『猫虐待コピペ』をご存じない方はご注意下さい。
このSSはそれに則って書かれています。
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とある冬の日の、今にも雨が降り出しそうなどんよりとした曇天の日。
人里へ買い物に行った帰り道で、進行方向上空に弾幕ごっこの光が見えた。
巻き込まれたら嫌だなぁ、と思って眺めていたが、幸いにもその近くに差し掛かる頃には収まってくれた。
面倒が無くて良かった、と胸を撫で下ろしていたのも束の間。
森の中へと足を踏み入れると、木を背にしてグッタリとしている黒いのを発見した。
背格好からして、たぶん私のご近所さんだろう。
「ふむ……」
『汚い仔猫を見つけたので、虐待する事にした』
「魔理沙ー、生きてるー?」
『シャンハーイ?』
「……」
「魔理沙ー、起きなさーい。起きないと獣に襲われて死ぬわよー。雨も降りそうよー」
「ぅ、ぅぅ……」
「魔理沙ー。……ダメね、完全に伸びてるわ。
怪我もしてるみたいだし、これは弾幕ごっこに負けて墜落したのかしら?」
『マリサー? ヤラレチャッター?』
「みたいね。まあ、いいでしょ。……よいしょっと」
『シャンハイ ニモツモツー』
「ありがとう。変なおまけを拾っちゃったけど、早く帰りましょうか」
『シャンハーイ!』
『他人の目に触れるといけないので、家に連れて帰る事にする』
「うわー、やっぱり降って来たわねー。急いで正解だったわ」
『ミズモシタタル イイオンナッテナ ホラ タオルモッテキタゾ』
「ありがとう、蓬莱人形。お留守番ご苦労様。すぐにお風呂に入りたいのだけど、準備はできてる?」
『オユハワイテルゼ チョットジュンビシテクル』
「よろしくね。……やれやれ、魔理沙もずぶ濡れね。
でもまあ、元々ボロボロだから、大して変わらないかしら?」
『マリサ ボロボロ メズラシイ?』
「そうね、珍しいわね。こんな寝顔を見るのは、永夜異変以来かもしれないわね」
『マリサ ムボービー』
「そうね、無防備ね。衆目に晒すのも可哀想だし、
天狗や知り合いに見つかる前に帰って来れて良かったかもしれないわね」
「ぅぅ、さ、寒い……あれ、ここは……?」
「あら、起きたの? ここは私の家よ。何があったか覚えてる?」
「……ああそうか、私は弾幕ごっこに負けて……いててっ」
「細かい傷は数え切れないけど、一番重症なのは腕ね。折れてはいないけど、動かさない方が良いわよ。気分は? 頭は打ってない?」
「気分はあんまり良くないけど、大丈夫だ。ありがとうな」
「どう致しまして、大事無いなら結構よ」
「じゃあ、もう行くよ。世話になったな。今度、礼をするからな」
「そんなに気にしなくていいわよ。それよりね……」
「ん?」
「帰る前に、ちょっとこっちに来なさい」
『嫌がる猫をお風呂場に連れ込んで、お湯攻め』
「ちょ、ちょ、ちょっと待った! 大丈夫、大丈夫だから!」
「はい、両手を上げて万歳してー。痛いなら無理して上げないでいいわよー」
『バンザーイ』
「だから、脱がせるな! 触るなってば!」
「はいはい、足上げてー。ドロワ取るわよー」
「人の話を聞けー!」
『カンネンシロー テングノオサメドキダー!』
「それを言うなら、年貢だ!」
「いいから、とっとと脱ぐ。濡れた服をそのまま着てると、二秒で風邪を引くわよ」
「大丈夫だっ……へくしゅん!」
「全然大丈夫じゃないじゃない。ほら、脱いだ脱いだ」
「うわー、望みが絶たれたー!」
「人形遣いの脱衣技術を甘く見るんじゃないわよー」
泥と埃と雨水にまみれて酷い状態だったため、お風呂に入れようとしたら暴れられた。
が、弱った体で大した抵抗ができるはずも無く。
適当にいなして、すっぽんぽんにひんむき、浴場へと放り込む。
「アリス、強引過ぎるぜ……」
「はいはい。お湯かけるわよー」
「うわわわわわ! 熱い、熱い!」
『アレ? ユカゲン マチガエタカー?』
「大丈夫よ蓬莱。気にしなくていいわ」
「そこは気にしてくれよ!?」
「外が寒かったから、熱く感じるだけよ。ほら、温まったでしょう」
「う、うん……」
『充分にお湯をかけた後は、薬品をかけて全身をゴシゴシする』
「痒い所はございませんかー?」
「いや、大丈夫。気持ちいいぜー」
シャンプーを頭に適量垂らし、髪をワシワシと洗って行く。
途中までは警戒していた魔理沙だったが、気持ち良いのか諦めたのか、とにかく大人しくなってくれた。
「ようやく大人しくなったわね。暴れないでくれるなら、それが一番よ」
「もう諦めたよ……」
『アリスー モッテキタヨー』
「ありがとう蓬莱。じゃあ魔理沙、痛いけど我慢してねー」
「へ? 何をする気……痛い痛い痛い! 止めてくれ!」
「細かな傷がたくさんあるんだから、石鹸が傷に沁みるのは当然ね。せめて消毒が終わるまでは我慢しなさい」
『マリサ ボロボロダッタカラナー』
「う、うるせぇ! 上海は黙ってろ!」
『ヤツアタリマリサ コワーイ』
「人形に当たらないの。ほら、動かないで」
「わわわ! どこを触ってるんだよ! 前は自分で洗うから!」
「はいはい。痒い所があったら言ってねー」
「人の話を聞けー!」
「聞いてるわよ、考慮しないだけで。2人とも、魔理沙の腕を押さえてー」
『シャンハーイ!』
『ホラーイ!』
「こ、こら! 離せー!」
『薬品で体中が汚染された事を確認し、再びお湯攻め』
「うぅ、もうお嫁に行けない……」
「そう言うのはいいから。それで、どうかしら? うちのお風呂は」
「つれないなぁ。あー、まあまあだなー。うちの風呂はドラム缶風呂とどっこいどっこいだから、この広さは羨ましいぜー」
「素直でよろしい。それじゃあ、入るわよ」
「……いや待て。何でお前も脱いでるんだ?」
「何でって、三助が終わったから私もお湯に浸かりたいのよ。ほら、詰めて詰めて」
「……お前は、もう少し恥じらいって言葉を知ったほうがいいぜ」
「知ってるわよ。でも、別に女同士だし構わないでしょ」
「いやまあ、そうかもしれないけどなぁ……ところで、私はもう上がりたいんだが?」
「まだ浸かったばっかりじゃない。ちゃんと100数えなさい」
「そこまでするのか!?」
「うちでは常識よ。ほら、ちゃんと数えなさい」
「分かったよ……1、2、3、4、5、6……」
「うりゃっ!」
