博麗霊夢は霧雨魔理沙の事を思うと以下略

「よーっす霊夢ー。お茶飲みに来てやったぜー」

　客に有るまじき横柄な物言いをしながら神社に上がりこむのは、白と黒のモノクロ魔法使い霧雨魔理沙。幻想郷のありとあらゆるキノコの扱いに定評のある霧雨魔理沙だ。

「うぉーい霊夢ーいないのかー。いないなら勝手に茶いれるぜー」

　遠慮というものを欠片も見せない足取りで神社の中を練り歩く。勝手にお茶を入れるとは言ったものの、そんな事は決してしない。遠慮ではなく、面倒だからだ。
　と、家主の承諾もなしに勝手に上がりこんで1分半ほど立ったその頃に、魔理沙は見覚えのある後頭部を神社の縁側に見つける。

「なんだいたんじゃないか。返事くらいしろよ霊夢」

　言いながら隣に座る。

「お茶っ葉は古いのでもいいけど、二回以上使った茶葉は味がしないから許可しないぜ」

　座りながらも横柄な態度での要求は忘れないのが霧雨魔理沙だった。そして魔理沙は言い切ると同時に顔の前で両手を組む。霊夢からの容赦ないツッコミで前歯を折られるのを阻止するためだ（この際、折られるとわかっているならやらなければいい、という常識は通用しない）。
　が、いつまで立っても打撃が飛んでこない。不審に思い、腕の隙間から霊夢の顔を覗き込む。

「なんだ、そんな物思いに耽ったような顔して」

　霊夢は眉間に薄らと皺を寄せ、何処か遠くを眺めていた。

「、あぁ、なんだ。来てたの魔理沙」

　まるで今気付いたかのように……いや、実際今気付いたのだろう、霊夢は横にいる魔理沙の顔を見てほんの少し驚いて見せた。霊夢はお茶を入れてくると言いながら立ち上がり、魔理沙に背を向ける。

「……どうかしたのか？」

　魔理沙の持つ博麗霊夢の印象と全く合致しないその姿を見て、思わず声が漏れた。霊夢は一度その場に立ち止まり、しかしすぐに歩みを再開する。魔理沙は去ろうとする霊夢の袖をきゅっと摘んだ。さして力は入れなかったが、霊夢はそれを振りほどかず、またその場に静止した。魔理沙は何も言わず、また霊夢も背を向けたまま、静寂が場を支配した。
　数分ほど立った頃、こうしているのに耐えかねたのか、はたまた飽きたのか。霊夢が背を向けたまま口を開いた。

「昨日の晩からずっと、あなたの事を考えてたのよ」
「……は？」

　霊夢の口から聞こえてきた、想定とは大分違うその言葉に魔理沙の口から呆けた声が漏れる。思わず掴んだ袖も指からすり抜けるが、霊夢はそのまま話を続けた。

「ずっと、ずっと。食事のときも湯浴みの時も、寝ても覚めてもあなたの事を考えてたわ。考え続けていればきっと答えは出るんだと信じて。でもどうやっても答えは出なかった。だから」

　霊夢は振り向いて膝をつき、魔理沙の手に指を絡める。魔理沙の体はびくりと震え、反射的に手を引くが、しっかりと絡められた霊夢の指に阻まれる。
　魔理沙は心臓が早鐘のように鳴り、全身の血液が顔中に集中していくのを感じていた。鏡を見ずとも真っ赤になっているとわかるその顔を必死に背けようとするも、真正面から見据えてくる霊夢の黒い瞳が魔理沙を捕らえて離さない。息が苦しい。呼吸すら自由にならない。
　霊夢の顔が近付き、互いの呼気の暖かさを肌で感じる距離になる。
　魔理沙は全身全霊、渾身の力を込め、己のできる唯一の行動として……覚悟を決め、きゅっと瞼を閉じた。
　そして霊夢は、なんか妙に吹っ切れた軽い声でさらっと言った。

「昨日アリスに出した『魔理沙の良い所をひとつでいいから挙げなさい』って宿題は正直無茶振りが過ぎたから、やっぱりなしでいいってアリスに伝えておいて」






　魔理沙は家に帰り、布団に潜り込んで泣いた。



おわり



おまけ

その日の昼過ぎ、博麗神社にて。

『能天気でがさつに見えて意外と繊細で女の子らしい所がある』

　霊夢の目の前で、さんざ書き直した痕跡が残る小さなメモ用紙を掲げた上海人形がふよふよと浮かんでいた。お茶をずずっと啜りながら、感心したようにそれの主人に目を向ける。

「あなたって本当、真面目で律儀でいい子で可愛いわよね」
「褒めても何も出ないわよ」

今日も博麗神社は平和だった。

完

お久しぶりだってぇのにこんな殴り書きで申し訳ねぇ
例によって一部酷い目にあってますが以下略