注意
東方永夜抄ではありません。
タグにも付けましたが、これは死にネタです。グロはないです。多分。
鬱表現があるかもしれません。
百合成分も含まれています。
ちょっとだけ、オレ設定があります。
も一つ、ちょっとだけある戦闘描写下手です。
それらが駄目という方は、Uターンして下さい。
それでも、大丈夫と言う方は、やっぱり私の天使です。
上を見れば綺麗な星空。
下を見れば鬱蒼と生い茂る森。
そんな場所に彼女は一人飛んでいた。
目に映る世界はどれも輝いている。
そんな世界は彼女には眩しい。
彼女が想うあの人はこの世界で一番に輝いている。
「あなたが…好き…」
彼女は空を見上げて手を上げた。
掴もうとした月はあまりにも遠かった。
否、もうこの手で掴む事はもう叶わないのだと。
流れ出る涙を拭わず彼女は月を見続けた。
題『ロストムーン』
朝日が昇る少し前。
博麗神社の巫女、博麗霊夢は目覚めた。
欠伸を一つし起き上がる。その動作はゆっくりと。
今日の朝ご飯は、昨日の残りの煮付けと味噌汁だなと考えながら台所へと向かった。
「いただきます」
霊夢は今日も飯にありつけた事を神に祈って、ご飯を食べはじめた。
「今日は忙しいから、たくさん食べよう。後で食べなくて済むように」
少し遠い目をしながら霊夢はそう呟いた。
ふと居間の壁にかけてある暦に目が止まる。その今日の日付に「宴会」と書いてあった。
久しぶりだった。およそ一ヶ月ぶりに。
主催者、文々。新聞でお馴染み、射命丸文から受けとった宴会用のお金。
これで今から買い出しに行かなくてはならない。
面倒臭いが、余ったお金は貰えるのだが、来る人数を考えるとやはりあまり余らないので、仕方なしに行くしかない。
まぁ、ちょっとでも貰えるんだと気合いを入れる霊夢であった。
「うは~。やっぱり一人で買い出しはきついよ…」
買い出しから帰って来た霊夢は、玄関の入口に荷物を置くと前に人が立っていたのに気付く。
「買い出しから帰って来たのか霊夢」
その人は、白黒魔法使い霧雨魔理沙だった。
またこいつは勝手に上がってと霊夢は溜息一つ漏らした。
「何しに来たの?」
「手伝いに来たんだ」
「………え!?」
「主にアリスが」
「上海、蓬莱、荷物を台所に」
「シャンハーイ」
「ホラーイ」
魔理沙の一言に驚いた霊夢だったが、魔理沙の後ろからやって来る人物にもっと驚いていた。
彼女の名前は、アリス・マーガトロイド。七色の人形遣いとよく言われている。
アリスがここに来る事なんて久しぶりだったから。まぁ、無理矢理魔理沙に連れて来られたんだろうと霊夢は思った。
そんな霊夢を余所にアリスは、自分の魔力で動かしている人形こと、上海と蓬莱に荷物を運ばせる。
しかし、流石に多過ぎる荷物、人形二体じゃ運べないので、余った荷物を持ち。
「こんにちは霊夢、手伝いに来たわ」
と言って、奥へ引っ込んでいった。
霊夢はそんなアリスを消えるまで、ただじっと見つめていた。その顔は、珍しい物を見てしまったという顔をしていた。
「大丈夫か、霊夢?」
「え、あ、うん…」
魔理沙に呼び掛けられるまでずっと。
ハッとして霊夢も台所へ向かった。
そんな二人を見ていた魔理沙は。
「お前ら見てたら、こう酸っぱいもん食べたくなるぜ…」
とほざいていた。
特にアリスがなと呟きながら魔理沙も奥へと入っていった。
博麗の台所は広い。五人作業していても大丈夫なくらいに。霊夢はいつもここで、一人でご飯を作っている。
一人だと寂しいと感じる時はよくある。
だけど、一人、たった一人でも隣にいるだけで、広いとは全然思わなかった。
霊夢はそれだけで、嬉しかった。
「最近、研究ばっかりしてたでしょ?」
「…ちょっとね…、息詰まって今日は息抜き」
「そ、来てくれて嬉しいわ。元気そうで何より」
「あ、ありがとう」
二ヶ月前まではよく来てたアリスだったが、ここ最近研究が忙しくて顔を全く合わせなかった。
よく来る魔理沙にそう聞かされ、霊夢は研究の邪魔をしてはいけないなと思い、霊夢はアリスの元へは行かなかった。
ただ、心配はしていた。元気にしているだろうかとかちゃんとご飯は食べているのだろうかとか。
久しぶりに見たアリスの顔は元気そうで、そんなアリスを見て霊夢は心底安心していた。
アリスは霊夢が心を許して話せる唯一人の人だから。
「おーい、霊夢。文が呼んでるぜ」
「え…もう?と、とりあえず行って来るね」
「分かったわ」
「魔理沙、用が終わるまでアリス手伝ってあげて」
「分かったよ」
多分、今日の宴会の予定を伝えるために来たのだろう。
いつも目茶苦茶だから、そんな事しなくてもいいのにと思う霊夢であった。
とにかく、忙しい時に来たので、サボって居間でのんびりしている魔理沙を手伝わせる。
少し嫌そうな顔をしている魔理沙が台所に行ったのを確認して、霊夢も外へ出て行った。
「なぁアリス」
「何?」
「霊夢の事、どれくらい好きなんだ?」
「え!?」
ガタッ。ガッチャーン。
「あっぶねー…」
アリスは持っていた皿を落としそれがまな板に当たり、まな板の上に乗っていた包丁が滑り落ちた。横に居る魔理沙の足元のすぐ側に。
「ご、ごめんなさい!!」
アリスは急いで包丁を拾う。
奇跡的に皿はまな板の上で止まっていた。
「そんなに動揺する内容だったか?」
「し、知ってたの?」
魔理沙には顔を向けず、アリスは包丁を洗いながら、怖ず怖ずと聞いてきた。
顔を見たら真っ赤だった。
「あぁ。お前、霊夢が好きだと気付いて、二ヶ月間会いに行けなかっただろ」
「そこまで!?」
「だから、私が霊夢にアリスは研究に没頭してるって言ったんだ」
「そう、だから霊夢は来てくれなかったのね…」
「そんなお前、霊夢と会ったら暴走しかねないからな」
「その辺は感謝するわ」
そう。アリスは二ヶ月前、いつも気さくに話してくれる優しい霊夢の事が好きだと気付いた。
霊夢の事を考えるだけで、顔を真っ赤にしそのまま妄想に入ってしまって、そのまま一日を過ごす事が多々あった。
