暖かな日差しというのは全ての生ある者にとって必要不可欠である。
それはこの紅魔館に住む吸血鬼にとっても違いは無い。
直接当たれば肌が焼けるとは言え、どんよりした空の下に干されしっとりした衣服よりも、日の光をたっぷりと浴びたフワフワの物を身に付けた方が心地よい。
生乾きの嫌な臭いを周囲に仄かに漂わせる吸血鬼なんて、あまり威厳は感じられないだろう。
吸血鬼を抜きにしても、年頃の女の子としてもそれは回避しておきたいところだ。
つまり、太陽は自身を天敵とする種族に対してでも恩恵を与えてくれる、何とも粋な存在なのだ。
しかしそれとは逆に、太陽の光は全ての生き物にとって耐え難い試練を与える存在でもある。
全てを包み込むような光で照らし、優しく暖めながら、研ぎ澄まされた牙をゆっくりと突き立てるのだ。
その脅威に打ち勝てる者など存在するのだろうか。
紅魔館を守護する屈強な体と精神の持ち主でも同じ事だ。
故に、この光景は必然なのである。
紅美鈴は最後まで勇敢に戦った。
戦って戦って、戦い抜いて・・
しかし、如何なる手段を用いても最後には儚くも散ってしまったのだ。
「ぐぅ・・」
つまり居眠りである。
「おーっす美鈴! って、ありゃ、また寝てるぜ」
「まあこの暖かさじゃ気持ちもわかるわよね」
霧雨魔理沙とアリス・マーガトロイドが来館した時、既に美鈴は夢の中。
5分早く来ていれば鼻ちょうちんの大きさが自己ベストを更新する歴史的瞬間を見られたのだが。
「おーい、いいのかー? 勝手に入っちゃうぜー?」
「美鈴、美鈴ってば」
軽く頬を叩いても、肩を揺すっても、起きる気配を見せない。
立ったままでこうも熟睡できるのだ。
太陽の魔力の何と恐ろしい事か。
しかし、そんな魔力を打ち払う一筋の光が美鈴の頭に飛来した。
サクッ
「いったあああ!」
「美鈴! あなたはまた昼寝して!」
十六夜咲夜の放ったナイフは一寸の狂いも無く、小気味よい音を立てて突き刺さった。
流石の美鈴も跳ね起きる。
「おいおい、相変わらず過激な起こし方だなあ」
「頑丈な妖怪だからいいものの・・」
「あら二人共、いらっしゃい」
華麗に客を迎えるその姿はまさに完璧。
メイド長の名に恥じない動作である。
「いや聞けよ。まあ、ナイフくらいじゃどうにもならないかも知れないけどさあ」
「・・あら? こ、これって!」
「いたたた・・」と呟きながらナイフを抜く美鈴。
その時アリスが何かに気付いた。
「このナイフ、純銀製じゃないの!」
「何い!?」
銀。
それは古来より不浄な者達を滅する事ができると伝えられる、退魔の武器として使われた素材の筆頭であろう。
剣や銃弾に姿を変え聖なる力を宿し、吸血鬼や狼男、ミイラ男など、知名度トップクラスの魔物の退治にも使用される。
そんなナイフを受けた美鈴も妖怪。
少なからずその力の影響は受けるだろう。
「おま・・それは流石にどうなんだよ」
魔理沙は今までも何度と無くナイフが突き刺さる瞬間を見ている。
が、あくまで妖怪の身、生半可な武器では大事にはなり得ないだろうと軽く見ていた。
しかし実際はどうだ。
生半可どころか、この館の主にまで効きそうな武器である。
戦いの場ならいざ知らず、日常生活での軽い仕置きに使うにはいささか役不足ではあるまいか。
「ちょっとやり過ぎじゃないか?」
「そうねえ・・」
二人の声に咲夜への非難が混じる。
万が一目の前で知り合いが刺し殺されたりしたら、それは夢見が悪くなるだろう。
少し改善してくれればいいなあ。
その程度の軽い苦言であった。
しかし。
「ち、違・・私は・・私はそんなつもりじゃ・・」
「お、おい?」
「咲夜?」
必要以上に取り乱す咲夜。
次の瞬間には、眼前に彼女の姿は無くなっていた。
「な、なんだあ?」
不思議に思う魔理沙。
別に咲夜を追い詰めるつもりは無かった。
それはアリスにも言える事だ。
そんな二人に、回復した美鈴が対応する。
「二人共、私のために言ってくれたのは有り難いけどね・・咲夜さんは悪くないのよね」
「んん?」
「つまり?」
ナイフを投げるのは他でも無い咲夜である。
厳密に言えば、寝ている美鈴が原因なわけだが、そういう話では無いだろう。
「えーっと・・あらぬ誤解を受けそうなんだけどね・・」
そう前置きして美鈴が言うには。
「実はこれ、私が頼んだの」
「は?」
「は?」
引き抜いた銀のナイフを揺らしながら言う美鈴。
聞いた直後は意味がわからず困惑した二人だったが、徐々に困惑の意味合いが変わってくる。
「そ、その、美鈴・・お前その嗜好はちょっと・・なあ?」
「魔理沙、人の好みに口を出すべきでは無いわ。大丈夫よ美鈴。全然気にしないわ」
「うわーい、やっぱりだあ」
あからさまにドン引く魔理沙と、フォローしながらも目を合わせようとしないアリス。
今までコツコツ積み上げてきた美鈴のイメージが二人の中で倒壊し、新たに「変態」というイメージが猛スピードで建築されていくのがありありとわかる。
「ち、違うって! そういうんじゃなくて・・おっと、少しお待ちを」
二人の中の変態美鈴イメージが地上300m程まで達しようとした頃、誤解を解こうとした美鈴が門の中を見る。
「あ、やっぱりお嬢様。どうしました?」
視線の先には日傘を差した紅魔館の主、レミリア・スカーレットが歩いてきていた。
「どうしたもこうしたも・・あんたら、咲夜に何やったのよ」
「ああ、咲夜さんですか・・やっぱり何か問題が?」
「私の部屋の真ん中で遠い目をしながら体育座りしてる」
「ええ?」
「もう、気味が悪いったら無いわよ。仕方ないから避難してきたの」
「しかし、なんでレミリアの部屋なんだ? 落ち込むならどっか人目につかない場所とかだろ。普通」
「ああ、今の時間から考えるに・・」
レミリアが時計塔を見て予想する。
「シーツを取り替えに私の部屋まで来る。そこまでは根性でどうにかなったけど、志半ばで轟沈・・ってとこね」
その予想は正しかった。
現に今の咲夜は、取り替える筈だった新品のシーツを頭から被り巨大てるてる坊主と変貌していた。
その光景を偶然見ていた妖精メイド達が真似を始め、今紅魔館内ではプチてるてるブームが発生している。
ちょっぴりホラー。
「仕事熱心なのか何なのかわからん奴だな・・」
「有名な紅魔館のメイド長が根性を原動力にしているというのも、ちょっとどうかと思うわね」
「そんな事より何があったのよ」
