クリスマス、それは素晴らしい日。イエス・キリストの誕生を祝う日であり、恋人同士で寄り添い合ったり、友達同士で語り合ったり、家族でケーキを食べたりする日。
恋人達は寄り添い合うことで愛を深め、友人達は酒を呑み、語ることで友情を深め、子供達は枕元にあるサンタさんからの贈り物に天使のような笑みを浮かべ、大人達もそんな子供達を見て自然と笑みがこぼれる。
皆が幸せで、皆が幸福で、皆が笑顔になれる日。それがクリスマス――
そして今日はそんな幸福な日のはずなのに……
「なんで私、泣いてるんだろう?」
◆
「もうちょっと右に飾り付けて……うん、良い感じね!」
「シャンハーイ」
暦は12月24日、クリスマスイヴ。雪がこんこんと降り積もる中、私は朝早くから家の前で上海人形と共に明日のクリスマスに向けて準備をしていて、今は丁度クリスマスツリーの飾りつけが終わったところである。
「それにしても、やっぱりツリーは自作が一番ね。ゴリアテ人形を使って木を伐採するところから始めたから、完成した時の喜びも一塩だわ。ねー上海?」
「シャンハーイ」
私は頭に降り積もる雪を悴む手でどけながら、今一度完成したツリーを眺める。ツリーは全長1,5mくらいで自作の鉢に入れてあり、星型の飾りとサンタの服を来た上海人形をふんだんにとりつけていて、魔力を込めることでそれらがライトアップされて輝く仕組みだ。試しに魔力をこめてみると、ツリーは支障なく七色に煌めいた。
「うん、綺麗綺麗! さて、完成も確認したことだしこのまま外にいたら風邪引いちゃうわ。お風呂でも入りましょうか」
「シャンハーイ」
もう慣れっこになってしまった独り言を呟き上海人形を抱えながら、私は家の中に帰還した。
「お風呂お風呂~」
お風呂場につくや否や急いでリボンやカチューシャを外し、服を脱ぎ、あっという間に一糸まとわぬ姿になった私はあったかい温水シャワーを頭から浴びる。
「んっ」
突然温水を浴びたことで体がビクッと痙攣したが、凍えきった身体を隅々まで温めてくれる温水を止めることなどできるはずもなく、そのまま浴び続ける。その後念入りに髪を洗った後、浴槽につかる。あ~、幸せ。
ほうっと息をつき、今までのことを振り返る。クリスマスの準備を始めたのは一週間前、ツリーの材料を森で手に入れて、ご馳走を作るために人里に行って食べ物も買ってきて、雰囲気作りの為にクラッカーも買ってきた。ツリー用の飾りや上海の為のサンタ服も徹夜で創ったし、 人を招待するための直筆で書いた招待状も作った。
と、そこまで幸せな気持ちだったのに、ふとある懸案事項を思い出し気が重くなる。そう、それだけ準備したにもかかわらず実は私……。
「誰にも声をかけてないのよね」
そう、私は一週間前から準備して招待状まで作ったにもかかわらず、誰にも声をかけることができていないのだ。魔理沙やパチュリーなどの魔法使い仲間や他の顔見知りを誘おうとしたりするのだけれども、いざ本人達を前にすると極度の緊張で胸がドキドキ締め付けられる気がして、言葉が出なくなってしまう。
「本当、どうしよう……」
ぎゅっと自分の身体を腕で抱く。一人でうつろな目をしながらご馳走を食べているという最悪のビジョンが脳裏をよぎる。
「嫌よ。嫌よ嫌! それだけは絶対に嫌!!」
しかし私の悲痛な叫びに応えてくれる人などいるはずもなく。ぴちょんぴちょん、という水滴の落ちる音だけがお風呂場にむなしく響いた。
「そういえば、前宴会に出席したのはいつだったかしら」
思い出そうとする。前回のは?確か博霊神社での宴会は私が魔法の研究している間に終わっていた。誰も知らせてくれなかった。その前の紅魔館でのパーティは?新作の人形用の服の制作だったからか何なのか、皆には招待状が配られたけど私には配られてなかった。その前の地霊殿では?その前の前の命蓮寺では?その前の前の前の守矢家では?