手早く済まそうと早口でカウントを始めたため、そのわき腹を指でぷすっと突っつく。
「うひゃう! 何するんだ!?」
「わき腹を突いたのよ。それより、そんな投げやりな数え方じゃダメよ。
ちゃんと数えないと、お風呂から出してあげないわよ」
「グッ……! ……いーち、にー、さーん、よーん、ごー……」
「そうそう、それでいいのよ。いいお湯ね~」
「くそっ、これじゃあお湯攻めだぜ。のぼせちまうよ……」
「はい、無駄口を叩いたから最初っからカウントし直しよー」
「うわぁ、横暴だぁ!」
『お湯攻めの後は布でゴシゴシと体をこする』
「体拭くから、万歳してー」
『バンザーイ』
「はいはい、バンザーイ」
「素直でよろしい。くすぐったくても我慢するのよー」
『ガマーン』
「はいはい、我慢するー」
「じゃあ、足開いてー」
『ヒライテー』
「はいはい、足開……くわけねぇだろ! そこは自分で拭くわ!」
『ヒトリデデキル エライエライ』
「お前らの認識の中では、私はどんな扱いなんだよ……」
「それはもちろん……」
「言うな、本当に言うんじゃない! 何となくだが、動物扱いされてる気がする!」
『ワガママダナー』
「我侭ねー。自分でやるのなら、頭を拭いてあげるからその間にちゃっちゃとやりなさい。
裸でいる時間は、短ければ短いほどいいんだから」
「……分かったよ。ところで、私の服は?」
「泥だらけで着れたものじゃなかったから、洗濯しているわ。
今日は私の服を貸してあげるから、それを着なさい」
「へーい」
『風呂場での攻めの後は、全身にくまなく熱風をかける』
「のぼせたー」
『グッタリマリサ ダラシネェナ』
「うるせー。体が熱くて動く気が起きないんだよー」
「確かに、いくら何でもちょっと長く浸かり過ぎたかもしれないわね。
でも、だからと言って髪を濡らしたままボンヤリしないの。湯冷めして風邪を引くわよ」
「髪はアリスが拭いてくれただろー。大丈夫だってー」
「仕上げをしてないから、全然ダメよ。ほら、ミニ八卦炉を貸しなさい」
「……返してくれよ?」
「あなたじゃあるまいし。ほら、座った座った」
ミニ八卦炉から温風を吹き出させ、魔理沙の髪を櫛で梳く。
「……」
「どうしたの、急に黙っちゃって」
「……なあ、アリス」
「なに?」
「どうして、こんなに良くしてくれるんだ?」
「その言い草は酷いんじゃない? これでも人里では優しいお姉さんで通っているのよ」
「それは、一般人相手だからだろう? 今の私は怪我人だし、そうでなくても大した礼もできないぞ」
「嫌?」
「嫌ってわけでもないけど……」
「じゃあいいじゃない。ほら、前髪を梳かすからこっち向いて」
「……」
「またどうしたの? 私の顔に何かついてる?」
「何でもないぜ」
「そう?」
『その後に、乾燥した不味そうな塊を食わせる事にする』
「……何だ、これ?」
「何に見える?」
「うーん……焦げたパンケーキを三日放置して湿気らせて、グネグネと捏ね回したらこんな感じか?」
「的確な表現をありがとう。見た目はダメダメだけど、治療薬を練り込んだパンよ」
「う、うーん……」
「安心しなさい。丸薬の材料は主にオートミールだから、栄養も腹持ちもバッチリよ」
「安心できる要素が無いんだが。と言うかオートミールかよ。むしろこれが晩飯かよ」
「それが晩御飯よ。まあ、いいから食べなさい」
「どうしても食べないとダメか?」
「骨に異常が無いと断言できるなら食べなくてもいいわよ」
「……頂きます。……あ、意外と」
「保存のため、蜂蜜を練りこんであるからね。味は悪くない筈よ」
「うん、確かに悪くない。失敗作のケーキと思えば行けるぜ」
「ま、私はそれを馬糞みたいだと思ってたんだけどね」
「ぶっ!? 思ってても言うなよ! もうそう言う風にしか見えなくなったじゃないか!」
『イイカラ サッサト タベルノデス!』
『そして私はとてもじゃないが飲めない白い飲み物を買ってきて飲ませる。
もちろん、温めた後にわざと冷やしてぬるくなったものをだ』
「寝る前のホットミルクは飲むかしら?」
「貰えると嬉しいな。定番だけど、心が落ち着く一杯だぜ」
「はい、どうぞ。少し冷ましておいたからね」
「ありがとう。……あれ、アリスは飲まないのか?」
「どうも、ホットミルクは苦手なのよね。寝前に飲むのは紅茶にしてるの」
「そーなのかー。まあ、私はホットミルク派だから有難いけどな」
「和食派じゃなかったの?」
「美味けりゃいいさ」
互いに一息ついて、しばらくの沈黙。
カップを手の中で弄びながら、魔理沙が口を開く。
「なあ」
「うん?」
「さっきの話なんだけどさ。結局何が目的なんだ?」
「目的って?」
「危ない所を助けてもらって、風呂に入れてくれて、治療もしてくれて、食事も貰ったんだ。
お前も私も魔法使いだし、こんなに良くしてくれた理由くらい、あると考えるのが普通だろう?」
「まあ、そうかもしれないわね」
「今なら、大体のお願いなら聞かせて貰うぜ。それくらいには、感謝してるんだ」
「あんまり、安易にそう言う事を言わない方が良いわよ」
「構わないさ。あのまま放置されてたら風邪は確実に引いてただろうし、下手したら死んでたんだ。
これくらいは言うさ。それで?」
「そうねぇ……じゃあ、これはどうかしら?」
吊るしてあった魔理沙の帽子を手にとって、自分の頭に乗せてみる。
ややぶかぶかで、我ながら似合っていない。
「似合うかしら?」
「うーん……言っちゃあ悪いが、ぜんっぜん似合わないな。パジャマだからってのもあるけど、アリスに合ってないぜ」
「着こなしの問題かしら?」
「むしろ、雰囲気の問題だろうな。七色の魔法使いが黒い帽子を被ってどうするんだって話だぜ。……帽子が欲しいなら、やるぞ?」
「似合わないって言われたし、結構よ。……ねえ」
「ん?」
「見返りが無いと、助けちゃいけないのかしら?」
「いや、そんな事は……」
「あなたは気にし過ぎなのよ。ほら、帽子も返すからしっかりなさい」
「……うん」
「ま、それでも気が済まないのは分かるから、ちょっと付き合って頂戴。寝る前に遊ぶわよ」
「嫌な予感しかしないなぁ……」
『その後は棒の先端に無数の針状の突起が付いた物体を左右に振り回して猫の闘争本能を著しく刺激させ、体力を消耗させる』
「ほーら魔理沙、猫じゃらしよ~」
