負けず嫌いなのだ。
売られた喧嘩は買うのが紅魔流だ。
もう一人の小鬼に目をやれば、桜の木の下で横になっている。
起きているのか、寝てるのか、ここからはわからない。
一緒にいるのは誰だろう。2,3人いるが、基本館の外には出ない美鈴には名前がわからない。
もう大分はけたなー、と思っていたら目の前を通り過ぎようとしていた霊夢がこちらに気付いた。
近寄ってきて、しげしげと眺める。
その様子に気付いた魔理沙がなにしてんだ?と歩いてくる。
「あらあら、これはこれは珍しい眺めだこと」
「ハハッ、いつもと立場が真逆じゃないか、門番?」
霊夢と魔理沙が集まっていればなんだなんだと他の人妖が集まってくる。
小鬼にスキマ妖怪、その式と式の式、人形遣いに花の妖怪…何も言えず、美鈴は苦笑するしかない。
「うちの瀟洒はね、ある一定の条件がそろうとあんまり瀟洒じゃなくなるのよ」
「パチェ、余計なこと言ってないで帰るぞ。フラーン!帰るわよ!!小悪魔、フランを呼んできて頂戴」
人垣を分けるようにしていつの間にか近くに来ていた主とそのご友人。とその付き人。
よいしょっと、と言いながらレミリアが咲夜の腕を自分の首に回すようにしてしょいかつぐ。
自分の背中からぬくもりと重さが消え、美鈴が慌てる。
「お、お嬢様、私が」
「いい、いい。お前はフランを頼む」
「あー、さくや寝てるー」
「ちょっとレミィ、主がいるにもかかわらず居眠りした挙句、主におぶわれるなんて咲夜に恥の上塗りをさせる気?」
「そんなこと私の知ったことではないわ。咲夜はまだまだ若いんだからたまには恥でもかいたほうが可愛げがあるさ。それにもう宴会も終わりだ。見てるやつらも少ない。残ってるのもベロベロだしな。さ、いくぞ」
ちょっと待って、とパチュリーが自分の膝掛け用の毛布で咲夜を包むようにしてまとわせる。
寒さ対策だ。それに、これでレミリアがなにをおぶってるのかは一瞬ではわからないだろう。
「まったく咲夜は普段は文句なしに瀟洒~なのに、アンタがいるとどうにもこうにも崩れるのよねぇ。今日がいい証拠。ねぇ、パチェ」
「まぁ、否定しないわね」
「なっ、私のせいっていいたいんですか。だいたいお嬢様が咲夜さんを放置するからですよ。あっち行ってろって言われたって、なんか傷付いた顔してましたよ」
「それは咲夜がちらちらちらちらアンタの方ばっか気にしてるから、し」
「二人とも、咲夜が起きるわよ」
パチュリーの鶴の一声でむぐぐと黙る親バカ二人。
そんなやりとりを横目に見ながら宴会の後片付けをしていた霊夢がくくっと笑う。
それを聞いたアリスがどうしたの、と問う。
「あいつら、なんだかだ言いながら、だーれも咲夜に「起きろ」って言わないの」
「ふふ、そうね。咲夜はいつも完璧すぎるからああいう姿が見られると、なんだか微笑ましいわ。咲夜も人の子なのよねぇ」
「そうね……ってもう一人の人の子はどこに行ったのよ!」
「ああ、魔理沙ならさっき気持ち悪いとか言って神社の方に」
「アイツ……ぜったい寝てるわね」
「否定はしないわ」
同じく人の子の霊夢の叫び声で今年度の花見の宴は終了した。
博麗神社の敷地内でひらかれた花見の宴席。
人妖が集まってわいわいとにぎやかしく過ごしている。
その輪から少し外れた場所に紅魔館の従者二人が待機していた。
普段紅魔館の門番をしている赤い髪の妖怪と、主の側仕えの瀟洒なメイドである。
珍しく今日の花見には、紅魔館の妖精メイドを除くオールメンバーが参加している。
動かない大図書館も身体の調子がよく小悪魔を伴い出席し、主の妹のフランドールも最近落ち着いているということで出席を許された。
普段留守番の多い美鈴も、その供を命じられたのだった。
開始から今に至るまで、フランドールの言動に危険は感じられないため、こうしてそばを離れ、少し遠くから見守っている。
咲夜もいつものごとくレミリアの側に控えていたが、途中で美鈴のいる方へやってきた。
なんでもレミリアから呼ぶまで側に来なくていいと言われたらしい。
疲れたわ、ちょっと寄りかからせて、と咲夜が美鈴と背中合わせに座ってから、暇にあかせてしりとりをしている。
「き、き……ええと、きんにく」
「くすり」
「り、り、りかい」
「いのり」
「り、りぃ~、また”り”ですかぁ。もう5,6回は答えた気が。えーと、えーと、あっ、りょうり!!」
「……リハビリ」
「ぐふっ」
会心の一撃とばかりに「り」で終わる言葉で攻めたのにあっさりと返り討ちに遭い、美鈴が撃沈した。
背中合わせだから咲夜がどんな顔をしているのかはわからないが、時折聞こえるクスクスという笑い声と背中に伝わる振動からはそれなりにご機嫌が良いように思える。
二人がしりとりを終え、ぽつりぽつりと会話しながら小一時間で宴もたけなわ、そこかしこで挨拶をしつつ帰り始める出席者たち。
それを傍目にみながら赤い髪の妖怪、美鈴は自分の後方に向かってつぶやく。
「お嬢様たち、まだ帰られないんですかねぇ」