「ええ、実は・・」
今までの出来事をサラッと説明し終えた頃、レミリアは額に手を当て顔を顰めた。
「まったく、余計な事言ってくれるわね」
「いや、だけどさ、起こすのに銀のナイフとか美鈴が頼んだとか、意味がわかんないぜ」
「そうねえ、ちょっと特殊な事情だしね・・いいわ、説明してあげる」
レミリアが話をする環境を作るためにパチンと指をならすも、咲夜は来ない。
当然である。
咲夜は今てるてる軍団のリーダーになっているのだから。
「・・・・・」
仕方なく自分でゴトゴトとテーブルやイスを準備。
各自、自分の座るイスは自力で用意している。
「ごほん、では話すわ。あれは咲夜がメイド長になって暫くした頃だったわね」
当時の咲夜は人間の身でありながら吸血鬼の館のメイドを束ねる身となり、大変ながらも充実した日々を送っていた。
メイドとしての高い素質に加え、時を操る能力・・そして何より、生まれ持ってのド根性で激務をこなしていたのである。
メイド長としての仕事にも適応し、ようやく慣れ始めた頃だった。
咲夜の業務に新しいものが追加された。
「門周辺の見回り(特に正門の真正面)」
追加業務の内容に、咲夜は首を傾げた。
館内の仕事を行う人員と屋外の警備を行う人員は基本的に別の部署である。
この命令はいわば、野球部のキャプテンがテニス部の練習を監視に行くようなものである。
これでは軋轢が生じかねない。
それもこの内容では、暗に美鈴を監視に行けと言われているようなものではないか。
咲夜は美鈴を始めとする外勤の者達を尊敬していた。
自分達にはできない仕事をこなせる人員なのだ。
外勤の者達は逆に内勤メイド達の細やかな仕事を賞賛していた。
互いが互いを認め信頼し合う、理想的な職場だったのだ。
そんな環境で相手のテリトリーを侵すような真似をすれば、どうしたって角が立つ。
現在の立場から言うと、咲夜に命令を出すのはレミリアしかいない。
抗議に向かおうとした咲夜だったが、書類の署名に気が付いた。
「by 警備部」
つまりこの依頼は、相手方からの救援要請のようなものなのだろう。
さてどうしたものか。
先にも言ったが、紅魔館で働く上では信頼関係が重要だ。
主従の縦関係しかり、同僚の横関係しかり。
そう考えると、簡単に依頼を断るわけにはいくまい。
とりあえず現状の把握からだ。
咲夜は指示通り門へと向かった。
さて、屋外に出た咲夜は手始めに壁にそってぐるりと敷地内を回ってみた。
特に問題は見られない。
妖精なだけにフワフワした雰囲気が漂っているものの、それでも内勤メイドに比べれば引き締まって感じられる。
では次はいよいよ重点的に見るべしと言われた正面だ。
ここは美鈴が守っている場所であり、他の部分よりも安心できる。
やはり指示書は何かの間違いだったか。
美鈴の下に辿りついた咲夜が見たものは、直立不動で眠る同僚と、それを起こそうとする健気な部下達の姿だった。
「あ、咲夜さまー!」
「なんとかしてくださーい!」
咲夜の登場に、妖精達が寄ってくる。
「えーと・・どゆこと?」
ぽかんとする瀟洒なメイド長。
妖精達が説明するには、毎年春から初夏にかけて、美鈴が居眠りをして困っているというのだ。
だが結局自分達ではどうにもならず、ついには咲夜へ救いを求めた。
「えー・・うーん・・」
答えに悩む咲夜。
本人達が必死なのはわかるが、どうにも緊張感が無い画だ。
はたから見ていると、お姉さんに纏わりつく小さな妹達にも見えて、微笑ましいくらいである。
「お嬢様にも相談したんですよ!だけど・・」
「「平和なんだし、いいんじゃないのー?」との事でした!」
不満を口にする妖精。
レミリアの真似は少し似ている。
「お嬢様がそう言うなら・・ねえ」
微妙な立場の咲夜としては、微妙な答えを返さざるを得ない。
しかし・・
「ダメです! 館の顔である美鈴さまがこんなでは、全体の品位に関わってきます!」
「そうです! 常に全力投球が我々の役割です!」
「あなた達・・!」
咲夜は心打たれた。
主人のレミリアとフランドール、その友人のパチュリー、門番の美鈴を除き、この館はガッツで維持されているのだ。
今月の抱負は「気合い」先月の抱負は「根性」先々月の抱負は「気合い」だった。
気合いと根性のヘビーローテーションである。
年末年始はそこに「精根尽き果てるまで」が追加される。
よって、如何に涼しい季節においてもメイドたちは常に汗だくである。
着替えが幾つあっても足りやしない。
閑話休題。
「わかった! わかったわ! あなた達の思い、美鈴に届けましょう!」
咲夜は意を決し美鈴の元へ歩を進める。
最初は優しく肩を揺すりながら。
「美鈴・・美鈴、起きなさい。仕事中でしょう?」
次は少し強めに肩を叩いて。
「美鈴。美鈴ったら!」
「んむ・・んー・・しゃくやしゃん・・?」
「あ、美鈴。ほら、しっかりなさい」
「・・・ぐう・・」
二度寝。
勤務中に、一度目を開け、同僚の顔を見て、名前を呼び、また寝た。
これには咲夜も渋い顔。
しかし咲夜以上にエキサイトしたのは、30分以上も起こそうと頑張っていた妖精達だった。
「キーッ! 咲夜さま! これはもう!」
「ええ! 鉄拳制裁! それしかありませんメイド長!」
「えー?」
流石にそれは少し度が過ぎないだろうか。
優雅さにも欠ける気がする。
渋る咲夜、煽る妖精。
事態は平行線を辿るかのように見えた。
しかし。
「あ、そーれ! メ・イド・長! メ・イド・長!」
「さ・く・や! それ、さ・く・や!」
手拍子とコールが始まった。
紅魔館においてこれが始まると、任務の達成率は150%に跳ね上がる。
与えられた目標をクリアする確率が100%、テンションに身を任せてついでに他の事も片付ける確率が70%、余計な事までやり過ぎて失敗しちゃう確率が20%の意である。
元は二代目メイド長、紫の髪と、赤地に白抜きの星のメイド服が特徴だった偉大なるメイド妖精、エグチ氏が考案したテクニックである。
「さ・く・や! あ、そーれ、さ・く・や!」
「わっしょいわっしょい! さ・く・や!」
こうなってしまっては、誰も彼女達を阻止できない。
決意を固め美鈴に対峙する咲夜。
手を振り上げるが拳骨は流石にどうだろうと思い、手刀で叩き起こす事にした。
「美鈴・・覚悟!」
風を切り裂き、空気を割り、咲夜の必殺チョップが振り下ろされる。
ミシャッ!!