だから、たまに遊びに来ていた魔理沙に気付かれたのだ。
こんなアリスを霊夢に見せられないなと思い、魔理沙は霊夢に嘘を付いた。
まぁ、だが、それが良かったのだが。
でも、流石に二ヶ月も会わないとなると霊夢も可哀相なので、宴会である今日を選んで、魔理沙はアリスを連れて来たのだ。
「お待たせ」
「おぅ、じゃあ私は、境内の掃除でもしてくるぜ」
「……。あんた誰!?」
「酷っ!手伝ってやろうってんだ、素直に受け取りな」
「受け取りなって…。まぁ、助かるわ」
「任せとけ!」
そう言うと魔理沙は、楽しそうに鼻歌を歌いながら出て行った。
そんな魔理沙を見て霊夢は、気持ち悪いと呟いていた。
「お待たせアリス。それが終わったら休憩していいから」
「………」
「?どうしたの?顔赤いけど、風邪?」
霊夢は、さっきから妙に静かなアリスを見る。見たアリスの顔は赤かった。
霊夢は風邪と思い、アリスの顔に自分の顔を近付けた。
「れ、霊夢!?」
「大丈夫?」
「だ、大丈夫。大丈夫だから続き作りましょ」
「そ、そう?アリスがそう言うんなら…」
アリスは何度も大丈夫と言うので、霊夢も仕方なしに作業に戻るしかなかった。
宴会の用意が終わり、人数も大分集まった。
後は、霊夢と話終わった後どこかに飛んで行った文が来るのを待つだけ。
待てない者が多々居るが、まぁいつもの事なのでさほど気にしない。
「霊夢、こんばんわ」
「どうしたのよ、紫」
私も早く飯を食いたいと霊夢は思った。
そんな事を思っていると隣から、空間の切れ目から上半身を出している、八雲紫
が居た。通称、隙間妖怪と言われている。
「ちょっと話があるの。少し奥に行きましょう」
「…分かったわ」
いつになく真剣な顔をしている紫を見て、霊夢も真剣になる。
あのいつも余裕に満ちた顔をしている紫が、だ。
そんな顔をするのは決まって、霊夢に異変解決を依頼する時だと決まっている。
「ごめんなさいね、こんな時に」
「いいから、さっさと用件を言いなさい」
「ここ一週間前から里の近くの森に、ある一匹の妖怪が出るらしいの」
一週間前に一人の男がそいつに殺されていたのを何人かが発見した。
それから度々、その妖怪を見かけるが、何故か襲って来ないのだそうだ。
しかし、一昨日、一人の男の人がその妖怪から襲われて、怪我をして帰って来たらしい。
それでも、腕を切られた程度だったので誰もがすぐ治ると思っていた。
先日、その男の人は死んだ、と…。
だから、里の者は、それに怯え助けを求めて来たそうな。
「よく分からないけど、とにかくそいつを倒せばいいのね?」
「私もさっき知ったからね」
「面倒臭いけど、いいわ」
「倒せば、里の者から報酬が貰えるわ」
「お賽銭!面倒臭くないわ!俄然やる気が出て来たわ!!」
「明日でいいから来てくれと」
「分かったわ!!」
キラキラ輝く霊夢を見ながら、紫は、じゃあ、用件は伝えたわと言って、隙間に入って行った。
暫く燃えていた霊夢は、外がさっきより、より一層騒がしくなっているのに気が付いた。
文が来て、もう始まったのだなと分かった。
霊夢も急いで外へ出た。
「霊夢さん、何処に居たんですか、もう始まってますよ」
「ちょっとね…」
出て来た霊夢を見て、文が声をかける。
紫と話していた事は、秘密だ。
報酬を奪われてなるものかと考えていたが、こういった類の事は大抵私がやらないといけないのだと思って少しうなだれた。
「霊夢さん、実は今日はちゃんとした企画がある宴会なんですよ!!もう大半の人が発表しましたが」
「へぇ、何?」
「ずばり!!自分が一番大切だと思うものは何!?という企画です」
大切だと思うもの…、霊夢は少し頭を抱えた。
大半の人が発表したと、皆のも見たかったとも霊夢は思った。
「私は、この帽子と箒だぜ!!トレードマークだからな!!」
霊夢が考えていると、霊夢の右隣りに来て魔理沙が大きな声で発表した。
歓声と少しブーイングが飛んで来た。
しかし、魔理沙だ。笑って、いいだろうと言っている。
そんな魔理沙が少し羨ましいと霊夢は思った。
「私は、この上海人形と蓬莱人形よ!!」
魔理沙を見ていると、今度は左隣りにアリスが来て大声を上げた。
大声を出すアリスなんて珍しい。
言った後、アリスは霊夢の方を見て顔を少し赤く染め、微笑んだ。
霊夢は思った。
私の大切なものはお賽銭かと思っていたが、それは違うのだと気付いた。
霊夢は、右隣りに居る魔理沙の顔を見た後、左隣りに居るアリスを見る。
そして、前を向き。
「私の大切なものは…、これです!!」
そういうな否や霊夢は、二人の手を握って持ち上げた。
筈だった…。
「霊夢さん!大胆です!!」
「二人はそういう関係だったのか?」
「そーなのかー?」
「私は、あなたたちを応援しまーす!!」
持ち上げた手は一つだけだった。
右に居る魔理沙の手は掴めなかったのだ。
今、よく見ると魔理沙は少しだけど離れていた。
霊夢は、左に居るアリスを見た。俯いていて顔は見えなかったが、耳が真っ赤に
なっているのを見て、霊夢も一瞬にして真っ赤になった。
そんな二人を皆は、いつまでも茶化した。
それでも、手は繋がれたままだった。
宴会も終盤、いつもながらに殆どが、酔い潰れて寝ていた。
霊夢も大概、酔い潰れるが、明日は大事な用があるので、たくさんの人からの誘
いを全部断っている。
お賽銭のためだと言っているがそんな事はないと思うが…。
とにかく、紫やアリスに頼んで、酔い潰れて帰れない人達を今日は泊まらせる。
帰れる人はなんとか帰って貰う事にした。
人が居なくなった境内は、ゴミだらけだった。
そんな惨劇を霊夢は、片付けは明日するかと思いながら、縁側で茶を啜っていた。
「隣、いいかしら?」
「お疲れ様アリス。どうぞ」
「ありがとう」
酔い潰れた人達を中に運び終わったアリスがやって来た。
紫はさっき一声掛けて帰っていったのを思い出す。
紫は運ぶだけ運んで帰っていったのだ。その点、アリスはちゃんとその人達に布団を掛けていた。
