バレンタインデーだ。
そう断言してしまえば、たとえ今日が一月の三十日だろうが、強制的に二月十四日になる。そんな摩訶不思議な世界、それが幻想郷。
つまり描写はこうだ。空は冬灰色(コバルトブルー)であり、荒んだ旋風が吹き乱れ、白黒華飾衣(ドレス)の裾を振り回し続ける。
さて、私の名前は霧雨魔理沙という。与えられた仮初の時間を永遠と生き続ける普通の魔法使いだぜっ! と予定されてる自己紹介もおざなりに、私は青い芝生で何を観察するわけでもなく佇んでいた。これもまたスケジュール通りなのだ。私自身の歴史書に記されているからしかたない。
話しは変わるが、恒例というのは恐ろしいものである。ウァレンティヌスのソレとはまったく関係なく行事は繰り返されることは周知の事実だろう。その活動自体に一喜一憂したところで、支障や中止があるわけではないので諦めるという決意を固めて今に至る……どうかな、かっこいいかな。
「さぁて……どこかに行こうかな」
呟き、毛先乱れた竹製箒に跨り飛翔し滑空する。ただ立っている時よりも強い寒風が私の胸を叩く。いかにも順風満帆な雰囲気を醸しているが別にそんなことはないはずだ。
どうせ紅魔館も白玉楼も永遠亭も寺子屋も……はては守矢神社や博麗神社までもが昨年と同じことを繰り返しているのだろうなぁと杞憂した。白玉楼にいたっては『かっこあーるわい』で済まされるレベルかもしれないな。
新鮮さが足りてないぜ……。
ボヤきながらも、新鮮という単語で真っ先に思い浮かべるのが鮪の刺身という花より団子な私には、雅だとかは関係がないのかもしれないと一粲した。その笑い声さえ風に掠奪されたけど。
「そう考えると行く場所がないなぁ」
悟りバレルロールをしつつ旋回した私の横顔を小さな白鴉が通り過ぎた。真白な一枚の羽が私の蜂蜜色の髪からにょろりと生えてる。絡まったらしい。気に入らなかったので毟りとって宙に泳がせてみる。いったい羽毛は何処へと流れるのだろうか。それは私の知るところではないし、恐らく誰も知らないのだ。
「帰ろっと」
「魔理沙ー」
声に応答し、視界を下方へと移す。すると眼下にアリスらしき影が見えた。玲瓏な声色からしても彼女だと断定出来る。そして私を呼び止めた理由も。
例により私はふわりふわりと、我ながら雪のように地表に舞い降りた。
「いきなりなんなのだぜ?」
「あの……その、さ。今日何の日か知ってる?」
ごにょごにょと聞こえない声量の彼女は間違いなくアリス・マーガトロイドだ。
「もちろん知ってるぜ。ウァレンティヌスが死んだ日だろ、今年何回忌だっけか」
「そういうことじゃないわよっ! この馬鹿ぁ!」
いてて。頭を殴るのはやめて。
「悪い悪い」
「……もう……ハィ」
アリスの白くか細い左手には絆創膏がよく似合う……じゃなくて、渡されたものはキレイにラッピングした箱らしきものだった。
そんなものを手渡されても、私は不審物として処理するしかないのだけれど、と意地悪してみた。
「見て分からないの!?」
「確かに紙箱だ。それも丈夫そうな」
「うぅ……ほらっ、中身が気になるでしょ! この場で開けてみてもいいわよ、許してあげる」
折角綺麗に装飾してある包装紙を問答無用にビリビリと引き裂きながら、私は箱を開けた。
それは想像したものではなかった。いや、ハート型と名前入りは想定の範囲内。
私はてっきり焦茶色を想像していたのだけれど……それは真白だった。
「ほら、あなた去年ホワイトチョコレートが好きだって言ってたじゃない。だから……その……」
「……そうだったっけ?」
嗚呼。
小さな起伏だけど、ちょっぴり感動した。
確かに変化があるということにだ。
毎年毎年同じだと思っていた自分が無性に恥ずかしくなった。照れ隠しに、そこに面白さがあるのかもしれないな……なんて分かってもないくせに悟った振りをしてみたり。
「今日さ、晩ご飯うちで食べてく?」
自然に口が開いて、アリスを晩餐へと誘う。
「え……。でも……いいの?」
「いいよ。別に」
どこかでこれを見ている神様も今日ぐらいは許してくれるだろう。カイロス時間では今は二月の十四日だけど、クロノス時間ではまだあと二週間もあるのだから。
近い未来に、ハッピーバレンタイン、そう言えると信じて私はアリスの手を握った。
「あ、魔理沙……髪の毛に白い羽みたいなのくっついてるよ」
おわり
過剰装飾な文章と勿体つけた言い回しで行数稼いだだけですね・・・
ストーリーらしいもんがないのでこの点数で
この変化というものは間違いなく退屈という枷を掛けられた魔理沙にとって実に喜ばしいことだったんでしょう。
この辺り気が利くというか流石はアリスはもう私の嫁以外にありえないということが分かりました。
同じく中華の猛々しいおっさん達を女体化してやっぱりイチャラブに変換。
素晴らしいじゃないの、倭の国ってやつは。
にしても甘いすなこのお話。このバランスのとり方は読者に対してなのか、それとも作者様自身に対しての物なのか。
とにかく次回作、お待ちしています。
読者が自然と深読みしたくなる話を書けるようになれ