「やっぱり人扱いされてなかった! 薄々分かってたけど、やっぱり猫扱いかよ!」
「いいからいいから。ほらほら~」
「いや、それに釣られて遊ぶのは人としてどうかと……」
「うりゃっ!」
猫じゃらしを魔理沙の鼻頭の擦り付けてこちょこちょする。
「へ、へ、へ……くしゅん! ……止めろって!」
「鼻頭を隠したところで、脇がお留守よ!」
「あははははは! やめ、やめて、やめてってば!」
「上海、蓬莱、好きになさい!」
『ヨッシャア! シャンハイ シエンシテクレ!』
『イェー! イェー!』
「や、やめてっ! 足の裏は弱……あはははははは! こんちくしょう、退却して再編成!」
「狭いベッドの上で、そう簡単に逃げられると思わないことね! 脇腹を貰ったわ!」
「やーめーてー! 本当にやーめーてー!」
『ぐったりとした猫をダンボールの中にタオルをしいただけの質素な入れ物に放り込み、寝るまで監視した後に就寝』
「腹筋が痙攣するほど笑わせておいてなんだけど、傷に障るから止めたほうが良かったわね」
「い、言いたい、事は、それだけ、か、こんちくしょう……」
『ニンムカンリョウ!』
『マイッタカ!』
「参った、もう、無理……休ませてくれ……」
「じゃあ、そろそろ寝ましょうか。魔理沙の寝床はここよ」
「おう。……って、何だこれ?」
「何って、今も言った通り寝床よ」
「私には、ダンボールで枠組みしたタオルケットの海に見えるんだが?」
「間違ってないわよ。人形達に頼んで急遽作ったんだけど、気に入らない?」
「うーん……。確かに暖かそうだし、ふかふかもふもふではあるんだけど、ここまで猫扱いされちゃあなぁ」
「じゃあ、私がそっちで寝ましょうか?」
「いや、それも悪いしなぁ。……まあ、一緒に寝ましょうとか言われる前に妥協するか、うん」
「……良く分かったわね?」
「分からいでか。じゃ、お休み」
「はい、お休み」
寝転がる魔理沙の横に座り込み、頭を撫でる。
「……何の真似だ?」
「何となく、こうして欲しいんじゃないかなって思ってね。
髪を梳いてた時、何か懐かしそうな顔をしてたじゃない」
「……怪我をしてると、気が弱くなるんだ。気にしないでくれ」
「実家の事でも思い出した?」
「そんなわけ、あるかよ。……でもよ」
「なに?」
「もう少し、こうしててくれ」
「はいはい。甘えん坊さんね」
「何とでも、言え、よ……ふぁ~……」
「魔理沙、魔理沙? ……もう寝ちゃったのね。それじゃ、私も……」
毛布をもう一枚持ってきて、横に並んで寝転がる。
「無防備な寝顔をしちゃって。お休みなさい」
***
『汚い仔猫を見つけて、虐待するために拾ってきてから3日が過ぎた』
魔理沙を拾ってきてから、早くも三日が経過した。
今ではすっかりうちに馴染んでしまって、お寝坊までする始末である。
「ふわぁー……むにゃむにゃ。おはよー」
「おはよう。朝ごはんできてるわよー」
「ああ、いい匂いがすると思ったんだ。アリスのご飯は美味しい……」
「どうしたの? 急に黙り込んで?」
「いや、目を覚ました時に、誰かがご飯を用意してくれてるのって、幸せなんだなぁって」
「何を言ってるのよ。そんな事をしみじみと言う年でも無いでしょうに」
「あ、ああ。そうだな」
『その間、ずっと薬品を体中に塗りたくり、俺の嫌いな白い飲み物を、たっぷりと飲ませた』
「ご馳走様でした!」
「はい、お粗末さまでした。それじゃあ魔理沙、湿布を代えるから上着を脱いでね」
「あいよー……この、湿布を剥がす瞬間の肉が引っ張られる感じは慣れないなぁ」
「毛穴が無駄に広がる感じがするわよね。はい、背中見せてー……ぺちっと」
「うひゃ! この新しい湿布を張られる時のひんやり感も苦手だぜ……あー、寒い寒い」
「冬場は特に辛いわよね。代わりと言ってはなんだけど、ホットミルクを淹れておいたわよ」
「さんきゅ」
「ついでに、腕の打ち身にも新しく軟膏を塗りましょうか。腕出してー」
「はーい」
「んー、魔理沙の腕はすべすべしていて手触りがいいわねー。軟膏を塗るのが楽だわー」
「はっきり言えよ。肉付きが悪いって」
「そんな事は……あるわね。もう少し食べないとダメよ?」
「余計なお世話だぜ。こう見えて筋トレはしてるから、贅肉が無いだけだよ」
『だいぶ効いているようだ、手足を伸ばして私に腹を見せて『ンニャ~~ン』と声を漏らすようになった』
「はい、軟膏も塗り終わったわよ。しばらく楽にしててね」
「んじゃ、ベッド借りるぜー。死ぬまでなー」
「お昼寝したかったら、そのまま寝てもいいわよ。そっちの方が回復も早いし」
「それはとても魅力的なお話なんだが、朝飯を食べた直後に寝るのもなぁ。できれば、そろそろ外に出たいぜー」
「別に構わないけど、無理をしちゃダメよ? まだしっかりと箒を保持できないでしょ」
「そうなんだよなぁ……ま、もう少しゴロゴロしてるかな。ゴロゴロ……」
「全く。まだ三日しか経ってないって言うのに、こんなにリラックスしちゃって……」
「ンニャ~~ンゴロゴロ……」
「鳴き声まで上げる始末。おかしいわね、私は普通の人間を拾ってきたつもりだったのだけど」
「私は普通だぜ」
『覚悟しろよ! これからもこの攻撃は続けていくぜ!』
「頭を撫でられただけで大人しくなる辺り、まるっきり猫みたいね。私の見立ては間違いなかったわ」
「最初っから猫扱いしてたからな。ああでも、アリスの手は気持ちいいぜ~」
「もっと撫でて欲しい?」
「ンニャ~~ンゴロゴロ……」
「はいはい、その鳴き声が気に入ったのね。いい子いい子」
「ゴロゴロ、ゴロゴロ……」
「本当に眠くなったかしら?」
「……うん」
「それじゃあ、お休みなさい。寝返りはなるべくうたないようにね」
「分かったー……なぁ」
「ん?」
「手、握ってくれないかな?」
「ふふ。いいわよ。こんな事で良ければ、これからいくらでもしてあげるわ」
「ああ、私はこんなに短い期間ですっかりと飼い馴らされてしまったようだ。
もう、アリスのベッドから、起き上がりたく、ない、ぜ……」
「はいはい、いい子いい子」
『乾燥した不味そうな塊が無くなったので、買いに行くことにする。
だが、コイツは逃げるタイミングを狙っていたのだろう、私が部屋を出ようとするとダッシュをしてきた』
「……zzz」
「魔理沙ー? ……寝ちゃったか。それじゃ、今のうちに買い物にでも行って来ましょうか」
