Coolier - 新生・東方創想話

趣味は読書と言ったって、本にもいろいろあるからな

2011/02/06 19:27:53
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私はいま、魔法図書館の片隅で読書に精を出している。
新しい弾幕のヒントになりそうなものが載っている本があったからだ。

古びた本で、紙はかなり黄ばんでしまっている。
こういうのを確か「紙焼け」っていうんだったかな。
コレクターの端くれとしては、手元に置く本なら綺麗なほうが良いと思うけど……
いつだったか、慧音は「少しぐらい古びていたほうが、本は魅力的だよ」と言ってたっけ。
曰く、「歴史が積み重なっていて味わい深いから」だとか。
まあ私はヤギでも白沢でもないから、紙の味わいにも、歴史の味わいにも無縁だ。

斜め向かいでは、パチュリーが半ば本の山に埋もれるようにして何やら小難しそうな本を読みふけっている。
背表紙がボロボロなせいでタイトルははっきり分からないが、魔法に関する本だろうか。

そう言えば……今まではっきり尋ねたことが無かったけれど、パチュリーは他にどんな本を読むんだろうか。
これだけ大量の本の中で暮らしていて、魔法関連の本しか読まないってのも勿体無い気がするしな。

「なあ、パチュリー」
「……ん、何? もう帰る? そう、じゃあ出口はあっち」
「相変わらずつれないなあ。来てから一時間も経ってないぜ」
「私はいつだって魔理沙に冷たいわよ。で、何の話?」
「いや、いま何の本を読んでるのかなー、って少し気になってさ。また魔法の本か?」

私が問いかけると、パチュリーはニヤリと笑みを浮かべて指を振った。
「ちっちっ」のポーズである。

「私が特定ジャンルの本しか読まないと思ったら大間違い。ほら、こんな本よ」

差し出された本を受け取って、ぱらぱらとページを捲ってみる。
少し古いタイプの魔法文字だが、私にも何とか読めそうだ。どれどれ……



<第参章:戦慄!発狂甲殻類 ~ポセイドンのめざめ~>

(※皆様に配慮して、日本語に訳してあります)

タラバガニ「ちくしょう、本当のカニじゃないからって俺のことを馬鹿にしてるんだろ……こうしてやる!」

怒りに狂ふ鱈場蟹、大きき鋏脚で伊勢海老を打ちつけること、いと激し。

イセエビ「待ってくだされ、拙者そのような意図は……アッー!!」
アメリカザリガニ「Oh……wait! wait! Stop the stupid things!」
タラバガニ「お前まで俺の邪魔をするのか。外国かぶれの海老モドキがぁッ」
アメリカザリガニ「Woooooooooooooops!!」

その時、体育館に安置されていた仏像が眩い光を放った!



――ほんの少し内容に目を通しただけで、なんだか頭痛がしてきた。

「なんじゃこりゃ」
「見ての通り、いろんなエビやカニがバトルロワイアルを繰り広げる恋愛冒険活劇よ。
 先日の書庫整理で発掘されたんだけど、これはレアモノだわ」
「タイトルは?」
「“マリンブルーの血みどろ菩薩”。パンクで良いでしょ?」
「誰をターゲットにしてるんだ、この本は? ――と、取り敢えず返すぜ。ほれ」
「ふむ。まだ魔理沙には早かったようね」

誰得としか言いようの無い奇書を手に、パチュリーはご満悦の様子。
魔法関連の本しか真剣に読まないんじゃないかと思っていたから、これは驚いたな。

「なんだか意外だぜ」
「ん?」
「いや、魔法とかの本にしか関心が無いのかと思ってたからさ」
「本に貴賎は無いわ。真のビブリオマニアたるもの、様々なジャンルの本を楽しまないとね」
「まさか、普段から小難しい顔してそんなアホな本ばっかり読んでるわけじゃないよな」
「うぇえっほ! げほ、げほ!」
「タイミングを測ったように咳き込むのをやめろ、逆効果だぜ」

パチュリー、ちょっとお前のことが分からなくなってきたぞ。
それなりに長い付き合いと思っていたが、どうやら私の自惚れだったようだ。
と、私の背後から足音が……誰か来たようだ。

「この間借りた本を返しに来たわ。もう台帳には書き込んで……って、あら」
「お邪魔してるぜ」
「あら、魔理沙も来てたのね(ちっ)」
「ひどっ!?」
「気のせいよ、ふふふ」