アリスは優しいなぁ、と霊夢は思った。
「今日はごめんなさいね」
「いいえ、私は楽しかったわ」
「今日はもう帰るの?」
「そうね…。流石にもう部屋が空いてないから、帰るわ」
広いと言っても流石に酔い潰れて帰れない人達で埋まった部屋を見て来たアリスは思う。
「私の部屋で私と一緒に寝たらいいのに…」
「え?」
「あ、いや、ごめんなさい。アリス忙しいもんね…、帰らないとね…」
驚いた。唯一空いてる霊夢の寝室。但し、布団は一つ。
アリスはこんなまたとないチャンスを逃す筈はなかった。
霊夢が落ち込んでいる事に気付かずアリスは声をあげた。
「迷惑じゃないなら、一緒に寝たいわ!!」
「え、でも研究は…?」
「いつでも出来る、だからお願い!!」
アリスは、霊夢の手を掴んで一生懸命せがんだ。
「分かった!分かったから…、アリス…近い…」
せがみ過ぎて、アリスは気付かず霊夢の顔に自分の顔を近付け過ぎたのだと、霊夢に言われるまで分からなかった。
慌てて、アリスは霊夢から離れる。
離れた後、二人は暫く見つめ合った。
「ごめんなさい、でも本当にいいの?」
「いいわよ。わ、私が言ったんだもの」
「可愛いわよ、霊夢」
「なっ!……アリスこそ…」
やっぱり霊夢は可愛い。
そんなことはない、アリスだって可愛い。
二人でお互いの事誉め合って、二人で照れて。
うん、二人とも可愛い。
「布団、一人用だからちっちゃいけど、くっついて寝れば大丈夫よね」
霊夢は、押し入れから布団を出しながら、アリスに聞く。
それを聞いたアリスは、顔が一気に真っ赤になった。
一緒に寝ると言っても少し離れてるかと思っていたが、霊夢さん家のお布団は小さいのだ。離れたりしたら布団からはみ出すではないか。これは迂闊だった。
アリスの頭は一気に真っピンクに染まった。
「YES!!」
「!?………。あ、そういえば言うの忘れてたわ」
「何を?」
「明日、私里に行かなくちゃいけないの、もし良かったら留守を頼まれてくれないかしら。片付けは帰ったらするわ」
「いいけど…、いいの、私で?」
「アリスだからお願いできるの。信頼してるからね」
「分かったわ。片付けもしておくわ、今日のお礼に」
「そう、助かるわ」
笑顔で霊夢に、しかも信頼もしてると言われたら断れないじゃない、とアリスは内心悶えていた。
「明日早いのでしょう?寝ましょう」
「そうね、電気消すわね。お休みアリス」
「お休みなさい霊夢」
霊夢の声を合図にアリスは布団に入る。カチッカチッっと電気が消えていった。
それから、霊夢が布団に入って来た。
あまりにも静かな空間、アリスは自分の心臓の音が霊夢に聞こえやしないかとまた心臓をドギマギさせていた。
アリスは暫く眠れないなと思った。
そんなことを考えていたら、霊夢の左手が何かを探してる感じで動いている。
そんなことないよねと思いつつアリスはお腹に乗せていた右手を下ろした。
すると、霊夢の左手はしっかりとアリスの手を掴んだ。
驚いて霊夢の方を見たら、霊夢は向こうを向いている。
アリスは照れてるのだなとすぐに分かった。
嬉しかった。とてつもなく幸せだなと思った。
それと同時にアリスは思った。
今夜は眠れそうにないわね、と。
恥ずかしかった。アリスの手を掴むのは。
でも、そうしたかったからそうした。
今日はゆっくり安心して眠れそうだ。
それと同時に霊夢は思った。
今夜はずっと起きてたいわ、と。
翌日。
なるべく早い段階で退治した方がいいだろうという事で、霊夢は朝早くから里に降りて来た。
アリスはまだ寝ているだろう。可愛い寝顔を思い出し霊夢の顔が緩む。が、すぐに顔は険しくなった。
やはりどんな状況でも気は引き締めないといけないのだ。そうだ。
紫に何処に出るとか聞かなかったので、今から長に会いに行く。次の角を曲がれば長の家だ。
「あれ?」
長の家が見えたところで、家の前に宴会の時によく見る人物が居た。
竹林にある幻想郷の医療所、永遠亭に住む、鈴仙・優曇華院・イナバと八意永琳だ。
何でここに居るのか分からない霊夢は、首を傾げながら尋ねた。
「どうして、あなたたちがここに?」
「あら霊夢、早いわね」
「私たちは、紫さんに頼まれて一昨日亡くなった人を見に来たの」
霊夢と永琳が話してるところを鈴仙が間を割って話し出した。後ろで、ちょっと怒っている永琳が見えた。
「でもね、不思議に思った私は、昨日宴会の帰りに一度訪ねたの」
「居ないと思ったらそんな事を」
「調べた結果、何か強力な毒でやられている事が分かってね、もう一度見に来たの」
「へぇ」
永琳の話しがどこか面白いのか、霊夢は生き生きと話しを聞いていた。
「でもね、昔こういう毒をどこかで見たことあったのかしら、解毒剤が一つあったの。良かったら持っていって、効く筈よ」
「へ、私?」
「そうですよ、霊夢さん良かったですね!」
複雑な気持ちで霊夢はそれを永琳から受け取った。そんなの余裕で倒せるだろうと思っていたから。
渡された解毒剤は、細い瓶に緑の液体が入っているものだった。
永琳から渡されたものだ効く筈だろう。
とにかく渡された大事なものだ。霊夢はそれをどんなに暴れても落ちないところに仕舞い込んだ。
「受け取ってくれないかと思ってたわ。それ、材料はあるけど作るのに時間かかるから面倒なのよね」
「今はこれ一つしかないの?」
「そうよ。あ、後一つ。それ丸々一本一気に飲まないと効果は出ないから注意ね」
「分かったわ。とりあえずありがとう」
「今から行くのでしょう?気をつけて」
「気をつけて下さーい!」
霊夢は長に話しを聞くと余裕で、倒して来るわと言いながら飛んで行った。
「何か嫌な予感がするわ…」
「え?」
「急いで帰りましょう」
「分かりました」
急に襲ってきた不安に永琳は暫く霊夢が飛び去った方を見つめた。
確かこの辺りでよく見掛けると…、霊夢はとりあえず下に降りてみた。
霊力を使って、注意深く辺りを見回す。
何も感じない。