『ルスバンハ マカセロー』
『ペットノセワモ ニンギョウノツトメダカラナー』
「ペット……ペットねぇ。ペットって、もう少し手間がかからないものだと思うんだけど。
まあ、いいでしょう。行って来るわ」
「zzz……うぅん、アリスー?」
「あら、起こしちゃったかしら? ちょっとお買い物に行って来るから、もう少し寝て待ってて……」
「アリス!」
急に身を起こした魔理沙が、こちらに慌てて寄って来る。
「ど、どこに行くんだ!?」
「だから、お買い物よ。上海達と待っててちょうだいね」
「う……うん、分かった。早く帰ってきてくれよ?」
「不安なのかしら?」
「うん……できれば、目を覚ました時に横に居て欲しい」
「子供じゃないんだから……もう、仕方の無い猫ね」
「ンニャ~~ン」
『ドアのノブに手をかけると、足元に纏わり付いて離れない、更に頭を傾けて擦り付けてくる』
寝室から出ようとしたら、後ろから抱きつかれた。
「で。分かったといいつつ、圧し掛かってくるのはどう言う了見? 重いんだけど」
「まだ昼前だし、もうちょっといいだろー。せめて寝付くまで一緒にいてくれよー」
「あらあら、とんだ甘えん坊さんね。あなた、そんな性格だったけ?」
「アリス限定の、特別仕様だぜー。今の魔理沙さんは甘えん坊だー」
「あんまり嬉しくない限定仕様ね。いいから離しなさい」
「ぶーぶー!」
「……離す気は無いのね?」
「もうちょっと~」
『邪魔者にはお仕置きが必要だ、俺は首根っこをヒョイとつまみ、ベッドに置いて顎の下をくすぐり続けた
「何をする!止めろ」とでも言ってるのか『ニャッ、ンニャ!』と鳴いてるが止めない』
「もう! そっちがその気なら私のも考えがあるわよ! 上海、蓬莱!」
『『 ウェーイ! 』』
「……ふぇ?」
「くっくっく……この前ので懲りなかったようね。魔理沙、顔を上げなさい?」
顎に手を当ててクイッと上を向かせる。
「うっ……なんだよぉ」
「ジャジャーン!」
「げげ、猫じゃらし! や、止めろ! 止めてくれ!」
「ダーメ。覚悟しなさい!」
「ぷっ……ぶはははははははは! 首の下、弱っ、やめっ!」
「止めないわ!」
「やーめーろーよー! そんな意地悪して、罪悪感は感じないのか!」
「感じないわ! 猫のように鳴きなさい!」
「フゥー! ニャッ、ンニャ!」
『ナンダカンダト ノリノリジャネーカ』
『バカジャネーノ』
『それを10分程していると、グタッとして俺のベッドでダウンした、良い気味だ。
ダウン間際に最後の抵抗か?指を軽く噛みやがったが、俺様には全く効かないので好きにさせてやる』
「はぁ、はぁ、はぁ……ふぅ。これで懲りたかしら?」
「うぐはぁ……もう、無理、助けて……」
「それじゃあ今度こそお買い物に行って来るから、お留守番をよろしくね。
夕方前には帰るから、ゆっくりしているのよ?」
(カプッ!)
「……私の指を咥えて、何のつもり?」
「ひょっほしはひかへひはせ (ちょっとした仕返しだぜ)」
「はぁ……好きになさい」
「もぐもぐ……」
「好きにしろとは言ったけど、食んで良いとは言っていないわよ?」
「ぺろぺろ……」
「舐めるな、くすぐったい! それじゃ、行って来るわね」
「むぐむぐ……行ってらっしゃーい」
『帰ってきて早速、円筒状の入れ物から取り出したネチョネチョした物体を食わせる』
「ただいまー」
『オカエリー』
『オカエリー』
「オカエリー」
「そこの人間、人形に混ざらないの。ところで、こんな物を買ってきてみたわよ」
「ん、缶詰じゃないか。どうしたんだ?」
「珍しいことに、マグロの缶詰が入荷してたのよ。海の魚よ、海の魚」
「おー、確かにレア物だな。それをどうするんだ?」
「折角だし、マグロのカルパッチョでも作ろうかと思うのよ。
何でも、外の世界では牛肉じゃなくて鮮魚を使ったカルパッチョが増えてるらしいし」
「刺身が一番だけど、缶詰じゃなぁ。いやー、マグロなんて何年ぶりだろうなー」
「むしろ、食べたことがあるのが驚きよ。野良魔法使いの癖に、お嬢様育ちなんだから」
「その話題は止めてくれ」
『余程、腹ペコだったのだろう、凄い勢いで食べ始める。
馬鹿なチヒ助゙だ「アゴが弱くなるぞ、高級品で軟らかいからな」』
「こら、そんなにがっつかないの!」
「朝起きて、軽くパンを食べて、その後直ぐに寝たからな。もう腹ペコなんだよー」
「まあ、食欲があるって事は良いことなのだけどね。
でも、ちゃんと噛んで食べないと、顎が弱くなるわよ。火がよく通ってて、柔らかいから」
「確かに、一気に食うのが勿体無い料理だな。高かったんじゃないか?」
「本当はね。でも、顔見知りだからって安くしてくれたわ。ご近所付き合いはしておくものね」
「……まさか、入荷先は香霖堂か?」
「ご名答。……ほら、こっち向いて。汚れた口元を拭いてあげるわ」
「もごもご」
『そろそろ寝ようと、電気を消してベッドに入るとあろう事か、先にもぐりこんでいやがった。
追い出してやろうとしたが、体が温かい事に気付く』
「照明消すわよー」
「おーう」
「じゃあ、上海よろしくー」
『オヤスミアリスー』
「はい、お休み。……ちょっと魔理沙、何で私のベッドの中にいるのよ」
「へへ、死ぬまで借りるって言ったぜ?」
「いや、そう言うのはいいわよ。いいからさっさと自分のベッドに戻りなさい」
「ヤだぜー。ほら、アリスもこっちに来いよ」
「うーん……」
「いいから、いいから」
手をグイッと引っ張られて、ベッドの中に引きずり込まれる。
「きゃっ! ちょっと、急に何するのよ」
「アリスは冷え性だからなー。私の懐で暖めておいたぜ」
「あんたは秀吉か……でも、本当に暖かいわね。やっぱり子供は体温が高いのかしら?」
「誰が子供か! ……まあいいや。ここまで暖めておいて自分の寝床に戻るのは嫌だから、今日はここで寝るぜ」
「もう、仕方ないわね」
『最近寒くなってきたところだ、今日からは一緒に寝ることにしよう』
「あー、ぬくいわー。これなら湯たんぽはいらないわねー」
「毎日暖めておいても、いいんだぜ?」
「それもいいかもしれないわね。それじゃ、お休み」
「うん。お休みなさい……」
このSSはそれに則って書かれています。
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とある冬の日の、今にも雨が降り出しそうなどんよりとした曇天の日。