「嘘、嘘よ……」
思い、出せない。
途端、目の前が真っ暗になる錯覚に包まれる。さっき脳裏にかすめたビジョンが浮かぶ。心臓が鷲掴みにされたみたいに痛い。このままじゃもう――
「おーい、アリスいるかー?」
「っ!」
完全なパニック状態になりかけたが、ドンドンと家の扉を叩く音で正気に戻る。しかもこの声は!
「魔理沙っ!?」
「おう、皆大好き魔理沙ちゃんだぜー。とりあえず扉開けてくれないか? 寒くて死にそうだぜ」
「あ、開けるわ! ちょっと待ってて!」
なんてこと。なんて偶然なんて好機!これを逃しちゃ駄目よ私!
私はそう自分に言い聞かせつつバスタオルであっという間に身体を拭き、近くにあった服を着、リビングの机の上に置いてあった招待状を掴み取り数回深呼吸をした後扉を開ける。
「はぁはぁ。い、いらっしゃい。魔理沙」
「おう、少しだけ邪魔するぜ」
魔理沙は帽子にこんもり積もった雪を外で払った後、にかっと眩しい笑顔を浮かべながら家の中に入ってきた。扉は開けたままだったが、今は緊張からかそちらに意識が向かない。
しかし私の緊張など伝わっていないのか、魔理沙は「息が荒いぜ。アリスは何か変なものでも食ったのか?」と距離を詰めてくる。で、でもこれは一見ピンチに見えるけどチャンスだわ!そう思った私は反射的に手紙を持ってない方の手でグっと魔理沙の右肩を掴んでこちらを向かせてしまう。
し、しまった!
「? どうかしたんだぜ?」
「あ、あのっ。その、その!」
「?」
言え、言うんだ私。言うしかない。これはチャンスよ、ここまできたら引けないでしょう?静まれ胸の鼓動、止まって冷や汗。言わして、私に一言でいいから「明日パーティするんだけど来ない?」って!
「あの、あの、あのね魔理沙」
招待状を持つ手に自然、力が入る。今なら、今なら言える!
「じ、実は私っ!」
「あーーー! そういえば今日はアリスに用事があって来たんだった。忘れてたぜ」
勇気を振り絞って誘おうとした直前、魔理沙の声によって言葉は遮られる。言い切ろうとしたのに、いつもの癖で聞き返してしまう。
「よ、よ用事?」
「ああ、実はな」
そう言って魔理沙はごそごそと懐を漁る。瞬間、嫌な予感が私の体を駆け巡る。やだ、やめて。
私の不安をよそに、魔理沙はそれを探し当てたのか、にっこりと笑顔でそれを私に渡して言う。
それは、博霊神社で宴会をやる旨を記した魔理沙宛ての招待状だった。もちろん私はそんなものがあったなんて、存在すら知らなかった。
「こんなものが『あたし』に届いたんだが、明日アリスも一緒に行くか?」
「…………ごめん」
「へ?」
「用事があるから、行けない。ごめん、ほんとにごめんね」
「あ、ああ。残念だぜ」
「はい、これ」
「ん」
魔理沙は少しバツの悪そうな顔をして自分宛の招待状を受け取って、珍しく扉を閉めて帰っていった。いつの間にか私の招待状が消えていたが、そんなことにかまっていられる程心に余裕など無かった。
すぐにその場に体育座りをして頭をがしがしと掻きだす。さっき綺麗に手入れした整えた髪が乱れに乱れ、涙腺は決壊してしまったのか涙が溢れ出るように出てきて、絶望で胸が押しつぶされそう。
「こんなに、こんなに準備したのに一人で過ごすなんて嫌ぁ、耐えられないわよ……」
私はひとしきり泣いた後、全てが嫌になって布団に飛び込んだ。まだ朝であったが徹夜による身体疲労と先ほど受けた精神的疲労からか、私は泥のように眠った。
そして12月25日がやってくる――
◆◆
「妬ましい、妬ましい妬ましい妬ましいわ」
本日は12月25日、クリスマスである。地上から地底へ、地底から地上への往来がいつもよりも多く、私は橋の影から幸せそうな顔をして橋を往来する人達の顔を恨めしそうに睨めつけながらいつもよりもいっそう力強く呟いていた。
しかしつい最近までこのクリスマスという祭日の存在はここ幻想郷ではあまり馴染みがなく、この日を祝うのは今まで知識あるごく一部の妖怪や人間、魔法使い達だけであった。