結界を張って待ってみる事にした。
暫くすると、微かだが何かがこちらに向かってきている。
霊夢は符を持ち、構えた。
ピリピリとした空気、霊夢はこれまでに感じた事のない嫌悪感にかられる。
油断したら怪我をしかねない。注意しないとやられると霊夢は感じた。
見えてくる影は、人間くらいの大きさだ。ゆっくりとこちらに近付いている。
半径二メートルの結界の前まで来た時、そいつは止まった。
手は地面まで付く程長く、爪も長い。足は短く、しかし膝の辺りから角のような変なものが出ている。
それだけなら妖怪だ。
だが、そいつはそいつの顔は人間の顔そのものだった。
「お前が、博麗の巫女か?」
だが、声はガマ声でかなり掠れていた。
その異様なまでの姿に霊夢の顔は真っ青になった。
「そうよ」
「そうか…ついに…」
「どうして、人間を殺すの?スペルカードは?」
「そんなものは必要ない。全てはお前を殺すため、復讐だ!!」
「あなたとは初対面よ」
あくまで平静を装う霊夢。だが、顔からは冷や汗が流れていた。
「そうだな、お前とは初対面だ」
「どうして復讐なの、殺す前に理由の一つぐらい知りたいわ」
「はっ!いいだろう。俺は元は人間だ。三百年前まではな…」
ある日、妻と子供を連れて出掛けた。貧乏だから森に食料を探しに来たとか。
そしたら急に妖怪に襲われて妻は喰われた。子供の足は速く、必死に逃げていた。自分には助ける事ができない。
幸い博麗の神社の近くまで来ていたため巫女に助けを求める事にした。
だがそいつは、その時の博麗の巫女は…「諦めな」と言って神社からは一歩も出てくれなかった。
「それから俺は復讐を誓った。妖怪に頼み妖怪にしてもらった。何十年、何百年掛かろうと博麗の巫女を殺す事だけを願ってなぁ!!!」
「そう…。それなら正当防衛であなたを倒すわ!!」
そう言い放つと霊夢は結界を解き、妖怪に向かって飛んだ。
スペルカードはない、ただの殺し合いだ。容赦はしない。
霊夢は懐からもう一枚、符を取り出すと。
「霊符、夢想封印!」
砂煙が舞う。
妖怪から何も動きがなくて霊夢は焦る。こんな奴に負けたくない。
頭のリボンから持って来た針を取り出して、勘でいるだろう場所に数本投げた。
「うぐっ…」
手応えありとガッツポーズ。
「呆気ないじゃない」
そう呟くと留めにと符を構えた。
ガッシャーン!
「っ!霊夢の湯呑みが…」
最後にと洗い終わった霊夢の湯呑みを手を滑らせて落としてしまった。
大切にしている霊夢の湯呑み。アリスは申し訳なさで一杯になった。
それと同時に強烈な不安が胸を襲う。
「何か割れるような音したけど、大丈夫か?」
割れた音を聞き付け居間の方から顔を出したのは魔理沙だ。
もう昼だというのについさっき起きてきたお寝坊さんである。
「大丈夫よ、ごめんなさいね」
カチャカチャとアリスは昨日、文に貰った文々。新聞に乗せて行く。
まだ一文字も読んでないが、まぁいいだろう。
「霊夢の湯呑みじゃないか。どうしたんだアリスらしくない」
「そうね…。ちょっと手を滑らせただけ、霊夢に後で謝らなくちゃ」
無理して笑っているアリスを見て魔理沙は何も言えなくなってしまった。
自分が感じている不安はアリスも感じているのだろう。いや、多分、幻想郷にいる誰もが感じているのだと思う。
魔理沙はそう思わずにはいられなかった。
「だ…か、……んか!?」
魔理沙も手伝おうかとアリスに聞こうとした時、外から聞き慣れない声がした。
アリスと目が合う。
「霊夢への客かな?ちょっと行ってくる」
そういうと魔理沙は、出て行った。
主は留守だから、すぐに断って戻ってくるだろう。そう思いながら、アリスは丁寧に破片を拾っていた。
「はぁ!?霊夢が?ありえないぜ…」
いきなりの魔理沙の大声。それだけならあまり気にしないが、霊夢という単語が出てきたではないか。
アリスは急いで、外へ向かった。
「どうしたの!?」
「アリス!」
向かった先で魔理沙と話しをしていたのは、里の長だった。
よく人形劇で使わせてもらうと許可を頂きに行くとき何度も顔を合わせた人だ。
なぜ、そんな人がここに居るのだろうか。そんな疑問がアリスの頭を過ぎる。
「アリスさん、今、博麗の巫女様に頼んで妖怪退治をしてもらっていたのですが、その…」
「霊夢が妖怪退治に失敗して、気を失っているそうで、里で匿ってるのだそうだ」
何故か少し言いづらそうに話している長を差し引いて、魔理沙が間を割って話した。
アリスの顔が一瞬にして真っ青になる。
いてもたってもいられなくなって、アリスは飛んだ。霊夢の元へと。
「あ、おい!悪いが留守頼むぜ!」
「あ、私の家に寝かせているからな!」
叫ぶ長の声を聞いて、魔理沙も飛び立った。
アリスに五分程遅れて到着した魔理沙。
こんなに取り乱しているアリスを見るのは初めてだった。
そんなにそんなにも霊夢の事が好きなんだなと少し妬けてしまった。
扉を開けて魔理沙も中に入る。アリスの声が聞こえる方に足を進ませて、一室の障子を開けた。
「霊夢っ…」
「あら魔理沙どうしたの?」
絶句した。
あまりにもボロボロな姿に魔理沙は声を出せなかった。
頭には包帯を巻き、顔にはいくつもの傷、霊夢の特徴である紅白の巫女服は、霊夢の側で綺麗に畳められてあった。原形を留められずに…。
今霊夢は白い服を着ている。
下の方は布団が掛けられてあったので、どうなっているかは分からない。
顔面蒼白で、それでもアリスたちに心配掛けないようにと笑顔を向ける霊夢に魔理沙の心はいたたまれなくなった。
魔理沙は、手に爪が食い込む程、手を握り潰した。
アリスは止められない涙を拭わず霊夢の手を両手で握った。
「永琳…、永琳を呼んで来るぜ…」
そんな二人の光景を見て泣きそうになって、魔理沙は思った。
邪魔をしてはいけないな、と。
魔理沙は帽子で顔を隠して部屋を出て行ってしまった。
暫く静かな時間が流れた。アリスの泣き声を除いて。
霊夢は天井を見ながら、何かを決心したような顔付きになる。