人里へ買い物に行った帰り道で、進行方向上空に弾幕ごっこの光が見えた。
巻き込まれたら嫌だなぁ、と思って眺めていたが、幸いにもその近くに差し掛かる頃には収まってくれた。
面倒が無くて良かった、と胸を撫で下ろしていたのも束の間。
森の中へと足を踏み入れると、木を背にしてグッタリとしている黒いのを発見した。
背格好からして、たぶん私のご近所さんだろう。
「ふむ……」
『汚い仔猫を見つけたので、虐待する事にした』
「魔理沙ー、生きてるー?」
『シャンハーイ?』
「……」
「魔理沙ー、起きなさーい。起きないと獣に襲われて死ぬわよー。雨も降りそうよー」
「ぅ、ぅぅ……」
「魔理沙ー。……ダメね、完全に伸びてるわ。
怪我もしてるみたいだし、これは弾幕ごっこに負けて墜落したのかしら?」
『マリサー? ヤラレチャッター?』
「みたいね。まあ、いいでしょ。……よいしょっと」
『シャンハイ ニモツモツー』
「ありがとう。変なおまけを拾っちゃったけど、早く帰りましょうか」
『シャンハーイ!』
『他人の目に触れるといけないので、家に連れて帰る事にする』
「うわー、やっぱり降って来たわねー。急いで正解だったわ」
『ミズモシタタル イイオンナッテナ ホラ タオルモッテキタゾ』
「ありがとう、蓬莱人形。お留守番ご苦労様。すぐにお風呂に入りたいのだけど、準備はできてる?」
『オユハワイテルゼ チョットジュンビシテクル』
「よろしくね。……やれやれ、魔理沙もずぶ濡れね。
でもまあ、元々ボロボロだから、大して変わらないかしら?」
『マリサ ボロボロ メズラシイ?』
「そうね、珍しいわね。こんな寝顔を見るのは、永夜異変以来かもしれないわね」
『マリサ ムボービー』
「そうね、無防備ね。衆目に晒すのも可哀想だし、
天狗や知り合いに見つかる前に帰って来れて良かったかもしれないわね」
「ぅぅ、さ、寒い……あれ、ここは……?」
「あら、起きたの? ここは私の家よ。何があったか覚えてる?」
「……ああそうか、私は弾幕ごっこに負けて……いててっ」
「細かい傷は数え切れないけど、一番重症なのは腕ね。折れてはいないけど、動かさない方が良いわよ。気分は? 頭は打ってない?」
「気分はあんまり良くないけど、大丈夫だ。ありがとうな」
「どう致しまして、大事無いなら結構よ」
「じゃあ、もう行くよ。世話になったな。今度、礼をするからな」
「そんなに気にしなくていいわよ。それよりね……」
「ん?」
「帰る前に、ちょっとこっちに来なさい」
『嫌がる猫をお風呂場に連れ込んで、お湯攻め』
「ちょ、ちょ、ちょっと待った! 大丈夫、大丈夫だから!」
「はい、両手を上げて万歳してー。痛いなら無理して上げないでいいわよー」
『バンザーイ』
「だから、脱がせるな! 触るなってば!」
「はいはい、足上げてー。ドロワ取るわよー」
「人の話を聞けー!」
『カンネンシロー テングノオサメドキダー!』
「それを言うなら、年貢だ!」
「いいから、とっとと脱ぐ。濡れた服をそのまま着てると、二秒で風邪を引くわよ」
「大丈夫だっ……へくしゅん!」
「全然大丈夫じゃないじゃない。ほら、脱いだ脱いだ」
「うわー、望みが絶たれたー!」
「人形遣いの脱衣技術を甘く見るんじゃないわよー」
泥と埃と雨水にまみれて酷い状態だったため、お風呂に入れようとしたら暴れられた。
が、弱った体で大した抵抗ができるはずも無く。
適当にいなして、すっぽんぽんにひんむき、浴場へと放り込む。
「アリス、強引過ぎるぜ……」
「はいはい。お湯かけるわよー」
「うわわわわわ! 熱い、熱い!」
『アレ? ユカゲン マチガエタカー?』
「大丈夫よ蓬莱。気にしなくていいわ」
「そこは気にしてくれよ!?」
「外が寒かったから、熱く感じるだけよ。ほら、温まったでしょう」
「う、うん……」
『充分にお湯をかけた後は、薬品をかけて全身をゴシゴシする』
「痒い所はございませんかー?」
「いや、大丈夫。気持ちいいぜー」
シャンプーを頭に適量垂らし、髪をワシワシと洗って行く。
途中までは警戒していた魔理沙だったが、気持ち良いのか諦めたのか、とにかく大人しくなってくれた。
「ようやく大人しくなったわね。暴れないでくれるなら、それが一番よ」
「もう諦めたよ……」
『アリスー モッテキタヨー』
「ありがとう蓬莱。じゃあ魔理沙、痛いけど我慢してねー」
「へ? 何をする気……痛い痛い痛い! 止めてくれ!」
「細かな傷がたくさんあるんだから、石鹸が傷に沁みるのは当然ね。せめて消毒が終わるまでは我慢しなさい」
『マリサ ボロボロダッタカラナー』
「う、うるせぇ! 上海は黙ってろ!」
『ヤツアタリマリサ コワーイ』
「人形に当たらないの。ほら、動かないで」
「わわわ! どこを触ってるんだよ! 前は自分で洗うから!」
「はいはい。痒い所があったら言ってねー」
「人の話を聞けー!」
「聞いてるわよ、考慮しないだけで。2人とも、魔理沙の腕を押さえてー」
『シャンハーイ!』
『ホラーイ!』
「こ、こら! 離せー!」
『薬品で体中が汚染された事を確認し、再びお湯攻め』
「うぅ、もうお嫁に行けない……」
「そう言うのはいいから。それで、どうかしら? うちのお風呂は」
「つれないなぁ。あー、まあまあだなー。うちの風呂はドラム缶風呂とどっこいどっこいだから、この広さは羨ましいぜー」
「素直でよろしい。それじゃあ、入るわよ」
「……いや待て。何でお前も脱いでるんだ?」
「何でって、三助が終わったから私もお湯に浸かりたいのよ。ほら、詰めて詰めて」
「……お前は、もう少し恥じらいって言葉を知ったほうがいいぜ」
「知ってるわよ。でも、別に女同士だし構わないでしょ」
「いやまあ、そうかもしれないけどなぁ……ところで、私はもう上がりたいんだが?」
「まだ浸かったばっかりじゃない。ちゃんと100数えなさい」
「そこまでするのか!?」
「うちでは常識よ。ほら、ちゃんと数えなさい」
「分かったよ……1、2、3、4、5、6……」
「うりゃっ!」
手早く済まそうと早口でカウントを始めたため、そのわき腹を指でぷすっと突っつく。
「うひゃう! 何するんだ!?」
「わき腹を突いたのよ。それより、そんな投げやりな数え方じゃダメよ。