「そのまま広がらなければ、あたしはこんな思いをしなくて済んだと言うのに。まったく妬ましい」
そう、せっかく今まであまり知られていなかったというのに、妖怪の山に神がやってきた時期を境にクリスマスの存在が急速に幻想郷中に広まり始めたのだ。
橋を通過する人達の話を盗み聞きした情報では、神と一緒にやってきた緑髪の子が「クリスマスというのはですね! 神奈子様や諏訪子様を祝う日であり! 恋人同士で寄り添い合ったり、友達同士で語り合ったり、家族でケーキを食べたりする日なのですよ!」とか言ってこの忌まわしき祝日の存在を広めやがったのだ。
かくいう私も少し前まではクリスマスなんてものはまったく知りもしなかったのだが、その緑髪の子のせいか否かその祭日の存在を風邪の噂で知ってしまったのだ。許すまじ緑髪、絶対今度丑三つ時に呪ってやる。
「にしても、皆楽しそうに通っちゃって、羨まし……妬ましいわ」
雲使いに幽霊船長、小さな鬼にスキマ妖怪、白黒な魔法使いに紅白な巫女、果ては引き籠り気味な地霊殿の主やその妹までも忙しく橋を通過していく。あたしは幸せそうに往来を続ける奴らにギリギリと嫉妬から歯ぎしりをする。他人の喜びを素直に喜べる人は凄いと思う。だってあたしには妬ましく感じることしかできないからだ。
楽しそうに話し合ってるのを見ると妬ましい、おもしろそうに弾幕ごっこをし合ってるのを見ると妬ましい、宴会にお呼ばれされてるのを見ると妬ましい、互いに寄り添い合って仲良くしてるのを見ると妬ましい、鬼ごっこやかくれんぼなどをしているのを見るだけでも妬ましい。
「隣に人がいるのを見るだけでも……」
そこであたしはちらり、と隣に目をやるがもちろん誰が居るはずもなく、虚しさが増すだけであった。
「あはは、何してるんだあたしは。誰もいるわけないじゃない。こんな根暗で嫉妬狂いの妖怪の隣に誰が居てくれるって言うの」
鬱な時に独り言を言うのは日常茶飯事だったので、あたしは返事などどこからも返ってこないとわかっていても独り言を続ける。というより続けるしかなかった。だってそうしないと寂しさに潰されてしまそうだったから。
「大体友達なんてあたしに出来るわけないじゃない。どうせ自分から声をかけたって拒絶されるのがオチよ。根暗で卑屈で自分のことを卑下ばっかりしてる駄目な妖怪なんだから。誰だって相手をしたくないに決まってるわ。だってそうでしょう、誰が好きこのんでこんな奴を相手にするっていうの。あたしには友達なんて作れないし、作ろうと思っちゃ駄目なんだ」
そこまで一息に喋ると、にゅうっと自分の影が緑色に発光しだして、真っ赤な口を形作ったと思うと、話し始める。
「またあんたか」
「あんたって何よ、あたしはあんたなんだから」
影はケラケラと笑う。要するに、これは幻覚だ。いつもあたしの気分が沈むと現われる。
「大体、あんたはそんなこと言うけど、何をしたっていうの?」
「あたしだって!」
「誰かに歩み寄ろうとしたの? その性格を矯正しようとしたの? なんでも自分の中で決めつけて自己完結してない?」
「ぐっ、でも」
「でも何? あんたはいつも行動しない。勝手に予想して勝手に傷ついて勝手に諦める」
「だ、だってあたしは友達が作れないし……!」
「友達を作らない? 作れない? 馬鹿言わないでよ」
そこで影は一拍置くと、はっきりとした口調で言い放つ。
「あんたは、自分が傷つくのを恐れて友達を作ろうとしないだけじゃない」
そして言いたいことだけ言って影は消えてしまった。残されたあたしは力が抜けてしまい、自重を支えることができずとすっと地べたに座り込む。
「そんなこと、そんなことあたしが一番わかってるよ。だってあんたはあたしだもん」
へへっ、とあたしは力なく笑い、どたっと倒れ込む。地面は冬の冷気にさらされ冷え切っており、あたしの身体にひんやりとした涼しさを与えてくれる。