怠い体を無理矢理起こして、ずっと泣いている愛しい人の顔を握られていない反対の手で、撫でた。
その顔は、初めて見るとても穏やかな顔だったからアリスは驚いて霊夢を見つめた。
「アリス…ぐしゃぐしゃだよ…、可愛い…」
目が離せなかった。綺麗に微笑むその顔にアリスは涙と赤くなった顔で本当にぐしゃぐしゃになった。
でもどこか変だ。霊夢のその笑顔を見ていたら不安が大きくなっていく。
「霊夢…どうしたの?」
「ちょっとね…。アリス、お願いがあるの…」
「何?」
霊夢からのお願い。
アリスは嬉しくてしょうがなかった。でも、努めて冷静を装う。
霊夢も少し言うのを躊躇っていたが、意を決してアリスに言った。
「私を森まで連れて行って…」
「え?」
そんな事、お安い御用よ、と思ったが、次の霊夢の言葉で霊夢の優しさが伺えた。
「右足がやられてあんまり動かないの。だから、連れて行って欲しいんだけど、アリスには危険な事させたくないから、私を降ろしたらここに戻ってくれないかな…?」
嬉しい、嬉しいけど…。一人では行かせられない。
こんな傷付いた霊夢を置いてアリスだけ戻るなんてできやしない。
そう…できない。アリスは優しいから。
霊夢が好きだから…。
決心したアリスは、ぐちゃぐちゃな顔を拭って言った。真っ直ぐ霊夢を見て。
「霊夢…好き…。貴方が大好き…。だから貴方を置いて一人で帰れないわ」
そう言うとアリスは恥ずかしさで顔を見られないよう霊夢に抱き着いた。
霊夢も最初は驚いて動けなかったが、ゆっくりとアリスを抱きしめ返した。
ぎゅっと。
「ありがとうアリス…」
真っ赤な顔で、一粒の涙を流した。
二人は今、森に居る。
ついさっき取り逃がした妖怪を最後に見たのはここだ。
その証拠に暴れた跡がそこにあった。
あの時…、霊夢は留めを刺せなかった。
距離を保っていたのに手が届く範囲に居なかったのにそいつは、妖怪は手で攻撃をしてきた。あの手は自由に伸びるのだろう。油断した。
お蔭様で、右足は動かなくなった。どうしようもない、右腿が貫通したのだから。
霊夢は何とか起き上がり留めを刺そうとしたのだが、そこにはもう妖怪の姿はなかった。
だから霊夢も里に戻ったのだが、里の手前で意識を失ったのだ。血を流し過ぎて。
そして、今に到る。
妖怪はそこに居た。
二人を待つかのように。いや、霊夢を待つかのようにさっきと同じ場所に立っていた。
「アリス、私の後ろに居て。で、なるべく結界を張っていて」
どうにもやりにくい。
相手の行動がどう動くか分からなくなった今、アリスを無理に戦わせる事はできない。
霊夢はアリスを後ろに下がらせた。
「分かったわ。でも霊夢が危ないと思ったらすぐに助けるわ」
アリスの言葉に霊夢はコクンと一つ頷く。
アリスもそんな霊夢を見て後ろへ下がった。
二人が二人、信頼している証拠だろう。
「さて、さっきはよくもやってくれたわね。お蔭様で久しぶりに気を失ったわ」
「こちらこそ。あのままほっといても良かったのだが、毒では殺したくなかったものでな」
「そう、段々体が怠くなってきてるのは毒のせいね。お生憎様、解毒剤を持っているわ」
そう言うと霊夢は、自分のポケットに手をあてた。
妖怪を倒してから使った方がいいだろうという事で、まだ使わない。
これ一つしかないのだから。
「そうか。まぁ、私はこの手でお前を殺したいからな」
その言葉を合図に二人は動いた。
霊夢は精神を強く保ち、相手の攻撃を寸でのところで避ける。
毒を喰らっている今、これが精一杯なのだ。
妖怪も躊躇なく、そんな霊夢を右、左の手で攻撃する。
どこまで妖怪の手が伸びるのか分からないが、霊夢は一旦距離を空ける。
「霊符、夢…うっ…」
一瞬、霊夢の視界がぼやけた。毒が回っているのだ。
その一瞬が命取りになった。
妖怪の真正面の拳を貰い、大分下がっていたアリスの元まで飛ばされた。
「霊夢!!」
アリスは慌てて霊夢の元へ行こうとしたが、妖怪がこっちに向かっている事に気付いた。
こちらへ向かって来る妖怪と霊夢の間へ入る。
「そこをどいてくれないかお嬢さん。用があるのは博麗の巫女だけだ」
「嫌よ」
ここをのいたら霊夢が殺される。それだけは避けたい。
アリスは、上海を前に出し、蓬莱で霊夢の様子を伺った。
死んではいない、気を失っているようだ。
だが、状態は良くない。毒のせいだろう、顔はもう真っ白で汗だくで、息が荒かった。
アリスはやばいと思った。早く決着を付けないと霊夢が危ない、と。
「そうか、ならばまずはお前を倒す」
妖怪はそう言うと霊夢を吹っ飛ばしたあのパンチを繰り出した。
アリスは複数の人形を召喚すると、防御は上海に任せ他の人形を器用に操って伸びた妖怪の腕を切っていく。
が、妖怪の皮膚は硬く刃があまり通らない。やはり魔法で倒すしかないとアリスは思った。
次の行動をしようと思ったアリスだったが。
「ア…リス……」
「霊夢!気が付いたのね!」
霊夢の意識が戻った。
妖怪を見据えながらアリスは答える。少しほっとしているようだ。
しかしほっとしたのも束の間、妖怪は地面高く飛び上がった。
どんな攻撃が来るか予測不可能。だが、どんなものでも対処はしなくてはならない。
妖怪は腕を振り上げ、勢い良く拳を振り下ろした。やはり行動パターンは一緒みたいだ。だが、威力が違う。
右腕からのパンチ。アリスは人形たちを並べて防御壁を張る。
しかし、そんなものは通用しなかった。防御壁なんて魔法なんて気にせずに妖怪は人形ごと吹き飛ばした。
人形を元に戻す暇がなく次の左からパンチが来た。
だけどそれはただのパンチじゃなかった。爪を立てて、真っ直ぐに殺す気満々だ。
しかし、少し遅い。これぐらいなら避けれる。いや…避けれなかった。
アリスは諸にそれを腹にくらった。
視界が歪む。
吹っ飛ぶのと同時に三本の爪がアリスから貫ける。
アリスの腹に三箇所、風穴が開いた。生々しく血が流れ落ちる。
「あ…かはっ……」
「アリス!!」