ちゃんと数えないと、お風呂から出してあげないわよ」
「グッ……! ……いーち、にー、さーん、よーん、ごー……」
「そうそう、それでいいのよ。いいお湯ね~」
「くそっ、これじゃあお湯攻めだぜ。のぼせちまうよ……」
「はい、無駄口を叩いたから最初っからカウントし直しよー」
「うわぁ、横暴だぁ!」
『お湯攻めの後は布でゴシゴシと体をこする』
「体拭くから、万歳してー」
『バンザーイ』
「はいはい、バンザーイ」
「素直でよろしい。くすぐったくても我慢するのよー」
『ガマーン』
「はいはい、我慢するー」
「じゃあ、足開いてー」
『ヒライテー』
「はいはい、足開……くわけねぇだろ! そこは自分で拭くわ!」
『ヒトリデデキル エライエライ』
「お前らの認識の中では、私はどんな扱いなんだよ……」
「それはもちろん……」
「言うな、本当に言うんじゃない! 何となくだが、動物扱いされてる気がする!」
『ワガママダナー』
「我侭ねー。自分でやるのなら、頭を拭いてあげるからその間にちゃっちゃとやりなさい。
裸でいる時間は、短ければ短いほどいいんだから」
「……分かったよ。ところで、私の服は?」
「泥だらけで着れたものじゃなかったから、洗濯しているわ。
今日は私の服を貸してあげるから、それを着なさい」
「へーい」
『風呂場での攻めの後は、全身にくまなく熱風をかける』
「のぼせたー」
『グッタリマリサ ダラシネェナ』
「うるせー。体が熱くて動く気が起きないんだよー」
「確かに、いくら何でもちょっと長く浸かり過ぎたかもしれないわね。
でも、だからと言って髪を濡らしたままボンヤリしないの。湯冷めして風邪を引くわよ」
「髪はアリスが拭いてくれただろー。大丈夫だってー」
「仕上げをしてないから、全然ダメよ。ほら、ミニ八卦炉を貸しなさい」
「……返してくれよ?」
「あなたじゃあるまいし。ほら、座った座った」
ミニ八卦炉から温風を吹き出させ、魔理沙の髪を櫛で梳く。
「……」
「どうしたの、急に黙っちゃって」
「……なあ、アリス」
「なに?」
「どうして、こんなに良くしてくれるんだ?」
「その言い草は酷いんじゃない? これでも人里では優しいお姉さんで通っているのよ」
「それは、一般人相手だからだろう? 今の私は怪我人だし、そうでなくても大した礼もできないぞ」
「嫌?」
「嫌ってわけでもないけど……」
「じゃあいいじゃない。ほら、前髪を梳かすからこっち向いて」
「……」
「またどうしたの? 私の顔に何かついてる?」
「何でもないぜ」
「そう?」
『その後に、乾燥した不味そうな塊を食わせる事にする』
「……何だ、これ?」
「何に見える?」
「うーん……焦げたパンケーキを三日放置して湿気らせて、グネグネと捏ね回したらこんな感じか?」
「的確な表現をありがとう。見た目はダメダメだけど、治療薬を練り込んだパンよ」
「う、うーん……」
「安心しなさい。丸薬の材料は主にオートミールだから、栄養も腹持ちもバッチリよ」
「安心できる要素が無いんだが。と言うかオートミールかよ。むしろこれが晩飯かよ」
「それが晩御飯よ。まあ、いいから食べなさい」
「どうしても食べないとダメか?」
「骨に異常が無いと断言できるなら食べなくてもいいわよ」
「……頂きます。……あ、意外と」
「保存のため、蜂蜜を練りこんであるからね。味は悪くない筈よ」
「うん、確かに悪くない。失敗作のケーキと思えば行けるぜ」
「ま、私はそれを馬糞みたいだと思ってたんだけどね」
「ぶっ!? 思ってても言うなよ! もうそう言う風にしか見えなくなったじゃないか!」
『イイカラ サッサト タベルノデス!』
『そして私はとてもじゃないが飲めない白い飲み物を買ってきて飲ませる。
もちろん、温めた後にわざと冷やしてぬるくなったものをだ』
「寝る前のホットミルクは飲むかしら?」
「貰えると嬉しいな。定番だけど、心が落ち着く一杯だぜ」
「はい、どうぞ。少し冷ましておいたからね」
「ありがとう。……あれ、アリスは飲まないのか?」
「どうも、ホットミルクは苦手なのよね。寝前に飲むのは紅茶にしてるの」
「そーなのかー。まあ、私はホットミルク派だから有難いけどな」
「和食派じゃなかったの?」
「美味けりゃいいさ」
互いに一息ついて、しばらくの沈黙。
カップを手の中で弄びながら、魔理沙が口を開く。
「なあ」
「うん?」
「さっきの話なんだけどさ。結局何が目的なんだ?」
「目的って?」
「危ない所を助けてもらって、風呂に入れてくれて、治療もしてくれて、食事も貰ったんだ。
お前も私も魔法使いだし、こんなに良くしてくれた理由くらい、あると考えるのが普通だろう?」
「まあ、そうかもしれないわね」
「今なら、大体のお願いなら聞かせて貰うぜ。それくらいには、感謝してるんだ」
「あんまり、安易にそう言う事を言わない方が良いわよ」
「構わないさ。あのまま放置されてたら風邪は確実に引いてただろうし、下手したら死んでたんだ。
これくらいは言うさ。それで?」
「そうねぇ……じゃあ、これはどうかしら?」
吊るしてあった魔理沙の帽子を手にとって、自分の頭に乗せてみる。
ややぶかぶかで、我ながら似合っていない。
「似合うかしら?」
「うーん……言っちゃあ悪いが、ぜんっぜん似合わないな。パジャマだからってのもあるけど、アリスに合ってないぜ」
「着こなしの問題かしら?」
「むしろ、雰囲気の問題だろうな。七色の魔法使いが黒い帽子を被ってどうするんだって話だぜ。……帽子が欲しいなら、やるぞ?」
「似合わないって言われたし、結構よ。……ねえ」
「ん?」
「見返りが無いと、助けちゃいけないのかしら?」
「いや、そんな事は……」
「あなたは気にし過ぎなのよ。ほら、帽子も返すからしっかりなさい」
「……うん」
「ま、それでも気が済まないのは分かるから、ちょっと付き合って頂戴。寝る前に遊ぶわよ」
「嫌な予感しかしないなぁ……」
『その後は棒の先端に無数の針状の突起が付いた物体を左右に振り回して猫の闘争本能を著しく刺激させ、体力を消耗させる』
「ほーら魔理沙、猫じゃらしよ~」
「やっぱり人扱いされてなかった! 薄々分かってたけど、やっぱり猫扱いかよ!」
「いいからいいから。ほらほら~」
「いや、それに釣られて遊ぶのは人としてどうかと……」
「うりゃっ!」
猫じゃらしを魔理沙の鼻頭の擦り付けてこちょこちょする。