「あたしだって、別に行動を起こしたくないわけじゃない。ただ、起こす勇気がないだけなの。きっかけさえ掴めればあたしだって……」
寝たままの状態であたしは手を伸ばしグッと何もない空を掴むふりをする。まるでありもしない『きっかけ』を掴むかのように。
「は、何やってんだか」
しばらくその状態をとどめていたが、筋肉が疲れてきたし馬鹿馬鹿しくなったのでその手を降ろそうとすると、ふいに騒がしい声があたしの耳に飛び込んで来た。
「あんた知らないの? あたい知ってるよ! 今日はサンタさんがプレゼントをくれる日なんだ!」
「そーなのかー。それよりサンタさんってなんなの? 食べてもいい人類?」
首だけそちらに向けると、氷精と人喰いが橋を通過しようとしていた。どうやら声の主はこのらしく、二人は仲良くお喋りをしていた。
「違うよルーミア! サンタさんっていうのはね、さいこーに優しくて、さいきょーに心があったかい真っ赤な服を着て大きな袋をかついだおじいちゃんだ!」
「おじいちゃんなのかー。何で優しいってわかるの?」
「なぜなら、サンタさんに欲しいものをお願いするとサンタさんは皆に欲しいものをくれるんだ! あたいも今日朝起きたらアイスがいっぱい目の前に置いてあったんだよ!」
「うらやましいのだー。私も欲しいものお願いしたら貰えるかな?」
「きっと貰えるよ! 今の内に考えとこうよ。そうすればお家に帰った時おいてあるかも!」
「考えるのだー。ふふ、家に帰るのが楽しみ」
「うん! 大ちゃん達も待ってるしいっこくもはやくおうちに帰るぞ―!」
「おうなのだー!」
そこまで言うと二人は競争するかのようにすごい勢いで地上へ飛んでいって見えなくなった。まったく騒がしい奴等だ。
「それにしても、サンタさん……かぁ」
そういえば聞いたことがある。誰にも姿を見せず、見返り求めず、何か欲しいものをお願いしたら無償でそれをクリスマスに渡してくれるという素晴らしいおじいちゃんだと。初めてそれを聞いた時はそんな馬鹿な。と思ったけれど、話を聞くにどうやら氷精の元には現われたらしい。
「まさかね。そんな優しい人いるわけないよね」
所詮は伝説。氷精はサンタをあまりに信じていたから周りにいる世話焼きな子が夢を壊すまいとアイスを用意してあげたんだろう。そうにきまっている。
でも、一つだけ、今年だけでもいい。もし欲しいものをあたしにくれるんだったら――
「友達、欲しいなぁ」
つ、と頬を涙がつたう。あわててあたしはごしごしと袖で涙をぬぐう。こんな姿誰かに見られたら恥ずかしくて死んでしまうところだ。危ない危ない。
「? ん、これは」
そこであたしはふいに右手にかすかな紙の感触を感じて、ふとそちらに首を向けると所々に雪がついた手紙のようなものが手元に落ちていた。さっきまでこんなもの無かったのに、どうしたんだろう。風に飛ばされてここまで落ちてきたのだろうか。
そんなことを考えつつ丁寧に雪を払う。封がしてあったから開けるのを止めようと思ったのだが、あたしが封に触れた途端それは自然に開封されて、中から手紙が飛び出した。それには魔力が込められていたのか、雨風にさらされ外装はぼろぼろであったのに、手紙には傷一つついてなかった。
「魔法使いが作った手紙なのかな? まあいい、読ませてもらうわ」
いきなりの出来事に驚きつつも綺麗に二つ折りにたたまれていた手紙を広げ、あたしはそれを仰向けのまま寝そべって読み始める。
手紙にはこう書いてあった。
『12月25日時刻は申の刻、魔法の森の七色に光るツリーが外に飾ってある小屋にてパーティを行います。ご馳走を用意して貴女様のおこしを待っております。 アリス・マーガトロイドより、この招待状を手にしてくれた貴女に愛を込めて』
文を読み終わるや否や、あたしは急いで立ち上がり、一心不乱に地上目指して空を奔りだした。何よりも速く、誰よりも速く……!