地面に横たわるアリス。もう立ち上がれない。
それを見た霊夢はアリスの元へ体を引きずって行く。
何で避けなかったのよと叫ぶ霊夢。
そんなの決まっている…。決まっているじゃない…。
「貴方が後ろに居たからよ…」
そう言って霊夢の頬を撫でた。霊夢の顔は血に染まった。
血を止めようとお腹を触った手で霊夢を触ったのだ。
しまったと思い引っ込めようとしたが、霊夢がそれをさせなかった。
両手でアリスの手を握って、頬に当てたまま霊夢は涙を流した。
「霊…夢…」
「私のせいでっ、ごめんね…っ!」
「ちがっ…う…」
霊夢のせいじゃない。
むしろ良かった霊夢が無事で。
「霊夢が…っ、好き…っだから…当たり、前の…こと…」
霊夢は気付いた。
血を流し過ぎたせいもあるだろうけど、違う…。これは…。
数秒悩む、時間にして短い時間だが、霊夢にはとても長く感じた。
決心して霊夢は、ポケットに入っている解毒剤を取り出した。そして、アリスを見た。
「アリス…」
霊夢は再び涙を流した。
霊夢は初めてその気持ちに気付いた。
アリスの事は好きだ。でも、魔理沙や紫も同じ好きだ。
だけど、何かが違う。
そうだ、アリスは優しくて世話好きで、人形みたいに可愛くて話していて楽しい。こんな感情を抱くのはアリスだけなのだ。
そう…、霊夢はアリスが…。
「アリス…」
もう一度名を呼ぶ。
「霊…夢……」
答えてくれた。
「アリス…、私は好きよりももっと…、貴方を愛してるわ」
くしゃっと微笑んだアリスを愛しく見つめて、霊夢は持っていた瓶の蓋を開け、一気に口に流し込んだ。
そして、アリスにキスをした。
アリスの意識はそこで途切れた。
地面に瓶を投げ捨て霊夢は妖怪に向かった。
「あんただけは許さない!!」
怒りを込めた台詞を吐き捨て、霊夢は霊力をフルパワーに出し妖怪に突っ込んだ。
目が覚めた時、アリスはお腹に痛みがないことに気付く。傷が、お腹に開いていた穴はない。
夢だったのではないかと思ったが、ここはまだ森だ。現実に引き戻される。
いや、夢だったならば霊夢のあの言葉もなかった事になる。夢じゃなくて良かった。
はっとして、周りが静かで誰も居ない事に気付いたアリス。
慌てて霊夢を探す。探そうとして立ち上がった時、血が大分抜けたせいか、クラッとした。でもこのぐらいなら大丈夫だ。
なんとか体を持ち上げ、歩き出した。
気を失ったため、魔力が切れたせいで、寝転がっている上海たち。そんな上海たちに再び魔力を通した。
上海たちに霊夢をどこに居るか探させる。
確認は、この目でしたい。ちゃんと無事だという確認を。
人形たちに続いてアリスも探す。すると、蓬莱から連絡が、見つけたようだ。
急いでそこに向かったアリスが見た光景は凄まじかった。
森に空いた広い空間、さっきまであったはずだろう木は、跡形もなく、なくなっていた。向こう側の木は、霞んであまり見えない。
その空いた空間の真ん中に霊夢たちは居た。
向かい合って立っている。アリスから見たら、霊夢の背中が見える。
だが、全く動かない。
アリスは、霊夢と叫ぼうとした瞬間、妖怪が動いた。動いたというより、横に傾いた。
ズシンという音が聞こえて、振動がきた。倒れたのだ。それっきり妖怪は動かなくなった。
アリスは何が起きたか分からなかったが、これだけは分かった。
霊夢が妖怪を倒したのだと。
アリスは嬉しくて霊夢に駆け寄ろうとした。
「霊夢!!」
ありったけの声で叫ぶ。
一瞬、霊夢がピクリと動いた。そして、ゆっくりとアリスの方を向く。
顔だけこちらを向いた霊夢はアリスを見ると、笑った。
笑った…まま、霊夢は前に倒れた。
「霊夢っ!!?」
二度目の大声。だが、その声にさっきの安堵感はない。心配と焦りの混ざった声だった。
アリスは霊夢の元まで行くと急いでその体を抱える。倒したといっても、いつ妖怪が起きてくるか分からないからだ。
でも、妖怪は全く動く気配はない、やはりもう死んでいるようだ。
ほっとして霊夢を見る。
「良かった…アリス…が、無事で…」
見た瞬間アリスは凍り付いた。
顔は真っ青で汗は出て、息は荒く肩で息をしている霊夢を見て。
それでも、笑ってアリスを見て心配してくれる霊夢にアリスの心は、嬉しくて傷んだ。
「霊夢、もう喋らないで。永琳を呼んでくるから」
焦る気持ちを押し込めて、アリスはまず、霊夢の治療をしないと危ないと思った。
連れて行こうとも思ったが、なぜかあまり動かしてはいけないような気がして、そうしなかった。
だが、霊夢がそれをさせなかった。
「お願い…、もう……。アリス…ここ…に、居て…」
立とうとしたアリスの袖を霊夢は弱々しく引っ張る。
それだけで、押さえ込んだものが溢れ出そうになった。
「分かった、分かったからもう喋らないでっ…」
話す度に辛そうにする霊夢をアリスは見ていられなかった。
「アリ…ス…、私ね…ここに生まれてきて…良かった……」
だが、そんなアリスを無視して霊夢は話し出した。どうしてもアリスと話しをしたいのだ。
霊夢は、ゆっくりと出ない声を無理矢理絞って、言葉を紡いでいく。
「ここじゃ…なかったら…、紫や…魔理…沙に、出会えなか…った。アリスに…も……」
やはり耐え切れなかったアリスは、霊夢の顔にたくさんの涙を零した。
もういい、と呟きながらもアリスは霊夢の声を一文字も逃すまいとしっかりと聞いていく。
「面倒、臭…かった、異変解決も…宴会も…、本当は…凄く……凄く、楽しかった…。たく…さんの…人と、話せ…て、嬉しかった…」
「そうだね、でもまだ霊夢と話したい人はたくさん居るよ…。だからそんな…もう会えなくなるような事言わないでっ」
「ふふっ…、やっぱり、アリスは…可愛…い…」
「っ!!」
卑怯だ。卑怯だ。
ここで、そんな事言われたらもうアリスの涙は止まってくれない。
霊夢の体に顔をくっつけ、顔を見られないようにアリスは泣いた。大声で。
そんなアリスの頭を霊夢はポンポンと優しく撫でた。
「アリス…」
「何よっ…」