「へ、へ、へ……くしゅん! ……止めろって!」
「鼻頭を隠したところで、脇がお留守よ!」
「あははははは! やめ、やめて、やめてってば!」
「上海、蓬莱、好きになさい!」
『ヨッシャア! シャンハイ シエンシテクレ!』
『イェー! イェー!』
「や、やめてっ! 足の裏は弱……あはははははは! こんちくしょう、退却して再編成!」
「狭いベッドの上で、そう簡単に逃げられると思わないことね! 脇腹を貰ったわ!」
「やーめーてー! 本当にやーめーてー!」
『ぐったりとした猫をダンボールの中にタオルをしいただけの質素な入れ物に放り込み、寝るまで監視した後に就寝』
「腹筋が痙攣するほど笑わせておいてなんだけど、傷に障るから止めたほうが良かったわね」
「い、言いたい、事は、それだけ、か、こんちくしょう……」
『ニンムカンリョウ!』
『マイッタカ!』
「参った、もう、無理……休ませてくれ……」
「じゃあ、そろそろ寝ましょうか。魔理沙の寝床はここよ」
「おう。……って、何だこれ?」
「何って、今も言った通り寝床よ」
「私には、ダンボールで枠組みしたタオルケットの海に見えるんだが?」
「間違ってないわよ。人形達に頼んで急遽作ったんだけど、気に入らない?」
「うーん……。確かに暖かそうだし、ふかふかもふもふではあるんだけど、ここまで猫扱いされちゃあなぁ」
「じゃあ、私がそっちで寝ましょうか?」
「いや、それも悪いしなぁ。……まあ、一緒に寝ましょうとか言われる前に妥協するか、うん」
「……良く分かったわね?」
「分からいでか。じゃ、お休み」
「はい、お休み」
寝転がる魔理沙の横に座り込み、頭を撫でる。
「……何の真似だ?」
「何となく、こうして欲しいんじゃないかなって思ってね。
髪を梳いてた時、何か懐かしそうな顔をしてたじゃない」
「……怪我をしてると、気が弱くなるんだ。気にしないでくれ」
「実家の事でも思い出した?」
「そんなわけ、あるかよ。……でもよ」
「なに?」
「もう少し、こうしててくれ」
「はいはい。甘えん坊さんね」
「何とでも、言え、よ……ふぁ~……」
「魔理沙、魔理沙? ……もう寝ちゃったのね。それじゃ、私も……」
毛布をもう一枚持ってきて、横に並んで寝転がる。
「無防備な寝顔をしちゃって。お休みなさい」
***
『汚い仔猫を見つけて、虐待するために拾ってきてから3日が過ぎた』
魔理沙を拾ってきてから、早くも三日が経過した。
今ではすっかりうちに馴染んでしまって、お寝坊までする始末である。
「ふわぁー……むにゃむにゃ。おはよー」
「おはよう。朝ごはんできてるわよー」
「ああ、いい匂いがすると思ったんだ。アリスのご飯は美味しい……」
「どうしたの? 急に黙り込んで?」
「いや、目を覚ました時に、誰かがご飯を用意してくれてるのって、幸せなんだなぁって」
「何を言ってるのよ。そんな事をしみじみと言う年でも無いでしょうに」
「あ、ああ。そうだな」
『その間、ずっと薬品を体中に塗りたくり、俺の嫌いな白い飲み物を、たっぷりと飲ませた』
「ご馳走様でした!」
「はい、お粗末さまでした。それじゃあ魔理沙、湿布を代えるから上着を脱いでね」
「あいよー……この、湿布を剥がす瞬間の肉が引っ張られる感じは慣れないなぁ」
「毛穴が無駄に広がる感じがするわよね。はい、背中見せてー……ぺちっと」
「うひゃ! この新しい湿布を張られる時のひんやり感も苦手だぜ……あー、寒い寒い」
「冬場は特に辛いわよね。代わりと言ってはなんだけど、ホットミルクを淹れておいたわよ」
「さんきゅ」
「ついでに、腕の打ち身にも新しく軟膏を塗りましょうか。腕出してー」
「はーい」
「んー、魔理沙の腕はすべすべしていて手触りがいいわねー。軟膏を塗るのが楽だわー」
「はっきり言えよ。肉付きが悪いって」
「そんな事は……あるわね。もう少し食べないとダメよ?」
「余計なお世話だぜ。こう見えて筋トレはしてるから、贅肉が無いだけだよ」
『だいぶ効いているようだ、手足を伸ばして私に腹を見せて『ンニャ~~ン』と声を漏らすようになった』
「はい、軟膏も塗り終わったわよ。しばらく楽にしててね」
「んじゃ、ベッド借りるぜー。死ぬまでなー」
「お昼寝したかったら、そのまま寝てもいいわよ。そっちの方が回復も早いし」
「それはとても魅力的なお話なんだが、朝飯を食べた直後に寝るのもなぁ。できれば、そろそろ外に出たいぜー」
「別に構わないけど、無理をしちゃダメよ? まだしっかりと箒を保持できないでしょ」
「そうなんだよなぁ……ま、もう少しゴロゴロしてるかな。ゴロゴロ……」
「全く。まだ三日しか経ってないって言うのに、こんなにリラックスしちゃって……」
「ンニャ~~ンゴロゴロ……」
「鳴き声まで上げる始末。おかしいわね、私は普通の人間を拾ってきたつもりだったのだけど」
「私は普通だぜ」
『覚悟しろよ! これからもこの攻撃は続けていくぜ!』
「頭を撫でられただけで大人しくなる辺り、まるっきり猫みたいね。私の見立ては間違いなかったわ」
「最初っから猫扱いしてたからな。ああでも、アリスの手は気持ちいいぜ~」
「もっと撫でて欲しい?」
「ンニャ~~ンゴロゴロ……」
「はいはい、その鳴き声が気に入ったのね。いい子いい子」
「ゴロゴロ、ゴロゴロ……」
「本当に眠くなったかしら?」
「……うん」
「それじゃあ、お休みなさい。寝返りはなるべくうたないようにね」
「分かったー……なぁ」
「ん?」
「手、握ってくれないかな?」
「ふふ。いいわよ。こんな事で良ければ、これからいくらでもしてあげるわ」
「ああ、私はこんなに短い期間ですっかりと飼い馴らされてしまったようだ。
もう、アリスのベッドから、起き上がりたく、ない、ぜ……」
「はいはい、いい子いい子」
『乾燥した不味そうな塊が無くなったので、買いに行くことにする。
だが、コイツは逃げるタイミングを狙っていたのだろう、私が部屋を出ようとするとダッシュをしてきた』
「……zzz」
「魔理沙ー? ……寝ちゃったか。それじゃ、今のうちに買い物にでも行って来ましょうか」
『ルスバンハ マカセロー』
『ペットノセワモ ニンギョウノツトメダカラナー』
「ペット……ペットねぇ。ペットって、もう少し手間がかからないものだと思うんだけど。