嫌な音が響く。
門前に集った妖精の誰もが勝利を確信した。
「流石に起きるべ」と。
しかし・・
「・・メ、メイド長?」
「・・あの・・それって・・」
咲夜の右手の親指と手首が接触していた。
ありえない形状に曲がった己の手を押さえ、必死に耐える咲夜。
誰も言葉を発せない。
口に出したら終わる。
咲夜の小声だけがその場を支配している。
「いやいやいやいや、無い。これは無いわー。うん、無い無い、無いって・・」
そんな空気の中、ついに妖精の一人が禁忌を口にしてしまう。
「・・いたそー・・」
「あ! バカ!」
忘れようと、無かった事にしようとしていた激痛が首を擡げる。
「○×▲☆■ーーー!??!?」
咲夜は、人間には発音出来ないであろうと思われる悲鳴を発しながらその場に沈んだ。
「ふあっ! 何事!?」
美鈴はその悲鳴で跳ね起きたが、寝起きの状態でメイド長弔い合戦のターゲットに選出される事となった。
「と、まあ、これが最初の出来事だったわね」
「なんていうか、壮絶だな」
「しかしまた、なんでそんな事態に?」
「ああ、それはね・・あなた達、美鈴の役割って知ってるでしょう?」
「門番でしょ?」
「その通りよ。門番とはこの館に害を為す者を撃退する、或いは館内が万全の状態になるまで食い止める仕事」
「まあそうだな」
「何よりも頑強さが求められるわけよ」
美鈴が門番に抜擢された理由。
それは如何なる攻撃をも防ぎ、堪え、我慢する、鋼のような防御力と精神力にある。
主人や仲間の身を守るために自らの体を盾にする事を厭わない。
それが紅美鈴の強さなのである。
「魔理沙、ちょっと美鈴のほっぺ触ってみなさい」
「え? いいの? じゃあ遠慮なく」
ぷにぷにぷに
「超気持ちいいぜ。癖になるな。持って帰りたい」
「却下。じゃあ次は守りの態勢になった美鈴に同じ事してみなさい」
レミリアの言葉を聞いた美鈴は一度目を閉じ呼吸を整える。
ぷにぷにの感触に期待を抱く魔理沙は美鈴のほっぺたを指で突く。
ぐきっ
「おああああ! 突き指! 突き指した!」
少し前まで柔らかかった美鈴のほっぺたは、鋼鉄のような硬度となっていた。
「どう? 凄いでしょ? 美鈴は呼吸法一つで体の強度を跳ね上げる事ができるの。流石美鈴よね」
「そんなに褒められると照れちゃいますよ~」
「うふふ」
「えへへ」
主従間のスキンシップが為されているが、魔理沙にとってはそれどころでは無い。
今の彼女に必要なのはスキンシップよりも冷感湿布だった。
「というわけで、警備中の美鈴は常にこの状態をキープしてるわけよ。そんな美鈴に全力でチョップを放ったらどうなるか・・咲夜の手首は全治半年だったわ。手首はね」
「手首は? じゃあ、他にも怪我したの?」
「アリス、私達は妖怪よね?」
「ええ」
「妖怪は、一般的に人間を凌駕する力を持っているわね。あなたも私もそうでしょ?」
「そうね」
「だけど、外の世界で覇者となったのは私達よりも力の弱い、人間だった。吸血鬼が幻想郷に落ち延びる必要がある程にね」
「うんうん」
「我々にも勝る人間の武器、それは知恵と努力よ」
「知恵と努力?」
「そう。越える事が困難な障害にぶつかった時、彼らは考えるの。どうすれば突破できるだろうか? 何か突破口は無いだろうか? とね」
「ふむ」
「前回はここがダメだった。じゃあこの手はどうだろうか? 色々試すのよ。その結果、私達吸血鬼も多くの弱点が発見された」
「なるほど」
「結構な恐怖だったわよ。前に軽くあしらえた筈の人間が、今度会う時には弱みを克服して挑みかかってくるのだから」
「ふんふん」
「そして、咲夜も人間なのよ」
「つまり諦めなかったわけね」
「うん」
咲夜の怪我が完治した頃には夏の盛りとなり、昼寝にはあまり適さない気候であった。
美鈴も寝る事が無くなっていたのだ。
しかし咲夜は油断しなかった。
季節は廻る。
来年の春には、再び決戦の時が来る筈だ。
リベンジに備え、咲夜は日々考え続けた。
そして春が来る。
外勤の妖精から報告を受けた咲夜は、意気揚々と美鈴の元へと向かった。
「メイド長! それは!?」
妖精が驚くのも無理は無い。
咲夜の右手には、ガッチリとテーピングが施してあった。
「よく聞いてくれたわね。これぞ、私が研究を重ねて開発した、対美鈴装備よ」
前回の反省を活かし、手刀では無く拳。
その拳には強度を高めるために鉄の棒が握り込まれている。
更にその上から指を外傷から保護するためにテーピング。
理論に裏打ちされた、完璧な装備の筈である。
「さあ美鈴! 今こそ雪辱を果たす時よ! いざ・・起きなさい!」
拳を振り下ろす咲夜。
ミチィ!
「・・・・・」
「メ、メイド長・・」
理論は完璧な筈だった。
しかし、実践が足りなかった。
握りこまれた鉄と、鉄のように硬化した美鈴の頭。
その二つに挟まれた咲夜の細い指。
それはさながら、臼と杵に挟まれるお餅のようであった。
「○×▲☆■ーーー!??!?」
十六夜咲夜、二度目の敗北である。
しかし咲夜は諦めなかった。
何度も何度も、怪我を負いながら。
少しずつ、だが着実に歩を進めていったのだ。
その努力こそ人間が生存競争を生き延びて来れた理由なのだ。
そんなある年の出来事。
レミリアの友人、パチュリー・ノーレッジは久々に図書館から出ていた。
長く取り組んできた難解な研究もようやく終わり、気分は晴れやか。
たまには日の光を浴びるのも悪くは無いだろう。
その後は紅茶でも飲みながら、友人と談笑に花を咲かせるのだ。
なんとも清々しい気持ちで廊下を歩いている時だった。
突如目に映る異形の者。
ガション ガション ガション
「だ、誰!? 誰なの!?」
パチュリーが視界に捉えたもの。
それは、怪しく館内を徘徊する甲冑の姿だった。
「あ、パチュリー様。お久し振りです」
「さ、咲夜?」
無骨な甲冑から響く声。
それは聞き慣れたメイド長の声であった。
「その格好は?」
「これですか? お嬢様のコレクションを拝借致しました」
そういえば見覚えがあるかも知れない。
たしか、廊下のどこかに配置されていたような。
「では私はこれにて」
「そんな物騒な姿で何する気?」
「私の生き様を証明しに、ですかね」
ガション ガションと足音を残して立ち去る咲夜。
その姿はまるで、聖戦に赴く戦士のようであった。
鎧を身に纏い、門前に辿り着いた咲夜であったが、一つ問題が発生していた。
美鈴が起きていたのである。
まあ仕方が無い。
寝ていない者は起こせない。
せっかくなので挨拶だけでもしておこうと美鈴に近付く咲夜であったが。
ガション ガション
「だ、誰だ!? 何者だお前は!」
美鈴、臨戦態勢。
普段は温厚で侵入者に対してもまずは話し合いで帰ってもらおうが基本スタンスである彼女にしては珍しい光景。
しかし、誰が彼女を責められようか。
突如として目の前に鎧騎士が現れたのだ。
「ちょっ! 何!?」
美鈴の放つ威圧感に気圧され、思わず逃げ腰になる咲夜。
しかし、それがいけなかった。
咲夜が逃げる方向は館内。
美鈴の任務は館内へ不審者を入れない事。
怪しげな騎士が館に突撃しようとしている!
お嬢様や咲夜さんは私が守るんだ!