空を見た。綺麗で青い空。
アリスと重ねて、また一段と綺麗になって、そんな空よりも美しいアリスが霊夢は好きだ。
ずっと好きでありたい。
アリスをアリスだけをずっと見ていたい。
アリスも霊夢だけを好きでいて欲しい。
大丈夫だろうこの二人なら。大丈夫。
霊夢がアリスの頭を撫でるのを止めた。
「さっきの…、愛してる…って、なかったことに…して…欲しい…」
「えっ!?」
止めたのと同時に声を出す。
その言葉にアリスは、勢い良く顔を上げた。何で、という顔をしている。
「言い「霊夢!アリス!!」」
霊夢の言葉は聞けなかった。それを遮ったのは、魔理沙だ。
二人は声のした方に顔を向けた。
「魔理沙…」
「おい、一体どうしたんだ!?……霊夢、どうして…」
叫ぶや否や、アリスの影で見えなかった霊夢を見ると、魔理沙は言葉を失った。
そんな魔理沙を見て霊夢は、手をクイクイっと動かして魔理沙を呼んだ。
「耳、貸して…」
「お、おう…」
霊夢の言う通り魔理沙は耳を霊夢の口元に持って行く。
「アリスを…お願い…。でも…、私の…っだから…手は、出さない…でね…」
「おまっ!」
魔理沙は、口から耳を離し、顔を真っ赤にさせ、しかし泣きそうな顔で霊夢を見た。
そして、顔を背けた魔理沙をほっといて、霊夢はアリスを見て微笑みかけた。
「アリス…」
「ん」
「アリス…」
「ん…」
霊夢に呼び掛けられる度に返事をしては涙を流す。
「ア…リス…」
「ん……」
もう近いのだと。
「アリ…ス……」
「っ!」
どうしようもないのだと。
「可愛…い…アリ…ス…」
「霊夢のがっ…」
声が段々出なくなって。
息はさっきより荒くて。
目はもう見えなくて。
アリスが握っている手にはもう力がなかった。
霊夢は最後の言葉を振り絞り、出した。
「…ア…リス……、ちょっと…行っ…て…くる…わ……ね……」
最後にぎゅっと握られた手は、アリスの手から滑り落ちた。
荒い息はもう聞こえない。
大好きな人の声はもう聞けなくなった。
霊夢が死んで数分後、永琳が到着した。だが、間に合わなかった。解毒剤を作るのに時間が掛かってしまったから。
永琳は、もう動かない霊夢を見て、動けなくなった二人を見た。
それから暫く黙っていたかと思うと、突然、霊夢を抱えた。霊夢の顔を見るととても幸せそうな顔をしている。大好きな友と大好きな人の傍で行ったからであろう。
動かない二人を置いて、永琳は歩き出した。
そんな永琳を見て、魔理沙は立つ。霊夢の言葉を思い出して、私がしっかりしないと、と気合いを込めて。
「アリス、行こうぜ」
そう言ってアリスに手を差し延べた。
霊夢が死んで一週間後。
霊夢の遺体は、博麗神社で燃やされた。
たくさんの人が来て、たくさんの人たちが泣いた。
ただ黙って涙を流している人も居れば、泣き喚いて霊夢に近付こうとして止められている人も居た。
博麗の巫女、博麗霊夢はたくさんの人から愛されていたのだ。
そんな中、アリスはただ黙って涙を流さずに燃え逝く炎をずっと見つめていた。
「アリス、こんばんは」
「どうも…」
と、突然横に一人の妖怪が現れる。
それでもアリスは炎を見つめたまま対応する。
「どう、調子は」
「心に穴が空いた感じだわ…。紫は?」
「私もよ…」
それは紫だった。
「新しい巫女は…?」
「見つかったわ」
「そう…」
博麗の巫女はもう霊夢じゃない。もうここに来ても霊夢は居ないのだ。
あの腋を出して寒いとか言っている巫女にもう会えないのだ。もう二度と…。
そう思うとアリスの心は更に悲しくなった。
泣きそうになるアリスの横にまた一人の客が現れた。
「アリスさんっ!」
小野塚小町。最近よく宴会に顔を出している人だ。話した事はない。
「私は、ここで失礼するわね」
小町を見るや否や、紫はそそくさと境界の中に消えていった。配慮してくれたのだろうか…。
「どうも初めまして」
「初めまして。あの、霊夢から、アリスさん宛てに伝言を届けに来ました!」
炎から小町へ顔を向ける。
小町は三途の川の船頭だ。霊夢はあたいが送りました、と真剣な顔で言う。
「伝言は!?」
一息付く。
「『報酬預かっといて、取りに行くから』だそうです」
え、と間抜けな声が出たアリス。
暫く沈黙が続く。
そして、それを壊したのはアリスで、突然吹き出した。
「ぷっ、くふふ…。霊夢らしい…。ははっ、あはははっ!」
急に笑い出すアリス。
そんなアリスを見て小町は驚いた。
だが…。
「ははっ…ぁ…、…っ、霊夢っ…霊夢っ!」
「アリスさん……」
小町は思った。
この中で一番辛いのはアリスじゃないのかと。
宴会で度々見る二人はいつも笑い合っていて、幸せそうだ。
小町の目から二人の関係はそう見えていた。だから分かるのだ。それに霊夢も嬉しそうにアリスの事を話していた。
死んで後悔している人は、その事をやたらと喋る。霊夢もそうだったのだ。
小町は、泣き出してしゃがみ込んだアリスの頭を優しく撫でた。そして自分もしゃがむ。
「霊夢に言わないでと止められてたんですが、言いますね」
「どうして?」
「アリスさんには笑っていて欲しいからです」
照れて、でも真剣に言う小町の顔はとても綺麗だった。
『私の幸せは、隣に居てくれるアリスが笑っていること。私の一番はアリスなのよ』
止まっていた涙はまた溢れた。
だが、さっきまでとは違う悲痛の篭った涙ではなかった。
優しく笑いながらアリスは涙を流し続けた。
そんなアリスを小町は泣き止むまでずっと撫でていた。
時は流れ十年後。
「アリスー!用意できたかー!?」
「もうすぐできるからちょっと待っててー!」
朝の時間帯。アリス邸の扉を勢いよく開けたのは、背がスラリと伸びていて金髪の髪をなびかせている女性だった。
手には箒、頭には大きめの帽子、彼女のトレードマークだ。
アリス邸の扉を背もたれにして数分待つこと、奥からアリスが出て来た。
「お待たせっ」
「よし、行くか。あいつが腹空かせて待ってるからな」
そうして二人は飛び立つ。目指すは、博麗神社。