まあ、いいでしょう。行って来るわ」
「zzz……うぅん、アリスー?」
「あら、起こしちゃったかしら? ちょっとお買い物に行って来るから、もう少し寝て待ってて……」
「アリス!」
急に身を起こした魔理沙が、こちらに慌てて寄って来る。
「ど、どこに行くんだ!?」
「だから、お買い物よ。上海達と待っててちょうだいね」
「う……うん、分かった。早く帰ってきてくれよ?」
「不安なのかしら?」
「うん……できれば、目を覚ました時に横に居て欲しい」
「子供じゃないんだから……もう、仕方の無い猫ね」
「ンニャ~~ン」
『ドアのノブに手をかけると、足元に纏わり付いて離れない、更に頭を傾けて擦り付けてくる』
寝室から出ようとしたら、後ろから抱きつかれた。
「で。分かったといいつつ、圧し掛かってくるのはどう言う了見? 重いんだけど」
「まだ昼前だし、もうちょっといいだろー。せめて寝付くまで一緒にいてくれよー」
「あらあら、とんだ甘えん坊さんね。あなた、そんな性格だったけ?」
「アリス限定の、特別仕様だぜー。今の魔理沙さんは甘えん坊だー」
「あんまり嬉しくない限定仕様ね。いいから離しなさい」
「ぶーぶー!」
「……離す気は無いのね?」
「もうちょっと~」
『邪魔者にはお仕置きが必要だ、俺は首根っこをヒョイとつまみ、ベッドに置いて顎の下をくすぐり続けた
「何をする!止めろ」とでも言ってるのか『ニャッ、ンニャ!』と鳴いてるが止めない』
「もう! そっちがその気なら私のも考えがあるわよ! 上海、蓬莱!」
『『 ウェーイ! 』』
「……ふぇ?」
「くっくっく……この前ので懲りなかったようね。魔理沙、顔を上げなさい?」
顎に手を当ててクイッと上を向かせる。
「うっ……なんだよぉ」
「ジャジャーン!」
「げげ、猫じゃらし! や、止めろ! 止めてくれ!」
「ダーメ。覚悟しなさい!」
「ぷっ……ぶはははははははは! 首の下、弱っ、やめっ!」
「止めないわ!」
「やーめーろーよー! そんな意地悪して、罪悪感は感じないのか!」
「感じないわ! 猫のように鳴きなさい!」
「フゥー! ニャッ、ンニャ!」
『ナンダカンダト ノリノリジャネーカ』
『バカジャネーノ』
『それを10分程していると、グタッとして俺のベッドでダウンした、良い気味だ。
ダウン間際に最後の抵抗か?指を軽く噛みやがったが、俺様には全く効かないので好きにさせてやる』
「はぁ、はぁ、はぁ……ふぅ。これで懲りたかしら?」
「うぐはぁ……もう、無理、助けて……」
「それじゃあ今度こそお買い物に行って来るから、お留守番をよろしくね。
夕方前には帰るから、ゆっくりしているのよ?」
(カプッ!)
「……私の指を咥えて、何のつもり?」
「ひょっほしはひかへひはせ (ちょっとした仕返しだぜ)」
「はぁ……好きになさい」
「もぐもぐ……」
「好きにしろとは言ったけど、食んで良いとは言っていないわよ?」
「ぺろぺろ……」
「舐めるな、くすぐったい! それじゃ、行って来るわね」
「むぐむぐ……行ってらっしゃーい」
『帰ってきて早速、円筒状の入れ物から取り出したネチョネチョした物体を食わせる』
「ただいまー」
『オカエリー』
『オカエリー』
「オカエリー」
「そこの人間、人形に混ざらないの。ところで、こんな物を買ってきてみたわよ」
「ん、缶詰じゃないか。どうしたんだ?」
「珍しいことに、マグロの缶詰が入荷してたのよ。海の魚よ、海の魚」
「おー、確かにレア物だな。それをどうするんだ?」
「折角だし、マグロのカルパッチョでも作ろうかと思うのよ。
何でも、外の世界では牛肉じゃなくて鮮魚を使ったカルパッチョが増えてるらしいし」
「刺身が一番だけど、缶詰じゃなぁ。いやー、マグロなんて何年ぶりだろうなー」
「むしろ、食べたことがあるのが驚きよ。野良魔法使いの癖に、お嬢様育ちなんだから」
「その話題は止めてくれ」
『余程、腹ペコだったのだろう、凄い勢いで食べ始める。
馬鹿なチヒ助゙だ「アゴが弱くなるぞ、高級品で軟らかいからな」』
「こら、そんなにがっつかないの!」
「朝起きて、軽くパンを食べて、その後直ぐに寝たからな。もう腹ペコなんだよー」
「まあ、食欲があるって事は良いことなのだけどね。
でも、ちゃんと噛んで食べないと、顎が弱くなるわよ。火がよく通ってて、柔らかいから」
「確かに、一気に食うのが勿体無い料理だな。高かったんじゃないか?」
「本当はね。でも、顔見知りだからって安くしてくれたわ。ご近所付き合いはしておくものね」
「……まさか、入荷先は香霖堂か?」
「ご名答。……ほら、こっち向いて。汚れた口元を拭いてあげるわ」
「もごもご」
『そろそろ寝ようと、電気を消してベッドに入るとあろう事か、先にもぐりこんでいやがった。
追い出してやろうとしたが、体が温かい事に気付く』
「照明消すわよー」
「おーう」
「じゃあ、上海よろしくー」
『オヤスミアリスー』
「はい、お休み。……ちょっと魔理沙、何で私のベッドの中にいるのよ」
「へへ、死ぬまで借りるって言ったぜ?」
「いや、そう言うのはいいわよ。いいからさっさと自分のベッドに戻りなさい」
「ヤだぜー。ほら、アリスもこっちに来いよ」
「うーん……」
「いいから、いいから」
手をグイッと引っ張られて、ベッドの中に引きずり込まれる。
「きゃっ! ちょっと、急に何するのよ」
「アリスは冷え性だからなー。私の懐で暖めておいたぜ」
「あんたは秀吉か……でも、本当に暖かいわね。やっぱり子供は体温が高いのかしら?」
「誰が子供か! ……まあいいや。ここまで暖めておいて自分の寝床に戻るのは嫌だから、今日はここで寝るぜ」
「もう、仕方ないわね」
『最近寒くなってきたところだ、今日からは一緒に寝ることにしよう』
「あー、ぬくいわー。これなら湯たんぽはいらないわねー」
「毎日暖めておいても、いいんだぜ?」
「それもいいかもしれないわね。それじゃ、お休み」
「うん。お休みなさい……」
レイアリも待ってます
猫じゃらしやダンボールにタオルはさすがに無理があった
素晴らしいマリアリをありがとう。
バナナ買ってあげるからまた、マリアリ書いてね
キッタリハッタリしたら大丈夫だけどな。
最後に
!
あれは本当に良くできた可変だった。
魔理沙を虐待するなら俺にしろ!!!
…いや、して下さいマジ頼んます。
マリアリフィーバー!