出会い頭にアリスに舌打ちされた。
私のグラスハートは粉々だぜ。
ま、冗談はこれぐらいにして……

「なあ、アリスも結構色々と読むほうだろ?」
「それなりにね……どうかしたの?」
「いや、魔法の本の他にどんなの読んでるのかなー、って気になってさ」
「ちょうど返しに来たけど、例えばこういう本ね」

アリスが見せてくれた表紙には、ポップな字体でこう書かれていた。

『痛快・三匹がKILL!』

「えーと……小説、なのか?」
「ええ。れっきとした純文学よ」
「どんなジャンルなんだ?」
「三人の魔法熟女が世の巨悪と人知れず激闘を続けていく、という世直しアクション系ね。
 どんでん返しの連続で、一気に読んじゃったわ」
「ほほう、そんなに面白いのか」
「アリスはセンス良いわね。私もその本、好きよ」
「あら、好みが合うのかしら」
「第四章のラストには震えたわ」

本の話で盛り上がる二人の傍らには、魔道書顔負けの分厚さの図書館台帳。
私はろくに書き込んだことが無いが、ここに貸し借りの記録がぎっしり詰まっているのだろう。
アリス以外の誰かが借りた本の記録も載っているはずだ。
ちょっとした好奇心にかられて、私は台帳のページを適当に捲り始めた。



・7月24日返却 「変身」 利用者:リグル・ナイトバグ(ザムザの家族ぶっ死ろす、とメッセージが書き加えてある)

・8月9日返却 「厄除け詩集」 利用者:鍵山 雛

・11月5日返却 「おもいでエマノン」 利用者:稗田 阿求

・11月14日返却 「桜の花の満開の下」 利用者:西行寺 幽々子

・12月3日返却 「好き?好き?大好き?」 利用者:古明地 こいし(勝手に借りてっちゃった。ごめんなさい、とメッセージが書き加えてある)

・12月8日返却 「ナチュラルハイ」 利用者:メルラン・プリズムリバー



ほほう、案外みんな真面目なもの読んでるんだな。
しかし、リグルがこの本読んだら凹むんじゃないか?
どれどれ、他には……?



・8月6日返却 「原子力演習 核エネルギーの解放とその利用」 利用者:れいうじ うつほ

・9月9日返却 「熱力学 現代的な視点から」 利用者:さるの

・9月30日返却 「上司の哲学 部下に信頼される20の要諦」 利用者:寅丸 星

・10月1日返却 「現代ジャーナリズムを学ぶ人のために」 利用者:射命丸 文

・10月6日返却 「思い通りのバストになれる!最新バストアップ術」 利用者:十六夜 咲夜



こいつら……無茶しやがって……。
私は何故か泣きたくなった。



・6月28日返却 「チョコレートからヘロインまで ドラッグカルチャーのすべて」 利用者:八意 永琳

・7月11日返却 「上司が鬼とならねば部下は動かず」 利用者:四季 映姫

・7月27日返却 「スーパーロボットの動かし方」 利用者:東風谷 早苗

・7月31日返却 「毒殺の世界史」 利用者:メディスン・メランコリー

・8月15日返却 「蛇を踏む」 利用者:洩矢 諏訪子



よく分からんが、見なかったことにしよう。



私が妙に熱心に台帳を読んでいることに気付いたのか、アリスが後ろから覗き込んできた。

「あら、他人が何を読んでるか気になったの?」
「ああ、ちょっとな。意外だったりそのままだったり、なかなか面白いぜ」
「みんなちゃんと台帳に記録を書き込んでるでしょ? 魔理沙も多少は見習うべきじゃないかしら」
「それを言われると耳が痛いぜ」

いやあ、台帳に書かなきゃいけないって理屈は分かるんだが、私にはちょっとなあ。
ん? 何やら横でごそごそ音がするが。

「他人の読書傾向を知るのは結構なことだけど、隙を見せたのが間違いだったわね。
 今から私が魔理沙の読書傾向を暴かせてもらうわ」

げっ!!
しまった、家で読むつもりで袋に入れていた本を……
この上なく愉快そうな表情で袋の中身を覗き込んでいるパチュリー。
ここここここここれはマズイことになったぜ!