「・・・お楽しみいただいているのなら、何よりだわ」
一呼吸おいて紅魔館のメイド、咲夜が答える。
先ほどからぽつりぽつりの会話がさらに少なくなっている気がする。
こころなしか、背中に感じる咲夜の体温も大分あたたかい。眠いのだろうか。
「咲夜さん、ここにいていいんですか。さっき挨拶してきた山の上の巫女さん……ええと早苗さんがもっと話したそうにしてたじゃないですか」
少し背中を揺すりながら、問う。半霊の庭師もこちらをちら見しながらウロウロとしてた気がする。
自分がいては、中々話しかけにくいのかもしれないなー、などと思いつつ咲夜の答えを待つ。
「……んー、うん。今日はいいわ」
「そうですか」
「うん」
咲夜にしてみれば、美鈴の側を離れるわけにはいかない。
美鈴が宴会の席にいるのは珍しい。幻想郷には極度の人妖見知りもいれば、極度の人妖好きもいるのだ。
普段接することのない者に対してはなおさら、絡んできたりする者も。
大分前の宴会になるが、レミリアに付き従い、しばらく美鈴から目を離していたら、いつの間にか鬼2匹に気に入られ、飲み比べと腕相撲を交互にやっていた。
無茶にもほどがある。勝てるわけがない。
「わ、たしが……い…ぃと……じゃない」
私が、という言葉以外よく聞こえなかったが、その独り言?以降咲夜から言葉は聞こえてこなかった。
あ、おちたな、と思いつつ今度はなるべく振動を与えないよう気をつけて周囲に目をやる。
地底組と守矢神社の面々が帰っていくのが見えた。
少しホッとする。
鬼との力比べと飲み比べは後々のダメージが大きい。
こう見えて負けず嫌いなのだ。
売られた喧嘩は買うのが紅魔流だ。
もう一人の小鬼に目をやれば、桜の木の下で横になっている。
起きているのか、寝てるのか、ここからはわからない。
一緒にいるのは誰だろう。2,3人いるが、基本館の外には出ない美鈴には名前がわからない。
もう大分はけたなー、と思っていたら目の前を通り過ぎようとしていた霊夢がこちらに気付いた。
近寄ってきて、しげしげと眺める。
その様子に気付いた魔理沙がなにしてんだ?と歩いてくる。
「あらあら、これはこれは珍しい眺めだこと」
「ハハッ、いつもと立場が真逆じゃないか、門番?」
霊夢と魔理沙が集まっていればなんだなんだと他の人妖が集まってくる。
小鬼にスキマ妖怪、その式と式の式、人形遣いに花の妖怪…何も言えず、美鈴は苦笑するしかない。
「うちの瀟洒はね、ある一定の条件がそろうとあんまり瀟洒じゃなくなるのよ」
「パチェ、余計なこと言ってないで帰るぞ。フラーン!帰るわよ!!小悪魔、フランを呼んできて頂戴」
人垣を分けるようにしていつの間にか近くに来ていた主とそのご友人。とその付き人。
よいしょっと、と言いながらレミリアが咲夜の腕を自分の首に回すようにしてしょいかつぐ。
自分の背中からぬくもりと重さが消え、美鈴が慌てる。
「お、お嬢様、私が」
「いい、いい。お前はフランを頼む」
「あー、さくや寝てるー」
「ちょっとレミィ、主がいるにもかかわらず居眠りした挙句、主におぶわれるなんて咲夜に恥の上塗りをさせる気?」
「そんなこと私の知ったことではないわ。咲夜はまだまだ若いんだからたまには恥でもかいたほうが可愛げがあるさ。それにもう宴会も終わりだ。見てるやつらも少ない。残ってるのもベロベロだしな。さ、いくぞ」
ちょっと待って、とパチュリーが自分の膝掛け用の毛布で咲夜を包むようにしてまとわせる。
寒さ対策だ。それに、これでレミリアがなにをおぶってるのかは一瞬ではわからないだろう。
「まったく咲夜は普段は文句なしに瀟洒~なのに、アンタがいるとどうにもこうにも崩れるのよねぇ。今日がいい証拠。ねぇ、パチェ」
「まぁ、否定しないわね」
「なっ、私のせいっていいたいんですか。だいたいお嬢様が咲夜さんを放置するからですよ。あっち行ってろって言われたって、なんか傷付いた顔してましたよ」
「それは咲夜がちらちらちらちらアンタの方ばっか気にしてるから、し」
「二人とも、咲夜が起きるわよ」
パチュリーの鶴の一声でむぐぐと黙る親バカ二人。
そんなやりとりを横目に見ながら宴会の後片付けをしていた霊夢がくくっと笑う。
それを聞いたアリスがどうしたの、と問う。
「あいつら、なんだかだ言いながら、だーれも咲夜に「起きろ」って言わないの」
「ふふ、そうね。咲夜はいつも完璧すぎるからああいう姿が見られると、なんだか微笑ましいわ。咲夜も人の子なのよねぇ」
「そうね……ってもう一人の人の子はどこに行ったのよ!」
「ああ、魔理沙ならさっき気持ち悪いとか言って神社の方に」
「アイツ……ぜったい寝てるわね」
「否定はしないわ」
同じく人の子の霊夢の叫び声で今年度の花見の宴は終了した。
呼んできて?
無防備咲夜さん可愛いよ!!
無防備な咲夜さんを想像して思わずにやにやしてしまった。
どちらかと言えばマフィアとかのファミリーに近いのかもしれませんけど。
紅魔館のみんなが家族みたいだ。
今後もささやかながら応援しています。