俊敏な動きで騎士(咲夜入り)に躍りかかる美鈴。
鎧を着込んだ相手と戦う際の定石は、関節を極める事なのだ。
事情を知っている妖精達が説明しようとするが、間に合わない。
「いたたたたた! 美鈴! 私よ私!」
「・・あり?」
誤解が解けたのは、美鈴が咲夜の腕を完璧にロックした時だった。
「それで、何でこんな意味のわからない事を?」
咲夜の腕に処置を施しながら尋ねる美鈴。
あと5秒遅かったら、病院に担ぎ込む事態になっていた。
「美鈴、この季節はすぐ寝るでしょう? 何とか起こそうとしてきたけど、その度に怪我してたから」
「それで身を守るために妙な格好を?」
「うん。つまり、あなたが眠らなければそれで解決なわけよ」
ここにきてようやく美鈴に説明する。
手段と目的が入れ替わっていた事に咲夜も気が付いたのだ。
「それは難しい課題ですねえ」
「おい」
「簡単に克服出来るなら、とっくにやってますよー」
美鈴の一言によって事態は振り出しに戻った。
「あ、じゃあこういうのはどうでしょう。体を硬くする呼吸法を相殺する秘孔があるんですよ!」
「秘孔?」
「ツボみたいものですね。それを押して頂ければ、体がふにゃんふにゃんになるんです」
「ああ、それなら何とかなりそうね」
「ただ、一つだけ問題がありまして」
「問題?」
「その秘孔の効果って、全身の筋肉をブヨブヨの脂肪に変えるものなんですよね」
「全力で却下」
その手段ならば確かに美鈴を容易に起こせるだろう。
しかし、そのために美鈴の鍛え抜かれた肉体に由来する美しさを崩壊させろと言うのか。
そんな事できる筈が無い。
それならば自身の怪我を重ねながら方法を探す方が遙かにマシだ。
「ダメですか? じゃあ、飛び道具なんてどうでしょう」
「飛び道具ねえ・・」
「咲夜さん、戦いでナイフ使うじゃないですか。それをサクッと」
「正気?」
「もちろん」
「あなた・・いえ、人の趣味にケチ付ける気は無いけど・・ねえ・・」
「誤解です。門に立ってる時の私の丈夫さ、知ってるでしょう?」
「痛いほどにね。でも、本当に平気なの?」
「あ、逆に普通のナイフじゃ効かないかも知れないですね。試してみてくださいよ」
「うーん、気が進まないけど・・それじゃあ」
咲夜がナイフを投擲する。
パキン
「ありゃ、やっぱりダメですね」
「あなたが妖怪なんだって、今改めて認識できたわ」
「そうだ。食器の中に銀ナイフあるじゃないですか。あれなら・・」
「ええ!? いくらなんでもダメよ。銀って、退魔の力があるでしょう? 流石に危険よ」
「平気ですってば。ね? 次回からそうしてみてくださいよ」
「次回が無いように願いたいものだけど」
「いや、多分明日辺りには。晴れてポカポカになるみたいですし」
「おい」
「つまり、普通には起こせないから今の方法になったわけね」
「美鈴が全面的に悪いんじゃないか」
レミリアから一連の流れを聞いた二人は咲夜に同情した。
良心の呵責に苛まれながらも、泣く泣く心を鬼にしていたのだ。
「とにかく、咲夜をなんとかしないとね。これじゃ美味しい紅茶も飲めないわ」
「そうですねえ。今日の一件で、もう銀のナイフは使いたくないでしょうし。私の健全なお昼寝ライフにも影響してきますよ」
「お前、改善する気皆無だろ」
「何か他の方法を探せばいいのかしらね」
「そうだけど・・当てはあるの?」
「この後私達図書館に行くのよ。そこで何か考えてみるわ」
「そうだな。図書館の使用料って事で」
「じゃあ頼むわ。そうそう美鈴、咲夜の代わりに紅茶淹れて頂戴」
「ええ?」
「半分は・・いや、8割くらいあんたのせいでしょうが」
「でも門番の仕事が・・」
「今ここにはいつもの布陣に加えて、魔法使い二人もいるのよ? 頼まれたって誰も襲って来ないでしょ。それに他のメイド達も張り切ってるし、大丈夫よ。ほら行くわよ」
レミリアの視線の先にはシャドーボクシングに励む妖精達の姿があった。
飛び散る汗の煌きが眩しい。
「は~い」
渋々レミリアに続く美鈴。
魔理沙とアリスも図書館へ向かう。
紅魔館の誇る大図書館。
パチュリーのテリトリーであるこの場所では、現在三人の魔法使いが額を寄せ、銀のナイフに代わる新たな武器を考えていた。
「前提として、打撃が効かないっていうのは確定なのよね」
「基本的にはそうね。美鈴を起こすためだけにレミィやフランを派遣するなら話は別だけど」
如何に頑強な物質とはいえ、それ以上の破壊力をぶつければダメージが通るのは必定である。
しかし、門番を起こすために館の主人が出動するというのは些か妙な光景であろう。
「私のマスタースパークは通るよな」
「あなたが美鈴をずっと監視してくれるのなら問題は無いわね」
「それはちょっとなあ・・」
「銀のナイフに抵抗があるなら、他の物で代用してみるのはどうかしら?」
「それは有効ね。 何か案はあるの?」
「ええ。さっきから考えてたんだけどね。ナイフの先端が目標に当たると同時に、内部に仕込まれている火薬が炸裂するの。どう? 破壊力抜群よ」
「お前、美鈴を爆殺する気か」
「じゃあアリスの案を元にしてこういうのはどうかしら。火薬が爆発する衝撃で、一緒に仕込んでおいた金属片も飛び出してくるの」
「殺傷能力向上させてどうすんだよ」
「じゃあ根本から考えを変えてみましょう。刃の真ん中辺りを折れやすくしてみるの」
「そしたらどうなるんだ?」
「相手が突き刺さったナイフを抜こうとすると、体内で刃が折れるの」
「なるほど、流石アリスね」
「エグイよ! お前ら美鈴に何か恨みでもあんのか」
「さ、冗談はこれくらいにしておきましょうか」
「そうね」
「私はもう、すごく疲れたんだが」
魔理沙と後の二人では、時々話が噛みあわない事がある。
相手を煙に巻くような物言いとか、本心を見せないだとか。
まともに相手をするのが疲れるのだ。
「こういうのはどうかしら。寝ている美鈴に直接火薬を振りかけて点火するの」
「なるほど、流石パチュリーね」
「もういいよ!」
とにかく疲れるのだ。
「そもそも、ナイフを同僚に投げる時点で咲夜には抵抗があるでしょうね」
「そうね。暴力的では無い方法が一番なんでしょうけど・・」
「さっきまで火薬とか言ってたくせに」
「火薬? 魔理沙、あなたふざけてるの?」
「真剣に考えてくれないかしら」
「・・・・・」
絶妙に魔理沙の怒りのツボを狙ってくる二人。
感情がすぐに表情に出る魔理沙は、遊び心をくすぐるのだ。
余談だが、そんな二人の共同研究の成果が、絶賛発売中の「イラダチくん」であった。
「打撃はともかく、揺らしても起きないというのは問題ね」
「そうね、体が硬化すると感覚も鈍くなるのかしら」
「それは無いだろ。じゃなきゃ敵が寄ってきても気付かないだろうし」
「ひょっとしたら敵意にだけ反応するのかも知れないわね」
「いざという時には体を硬くしたまま戦うんでしょう?感覚を断ち切っているというのは考えづらいわよね」
ああでもない、こうでもない。
ようやくまともに議論が始まると、流石の集中力で研究が進む。
既に開始から3時間が経とうとしていた。
「パチュリー様、紅茶が入りましたが」
「それは一理あるかもね」
「アリスさん、紅茶が」
「そもそも前提条件が・・」
「魔理沙さん」
「だけどそれだと・・」
パチュリーに仕える小悪魔が紅茶とクッキーを持ってやってきた。
が、議論に夢中の3人は意に介さない。
プクッとほっぺたを膨らませた小悪魔は、強硬手段に出る。
「パチュリー様、ふぅ~」
「わひゃう!?」
パチュリーの耳に息を吹きかける小悪魔。
思わず飛び上がるパチュリー。
「もう、何よ?」
「ですから紅茶が入りました」
「まったく。それじゃ、少し休憩に・・どうしたの?」
二人がパチュリーを見たまま固まっている。
ややあって、異口同音に
「「これだ!」」
翌日、持ち前の根性で何とか仕事の意欲を取り戻した咲夜は眠っている美鈴と対峙していた。
昨晩パチュリーから秘策を伝授されたのだ。
少し抵抗がある方法だが、同僚にナイフを投げつけるよりも遙かにマシであった。
意を決した咲夜は、背後からこっそりと美鈴に近寄ると・・
耳元で火薬を炸裂させた。
それはこの紅魔館に住む吸血鬼にとっても違いは無い。
直接当たれば肌が焼けるとは言え、どんよりした空の下に干されしっとりした衣服よりも、日の光をたっぷりと浴びたフワフワの物を身に付けた方が心地よい。
生乾きの嫌な臭いを周囲に仄かに漂わせる吸血鬼なんて、あまり威厳は感じられないだろう。