着いた場所は、博麗神社からちょっと離れた、小さく開けた場所。
そこに小さな石が立ててあり石には、“博麗霊夢”と彫られていた。墓だった。
その石の回りにはたくさんの花が添えられてあった。
「よぅ霊夢。三日ぶりだな」
「私は一年ぶり」
白黒の魔法使いは、よくここに来ては自分の武勇伝を霊夢に話しているようだ。迷惑極まりない。
それに比べてアリスは、ここにはあまり来ない。
霊夢がいつも傍に居るからだそうな。
アリスは持って来た花と一緒に綺麗に包装してある袋も石の前に置く。
入っているのは霊夢の大好物の和菓子。毎年違うものをアリスが早起きして作っているのだ。愛を込めて。
「霊夢、アリス、私な人間のまま人生真っ当するよ」
「え?」
「どんな死に方しても私はちゃんとここで生きてたって実感してるから、だから私は人間のまま生涯を終える事にした」
「そう…」
「大丈夫だアリス、心配するな。アリスの側にはたくさんの人が居るじゃないか。私だって、霊夢だって居るぜ」
「分かっているわ。そんな馬鹿な二人を私はずっと待っているわ」
「私はまだ死なないぜっ!」
そう言っていた魔理沙は、一年後に自分で取った茸を食べて死んだ。霊夢が死んだ同じ日に。
新種の茸を調べもしないで食べるからそうなるのだ。まぁ、魔理沙らしいと言えば魔理沙らしい。
魔理沙の墓は霊夢の横に立てられた。
アリスは二人の墓を見て、目を閉じる。
二人がそこに居るような気がしてならないのだ。
そうして、三人でまた笑い会えたらどんなに幸せな事か。アリスは静かに泣き続けた。
時は流れに流れ、二百年経った。
今日は、霊夢と魔理沙の命日。アリスは今年もあの場所へ行く。
墓は、一つから二つへ、二つから四つに増えていた。
あの吸血鬼の主と二人の神様が配慮して、ここに四人眠る形となった。
「今日も幻想郷は平和よ」
アリスはそれぞれの墓に花とそれぞれに合わせたお菓子を置いて行く。
霊夢の墓を最後にお菓子を置いて、アリスは話し出した。
「皆が居るっていっても、やっぱり寂しいわ。貴方たちが生きて笑い合ってるからこそ楽しかったんですもの…」
大事な人たちが居なくなったのは遠い記憶。だが、アリスは昨日の事のように思い出していた。
「霊夢…、不思議ね…。もう貴方は居ないのに、貴方への愛は尽きる事はないわ」
胸を焦がすのはいつだって貴方。会いたいと願わずにはいられない。
「霊夢…、帰って来るのでしょう?私ずっと待っているわ」
隣は貴方のためだけに空けているから、と付け加えてアリスは立った。
次の日。
アリスは久しぶりに夢を見た。
自分が居て魔理沙が居た。そして何より隣には霊夢が居た。
あの博麗神社で宴会をしていて、皆で笑い合っている懐かしい思い出。
アリスはゆっくりと瞼を開けた。
いつものように台所へ行って朝ご飯を作る。
今日は何にしようと考えいたら、何か外から言い争っている声が聞こえてきた。
声は段々と大きくなる。どうやらこちらに向かっているようだ。
アリスは自分が寝巻きだという事に気付いて急いで着替えに行こうとしたら。
バンッ!と勢いよく扉を開けられた。こんな開け方をするのはあいつしか居ない。
「よっ、アリス!元気にしてたか?」
「ちょっとあんたね!勝手にも程があるでしょ!」
「お前がもたもたしてるから、私が開けてやったんだぜ!」
「五月蝿い!!」
アリスは入って来た二人を見て泣いた。
「魔理沙…、霊夢っ!」
そんなアリスを見て二人は笑って。
「「ただいま」」
上を見れば綺麗な星空。
下を見れば鬱蒼と生い茂る森。
そんな場所に二人の少女は飛んでいた。
輝いている月は今日も綺麗だ。
二人で笑い合っているこの瞬間が眩しい。
掴めなかった月は遠い年月をかけてやっと掴めた。
「あなたが、好き」
「好きよりももっと愛してる」
やっと言い直せたと彼女は照れて。
笑い合った。
二人手を繋いで輝く月を見続けた。
FIN
もちろんレイアリ!!
色々言いたい事があるのですが、まぁハッピーエンドで良かったです
話は王道というよりもテンプレのようで、それのために動く各キャラに強い違和感を覚えました。特に紫。あんた神出鬼没のスキマ妖怪だろに。台詞も台本を読んでるようでもうとても辛い。
最後の方もハッピーエンドと仰られてますけど、自分にはアリスが夢の中で霊夢との再会をしたか、あの世で再会したかにしか見えませんでした。最後の状態に至る経緯まで丸投げしたらだめでしょう。
とにかく読みづらく、また描写が少なすぎる作品であると感じました。
でも、此からに期待してます!
好きなPCは、レイめーです。
私はあくまでも「私個人」の感想として4.を述べたのですから、この作品をいかようにするか、今後どうするかといったことは全て作者氏の思うとおりにすべきです。
ただ一言言わせて貰えば、コメント1.や9.の方のように「この作品に対して高得点を入れた」という方たちも私と同じ立場に居るということです。この作品を消すということは、評価をしていただいた人たちのコメントや点数も消すということですから、そこも重々お考えください。
私が言っているのはあくまでも「私個人のこの作品に対する」感想であり、それを元に作者氏に何がしかを強要するつもりは全くございませんし作者氏を批難することもありません。
それを踏まえて言うなれば、このような感想なども後に一蹴するような作品を今後書けるようになっていけばいいと思っております。これはあくまでも「今この作品に対する」感想なのですから。
長文、誠に失礼いたしました。
このまま小説は残しておきます。不快感を与える小説として残しておきます。
作品は残して私が消える事にしました。でも、目的を達成していないのでどこかでひっそりとss書いていきます。
評価は本当にありがとうございました。1点でも私の救いでした。
しかし、試行錯誤の跡は十分感じられますし、レイアリは私も好物です。ぜひこれからもあなたの作品を読ませて下さい。