「それは興味深いわね。後学のために、私も是非調査に協力させて欲しいわ」
「ちょ アリスまで やめ」
「これ、見たことあるわよ。その昔、あまりの過激さゆえ発禁になったエ」
「わー!! わーっ!!」 

声を限りに叫んだものの、もはやこの場の流れを変えることは出来そうにない。
私は、ここまで楽しそうな表情のパチュリーとアリスを初めて見た。

「ではタイトルを読み上げていこうかしら」
「はい、どうぞどうぞ」
「うわあ……ちょっと見てアリス。この表紙はちょっと……」
「実にけしからんわね」
「これなんて、小悪魔が書架の隠し棚に入れてた秘蔵品じゃないの。どうやって見つけたのやら」
「そこはアレよ。欲望がエネルギーになると、人も妖怪も普段以上の力を発揮するという――」

あおfhぢふぃいおふぃおg8とb所jbbffろいgろgぽgbtぐげえ
ccyんdfんふぃうlyg98tリオgj路gふぃghg日宇mg8tgt儀
おぴぴぴぴぴぴぴ

「図書館では静かにwwwww」

うるせー! そのドヤ顔をやめろ紫もやし!
台詞の末尾に草を生やすな!
アリスも何なんだよ……そこはクールに「他人のプライバシーに踏み込むのは良くないわ」って止めろよ!

ん?
ぽんぽん、と横から肩を叩かれる感触。
私はぎこちない操り人形のように顔を横へ向ける。
いつの間にか隣に立っていた小悪魔が、嬉しそうにこう言った。

「水臭いですよ、魔理沙さん。こういうのがお好きなら言って下されば良かったのに」
「え……」
「わたし、とっても嬉しいです。ようやくソッチ方面で同好の士が見つかりました!」



私は泣いた。



“What kind of books do you like?” is end.
エロ本を読む。
広辞苑を読む。
六法全書を読む。
漫画を読む。
小説を読む。

どれも等しく「読書」であると、私は考えます。
しかばね
http://
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コメント



0.3010簡易評価
4.80名前が無い程度の能力削除
チルノとお空のに笑った
でも図書館利用者の閲覧履歴がそんな簡単に見れちゃだめだろw
8.90名前が無い程度の能力削除
プライバシーww
10.90奇声を発する程度の能力削除
確かにどれも立派な読書ですw
11.90名前が無い程度の能力削除
よす
21.100名前が無い程度の能力削除
しかばねさんに激しく同意
22.70名前が無い程度の能力削除
うむ、読書はいいものだ。
そんな私は秘封の同人誌を片手に優雅な読書の時間を楽しむのですわ。
30.100名前が無い程度の能力削除
読書はいいものであるし、どのような本であっても読書足りうる。
しかしその幅の広さ故に、同好の士とめぐり合うのも難しいんだよな……魔理沙はむしろ喜ぶべきだぜ。
38.100物語を読む程度の能力削除
読書は良いですよね~、私の場合は物語があれば何でも良いですがww

それこそ歌詞や絵だったり、すれ違う人や風景からでも。
読書とは常日頃、傍に有るものです。
41.100名前が無い程度の能力削除
パンクだ。
こまっちゃんに合掌ナムナム。読書に貴賎なし。真理だと思います
57.100名前が無い程度の能力削除
本を読む。内容が何だろうといいことだよな
対象が詩文であれ、ラノべであれ、絵本であれ、無論SSであれ、読書にはかわりないんだよなあ…と、いいトシして絵本で泣いた俺がほざきやがりますよ

>>38
上手いこと言うなぁ
60.100名前がない程度の能力削除
湖で頭に?を浮かべるチルノの姿が見える…
67.100名前が無い程度の能力削除
熱力学wなぜ借りたんだよw
69.100名前が無い程度の能力削除
哲学からLOまで、というのがやはり正しい読書のあり方でしょう
72.100名前が無い程度の能力削除
咲夜ェ……
73.90見せられないよ!の程度の能力削除
>新しい弾幕のヒントになりそうな=発禁になったエ
エ?ああ、エネルギー力学ですね。エネルギー保存の法則 恋×エネルギー=マスタースパーク
78.100名前が無い程度の能力削除
「蛇を踏む」って、踏んだ蛇がお母さんになる話でしたよね。
すわかなktkr!!