吸血鬼を抜きにしても、年頃の女の子としてもそれは回避しておきたいところだ。
つまり、太陽は自身を天敵とする種族に対してでも恩恵を与えてくれる、何とも粋な存在なのだ。
しかしそれとは逆に、太陽の光は全ての生き物にとって耐え難い試練を与える存在でもある。
全てを包み込むような光で照らし、優しく暖めながら、研ぎ澄まされた牙をゆっくりと突き立てるのだ。
その脅威に打ち勝てる者など存在するのだろうか。
紅魔館を守護する屈強な体と精神の持ち主でも同じ事だ。
故に、この光景は必然なのである。
紅美鈴は最後まで勇敢に戦った。
戦って戦って、戦い抜いて・・
しかし、如何なる手段を用いても最後には儚くも散ってしまったのだ。
「ぐぅ・・」
つまり居眠りである。
「おーっす美鈴! って、ありゃ、また寝てるぜ」
「まあこの暖かさじゃ気持ちもわかるわよね」
霧雨魔理沙とアリス・マーガトロイドが来館した時、既に美鈴は夢の中。
5分早く来ていれば鼻ちょうちんの大きさが自己ベストを更新する歴史的瞬間を見られたのだが。
「おーい、いいのかー? 勝手に入っちゃうぜー?」
「美鈴、美鈴ってば」
軽く頬を叩いても、肩を揺すっても、起きる気配を見せない。
立ったままでこうも熟睡できるのだ。
太陽の魔力の何と恐ろしい事か。
しかし、そんな魔力を打ち払う一筋の光が美鈴の頭に飛来した。
サクッ
「いったあああ!」
「美鈴! あなたはまた昼寝して!」
十六夜咲夜の放ったナイフは一寸の狂いも無く、小気味よい音を立てて突き刺さった。
流石の美鈴も跳ね起きる。
「おいおい、相変わらず過激な起こし方だなあ」
「頑丈な妖怪だからいいものの・・」
「あら二人共、いらっしゃい」
華麗に客を迎えるその姿はまさに完璧。
メイド長の名に恥じない動作である。
「いや聞けよ。まあ、ナイフくらいじゃどうにもならないかも知れないけどさあ」
「・・あら? こ、これって!」
「いたたた・・」と呟きながらナイフを抜く美鈴。
その時アリスが何かに気付いた。
「このナイフ、純銀製じゃないの!」
「何い!?」
銀。
それは古来より不浄な者達を滅する事ができると伝えられる、退魔の武器として使われた素材の筆頭であろう。
剣や銃弾に姿を変え聖なる力を宿し、吸血鬼や狼男、ミイラ男など、知名度トップクラスの魔物の退治にも使用される。
そんなナイフを受けた美鈴も妖怪。
少なからずその力の影響は受けるだろう。
「おま・・それは流石にどうなんだよ」
魔理沙は今までも何度と無くナイフが突き刺さる瞬間を見ている。
が、あくまで妖怪の身、生半可な武器では大事にはなり得ないだろうと軽く見ていた。
しかし実際はどうだ。
生半可どころか、この館の主にまで効きそうな武器である。
戦いの場ならいざ知らず、日常生活での軽い仕置きに使うにはいささか役不足ではあるまいか。
「ちょっとやり過ぎじゃないか?」
「そうねえ・・」
二人の声に咲夜への非難が混じる。
万が一目の前で知り合いが刺し殺されたりしたら、それは夢見が悪くなるだろう。
少し改善してくれればいいなあ。
その程度の軽い苦言であった。
しかし。
「ち、違・・私は・・私はそんなつもりじゃ・・」
「お、おい?」
「咲夜?」
必要以上に取り乱す咲夜。
次の瞬間には、眼前に彼女の姿は無くなっていた。
「な、なんだあ?」
不思議に思う魔理沙。
別に咲夜を追い詰めるつもりは無かった。
それはアリスにも言える事だ。
そんな二人に、回復した美鈴が対応する。
「二人共、私のために言ってくれたのは有り難いけどね・・咲夜さんは悪くないのよね」
「んん?」
「つまり?」
ナイフを投げるのは他でも無い咲夜である。
厳密に言えば、寝ている美鈴が原因なわけだが、そういう話では無いだろう。
「えーっと・・あらぬ誤解を受けそうなんだけどね・・」
そう前置きして美鈴が言うには。
「実はこれ、私が頼んだの」
「は?」
「は?」
引き抜いた銀のナイフを揺らしながら言う美鈴。
聞いた直後は意味がわからず困惑した二人だったが、徐々に困惑の意味合いが変わってくる。
「そ、その、美鈴・・お前その嗜好はちょっと・・なあ?」
「魔理沙、人の好みに口を出すべきでは無いわ。大丈夫よ美鈴。全然気にしないわ」
「うわーい、やっぱりだあ」
あからさまにドン引く魔理沙と、フォローしながらも目を合わせようとしないアリス。
今までコツコツ積み上げてきた美鈴のイメージが二人の中で倒壊し、新たに「変態」というイメージが猛スピードで建築されていくのがありありとわかる。
「ち、違うって! そういうんじゃなくて・・おっと、少しお待ちを」
二人の中の変態美鈴イメージが地上300m程まで達しようとした頃、誤解を解こうとした美鈴が門の中を見る。
「あ、やっぱりお嬢様。どうしました?」
視線の先には日傘を差した紅魔館の主、レミリア・スカーレットが歩いてきていた。
「どうしたもこうしたも・・あんたら、咲夜に何やったのよ」
「ああ、咲夜さんですか・・やっぱり何か問題が?」
「私の部屋の真ん中で遠い目をしながら体育座りしてる」
「ええ?」
「もう、気味が悪いったら無いわよ。仕方ないから避難してきたの」
「しかし、なんでレミリアの部屋なんだ? 落ち込むならどっか人目につかない場所とかだろ。普通」
「ああ、今の時間から考えるに・・」
レミリアが時計塔を見て予想する。
「シーツを取り替えに私の部屋まで来る。そこまでは根性でどうにかなったけど、志半ばで轟沈・・ってとこね」
その予想は正しかった。
現に今の咲夜は、取り替える筈だった新品のシーツを頭から被り巨大てるてる坊主と変貌していた。
その光景を偶然見ていた妖精メイド達が真似を始め、今紅魔館内ではプチてるてるブームが発生している。
ちょっぴりホラー。
「仕事熱心なのか何なのかわからん奴だな・・」
「有名な紅魔館のメイド長が根性を原動力にしているというのも、ちょっとどうかと思うわね」
「そんな事より何があったのよ」
「ええ、実は・・」
今までの出来事をサラッと説明し終えた頃、レミリアは額に手を当て顔を顰めた。
「まったく、余計な事言ってくれるわね」
「いや、だけどさ、起こすのに銀のナイフとか美鈴が頼んだとか、意味がわかんないぜ」
「そうねえ、ちょっと特殊な事情だしね・・いいわ、説明してあげる」
レミリアが話をする環境を作るためにパチンと指をならすも、咲夜は来ない。
当然である。
咲夜は今てるてる軍団のリーダーになっているのだから。
「・・・・・」
仕方なく自分でゴトゴトとテーブルやイスを準備。
各自、自分の座るイスは自力で用意している。
「ごほん、では話すわ。あれは咲夜がメイド長になって暫くした頃だったわね」
当時の咲夜は人間の身でありながら吸血鬼の館のメイドを束ねる身となり、大変ながらも充実した日々を送っていた。
メイドとしての高い素質に加え、時を操る能力・・そして何より、生まれ持ってのド根性で激務をこなしていたのである。
メイド長としての仕事にも適応し、ようやく慣れ始めた頃だった。
咲夜の業務に新しいものが追加された。
「門周辺の見回り(特に正門の真正面)」
追加業務の内容に、咲夜は首を傾げた。
館内の仕事を行う人員と屋外の警備を行う人員は基本的に別の部署である。
この命令はいわば、野球部のキャプテンがテニス部の練習を監視に行くようなものである。
これでは軋轢が生じかねない。
それもこの内容では、暗に美鈴を監視に行けと言われているようなものではないか。
咲夜は美鈴を始めとする外勤の者達を尊敬していた。
自分達にはできない仕事をこなせる人員なのだ。
外勤の者達は逆に内勤メイド達の細やかな仕事を賞賛していた。
互いが互いを認め信頼し合う、理想的な職場だったのだ。
そんな環境で相手のテリトリーを侵すような真似をすれば、どうしたって角が立つ。
現在の立場から言うと、咲夜に命令を出すのはレミリアしかいない。
抗議に向かおうとした咲夜だったが、書類の署名に気が付いた。
「by 警備部」
つまりこの依頼は、相手方からの救援要請のようなものなのだろう。
さてどうしたものか。
先にも言ったが、紅魔館で働く上では信頼関係が重要だ。
主従の縦関係しかり、同僚の横関係しかり。
そう考えると、簡単に依頼を断るわけにはいくまい。
とりあえず現状の把握からだ。
咲夜は指示通り門へと向かった。
さて、屋外に出た咲夜は手始めに壁にそってぐるりと敷地内を回ってみた。
特に問題は見られない。