きっかけを見つけたあたしに、もう迷いなど無かった――
◆◆◆
時刻は15時、申の時まであと2時間といったところで私は起床した。枕は涙と鼻水でぐっしょりと濡れていて気持ち悪かった。こんな最悪な気分の中起きたくはなかったが、私は枕を洗うために布団から這い出てのそのそと洗面台に向かった。
「はぁ、目の下にクマができてるわ。よっぽど無理してたのね私」
枕をごしごしと洗いつつ鏡を見つめると、その向こう側にある焦点の合ってないうつろな目の下にはクッキリとくまが刻まれていた。誰も来ないのだから、このままでも良いかなと一瞬思ったけれど、どうせ一人ですごすのならせめて綺麗な格好で過ごそうかなと思い直し、私は身だしなみを整える。
「まったく無駄なことだっていうのはわかってるのだけれどね」
私は何着か用意してあるよく着る普段着を着ながらカチューシャをつけリボンを装着し、大きくため息をつく。そう、どんなに準備したり身だしなみを整えても見せる人、あげる人がいなければ意味なんかないのだ。可愛く仕上げた上海人形も、丹精に作った七色のクリスマスツリーも、豪華なご馳走も等しく価値の無いものになってしまう。
「それでもせっせとご馳走を作ってる私はなんなのかしら。自分で自分がわからないわ」
またもため息をつきつつ、私はリビングにある大きな机にせっせと七面鳥の丸焼き、チーズフォンデュ、フランスパン、生ハム、ベーコンエッグなどの腕によりをかけた料理を作っては置いていく。料理を作っている間だけはそのことだけに集中できたので、気持ちが楽だった。
そして全ての料理を作り終わった後、仕上げに椅子とワイングラスを二つずつ持ってきてお気に入りのワインを両方のグラスに注いだ後、椅子を片方づつ対面するように置く。
「ん、時間も時間……ね」
時計を見ると、いつの間にか起床から二時間経っており、既に時計は戌の時を指し示していた。私は寂しさと諦めのいりまじった気持ちで椅子に座り、一人で「乾杯」と言ってワイングラスを掲げようとした。が――
「すす、す、すいません。アリッ、アリスさんはいらっしゃいますか!?」
◆◆◆◆
「ええ、私がアリスだけれど。貴女は誰なのかしら?」
深呼吸を5回、発声練習を20回はして意を決してあたしが少しどもりつつも小屋の中に声をかけると、アリスと名乗った金髪の綺麗なお姉さんが扉を開けて現われた。
「あ、あたし! 水橋パルスィって言います! 地底にいる、橋のっ、橋をっ!」
「落ち着いてパルスィちゃん。立ち話も何だから、中に入りましょう」
「んっ、で、ではお言葉に甘えまして」
あたしがそう応えると、アリスさんはにこっと微笑んであたしを小屋の中に招いてくれた。しかも「震えてるわね、寒かったのかしら?」と言ってあったかいココアをふるまってくれた。
実は、飛ばし過ぎて約束の時間の三時間前についてしまい、冬の寒気に三時間さらされた身体はカチカチだったのであたしは喜んでココアを頂いた。そのココアはとても暖かく、私の身体だけでなく心も温めてくれた。
「あったかくて、美味しいです」
「そう、それはよかったわ」
あたしがほう、と一息つくのを見てアリスさんは何が楽しいのかにこにこと笑みを浮かべる。あたしも自然笑みを浮かべそうになったが、ここに来た目的を思い出して表情を引き締めた。
「実はアリスさん。あたし、こんなものを拾ったんです」
「あら」
あたしは懐から招待状を取りだし差し出す。アリスさんはそれがあったことにびっくりしたのか、意外そうな顔をしてこちらを見つめる。他人にじっと見つめられることで普段全く人と触れ合わないあたしの羞恥心は限界点を突破して逃げ出しそうであったが、なんとか耐える。
ここからが正念場だ。行くんだあたし!ファイトあたし!