妖精なだけにフワフワした雰囲気が漂っているものの、それでも内勤メイドに比べれば引き締まって感じられる。
では次はいよいよ重点的に見るべしと言われた正面だ。
ここは美鈴が守っている場所であり、他の部分よりも安心できる。
やはり指示書は何かの間違いだったか。
美鈴の下に辿りついた咲夜が見たものは、直立不動で眠る同僚と、それを起こそうとする健気な部下達の姿だった。
「あ、咲夜さまー!」
「なんとかしてくださーい!」
咲夜の登場に、妖精達が寄ってくる。
「えーと・・どゆこと?」
ぽかんとする瀟洒なメイド長。
妖精達が説明するには、毎年春から初夏にかけて、美鈴が居眠りをして困っているというのだ。
だが結局自分達ではどうにもならず、ついには咲夜へ救いを求めた。
「えー・・うーん・・」
答えに悩む咲夜。
本人達が必死なのはわかるが、どうにも緊張感が無い画だ。
はたから見ていると、お姉さんに纏わりつく小さな妹達にも見えて、微笑ましいくらいである。
「お嬢様にも相談したんですよ!だけど・・」
「「平和なんだし、いいんじゃないのー?」との事でした!」
不満を口にする妖精。
レミリアの真似は少し似ている。
「お嬢様がそう言うなら・・ねえ」
微妙な立場の咲夜としては、微妙な答えを返さざるを得ない。
しかし・・
「ダメです! 館の顔である美鈴さまがこんなでは、全体の品位に関わってきます!」
「そうです! 常に全力投球が我々の役割です!」
「あなた達・・!」
咲夜は心打たれた。
主人のレミリアとフランドール、その友人のパチュリー、門番の美鈴を除き、この館はガッツで維持されているのだ。
今月の抱負は「気合い」先月の抱負は「根性」先々月の抱負は「気合い」だった。
気合いと根性のヘビーローテーションである。
年末年始はそこに「精根尽き果てるまで」が追加される。
よって、如何に涼しい季節においてもメイドたちは常に汗だくである。
着替えが幾つあっても足りやしない。
閑話休題。
「わかった! わかったわ! あなた達の思い、美鈴に届けましょう!」
咲夜は意を決し美鈴の元へ歩を進める。
最初は優しく肩を揺すりながら。
「美鈴・・美鈴、起きなさい。仕事中でしょう?」
次は少し強めに肩を叩いて。
「美鈴。美鈴ったら!」
「んむ・・んー・・しゃくやしゃん・・?」
「あ、美鈴。ほら、しっかりなさい」
「・・・ぐう・・」
二度寝。
勤務中に、一度目を開け、同僚の顔を見て、名前を呼び、また寝た。
これには咲夜も渋い顔。
しかし咲夜以上にエキサイトしたのは、30分以上も起こそうと頑張っていた妖精達だった。
「キーッ! 咲夜さま! これはもう!」
「ええ! 鉄拳制裁! それしかありませんメイド長!」
「えー?」
流石にそれは少し度が過ぎないだろうか。
優雅さにも欠ける気がする。
渋る咲夜、煽る妖精。
事態は平行線を辿るかのように見えた。
しかし。
「あ、そーれ! メ・イド・長! メ・イド・長!」
「さ・く・や! それ、さ・く・や!」
手拍子とコールが始まった。
紅魔館においてこれが始まると、任務の達成率は150%に跳ね上がる。
与えられた目標をクリアする確率が100%、テンションに身を任せてついでに他の事も片付ける確率が70%、余計な事までやり過ぎて失敗しちゃう確率が20%の意である。
元は二代目メイド長、紫の髪と、赤地に白抜きの星のメイド服が特徴だった偉大なるメイド妖精、エグチ氏が考案したテクニックである。
「さ・く・や! あ、そーれ、さ・く・や!」
「わっしょいわっしょい! さ・く・や!」
こうなってしまっては、誰も彼女達を阻止できない。
決意を固め美鈴に対峙する咲夜。
手を振り上げるが拳骨は流石にどうだろうと思い、手刀で叩き起こす事にした。
「美鈴・・覚悟!」
風を切り裂き、空気を割り、咲夜の必殺チョップが振り下ろされる。
ミシャッ!!
嫌な音が響く。
門前に集った妖精の誰もが勝利を確信した。
「流石に起きるべ」と。
しかし・・
「・・メ、メイド長?」
「・・あの・・それって・・」
咲夜の右手の親指と手首が接触していた。
ありえない形状に曲がった己の手を押さえ、必死に耐える咲夜。
誰も言葉を発せない。
口に出したら終わる。
咲夜の小声だけがその場を支配している。
「いやいやいやいや、無い。これは無いわー。うん、無い無い、無いって・・」
そんな空気の中、ついに妖精の一人が禁忌を口にしてしまう。
「・・いたそー・・」
「あ! バカ!」
忘れようと、無かった事にしようとしていた激痛が首を擡げる。
「○×▲☆■ーーー!??!?」
咲夜は、人間には発音出来ないであろうと思われる悲鳴を発しながらその場に沈んだ。
「ふあっ! 何事!?」
美鈴はその悲鳴で跳ね起きたが、寝起きの状態でメイド長弔い合戦のターゲットに選出される事となった。
「と、まあ、これが最初の出来事だったわね」
「なんていうか、壮絶だな」
「しかしまた、なんでそんな事態に?」
「ああ、それはね・・あなた達、美鈴の役割って知ってるでしょう?」
「門番でしょ?」
「その通りよ。門番とはこの館に害を為す者を撃退する、或いは館内が万全の状態になるまで食い止める仕事」
「まあそうだな」
「何よりも頑強さが求められるわけよ」
美鈴が門番に抜擢された理由。
それは如何なる攻撃をも防ぎ、堪え、我慢する、鋼のような防御力と精神力にある。
主人や仲間の身を守るために自らの体を盾にする事を厭わない。
それが紅美鈴の強さなのである。
「魔理沙、ちょっと美鈴のほっぺ触ってみなさい」
「え? いいの? じゃあ遠慮なく」
ぷにぷにぷに
「超気持ちいいぜ。癖になるな。持って帰りたい」
「却下。じゃあ次は守りの態勢になった美鈴に同じ事してみなさい」
レミリアの言葉を聞いた美鈴は一度目を閉じ呼吸を整える。
ぷにぷにの感触に期待を抱く魔理沙は美鈴のほっぺたを指で突く。
ぐきっ
「おああああ! 突き指! 突き指した!」
少し前まで柔らかかった美鈴のほっぺたは、鋼鉄のような硬度となっていた。
「どう? 凄いでしょ? 美鈴は呼吸法一つで体の強度を跳ね上げる事ができるの。流石美鈴よね」
「そんなに褒められると照れちゃいますよ~」
「うふふ」
「えへへ」
主従間のスキンシップが為されているが、魔理沙にとってはそれどころでは無い。
今の彼女に必要なのはスキンシップよりも冷感湿布だった。
「というわけで、警備中の美鈴は常にこの状態をキープしてるわけよ。そんな美鈴に全力でチョップを放ったらどうなるか・・咲夜の手首は全治半年だったわ。手首はね」
「手首は? じゃあ、他にも怪我したの?」
「アリス、私達は妖怪よね?」
「ええ」
「妖怪は、一般的に人間を凌駕する力を持っているわね。あなたも私もそうでしょ?」
「そうね」
「だけど、外の世界で覇者となったのは私達よりも力の弱い、人間だった。吸血鬼が幻想郷に落ち延びる必要がある程にね」
「うんうん」
「我々にも勝る人間の武器、それは知恵と努力よ」
「知恵と努力?」
「そう。越える事が困難な障害にぶつかった時、彼らは考えるの。どうすれば突破できるだろうか? 何か突破口は無いだろうか? とね」
「ふむ」
「前回はここがダメだった。じゃあこの手はどうだろうか? 色々試すのよ。その結果、私達吸血鬼も多くの弱点が発見された」
「なるほど」
「結構な恐怖だったわよ。前に軽くあしらえた筈の人間が、今度会う時には弱みを克服して挑みかかってくるのだから」
「ふんふん」
「そして、咲夜も人間なのよ」
「つまり諦めなかったわけね」
「うん」
咲夜の怪我が完治した頃には夏の盛りとなり、昼寝にはあまり適さない気候であった。
美鈴も寝る事が無くなっていたのだ。
しかし咲夜は油断しなかった。
季節は廻る。
来年の春には、再び決戦の時が来る筈だ。
リベンジに備え、咲夜は日々考え続けた。
そして春が来る。
外勤の妖精から報告を受けた咲夜は、意気揚々と美鈴の元へと向かった。
「メイド長! それは!?」
妖精が驚くのも無理は無い。
咲夜の右手には、ガッチリとテーピングが施してあった。
「よく聞いてくれたわね。これぞ、私が研究を重ねて開発した、対美鈴装備よ」
前回の反省を活かし、手刀では無く拳。
その拳には強度を高めるために鉄の棒が握り込まれている。
更にその上から指を外傷から保護するためにテーピング。
理論に裏打ちされた、完璧な装備の筈である。
「さあ美鈴! 今こそ雪辱を果たす時よ! いざ・・起きなさい!」
拳を振り下ろす咲夜。
ミチィ!
「・・・・・」
「メ、メイド長・・」
理論は完璧な筈だった。
しかし、実践が足りなかった。
握りこまれた鉄と、鉄のように硬化した美鈴の頭。
その二つに挟まれた咲夜の細い指。
それはさながら、臼と杵に挟まれるお餅のようであった。
「○×▲☆■ーーー!??!?」
十六夜咲夜、二度目の敗北である。
しかし咲夜は諦めなかった。
何度も何度も、怪我を負いながら。
少しずつ、だが着実に歩を進めていったのだ。
その努力こそ人間が生存競争を生き延びて来れた理由なのだ。
そんなある年の出来事。
レミリアの友人、パチュリー・ノーレッジは久々に図書館から出ていた。
長く取り組んできた難解な研究もようやく終わり、気分は晴れやか。
たまには日の光を浴びるのも悪くは無いだろう。
その後は紅茶でも飲みながら、友人と談笑に花を咲かせるのだ。
なんとも清々しい気持ちで廊下を歩いている時だった。
突如目に映る異形の者。
ガション ガション ガション
「だ、誰!? 誰なの!?」
パチュリーが視界に捉えたもの。
それは、怪しく館内を徘徊する甲冑の姿だった。
「あ、パチュリー様。お久し振りです」
「さ、咲夜?」
無骨な甲冑から響く声。
それは聞き慣れたメイド長の声であった。
「その格好は?」
「これですか? お嬢様のコレクションを拝借致しました」
そういえば見覚えがあるかも知れない。
たしか、廊下のどこかに配置されていたような。
「では私はこれにて」
「そんな物騒な姿で何する気?」
「私の生き様を証明しに、ですかね」
ガション ガションと足音を残して立ち去る咲夜。
その姿はまるで、聖戦に赴く戦士のようであった。
鎧を身に纏い、門前に辿り着いた咲夜であったが、一つ問題が発生していた。
美鈴が起きていたのである。
まあ仕方が無い。
寝ていない者は起こせない。
せっかくなので挨拶だけでもしておこうと美鈴に近付く咲夜であったが。
ガション ガション
「だ、誰だ!? 何者だお前は!」
美鈴、臨戦態勢。
普段は温厚で侵入者に対してもまずは話し合いで帰ってもらおうが基本スタンスである彼女にしては珍しい光景。
しかし、誰が彼女を責められようか。
突如として目の前に鎧騎士が現れたのだ。
「ちょっ! 何!?」
美鈴の放つ威圧感に気圧され、思わず逃げ腰になる咲夜。
しかし、それがいけなかった。
咲夜が逃げる方向は館内。
美鈴の任務は館内へ不審者を入れない事。
怪しげな騎士が館に突撃しようとしている!
お嬢様や咲夜さんは私が守るんだ!
俊敏な動きで騎士(咲夜入り)に躍りかかる美鈴。
鎧を着込んだ相手と戦う際の定石は、関節を極める事なのだ。
事情を知っている妖精達が説明しようとするが、間に合わない。
「いたたたたた! 美鈴! 私よ私!」
「・・あり?」
誤解が解けたのは、美鈴が咲夜の腕を完璧にロックした時だった。
「それで、何でこんな意味のわからない事を?」
咲夜の腕に処置を施しながら尋ねる美鈴。
あと5秒遅かったら、病院に担ぎ込む事態になっていた。
「美鈴、この季節はすぐ寝るでしょう? 何とか起こそうとしてきたけど、その度に怪我してたから」
「それで身を守るために妙な格好を?」
「うん。つまり、あなたが眠らなければそれで解決なわけよ」
ここにきてようやく美鈴に説明する。
手段と目的が入れ替わっていた事に咲夜も気が付いたのだ。
「それは難しい課題ですねえ」
「おい」
「簡単に克服出来るなら、とっくにやってますよー」
美鈴の一言によって事態は振り出しに戻った。
「あ、じゃあこういうのはどうでしょう。体を硬くする呼吸法を相殺する秘孔があるんですよ!」
「秘孔?」
「ツボみたいものですね。それを押して頂ければ、体がふにゃんふにゃんになるんです」
「ああ、それなら何とかなりそうね」
「ただ、一つだけ問題がありまして」
「問題?」
「その秘孔の効果って、全身の筋肉をブヨブヨの脂肪に変えるものなんですよね」
「全力で却下」
その手段ならば確かに美鈴を容易に起こせるだろう。
しかし、そのために美鈴の鍛え抜かれた肉体に由来する美しさを崩壊させろと言うのか。
そんな事できる筈が無い。
それならば自身の怪我を重ねながら方法を探す方が遙かにマシだ。
「ダメですか? じゃあ、飛び道具なんてどうでしょう」
「飛び道具ねえ・・」
「咲夜さん、戦いでナイフ使うじゃないですか。それをサクッと」
「正気?」
「もちろん」
「あなた・・いえ、人の趣味にケチ付ける気は無いけど・・ねえ・・」
「誤解です。門に立ってる時の私の丈夫さ、知ってるでしょう?」
「痛いほどにね。でも、本当に平気なの?」
「あ、逆に普通のナイフじゃ効かないかも知れないですね。試してみてくださいよ」
「うーん、気が進まないけど・・それじゃあ」
咲夜がナイフを投擲する。
パキン
「ありゃ、やっぱりダメですね」
「あなたが妖怪なんだって、今改めて認識できたわ」
「そうだ。食器の中に銀ナイフあるじゃないですか。あれなら・・」
「ええ!? いくらなんでもダメよ。銀って、退魔の力があるでしょう? 流石に危険よ」
「平気ですってば。ね? 次回からそうしてみてくださいよ」
「次回が無いように願いたいものだけど」
「いや、多分明日辺りには。晴れてポカポカになるみたいですし」
「おい」
「つまり、普通には起こせないから今の方法になったわけね」
「美鈴が全面的に悪いんじゃないか」
レミリアから一連の流れを聞いた二人は咲夜に同情した。
良心の呵責に苛まれながらも、泣く泣く心を鬼にしていたのだ。
「とにかく、咲夜をなんとかしないとね。これじゃ美味しい紅茶も飲めないわ」
「そうですねえ。今日の一件で、もう銀のナイフは使いたくないでしょうし。私の健全なお昼寝ライフにも影響してきますよ」
「お前、改善する気皆無だろ」
「何か他の方法を探せばいいのかしらね」
「そうだけど・・当てはあるの?」
「この後私達図書館に行くのよ。そこで何か考えてみるわ」
「そうだな。図書館の使用料って事で」
「じゃあ頼むわ。そうそう美鈴、咲夜の代わりに紅茶淹れて頂戴」
「ええ?」
「半分は・・いや、8割くらいあんたのせいでしょうが」
「でも門番の仕事が・・」