「で、あのっ、その。その招待状のことなんですが」
「…………」
動悸は激しくなり、ろれつも回らなくなっていき、胸が締め付けられる。
「ももも、もしよろしければ! よろしければなんですが!」
「…………」
言えあたし。言え、言え、言え、言うんだああああああああ!
「どうかあたしを、このパーティに参加させて頂けないでしょうか!?」
言った。言ってしまった。もう駄目だ、引き返せない。あたしはそう思いつつなんとか言えたという達成感と言ってしまったという後悔で胸がいっぱいになりながらアリスさんを見ると。
アリスさんは、泣いていた。
「っ!?」
拒絶された。拒否された。泣くほど嫌がられるなんて。あたしはどこまでも一人なんだ。こんなに優しいアリスさんを悲しませてしまった。もうあたしなんて生きていない方がいいんじゃないか。
突然の事態に頭を言葉が渦巻くが、声にならなかった。一歩も動くことが出来なかった。思考が停止していく。もうなにもかも終わったと思った。
しかし次の瞬間、あたしはいつの間にかアリスさんに抱きつかれていた。
「へ?」
ぎゅうっと苦しくない程度の力でアリスさんはあたしを抱き締める。この場合、身長の関係であたしはアリスさんを見上げる形で抱きつかれることになる。それに密着してるので胸があたって気持ちいい。じゃなくって!なんだこの状況は。なにがなんだかわからない。誰かあたしにこの状況を説明してほしい。そう思って困惑しながらアリスさんを見つめると、アリスさんは涙を拭いもせずにこちらを見つめ返し、言う。
「ありがとうパルスィちゃん。私、貴女がパーティに参加するって言ってくれてとっても嬉しいわ。二人だけしかいないけれど、めいいっぱい楽しみましょう」
アリスさんはそこであたしを離し涙と鼻水を近くにあるティッシュで拭う。そして小指をすっとあたしの前に出し、言う。
「初対面で図々しいかもしれないのだけれど、パルスィちゃん」
「はい」
「私と……友達になってくれないかしら?」
「はい!」
力強くあたしは頷き、アリスさんと指きりげんまんをした。
その時アリスさんが心から幸せそうな顔で喜んでいるのを見て私は、同じように心から喜ぶことができた。
クリスマスは良い日だ。七色に輝く素敵なクリスマスツリーを見ることができたし、可愛らしい赤い服を来た人形さんを何体か貰うことができたし、美味しいご馳走を食べることができた。
そして何より――
友達を作ることができた
fin
最後は二人ともひとりぼっちじゃなくなってよかったねっ
心暖まる話をありがとう!
幻想郷
アリパルも良いな…
だけど読んでる間、一人身の自分には辛かった…orz
きっと一番波長が合うカップリングだと思うんだぜ。
藁人形繋がりだけに。
魔法の森で二人で仲良く藁人形を打ち付けるほのぼのクリスマス。
アリパル、いいですよね!ちょくちょく書いて布教していきますので、これからも宜しくお願いします。
>31藁人形を打ちつけてる時点でほのぼのじゃないと思うのは私だけでしょうかww