「今ここにはいつもの布陣に加えて、魔法使い二人もいるのよ? 頼まれたって誰も襲って来ないでしょ。それに他のメイド達も張り切ってるし、大丈夫よ。ほら行くわよ」
レミリアの視線の先にはシャドーボクシングに励む妖精達の姿があった。
飛び散る汗の煌きが眩しい。
「は~い」
渋々レミリアに続く美鈴。
魔理沙とアリスも図書館へ向かう。
紅魔館の誇る大図書館。
パチュリーのテリトリーであるこの場所では、現在三人の魔法使いが額を寄せ、銀のナイフに代わる新たな武器を考えていた。
「前提として、打撃が効かないっていうのは確定なのよね」
「基本的にはそうね。美鈴を起こすためだけにレミィやフランを派遣するなら話は別だけど」
如何に頑強な物質とはいえ、それ以上の破壊力をぶつければダメージが通るのは必定である。
しかし、門番を起こすために館の主人が出動するというのは些か妙な光景であろう。
「私のマスタースパークは通るよな」
「あなたが美鈴をずっと監視してくれるのなら問題は無いわね」
「それはちょっとなあ・・」
「銀のナイフに抵抗があるなら、他の物で代用してみるのはどうかしら?」
「それは有効ね。 何か案はあるの?」
「ええ。さっきから考えてたんだけどね。ナイフの先端が目標に当たると同時に、内部に仕込まれている火薬が炸裂するの。どう? 破壊力抜群よ」
「お前、美鈴を爆殺する気か」
「じゃあアリスの案を元にしてこういうのはどうかしら。火薬が爆発する衝撃で、一緒に仕込んでおいた金属片も飛び出してくるの」
「殺傷能力向上させてどうすんだよ」
「じゃあ根本から考えを変えてみましょう。刃の真ん中辺りを折れやすくしてみるの」
「そしたらどうなるんだ?」
「相手が突き刺さったナイフを抜こうとすると、体内で刃が折れるの」
「なるほど、流石アリスね」
「エグイよ! お前ら美鈴に何か恨みでもあんのか」
「さ、冗談はこれくらいにしておきましょうか」
「そうね」
「私はもう、すごく疲れたんだが」
魔理沙と後の二人では、時々話が噛みあわない事がある。
相手を煙に巻くような物言いとか、本心を見せないだとか。
まともに相手をするのが疲れるのだ。
「こういうのはどうかしら。寝ている美鈴に直接火薬を振りかけて点火するの」
「なるほど、流石パチュリーね」
「もういいよ!」
とにかく疲れるのだ。
「そもそも、ナイフを同僚に投げる時点で咲夜には抵抗があるでしょうね」
「そうね。暴力的では無い方法が一番なんでしょうけど・・」
「さっきまで火薬とか言ってたくせに」
「火薬? 魔理沙、あなたふざけてるの?」
「真剣に考えてくれないかしら」
「・・・・・」
絶妙に魔理沙の怒りのツボを狙ってくる二人。
感情がすぐに表情に出る魔理沙は、遊び心をくすぐるのだ。
余談だが、そんな二人の共同研究の成果が、絶賛発売中の「イラダチくん」であった。
「打撃はともかく、揺らしても起きないというのは問題ね」
「そうね、体が硬化すると感覚も鈍くなるのかしら」
「それは無いだろ。じゃなきゃ敵が寄ってきても気付かないだろうし」
「ひょっとしたら敵意にだけ反応するのかも知れないわね」
「いざという時には体を硬くしたまま戦うんでしょう?感覚を断ち切っているというのは考えづらいわよね」
ああでもない、こうでもない。
ようやくまともに議論が始まると、流石の集中力で研究が進む。
既に開始から3時間が経とうとしていた。
「パチュリー様、紅茶が入りましたが」
「それは一理あるかもね」
「アリスさん、紅茶が」
「そもそも前提条件が・・」
「魔理沙さん」
「だけどそれだと・・」
パチュリーに仕える小悪魔が紅茶とクッキーを持ってやってきた。
が、議論に夢中の3人は意に介さない。
プクッとほっぺたを膨らませた小悪魔は、強硬手段に出る。
「パチュリー様、ふぅ~」
「わひゃう!?」
パチュリーの耳に息を吹きかける小悪魔。
思わず飛び上がるパチュリー。
「もう、何よ?」
「ですから紅茶が入りました」
「まったく。それじゃ、少し休憩に・・どうしたの?」
二人がパチュリーを見たまま固まっている。
ややあって、異口同音に
「「これだ!」」
翌日、持ち前の根性で何とか仕事の意欲を取り戻した咲夜は眠っている美鈴と対峙していた。
昨晩パチュリーから秘策を伝授されたのだ。
少し抵抗がある方法だが、同僚にナイフを投げつけるよりも遙かにマシであった。
意を決した咲夜は、背後からこっそりと美鈴に近寄ると・・
耳元で火薬を炸裂させた。
グラップルでマスキュラな門番隊に惚れてしまいそうです
いい紅魔館でした。妖精さん健気。
このテンポが凄いなぁ……。
厭味が無い良い滑稽でした。
前作に続いて多いに楽しませて頂きました♪
ところで妖精メイド達の汗が染み込んだメイド服についてkwsk
火薬かよ!!
オチも見事でした。
「こりゃ咲夜さんと美鈴さんの可愛い所(所謂さくめー)が見られるな♪」
↓
「…そっちかい!?」
どっちも怖いよw
てか耳元で火薬炸裂させることにちょっとしか抵抗ないのか咲夜さんw
火薬引っ張るなwwwwwww
オチにやられたwwwwwww
それでも寝ている気がする、そして息を吹き掛ける事にになるに違いない。
面白かったです。
居眠り中の美鈴は滅多な事じゃ起きないんだよな
つまり俺にアハーンやウフーンな事をされても目覚めないんだなよっしゃ
文句なしに100点持ってってwww
あ、はい
スクロールして吹いた。
俺のwktkを返せ!
そして最後のところで胸がキュンと……あれ?……アレ?……んん?
ちく…しょう…
敵意には反応するってことは
そういう悪意にも反応するってことだ
面白かったよ!
でも最後こけちゃったよ!
初回は火薬に全てもってかれたけど2回目読み返すと味が出て楽しいss
そして汗臭えwwwww
スタイナーかよwww
いやーしかし前半は、イイハナシダナー咲夜さんこんなにもがんばっているのに…
しかし後半の魔女2人のボケとオチにすべて持っていかれました。
何度も読ませていただいていますが、テンポとオチがサイコーです。
しかし、汗だくのメイド隊か・・・紅魔館のおせんたく当番になりたい。
しかもブームときたwww
あなたの描く紅魔館の人々は楽しそうでなによりですよw
完全にしてやられたわ!w